艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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攻略サイトだけじゃなくツールまで使うのは卑怯でしょ?

・・・なら、そっちこそ無限増殖バグ使うなよ

チートよチート! 私の艦隊をイジメるなんて許せない!

ステージ構成どころかタイマーまで弄っておいて今更何言ってる!?

こんなの反則だわ! 運営(妖精)は何やってるのよ!?

そもそも俺達は遊びでやってんじゃないんだよ!!


 


第百四十五話

 

〈 全員いるな? 良し 〉

 

〈 なら楽な姿勢で聞いてくれ、ただし浮き球やヤシの木の位置が気に入らないからといじるのは無しだ 〉

 

〈 拾った廃材でパズルを作るのが楽しいと言うのは分かるが巨大筏作りからブリーフィングに意識を切り替えてくれ〉

 

〈 ああ、それを言われなくても出撃した後にもう一度作戦会議を行う事がマヌケのやる事だと言うのは重々承知している 〉

 

〈 だが、やらねばならない事はやるしかないのが世の常だ〉

 

〈 本作戦立案時に判明していなかった幾つかの重大な問題が我々の目の前にデカい尻を並べているんだからな 〉

 

〈 とは言え、我々の作戦が深海棲艦が造り出した異空間の排除である事に関してだけは変わらない 〉

 

〈 その一点が変更されなかった事だけは幸運だったと言える 〉

 

〈 つい先ほど到着した第三艦娘部隊の面々はある程度この××××な海・・・失礼、自衛隊が限定海域(・・・・)と呼称するこの空間で起こっている現象をある程度理解した上で突入してきた筈だ 〉

 

〈 しかし、已むに已まれぬ情報の行き違いによって部隊の約半数を撤退させる事になった第一部隊、そして、今から見て・・・26時間前に到着した第二部隊のメンバーは面食らっただろう? 〉

 

〈 無論、私自身もそうだった、だからこそ改めて全員の目標意識を統一する為に変更された作戦内容の確認を、・・・何? 〉

 

〈 ・・・第二部隊の到着は34時間前? 〉

 

まさか、・・・クソ、高かったんだぞこのクォーツ 〉

 

〈 コホンッ、さて、ともかく既に敵勢力と交戦した第一部隊を含め円滑な作戦行動の為に口頭説明が必要だと言う事はこの場にいる全員が理解してくれている事だろう 〉

 

〈 それではまず最も重要かつ分かり易い問題点からだ、まぁ、これも既に先に到着していた同僚から聞いただけでなく自身の身をもって実感していると思うが・・・ 〉

 

〈 この黒い海と外の海では時間の早さが異なっている、これは距離による時差と言う意味では無い 〉

 

〈 仮にだが外から限定海域内部を観測する事が可能だったならば我々の動きは外の連中には通常の数倍から数十倍の早送り映像の様に映る事になるらしい 〉

 

〈 そして、それによって発生している外部と連絡を取る為の通信システムへの影響は深刻の一言だ 〉

 

〈 我々が赤ん坊へ絵本を読み聞かせる様にどれだけゆっくりと報告をマイクへ吹き込んでも外の連中には黒板をひっかく音にしか聞こえないとの事だ 〉

 

〈 それに君達が使えると言う姉妹艦同士のテレパシーも影響を受けて機能不全を起こしている言う話だが、そうだな?〉

 

〈 これに関して、そもそも先行偵察を行った日本自衛隊の艦娘部隊が六時間強の戦闘記録と映像を持ち帰った時点で参謀部は疑問に思うべきだった 〉

 

〈 いくら帰って来た彼らがほぼ無傷で早朝の散歩から帰って来た様な姿だったとしても、そして、あの大渦に突入してから再び外へと脱出してくるまでにたった一時間しか掛かっていなかったとしてもだ! 〉

 

〈 六時間(・・・)だぞ? 仮に記録映像を改竄したって残りの五時間は何処から持ってきたって言うんだ? しかも使われているメディアは軍用規格だと言うのに? 〉

 

〈 しかし、幼稚園児でも分かる異常を常識的に見てあり得ない事だからとあのスーツ組共は自分達が信じられると判断した情報だけでパッチワークを作り、深海棲艦本隊への多段かつ波状陣形による連携攻撃と言う机上の空論を命じてくれた! 〉

 

〈 なるほど、深海棲艦よりも高い艦娘の機動力を生かして敵の数を確実に減らす、突出する敵の頭を叩き続け寡兵で大軍の侵攻を止め、そして、戦力を均衡状態に持ち込みチャンスを逃さず主力艦隊を敵本拠地に叩き付ける・・・実に理にかなった戦略と言えなくも無い! 〉

 

〈 この海域が内包する太平洋の三分の一に匹敵する広さと! 瞬き一つしたら数キロ先では数日分の時間が過ぎる異常極まる空間と! 中心に近付くほどに加速していく時間のせいでひたすらハツカネズミの様に増え続けている敵戦力! それらが無ければ完璧な作戦だっただろうよ!? 〉

 

〈 オマケに最早原理や理由を考えるのも馬鹿馬鹿しくなるが! 我々が今いるハワイから800km以上離れた海底とハワイから精々10kmの海上に口を開けている大渦を繋いでいるあの海底トンネルが徐々に短くなっているんだとさ! 〉

 

〈 科学も常識も通用しない連中を相手にどうやって計算結果を導き出したのかサッパリだが司令部が言うには来年の朝日が昇る頃に限定海域とハワイの大渦が繋がるそうだ! 外側から見て数百km離れている深海と海上の距離がゼロになるってな!? 〉

 

〈 さしずめスペースオペラのお約束、ワープゲート(・・・・・・)と言うヤツだ! 我々がヒィヒィ言いながら走ってきた真っ暗で退屈でクソ長い航路をあの連中はこの辛気臭い黒い海で待っているだけでショートカットするつもりらしい!! 〉

 

〈 ははっ、少なく見積もっても一万(・・)を超える程に増殖した大艦隊、いや、人類の歴史上前例のない超大規模艦隊(・・・・・・)が黒い海の真ん中でずらりとふんぞり返ってハワイへのドアが開くのを今か今かと待ちわびているわけだ!! 〉

 

〈 ・・・すまない取り乱した 〉

 

〈 しかし、その修正前の作戦に「待った」をかけてくれた二人の自衛隊士官とその部下である日本の艦娘達、今もこの最前線でスペシャルアドバイザーとして共に戦ってくるだけでなく、補給物資輸送要員としても協力をしてくれている彼らのお陰で我々はこうして敵地のど真ん中で一時立ち止まれる時間を得た 〉

 

〈 ひたすらアナグマを決め込み戦力の増産しながらワープゲートが開くのを待っている深海棲艦に対して血迷った司令部が言い出した最高に状況に合ってない最低の作戦を実行して負け犬になる事を回避出来る幸運に恵まれた 〉

 

〈 そう言う意味では我々は神にいくら感謝してもし足りないぐらいついている(・・・・・)と思わないか? 〉

 

〈 オゥ、私の長話が退屈なのは分かるが後数分ぐらいは我慢してくれたまえ、だが野次を飛ばしたくなるのも良く分かるよ、お嬢さん達? 〉

 

〈 では詳細な編成と陣形は後回しにしよう、現在確認されている海域の全体図や敵分布に性能なども今は横に置いておこう 〉

 

〈 だが、勿体ぶっていたわけじゃないが我々がやらねばならない恐ろしくシンプルな作戦の概要だけは言わせてくれ 〉

 

〈 我々が取れる選択肢は最早指を咥えて見ているだけか短期決戦しかない、そして、アメリカ軍人たるもの祖国の危機を前に傍観者でいるなどあり得ない 〉

 

 

〈 そう、我々は! ここに居る指揮官と艦娘合わせて300人の艦隊は! 〉

 

〈 これより敵艦隊中枢へと全力を以て突撃(・・)を仕掛け! 〉

 

〈 限定海域の発生原因である泊地水鬼を撃破する!! 〉

 

 

 

〈 正直、俺達がこれからどれだけの敵と戦う事になるのか分からない 〉

 

〈 作戦が終了するまでにどれほどの時間を戦い続ける事になるのかも分からない 〉

 

〈 そもそもアドバイザーの言う通りに深海棲艦の女王を倒しても限定海域は消滅しないかもしれない 〉

 

〈 失敗は命を代償として支払うだろう、しかもこれが絶対に正しい選択であると言う保証すらも無い 〉

 

〈 だが明日の朝(・・・・)、ハワイにやってくるのは新年の朝日だけだ! 決してあの黒光りする化け物の軍団じゃない! 〉

 

 

〈 さぁ、諸君! 〉

 

 

〈 愛すべき合衆国にハッピーニューイヤーと言ってやる為にも、絶対に勝つぞ! 〉

 

 

・・・

 

 外海との境界方向から急速接近する敵艦の発見。

 

 その知らせは共鳴する様に響く汽笛(遠吠え)に乗って網の様に連鎖して広がる思惟(通信)によって海を埋め尽くす大艦隊の隅々まで届く。

 直後に艦隊の中央から発せられた虹色の波(女王の勅命)が黒鉄の艦首が並ぶ海に広がり、何十重にも重なる巨大な輪形の最も外側に群れる深海棲艦へと迎撃が命じられる。

 

 泊地水鬼が放った絶対命令に宿る酷く禍々しい敵意に精神を染め上げられた深海棲艦達が瞳に宿る灯火を眼窩から溢れる程に燃え上がらせ、外縁部だけですら千隻に達する大艦隊が上げる怒号が空気を震わせる圧力となって凪いだ黒い海面を捲り上げ大波を作り出す。

 そして、過剰に供給された艦娘への敵意によって狂ったように野太い汽笛を吹き鳴らす黒鉄の怪物達が動力機関を唸らせ凪から一転して10mを超える大波が蠢く海へと向けられた主砲が次々に咆哮する。

 

 虹色の光が輝く青空の下、無数の火球によって造られた燃え盛る赤い壁が如き弾幕が放物線を描いて精々が50人程しかいない様に見える艦娘達に向かって口笛の様な風切り音を鳴らす。

 しかし、全速力で荒波を蹴散らし走る艦娘達の頭上に覆い被さる様に降り注ごうとした火球の豪雨はターゲットとの間に青白い閃光と共に割り込んで広がった六角形の障壁に衝突して弾け。

 

 爆発の後に着弾点から噴き出した大量の黒煙が艦娘達の姿ごと海上を覆い尽くした。

 

・・・

 

《空母は艦載機の発艦を急いで! ジエイタイにばかり頼ってられないわよ!》

 

 勇ましく叫ぶ声と共に黒煙を突っ切り黒い城壁の様に艦首を並べる深海棲艦に向かって右腕を突き出した重巡洋艦、ノーザンプトンがその細腕で支えるにはあまりに大きく見える三連装主砲の引き金を引く。

 自身にとっての最大戦速を大きく超える300knotの速度に背中を押され(・・・)ながら荒れ狂う海を走る重巡艦娘の腕一本で支えられた8インチが水平方向へと三連撃を放ち。

 

《怯むな! 全艦突撃!!》

 

 一番砲に続いて鋼色のコルセットで締められた腰の左右に突き出した二番と三番砲塔が仰角を最大に砲声を打ち鳴らし、なおもアメリカ海軍の艦娘部隊へと落ちてくる無数の砲弾を遮り、六輪の輝く大傘が空中に広がる。

 そして、軽巡級と駆逐級の深海棲艦二隻の横っ腹に突き刺さり黒い粘液や装甲片を撒き散らしながら爆発する榴弾の行方を横目に後ろを振り返った白い海軍帽子を乗せたロングヘアがカーテンの様にうねり。

 端整な顔立ちに降りかかる黒い水飛沫をノンフレームメガネが弾き、向かい風にたなびく金糸束の向こうから甲高い汽笛を吹き鳴らしてノーザンプトンより頭一つ低い艦娘が重巡艦娘の艤装を掴んで押していた両手を離し急加速をかけた。

 

《駆逐隊は突撃隊形に! 私に続いてください!》

 

 その駆逐艦、フレッチャーの号令にノーザンプトンに続いて黒煙の中から飛び出してきた大型艦娘達の背後から躍り出た駆逐艦娘達が了解の声を上げ、黒い海でなおさら引き立つカラフルな少女達の背で動力機関が勇ましい唸り声を光粒の渦と一緒に放つ。

 激しく回転するスクリューからジェット戦闘機のアフタバーナーじみた輝きが噴き出し、激しく輝く光の尾を黒い海に残して暴力的な推進力は十数名の米国駆逐艦達を亜音速の世界へと送り込む。

 

 一斉に海上に浮かぶ黒鉄の城壁へと走り出した少女達へ声援を送るかの様に先頭の姉妹艦に続いてノーザンプトン級重巡のヒューストンがその手の三連装主砲だけでなく背部艤装の対空砲にも投射障壁を装填し空に向かって大量のアンブレラ(水晶板)を広げ、頭上の安全を確かめた空母艦娘達がボウガン型やランチャー型のカタパルトから艦載機を連続発艦させていく。

 

《ちょっと、痛いですよ?》

 

 そして、時間にして十秒足らず。

 

 急加速をかけた時点ではまだ数km存在してた敵艦隊がずらりと並ぶ場所との隔たりが文字通り一足飛びに無くなり、荒れ狂う大波の頂上をスキップする様に跳ねて重巡艦娘の砲撃で中破し速力を落とした軽巡ヘ級の目の前でフレッチャーはいつの間にかその手に存在していた機械仕掛けのハチェット(手斧)を大きく振りかぶった。

 

・・・

 

 敢えて人間の基準と単位で表現するならば接敵から小一時間、被害状況は全体の千分の一(0.1%)にも満たない程度。

 

 泊地水鬼を頂点にしてフラッグシップ、エリート、ノーマルの順番に広がるピラミッド構造の通信網の末端、大艦隊の片隅で自分がいる戦場の情報を受け取った深海棲艦の駆逐艦級はその眼窩に宿す緑色の灯火を僅かに震えさせる。

 

 “嫌ナ予感ガスル(・・・・・・・)

 

 その下っ端の駆逐艦(緑目の駆逐イ級)がつい艦外へと漏らしてしまった思惟(呟き)にさしたる根拠は無い。

 確認されている敵の数は自分達と比べるのもおこがましい極少数、千を超える最外周の艦隊に多数の被害はあれど明確な断末魔の思惟(沈没の報告)は聞こえてこない。

 深海棲艦にとっての常識において数も大きさもその身に宿す力すらも上回る大軍に噛みついてきた精々五十隻程度の敵艦隊などは愚か者と言う言葉ですら言い表せない自沈(自殺)志願者以外の何者でもない筈なのだ。

 

緑目ハ無駄ナ思惟ヲ漏ラスナ(ノーマル如きが無駄口を叩くな)

 

 同族の艦隊運動によって巻き起こる荒波が偉大なる女王(泊地水鬼)の水晶島に届かない様にとその身を他の緑目達と共に消波ブロック代わりに並べていた駆逐イ級は電流の様に頭に響いた軽巡ツ級が赤いオーラを苛立たせながら放った思惟(叱責)に慌てて物言わぬ壁になり切る(居住まいを正す)

 その駆逐イ級が今回の戦いで所属する事になった群れ(艦隊)の旗艦である軽巡ツ級エリートは今まで経験の無い大量の従僕を従える立場を任されたと言うのに自分達が後詰めと言える後方に置かれている事に苛立っていた。

 

 空母棲姫が轟沈した数か月前(・・・・)から戦艦棲姫による大量建艦が始まり今では初期の百倍以上に膨れ上がった泊地水鬼旗下の大艦隊では組織の大規模化に伴って出世争いが行われている。

 だから、そんな中で十分に古参だと言える軽巡ツ級は昨日進水したばかりの緑目すら混じるライバル達が今にも愚か極まる獲物共を討ち取り、その報告によって主人の歓心を得るかもしれないと考えて焦れに焦れていた。

 

 どれほど地味な端役であろうと泊地水鬼から命じられた任務は絶対である。

 

 それは頭では分かっているが自分達と比べれば明らかに矮小な敵艦を撃沈するだけで褒美と昇進を得られるだろう状況を前に我慢するのはエリートと言えど深海棲艦にとって酷く忍耐を擦り減らす苦行だった。

 力量と物量を考えずに無策としか思えない突撃を行ってきた雑魚の群れ、一目で分かる戦力差も分からない様な敵と呼ぶのも憚られる愚者共は一隻たりとも自分達のいる場所まで辿り着く事はあり得ない。

 自分ならすばしっこいだけの(敵艦)など一撃で木っ端微塵に打ち砕き手柄首を姫達へ献上する事すら容易い。

 だからフラッグシップ(黄色目の個体)まで投入されているこの戦いは長くとも数時間後に訪れる敵の全滅によって締められるだろう事は火を見るよりも明らかである。

 そして、戦いが終われば手柄を立てたライバルが栄誉を与えられる姿を平伏して見ていなければならならない。

 

 たまたま配置される場所が敵の現れた方向から遠かっただけの事で今後も続く無数の同胞同族との出世争いで後塵を拝さなければならない事が曲がりなりにもエリートである軽巡ツ級にとって酷く不愉快だった。

 

 そんなふうに緑目のイ級へと無駄口を叩くなと注意した大艦隊の中に幾つもある防波堤部隊の指揮艦が部下に向かって垂れ流す思惟(無駄口)は実のところその場にいる大半にとって切実に同意できる思考であり、泊地水鬼が支配する艦隊全体の1%にも満たない九十隻の深海棲艦が内心で軽巡ツ級エリートに同意して僅かに頭を縦に揺らす。

 

 しかし、その群れの中に紛れる艦娘との戦いを二度生き延びた一隻の駆逐イ級ノーマルはただ己の思惟(記憶)の中にあるそれら(・・・)を思い起こす。

 

 空を飛ぶ空母が青い疾風と化して戦艦ル級フラッグシップを銀色の糸で絡め捕らえそのままバラバラに切り裂いた光景を。

 

 砲弾と化した駆逐艦が何十倍も巨大な重装甲を砕き、真っ二つになった空母ヲ級の残骸を残して走り去っていった光景を。

 

 戦艦棲姫に率いられた大艦隊の前衛部隊が海に落ちてきた流星が起こした津波から顔を出したと同時に水平線の向こうから迸ってきた熱線に撃ち抜かれていく光景を。

 

 深海棲艦の道理から大きく外れたイレギュラーが同胞同族を屠っていく姿をその頭蓋の奥に刻む様に覚えている下っ端は再び違和感を疼かせる。

 まだ現状への思惟(不満)を吐き続けている上司の機嫌を損ねない様に黙って押し寄せる黒波へと昏い霊力を編んで造った障壁を張っている駆逐イ級だったがその心中で明確な答えが出ないが故の不可解さが膨れ上がっていく。

 

 遠くに見える山影にも見える程に強大な大艦隊の威容の向こうから聞こえてくる砲声が何故か止まる事無くドンドン近付いてきている気がする。

 そも、あの矮躯でありながら異質な性能で質と量を覆す敵艦との戦いは本当に簡単に終わるモノなのか?

 

 今も敵を一隻も撃沈出来ずに戦闘を続けている艦隊からの損害報告が思惟の波に乗ってイ級達に届いてくる。

 まさか、このまま敵が自分達の配置場所どころか偉大なる姫級達の座する玉座まで到達してしまうのではないか?

 

 そんな酷く嫌な予感(・・・・)を、おそらくこの場で最も幸運(不運)な深海棲艦である駆逐イ級だけが強く感じていた。

 

・・・

 

『[敵艦を無理に撃沈するな、足を止めさせれば盾に使える!]』

 

 通信機越しに聞こえる田中良介が叫ぶ英語を聞き流しつつ中村義男は周囲のメインモニターに視線を走らせる。

 

「まだ・・・大破艦は出てないよな?」

「私達のフォローが無ければ押し潰されてたかもしれないのは数え切れないぐらいいるけれど!」

《ええ、駆逐艦数名の中破を確認しています》

 

 どこか張り詰めた雰囲気を纏った中村の呟く声に艦橋を覆う全天周モニターに張り付く様に旗艦の戦闘補助を続ける五十鈴とコンソールパネルのスピーカーごしに現在旗艦として海を走ている高雄が返事を返し。

 その報告に小さく息を吐いた指揮官の手元では複数の三等身の小人達が中村にしか見えない紙切れ(データ)を視界不良になるレベルで次から次に空中へと浮かべていく。

 

「ならまだ無傷って事だ! 次弾は徹甲弾だな、照準よし、てー!!」

《了解! 砲撃開始、撃ちます!!》

 

 その紙切れの一枚に記されていた敵艦出現位置を素早くコンソールに入力した中村の耳に高雄の右舷に装備された主砲の咆哮が響き。

 

「なんだっ!? 後ろか! 二番砲撃キャンセル、再照準!!」

《ぇっ? はいっ、提督!!》

 

 横から投げつけられた別の紙切れ(敵艦の位置)に苛立ちながら指揮官は砲撃寸前の艤装に中止命令を割り込ませ、直後に入力された新しい緒元情報に従って蒼い重巡の背中側に装備された第二主砲が半回転して高雄の後方で上空の敵艦載機を撃ち落としていた赤髪の防空軽巡のいる方向へ向く。

 

「このっ、邪魔なんだよっ!!」

 

 高雄の背後で中村の命令通りに照準された第二砲塔の20.3cm連装砲が砲声を高らかに上げ、二発の徹甲弾が空気を抉る音を上げて米海軍の軽巡艦娘アトランタの直近の海面を割りながら急浮上してきた緑目の雷巡チ級の胴体とさらにその向こうで大波をその巨体で打ち砕き艦娘の隊列に主砲を向けようとしていた戦艦ル級の頭部を貫く。

 

「雷巡チ級および戦艦ル級はエリートに着弾、両方とも撃沈を確認!」

「ちょっと撃破して良かったの!? 泊地水鬼を刺激しない様にするって言ってたのはアンタでしょ!」

「奇襲してきたヤツに手加減なんかできるか! 盾に使おうにもそれで怪我してたら世話ないだろが!」

「提督、左舷前方に針路が開きます!」

「アイオワ! 後ろのお嬢さん達に道草を食うのを止めろって言ってくれ! 対空ぐらい全力で走りながらやれってな!」

 

 あまり広くないのに十人以上がいるせいで熱気が溜まっていく一方になっている高雄の艦橋で飛び交う会話について行けずにモニターに拡大されて映るUMA(あり得ない生物)を見た様な顔をしてこちらを見ている米国艦娘達とそっくりな表情を浮かべた戦艦娘アイオワが鮮やかな金髪ごと自分の額を手で押さえ呻く。

 

「どうした寝てるのか! 俺は連絡しろと言ったぞ!?」

「っ!! aye aye sir!!

 

 異常行動を平然と行う連中に対する眩暈を感じながらも湾曲モニターに手を突いた戦艦娘はヤケクソ気味に叫び、ビルの様な高さの津波が蠢く黒い海を何とか転覆せずについてきている友軍へと進撃を要請する。

 周囲を深海棲艦の巨体に囲まれたも同然の場所で日本の戦術アドバイザー達に頼りっきりになる事に多少思うところはあれどすぐに優秀な合衆国の軍人達は了解を返す。

 

「海図じゃ半分越えたが本番はこっからだ! あの水晶島が射程距離に入ったら出し惜しみ無しになる!」

「田中艦隊から入電! 味方にルートを外れた部隊がいるそうです!」

「道草の次は迷子か!? あと少しのところで、ったく!」

「深海棲艦に割り込まれて、このままだと本隊から引き離されるでち!」

 

 舌打ちをしながら中村は自分を見上げている手のひらサイズの妖精達の一人、星柄の三角帽子を被ったセーラー服が指揮席の肘掛けに浮かぶ羅針盤へと星飾りの付いたステッキを振り下ろす様子を横目にする。

 

「五十鈴いけるよな!?」

「誰にモノを言ってるつもり? いつでも問題ないわ!」

「吹雪、先導役を田中艦隊に回せ! どうせ今だって囮とラジオ放送しかやってないんだやれるだろ!」

 

 そうしている間に17m強の身長を持った高雄のさらに上から覆い被さろうとしている津波が中村達のいる艦橋に大きな影を作り、同時に指揮官がコンソールパネル上で掴み取った半透明のカードが光粒となって弾ける。

 

『[空母は高度を1000mより上に上げるな! 艦載機もだ! 低空でないと戦艦棲姫の燃料気化爆発を受ける事になるぞ!]』

 

 遠くから通信に乗って聞こえてきた田中艦隊の米軍艦隊に対する警告を背にした高雄の目の前、巨大な壁にしか見えなくなった津波の側面に金の輪が輝き、その中心へと手を伸ばした蒼い長袖とブラックシルクの指先が光に解けて中村達がいる艦橋が眩い光に包まれた。

 

「分かってるよなっ? ポコポコ増えやがるあっちと違ってこっちは一人でも沈んだら(ロストしたら)一気に崩れるんだぞ!」

 

・・・

 

 黒波の反対側へと金色の光と共に突き抜いて海上に現れた碧い宝石の様な瞳に宿る白く輝く花弁が黒い海原に無数に蠢く黒鉄の怪物達を捉え。

 直後、水飛沫を切り裂く様にツインテールと共に横薙ぎに振るわれた突撃銃型の高角砲が碌に狙いも付けず連続で砲弾を吐き出し、その背で光粒の煙を揺らめかせる背部艤装でも対空機銃類が出鱈目に曳光弾の様な弾幕を空へと打ち上げる。

 

《五十鈴には丸見えよ?》

 

 しかし、ただただ無作為にばら撒いただけにしか見えない砲弾や銃弾の全てがまるで自分の意志を持っているかの様に放物線を描いてていた弾道を途中で急角度に捻じ曲げ、彼女の有効射程距離に存在している深海棲艦の急所を貫いて内部から爆発炎上させていく。

 

《何? さっきアナタが言ったんでしょう? もう手加減は要らないって》

 

 一斉射した数十の主砲弾と数百の機銃弾を全て左目に宿る異能力で深海棲艦に叩き込み、三十隻の火柱を荒れ狂う海上に作り上げた軽巡艦娘は可憐な容姿を裏切る獰猛な笑みをその顔に浮かべ。

 

《だから余計な心配しないで、この五十鈴に任せておきなさい!》

 

 本隊からはぐれた米軍艦娘達と本隊を分断しようとしている深海棲艦の鉄壁へと一直線に動力機関を吠えさせた。

 




 

 何を言ってるんだね?

 お互い、もう笑い話で済む段階はとっくに踏み越えているじゃないか。

 
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