選りに選ってこのタイミングなのか!!
選リニモ選ッテコノ瞬間ダト言ウノ!?
一隻、また一隻、力を限界以上に振り絞った代償によってタービンシャフトが砕け蓄電池が火を吹く、水晶のネジが過負荷に耐えきれず爆ぜて全力を振り絞る黒髪の空母艦娘の助力を得ても修復が追い付かず傷を広げていく光の壁を容赦なく砲弾の雨の中が襲う。
その防衛艦隊の中心でアメリカ合衆国海軍において現存する数少ない
それはまるで弱者の抵抗など無駄であると思い知らせる為に行われる一方的な攻撃の前に倒れていく仲間の姿を悲しんで嘆いているかの様な意志無き鉄の船の叫びに見えて。
オアフ島の東側を見下ろす山の展望台で一秒でも長く自分達と故郷を守る為に戦う勇士達の目撃者であろうと無謀にも爆風を感じる距離でカメラを構える人々の耳に届き、そして、海に向かって掲げられたマイクを通してそれはリアルタイムで世界へと発信され続ける。
それぞれが手にするネットワーク端末を通して映し出される現実と言うにはあまりにも荒唐無稽な光景に誰もが唖然とし、唖然としながらも目を逸らす事を出来ずにスピーカーを通して伝わる鋼の軋む音から感じる言い知れない感情に胸を締め付けられた。
当事者でないからこそ画面の向こうの人々がどれだけ追い詰められているかを想像できず、まだ希望があると期待して彼らが助かる奇跡が起こりますように、と無責任な善意によって願って胸の前で手を組んで祈りの言葉を唱える。
その戦いを見ている事しか出来ない者の一人である艦娘もまたノートPCが繋げる現在起こっている戦争から目を逸らさず断続的にザラザラとノイズが走る画面を睨み付け。
悔しさと悲しさ綯い交ぜにした船体の軋みに歯を食いしばり、もう助ける事の出来ない一隻の軍艦の最期を見届け、彼女と共に戦った勇気ある軍人達の願いである彼らが命を懸けて護らんとした人々を絶対に救うと心を誓う。
そうしている間にも
ついに数え切れない人々の目の前で軍艦達がその力を振り絞って作っていた障壁が連鎖的にひび割れていく鋭い音を立て、色すら分からなくなった
・・・ ・・・・ ・ -・-・ --- -- ・ -・・・ ・- -・-・
雲一つない空の彼方から己の存在を主張し、執拗に繰り返されていた“
・・・ ・・・・ ・ -・-・ --- -- ・ -・・・ ・- -・-・
夕日を背に空を切り裂き暴風を引き連れて現れた流れ星が海面に直撃する寸前に金色の輝きと共にその身に纏う運動エネルギーを全て衝撃波へと変換し、暴力的な慣性が全て夜の色に染まろうとしていた海原へと押し付けられ、見渡す限りの海面が誇張表現一切無しで裏返る。
世界の全てが真っ白に染まったかと思う程に広く、空の全てが塗りつぶされた錯覚する程に高く舞い上がった海水が超音速の飛来物を追いかけてきた乱気流に乗って激しく舞い。
空の彼方から空気の壁を貫きながら墜ちてきた何かによって叩き付けられた大衝撃が見る者に己の正気を疑わせる程の常軌を逸した光景を創り出す。
そして、障壁で軽減されてもなお大きな波に押され傾いた衝撃のせいか防衛艦隊の中で最も古い軍艦の内部で幾つかの誤作動が連続して起こり、壁や床に張り付いて外からの衝撃に耐えていた乗組員の頭上で彼らの意図せぬ汽笛が吹き鳴らされた。
まるで迷子の子供がやっと見つけた家族に向かって自分はここに居ると叫ぶ様に。
現代の軍艦の数倍の厚みを有する分厚い装甲板が引き裂かれる程の重圧に押さえつけられながら戦艦が吹き鳴らす汽笛が眼前に広がる壁の様な水飛沫へ向かって響く。
・・・ ・・・・ ・ -・-・ --- -- ・ -・・・ ・- -・-・
《『止めなさい、栄誉ある
まるで教官が訓練生を良き方向へと導く為に教えを説くかの如く厳しく律する様な女性の声に虚空へと叫びを上げていた戦艦の汽笛がまるでその声に驚き、そして、己を恥じ戒めるかの様にピタリと止まった。
《『
重力に従って天から海へと轟音と共に返されていく白泡の大瀑布の中から不自然なほどに澄み切った声がその場に居合わせた全ての者達に耳に届く。
オアフ島の東側を中心にして強い意志が込められた高濃度のマナ粒子と電波が混じり合い広がり、電子機器である軍用通信やビデオカメラのマイクだけでなく人の聴覚にまで直接影響を与えてその
《『そして、今は何より勇気ある軍人達と共に成した偉業を誇るの!』》
続いて咳き込む様な蒸気タービンの音を響かせ明滅していた艦内の電気系が火花を散らしながらも正常電圧を取り戻し、復旧した動力と素人同然であろうと決死のダメージコントロールを行う乗員達の手によって傾いていた戦艦が必死に水平を取り戻していく。
《『そう、貴方達は今日! この世で最も崇高で困難な任務を成し遂げた!』》
天へと立ち上った海水によって創られた白泡のカーテンの向こうで立ち上がろうとしている人影が金輪の輝きを背に大きく浮かび上がる。
《『だから、もう大丈夫』》
ミズーリの艦橋で耳の中に直接聞こえてくる頼もしくも優しい色に変わったその声に戸惑い頭を振りながら立ち上がった艦長がレーダー席にいる士官が上げた驚愕に満ちた報告に己の耳を疑う。
それはミズーリから見て前方1kmにも満たない近距離に突如現れた敵味方識別信号に対する驚き。
《『今、この瞬間から貴方達の
消えていく水柱の向こうに現れた味方を意味する識別信号の光点に記された【USS Iowa,BB-61】と言うIDが何を意味するのか。
国籍を問わず海軍に属している者ならばその名を持った軍艦が既に沈んでしまった事を知っている、
《『何故なら』》
金の枝葉で飾られた光り輝く輪から重厚な鋼のパーツが空中で噛み合い合体しながら、我先にと争う様に次々と己が主の背へと艤装を施していく。
《この私が来たのだから!!》
斯くして突き抜ける様な雲一つない星空の下、タイトルロールを迎えて水飛沫の幕が開く。
彼女の首に巻かれた十三本の赤白に彩られた
・・・
直後、
『《それにしても素晴らしい! 空から見たけれど本当に凄い戦力よ、アナタ達!』》
そして、疲弊したハワイ防衛艦隊へと
《『それにどの艦もとても大きくて頑丈に出来ているのね!』》
ついさっきの芝居がかった厳かな雰囲気が消え去り、打って変わって明るくはしゃぐ声はその身に纏う実用重視でファッション性の欠片も無い灰色の作業着をもセクシーに盛り上げるグラマラスな体型とはあまりに不釣り合いに幼く見え。
その場違い過ぎるセリフを聞いたと同時に鳴り響いた砲声がさらに目撃者達の思考を混乱させ、数十秒後には水平線に
『《合衆国以外にこれ程の艦隊を揃える事が出来る軍が存在していたなんて
祈りが通じたと喜び、遅れてやって来たヒーローの登場に歓声を上げようとしたテレビやPCモニターの前の人々までが敵に向かう称賛の声と正確無比な攻撃と言う彼女のちぐはぐな言動に呆気に取られる。
《『ええ、こんなに強い敵を相手にしてたなら仕方ない、ミズーリや彼らがここまで追い詰められるのも仕方ないわ!》』
ひたすらオーバーリアクションに両手を大きく頭上に掲げてて拍手を打ち鳴らし、相手の健闘を称えるかの様な声を上げながらその腰の左右で光粒の硝煙を散らす三連16インチ砲が九つの砲門を滑らかに動かし次の獲物へと照準する。
《『我が合衆国海軍に此処までのダメージを与えるなんて凄い事よ! アナタ達は自分がやった事の意味が分かる!?』》
まるで出現位置をあらかじめ知っているかのような砲撃によって荒波の中を左右に展開しようとしていた深海棲艦の前衛部隊の先頭がその黒い装甲とバリアの最も弱い部分を撃ち抜かれて爆散する。
《『よくぞここまで見事に! もう言葉では言い表せないぐらい凄く、すごく! 私の国の平和を踏みにじってくれた!!』》
数十km先を照準して火を吹いた主砲の過熱によって砲身の周りの空気が焦げて沖からの向かい風に乗って硝煙の臭いが背後へと運ばれていく。
《『ああ、
海上自衛隊所属護衛艦【はつゆき】の側舷に背を預けていた満身創痍の艦娘は通信と肉声同時に聞こえてくる彼女の声色が数段低くなったことに気付く。
直後に鈍く鋭い鋼の音が響き、アイオワの身体の左右に突き出したダークグレーの主砲が艤装基部と共に割れて内部機構を展開し、彼女の背で上下左右に向かって突き出した重機じみた大きさのラジエーターに見えるパーツが鈍く重い咆哮を上げ、紫電を纏い発光する無数の金属板の間から大量の光粒が噴き出す。
『《
変形していく戦艦娘の艤装から溢れ出した光粒が線と成り絡み合い四対のトンボの羽模様を宙に描き、直後に光の羽根が閃光の斬撃と化し水平線の向こうから放たれた長距離砲撃による深海棲艦の反撃を欠片も残さず蒸発させる。
光の羽根に続いて黒鉄の輪がその内部に稲光を走らせ、この場にいるどの軍艦よりも雄々しく唸りを上げる動力機関が周囲の光粒と霊力を手当たり次第に取り込み純粋な熱量へと分解し、それをさらに光速へと近付ける為に暴力的なエネルギーを宿した粒子を加速器へと流し込む。
『《私の姉妹を泣かせたわね?》』
そして、一拍遅れて音割れと砂嵐が急激に消え正しい色彩を取り戻していくノートPCの画面ごしに戦場を見詰めていた青い瞳は勇ましい軍籍旗のマントと幻想的な妖精の羽根を閃かせる彼女の背に何が宿っているかを理解した。
つまり、アイオワ級戦艦一番艦、USS Iowa,BB-61の化身たる戦艦娘は途轍もなく怒っているのだ。
当たり前の話だ、どれだけ強い自制心をもってしても耐えられるわけがない。
Fuckin' son of a bitch!!
『《このくそったれの××××共っ!!》』
圧縮空気を放つような射出音と共に銀色のワイヤーがその身を蛇の様にうねらせ幾つもの錨が海面へと突き刺さり、海上に固定された戦艦娘は降り注ぐ敵砲弾をマナ粒子へと分解し取り込み、さらに輝きを増していく妖精の羽根によってその周囲が昼間の様に照らされる。
・・・
前世と今世の二回分と言うだけでなく単純に俺自身が間違いを人より多くする人間だと自覚しているからこそ今まで後悔に悩まされてきた回数はもう数え切れない。
現にハワイに送り込まれる理由だって個人的な欲求でやらかした失態が原因で、この数日だけでもどれだけ皆に謝れば済むのか分からないぐらい失態に次ぐ失態を演じてきた。
“もうすぐ
だけど、その妖精の囁きで決死の攻撃を中止して加賀や艦橋にいる皆に自殺行為並みの無茶をさせてしまった事は申し訳ないとは思っているけれど、この数日の中で唯一後悔しなくて済むと胸を張れる判断だった思う。
『良介っ! 聞こえているか!? 今すぐ応答しろっ!!』
変則的な方法だが艦娘同士の接触によるジャミングの心配が無く他人の耳にも届かない秘匿性を持った通信方法はその心底慌てていると分かる口調とからアイツ個人の私情を優先したモノだとすぐに分かった。
仮にも軍人として第一声がそれと言うのはどうなんだ、と言いたい事は山ほどある。
どうやってこんなに早く駆けつける事が出来たんだ、とか聞きたい事は数え切れない。
「義男、お前っ・・・」
カッコつけて「待たせたな」とか言うのか? もしそんな事を言うなら「遅刻だぞ、サンタクロース」とでも返してやろう。
いつも迷惑ばっかりかけてくる悪友の姿に対してこんな気持ちになるなんてが本当に柄じゃないのに。
『助けてくれっ!!』
直後にスピーカーから艦橋に響いた予想外の大声のせいで涙が一瞬で引っ込む。
「・・・は?」
オマケに戸惑うこちらの気持ちなど知った事じゃないとばかりにあの野郎が言い始めたとんでもない内容に目の前が真っ白になったかの様な錯覚を覚える。
アイオワからアメリカ海軍の艦隊指揮権を借りる為に無断で艦娘化させた?
名目上は米海軍に現在も所属している彼女のIDを隠れ蓑にして突入してきた?
しかもその行動自体が日本の政府から米国側への承諾を取り付けている最中?
おまけにアイオワは目覚めてからまだ三日も経っていない訓練経験すらゼロのド素人?
俺と同じ様にその声を聞いていた時雨達も唖然とした顔でポカンと口を開け、横目に見ればコンソールパネル上に浮かぶ立体映像の加賀ですらあまりの馬鹿馬鹿しさを嘆いているのか眉間に深いシワが出来るぐらい眉を顰めた顔を片手で覆ってた。
深海棲艦によるハワイ諸島への侵略に対する対策で裏目に裏目を重ねたアメリカの大統領府と軍隊は後がない状態だから交渉と言うよりは決定事項、なのできっと日本側が良い条件をむしり取ってくれるだろうと言う事だけは朗報、とかそんな事はどうでも良いんだよこのバカっ!!
「義男、お前ぇ・・・」
矢継ぎ早かつ一方的な自衛隊史上稀に見る馬鹿野郎からの連絡が終わり、何とか俺の口から出た声はついさっき口にした言葉と同じなのに込められた感情は真逆のモノになっていた。
『だから戦場を撮影している連中を何とかしてくれ!! 今、お前の艦隊以外の日本の艦娘が顔を出すのはマズい!!』
だが文句なら後でいくらでも言える、なら今は生き残る為に思考を入れ替えろ。
確かに目撃者がハワイを守る防衛艦隊だけなら揉み消すのは難しいが不可能ではないだろう、実情を知らない彼らにとってアイオワは文字通り自分達の窮地に駆けつけてくれた英雄に見えているから生き延びさえすれば不都合な事実に目を瞑ってくれる公算は高い。
後から見覚えのない艦娘が戦場に乱入してきたと言う情報が漏れるかもしれないが軍隊の持つある種の閉鎖性を利用すれば曖昧な噂話として真偽を有耶無耶にできる。
だが、映像として記録が残るとなると話は別、それも義男が言うには撮影しているのは民間人な上によりにもよって今現在もリアルタイムで世界へとこの戦場の映像を発信していると言う。
『て言うかなんでこんな戦場の真近くに民間人連れて来てんだよ!?』
「お前がさっき言った! 民間人が勝手にやってるんだろ!?」
『緊急回避すらできねぇ状態で足止めて撃ちまくらないといけないこっちの気持ちも考えてくれよ!!』
ああクソ、人が考え事してる時に喧しい声で喚くんじゃない!
「知るか!? こっちはここ数日碌な休みも無しで! ほぼ全員大破して! 戦うどころか身動きすら出来ないんだぞ!?」
『て言うか、そもそも連中はどうやってこんな粒子濃度でハワイの外に放送出来るんだよ!?』
「それこそ僕に聞くな!! 本当に知らない!!」
なんでこんな命懸けの状況で悪友のやらかしの尻拭いをさせられなきゃならないんだ、と叫びたくて仕方がない。
だが、それでも何とかしないとギリギリで繋がった首の皮が今度こそ斬られる。
それに変な制限さえなければ俺と同じく
例えアイオワが艦娘として生まれたばかりの素人だろうとアイツが乗って指揮しているなら戦力化できると言う事は今ちょうど目の前で迸った閃光が証明していた。
「まずいな、怯んでいた深海棲艦が復帰してきている、何とかしないと・・・いっそJJの部隊に民間人の確保を頼むか?」
しかし、撮影が行われているのは山の上という話、今から真珠湾の基地にいるジェームズに頼んでもカメラマン達を保護するまでにかかる時間をアイオワは凌ぎ切れるか?
敵艦隊の最高戦力であり最高司令官でもある戦艦棲姫は何らかの理由で砲撃を行ってきていないお陰で今は何とかなっているが、あの自分の部下ごと赤城と俺達を焼き殺そうとしたあの破壊力が振るわれれば一撃で全滅もあり得る。
なら、ここから目撃者を消す為に攻撃を仕掛ければ面倒は省ける、・・・と言うのは論外、何よりそう言うのは有り難迷惑なんだっ!
良かれと思ってなのかご丁寧に目標までの正確な距離と人数だけでなく中破状態で踏み止まってくれている時雨が後一発分だけなら主砲弾を生成できると言う補足情報まで付け加えてくる“囁き”を振り払う。
コンソール上から俺を心配そうに見上げていた小人を手の甲で横に退けてから考える、とにかく思考を止めずに考える。
そう言えば・・・インターネットによって拡散されていると言っていたがそもそも件の放送はどうやってハワイの外に送られているんだ?
ハワイ諸島全域を覆う戦闘濃度のマナ粒子によって電波はかく乱されるからテレビ局のアンテナはまず無理、衛星通信だって使えるはずはない。
仮にマナ粒子のジャミングに干渉されない手段でデジタルデータを送信する方法があるとしても個々人の手にあるカメラやパソコンから無秩序に映像を発信出来るかと言えばNOだ。
ならカメラから有線ケーブルを伸ばすにしろ映像が記録されたテープかディスクなどの記憶媒体を利用しているにしろ一度はその正体不明の送信手段の手前で必ず外のインターネットに適応する形式へと映像を変換しなければならなくなるだろう。
だが今の最低限のインフラしか復旧できていないハワイ諸島のどこでそんな高度な通信と情報処理が行える・・・!?
「軍用回線っ、真珠湾基地の中央指揮所だ!? 空母棲姫と戦う寸前に来た通信もそうか!!」
冷静になって考えればその前の核ミサイルの発射だって本当なら来る筈がないものだった。
標的までの距離を飛ぶにあたって必須である高度な情報処理による手助けが無い状態で核と言う戦略兵器が運用されるわけがないのだから。
米軍基地の指揮能力ががいきなり息を吹き返した手品のタネは分からないがそれをやってのけてさらに外へと情報拡散を行った人間の正体ははっきりした。
ジェームズ・ジョンソン米陸軍少尉だ。
いや、実際のところ彼がそれを主導したかどうかは分からないし、もしかしたら彼とは別に首謀者がいる可能性はある。
だがジェームズが陸上部隊の指揮官として権限を振るって基地機能の一部を現在行われていると言うLIVE放送に提供しているのは間違いないだろう。
「義男っ! あと少しだけ待ってくれ! 事情を説明して放送を止めてもらう!」
『早くしろ! いざとなったらどさくさ紛れにジャンプして姿眩ませるしかないか!? 二式大艇は着いて来てるよな!?』
『はい、ハワイ諸島西海上を問題無く本艦に向かって飛行中、ですが今のままの速度だと接触可能距離まで約74分程かかると思われます!』
『その時はその時だ、良介が駄目だったらもう一回お前のチャレンジ精神に頼る事になるぞ秋津洲!』
『ぜ、絶対イヤかもーっ!? 今度こそ死んじゃうよぉ!! 田中提督助けてぇ!!』
『さっきのだって怪我一つ無しなかったでしょ! 何弱気な事言ってんの!』
・・・あの大津波起こしたの秋津洲だったのか。
・・・
赤ヒレの敵を焼き殺した時に壊れてしまった主砲の修復を待ち従者が引く浮島の玉座に座っていた戦艦棲姫は下僕達の隊列を乱す鬱陶しい津波とその後に続いて聞こえてきた耳障りな“
人間に例えるなら言葉を喋れない猿だと思っていた相手からの第一声が“私の領地と
そして、あの欠陥品共がうじゃうじゃと群れる卑小な虫の中から湧いて出てくると言う今は亡き
そんな事を考えていた時、津波によって海面がひっくり返され海中に沈んだ艦が指揮艦の号令に従って隊列を組みなおそうとした直後の油断からか立て続けに海の向こうから鋭い角度で着弾した横殴りの砲弾が前衛艦隊の頭を貫き轟沈させられた。
屈辱的な損失であるが、しかし、あの小さな欠陥品の戦闘能力が
多少の損失で敵を全滅させられるならば問題ない、数の有利を以て島と敵を丸ごと包囲せよ。
そう配下に命じた次の瞬間に自分へと真っ直ぐ海面を蒸発させながら水平線の向こうから突き進んできた閃光によって障壁を穿たれた戦艦棲姫は顰めていた顔を唖然とさせる。
闇色のネグリジェを纏う身体を常に守る不可視の障壁に開いたその穴は戦艦棲姫の体に比べれば針先の様に細く、強靭かつ自己再生する霊力装甲にとっては損傷と言うにはあまりにも些細なモノ。
だが、距離と障壁によって熱量を減衰させていたプラズマ化した粒子ビームの残滓が散る白い頬の上には耳の後ろまで一文字の傷跡が走っていた。
空母棲姫と同じ轍を踏まない為にも卑小な敵に対するにはあまりにも過剰な慎重さで一斉攻撃の準備を終えてから殲滅せねばならない。
そう一秒前まで考えて自制に自制を重ねていた戦艦棲姫の堪忍袋の緒が呆気なく切れ、その背中から鉛色の巨人が溢れ出して荒立つ海面を叩く。
そして、星空の下で玉虫色の光沢をもった波動が急激に巨大化する戦艦棲姫を中心に放たれ二つ並んだ鋼の頭が主の憤怒に従って業火をその顎から漏らし。
黒い血を滴らせる火傷の直線が走った白い肌を撫でる真珠色の長手袋に文字通り目から炎を噴き出していた戦艦棲姫の表情と身体が大理石の彫像と化したかの様に硬直した。
“空母ノ姫ハ何処?”
“ドウシテ、アノ子ノ群レヲ連レテイル?”
空間を飛び越えて鉛色の艤装へと一体化した戦艦棲姫の背後から白い首へとかけられた細腕が怒りに逆立っていた黒髪を梳き下ろし、肌の下、血の奥、そのさらに内側にある魂へと有無も許さず
“報告ニ戻ッテキテ、全テ、今スグ”
感情や記憶ごと意識そのものが自分よりも遥かに巨大な存在に丸呑みにされる過剰な快感に白目を剥いた戦艦棲姫の身体が座する浮島を、その周囲で戸惑う従僕を、砲を敵へと向け色鮮やかな島へと突き進んでいた下僕の群れまでもが、突然に開かれた虹色に光る底なしの渦潮へと引きずり込まれていく。
数分後、残されたのは不自然なほどに凪いだ夜の海だけだった。
「「「「「・・・ぇっ?」」」」」