自分で艦これにログインしてイベント海域に乗り込めば好きなだけ体験できるよ?
皆も甲作戦に挑戦しよう。
私は丙と丁に逃げるけどな!
今回予告
上から来るぞ! 気を付けろぉ!
この救出作戦そのものは簡単に言ってしまえば三つの段階に分かれている。
限定海域の奥に囚われているであろう艦娘達の居場所を突入部隊が特定し合流する第一段階。
霊力を利用した識別信号を海上の艦隊に護衛されている霊的力場に対する高精度探知を可能とする綿津見にまで届ける第二段階。
そして、最終段階として綿津見から受け取った位置データーを元に海上から長門がアストラルテザーを限定海域へと打ち込み突入艦隊と要救助者を回収すると言うものだった。
戦艦級の霊核が作り出す出力で強化されたサルベージアンカーは強固な限定海域の外壁を打ち抜き、主任達の改良によって特定された艦娘の霊核の反応を追い磁石の様に吸い付けられ俺達のいるここまで辿り着く。
もっともこれは主任を筆頭とした鎮守府の研究員の言っていた計算結果を全て信じるならばと言う前提条件が付いているが。
「識別信号は最大で発信している。後は上の連中が俺達を引っ張り上げてくれるまで持つかどうかかっ!?」
「そこは持たせるって言って見せないさいよ、情けないったらっ・・・ないわねっ・・・」
血臭で満ちた艦橋でガンガンと頭の中を直接殴られているかのような頭痛に意識が持っていかれそうになるのを俺は下唇を噛み切りながら耐える。
顔の半分を赤く腫れあがらせボロ布になった服を傷だらけの未熟な体に纏わりつかせた霞が血まみれの手で足場の手すりにしがみ付きながら呻いた。
「むりなさくせんはぁ、いやだぁ・・・すごくいやっ・・・」
「すみません司令官っ、つぅっぐっ・・・」
死屍累々とはこの事か、限定海域への突入艦隊として参加した全員が今では満身創痍で半裸を晒しているが、その全員が血まみれでその肌の所狭しと青あざ蚯蚓腫れが刻まれている為に劣情なんて感じる余裕も無い。
今、旗艦として戦っている那珂だけが唯一膝を折る事無く立ってくれているが、両腕の主砲は全て破壊され、腰に装備された魚雷管は左側が内部から破裂したように鉄くずになっている。
右側の魚雷は壁の向こうへと突入する際に全弾を撃ち切ったために再装填まで十数時間かかると無情な数字がコンソールパネルに浮かぶ。
那珂が装備している現在唯一の攻撃手段である接近戦用の短刀はここに来る前に遭遇した戦艦級の首を掻き切った時にケミカルライトのように輝く刀身に大きなヒビが出来てしまい使用限界が近い事を知らせている。
「てーとく、ゴーヤの魚雷さん、後一発ぐらいなら撃てるでちぃ」
「そう言う、セリフは服着てから言えっぁぁ、くそっ、あったまいてぇ・・・」
飛んでくる深海棲艦の砲弾を那珂が前傾姿勢で迎え撃ってヒビだらけの短刀で切り払う爆音が何度も艦橋を揺らし、眼下では幸運にも調査の際に受けた通信電波から計測した予定地点よりも近い位置で発見できた艦娘達が自分達で運んできたらしい錆びたコンテナに集まっている。
元々が水着だけという格好だったためか道中の過酷な爆雷攻撃で素っ裸になった桃色髪の潜水艦娘が血まみれの身体を円形通路に倒れ伏しながらも継戦の意志を告げてくるが俺達の状況は魚雷一発で変わる状況でもない。
「何・・・? あいつら急に陣形を変えはじめ・・・っ!?」
迎えが来るまで耐えるしかないと歯を食いしばって目の前で赤く染まり始めた全周モニターを睨むと深海棲艦の群れが砲身をこちらに向けている闇が満ちた黒い海のさらに向こう側から妙に白い何かが頭を出してきた。
「おいおい・・・ここに来て、姫級かよ。ははっ、なんだよ想像してたのより随分とグロテスクな面をしてるじゃないか」
「しれぇ、わらえないよぉ、これはわらえない・・・なにあれぇ・・・」
「姫級って、最強クラスの深海棲艦に付けられるっていう・・・あんなに大きいの・・・?」
水平線と言うべきか、闇と闇の間から這い出てくると言うべきか、全体的に病的な死蝋を思わせる白い身体にずんぐりむっくりな等身は遠目には幼児にも見えるそれが黒い海の底から姿を現す。
頭から生えた黒い角やドロリと粘性を感じさせる濁った目が宿す赤い光、白い水掻きで歪な指を繋げた手がひっかく様に黒い海面を自分の同類ごと抉りながら四つん這いで近づいて来るそれは、誰の目にも人外として映るだろう。
身体を包むような白い長い髪、子供のような等身、ギョロリと開いた赤い目に尖がった黒い一対の角、艦これでプレイヤーの人気を集めた敵である北方棲姫と呼ばれた深海棲艦のエリアボスと似通った特徴を持っている。
とは言え、特徴が同じであってもその全体像が蛙のような両生類に近い造詣をしている為に可愛げなど欠片も無くひたすらグロテスクな怪物と化しているが。
『さすがに・・・那珂ちゃんピーンチ? あははぁ・・・』
「・・・頼むっ、後少しのはずなんだっ、耐えてくれぇっ」
クジラのような低く遠くまで響く咆哮が水平線で四つん這いになった怪物の口から放たれ、艦橋に那珂の乾いた笑いが伝わり、その場にいる全員が顔を真っ青にして震えあがる。
「ぇぁっ?・・・冗談だろ?」
咆哮を合図に白い怪物の背中から巨大な歯が並ぶ口だけが付いた球体が幾つか飛び出し、姫級深海棲艦の背中と赤黒い触手で繋がった球体の一つが凄まじい速度で俺達にいる場所へと撃ち出された。
「那珂ッ、受け止めろぉっ!! 避けたら下の子達が巻き込まれるっ!!」
≪プロデューサーさんっ、無茶言わないでよ!! ・・・もぉおおっ!!≫
巨大な口を開き赤黒い触手を蠢かせる巨大球が十数キロ離れた場所からものの数分で俺達の目前まで迫り、端末でしかないくせに下手な深海棲艦よりも巨大なそれを前に那珂と俺は絶叫する。
衝突の瞬間、理不尽に対する怒りに満ちた那珂の叫び声とベキンッボキンッと硬いモノが砕ける音、横揺れの振動が艦橋を襲い指令席や手すりにしがみ付いている俺たちは振り回され、全周モニターの右半分がブラックアウトした。
「那珂ッ、無事かっ!?」
≪無事じゃないけどぉ、ここまで来て今さら路線変更なんて出来ないでしょ。アイドルはぁ、ファンの子達の期待を裏切れないんだからぁっ・・・!≫
コンソールパネルに映る立体映像の中で那珂の顔の右側と右腕が肩先から抉れるように喪失し、狭くなったモニターの中で今使える最後の武装だった短刀が砕けてキラキラとその破片を黒い海面へと散らせていく。
飛んできて那珂が右半身を犠牲にして受け反らした口だけの怪球体が壁にめり込んだ状態から逆回し映像の様に姫級と繋がった触手に引っ張られて海面を割る様に戻っていく。
「・・・と言うか、アレ、あんななりして砲弾か何かだったのかよっ!? くそったれ!!」
苛立ち紛れに叫ぶ俺の目に姫級へと戻る途中でその触手と球体の質量に巻き込まれた数体の深海棲艦が粉々に砕けたが今の状況では何の慰めにもならない。
「なんだよ、虫の羽を捥ぐ子供かなんかか・・・嗤ってやがる」
「本当にムカつくわね・・・上部兵装が残ってたら砲弾の一発でもお見舞いしてやるのにっ・・・」
突入艦隊の一人として参加していた長良型軽巡である五十鈴が痛みに震える身体に鞭を打って手すりにしがみ付き、血まみれ顔でモニターの遠く向こうに見える白い怪物へと怨嗟の声を向ける。
主砲も魚雷も無く砲撃を切り払い耐えてくれていた武器ですらたった一回の衝突で砕け散った。
そんな這うような動きなのに明らかに周りの深海棲艦よりも早く俺達の方へと近づいて来る白い怪物が目を爛々とぎらつかせ高く伸びる襟元に隠れていた口が耳まで裂けて闇色の半月が白い貌に浮かぶ。
刀折れ矢尽きたとはまさにこの事なのだろう、諦観に脱力して指揮席へと身を沈めた俺は真っ暗闇の天井を仰ぎ見た。
「・・・ぁぁ、まったく・・・遅すぎるだろ・・・」
自分の眷属すら路傍の石ころの様に跳ね飛ばしながら近づいて来る姫級の姿に艦橋の外、コンテナの周りに集まっている艦娘達の悲鳴が聞こえてくる。
這い進みながらさっきと同じように背中から伸びた触手に繋がった白い球体をこちらへと放とうとしている蛙面の姫級へと突入艦隊のメンバー達は悔しさに満ちた表情で歯を食いしばり視線を向けていた。
「くっそ出来過ぎなタイミングに・・・現実はっ、アニメじゃねぇんだぞぉ!!」
その場にいる俺以外の全員が今までにない強力な深海棲艦へと畏怖の視線を向ける中。
俺は天井から落ちてくるそれへと叫び声をあげる。
姫級の背中から放たれた白い大質量の突進が100mほどまで迫った瞬間。
白く輝く巨大な錨が暗黒の海を割る様に俺達の目前に落ちて目が眩むほどの閃光を放った。
錨とワイヤーを伝って放たれた光と巨大な質量を持つ怪球体との間で言葉にしようがないほど壮絶な衝突音が周囲にまき散らされる。
だが、不思議と艦橋にも足下の艦娘達にも何に一つの影響も与えなかった。
『随分と待たせてしまったようだ。なればこそ、この戦艦長門の力っ! 刮目して見ているが良い!!』
艦橋やコンテナの通信機に勇ましい気迫に満ちた声が届き、海上からアストラルテザーで繋がっている長門の宣言にその場にいた艦娘達が一瞬の忘我の後に歓声を上げる。
真昼の太陽のような輝きを放ち暗闇を照らす錨を中心に直径数十mの円が生まれ、那珂の巨体やコンテナごと艦娘達を包み込み円は輝く膜を広げて球体へと変わっていく。
明らかに状況が変わった事を察したのか攻撃の頻度を上げて襲い掛かって来る姫級や深海棲艦の砲撃はアストラルテザーが発生させた力場に阻まれてはじき返される。
「ひゃ、なんでっ!? きゃぁっ、司令官見ないでくださいっ!?」
「安心しろ吹雪、もう、俺、そういうの楽しむ余裕も無いから・・・な」
「どう言う言い方ですか、それっ!?」
完全な球体となった光りの結界の中で重力から切り離されたようにふわりと周囲の艦娘やコンテナが満身創痍の那珂の周りに浮かび上がり、全員がキャアキャアと戸惑う声を上げてコンテナから零れ落ちたらしい青白く光る瓶や仲間を抱えている。
艦橋の中でも俺や艦隊のメンバーが流し散らした血が紅い水玉となって無数に宙を漂い、床に倒れていた吹雪達が衣類の破れ飛んでいるあられもない姿で指令席の周りに浮かび上がった。
いろいろと女の子として隠さなきゃいけない部分が丸見えになっているのだろうが貧血と頭痛で歪む俺の視界には艦橋内に浮かび上がる吹雪達の身体は布切れと赤と肌色が多いぐらいの判断が出来ず、ただ指揮席の上で浮遊感に身を任せた。
『ビッグ7と呼ばれた長門型の出力、侮ってくれるなよ!』
ガクンと輝く錨が震えて上昇を始め、黒い海から真っ直ぐ上へと引っ張り上げられていく。
「遅れてきたくせに、引っ掻き回してくれるなっ・・・吹雪こっちだ、掴まれ」
「ひゃぁっ、司令官っ!? ぁ、す、すみません・・・」
「やだっ、痛いじゃないっ! もぉっ、全員、何でも良いから掴んで身体を固定させてっ!」
突然に発生した疑似的な無重力と変化した慣性の影響か目の前で浮いてた吹雪の身体が俺の上へと流れてぶつかり、仕方ないので少女の脚を捕まえて引き寄せれば血まみれになった俺の士官服を握り込んでその身体が膝の上に収まった。
コンソールパネルにぶつかって呻きを上げた五十鈴がパネルに丸見えな胸を押し付けるように抱き付きながら周りの仲間達へと警告の声を上げる。
「ゴーヤの水着がぁ、ホントに裸になっちゃうよぉっ!?」
首と足に纏わりついただけの布切れは水着なのかは議論の余地があるが猫の様に手すりの上部に抱き付いている伊58に関しては戦力にはならないが精神的に余裕がありそうだった。
「うぇぇ・・・もぉだめぇ、頭ふらふらでなんか身体までふわふわしてる気がするぅ~・・・」
「時津風っ、だらしないったら! こっちに手を伸ばして掴まりなさいよっ!」
モニターの上部まで流され目を回しながら無気力にべったりとくっ付いている時津風、それを霞が引っ張り下ろそうと手すりに足を掛けて手を伸ばしている。
ドンッと鈍い衝撃と共に階層同士の隔たりがアストラルテザーの衝突で突き破られ周囲の闇が薄まり、俺達が最終海域へと下りる前に散々苦労して通った場所へと簡単に飛び出し、たまたま近くにいたらしい重巡リ級が光に跳ね飛ばされて砕け散った。
『プロデューサーさんっ、ちょっとヤバいみたいだよ・・・あれ・・・』
「・・・なんだよ、玩具を取られたような顔しやがって、しつこいヤツだな・・・」
戦艦長門の力技でぶち破った階層の壁の穴へと噛みついた白い球体に引っ張られるように姫級の蛙面が上階層へと顔を出し、呻き声を上げる俺達へと溢れんばかりの負の感情を宿した恨めしそうな赤い目が睨み上げる。
俺達を運ぶ結界では無くそれを引っ張る超強度のワイヤーへと怪球が飛びかかりぞろりと並んだ牙が噛みつき、姫級の背中の触手と長門の綱引き状態となってしまった。
『むっぉ、なんだ・・・急に抵抗がっ! 何が起きている!?』
長門が供給するエネルギーによってワイヤー部分の強度も強化されていると言う話だったがさすがに巨大な口と牙を備えた怪物の攻撃は想定されていないらしく、怪球体の牙の間から金属が削れるようなガリガリと言う音が俺達のいる場所まで伝わってきた。
『ええい、動けっ!! 何故動かんっ!?』
さっきまでの堂々とした長門の声が困惑に揺れて息む様子が通信機から聞こえた。
「・・・ここまでかっ・・・? く、ははっ、マジかよ・・・」
“ ・・ ” “・・・っ”
“ ・・・ ” “・・・夕雲姉さん達をお願いします”
「ちょっと、気でも触れたわけ!? 笑ってないで何とかする手段をっ!」
“慌てないで”
“大丈夫だよ”
「・・・えっ? なに、声が・・・」
“空に” “・・・僕らも”
“ 光りが・・・ ” “・・・”
そして、敵のあまりの執念深さにはもう称賛の言葉すら出てきそうになった俺の目が不意に那珂の現在の状態を浮かび上がらせている立体映像へと吸い寄せられる。
“私の力も使ってっ” “負けるなっ”
“・・・っち、私達も” “はいっ、・・・さん”
彼女の最後の武装である右舷魚雷管、那珂の霊力不足で再装填まで絶望的な時間を要求していたカウントタイマーがまるで早回しのようにその数字を減らしていく。
“帰るんだ、鎮守府に”
“皆で” “やっつけちゃえ”
半分がブラックアウトしたモニターは青白い光に満ち、その発生源である様々な形の瓶に入った水晶体を抱えた艦娘達が驚愕に目を見開き、その手の中の瓶から溢れる光が収束するように那珂の魚雷管へと注がれていく。
「何が、どうなってるのよ・・・?」
“・・・任せといて! 五十鈴”
「長良っ? あれっ私、今、何て・・・」
何時か聞いたようなシャッシャッと何かが高速回転する様な摩擦音が艦橋で繰り返し、たくさんの声が自分たちの力を使えと一斉に叫ぶ。
那珂の腰に残った最後の魚雷管から伝わって来る唸るような音と渦巻くように纏わりつく光の粒子が魚雷の装填完了を知らせた。
「はははっ! ここで雷撃カットインかよっ! 出来過ぎにもほどがあるなぁっ、おいっ!」
「これが、司令官の言ってた。 雷撃、カットイン・・・?」
二つ目の触手と球体がワイヤーへと噛みついた事でアストラルテザーの上昇が止まり、俺達は姫級深海棲艦が身体を這い出させようとしている大穴が開いた黒い海を中空から見下ろす。
「あんなにデカい目をして見てるんだっ! 見せつけてやれよ、艦隊のアイドルっ!」
その青白い光と願いを叫ぶ声が渦巻く結界の中、中心にある錨に手を掛けて身体の向きを調整した那珂の腰で高圧縮された艦娘の力を溜め込んだ魚雷がその穂先を姫級へと向け、俺は魚雷管の発射ボタンへと手を掛ける。
≪那珂ちゃんセンターッ、一番の見せ場です!!≫
結界の中で浮いた多くの艦娘達に囲まれた那珂の腰から放たれた輝く魚雷、四連装魚雷管からまるでミサイルのような初速で飛び出したそれは結界の光を何の抵抗も無く通り抜けて落下エネルギーをもその身に蓄える。
そして、砲撃を上回る速度で暗闇を切り裂いて四本の光が俺達を見上げる姫級の目や額へと突き刺さり、直後にその顔を強烈な閃光で塗りつぶして消し飛ばした。
「ざまぁみろ・・・ははっ・・・」
白い怪物が砕けながら奈落に落ちたと同時にブチンと姫級の背中に繋がっていた触手が千切れ、大きく口を開けた怪球体が砕けながら糸の切れた凧のように頭だけでなく上半身まで破壊された砕けていく主を追って黒い海へと落ちていく。
そして、抵抗が無くなり魚雷の爆風が手伝ったのか、それとも長門が溜め込んでいた力を解放されたのか急激な加速で上昇が再開し、膝の上に血まみれの吹雪を乗せたまま俺は指令席に押さえつけられる。
(もう二度と、こんなバカみたいな作戦なんかしてやるかよっ・・・)
こちらに抱き付いてきた吹雪の身体を抱きしめ返しながら霞んでいく視界、俺が見上げた先にアストラルテザーが海上からの突入の際に開けたらしい穴を中心に壁の崩壊が始まり滝の様な海水が限定海域を埋め尽くすように流れ込んでいる。
その海水の滝中へと引っ張り込まれた俺達を包む結界が容赦なく外と内を隔てる最後の壁に叩き付けられ、その激しい振動と鈍い衝撃に俺は目を閉じた。
・・・
私を眠りから引き戻したのは瞼の外から差し込んでくる温かい光、耳に届くザザァザザァとさざめく潮騒の音、身体中を満たす倦怠感を振り払うように海水を手で掻いた。
久し振りに感じる眩しい光に眉を顰めて薄っすらと開いた目には青く澄み切った空が広がり、私は穏やかに波打つ海原に仰向けで浮いているようだった。
「阿賀野、おはよう・・・気分はどうかしら?」
「ゆう、ばり・・・阿賀野たち、・・・ここは?」
頭の後ろから伝わって来る柔らかさと顔にかかった人影に私は目を瞬かせる。
どうやら、私の身体が沈まないように膝枕してくれていたらしい夕張が疲れを滲ませた、でもどこか晴れやかな笑顔で覗き込んでいた。
そして、どんどん鮮明になっていく視界の中で彼女の、私達の周りを取り巻くように青白い光が渦を巻いている事に気付く。
「あの子たちが、皆が力を貸してくれたみたい、ちゃんと後でお礼を言わないとね・・・」
ずっと暗闇の中で私達の心を支えてくれていた霊核の光、青く高い空へと昇っていくように一点に向かって帯を作るそれを追う様に私は身体を起こして目を見開く。
空へと流れていく艦娘の魂の光の中に、見覚えのある姿が見え私は宙を掻くように手を伸ばした。
「ぁ、ぁあ、能代・・・酒匂、妙高さんっ・・・みんなっ!」
「大丈夫よ。あの子達もちゃんと鎮守府に戻れるから、だから私達も帰りましょ?」
夕張に手を借りて立ち上がり周りを見回すと一緒にあの暗闇で支え合った仲間達がそれぞれの手に持った瓶の蓋を開けて空に向かって掲げていた。
あの島に流れ着いた物資の中の貴重な飲み水を使って満たした瓶から光の粒となって霊核が仲間達の手から離れて帰る場所へと向かって空を流れていく。
「ほら、私達にも迎えが来てくれたわよ」
肩を貸してくれている夕張が指さした先、霊核の光が進んでいく方向に見える幾つかの船影から海面を滑って数人の艦娘が近づいて来る。
「・・・っ、あ、ああぁっ・・・ぅっうう・・・」
その中の一人の姿が大きくなっていくほどに私はどうしようもなく感情が昂っていくのを止めることが出来ず、必死に歯を食いしばっても情けない嗚咽が口から漏れ出す。
「田中特務三佐旗下、阿賀野型軽巡洋艦三番艦矢矧です、ただ今救援に参りましたっ!」
「軽巡洋艦夕張です、貴女達の救援に感謝します。 ふふっ・・・ほら、阿賀野っ」
戦闘の後の足でそのまま来たのか、少し煤けているけれど私と同じデザインだと分かる服装に身を包み、凛とした真面目な態度は記憶の中の姿と少しも変わらない。
あの真っ暗闇から逃げ込んだ夢の中で何度も見た、会いたくて仕方がなかった私の妹の一人が凛々しく背筋を伸ばし敬礼をしていた。
返礼を返しながら優しく背中を支えてくれる夕張の声に私は耐え切れず涙を零し、泣き声を押し殺す為に両手で口を塞ぐ。
「お帰りなさい、阿賀野姉ぇ。・・・ずっと探していたのよ?」
だけど、私の姉としての最期の抵抗は目の前から伸ばされてきた白い手袋に包まれ呆気ないほど簡単に口から引き離され、私の情けない泣き顔を覗き込んだ矢矧は小首を傾げてから優しく微笑んでくれた。
「ぅぐっぅ、や、矢矧ぃっ・・・やはぎぃぃいっ、うあぁああんっ! わあぁあんっ!!」
やっぱり、神様は意地悪だ。
散々ひどい目に合わされたのに、こんな風にされたら誰だって耐えられない。
軽巡洋艦としての誇りや姉としての矜持とかもう投げ捨て、相手が汚れてしまう事も考えられずに赤ん坊のように泣き喚いて私は迎えに来てくれた矢矧に抱き付いた。
周りを気にする余裕なんてもうなくて、誰に笑われても構わないと吹っ切れた思いがため込んでいた感情を全て吐き出すように泣き声となって澄み切った空と海の間に広がっていく。
私は、軽巡洋艦阿賀野はやっと自分のいるべき場所へと帰ることが出来た。
中村がやった海域攻略。
①海底にアンブッシュしたゴーヤで外壁に魚雷打ち込んで突入
↓
②入り組んだ海域をひたすら駆逐艦の速度で突破
↓
③途中の海域を隔てる壁は五十鈴と那珂で穴を開け
↓
④戦闘形態を解除して人間サイズでその穴を通り抜ける
↓
⑤ ②③④を繰り返す
↓
⑥とにかく敵を無視して名取が発信した救難信号があった場所へと直進
つまりゲームのルールを無視したゴリ押し作戦
ゲージ削り? なにそれ美味しいの?
11/18 一部の訂正、半年経ってから気付いた。
那珂ちゃんの魚雷管は四連装だと言うのに三連と書いていた。
信じられん、私は何で三連装って書いたんだorz
メチャクチャ恥ずかしい。