艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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大きく振りかぶられた袖が風を切る音と共に裂帛の気合の声が交差する。

殺気の宿る鋭い視線が僅か数秒でお互いの手を読み合い。

振り抜かれる間にも敵の弱点を穿たんと指先が目まぐるしく変幻する。

二人の戦乙女の意地が見えない力となって円形に広がり風を巻き起こす。




そして、突き合わされたお互いの手は「グー」と「チョキ」であった。




第百三十九話

 時はハワイ上空を流れ星が走った瞬間から数十時間遡る。

 

 場所は日本から見て南東に位置すると言う事以外の情報を秘匿されているつい最近(・・・・)隆起した岩礁地帯。

 

 そして、そこで発見されたとある沈没船の事を少しだけ語ろう。

 

・・・

 

 その艦の名は【USS Iowa BB-61】、この世界においても西暦1940年にニューヨーク海軍造船所にて建造が開始され二年後の1942年の2月に進水した古い時代の軍艦。

 

 第二次世界大戦中に建造された当時の最新鋭艦は幾度の戦いを経験し、何度も改修を受け、予備役と再就役を繰り返し、船として間違いなく長寿と言える60年もの時を乗り越えてきた。

 

 だが、加速度的に連続した科学技術の革新と海軍が空母運用偏重へと舵を切った事によって【戦艦】と言う艦種そのものが必要とされなくなり、彼女の後に控えていた建造計画が中止された事で後継が造られず四隻のアイオワ級戦艦は今日ではアメリカ海軍史における最後の戦艦となった。

 

 そして、アイオワ級一番艦であるアイオワは戦艦の代名詞たる大口径連装砲を閉栓され、弾薬を抜かれた形だけの武装を残され、戦中と戦後を合わせ授与された数々の勲章を艦内に飾り、建造から66年を迎えた2006年をもって姉妹達と同じく海上博物館へと転身する事となる。

 

 何事も無ければ(・・・・・・・)激動の時代を乗り越えてきた逞しい軍艦はそのまま良くも悪くも目まぐるしい変化と成長を続ける祖国(USA)を見守り、年老いたかつての乗組員達が子や孫を連れて会いに来てくれるのを楽しみにしながら何十年後かに訪れる自身の終わりを待っていただろう。

 

 

 しかし、この世界(・・・・)において前世代の米海軍において力の象徴と呼ばれた栄誉ある軍艦の艦歴はアメリカ合衆国においては誰一人として想像していなかった形で終わりを迎える事になる。

 

 

 2008年に突如出現した深海棲艦とそれに伴う海上安全保障の崩壊、海の底から現れた人類に敵対的な怪物によって発生した被害と損失は大国アメリカ合衆国に大きな衝撃を与え。

 翌年、紆余曲折あったが要約するならば1tでも多く積載量を増やしたいと考えた政府と軍によってアイオワ級戦艦は退役を取り消され、国外の在外邦人と資本回収を目的とした大規模輸送を指揮する旗艦として艦列に並ぶ。

 

 実際はその旗艦として役目も言ってしまえば名前だけの名誉職であり一つの時代を築いた栄誉ある老兵の名を穢す事無く守る為に付けられた形だけの称号でしかなかった。

 

 けれど、そんな人間の事情など深海棲艦にとっては知った事では無かったのだろう。

 

 狙われた理由は単純に他の船より船体が大きく敵にとって狙い易かったからだろうか?

 もしかしたら僚艦を逃がす為敢えて艦長が独断を下して囮となったのかもしれない。

 それとも単純に海上博物館からの復帰後から各所で発生していた不調によって艦列から落伍したからか?

 ともすれば、戦艦(彼女)自身が艦隊の足手まといと言うかつての栄光を穢す行為を嫌って潔く波間に消える事を望んだのかもしれない。

 

 尤もなんでそんな事になってしまったかなど今更の事でしかないし、少なくともそれを知る事が出来た人間(・・)は一人たりとも陸には帰ってこなかった。

 

 

 最早、この世界において彼女が深海棲艦によって沈められたと言う事実を覆す事など誰にも出来ない。

 

・・・

 

『まぁ、確かに元々その予定はあるわけだし、技術的にも可能なんだけどね』

 

『・・・はてさて、どう説明すれば良いのか』

 

『まぁ、聞いて欲しい、まずね僕らがマナ粒子と呼んでいる存在にも実は普通の物質と同じ様に気体、液体、個体の状態があるんだ』

 

『大気中に漂う光粒に見えるアレが気体とするなら海水や生物内に混じり込んだ状態のモノ、つまり液体状態のマナを僕らは霊力と呼んでいるわけだ』

 

『そして、重要なのは霊核の形成にはマナ粒子のみが結合した純粋な結晶、固体(・・)が必要になると言う事なんだ』

 

『もちろん人の手で作る事は出来るし、そうやって艦娘は生まれて来た・・・ただね、今の鎮守府にはその結晶が無いんだ、いや、無いと言ってしまうと語弊があるんだけど』

 

『君も話だけは聞いているんじゃないかな? 他国へと帰還した艦娘を運用する為の施設、外国版の鎮守府の計画だよ』

 

『流石に一度に切り取り過ぎると中枢機構本体に障害が出るからやめて欲しかったんだけど、国からの命令と言われてしまうとねぇ』

 

『うん、なるほど、なかなか丁度良い例えだ、確かに言ってしまえば親木からの株分けみたいなものかな』

 

『だからそう言うわけで現在の中枢機構には鎮守府を維持するのに必要な分の結晶しか残っていないんだ、協力できなくて本当にすまないと思って・・・え?』

 

『いやいや、流石に山ほど必要ってわけじゃないよ、あ~えっと、どう言えば良いんだこれは・・・うん、まず霊核の基本構造に関して・・・』

 

『人工物に時間経過と共に圧縮された残留思念などの情報を統合し・・・』

『マナ粒子の持つ精神感応特性によって点と点を結び付けニューロンに近い・・・・』

『これを所謂、付喪神に準えて刀堂先生が提唱した・・・』

『それによって構築される疑似的な精神活動を生物脳に転写・・・』

 

『・・・であるからして、魂の器として最低限の容量さえあれば、さっき説明した様に艦娘自身の成長に伴って霊核の構造はより複雑化し強固な結晶体に・・・は?』

 

『あっ、すまない、つい昔からのクセみたいなものでね・・・ははっ』

 

『いや、先生にも「君は本当に研究の事になると喋り出したら止まらないな」と呆れられていたよ』

 

『とまぁ、さっきの話を要約するとマナが粒子へと分解せずに結晶状態を維持できる質量があれば理論上は可能だよ、周囲の環境にもよるけれど大体だけど21gといったところかな』

 

『うん、どんなに小さくても時間を掛けさえすれば情報集合である船御霊は圧縮できるし、素材にした結晶を呼び水にしてマナ粒子を集めて成長させて容量そのものを大きくする事も出来る』

 

『ちなみに刀堂先生は幾つもの太古の遺物を掻き集めて粒子の抽出にも数年かけてやっと50gの結晶を合成出来たそうだよ、そして、その小さな結晶が一番初めの霊核だけでなく中枢機構すらをも生み出した』

 

『現在も鎮守府の艦娘部隊に粒子タンクの実験名目で海上のマナを集めてもらって中枢機構へ注入して結晶化の促進はさせている、それでも予定外の事に使える余剰分は無いんだ』

 

『え? メールを送った? 僕のアドレスに? 何も聞かずに見て欲しい?』

 

『そんな事言われても君ねぇ、一応ココは機密部署だよ? この電話だってかなりグレーゾーンに・・・』

 

『はぁあっ!?』

 

『こ、コレ、本当なのか! どう言う事!? こんな事あり得ないっ!! 現在の地球環境で自然発生する筈なんかないのに!?』

 

『北海道だね!! すぐに向かう手続きをする、サンプルの採取を! 何だい!? 待てるわけがっ、こんな世紀の発見を・・・ん?』

 

『・・・持っていく? 余った分は研究室に? ・・・うん、うむ・・・なるほど、なぁるほどぉ、ぁはぁ・・・♪』

 

『いいね、実に良い! 最っ高じゃないかっ、中村君っ!!』

 

『ごほんっ・・・いや気にしないでくれ明石くん、少し興奮してしまっただけだよ、驚かせてしまってすまない』

 

『じゃぁ【那岐那美(なぎなみ)】が必要か、うん、あれには最新型のアストラルテザーが装備されている、それで合流は・・・』

 

・・・

 

 ザァザァ、と波が岩礁を撫でる様に白波を散らす様子を見下ろす錆び付いた戦艦が突然に向けられた星明かりを掻き消す程に強力なサーチライトによって照らし出され。

 静穏性に優れた最新型の推進機関によって海面下の岩をスイスイと避け白く滑らかな曲線を描く船体が太陽光に負けず劣らずの光度を放つライトの反射光で浮かび上がる。

 

 座礁しないギリギリの位置で錨を下ろした白い船の側面に記された【那岐那美】の文字を撫でて鮮やかなピンク色の髪を持った艦娘が隣にいる海洋調査船と同じ高さの目線で半身を波の下に沈めている軍艦を見詰め。

 そして、あと数分も経てば待ち人が来るとの連絡に頷きを返し明石型工作艦を原型に持つ艦娘は海洋調査船の甲板で赤く光る誘導棒を振って研究員達が指し示すサーチライトの光の下で銀色に煌めく錨を手に取りケーブルを引き延ばす。

 

 波が岩を撫でる音だけの夜の海に鋼靴が岩を踏む硬い音がどこか物悲しい響きを広げ、黒岩の岩礁へと上陸した明石は【那岐那美】と繋がった銀錨を手に夜の海の中で沈黙している戦艦を前に立ち止まり。

 

 海風に泳ぐセーラー服の襟とリボンを直してから両手を身体に揃え、神妙な顔で頭を下げて目を閉じる。

 

 誰が為の黙祷か、砲火を交えた事は無くともかつての敵艦にして今は波間に朽ち果てた船へと工作艦が何を想うのか他人が知る事など出来ない、ただ慮る事は出来るからこそ調査船に乗る乗員達も海に身を横たえ眠っている戦艦へと頭を下げ黙祷を捧げるのだろう。

 

 そして、【那岐那美】のライトに見守られ沈黙をもって向かい合う彼女達が立つ岩礁海域へと雪の様に白い髪とアイヌ風民族衣装を向かい風に揺らす輸送艦娘がコンテナを大事そうに抱えながら現れた。

 

・・・

 

 財団肝入りの最新型海洋調査船が織り成す重低音の目覚ましで起こされ、最上甲板に出て欠伸をすれば吹き抜けた潮風で口の中がしょっぱくなる。

 

「ふぁぁ、ねむっ・・・んがっ!」

 

 後ろについてきているのが誰だったかを失念してつい人目のあるところで油断してしまった直後にそれを耳聡く聞いていたチビッ子が挨拶代わりのローキックを俺の脹脛へと命中させ。

 欠伸と痛みで涙がにじむ目をこすりながら朝っぱらから上官に暴力を振るった犯人に目を向ければ悪びれるどころかこっちを非難する様にツンツンした視線が返される。

 

 まったく可愛いのは見た目だけなのは出会った頃から全然変わらな・・・くはないな、少なくとも他人の目がない所では。

 

 最近は極たまに可愛げのあるところを見せるようになったクソ生意気な朝潮型()に向かって小さく鼻を鳴らしてから頭二つ分下に見える白灰色の髪をわしゃわしゃとわざと乱す様に撫で回す。

 すると反撃のつもりか俺の腕を両手で掴んで押さえながらゲシゲシと下段キックを繰り出してくるが、今ではこんなものは爪を剥き出しにしてじゃれてくる猫の様なモノだと割り切れるようになった。

 痛いものは痛いが、ぶっちゃけ霞に限らず艦娘が本気で人間を蹴り飛ばしたら交通事故並みの大怪我で病院送りになるのだからアザにすらならないローキック(構ってコール)など手加減に手加減を重ねたソフトタッチと言っても過言では無い。

 それに爪を剥き出しにして飛び掛かってくる猫よりゴロゴロと大人しく撫でられ喉を鳴らす猫の方がよっぽど有り難いのだが、それを正直に霞に言ったところで「アンタの好き嫌いなんか知らないわよ」と言われて終わるだろう。

 

 ・・・ただやっぱり痛いものは痛い、だから全力でついさっき整えたばかりの灰色髪からアンテナ型髪飾りを奪い取ってぐちゃくちゃにしてやる。

 

 そして、彼女の頭を片手でにぎにぎしながら押さえてその上で俺が戦利品をチラつかせた事で早朝の不毛な争いは決着し、いつにも増してご機嫌斜めになった(ご満足された)らしい意地っ張りが俺を睨み上げ口をへの字にする。

 その目の前でこれ見よがしに「どうぞお嬢様」と紳士的な態度で髪飾りを差し出せば「フンッ」と一息鼻を鳴らし奪う様にアンテナを取ったお嬢様は肩を怒らせて離れていった。

 

「朝っぱらからなにイチャついてんのよ」

「からかうな、さっきのがそう見えるならメガネを買うべきだぞ」

 

 駆逐艦娘が歩いて行った方から入れ違う様に現れたかと思えば我が艦隊の秘書艦様(五十鈴)はそう言って意味あり気にニヤリと笑う。

 

「お生憎、両目とも5.0よ・・・あれだけ緩んだ顔してたら嫌でも分かるわ」

「・・・顔、緩んでるか?」

「あなたの方じゃないわよ」

 

 実際ちょっとだけ楽しかった霞との決闘で我ながら緊張感が抜けてしまっていたらしく自分の顔を引き締め直すつもりで頬を手で揉んだら何故か五十鈴は呆れ半分の苦笑をこちらに向け、彼女が持ってきたファイルで肩をポンと叩かれる。

 相変わらず仕事が早い五十鈴からファイルを受け取り、数枚のプリンタ用紙の中から今一番気になっていた水上機母艦の名前と作戦参加を了承する本人のサインがある事を確認してホッと一息吐く。

 

「また新しい子に手を出すつもり?」

「・・・今回だけの助っ人だ、作戦の説明はしただろ」

 

 今回の作戦を立てる際に自分の思い付きが正しいかどうかを確かめる為に北海道の寂れた港からココまでの航路の最中に艦娘の艦橋だけ現れる妖精(猫吊るし)に幾つかの質問した。

 そして、その質問に対する答えは大凡だが俺が望んでいた通りで艦娘を造り出し今も影ながら見守っている管理者(刀堂博士)から保証がもらえたワケなんだが。

 

「あら、あの与太話がホントなら優良物件じゃない、いつも艦隊の攻撃力は高ければ高いほど良いって言ってるのはあなたでしょ?」

「流石に地球を物理的(・・・)に滅ぼせる艦娘は守備範囲外だ」

 

 まさか二式大艇ライダーだけでなく超重力爆弾の方まで再現の準備がしてあるとか言われるとは思っておらず噴飯モノだったわけで、まったくあの可愛いらしい妖精のふりをした愉快犯は些細な冗談すらも悪ふざけで実現するから始末に負えないと改めて思い知る。

 それに言っちゃ悪いが今回の戦いで重要なのは秋津洲本人ではなく彼女が搭載している二式大艇の方であってそもそも戦闘面では(こっちの世界でも)可愛いだけが取り柄と言われている水上機母艦に期待は一切していない。

 

「司令官、おはようございます! 吹雪です!」

「おう、おはよう・・・それもう乾いたのか?」

 

 そんなふうに五十鈴から受け取ったファイルの中を流し読みしながら那岐那美の後部デッキへと向かっていると掠れた赤白の縞模様の布を抱えた吹雪を見付け、いつも朝に会えば必ず自分の名前込みで元気に(自分が【吹雪】である事を強調する)挨拶をしてくる駆逐艦娘の姿につい笑ってしまう。

 

「はいっ、任務完了しました!」

 

 元気良く敬礼する初期艦を労い頷いてから近くを見回せば吹雪だけでなくついさっき足早に離れていった霞を含めた俺の指揮下にいる艦娘達が全員集まっている。

 今は研究室組の進捗具合を待つだけで特にやる事がない、だから皆には下手な旅客船より福利厚生の整った【那岐那美】での自由時間を与えていたが、やはりと言うかなんと言うか自分達の魂である霊核がどう言う風に造られるのか興味があるらしい。

 

 高雄、大鳳、不知火、浜風の真面目組はもちろんだが退屈を嫌がって近くで磯遊びでもやってると思っていた時津風まで大人しく適当な段差に腰かけて足をプラプラさせ、他の艦娘も特に騒ぐ事無く研究員達と明石の作業を見守っている。

 何故か広い甲板の真ん中をLIVE会場と勘違いしているかの様な様子で大きな身振りと手振りを加えたリズミカルなダンスをキラキラ光りながら踊っている那珂と阿賀野の二人以外は、だが。

 

「って・・・なんでアイツら踊ってんだ?」

 

 つい漏れた呟きにほぼ全員が振り返り、何言ってんだお前のせいだろ、とでも言いた気な視線がツッコミをいれてきたが俺は悪くないだろ。

 バレエとかブレイクダンスや某特撮アクションなんかを参考にしてこんな攻撃の回避方法があるぞとか意味深かつ適当で曖昧な言い方でやってみろとは言ったが少なくともあんな本格的なアイドル活動をやれなんて一言も言ってない。

 

「それにしてもまだ終わって無いのか?」

 

 とりあえず今はあの二人の事は棚上げして考えない事にする。

 

「さっき研究室の人に聞いたら思った通りの反応があの艦から返って来ないらしいですよ」

 

 付喪神、船御霊、時間と共に船に刻まれた記憶、物質内に閉じ込められた情報の連続体、言葉にするとなんとも胡散臭い上に本当にそんなモノの存在を科学的に捉える事が出来るのか未だに疑問だが、吹雪達の指揮官となってからそのオカルトに頼り切っている事を思い出して肩を竦めた。

 

「そうか・・・まぁ、別に起きたくないって言うなら眠ったままでも良いんだけどな」

「司令官?」

 

 不意に朽ちた戦艦がいる岩礁の方から吹き抜けてきた強い潮風が低い遠吠えの様な鳴き声を運んでくる。

 造られた時には既にその艦種は時代に必要とされなくなって、なのに隠居していたら適当な数合わせで平和な港から戦場に引っ張り出されて怪物に沈められた。

 

「それならそれで、お前はお前の中にある識別コードを渡してくれるだけで良いんだ、そしたら後は俺達が全部何とかする」

 

 主任が言う様に本当にあの鉄の塊が人間と共にあった頃の事を記憶しているなら、勝手な都合で振り回して平和な港ではなく冷たい海に自分が沈む原因を作った人間が安らかに眠った後にまでちょっかいを掛けてくる事に対して思うところもあるだろう。

 

「ハワイにいるお前の姉妹艦だってついで(・・・)に助けてといてやるさ」

 

 そして、何度も聞こえてくるスクラップの間を通り抜けて響く物悲しい音が船が泣いている様に聞こえて、感傷的になってしまったのか俺はつい皮肉気にそんな益体も無い事を呟いた。

 

 ―――ゴオォン!!

 

 瞬間、腹に響くような低く鈍い轟音が【那岐那美】を揺らす。

 

「な、なんだ!?」

「司令官! 大丈夫ですか!?」

 

 いきなり襲い掛かって来た衝撃にタタラを踏んだ所を吹雪に支えられ五十鈴に襟首を引っ張り上げられ何とか尻餅を着く事だけは避けられたがまだ揺れている様な感じがする海洋調査船の甲板は途端に騒がしくなり、主任が唾を飛ばすような勢いで他の研究員に指示を飛ばし何かを叫ぶ。

 内圧がどうとか、異常臨界とか、破裂が何とか、見れば岩礁にいる明石の方も突然に紫電を纏い鋼の軋む音を上げ始めた戦艦に驚いて海の方へと後退りしていた。

 

「司令官っ、下がってください!!」

 

 ついさっきまで穏やかにも感じていた空気が一変した事に付いて行けず目を白黒させていた俺を庇う様に前に出た吹雪が後部デッキの一点、アストラルテザーの基部で複雑な装置に取り付いている主任達と内側から真っ赤に赤熱しているのが分かる円筒へと向けられる。

 人間には分からない感覚で何かを察したのか吹雪に何か目配せした五十鈴がスプリンター(短距離走選手)の様な加速で駆け出し、他のメンバーも驚くほどの反射神経で五十鈴に続きアストラルテザーに繋げられた艦娘用のクレイドル(治療槽)に近い研究員達を装置から引っぺがして離れていく。

 

「しかし、データが!!」

 

 たった数十秒で内側から二倍以上に膨れ上がり今にも破裂しそうな円柱がその変形した隙間から激しく蒸気を噴き出し、その真横で計器類にしがみ付いていた主任が悲鳴の様な声を上げて不知火に襟首を掴まれ無理矢理に甲板を引きずられてくる。

 ぎりぎりクレイドルが破裂する寸前に研究員達を回収した艦娘が横並びに両手を突き出して身体を光らせ障壁を展開し、破裂音が轟き円筒のカプセルの内側から炎が上がり空気が歪んで見えるレベルの霊力の波がアストラルテザーの根元から溢れ出す。

 

 船内の異常を検知した【那岐那美】が非常サイレンを鳴り響かせ、強烈な霊力によるジャミングから船内機能を守る為の自動システムが電源系を赤く点灯させた。

 

「ああ、そんな・・・何が間違ってたんだ、基本設計は先生が造ったものと同じなのにっ!」

 

 俺達の盾になった不知火に勢い良く放り投げられて転がってきた主任と未だに炎を噴き出している壊れた窯の様な装置を交互に見る事しか出来ずにいた俺の耳にふと何かが焦げる音を捉える。

 

「おいおいおいおい・・・霊核を生成するだけって話だったろ」

 

 ジュウッ、と一歩、また一歩、真新しい甲板に黒い焼き印が刻まれ、壊れたクレイドルの中から燃え盛る炎の塊が不規則な足跡を残しながらこちらへと近付いてくる。

 うねる炎の中に人の様な形が見えてたかと思えば今にも床に崩れて溶け消えそうな火の玉になりまた人の形を取り戻そうとする。

 そんな動きを繰り返し何かを探す様に歩く不定形の火の塊を前にその場に居た艦娘全員が霊力の光を溜め込んだ両手を突き出して臨戦態勢を取ると何かを感じ取ったのか炎が立ち止まりその場で揺らめく。

 

「まるでバーナーじゃねえか、いや、バーナーの火力で建造? ははっ、ならここは工廠ってわけだ」

「何を言って・・・工廠、バーナーって? まさかあれが司令官が前に言ってた高速建造って事なんですか!?」

 

 そして、緊迫と混乱が混在する周囲を他所に俺の目はその火の塊の足下で陽炎の様に揺れる小人の影がちょこまかと走り回っている姿へと引き寄せられた。

 

「えっ、駄目です司令官っ!? あぶないから下がって!!」

 

 その小人が俺に向かって早くこっちに来いとでも言う様に飛び跳ね、艦娘の艦橋に居る時よりもさらに曖昧で直感的なそれに従って吹雪の手から畳まれた十三本の紅白線と黄色い蛇が描かれた旗(アメリカ海軍所属を示す国籍旗)を取って自分でも驚くほどスルリと五十鈴達の間をすり抜ける。

 虚を突かれて慌てる彼女達の声を背に俺が一歩近づくとそれに反応したのか炎がまた一歩焦げた足跡を作り、泡を食った様に俺を止めようと後ろから手を伸ばしてきた吹雪へと振り返らず「大丈夫」の一言と片手を突き出して制止し、さらに人の形をした炎へ一歩近づく。

 

「いきなりこんな事を言われても意味なんか分からないだろう」

 

 そのまま手を伸ばせば届く距離で立ち止まるとかなり人間の形に近づいた炎がこちらへと腕に見える部分を伸ばしてくる。

 

「今、ハワイが深海棲艦の侵略を受けている」

 

 肌が高熱に炙られジリッと前髪が焦げる音に本能的な恐怖が騒めき体中に冷や汗が滲み垂れる、だがハワイか深海棲艦かどちらかに反応したのかは分からないがそれを聞いたと同時に炎は静止して俺に触れる事は無く。

 見ているだけで目を焼かれるかと思える程の激しい炎への怖れで背けたくなる顔を上げ真っ直ぐ向かい合えばそれ(彼女)はまるでこちらの話を聞いているかの様に頭に見える部分を横に傾けていた。

 

「俺達は仲間を救けに行かなきゃならない」

 

 虫の知らせと同レベルの直感に従って、霊核生成前の調査の際に朽ちた戦艦の内で発見された赤と白に彩られ掠れた文字で「DONT TREAD ON ME(我々を踏みつけるな)」と記された旗を。

 恐らくは深海棲艦の攻撃によって海に沈む寸前、名も知らぬアメリカ軍人の手によって艦中へとしまわれたアメリカ合衆国の自由と権利を守る決意が込められた軍旗を、両手を目一杯に広げて開く。

 

「どんな手を使ってでも、だ!」

 

 目の前で揺れる旗を前に立ち尽くした炎の身体が不意に内側からうねり渦巻く、今にも燃え尽き崩れ落ちそうだった赤色が新しい燃料を入れられた様に爆発的に光度を上げ、背後で吹雪達や主任が怯む声を上げる。

 

 それは一番近くにいた俺も例外では無く堪らず旗を握った手を翳して顔を庇い、何とか薄目を開けて見た布の向こうで形を定めず揺らいでいた炎が青白く染まっていく程に人の形へと整えられて眩い輝きを放つ青白い光が女性の姿へと成っていく。

 短い様にも長かったようにも感じる時間が過ぎて布越しにでも目蓋の裏にまで焼き付きそうな閃光が収まり、チカチカと残像が明滅する視界にふらつきながら俺は手に持った旗を前へと差し出す。

 

「さあ、アイオワ・・・君はどうする?」

 

 黄色人種である日本人の俺とは一線を画す真珠を溶かして出来た様な白く艶めいた肌を持つ指先が広げられた軍旗へと触れ。

 彼女にしっかりと握られた赤と白の縞模様が潮風の中で踊る様に宙を翻って広がりまるで自分の意志を持っているかの様に金色の髪ごと産まれたばかりの戦艦娘の新しい身体を包む。

 

「Take me There(私をそこへ連れて行きなさい)

 

 姿と声自体は俺の記憶にある通りだが思っていたよりも力強い凛とした口調と青い透き通った瞳に射竦められそうになり。

 それでもなけなしの根性で耐えてしっかりと頷いて見せれば白人種特有の彫りの深い顔立ちが不敵に微笑んだ。

 




 
「・・・やったあああっ!!」
「いやぁああっ!!」

「提督ぅ! すぐ私が助けいきますからねーっ!!」
「待って、もう一回、もう一回だけ金剛っ、お願いだからぁ!!」
「伊勢さん落ち着いてください、お姉様なら必ず田中二佐を助けてくれます」
「じゃあ、もう榛名で良いから代わってよぉ、提督と会えなくなってもう二週間よっ!? なんでもするから出撃枠ゆずってよぉ!」

「・・・あげません!!
「ひえっ!?」

「・・・榛名は提督と会えないのを一カ月も我慢してます、大丈夫じゃありません」
「そんなぁ~、なんで作戦に参加できる戦艦が二隻だけなのよぉっ!」

「えっとここにサインで・・・これで私も提督の所に行けるかもっ! ううん、秋津洲が助けに行くんだ!」

 
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