No.??? 自衛隊特務士官(田中)
カテゴリー 水上艦要員
備考
・火力・雷装・爆装など攻撃力への直接的なプラス補正は無い。
・対空・対潜・回避・命中に艦娘の練度に応じたプラス補正有り。
・装備した艦娘の索敵値がバグる。
・猫吊るしが深海棲艦を
多分、使ったら運営にアカウントを抹消されるタイプのチートアイテム。
星明り瞬く空は遠く深淵に続く洞窟の闇にも似た瑠璃色の狭窄の彼方。
今にも閉じようとしている広大な井戸の底は鍛え上げられた鋼すらもねじ切らんばかりの暴威が吹き荒れ、切り裂く様に襲い掛かる風の合間を縫って流れ星が光を瞬かせながら敵意と悪意をもって襲い掛かるの暴風に舞う。
激しく大波をうねらせ妖しく蒼い光を宿した海原を見下ろし闇に立ち向かう様に輝くプロペラ機達が唐突に横並びの編隊を解く。
直後、まるで蜘蛛の子を散らす様に分散した戦闘機達の真下から駆け上がって来た突撃槍が如き鋭角を成す風の螺旋が天を衝いた。
それは本来透明であるはずの空気が白く濁って見える程に圧縮された竜巻、直径数百mかつ全長数kmと言う出鱈目なサイズの槍は通り過ぎた余波だけで回避したはずの飛行隊から
しかし、夜空を穿った風槍の影響はそれだけに留まらず無理矢理に空気を奪い取られ真空となった空間を埋めるように海面から妖しく光る海水が見えないホースによって吸い上げられ、水の龍と呼ぶ他に無い瑠璃色の巨体が空へと昇る。
《いよいっしょっとぉっ!》
重力に逆らい風によって造られた通り道を昇る海流にあえて近付き、二回三回と水切りの様に跳ねる高度4000mに現れた下から上に流れる海面へと叩きつけられた厚底靴が向かい来る波と水飛沫を割りながら赤袖の水干服を纏った身体を減速させる。
《さぁっ、ガス欠の子から順番や! 急がず騒がず迅速に頼むでぇっ!》
夜空に舞い上がったかと思えばすぐに重力を思い出し崩れ落ちていく蒼き龍、その空中でうねる長い背へと
『龍驤、あと五秒!』
しかし、艦載機を回収する事は出来ても足場は濁流の様な空中海流、加えて激しい風の中では休憩など望むべくもなく。
《はいよっ!! こっちも一丁上がりや!》
耳の奥に直接響いた青年の声に威勢良く返事を返した空母艦娘、龍驤は甲板から転げ落ちかけた最後の一機の背を強引に掴んで甲板へと押し込む様に格納し困難かつ短時間の着艦作業を終了したと同時に巻物型の飛行甲板を強引に巻き取る。
そして、きっかり五秒後に途切れた空中海流から躊躇なく身を投げ出し、荒々しく海面を抉る様に引っ張り上げた風の道が消えればただの水塊と化してあっけなく夜空から墜ちる龍の背から飛び出した龍驤の眼と電探が海面から再び自分達を狙って急上昇してくる竜巻の矛先を捉えた。
『まただっ、さっきのより直線で狙ってきているぞ!』
《言われんでも分かっとる!》
常軌を逸した超高気圧と極低気圧を組み紐の様に絡み合わせると言う人知を大きく超えた方法とそれを可能とする力によって造られた竜巻の中心は凄まじい吸引力と無数のかまいたちが唸り声を上げており、一目見ただけで飲み込まれればどれだけ防御に集中しても容易く切り刻まれてしまうと想像させるには十分過だった。
《ちぃっ、ホンマ今日は千客万来やなぁっ!》
その目に見える災害を前にしても気丈を保ち、敵の思惑にはまってたまるか、と空中で身を捩った龍驤の眼に今度は四方から自分を囲む様に迫る白い球体が映る。
野晒しの白骨に近い質感の表面にロケット炎の様な火を纏い周囲の暴風を物ともせず猛スピードで突き進んでくる敵機に向かって舌打ちした空母が風の中で舞う様に姿勢を制御して四方から自分へと襲いかかろうとしている深海棲艦の戦闘機へ対空機銃によるカウンターを狙う。
《
だが戦闘形態である為に頭から靴底までを合わせれば15mの巨体となっている龍驤から見れば目と鼻の先で鋭い牙の間から紅い火を溢れさせる球体戦闘機が口内の機銃を吠えさせる寸前、さらのその上方から闇夜を貫いてきた銃弾の雨が次々に白い頭蓋を打ち抜く。
直後に爆ぜた敵編隊がついさっきまで平気だった暴風に呑まれて砕け散り、下からの竜巻と新種戦闘機による包囲に気付いてから僅か数秒の出来事に呆気にとられかけた龍驤の前で光を纏った深緑の翼が旋回しながらその機体をわずかに明滅させる。
《なんや顔に似合わん事やるやっちゃっ!》
いつも相方と一緒になって大胆不敵な事をやっては悪びれもしない澄まし顔を浮かべる正規空母の援護に苦笑を浮かべた軽空母は胸の前に抱えた
鋭い射出音と共に龍驤が軸紐に手を絡める様に握り込んでいる航空甲板から銀色に輝く霊力を纏ったワイヤーが宙を走り、一秒もかからずにその先端のフックが友軍機へと接続された。
『三時方向! 最大加速に達した時点で下舷角度60っ!』
足先に触れそうな距離まで風の牙を渦巻かせる竜巻の槍が迫っている状態で聞こえた命令に小さく笑いを漏らした龍驤は自分が放った機動ワイヤーの先で輝くプロペラをヘリコプターの様に回転させる中継機へと姿を変えた艦載機に引っ張られ急加速する。
見れば次は自分達を使えとでも言う様に飛び石の様に間隔を開けて風を切り裂く翼が数機あったが龍驤はその味方からの助けを一つだけ受け取ったと同時に手足をオールの様に振るい押し寄せる風を受け流し加速を弱める事無く身体を妖しく光る蒼に染まった荒海へと向けた。
《信じるで・・・司令官!》
手足で作り出す遠心力と身体全体に発生している揚力、さらに
しかし、いかに機動性能が高くさらに霊力と言う神秘の装甲を施された戦闘機は嵐が如き暴風の中ではその身軽さ故に海へ向かって降下する小柄な空母艦娘に追いつく事は出来ず。
あえて味方を振り切った龍驤のスクリューが暴風でも掻き消せない唸りと光の渦を放ち落下速度をさらに加速させ、加えて本来は増設装備へのエネルギーを供給する端子からまで推進力が放出され空母艦娘の体を
《嘘やろっ・・・》
だが、直撃すれば小さな山や街を消し飛ばすだろう暴風を姫級深海棲艦の能力で圧縮された災害はその場凌ぎの小細工で逃れられるほど生易しいモノではなく、手を伸ばせば届きそうな距離で渦巻く竜巻が気流に翻弄されている龍驤の身体を容赦なく引き寄せ。
海上から延びる暴風のミキサーに空母艦娘の身体が飲まれようとする光景を艦載機の視界ごしに目撃した正規空母が限定海域の外で顔を青くして龍驤の艦橋にて指揮を執っている
《こんなんありかいな》
直後、龍驤の驚愕と呆気にとられたような通信とその空母艦娘を追跡させている烈風達が捉えた映像にハワイ沿岸の最終防衛ラインに立っている加賀だけでなく彼女と情報共有を行っている全ての艦娘と艦艇の乗員は揃って声も出せずに顔を引きつらせた。
その現象を外から目撃した加賀達の眼に映るのはわざわざ怪物の大口に向かって飛び込んでいった様にしか見えなかった龍驤の身体が長大な竜巻に添う様に引き延ばされると言う荒唐無稽な光景。
例えるならば一枚の紙が細く長い
『恐らく限定海域内の大気循環を保つ為だろう、ただでさえあの竜巻は余波で海水で水の龍を作るぐらいの真空を発生させる、と言うか普通ならあんな現象は発生はおろか持続する事すら在り得ないんだがな』
そして、その不可解な現象の体験者となった龍驤は自分の身体が目測で200mまで引き延ばされ赤と茶色のシマヘビでも言う様な姿になっているなどとは露知らず、自らの推進力とは別の要素による急加速に戸惑いつつもすぐに自身にかかる風圧と実際に落ちた距離と合わない事に気付く。
艤装や身体から放出される推進力の輝きに照らされた竜巻の巨大さと瑠璃色に光る妖しい海原が冗談みたいな速度で近づいてくるせいで遠近感が狂いそうになるが実際に風を受ける肌の感覚が彼女の視界に表示されている速度計の数字が間違ではないと言っている。
『まぁ、そのおかげで攻めに転じられる、・・・さしずめルート短縮ギミックと言ったところか』
もっとも本当に彼女の感覚と速度計が正常であるのならたった十秒で高度が1000mも下がるなどと言う事はあり得ないのだが、それがあり得てしまう歪んだ空間の中を龍驤は頭から落ちていく。
《いやキミ、そんなんがあるって分かっても普通は、よっしゃ使ったろ! とかにはならんやろ》
『限定海域内の空間をねじ曲げられる姫級ならではの方法と言うわけかな、それともこれはあの空母棲姫だけが持つ特殊能力なのか・・・?』
普段はちょっとしたからかい交じりのスキンシップ程度ですら面白い様に慌てふためく指揮官が今の様な超常現象や未知の強敵を前にした時には誰よりも冷静で正確な分析を行う事が出来ると言う頼り甲斐のある姿を見せてくれる事に姫級深海棲艦が創り出した嵐の中で龍驤の口調と表情が少しだけ明るくなる。
『それはともかくあの竜巻に飛び込むよりマシなだけで楽なわけじゃない、何としても突破するぞ』
《ホンマ顔に似合わん事やるっちゅう意味ではキミも大概やな、案外、加賀と相性ええんかもね?》
強力な竜巻を形成し成形させいている低気圧と高気圧を維持する為に造られた空気の通り道であるのだからもちろん無風ではないし、真空の刃が渦巻く竜巻の内側よりはマシと言えど流されるだけでゴールに着く一本道と言うわけでもない。
その大災害と言って良い規模故に戦闘形態の龍驤が通過する事が出来る隙間が出来ているとは言え空に向かってそそり立つ大渦へと別の場所から空気を引き込むと同時に送り出す役割を持った
『龍驤、こんな時に茶化さないでくれ』
《こんな時やからや、まっ、ウチも負けてられへんな!》
田中が絶え間なく操作する指揮席から龍驤の視界へと送られてくる
一歩間違えば自身が紙切れ同然に簡単に引き裂かれてしまうかもしれない状況ですら飄々とした表情を浮かべ押し寄せる向かい風を掻き分けもっとも適した空気の流れに身体を乗せながら龍驤はついさっき加賀から受け取った
その矢が陽の光にも似た輝きに包まれた次の瞬間、彼女の手には輝く水晶玉が握られていた。
《よしっ、こっからが正念場や! 攻撃隊全機発進っ!》
落下した時間と距離と釣り合わない速度で迫る海面。
その蒼く昏く光る海の上で吹き荒れる強風と荒波をものともせず鎮座する巨大なイバラが絡み合ったかの様な岩礁へと
高度4000mから海抜220mの間を音速を超える速度で短縮した龍驤の身体が歪んだ空間の境目を通過した瞬間に高高度とは比べ物にならない程の湿気と熱をもった空気に包まれ龍驤の赤い上着が凧のように風を受け膨らみ、彼女の主観においてその落下が急減速する。
《・・・んじゃ、後の事は任せたで、みんな!》
そして、絡み付く熱風を切る艦首を模したサンバイザーの下、愉快気につり上がった笑みを口元に浮かべ獲物を狙う射手の視線の先へと放たれた流れ星の様な輝きが黒イバラの玉座に座する
・・・
乱気流に弄ばれ回転しながら落下してくる空母から連続して飛び出した輝きが夜闇に残像を残し、赤丸が描かれた白灰色の翼を広げて遥か上空へ駆け抜けていった大旋風の余波にふらつきながらも
その陣形どころか連携の一つも出来ていないお粗末な
小賢しく個々の生存を優先した動きをしているようだが放っておいても勝手に風に叩き落とされてガラクタになるだろう。
それにしても
支配者として生まれた深海棲艦にとっては万死に値する大罪と言って良い下位個体の犯行に空母の姫は一瞬だけ我慢を忘れて矮小な敵艦を全能力をもって排除してやろうと白髪を戦風に蠢かせ。
しかし、怒りに同調した
飛行端末の視界ごしや下僕から送られてくる
それにしても大きさと数だけでなく格の違いまで理解できぬとは見下げ果てた愚か者である。
そして、空母棲姫が座する黒鉄のイバラで出来た玉座からも見える荒海へと四方八方から襲い掛かる風に弄ばれながら墜落しようとしている艦娘を見つめる紅い灯火は蒼く光る海水が周囲を抉る様に巨大な水柱へと変わっていく様子をイバラの玉座から眺め。
大量の海水が夜空を穿った竜巻が残した真空領域によって吸い上げられ、例えるならば海から山が生えてきたと言うべき規模の巨大な水柱がさらに周囲の空気と海水をまとめて呑み込み巨大な海龍へと成長していく。
つい先程の回避運動と艦載機を放って力尽きたのか風に弄ばれながら溺れる様に手足をばたつかせている無様な欠陥品へと昏く蒼い海流が襲い掛かる様子を見上げた空母の姫が、所詮は矮小な下位個体でしかなかったか、と夜空に散った金色の輝きを鼻で笑う。
直後、容赦なく艦娘を呑みこんだ蒼い龍の大顎が夜空に向かって風鳴の咆哮を上げる。
そのまま夜空に喰らいつかんと伸びていく空中海流を横目に玉座から立ち上った空母棲姫が黒鉄のロンググローブに包まれた腕を横薙ぎに振るい、多少不思議な能力を持つとはいえ明らかに弱く小さな敵艦一隻に翻弄され遂には
今度こそかの下手人を捕らえよ、これ以上私の手を煩わせるな。
それは目に見えぬ粒子の波となって妖しい瑠璃色に満ちた深海棲艦の領域の隅々まで届き、空母棲姫の指揮下にある全ての深海棲艦がその命令に込められた、出来ぬならば廃棄する、と言う
本来ならばこの程度の命令ならばそれぞれの分艦隊を任せた指揮艦によって整然と行える筈の艦隊行動すら出来なくなっている配下の聞くに堪えない雑然とした
今回の戦いに連れてきた
その数千トンの重みを持った八つ当たりによってへし折られた金属の塊が砕けながら飛び散り、音速を超える散弾となった無数の破片とそれに伴う衝撃波が吹き荒れる暴風を掻き消し、うねる荒波を叩き潰し、そこだけが周囲から切り取られた様に凪の海が作られた。
女王たる泊地の姫に献上すると言う約定の事もあるがあの矮小な船体に宿る特異な能力が死によって失われる事になればここまでかけた手間が全て無駄になってしまう。
奇をてらった卑怯な戦法とは言え曲がりなりにも先遣隊を撃退する力を敵が持っている事は理解していたがまさかこれ程までの損害を受ける事になるとは思ってもみなかった侵攻艦隊の総旗艦は風が凪いだ事で足元に降りてきた自らの銀糸と見紛う白髪を身体から溢れた有り余る怒りによって蠢かせる。
だからこそどれほど不愉快な存在であってもアレを殺してしまうわけにはいかない。
だが必ず生きながら手足をもぎ取り海底に這い蹲らせ己が犯した罪の重さをあのちっぽけな身体と魂に刻み付けてやる。
そう心に強く誓いながら瞳の奥で怒りの炎を漲らせる視線で天に昇っていく架け橋にも見える海流を睨みつけた空母棲姫はふと頭に過った、アレがあの程度の水圧で潰れてしまっていた場合にはこの心中で燃え盛る断罪の思惟をどうするべきか、と言う敵の安否を心配しなければならないなんて彼女個人にとっては非常に不愉快な考えに眉間に深い皺が出来る。
少し前に下僕達から送られてきた
しかし、だからと言って絶対とは言い切れない、と
そうして生きていても死んでいたとしても自分を不愉快にする事に変わりない欠陥品への苛立ちを姫級がさらに高めていた時、敵艦の捕獲に向かっている分艦隊の一つから魚雷攻撃を受けたと言う報告が届き、その数秒後に空母棲姫の脳裏で艦隊の末席にいた数隻が断末魔の
また油断した愚か者が隙を突かれたか、と轟沈した役立たずへの
そして、攻撃を受けたと報告してきた下僕の位置を確認すれば空を舞う海流が落ちようとしている地点から最も離れた敵艦拿捕に出遅れた群れであると気付く。
敵はあの見上げる程高くまで舞い上がった海流に押し流されて運ばれている最中なのだ、何がどう間違えば空にまで喰らいつかんばかりの威容を誇るあの海龍に成すすべなく呑まれた敵艦の魚雷が捕獲を命じた下僕達の最後尾、しかも背後から襲い掛かる事になる?
そもそも自分は何故あの欠陥品を相手にここまで激しい憤りを燃やしている?
全ての
だが、それらは必要な資材と
そんな
その原因を自覚しようとすればする程に深みへとハマっていく事に気付かず周囲を警戒する事も忘れ、自分の内側に集中し過ぎていた空母棲姫の頭上で幾つものプロペラが風を切り裂く唸りが鳴り響く。
暴風と津波の海域の中で唯一凪が包む玉座の上で一際強く聞こえるそれに顔を上げた紅い瞳は自分へ向かって急降下してくる編隊を組んだ爆撃機に目を見開いた。
それは少し風に吹かれただけで文字通り吹き飛ばされる程度の大きさの貧弱な
木の葉の様に風に弄ばれる母艦に相応しく滑稽なほど情けなく逃げ散った様子に呆れ空母棲姫が捨て置いた30機の艦上爆撃機が一斉に爆撃を開始したと同時。
夜空へと昇る蒼い海流の根元で赤い髪を尾の様に振るう現代に蘇った人魚が背中の艤装の二軸と両脇に抱えた二本の魚雷のスクリューによって空へと落ちていく激流を振り切る。
『次は三番四番! さぁ、アナタ達も戦果を上げてらっしゃい!』
そして、空に向かって落ちる滝から海中へと脱出した潜水艦娘の腕の中から機械仕掛けのトビウオがその矛先を手近な獲物に向け一気に加速し、空中に巨大なアーチを描く海流の終点に向かっていた深海棲艦の最後尾へ魚雷が食いついた爆発と重なる様に黒鉄のイバラで編まれた玉座が轟轟と炎に包まれた。
・・・
「やったか! と言いたくはなるがそう都合良くは無いっ!」
透明度など少しも期待できない濃厚なペンキの様に粘りつく瑠璃色に染まった球体モニターの中心、全力で手足を突っ張っても指揮席から振り落とされそうな状態になりながら田中良介はつい口から出た自分の言葉を即座に否定する。
「お約束っちゅうヤツやね、やけど腹立つわぁ、なんやねんホンマあれ」
そんな田中の声に苛立ち交じりの返事を返した龍驤がボロ布同然になった服を纏う身体でメインモニターに背中を預けて床に座り込み、肌色よりも青あざの面積が広くなってしまった身体の痛みに顔を歪める。
『魚雷三番と四番、命中したはず!』
「イムヤ、したはずってなんですの!? 報告は正確にしてください!」
『当たった音がしたから当たったのよ!』
「海中のマナ濃度高し、ソナー使用不能! 艦載機から情報がきてない、接続が切れてるわよ龍驤!」
「折角、限定海域の一番奥まで辿り着いたのにっ! このままじゃ姫級見失っちゃうんじゃないの!?」
戦闘形態の艦娘が艦種変更によって発生させる一瞬の粒子化と金の輪、だが砲弾などの点の一撃が通過するだけなら金の輝きが揺らぐだけで済む非常に優れた緊急回避も文字通り山の様な大質量が叩きつけられると言う超常現象の前ではその限りでは無かった。
(だがっ・・・空母棲姫や敵艦隊の目から身を隠す為にはどうしても必要だった、使い捨てる様なマネをしておいて死ななければ安いなんて口が裂けても言えない)
その結果である力なく手足を床に投げ出し辛うじて顔を上げているが体中を隈なく鈍器で殴られでもしなければそうはならないだろうと言える重傷を負った姿とそれ取り繕うわざとらしく明るい声に混じる肺を病んだ様な呼吸音に田中は彼女が完全な戦闘不能状態になってしまった事を。
(だけど、ああ、そうだが、自業自得なら後でいくらでもツケを払ってやる!)
自分の命令でそうさせてしまった事を、痛い程に思い知った上で不退転の決意を自らに課す。
「ウチの艦載機やったらみんな撃ち落とされてもうたわ、ゼヒュッなんやアンタら爆撃直後のアレ見とらんかったん? カハッ」
「龍驤は喋っちゃダメ、早く手当てしなきゃっ」
ハワイへと侵攻する瑠璃色の海の元凶である空母棲姫へと龍驤が持てる限りの艦載機を全てに爆装させて突撃させた結果は200mオーバーの生きた女神像を中心に黒鉄の浮島を包む透明なドーム状の障壁に細長い割れ目を刻んだだけ。
おまけに急降下爆撃から機首を引き揚げて退避しようとした艦載機達は姫級深海棲艦の影からにじみ出る様に生えてきた無数の対空砲によって回避する暇も無く一機残らず火の玉に変えられた。
「問題ない、空母棲姫はこちらで確認している・・・龍驤には苦労ばかりかけているな、後は休んでいてくれ」
「ぁたたっ、くぅっ・・・やから気にせんでええってば、でもまぁ、感謝するんなら今やなくて後で二人っきりの時にしてくれたら嬉しいなぁ?」
応急処置として手早く巻かれる包帯による圧迫と痛みで顔を引き攣らせながらも、あはは、と小さく笑いながら田中へと手を振る赤い袖の中に見えた指の数本はあらぬ方向に折れ曲がっていた。
(どれだけ後悔しようと時間は待ってくれない、このまま海中から接近してイムヤの最大出力をぶつけて障壁を突破、矢矧の一斉砲撃を叩き込む、それで駄目なら離脱しながら三隈の長距離砲で心臓部を狙う!)
龍驤の応急処置を行っている島風の細身も服よりも包帯の方が肌を隠しているぐらいに傷付いており、伊168の補助を行っている艦橋の矢矧、三隈、叢雲も少なくないダメージを受けている。
夕日の中で出撃してから真夜中まで続いているこの一連の戦闘によって無傷なメンバーなどもう一人もいなくなった状態を誰よりも理解している田中は味方と敵の情報を同時に頭の中で整理しながら現状で可能な作戦を組み立てていく。
(三隈と矢矧の砲撃でヤツにダメージを与える事は、・・・
田中の視界の端に〇印の看板が揺れれば脳裏には気付けば画用紙が広げられ大仰な玉座に座る白髪の乙女の姿が鉛筆で描かれ、そのデフォルメされた頭と胸の間に此処を狙えとでも言う様な×印が付け加えられる。
(
続いて田中の脳裏に浮かぶイメージが巨大なサメの顎に見える鉄の塊に変わり、それがまるでレントゲン写真の様に骨組みだけになったかと思えばその内部の一画、数百の球体艦載機が整然と並ぶ広大な
(遠距離からやるなら敵の格納庫を狙えと言う事ですか? 圧縮された空間に穴を開ければ艤装が内側から弾け飛ぶ? ・・・三隈の砲がその分厚い装甲を撃ち抜けると言うならそれも出来る事なんでしょうけれど、表に出てきていない弱点を狙う為に敵の本気を引き出すなんて冗談じゃないっ)
画用紙の上で
「これって海上から友軍機の反応!? 航空索敵、通信も・・・使える! やったわ!!」
あと数分で姫級深海棲艦と決戦が始まると言う確定した未来へ備えメインモニターを包むエナメル質の群青の向こうにいる空母棲姫の姿を正確に透視していた田中の耳に上空から急降下する際に味方機達を振り切ってからノイズだけを吐く機能になった通信系に全ての集中力をつぎ込んでいた叢雲が叫ぶ様に声を上げた。
「なんだって? 龍驤の艦載機は全部墜されて、いや、加賀か赤城の航空隊が残っていたか、だがどうやってこんなマナ濃度の高い海中で情報支援を受けられるんだ?」
「ちょっと!? 私達を援護する為に上空から降りてきたってこんな低空じゃいくら加賀の操縦が上手くても撃ち落とされるわよ!」
再接続された通信ネットワークの
「ちょっと今度は何!? 米軍が何言って? 撤退、撤退ってなんでよ!? 知らないわよそんなの!!」
それとも、もしかして加賀にとって俺は常に見張っていないといけない危険人物だとでも思われているのだろうか、と苦笑した指揮官の目の前でついさっき通信機能の正常化を告げた駆逐艦娘が突然に顔を真っ赤にして怒声を上げた。
「矢矧達はイムヤの補助を続けてくれ! 叢雲は落ち着け、相手は何と言っているんだ? ・・・まさか、どさくさ紛れに外洋に脱出する計画がバレたのか?」
「これが落ち着けるわけないでしょ! いきなりふざけた通信が割り込んできたと思ったら
「ふざけた通信? さっき自分で米軍だと言ってたじゃないか?」
仲間が突然に怒り始めた事に驚いて作業の手を止めてしまったその場の全員へと目配せしてから、あまり良くない知らせかもしれない、と嫌な予想に眉を顰めた田中は鎮火する気配も無く激昂したまま捲し立てる叢雲の剣幕に押されて背もたれに背中を押し付ける様に仰け反る。
「言うに事欠いてハワイの基地からだって言うのよ!? あそこは指揮どころか通信する機能すら動いてないじゃない!!」
田中良介特務二佐が率いる艦娘部隊がハワイ沖に広がる限定海域の中を走り抜け空母棲姫の下まで辿り着いてから数十分。
彼らはまだ自分達の預かり知らぬ場所で