艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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今回の一言「名前出せない縛りが辛過ぎる・・・なのです」
 


第百三十六話

 

 数年前の彼女は姉妹と共に外側から鎮守府とそれを取り巻く環境を正す為、かつて同じ海を征く戦友であった仲間達と袂を分かつ事となった。

 

 そして、三人の艦娘は幾つもの不本意と不愉快な困難を乗り越え、奇縁によって世界有数と言っても過言では無い【大塔財団】の異名を持つ巨大企業の後ろ盾を得る事にも成功し、ついには総理大臣を含めた日本政府の上層部を交渉の席へと座らせる。

 しかし、交渉の材料を集める過程は困難を極め非合法な手段にも手を染める事になり、政財界の裏に犇めいていた暗部を知ってしまった三姉妹は有り余るリスクを天秤に掛ける事になり。

 

 いつか全てを終えた時に自分達が帰るべき場所と定めていた戦友達が待つ鎮守府への帰還を諦めた。

 

 その後、淑やかな雰囲気を纏いながら姉妹の中で最も強く理想に燃える熱い心を持った長女は二度と政府と自衛隊に同じ過ちをさせぬと内閣直轄の鎮守府運営に係わる重要部署に己の席を勝ち取り舌戦の世界に身を投じ。

 電子の海(インターネット)での高等戦術を貪るように学び完全に自分のモノとした三女はシステムエンジニアとして【財団】に就職したが金と地位にしがみ付く人間の汚さに嫌気がさして限られた信用できる相手以外とは顔も合わせなくなった。

 

 ともかく良し悪しは別として新しい生き方を自分で見つけた姉と妹を羨ましく思う反面、未だ鎮守府で教鞭を揮う訓練教官(練習巡洋艦)となる筈だった自分のもしも(if)に未練を残していた彼女は鎮守府から逃亡して路頭に迷っていた時に手を差し伸べてくれた恩人にして自分達の身元を保証する後見人の老夫婦から助言を受ける。

 

 私の父さんは数え切れないぐらいの教え子を育て上げて今ある日本の礎を作ったとても凄い先生だったのよ、と今は亡き自らの父親の自慢をするシワだらけの顔に少女の様な笑みを浮かべ懐かしむ妻とその言葉に深く頷き同意する岩の様な貫禄を纏う夫。

 

 その楽しそうに思い出を語る老いてもなお生き生きとした二人の姿は迷いの中にあった艦娘にとって足元を照らしてくれる灯りの様にも見えて。

 

 義母が語る亡くなるその日まで後進の為にあろうとした人物を羨む事は止められず、ならば叶わぬ願いへの代償行為でしかないとしてもやらぬ後悔よりもやりきって悔いようと顔を上げ教師の道という新しい目標を心に決めた艦娘(鹿島)人間の女の子(茅野志麻)としてとある大学の門戸を叩く。

 

 

 そして、それは彼女にとってさらに大きく自らの生き方を変える出会いへと繋がる。

 

 

 新たな切っ掛けは大学入学から数か月経ったある日、姉妹艦である香取から民間人が知るはずの無い秘匿された軍事情報(艦娘に関する知識)をインターネット上に拡散している『要注意人物』を調査して欲しいと頼まれた事だった。

 しかし、その話を聞かされた時点の鹿島は深海棲艦の出現によって否応なく困難な時代を生きる事になる日本の子供達の一助になる為にスパイの真似事などとは一切の縁を切る事を己に誓っており、あまつさえ悪徳の気配も無くただ怪しいと言うだけの一般人を付け狙うなんて後ろめたいだけの仕事などには全く乗り気は無く。

 

 偶然にも自分と同じ大学に在籍していると言う件の要注意人物の情報を聞き流しながら「暇があったら考えてみる」と困り顔を浮かべる香取に内心悪いと思いつつも素っ気無い返事を返しながらノートとペンを手に次の講習で必要な提出物の準備をしていた。

 

 そんな鹿島の手の平が見事にひっくり返ったのは香取からの依頼を聞いてから一週間ほど経ち、冬の足音が聞こえ始め「勉強よりも遊びたい」と普段から言って憚らない様な学生が目に見えて増えだした頃。

 無駄に多いサークル活動のほぼ毎日続くしつこい勧誘を学業への集中を理由にやんわりとながらしっかり断ると言う不本意ながら日課になりかけていた作業を終えて一息ついた渡り廊下での事。

 

 校舎の三階同士を繋ぐ廊下から何気なく見下ろした大学の中庭で潰れたプリンの様な色の頭をした友人と売れない芸人の様な掛け合をしていた地味なメガネをかけた七三分けの青年の姿から鹿島は気付けば目が離せなくなった。

 

 一目見た時には姉妹艦から渡された資料に目を通していたからたまたま見覚えがあっただけと自分に言い聞かせ、それから数日校内で暇さえあればいまいち冴えないメガネ男の姿を探している事に気付いた時には浮足立った周囲の空気に自分でも気付かない内に影響されていたのかと苦笑し。

 さりげなさを装いながら野暮ったい七三分けの髪型ぐらいしか特徴のない大学生の知人に近寄り聞き出した他愛無い情報にすら一喜一憂している自分を自覚するに至って鹿島は今までに経験の無いその感情の正体を確かめる事を決心して姉へと十数日遅れで依頼を了承する旨を伝え。

 

 そして、一年と言う時間を経た今日、ハワイの地で遭遇した深海棲艦の襲来という危機を前に他ならぬ自分とこれからも生きていく(君と一緒に日本へ帰る)為にと泣き喚きながらも立ち向かう事を決めた弱くて強い彼の姿に鹿島は『この人(提督)と出会う事こそが私の運命だったんだ』と改めて確信した。

 

・・・

 

「たった一日なのに、相変わらずと言うか何をどうやったらああなるんだろう」

 

 そう呟いた青年へ小さく頷いた鹿島も彼が見つめている先にある光景に感心と呆れを混ぜた苦笑を向ける。

 

「いや、昨日の昼からだからまだ一日も経っていないのか」

 

 二人が見つめる先にあるのはハワイ諸島におけるアメリカ海軍の最大拠点の一画、真珠湾の軍港区画で制服の種類どころか人種や年齢までごちゃごちゃになっている一団。

 明らかに海軍所属ではないと分かる野戦服を着た軍人、筋肉質な体つきだが軍人と言うよりアスリートに見える中年達、腰は曲がっていないが頭頂部に肌色が広がり深いシワが顔に刻まれた老年も多く、中には十代後半に見える若者の姿もちらほらと見える。

 そんな年齢の上下差が激しい上に質より量を集めた事が素人目にも分かってしまう様な大半が軍属ですらない人々に唯一共通する事は全員がアメリカ国籍である事だけ。

 

「いつの間にかいなくなってたと思ったらさ」

 

 そして、その全員が港に大きな影を落とす戦艦の前で一人の日本人大学生の肩や背中を軽く叩いて短い別れの言葉を残し鋼色の艦上に繋がるタラップを登っていく。

 

「気付いたら基地作業員に混じって手伝いしてたとか、なんの冗談なんだろう」

 

 中学生レベルの英単語も分からないとは本人の言であるがそんな英語力底辺の大学生にだって明らかに物々しい大型タービンの唸りを響かせる戦艦に乗り込んでいく人々からかけられる「good-bye」や「Do your best」の意味ぐらい分かるのだろう。

 いや、分かるからこそタラップに足をかけた米海軍の下士官らしい男性から別れ際に手渡された羽ばたく鷹が刺繍されたキャップを深く被り日本人の青年は動力機関の音色を徐々に高ぶらせていく巨大な戦艦に向かって顔を伏せて肩を震わせていると言うべきだ。

 

「なんて顔してるんだ・・いつもどんな時でも能天気に笑ってられるヤツだろ君は」

 

 離れた場所に立つ青年の背中へと僅かに震える声でそう呟き、ここ数日自らのシンボルとも言える七三分けに髪型を整える暇も手間も惜しんで活動を続けていた青年はボサボサになった頭の下で曇るメガネを外して港に佇む親友が項垂れる姿から目を逸らし、若干乾いた汗の臭いがする服の裾で擦り拭う。

 

「香椎さんが調べてくれた情報が正しいなら私達がやった事は無意味では無い、待っていればきっとアメリカから救援はきっと来る」

 

 最も大きな障害だった深海棲艦が発生させた電波どころか光や空間まで歪ませる大量の粒子(マナ)による不可視の壁も艦娘の姉妹艦同士にだけ通じる超能力(テレパシー)と電子機器への物理的な接続を可能とする異能を借りると言う馬鹿げた方法で乗り越え、今こうしている間にも彼らが記録した被災地の現状(映像)はインターネット上で拡散を続けている。

 それは発信者である彼が考えていた予想を大きく上回り、濁流と化した情報の拡散は世界にその名を高く響かせるアメリカ合衆国ですら止められずつい数十分前にホワイトハウスの報道官が苦渋に満ちた顔で『深海棲艦によるハワイ諸島への大規模侵略』を認めるに至った。

 

「後は少尉達がなんとかしてくれると言ってた」

 

 それを成した二人の民間人に軍事機密の塊である基地の情報処理中枢の使用を許した共犯者であるアメリカ陸軍少尉は引っ切り無しに呼び出しベルを鳴らす本国からの電話を「連絡してくるなと言ったのはあっちなのにな」と鼻で笑いながら鹿島の身体に接続されていた精密機器の取り外しを部下に命じ。

 艦娘による機能正常化を失い再び沈黙した指揮所の中心で深海棲艦と艦娘が砲火を交える戦争を目撃し現実感を失ってズレたメガネを直す余裕も無く尻餅を着いていた青年の肩を褒める様に叩いた一流ラグビーボール選手の様な体格を持った尉官は快活な笑みと共に民間人へと基地からの退避を促した。

 

「あとは安全そうな避難所を見付けて紛れ込めば、それで・・・」

 

 彼らの前で戦艦ミズーリと陸地を繋ぐ最後の出入り口である外付け階段が慣れた手つきの作業員によって外され、縦長の架け橋が下ろされた巨体が重い鎖の音を立てながら海中からその船体に見合った大錨を引き上げていく。

 通信系がまだ不全を抱えているからか、それとも敢えて万感を込め鳴らしたのか、出航を知らせる汽笛が南国の青空に響き軍港に疎らに残る作業員達がそれぞれの被っていた帽子を振り、堂々とエメラルドグリーンの海へと漕ぎ出していく偉大なる船の健闘を願う声を口々に上げる。

 

 やるべき事はやった、もう自分達が成すべき事は此処に無い。

 

 そう自分に言い聞かせようと口を開こうとした青年は自分の親友がタービンの唸りと汽笛が響く中で何かを叫びながら両手をいっぱいに広げて振っている姿に息を詰まらせる。

 再び友人の背から目を背け、身の内に溢れる言葉に出来ない不安に震え始めた彼の手の平が頼るモノを探す様に無為に握っては開かれる様子がメガネレンズの湾曲の中に映り込む。

 

「それで・・・良いんだろうか? 本当にどうしようもないんだろうか?」

 

 彼は自分の思い付きとやらかした大事が他人から正気を疑われる様なモノだった事は理解しているし、その実行のせいで思いもよらぬ事態を引き起こして最前線で深海棲艦と戦っていた艦娘達を危機に陥れかけた事も痛い程に思い知った。

 

 しかし、彼が成した事が全てが悪い方向にだけ働いたわけでは無い。

 

 少なくとも昨日まで半ば見捨てられていたと言っても過言では無い状況だったハワイ諸島の被災者にとって救援部隊の派遣と言う希望が産まれた。

 

 内情はどうあれ原因不明の災害による航路遮断と通信障害を言い訳に強硬な情報統制を行った負い目を帳消しにできる成果を示せなければ大統領を筆頭に米政府高官は国内の世論や野党からだけでなく世界中から非難を浴びる事になる。

 もちろん生存者の一部救出などと言う中途半端な戦果でお茶を濁す事など認められないだろう、何故なら一週間以上も手をこまねいてわざと状況を悪化させる様な事をしておいて国土(ハワイ)を失うなどと言う失態を演じれば現政権の信用と信頼は地の落ち、彼らは米国史上稀に見る無能集団としてその名を刻むことになってしまう。

 

 だから今日からのアメリカ合衆国にとってその国土全体から見れば十分の一にも満たない常夏の島々は最善を尽くして人と物を含めた全て(・・)を奪還しなければならない存在となったはずだ。

 

「でも・・・・・・ミズーリ(・・・・)に、彼らに救援は間に合わないっ」

 

 三日後かそれとも一週間かかるか、それは分からないものの絶対に助けが来ない状態と比べれば天と地ほどに差がある。

 とは言え今日すぐさまアメリカ軍の大部隊が颯爽と駆けつけてくれるなどと言う事は物理的にあり得ないのもまた覆す事の出来ない事実。

 

 そして、人間側の事情など知った事でないとばかりにハワイ沖北東に確認された深海棲艦の大群は海上に瑠璃色の異空間を発生させていた時よりもさらに戦力を増大させており、本国からの救援が来るまで戦う力の無い人々を守る為に壁となる兵器は一つでも多く必要とされた。

 

 だからこそ70年前の大戦を生き延びて幾度も改装を繰り返した老朽艦(ミズーリ)もまた予備役の老人や軍人ですらない若者達を乗せて恐らくは自らの最期となる戦場を目指し出港していく。

 

 その雄姿を見送る当事者であってもアメリカ国民ではない青年。

 

 どこまでいっても旅行客(部外者)でしかない大学生は歯を食いしばり呻き握り込んだ手を凍える様に胸の前で重ねて震える。

 

 そんな激しい葛藤に歪む青年の顔を隣で見つめる鹿島は何も言わずただ寄り添うだけ、その胸の内で進路に迷う若者へ男児として正しい道を教え導くべき、と義務感にも似た疼きが何度も騒めくが彼女はその欲求を敢えて押さえ込む。

 

 今は何も言うべきじゃない、何分だって何時間だってその時が来るのを待つ。

 

 したり顔でこの人を一人前にしたのは自分なんだと自慢したいだけならこの場に立っているのもんですか。

 

 そう自らの最も深い場所へと念を込めた返事を返して鹿島は烏滸がましく彼を無力な守られるだけの存在と思い込み「私が助けてあげる」と恩着せがましい事を言った数日前の自分を思い出して苦笑する。

 

 心配なんてしなくたって大丈夫、だって私の先輩(提督)さんは手を引かれて後ろをついてくるだけの子供じゃないんだ。

 

「鹿島」

「・・・はい」

 

 だから今は心配よりも期待したい、だって私は提督(先輩)さんが自分で見つける進路(答え)を一緒に歩いて行きたいから。

 

「手伝って欲しい、・・・君の力が必要だ」

あはぁっ♪

 

 迷いを振り切る様に空を見上げ何かを決心した青年の横顔を見つめ、他の誰でもない自分を求める提督の言葉(命令)で鹿島は自分の中で今まで止まっていた歯車がしっかりと噛み合い動き始めたかの様な感覚にどうしようもなく持ち上がる口元から吐息(歓喜)が漏れる。

 

・・・はいっ! 鹿島にお任せください、先輩さん!

 

 炎の様に彼の身体から立ち上るオーラの揺らめきに見惚れ、胸の奥から数百人が喝采を上げたかの様な純粋な歓喜に押されて飛び付く様に彼の腕を抱きしめ、感極まり潤んだ瞳を輝かせて鹿島は有り余る期待感にその声を弾ませた。

 

・・・

 

「ねぇ、そのテレビ、入る網(enter net)とか言うのまだ使えないの!?」

 

 まだ造られてからそう時間が経っていないらしい真新しく清潔感がある室内に若干不機嫌そうな声が響き、蛍光灯の光にきらめく見事な金髪のセミロングの持ち主が滑らかにウェーブする前髪を苛立たし気に弄る。

 

「おいおいエンター(enter)じゃない、インター(inter)だぞ」

「は? そんなの大して変わんないでしょっ!」

 

 体つきだけ見れば間違いなく大人の女性であるがどこか幼さが残る童顔のせいかハイスクールガール(女子高生)と言っても通じそうな雰囲気を持った彼女は横から掛けられた若干鼻で笑う様な調子を感じる指摘に眉間にシワを寄せそっぽを向く。

 

「なんだとっ、教えてやったのに礼ぐらい言うべきだ!」

「ふんっ、小さい事で恩着せがましいわね!」

「なにぃっ!」

 

 ガッと四つ足の椅子が勢い良く床を擦る音を立てて鮮やかな青と赤の二色に髪色が分かれているロングヘアを長い尾の様にうねらせながら立ち上った美女は普段からやたらと態度がデカく鼻持ちならないと思っている同僚へと威嚇する様な顰めっ面を向け。

 相手の事が気に入らないと言う意味では全く同じである金髪も頭の上から粗暴な赤青頭に見下ろされると言う不愉快に対して眉を吊り上げ碧眼に剣呑さを込めて睨み合いに応じる。

 

「もぉ・・・うるさい」

 

 背後で今にも取っ組み合いを始めそうな二人組に対してこれ以上ないぐらい鬱陶しそうな呟きを吐いて赤い髪を短いツインテールに結った女性が剥き出しのデスクトップPC用マザーボードに幾つかのケーブルとアタッチメントを押し込む作業を終えて、モニターと映像端子を繋げたいかにもあり合わせのパーツで造られたと思しきコンピューターの電源スイッチを押す。

 

「出来たの?」

「まだ分かんない、今確かめてる」

 

 すると鼻息荒く睨み合っている金色と赤青を他所に白銀色の髪と瞳を持った美女が自作PCの操作を行っている物静かと言うより気怠げな雰囲気を纏った仲間の作業を横から覗き込む。

 

「なんか真っ黒な画面に文字だけね、実習で使ったwindoorsとか言うのと全然ちがうじゃないの」

「それはまだBIOSを調べてるからで、・・・ていうか気が散るし、暇なら後ろの五月蠅いの何とかしてよ」

「あら、ごめんなさいね、でもあの二人の世話を焼くのだけは絶対に嫌だわ」

 

 そんな事するぐらいなら空母の甲板を一人でモップ掛けする方がマシ、と冗談めかした言い様で銀灰色のウィンクする同僚を横目に【51】と記された帽子の下で赤髪はタンッと人差し指でエンターキーを叩く。

 

「ぉっし、動いた、ネットにも繋がってる」

「皆で部品集めた甲斐があったって事ね、なら他の皆が監視の目を誤魔化してくれている内にさっさとやってしまいましょ」

 

 確かな手応えに小さくガッツポーズをした白い指抜きグローブが滑らかな動きでマウスを握り目的のアプリケーションをぼんやりと光るディスプレイに開いて実行させていく。

 

「急かさないで・・・囮のアドレスを挟んで、・・・んで、これで・・・こうっ、よしっ!」

「それにしてもすごい時代になったのね、真空管がレトロ扱いになるわけだわ」

「そのうち電話もそうなるんじゃない? まぁ、・・・どうでも良いけど」

 

 そして、今の世界で使われているメジャーなインターネット検索エンジンの内部コードを引き出し、十人に一人が知っていれば多い方と言われる類のマイナーな電子ツールを組み込んでから偽のIPアドレスを複数経由させたアプリケーションが情報の海へと飛び込んでいく。

 

「おおっ、出来たのか!? でかしたぞ!」

「ちょっとその図体で前に出るんじゃないわよ! 私が見えないでしょ!?」

 

 胸の前で腕を組み深い感心の溜め息が聞こえたと同時に真後ろから詰めかけてきた人間二人分の重みに猫背とテーブルに挟まれた立派な大きさの双球が撓んでストライプ柄とボタンを突っ張らせ、赤髪が口がつぶれたカエルの様な呻き声を漏らしたと同時にディスプレイの向こうで無数の情報の大群が縦スクロールしていく。

 

もぉぉ、重い、五月蠅い、ウザいっ・・・これだから戦艦ってのはっ あれ?」

「その二人を戦艦のスタンダードと思われるのはとても遺憾だけど、どうしたの?」

 

 とてもとても日頃から溜まっているらしい恨みを喉の奥から絞り出したと同時に赤色のツインテールが目の前の画面を見上げてから何度か瞬く。

 

「確か今のハワイって情報が封鎖されてて何が起こってるのかも分からない、だよね?」

「ええ、その筈よ、少なくとも私が教官達から聞き出したのではそう、何らかの大掛かりな作戦が動いてるのは確定だけど」

 

 赤い前髪の下から漏れた誰にと言うわけでもなく呟いた声にその隣で腕を組んだ銀の瞳が瞬き首を傾げながらも同意する。

 

私が(・・)じゃなくて私達だぞ、聞き込みで情報を集めたのはほとんど巡洋艦と駆逐達だし、事務員誑し込んでパーツを集めたのは空母チーム、ついさっきLANの配線を用意したのは私で ・・・ん?」

 

 ここ一週間ほど自分達の教師役である士官や研究者が軍の命令で次々に出かけて行きこの施設に残っているの百数十人のワケアリ生徒とその半分にも満たない施設職員のみ、そんな運営状態で授業や訓練など管理できるわけも無く予定は全て自習扱い。

 もっともそのおかげで監督者の目が減り自由な時間は数倍に増えた事で仲間と協力して外の情報へアクセスを試みるチャンスを得る事が出来たわけだが。

 

「何だよ、偉そうにしてるけど今回お前何もやってないんじゃねぇの?」

「あ”? 言っとくけど壁に穴開けて素手で配線引っ張り出すなんて野蛮人みたいなマネ誇る事じゃないのよ? って言うか貴女のそれがこの部屋を含めた寮の管理を任されてる私の顔に泥を塗る行為だって事分かって言ってる?」

 

 直後に赤髪の上にのしかかっていた黒地に白い星が描かれたネクタイが引っ張られ、赤と青のコントラストと白銀の輝きが剣呑な挑発をぶつけ合い。

 額がくっつきそうな程の距離で睨み合う二人の身体からジリッと焦げる様な音と共に火の粉の様な光粒がわずかに零れる。

 

「ちょっとなんでわざわざ私の前に立つのよ! 見えないって言ってるでしょ!? 私を誰だと思ってるの!? BIG7なのよ!!」

 

 その二人に押し退けられた錨飾りの帽子が両手を振り上げ灰色のケープときらめく金髪を跳ねさせる。

 

「・・・じゃぁ、これって何?」

 

 自分の真後ろで今にも重く鈍いゴングの音が三人分の拳によって鳴らされそうだと言うのにマウスポインタ―を操作する手は止まらず、事前に集めた情報と食い違う外の状況をさらに確かめようと現時点で最もアクセスが集中している動画サイトがクリックされる。

 

『・・・今、ハワイで、私達に起こっている事をより多くの人達に伝えさせてください、そして、可能ならばこれから起こる全てを記録願います』

 

 それはLIVE映像らしく聞こえてきた言葉は途中から、更に少しノイズが混じりで聞き取り難く見覚えの無いどこかのテレビ局のロゴバッチを胸に着けたリポーターの男性が日に焼けた顔を真剣に引き締め。

 その手に持つマイクをまるで指揮棒の様に振って背後に広がる青い海へと向け、彼の仕草に合わせてカメラのレンズがリポーターから海に向かって遠く拡大し、様々な国旗をはためかせて海上に並ぶ軍艦の艦列が映し出される。

 

『私達は声を伝え続けます、最後まで、彼らの防衛戦を無かった事にしない為にも!』

 

 その映像に映る海岸線と海の色に赤い髪の下の瞳が目一杯に見開かれた。

 

「あれ、ハワイの東海岸だ・・・間違い、ない」

 

 その身体になる前、鋼鉄の船であった頃の記憶とぴったり重なる光景にマウスを握る手が震え、後ろで取っ組み合いの喧嘩を始めようとしていた三人組もあまりに大きな驚きのせいでぴたりと動きを止め目を皿の様に見開く。

 そして、その国籍問わず肩を並べる勇壮な艦列の前に前触れ無く幾つかの金色に光り輝く巨大な輪が浮かび上がり、それぞれの内側から光の飛沫を散らし美しい乙女達が現れる。

 

『彼らは諦める事無く私達を守る為に戦おうとしてくれています! ですが・・・ですが、深海棲艦は途轍もない大群であり、勝利する事はっ、難しいと言う他にありません』

 

 深海棲艦とは私達の敵の名前の筈と赤髪は口の中で呻く、その名と脅威は教官達から耳にタコができるぐらい聞かされ、だからこそ自分達はソイツ等を叩きのめし祖国の誇りを取り戻す為に飽きるほど訓練を繰り返しているのではなかったか?

 

『ですがっ! 私達はハワイの命運を彼らに、そして、日本の艦娘に託します! そして、彼女達がその命を懸けて救援が来るまでの時間を稼いでくれると言うなら最後の瞬間まで我々はその勇気の目撃者であらねばならないと考えます!!』

 

 リポーター達が立っている高台らしい場所から一望する戦場に向かって艦隊、その先頭に立ちサイドテールに結った黒髪をたなびかせる空母の後ろ姿を画面ごしに見詰める口元と手元から微かに軋む音がする。

 

『ですからっ! この放送を見ている全ての人に、より多くの人にお願いします! 記録を! あの勇気ある軍人達の存在がなかった事にされない為により多くの記録を残してください!!

 

 映像の再生と同時に調べれば調べるだけここ二、三日でとんでもない急転直下が施設の外で巻き起こっている事が分かり、数え切れない自治体でハワイ諸島の救援を求め市民達が星条旗を掲げて議会に詰めかけ、人々の行動が暴力的な流れに変わる事を恐れたホワイトハウスが全国放送で今回の件に全力で対応する事を約束したと言う。

 

 そんな事が起こっていたと言うのに自分達は何一つ知らされず安全極まる蚊帳の外(箱庭の中)に置かれていた。

 

「何それ・・・」

 

 その事実でピシッと事務室から拝借してきているマウスにヒビが走る。

 

 オマケについ三時間程前からは発信源が特定できない同時多発的に彼女達が見ている放送とほとんど同じ内容が異なるプロアマ問わずビルの屋上から、避難所の中心から、放送スタジオから、玉石入り交じり幾つものカメラが撮った映像がネットの海へ放出され続け世界中の人々を煽っている。

 

「なによ、それっ!!」

 

 理解と同時に頭の中身が沸騰したと思う程の熱に満たされた彼女の心の声に呼応して何が外で起こっているかを知った妹達もまた広い施設のあちこちで長女と同じ様に燃えるような気炎を体中から溢れさせて近くにいた施設職員を狼狽えさせる。

 

 あそこはアメリカだ

 

 私達が護るべき島々(ハワイ)

 

 なのになんで彼らは私達じゃなく

 

 よりにもよってあの子達(日本の艦娘)に頼ろうとしているの!?

 

「落ち着きなさい、アトランタ」

「落ち着けですって? これが落ち着いていられ、・・・っ!?」

 

 普段はあらゆる事に対して一歩引いた態度でいる軽巡の肩に黒い手袋に包まれた手が置かれ、炎の様なオーラを立ち上らせ勢い良く振り返ったツインテールは自分の肩を掴む戦艦がその瞳の奥で自分よりも遥かに熱量の高い青炎を燃やしている事に気付いて怯む。

 

「ワシントン、サウスダコタ、姉妹に連絡しなさい・・・プランBよ」

「おお! ・・・インディ聞こえてるか? 近くにサラ達もいるならそのまま伝えろ、今から基地司令の首を引っ捕まえるぞ!」

「なら私は部屋の外で見張してる子達に伝えてくるからアナタ達、勝手に砲撃戦なんて始めるんじゃないわよ? ・・・ノース、ええ、そう、悪い方よ」

 

 自分と違って取り乱す事無く次の作戦へとスムーズに移行していく三人の戦艦の姿に呆気に取られながらも乱れた息を整え、ついさっきまで子供みたいな喧嘩をしてたくせに、と恨めし気な愚痴を漏らしプランBでも情報収集を担当する事になる軽巡洋艦はキーボードへと手を伸ばした。

 

 ハワイで行われる因縁の相手との実戦演習で盛大な勝利を以て外の世界に自分達の存在を知らしめられるはずだった待望のイベントを取り上げられてから既に二週間以上経っている。

 駆逐艦達からシスターと慕われ大型艦にも一目置かれる温厚な正規空母ですら今回の戦艦達が中心になって企てた明らかに軍規を逸した行為に全面的に協力するぐらいに仲間内に広がる現代の軍への不信感と目覚めてから今も続く軟禁生活へのフラストレーションは尋常なモノでは無く。

 

 一度着火すれば原因を焼き尽くすまで消える事はないだろう。

 

 そして、それを理解した上で彼女は自らが目撃した一部始終を十人の妹達の心へと送り届け、そこからさらに周囲の仲間へと現在行われている侵略行為が伝わる。

 

 彼女達にとって重要な事はたった一つ。

 

 自分達が祖国アメリカを守護する軍艦として建造された(生まれた)と言う事実のみだった。

 





「また派手な事になったなメガネの提督くん・・・leg、足が震えているぞ?」
「は、ははっ・・・多分今日の事は一生後悔する事になだろうな、と思ったらですね」
「ハッハッハッ! 彼女と一緒に軍人を脅した男のセリフとは思えない」
「あの時は自分でもどうかしてたんですよ」

「しかし、まさか「14cm砲を撃たれたくなかったら」なんてセリフで脅される日が来るなんて想像もしていなかった」

「その・・・私が言うのも変なんですけど少尉は良かったんですか?」
「Um-hum・・・多分、私も今日の事を一生後悔するだろうな、どう取り繕っても裁判で有罪を避けられない」
「・・・すみません」

「そうとも我々は明日から後悔する・・・I'm sure it will last for a long time」
「へ?」
「さて、そろそろ仕事に戻らないといけないようだ・・・ァ~、in Japan・・・ウマ蹴られて死にたくない、だからな」
「はい?」
「HAHAHA! 失礼するよ提督くんと巡洋艦のお嬢さん」

「なんて言うか・・・立派な人だ、最近どうやっても敵わない人ばかり会ってる気がするよ」
「でも、私にとっては先輩さんが一番です」
「・・・またエンコードが終わる、香椎さんに送信しよう」
「うふふっ♪ 先輩さんたら赤くなって可愛い♪」

「と・こ・ろ・で、先輩さんが私の装備(・・)を知ってた理由は教えてくれないんですか?」
「うん・・・全部終わったら白状するよ」
「はいっ! 楽しみにしておきますね♪」
 
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