艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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ねぇ。

かけっこしようよ。

嫌?

何言ってるの・・・。


 私からは逃げられないんだよ?



 


第百二十七話

 ごうっ、と唸りながら目に見える風の塊が大きな腕の様に振り下ろされ吸い込まれていく空気の流れが私の髪を痛いぐらいに引っ張る。

 

『変針、四時方向!』

 

 暴風の音がうるさくてもちゃんと頭の中に聞こえる提督の指示、視界の端に見える速度計の減速を最低限に抑え込みながら利き足を大きく踏み出し(ヒール)に絡み付く蛍光ブルーの海を切り裂く。

 

『雷撃よーい! 一番、二番発射!』

 

 吹き付ける風と背中を押すスクリューの勢いで身体が浮いてしまわない様に顔の真横に海面が見えるぐらい身体全体を傾けると背中の艤装(五連装魚雷)が発射口を海面に向け、私が本気で走った時ほど早くはないけれど勢い良く二本の魚雷が飛び出し海の中へと走り出す。

 海面の少し下を白く泡立つ雷跡が走り去った直後、数秒前まで私が顔を向けていた津波の頂上に透明な筈なのにはっきりと灰色の渦が見える程の風が寄り集まった竜巻が鞭のようにしなりながら叩きつけられ、大きくなった(戦闘形態)の私ですら見上げるほど高い海水の山がゼリーの様に押しつぶされて簡単に切り裂かれた。

 

『ちっ! 命中は1、駆逐ハ級・・・撃沈を確認! 空母ヲ級は健在、深海棲艦でも旗艦を守る程度の知恵はあるのね!』

『島風、何としても奴の発着艦能力だけは奪わないといけない! 攻撃優先目標と針路をあのヲ級フラッグシップに固定! 頼む!』

 

 竜巻の棍棒で真っ二つに切り裂かれていく青ペンキの様な色の津波だったそれを背に正面から襲いかかってきて後ろの竜巻へと私を押し込もうとする向かい風へと身体を大きく前傾させ、頭の中で鋭く尖った円錐をイメージした私は自分の身体を守っている障壁を空気を突き抜ける一本の槍へと変えていく。

 

《了ぉー解ですっ、提督!》

 

 あらゆる方向から顔や身体を叩く豪雨に様な水飛沫を手の平で弾きながら目視と電探に集中した私は夕焼け色の黒くて平べったいタコを頭に乗せた深海棲艦へ向ける。

 自分の距離感と電探が知らせる長さがぴたりと合わさる感覚にどうやら見た目通りの距離と方角の先、薄闇にぼんやりと浮かび上がる昏い黄色を揺らめかせる空母ヲ級はいるらしい。

 私と目標である敵空母の間には無数の荒波だけでなく14の障害物、ざらついた敵影が私の中の電探とソナーに消えては現れ頼りない反応を繰り返している。

 

 必要な情報を教えてくれる提督達の声に耳を傾けながらしつこく付き纏う暴風の中で目を眇め、陽の光が途切れ始める日暮れのせいで視界はとても悪くなっていたけれど倒す相手だけははっきりと見定める事が出来た。

 

 ちょっと難しいかな?

 

 ううん、そんな事ない。

 

 むしろ、望むところだよ(相手にとって不足無し)

 

《島風、砲雷撃戦入ります!》

 

 激しく鼓動が高鳴る胸の奥、私に与えられた名前を(我々が最速である事を)証明しよう、そうすれば提督も島風が一番早い(良い)の駆逐艦である事をもっともっと分かってくれる。

 そう騒めく霊核の熱を一気に背中の推進機関と連装砲ちゃん達(三基のサブスクリュー)と流し込み、自分の口元が吊り上がった感覚と同時に後ろ髪を引っ張る竜巻の吸引を振り切り私の身体は風を切り裂く突撃槍になった。

 

《にひひっ♪ あなた達って遅いのね!》

 

 右舷から波を突き破って現れた二隻の障害物(駆逐ロ級)の大砲が吹いた火の玉は私が通り過ぎた後の海面で弾けて見当違いな水柱になり、その次に黄色く光るゴールライン(空母ヲ級)への針路に立ち塞がった障害物(雷巡チ級)鉄腕(魚雷管)がこちらを向いたと同時に黒い洞の様な穴へと砲弾を撃ち込む。

 

『前方に潜水艦の反応あり! 減速してソナーをっ』

『しなくていい! 爆雷のタイミングは俺がやる、島風は・・・跳んでくれ!』

 

 自分の身体(船体)の一部である拳銃型12.7cm口径に砲弾を再装填させながら巡洋艦級の真横を駆け抜けた後、数秒遅れで爆音が背中を追いかけてきたけれど気の留める必要なく私は提督の言う通りに丁度良く目の前に盛り上がって来た高波をジャンプ台にして空中に飛び出し一気に1000m以上の距離を越える。

 

《遅いからそんな事になっちゃうんだよ?》

 

 空中に飛び出して三基の連装砲ちゃんのと合わせて五軸のスクリューが噴き出す推進力に押されている最中、私の背中で艤装が爆雷投射機の安全装置を解除して幾つもの爆雷が私の通り過ぎた後の海面へとばら撒かれた。

 

『潜水艦反応消失3! 残り2隻は沈降を開始、恐らく損傷したと・・・でも対潜警戒もせずにこんな事、やっぱり提督って普通じゃありませんわ』

 

 いつもお風呂で髪の手入れを手伝ってくれるくまりんこ(三隈)がそんな事を言ってるけど私にとっては提督が不思議な力で邪魔な潜水艦をやっつけて追い払ってくれた事さえ分かっていれば自分より遅い上に沈んじゃった敵艦の事なんて考えるまでも無い事だった。

 

 今は前へ、一秒でも早く走る、一歩でも多く進む。

 

 後ろから追いかけてくる砲弾も前から近付いてくる魚雷も、立ち塞がろうとする敵艦すらも私の早さの前では少し避けるのが面倒な障害物でしかない。

 

《へぇ、なのに、私の邪魔するんだ?》

 

 全速力と忙しない操舵で息が上がりそうな苦しさが逆に私をゾクゾクさせてくれる。

 空母ヲ級のいる場所まで残り4km、その手前にいるのは、確か重巡リ級だっただっけ?

 

 まあ、いいや。 どうせあれも私より遅いから。

 

 そう考えながら連装砲ちゃん達に押されて空中を突き進んでいた私は身体を丸めてでんぐり返しの要領で縦回転させ頭と足の向きを入れ替え、正面に待ち構えていたその身体だけは大きい深海棲艦に向かって両足を突き出した。

 

《おっそーい!》

 

 昏い光が尖らせた私の障壁にぶつかったけど呆気ない程簡単に薄い氷を割る様な感触を突き抜け、その先にあった丁度良いクッションのおかげで着水の負担が少なく済んだ。

 唸りを上げる私のスクリューはリ級の重さが加わっても前進する力をそのままにしているけれどビル程に大きい錘をサーフボードにしていても何の役にも立たないのだからさっさと捨てるが吉。

 だから私は足をめり込ませた重巡級の白い胴体から爪先を引き抜き、目の前でこちらを睨む大きな顔が五月蠅く何か叫んでいたのでその大口へと艤装の魚雷管から手動で取り出した魚雷を投げ込んでから深海棲艦の巨体の上を駆け抜ける。

 

 それにしても体当たり(衝角攻撃)を受けて仰向けに転倒したのなら泣きわめいて無駄な時間を使うんじゃなくすぐに白兵戦を始めるべきなのに腕も足も海に投げ出して転覆したままなんて馬鹿じゃないだろうか。

 

 そんなカッコ悪い姿を見せる深海棲艦はやっぱり判断が遅い(戦場の常識が分かってない)のばかりなんだ、と呆れてしまう。

 

《まっ、いっかこんな深海棲艦》

 

 やっつけちゃった相手なんて刹那で忘れる事にして今はコンマ一秒でも早く私は目標目掛けて再加速しなけれならない。

 

 そして、やっと障害物に邪魔されず空母ヲ級フラッグシップを狙える距離へと入った私は両手の12.7cm砲を的にしてくださいと言っている様な巨体に向かって構えようとして。

 

 直後に左目に映った少し先(数秒後)の世界へ躊躇う事無く全速力で踏み込んだ。

 

《その程度じゃ島風は止められないんだよ?》

 

 ヲ級の周りを守る様に輪形陣になっている五隻の随伴艦からはもしかしたら明らかに着弾する弾道だった自分達の砲撃が私の身体をすり抜けて通り過ぎて行ったように見えたのかもしれない。

 重巡のせいで少し落ちた速度を取り戻す為の急加速の反動で横滑り(ドリフト)しかけた足元の制御を最低限の動きで取り戻し、目の前に展開している鋭角な障壁に触れるか触れないかの距離に来た全ての砲弾を見て(・・)から回避した私はヲ級を狙おうとしていた両手の砲口を空に向ける。

 

《だからぁ、その程度じゃ私は止められないんだってばっ!》

 

 左目に映った数秒先の未来にいる敵へと少しのズレも無く照準される感覚にやっぱり提督は私が考える早さに追いついて、・・・ううん、違う、提督は私が考えて足を動かすよりも早く私がどう戦うべきかどう走るべきかを全部教えてくれる。

 

()ぇっ!』

 

 そう思うだけで無性に嬉しくなった私は提督の言う通りに両手の主砲の引き金を連続で引き絞った。

 

 二連射された砲声が見上げる程に大きな波の上から飛び出してきた黒い尖がった嘴を持つ深海棲艦の飛行機を真ん中から撃ち抜き、空中に広がった二つの爆炎に左目で見た通りの順番で変な嘴の飛行機が突っ込む。

 私の砲撃で撃ち抜かれた艦載機の爆発の余波を受けてお互いが追突するのを恐れたのか右往左往する深海棲艦の攻撃機へと私の主砲と対空機銃が花火の様に空へとキラキラ輝く弾を連続で打ち上げ、数秒後に敵機が通るルートに合わせて放たれた銃弾が無駄なく残りの戦闘機や爆撃機を撃ち落とした。

 

《はいっ、ゴール♪》

 

 今になって距離を取ろう(後退りで逃げよう)としている空母の足元へと一息に駆け込み、直後に目標に向かって左脚を振り上げながら私は装填された砲弾を全て撃ち切った左手の主砲をヲ級に向けた自分の爪先へとぶつける様に投げつけ、考えていたタイミングぴったりに体の中で力の流れが砲雷撃戦から格闘戦に使うモノへと切り替わる。

 

 艦橋に居る提督の操作で拳銃型の主砲が複雑な機械の音と大きな撃鉄を引く様な音をたて足の先を包む様に変形していく。

 そのハンギング・ラダーからカウンターウェイトへと変わった私の爪先の先に見える大量の海水を滴らせヌメヌメとテカる敵艦の動きがまるでスローモーションの様にやたらと遅く感じた。

 

《島風からは逃げられないって、分からせてあげる♪》

 

 そして、空気を切り裂き風を巻き起こす勢いのまま私は近接武装になった左脚を壁の様に聳え立つ空母ヲ級へと叩きつけた。

 

・・・

 

 鋼の安全靴が内部機構を露出させ、その内部で連鎖的に増幅させられた耳に痛い衝撃波が群青に染まった海水を滴らせるウェットスーツに見えなくも無い衣裳の膝から下で炸裂し、明らかに差がある質量同士の衝突であると言うのにそれでも体重が軽い駆逐艦娘が速度の暴力によって巨人の脚を引き千切る様に分断する。

 

「ぐっぅ! いつにも増して強烈、だっ、んぶっ! ヴぅっ・・・っ、っ!?」

 

 辻斬りと言うにはあまりにも雑で乱暴な一撃を目標に叩き込んだ勢いのまま軽く1.5kmをオーバーランした島風がさらに深海棲艦の空母へ追撃を加える為にうねる荒波の上で急反転を開始し、それによって発生する遠心力に晒された艦橋の中心にいる指揮官である田中良介は明後日の方向へ飛びそうな意識を必死で繋ぎ止めながら真っ青な顔の頬を喉奥からせり上がって来た酸味の塊で膨れさせる。

 しかし、五人の艦娘がいる場で自らの尊厳を守る最後の堤防が決壊しかけたその時、横合いから突き出されてきた厚手の白手袋に田中はエチケット袋を押し付けられ。

 死に物狂いでその無言の救いを受け取った指揮官は中身が見えないように加工されたビニール袋の入口へと口元を押し込む様に隙間無く覆う事に成功した。

 

《言ったでしょ! 私からは逃げられないって!!》

 

 前方に見える全高140mの巨体を持つ空母ヲ級、今は片脚を失った為に海面に横倒しになっている黄色いオーラを纏った深海棲艦へと追撃の魚雷と共に放たれた島風の大声のおかげか、幸運な事に田中がビニール袋の中に吐き出した耳汚しここに極まる音声は艦橋に居る艦娘達に聞かれずに済む。

 

「空母ヲ級、撃破・・・じゃないわ! あの状態で逃げるつもり!?」

「ぶはぁ、っ、いや、もういい! 攻撃能力を失った空母に構う必要はっ・・・島風! 後進一杯!!」

 

 ただし汚いモノを閉じ込めた袋から顔を上げた田中の口の汚れや涙と鼻水でべとべとになった見苦しい顔はどう取り繕っても部隊の要である指揮官がして良いものではなく。

 さらに自分で自分を苦しめる様に田中は両手を目の前のコンソールパネルに突っ張って背中を指揮席の背もたれへと押し付け、叫ぶ彼の命令に一秒のタイムラグも無く応じた島風の艦橋が一瞬無重力になったかの様な浮遊感に晒される。

 一度吐いて胃の中をスッキリさせていなければ今度こそノックアウトされていたかもしれない、と遊園地の絶叫系マシーンに乗れないタイプの指揮官は冷や汗を体中から吹き出す。

 

「っく、どこからの砲撃!? でも島風、先にヲ級へとどめを!」

「構わなくて良いと言った! 着弾数が多く水柱も高い! 間違いなく戦艦か重巡級が複数来ている!」

「でもっ、あのまま逃がしたら!」

「それにもう間に合わない!」

 

 それにもう追撃は間に合わない、とヲ級フラッグシップを中心とした艦隊から自分達を追い払い遠ざける意図を感じる遠距離砲撃とそれによって発生した水柱の壁を田中は睨む。

 そして、頭の中にリアルタイムで書き込まれていく艦橋から確認できる範囲の敵勢力の情報から指揮官は自分達にとって重要な部分だけを選り分けながら苦虫を噛んだ様な顔に冷や汗を滴らせる。

 

「また空間が歪むぞ、周囲警戒を厳に! 龍驤、直掩機を索敵に回せないか!?」

 

 フラッグシップの正規空母と言う敵航空戦力の中でも選りすぐりの強敵を無力化できたが、お次は重火力艦からの砲撃をフルコースで受けるかもしれないと言う状況に歯を食いしばり田中は縋る様な視線を慌ただしい艦橋に座り込んでいる赤い水干服に向ける。

 

「無理言わんといて、ウチの子達、対空で手いっぱいや」

 

 だが彼に返って来たのは辛そうな表情でかすれた声を漏らし首を横に振る龍驤の姿だけだった。

 

(くそっ! 敵だけ撤退と増員が自由自在と言うのはいくら何でも卑怯じゃないかっ!!)

 

 指揮席に潜む妖精が脳裏に送り込んでくる海図の中で片脚だけでなく追撃の魚雷で瀕死の身体(大破状態)となった敵性反応(空母ヲ級)と自分達を乗せて遠距離からの砲撃を後退回避している味方表示の識別信号(駆逐艦島風)の間に空間のねじれを示す無数の線が割り込む様に書き足されていく。

 そして、何処からともなく青い蛍光色の海水で出来た壁が荒波に臥せる空母とその護衛艦達を覆い隠す様に盛り上がり始め、その高さが下手な山よりも大きく高くなる程に電探が示す敵との位置関係が急激に広がり、反対に今まで数十、数百km先にあったはずの海面が仕切りになっていた津波が溶ける様に消えた後に二列に並ぶ深海棲艦の群れと共に出現する。

 

「まずいっ! やはり姫級に捕捉されている! ・・・一旦空へっ!」

「だから駄目なんやって! 今、防御に穴開けたらあの白たこ焼き共にハチの巣にされてまう!」

 

 咄嗟に活路を空母艦娘の飛行能力に見出そうとした田中の声を悲鳴のような切羽詰まった声が遮り。

 反射的に現在唯一の航空戦力である龍驤へとまた視線を向けた指揮官は改めて見たその顔が今にも倒れそうな程に真っ青である事に気付き。

 その疲労を押し殺して身体を突っ張りメインモニターに無理矢理押し付け艦載機の操作に集中している小柄な姿に自身の無力さを見せ付けられた様な錯覚を起こした指揮官は苦し気な呻きを漏らす。

 

(だが、このままだと島風でも回避が間に合わなくなる、イムヤで海中に、敵の編成に対潜可能な艦がいない事を祈るか!?

 何とか姫級の目から逃れないと敵の終わらない増援だけでなく周囲の環境まで好き勝手に弄り回される!)

 

「なにこれ、嘘でしょ!?」

 

 目まぐるしく書き換わる周辺図を逐一確認しながら回避方向の指示を続け、確実に敵は減っているのだから自分達の生き残る道があるはずなんだ、と自分に言い聞かせ必死に頭をフル回転させていた田中は不意に艦橋で上がった驚きの声にこれ以上の危機は本当にマズイと叫びかけた。

 

「上空に味方の識別コード! なんで赤城と加賀の艦載機がここまで来ているの!?」

「何を馬鹿な!? そんな冗談みたいな事が起こるわけが!」

「でも、キミ・・・間違いや無いみたいやで?」

 

 対空警戒と迎撃を担当していた叢雲が自分の前にある電探表示が示す情報に驚愕に顔を歪めて叫び、その言葉を即座に何かの間違いだと判断しかけた田中は現在進行形で暴風と竜巻が吹き荒れる空で戦闘機を操作している龍驤の声に目を瞬かせ。

 直後に自分達の直掩機の操作にかかりきりになっている空母艦娘から手元のコンソールに送られてきた各艦載機からの映像に映っていた物を見て田中は驚愕に目を見開いた。

 

「ハワイ防衛艦隊との通信網への再接続を確認! 赤城と加賀の航空隊による通信中継、それに私達の位置情報だけでなく敵艦隊の情報も送られてきてる!」

「赤城さんの航空隊の一つが後方から近付いて来ていた敵艦隊へ爆撃を開始しましたわ!」

「なんて無茶を、ハワイ沿岸からここまで何百kmあると・・・彼女達の艦載機では帰還限界距離なんてとっくに超えているだろ!?」

「はつゆきから入電! 米軍が防衛艦隊の増強と私達の安否確認と通信確保をかなり強硬に要請してきたからやむを得ず一航戦を出撃させたって!」

 

 艦橋で副官的な情報の取り纏めを行っている矢矧が田中の方へと振り返りながら突然に繋がった限定海域の外との通信回線からもたらされた情報を簡潔に伝え、通信機能がオープンになっているメインモニターへと触れた指先から続けて聞こえてきた遠く離れた場所にいる仲間からの声に小さく頷く。

 

「なんでそうなる・・・艦長にも本人達にも脱出に備えて待機している様にと言ったというのに」

「提督、加賀からの伝言よ・・・受け取ってください、ですって」

 

 困惑のままに「何を!?」と聞き返そうとした田中の視界の端に赤丸が描かれた緑色の翼が走り抜け、高低差の激しい荒波の上でギリギリの回避運動を行っている島風の上空で護衛する様に周回滞空を始めた空母加賀の識別コードを発信している後期型烈風の姿に指揮官は目を見開く。

 

「こんな事は予定には無い、無いんだが・・・背に腹は変えられない!」

 

 相変わらず言葉足らずだったが不思議とここにはいない正規空母を原型に持つ艦娘が自分達にどんな行動を求めているかを田中はハッキリと理解出来た。

 

「旗艦を島風から龍驤に! 加賀の艦載機の受け入れと再発艦、やれるな!?」

「ぁぁ、アレやんの? あれって簡単に見えて結構難しいんやけど・・・オマケに取られた方もかなり痛いしさぁ」

《はーい! あ、二十秒後に砲撃が少しだけ止むのが見えるよ、提督!》

「まっ、加賀がええって言うて司令官がやれって言うとんならやるけどさっ!」

 

 そんな会話を艦橋に居る指揮官達と交わしながら砲撃と津波を掻い潜る島風の頭上、田中達の声が響く全天周モニターの湾曲した天井部に数機の爆撃機が通り過ぎる様子が映り。

 赤城所属の識別信号を放つ航空部隊が田中艦隊の上をフライパスしてから一分も経たない内についさっき島風が追い詰め姫級深海棲艦の支配領域操作によって壁の様な大波の向こう逃げて遠ざかっていた空母ヲ級フラッグシップとその随伴艦を示していた敵対反応がレーダー上の端でプツリと消失した。

 

「あっ、赤城の方も何機か持って行って構わないって言ってるわ」

「勘弁してぇな、ウチ軽空母やで? 弾切れした迷子、何十機も渡されても面倒見きれへんって」

 

 これから始めるのは正しく言うは易く行うは難しな命令。

 

「そっちは精々帰り道分の燃料補給したるくらいが関の山やね」

 

 それでも指揮官の切望に応える為に円形通路の手すりを支えに何とか立ち上った龍驤の姿が島風の視界を映すメインモニターが金色の光に染まると同時に光粒になって艦橋から消える。

 

《それにしてもホンマ空母使いが荒いわぁ、この分は高くつくで覚悟しといてや、司令官?》

「お手柔らかに頼むよ、だけど、・・・帰れたら何でも、ぉうぅ"っ!?」

「てーとくっ、島風頑張りましたっ♪ 私早かったよね、ねっ!」

 

 艦橋から消えた龍驤と交代で表れたスレンダーな少女が指揮席の丁度上に光粒を弾けさせながら現れ、細身ながら筋肉質かつ三基の増設装備のおかげで見た目より重量感のある駆逐艦娘が田中に飛び掛かる様に抱き着き。

 

「はぁ・・・まったく、いきなり危ないだろう」

「えへへっ♪」

 

 激しい戦闘による熱気が冷めていない島風の無邪気なスキンシップに諸事情により少し饐えた臭いのする溜め息を吐いた田中は自分を抱きしめる少女の頭を褒める様に撫でる。

 流石に二度の敵陣横断を成功させ、ただでさえ際どい衣装をボロボロにしただけでなく直撃弾は無くとも度重なるダメージの蓄積で血を滲ませ紫のアザまで見える島風を指揮官が労う事を咎める者はいないらしい。

 

《なんでもって何や?》

 

 とは言え、航空戦闘の準備をしているその場の全員が無言で色々と物申したそうな視線(圧力)を自分へ向けてくる様子に島風に抱き付かれたままの田中はやるせなさそうな(情けない)顔で肩を竦める。

 

「・・・なんでもはなんでもさ」

《ほっほぉ? なんや期待させてくれるやん♪》

 

 そして、暴風と砲撃、空を駆ける翼達のエンジン音が四方八方で響く群青の海の上で戦旗を振る様に広げ伸ばされた|巨大な巻物の表面にかつての航空母艦龍驤の航空甲板を模った光の筋が描かれ浮かび上がり。

 

 その霊力で描かれた誘導灯が太陽が姿を消した宵の空の下で煌めき。

 

《よっしゃっ! こっから一気にまくるでぇ!!》

 

 そして、遠く離れた限定海域の外に居る加賀から飛び立ち暴れ龍のような竜巻がひしめく空と海を越えてやって来た勇ましい翼達が龍驤が広げる止まり木へと降り立った。

 




……
………

operation Sequence : 013 start(作業行程13を開始します)
………
………
Communications (通信機能): active(有効)
………
………
………
radar(レーダー) : active(有効)
………
………
system all green(全システム正常)
………
………

WDS accessing(武器管制システムに接続)

Please specify to unit(起動するユニットを選んでください)

/Launcher unit : 10(ランチャーユニット:十番)




device does not exist(デバイスが存在しません)

Warning

《 Possibly incorrect reques(不正な指定である可能性があります) 》


/※※※※※※※※


・・・code checking(コードの照合中)


……
…………

/unlocked(解除)

Launcher unit : 10 /:active(有効)

……………
……………

operation Sequence : 013(作業行程:13)
Complete(完了)

next to operation Sequence : 014(次の作業行程は14です)

/start : 14(14へ行け)

………………
………………………
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