今回だけでも何回書き直したのやら。
でも、投稿は止めないぜぇ、書きたいシーンまでは絶対に止まらないぜぇ。
少なくともハワイ編は絶対に書き上げる決意をもって来年も頑張ります。
あと、多分この話が今年最後の更新だと思うのです。皆様よいお年を!
重く塞がる夜の闇と蒼く揺らめく妖しい光の間で天を指す様に海面から突き出た黒岩の上で一人の艦娘が吹き上がってくる突風に身に纏ったセーラー服とツインテールをはためかせながら轟音と水飛沫が巻き起こる海面を見下ろす。
そして、大仰な水飛沫の中に燃え盛る紅い炎の色を見付けたつぶらな瞳がスッと細まり、不安定な足場をものともせず背筋を伸ばしながら両手に武骨な連装砲を構えた。
《すぐに襲い掛かってくる、と言うわけでは無いのかしら? 随分と怒ってるみたいなのに》
『空母棲姫の考えは・・・分からないが』
両手の一番二番の主砲がその内部で硬い音を立て霊力から製造された砲弾が機械的に砲身の奥へと装填され、それに続き岩肌に立つ両足の太腿に装備されている三番と四番の連装砲にも砲弾が装填されていく。
小豆色のセーラー服の背で動力を起動した主機に施された艤装で高角砲や機銃がその動作を確かめる様にそれぞれが独立して銃口を左右上下に動かし、数秒の確認作業を経て武装へと無数の弾丸が込められた。
『ともかく、直接戦闘だけでなく発着艦能力も健在のようだ・・・いや、それどころか』
《さしずめ今から本領発揮と言った感じですの》
『ああ、そして、これから君に無茶をさせる事になるが』
自らの提督と定めた青年の息苦しそうで硬い声を遮る様に彼に自分の全てを預けると言い切った三隈は命懸けの戦場に立つには場違いに感じる程の悠々とした態度で崖の様に傾斜した岩肌に吹き付ける風に艶やかな黒髪をたなびかせる。
《あら、その様な気遣いはいりませんわ、この三隈、提督が望むまま如何様にでもお使いください》
自分が仲間達の誰よりも指揮官である田中良介に相応しい艦娘で、それに見合う努力と時間を掛けてきたと自負している三隈にとって文字通り自分の
自分の指揮官は未だに自分の決断を疑い続け、さらに
(まったくもう、提督ったら)
しかし、自業自得かつ自縄自縛であるとは言え彼の苦悩が三隈には分からないかと言えばそうではない。
何故ならば三隈に限らず艦娘と言う存在は死地に赴く兵士と指揮官の辛さをその身に刻んで産まれてきたと言っても過言では無いのだから。
(いつもそうやって一人で抱え込んで迷って悩んでばかり)
だからこそ、肌が焼けそうな程の殺気が込められた視線と戦風を全身に浴びる三隈は見た目の年相応に苦悩している青年の心裏を理解した上でその未熟で甘ったるい考えに呆れながらも微笑む。
(でも、貴方がどんな困難に遭おうと必ず正しい答えを出す事が出来る人である事も知っています)
そう声に出さず呟いたと同時に三隈と共にある
それは言葉にするならば"海軍男児のなんたるか”や“一発活を入れてやれ”などと言う野次や小言の様で本当のところは若き指揮官を案じる
(そう、何人の仲間が傷付き倒れたとしても、仮にこれから私が力尽き沈む事になるとしても提督は正しい道を歩いていくの、・・・だから姑みたいなお説教は余計なお世話)
もし三隈の命と勝利のどちらかしか選択できないとしたら田中は自分では無く無辜の人々を守る事を選ぶだろう。
迷いながら苦しみながら、それでも、不器用で正しい彼は自分達を踏み台にして生き残る。
絶対に困難から逃げず軍人としての
(だけど、正しいだけじゃない、どんな形でお別れする事になったとしてもきっと私の事を忘れずにいてくれる、優しい人)
それを確信しているからこそ三隈にとって自分を無数の砲で狙っている空母棲姫がどんな恐ろしい能力と強力な武装を持っていたとしても、自分がかつて軍艦だった頃の様に海原に果てるとしても、全てが些細な事でしかなかった。
(それでこそ惚れる甲斐があるってものでしょう? ねぇ、
どこか満足げな笑みを浮かべたお嬢様は自分ではない自分、自らを形作る
彼女は艤装と心の騒めきが静まっていく感覚に自らの在り方を乙女から兵器へと改めて切り替え、視界に映し出された移動方向を示すガイドラインに従って鉄と岩が交じり合う急斜面に突き出た足場へ向けて跳んだ。
・・・
短い浮遊感の後に十数mの落差と距離を飛び越えて重く響いた三隈の着地で近くの斜面が崩れ黒岩が転げ落ちていく。
「攻撃が・・・来ない?」
その岩が砕けながら落ちていく様子を指揮席では無く円形通路にしゃがんだ状態で見た田中は数百m下方にある巨大な岩盤を跳ね橋の様に持ち上げている割れ目の中心、瑠璃色に光る海面にある巨大な鮫の頭にも見える大顎とその上に立っている白髪の深海棲艦が紅いオーラを纏いながら自分達を睨みつけている姿に困惑する。
そんな固定用ロープを結びながらも訝し気な表情を浮かべている田中の様子に三隈の補助についている叢雲が気付き彼が見つめている先をメインモニターに拡大表示させた。
《あれだけ大暴れしただけでなく島を叩き割るなんて事をやっておきながら・・・今になって様子見と言うのは些か不自然ですね》
敵からの攻撃を警戒して姿勢を低くしつつも着地後も足を止める事無く黒い岩石に巨大な革靴でヒビを刻みながら三隈も指揮官に同意する様に自らが纏う淡い障壁の光を頼りに次の目標地点へと向かいつつ訝し気な声を漏らす。
「ああ、だが・・・島風、上空の様子はどうだ?」
「何機か上の方にいるけど近付いてくる飛び方じゃないよ、てーとく」
煤けた金髪を翻す様に自分の足下で重傷者の応急処置をしている指揮官を振り返った島風がついでに空母棲姫が放った歪な球体戦闘機が三隈の艤装が探知できるギリギリの高度で味方の航空機を追い回していると補足情報を付け加える。
モニターに表示される円形のウィンドウに点滅する幾つかの赤い光点、それらの動きは仮に艦上攻撃能力を持った機体だったとしても急降下爆撃を仕掛けてくるにはあまりにもやる気が感じられず、限定海域の外から田中達を今も援護してくれている加賀と赤城の戦闘機を暇潰しに追い回してはいるが、その動きはどこか消極的でこちらの行動を観察している様に周回している様にも見えた。
対空監視からの報告を聞いた事でぬぐい切れない不自然さが増した田中は首を傾げ、そんな指揮官を他所に再び三隈が切り立った崖にしか見えない岩の縁を蹴って次の足場へと跳び移る。
《なっ!? このっ!!》
しかし、指示通りに無数のイバラ枝と凹凸を避けるルートで跳んで着地するはずだった三隈の片脚が岩肌を削りながら空気を踏み、バランスを崩した重巡艦娘の焦る声の直後に艦橋を襲った不規則な揺れに田中達はたまらず怯み。
彼の手で艦橋の床に固定されたばかりの矢矧の口から苦悶の呻きと同時に血色の水玉が飛び散り、手すりを握っていた筈の島風や叢雲まで転びかける突然の衝撃によって先の戦闘で負傷して目の前の軽巡艦娘と同じ様に床に固定されている龍驤と伊168までもを苦し気に呻かせる。
「ぅぅっ・・・くっ!」
深海棲艦に痛めつけられた彼女達の姿と重傷者特有の濁った咳声に「応急処置など無駄、鎮痛剤も気休めにもならない」と言われた様な錯覚を覚え自分の士官服に付いた血の粒が染み込み白い布地を汚していく事を気にする余裕も無く田中は顔を青ざめさせ泣きそうな顔を浮かべ。
だが、すぐに自分を見上げる赤銅色の瞳に気付いた彼は弱音を漏らしかけた口を歯を食いしばって閉じ。
それは物言わぬ視線だけではあったがそれでも自分の命令によって文字通りの瀕死となったと言うのに変わらない信頼を向けてくれていると感じる矢矧へと小さく頷いてから田中はその身体の下に敷いた細長いマット型の緩衝材の固定を確かめてから立つ。
「三隈、何か不調があるのか!?」
《そんな事は、いえ、自分でも気付かないうちに臆病風に吹かれていたのかしら、高い所が苦手なつもりは無かったんですけど少し身体が重いような、・・・言い訳ですわね、ごめんなさい》
コンソールパネルに手をかけて乗り越え指揮席に戻った田中の問いに無数の鋭利な鉄岩が犇めく巨大なおろし金にも見える絶壁に淡く霊力による防御障壁を纏わせた貫き手を咄嗟に突き刺してバランスを崩しかけた身体を支えた三隈は落下を免れた事に小さく溜め息を漏らす。
「いや、構わないむしろ良い判断だった、気にするな」
まだ千数m以上もある危険極まりない岩盤の上を転がり落ちるより何倍もマシだと言ってから田中が視線を向けたコンソールの上、旗艦の状態をリアルタイムで表示する立体映像の三隈が女の子らしく尻餅をつきながらも左手を真横に突き出していた。
(つまり三隈の状態を見誤った
左手が若干だが
「・・・どう言う事だ?」
《提督?》
三隈の立体映像から田中が感じた違和感、それは指揮席のコンソールの風向計に表示されている荒波に狂う海から昇ってくる
「なんで・・・風向きは海面からなのに、三隈の髪は下に引っ張られている?」
真っ二つに折れて左右に持ち上がり真夜中の海にV字でそそり立つ大岩盤の片割れ、周囲から集まりぶつかる風をその急斜面で上昇気流へと変えながら雄々しく海に突き出している大質量。
その中腹から空母棲姫を見下ろした田中の脳裏で矢矧に対する猛攻が嘘だったかのようにこちらをを睨むだけの深海棲艦が今自分達へ何かをやっていると言う根拠がないのにしっくりとくる確信が浮かぶ。
(巨大な顎を持った歪な艤装、破れた黒いセーラー服、ふざけるなと言いたくなるぐらい見覚えのある姿だが、それとは
無視するにはあまりに大きすぎる違和感に急かされメインモニターに表示されたままになっている拡大映像の空母棲姫の紅い視線を睨み返す田中はその紅いオーラを纏った半裸姿が自分の前世で見たゲームの中のモノと似通い過ぎている事に何者かの作為を感じてしまう。
そんな陰謀論じみた考えとは関係なく田中の脳裏にまるで写真をめくる様に幾つもの空母棲姫の姿が代わる代わるに現れ、周囲の動きが遅く感じる程に加速させられた思考の中で前世で見たゲームや本の中で描かれたイラストが今世で実際に目撃した実物へと次々に重ねられていく。
(あの玉は、なんだ?)
そして、田中の脳内で唐突に始まった違和感の正体を見付ける為の間違い探しはある意味では彼の艦隊が件の姫級と戦闘を開始した時から存在していた差異を今更に浮かび上がらせる。
(僕は知らないぞあんなモノ ・・・は?)
黒鉄のロンググローブとブーツがなくなった代わりに艤装へと霊力を送り込む動力ケーブルをしならせ白い肌を晒す空母棲姫が両腕を高く掲げて持っている直径数十mの岩と鉄と結晶が交じり合ったボール状の
それは金属のツタや枝が絡み合ってとぐろを巻く様に編まれた球体は一部が割れており、中身が伽藍洞である事はすぐに分かったのだが田中の眼はその空っぽの球体の割れ目に釘付けになる。
時刻は言うまでも無く星一つ見えない真夜中であるが大岩盤の間に流れ込んできている瑠璃色に光る海やその上に立つ紅い炎にも見える巨大なオーラに包まれた姫級深海棲艦。
そう言う意味では光源には不自由しない状態であるのにその中心にある球体の中に見える陰影すらも塗りつぶした黒一色と言う不自然。
それの存在を認識して
(ッ!?)
唐突に直視させられた痛みを感じる程に強い水晶の輝き、その奥に広がる生命に満ちた海洋かはたまた満天の星空か、と錯覚する程に広大で深淵に通じる空間を埋め尽くす膨大な幾何学模様と無数の文字列が線と点を交差させながら指揮席で硬直した青年の前で取捨選別を始める。
(グッッゥッ!!)
いきなり始まったまるで無秩序に本が散らばる巨大な書庫から目的の一冊を探し出す様に行われていた検索作業は一つの解へと収束し、気付けば田中の視界の端に入り込んでいた三等身の妖精が珍しく険しい顔を浮かべて過去の幻想を収めたアーカイブから呼び出した一つの
「かっは・・・っ!? 予定針路をキャンセル!! 壁の割れ目、岩盤に走れぇ!!」
そして、三隈が岩から岩への着地に失敗しかけてから数えて十秒足らず、鎮守府の中枢に住まう妖精による半強制的な
その直後に旗艦の視界と連動して情報を表示するモニターに描かれていたナビゲーションラインが上書きされ、針路を指示する矢印が真横に聳え立つ黒い岩盤に刻まれている割れ目の一つを指した。
・・・
《はいっ! 了解ですっ!!》
鼓膜を内側から揺らした指揮官の声に宿る切迫感を敏感に感じ取り三隈は疑問の声を挟む事無く急な命令変更に即応し、前傾姿勢で大きく足を踏み出して真夜中の海上にそそり立つ巨大な岩盤に刻まれた無数の割れ目の一つへと駆け出す。
それはまだこの場が空母棲姫の手によって真っ二つに叩き割られ持ち上がる前の歪ながらも確かな地面だった時、巨大な浮島の持ち主である姫級が足下を逃げ回る軽巡艦娘に目がけて放った大量の弾幕によって出来た小さいモノですら十mはある暗闇で底を隠す歪なクレーター、流れ弾によって深く抉られたそ巨大トンネルと言ってしまった方が良い代物。
その先が見えない割れ目へと走る三隈の足下では彼女の革靴が岩肌を踏み割り、一歩ごとに刻まれる足跡を追う様に数十の亀裂が黒鉄と岩石が交じり合った強固な岩塊の内と外に走る。
そして、戦闘形態の艦娘でも屈めば入れるだろう岩盤の裂け目まであと数歩と言うところで三隈が上を走っていた岩がその根元から砕け、まるで筋繊維のように大岩の内部に根を張っていた金属の枝までもが痛々しい金切り音を立てて千切れていく。
《くまりんこ!》
まるで彼女の体重に耐えきれないとでも言う様に砕けて一秒足らずで黒い斜面で擦り下ろされる哀れな落石へと変わるだろう大岩の上で気合の声を上げた三隈が全力で踏み切り、暗闇が待つクレーターに向かって身体を飛び込ませようと小豆色のセーラー服の肩と襟が風を切る。
そんな三隈が跳んだ大岩と徐々に遠ざかる割れ目の距離は目測で十数mはあったが身長16mをこえる戦闘形態の艦娘にとってはそれこそ一跨ぎでこえられる程度の距離のはずだった。
《くっ、この程度でへこたれて、たまるもんですかぁっ!》
だと言うのに黒鉄と岩が交じり合う岩盤に刻まれた横割れの縁に届いたのは指先であり、優れた
《まさか、本当に私の身体、重くなってっ!? くうぅっ!!》
『違う! これは引っ張られているんだ!!』
気付けば急激に身体にかかる重みが何倍にも増していくと言う不可解な状態に戸惑いながらもそれに負けじとド根性を振り絞った乙女は棘枝や凹凸だらけの壁面にぶつかった臙脂色の布地が裂けるのも構わずにギリギリ手が届いた急斜面に開いている亀裂へと這い上がろうとする。
しかし、岩壁の縁で見えない力によって下に向かって引っ張られている三隈は自身の身体を宙に投げ出されない様に指先を岩に食い込ませるほど両手に力を籠めていると言うのに上へよじ登るどころかその場でぶら下がり状態を維持するので精一杯だった。
《また、風を操る力って事かしらっ! 本当に嫌がらせだけはお上手ねっ!!》
丁寧な言葉遣いで敵に対する不満を吐きながら意地でも相手の手の平で踊ってやるものか、と目尻と眉を吊り上げて今にも壁から引きはがされそうになりながら三隈は障壁の光を纏わせた革靴を勢いよく鉄鉱と岩石交じりの壁に叩き付け、装甲の強度頼りの一撃で黒岩にめり込んだ片足のおかげで腕の力だけで身体を支える状態からは何とか脱する。
直後に岩壁へ蹴りを叩き込んだ脚部の
『いや、これは風の力じゃない、何と言うか、そうだな・・・西遊記に登場する
《確か兄弟妖怪の金角銀角が使う瓢箪の事ですわねっ、古典も淑女の嗜みと言いたいところですけどそれって今関係あります!?》
ここではない世界で自分の提督がとある大学で文学を主に教えていた教師だった事を知ってから優先的にそう言った授業を選択して勉強していた三隈だが、こんな時にその知識が役に立ったと喜べるわけも無く悠長に歓談している場合ではないと言外に言う様に珍しく慕っている相手へと声を荒げ。
『今、僕らはその瓢箪の力とほぼ同じモノに襲われていると思ってくれ』
険しく顰められた三隈の表情がその一言で呆気にとられた様な様子を見せ、直角の壁よりマシと言う程度の急こう配にしがみ付いている艦娘は半信半疑と言った様子で広い襟がはためく自身の肩越しに1000m以上離れた海上に巨大な鮫頭の艤装と共に聳え立つ空母棲姫を振り返り見る。
『いや、何と言うか・・・信じられないとは思うが、これはそうとしか言いようが無いわけで』
《提督・・・私、あの方に名前を名乗った覚え無いんですけど?》
『はっぇ、・・・いや、それは発動条件が違うだけじゃ・・・そうか、だからヤツはこちらを睨むだけで、攻撃してこないんじゃない、攻撃出来ないのか!?』
最上型重巡の微妙にズレた返事に戸惑った様な声を漏らした指揮官はそのすぐ後に思考過程を二つ三つ飛ばした敵能力の考察の結論らしい言葉を口に出し、
《あのぉ、提督、くまりんこにも分かる様にお話していただけます?》
『恐らく、あの球体が発生させている力は空母棲姫にも相応の集中力かなにかを要求するって事なのか・・・』
説明を求める三隈を他所に自分の中に出来上がった答えを出来るだけ分かり易く言葉にしようとしているらしい田中の声に少し呆れて溜め息を吐いた重巡艦娘は改めて目測で500mは越えているだろうその巨体を文字通り怒りで燃え上がらせている姫級深海棲艦が鈍い光沢の黒鉄と宝石の原石か何かで造られた歪な球体を両手で掲げる様にして自分へ向けている姿を確認する。
現在地と敵の距離は最も近い部分からでも小さな山の頂上と麓程の高低差があると言うのに相手の常軌を逸した巨大さのせいで手を伸ばせば届きそうだと錯覚を起こしかけている三隈の背中でかつての最上型重巡の艦尾を模した艤装が搭載されている大小六基の機関銃を姫級深海棲艦へと向け。
『なら、それを乱してやればまだ挽回できるって事なんだろ!?』
まるで誰かに確認するかの様な声と共に急斜面にぶら下がっている三隈の両足の左右に装備された二基の20.3cm連装砲が背部艤装の機銃群に少し遅れつつも勢い良く砲塔を半回転させて四門の砲口を眼下の姫級深海棲艦へと砲声が連続し、輝く光を纏った砲弾が紅いオーラに包まれた深海棲艦へと放たれた。
忌々しそうに三隈を睨みつけていた空母棲姫は自分に向かってくる攻撃に合わせて一瞬で身体から溢れる昏い炎の様な霊力から不可視の障壁を成形する。
だが、姫級深海棲艦が展開した半透明の外装甲に着弾する事無く重巡艦娘が放った四発の砲弾は空中で弾け、それぞれが六角形の水晶板を広げ。
その直後に起こったのは疑似的にだが結晶化する程の密度を持った四枚の水晶板が本来あらゆる物質が辿るべき過程をすっ飛ばして分解して素粒子へと昇華され人間だったなら失明を免れないだろう閃光を放ち、妖しい紅と蒼がうねる黒鉄の峡谷を一足早く日の出を知らせる様な輝きで染め上げた。
どれだけ派手な輝きで夜闇を照らそうと所詮は攻撃力を持たない照明弾は空母棲姫に傷一つ損傷を与える効果など無い、しかし、その激しい閃光を目と鼻の先で浴びた白磁の美貌はその怒りに歪んだ表情を怯ませて顔を光源から背けながら腕で紅い瞳を庇う。
『ダメ押しと行かせてもらう、投射障壁の多重展開だ!』
青年の指揮に従い三隈の背部艤装で25mmと13mmの機関銃が賑やかな合唱を奏で、銃口から放たれた無数の銃弾が空中に次々と着弾して小さな六角形を広げ幾重にも重ね上げ、キラキラと輝く半透明の盾の集団は外側から見れば
《・・・流石は三隈の提督ですの》
照明弾による奇襲で怯んだ為か、それとも小障壁の群体によってか、正確な理由は分からないまでも自分の身体にかかっていた岩に指が食い込むほどの重圧が気にならないぐらいに弱まった事を感覚で理解した三隈は自身の指揮官の分析力と対抗法の正確さを小さく褒め称える。
《ちょうど気分は髪の毛で分身を作る孫悟空かしら?》
『だが、これでも長くはもたないし、時間的な余裕もない! 三隈!』
《承知しています、邪魔立てさえなければこの程度の坂ぐらいどうって事ありません! ぁっ!?》
背後で自分を守る空中に固定された小盾の群れが抵抗しつつも奇妙な引力によって鱗の様に引き剥がされ空母棲姫の持つ玉に輝きが墜ちていく様子を横目に三隈は威勢よく返事を返すが、その出鼻をくじく様に歪な鉄筋交じりの岩壁に叩き込んだ靴が鋭利に突き出した岩か何かに引っかかったらしく若干の
『なっ、冗談だろっ!?』
《まぁっ! 私嘘なんか、ちょっと靴が引っかかってるだけで・・・》
『最短距離で飛んだとしても早すぎる!? トマホークだと言うなら尚更あり得ないだろ!!』
焦る気持ちになっていたそんな時に艦橋で響いた穏やかな田中らしくない素っ頓狂な叫びの意図が三隈には分からず、今現在まったく過失がないとは言い切れない心当たりはあるもののそれで自分が揶揄されるのは心外だと少し言い訳気味な呟きを漏らす。
『何かの間違いじゃないのか!?』
しかし、続けて耳の奥で響いた指揮官の悲鳴の様な声でついさっきのセリフが自分に向けられたモノでは無く艦橋の通信システムに送られてきた友軍からの連絡に対するモノだと気付いた三隈は言い募りそうになった言い訳をすぐに口の中に引っ込め、素知らぬ顔で岩に食い込み引っかかって抜けなくなった
岩肌にめり込んだショートブーツの靴紐が持ち主の指示に従い勝手に解けて墨色のハイソックスを履いた足がするりと抜け、多少心もとない感じはするもののそれでも下手な鉄板より強固な光の障壁を纏った足は急斜面に見える凹凸を足場に三隈の身体を支える。
そして、今度こそちゃんと登れそう、と確かな手ごたえを感じた三隈だったのだが、その視界の端を唐突に上から下へ不安定なエンジン音を鳴らしながら両翼に赤い丸が描かれた深緑の戦闘機が通り過ぎた。
何の前触れも無く素通りした友軍機の姿に思わず硬直してしまった三隈がつぶらな瞳を瞬かせ、改めて自分の背を守る密集した半球状の投射障壁の向こうを見ればつい数秒前の光景をリピートする様に巨大な岩盤のさらに上空から墜ちてきた空母赤城の識別シグナルを発している味方機が目の前を通り過ぎ。
完全にコントロールを失い自分の下方へときりもみしながら墜落していった零式艦戦が内部で闇色を蠢かせる球体に吸い込まれて光粒の一つも残らず溶けて消えると言う怪現象を唖然とした顔で見下ろした彼女はふと嫌な予感を胸に疼かせて夜空を見上げる。
《提督・・・赤城さん達ってあんな形の戦闘機なんて持ってましたっけ・・・?》
そんな二枚の大岩盤に挟まれた星一つ見えない暗黒の中で一際目を引いたのは艦娘にとっては馴染み深い霊力を用いた
ただの光点にしか見えないナニカを見上げた重巡の視界が望遠倍率を上げ、目一杯に広げられた瞳が小さな十字尾翼と薄い一対の主翼を乱回転させるそれをハッキリと認識する。
『こんな事、あんまりだ・・・あれの影響を受けるのは艦娘だけじゃなく、同質の霊力を持つ物もだって言うのかっ』
本来なら丸い頭を真っ直ぐ攻撃目標へ向けて飛ぶはずの細長い胴体が航空力学にケンカを売っているかの様な出鱈目な動きをしながらも音速を超えて空気を引き裂き。
三隈の感覚と連動した
蒼く光る海と黒鉄の岩盤の隙間を狙い澄まして墜ちて来た。
・・・
それはアメリカ合衆国海軍が中心となり1972年から1980年にかけて開発が行われ、運用開始から三十年以上経った現在も改良を繰り返し、弾頭、発射方式、想定目標などあらゆる状況を想定して様々なバリエーションが造られてきた高性能誘導弾。
核と言う一発でも使われれば人類を終わらせるとまで言われた兵器を突きつけ合う
そして、今日、銀色に輝く水晶ネジによってマナ粒子を艦娘と同質の霊力へと生成して利用する事を可能とした新型、云わば【対深海棲艦トマホーク】と言える現代兵器の末子は現代科学の悉くを無用の長物と至らしめる高濃度のマナ粒子と空母棲姫の放つ霊力で満ちた
しかし、その軍人達の歓声は直後に艦娘と同じ性質の霊力を利用していた為に怒れる嵐の女神が振るった神器の影響を受けて制御不能となった新型ミサイルの信号によって悲鳴へと変わった。
その場の誰もが「こんな筈では無かった」と頭を抱える。
田中艦隊が作戦開始当初のスケジュールを独断で大幅に短縮し、在ハワイ米軍暫定司令部の予想を遥かに超えた進軍速度をもって限定海域の最深部に到達したのが悪かったのか?
最前線に飛び込んだ艦娘部隊が次々に上げる敵艦撃破の報告を聞いたマナ粒子環境下に対応した新型ミサイルの運用実績を必要としていた暫定司令部の佐官が物言わぬ旧式戦艦が隠し持っていた弾頭へ承認コードを入力してしまった事が間違いだったのか?
鋼鉄の発射管から夜闇を切り裂く様に飛び立ち身の纏う青白い光の力で瑠璃色の侵食を突き抜いたトマホークミサイルの亜種が終末戦争の引き金を引くとまで言われた大量破壊兵器の搭載を前提に製造された事がそもそもの間違いだったのか?
見えない引力に捕まる原因となった
造った時点では主の改修素材として献上する予定の獲物を生きたまま捕らえ保存する為に容器へ刻み込んだ
だが、どれだけ起こってしまった事象に向かって犯人捜しと理由付けを求めようと結局のところ、これに関して言うならば「全ては偶然の重なり合いに過ぎない」と言うありきたりな答えに辿り着く。
そう、瑠璃の海と紅玉の炎が交じり合う黒鉄の岩盤に挟まれた渓谷を
・・・?