艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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“言い訳などしないさ”  



“結果は決まっていた”


“始まる前から”




第百五十話

“時空観測能力の転写完了”

“迂回路から必要霊力の確保”

 自分の中にある数多の思惟(言葉)ですら表現できない激しい衝撃に襲われながら手を伸ばした先で黒色が溢れ出す。

“基準点・・・確定”

“術式起動、観測開始”

豕雁慍豌エ鬯シ様、如何ナサイマシタ?」

 

 そして、確かに自分の手は夥しい血の流れに曝され黒く染まった。

 

「アラ、ドウヤラ私達ノオ姫様ハ寝呆ケテラッシャルミタイ、フフッ」

 

 確かそのはずだと言うのについさっき目の前で輪郭を失い水の様に指の間から溢れて落ちた相手に再び触る事ができた事に、指先に白い肌の感触と穏やかな微笑みが返ってきた事に驚き戸惑う。

“情報取得、入力共に問題無し”

“試算結果、8766152時間後、誤差±30秒”

 そんな自分を見て何を思ったのか戦艦の姫が浮かべた穏やかな微笑みに荒ぶる波を物ともせず急激に接近してくる敵との戦いの最中である事を忘れかける。

 

「オイ、謌ヲ濶ヲ譽イ蟋ォ、貴様・・・」

 

 水晶の森の残骸と広い海原を染め上げる一面の黒色を見ているはずの視界に重なる薄膜が映す景色、上下左右全て綺麗な平面で作られた洞の中(室内)を見せるその中で聞こえた奇妙な音色に視線を移動させればそこには涼し気な白銀の輝きを背に流す空母の姫の姿があった。

 

「何ヨ遨コ豈肴」イ蟋ォ、ソノ目ハ?」

 

 先の戦いで散りもう何処にも居ないと聞いていた義姉妹(同盟者)があまりにも自然体で傍に立っている光景に否応なく息が詰まる。

 

 艤装の動きが奇妙なほど遅く感じ始め、自在に舞わせていた飛行端末の制御に遅延が発生し、矮小な敵が喚き散らす無礼極まる砲声が遠のいていくような錯覚に襲われる。

 眠気にも似た視界を覆うように広がる異常を振り払うために何度も瞬きを繰り返し、反応が鈍くなっていく身体に命じて腕を持ち上げて今ここに居る筈のない存在ごと敵艦の群れをかき消そうと指先を伸ばす。

“観測情報を感覚器へ上書き入力”

“感覚器の処理能力を強制加増”

 しかし、利き手に空間を歪めて引き寄せる力を集めようとした自分の目に手首から先が無い腕(・・・・・・・・)と空母の姫の姿が鮮明に映り、傷一つ無い利き手(・・・・・・・・)を伸ばした水平線の向こうから押し寄せてきた従僕達の乱雑な思惟が頭の中で暴れる混乱を徒に増大させていく。

 

「ヨモヤ貴様、豕雁慍豌エ鬯シ様ノオ眠リヲ妨ゲル様ナ不埒ヲシテナドイナイダロウナ?」

「アノネェ、人聞キノ悪イ事言ワナデクレル?」

 

 そして、思惟(言葉)では無く妙に甲高い汽笛(音声)の強弱でやり取りをしているらしい二人(二隻)の様子に拭い切れない(徐々に消えていく)違和感を感じながらも鮮明になって何処からともなく意識に入っていくるその光景に興味が掻き立てられ。

 

 気付けばより強く自分の感覚が外側から内側へと引っ張り込まれていく。

 

「流石ニ私ダッテ時ト場合グライ選ブワヨ」

「フンッ、鬼級トハ言エ駆逐艦ニマデ手ヲ出スヨウナ奴ガ言ッテモナ」

 

 ムッとした表情で憤る戦艦の姫と涼し気な顔でそれに対する空母の姫。

 

「・・・ソレトコレハ話ガ違ウデショ?」

「ダガ、日頃カラ自ラノ行動ヲ反省シナイカラ疑ワレル事ニナル」

 

 それぞれ姫級の格に相応しい力を宿す二隻の慣れ親しんだ気配に呆気に取られていたら自分の白い手袋に包まれた手が勝手に動いて、口元を押さえたかと思えば唇を小気味よく擽る小さな汽笛(笑い声)の音が零れる。

 

「モゥ! 豕雁慍豌エ鬯シ様、笑ッテイナイデ遨コ豈肴」イ蟋ォ二言ッテヤッテクダサイ」

 

 違和感があるのに何が違うのかが分からない。常に頭の中をかき回されている様な不快感と心地良さが混ざる感覚。

 

 肌を撫でる自分の手が視界にあるだけで確かな形で表現する事のできない不自然さが疼く。

 

 けれど、手の平が腕の先にあるのは当たり前(・・・・)の事だから何一つ変な事は無い。本当に無いのだろうか?

 

「答エニ窮スルダケナラマダシモ殿下ノ御手ヲ煩ワセルカ・・・マッタク」

 

 そうして正体の分からない違和感の在り処を探していたら空母の姫に掛けられた疑いの視線に根負けしたらしい戦艦の姫がこちらへと仲裁を求める様な表情と仕草を見せる。

 何故かは分からないが両方から思惟(精神)の交わりこそ伝わってこないけれど戦艦の様子は何某かの不当を訴えてきているのは一目で理解できた。

 

 そう、この二隻は目をつぶればすぐに思い出せるぐらい些事から大事まで何かに付けては競い合い、仲裁しても何かの切っ掛けで懲りずにお互いの領分に横槍を入れては額と角を突き合わせていたな、と懐かしくなる。

 

「ネェ、遨コ豈肴」イ蟋ォ

「ハッ、殿下!」

 

 どちらも相手より自分が上位であると自負して向かい合えばあからさまに疎ましそうな表情をするのに明確に相手を否定や拒絶をするわけでもなく、度々、二隻だけで連れ合い親密に戯れている姿を見た事もある。

 

 そして、いつも通りに仲違いしている仲の良い近衛艦達の様子を楽しんでいたら今度は空母の姫に向かって手だけでなく口まで勝手に動き出した。

 

「ソンナニ心配シナクトモ昨晩ハ謌ヲ濶ヲ譽イ蟋ォト何モ無カッタワ、安心シナサイ」

 

 そして、喉の内側が小刻みに震えると言う今までに経験のない不思議な感覚と共に勝手に動く舌と唇が目の前の二人(二隻)がさっきから使っている汽笛と同じ音を奏でる。

 

「ソウデスカ・・・」

 

 数秒、ワタシ(・・・)の口から出た()を聞いた空母の姫は戦艦の姫を威嚇するのを止め行儀よく姿勢を整えたものの、その表情は釈然としていない心情をありありと示しており白い前髪を掻き上げつつ形の良い鼻を小さく鳴らしていた。

 

「タダ、ソウネ、フフッ♪」

 

 奇妙な違和感はまだ少し感じるけれど目の前にいる二人が間違いなく自分と義姉妹(同盟者)の契りを交わしたあの姫級達であると確信したと同時にまた口が勝手に動き、さらに不思議な心地良いくすぐったさが胸の奥で揺れ大きくなっていく。

 

「地上ノアクセサリーノデザインモ中々ノモノナノヨ、謌ヲ濶ヲ譽イ蟋ォ、ソウヨネ?」

"観測対象と当該個体の同調率、上昇?"

豕、雁慍豌エ鬯シ様!?」

"再調整、抑制物質の分泌促進"

 ワタシの汽笛(言葉)に空母の姫は戸惑い小首を傾げ、それと対照的に戦艦の姫はとても慌てふためく。

 

「コノ子ッタラ出航前ニ地上ノ、日本ノオ店ノカタログヲ取リ寄セテタノ、ワタシニ一緒ニ選ンデ欲シイカラッテ」

 

 空母の姫直属の下僕に手を出した時に黒鉄のロングブーツで背中を思いっきり蹴られてもここまで狼狽えて無かったのに、と思い出しながら初めて見る戦艦の姫の慌てっぷりに感じる新鮮さがこれ以上なく愉快で仕方がない。

 

「デモネ、私ガ青紫ノリボンガ良イッテ言ッタラ謌ヲ濶ヲ譽イ蟋ォハ玉虫色ノケープノ方ガ銀ノ髪ニ合ウッテ言ウノヨ?」

「待ッテ! 姫様、後生デダカラソレ以上ハ!」

「リボン? ケープ? 一体何ノ・・・ン?」

 

 自分の口が開いては閉じてを繰り返して紡ぎ出すその音がどう言う意味を持っているのか、どうして姫級達から今まで見た事のない無い反応を引き出せるのかは分からず。

 

「全部欲シクナッチャウグライ素敵ナ商品バカリデ一晩中見テテモ飽キナカッタワヨ」

“観測対象との同調率、再度上昇?”

 しかし、ワタシは想像もしてなかった汽笛(声帯)の新しい使い方と言う発見(未知)へさらに興味に唆られて勝手に動く口をそのままにする。

″調整処理、失敗、再試行・・・再試行”

謌ヲ濶ヲ譽イ蟋ォ! ヤハリ殿下ノ寝所ニ忍ビ込ンデイタンジャナイカ!」

「チョ、チョット豕雁慍豌エ鬯シ様ノオ知恵ヲオ借リシタダケヨッ!」

「貴様モ殿下ノ近衛艦デアロウガ! 今回ノ外遊ハ豕雁慍豌エ鬯シ様ニトッテ初ノ公式外交ナノダゾ!?」

 

“まさか、干渉を振り切った?”

“この短時間で変異を”   

 

 そして、ワタシの鳴らす汽笛()を切っ掛けにしてクルクルと表情を変えては甲高い音を鳴らし合い、じゃれ合う二隻を眺めていると不意に目の前の光景に奇妙な感覚(懐かしさ)が溢れて胸の内を満たす。

 

    “”     

成長したと言うのか?

 

「嗚呼・・・、二人ハ本当ニ子供ノ頃カラ変ワラナイワネ」

 

 思い通りに(意に反して)動く身体の中で自分の喉を震わせる音を聞いていたらジリッジリッと途切れ途切れのノイズが意識の上を走った。

だが、抵抗力を得たなら何故観測を停止させない?

 義姉妹の手を借りて揺り籠から立ち上がり完成したばかりの両足で穢れ一つ無い水晶粒の浜に夢中で足跡を作った記憶。

 

 妙に身体が小さい戦艦と空母の姫級達が絵本を自分が先に読むのだと意地を張って取り合っている思い出。

介入と改竄も認識していない?

 駆逐艦も巡洋艦も戦艦も空母も、山程の大艦隊をと求めていた望みが叶い美しい義姉妹と共にひれ伏す艦隊を見下ろした時の感動。

 

 静止の声を上げて追いかけてくる家臣達を尻目に何度もお城を抜け出して三人で城下町や海底を探検した輝かしい日々。

"ならばこの()自身の意志?"

 知っている記憶と知らない記憶が混じり合い、虹色に照らされた水晶の島(マナの光に満ちた海底王国)で戦艦の姫である謌ヲ濶ヲ譽イ蟋ォと空母の姫である遨コ豈肴」イ蟋ォの二人や数えきれない程たくさんいる従僕達と過ごした日々の境目が分からなくなっていく。

 

未来から過去への記憶の逆流

・・・そうか”   

 

 けれど両方とも同じワタシ(・・・)の記憶、全てこの私(・・・)が手に入れた形無き宝物(所有物)である事に間違いない。

生きる時代は違えど” 

『日本国入国管理局ヨリ承認ヲ確認、コレヨリ新横須賀鎮守府港ヘノ入港ヲ開始シマス』

同じ魂を宿すが故、か

 大きな渦を巻く様に頭の内側から溢れ出てきた全く知らない(良く知っている)思い出に浸っていた(溺れていた)私の視界が何処からか聞こえてきた従僕の声(アナウンス)を切っ掛けに開け、突き抜けるような青空でイッパイになった。

 ふと横目に振り返れば驚くほど洗練された豪奢な装飾が輝く流線形の浮島(客船)が天からの陽の光で輝く海にあり、何故かつい先ほどまで私達を乗せて運んでいたと分かるそれの開口部から規律正しい隊列をもって海面へと降りてくる数百()同胞同族(深海棲艦)に、その先頭に立っているという事実に自分を構成する鬼級(騎士)としての本能(欲望)が意気を漲らせる。

 

「スゴイワ、見テ二人共・・・全部、全部ガ、トッテモ綺麗!」

 

 しかし、それは直後に自分や義姉妹達が作り出したどの浮島(寝所)よりも大きいと分かる大地一面に緑色が広がりその合間から宝石の様に輝く柱が生えている光景への驚きによって上書きされ、その素晴らしい未知に満ちた世界の中で一際強く存在感を放つ遠くに見える山よりも高く高く天上の果てへと登っていく巨塔に圧倒され立ちすくむ。

 

「エエ、流石ハ御先祖様達ヲ退ケタ者達ノ末裔ト言ウ事カシラネ・・・特ニアノ宇宙マデ届クト言ウ塔ニハ感嘆スルシカナイワ、確カ・・・軌道エレベーターッテ言ウンダッタカシラ?」

「フンッ、ソレハ言葉無キ時代ダッタカラダ、カツテノ同胞同族ニ今ノ我々ト同等ノ知恵ガアッタナラバ深海棲艦ノ祖ハ人間ヨリモ優レタ王国ヲ地上ニ造リ上ゲテイタ」

「アラアラ、後知恵ナラナントデモ言エルワネェ」

「シカシ、古今東西、敗北主義ガ国ヲ栄エサセタ事ハ無イ、ソレニ如何ニ高イ塔ヲ建テ並ベヨウト我ラガ祖国ノ美シサニ勝ルモノデハナイ」

 

 意味は分からないがそれでも耳に心地良く感じる音色を左右で奏でている二人に寄り添われ、まだ幾らか距離のある色鮮やかな大地へすぐにでも飛び込んでみたい(遊びに行きたい)と生来の欲しがる心が胸の中で強く高鳴った。

 

「ッテ! 豕雁慍豌エ鬯シ様オ止シニナッテクダサイ、到着シタ途端ニ国際問題トナレバコノ場ニイル全員ガ処分サレルダケデハ済マナクナリマス!」

「確カニ謌ヲ濶ヲ譽イ蟋ォノ言ウ通リ、此処ハ我々ノ領地デハアリマセンノデ・・・マァ、領地デアレバヤッテ良イト言ウワケデハナイワケダガ

 

 しかし、今まで見た事がないぐらい大きな大地、あの色鮮やかな島々にも引けを取らない素敵な宝物を身の内から溢れる衝動に任せてすぐにでも自分のモノにするべく手を伸ばし力を使って近道を開こう(引き寄せよう)としたら左右からオーラとして見える程強い霊力を溢れさせた二本の腕に能力の発動を押さえ込まれる。

 

 そして、左右に侍る二人からいつか見た事がある顔で見つめられ、不意に艦隊を統べる者としての立ち振る舞いを二隻から学んでいた水晶の島での日々が脳裏に過った。

 

 どちらの世界でもいつも仲違いしている二人だと言うのに艦隊の支配者(王家の後継者)にあるまじき行いをワタシが成そうとした時には揃ってそれを思い止まる様に進言してくるのは変わらないらしい。

 

「ソレハ・・・仕方ナイワネ」

 

 姫級である二人から見ても上位者であるワタシの不興や罰を恐れながらも覚悟を持って行われるそれらは大凡において正しく、今、二人が鳴らして伝えようとしている音の意味は全く分からないけれど今回もそう(・・)なのだろう。

 だからかワタシの意志によらず勝手に動くこの私の身体も口元を少し尖らせつつも肩を軽く竦めて手の先に編み上げようとした霊力の流れを解いて緑の大地に向けていた手を下した。

 

「ソウソウ、行儀良クシマショウネ」

「サテ、ヤット案内役ガ来タ様ダ」

「大方、私達ノ従僕ガ整列スルマデ待ッテイタンデショウ?」

「確カニ多少時間ヲトッタカ・・・訓練内容ノ見直シガ必要ダナ」

 

 ホッと一息吐いて微笑む二人の紅い瞳が向く方向から近付いてくる幾つかの艦影、それらは色や形は違えどあの矮小で醜悪な欠陥品・・・と見紛う程に形だけでなく力の質が似ていながらも私達と同じ大きさ(・・・・・)の身体を持って海を進む者達の姿。

 

「ソウ? 私達ヨリ船足早イダケデショ、艦娘ガ」

「深海ノ兵ハ低練度ダッタ、ナドト先方ニ言ワレレバ恥以外ノ何物デモナイダロウ」

「アンマリ厳シクスルト可哀想ヨ? 貴女ノ艦隊ッテ只デサエ規律デガチガチナンダモノ」

「ムッ、放蕩者ノ従者ト呼バレル方ガ哀レダロウニ」

 

 感じ取れる気配から間違っても同胞同族(深海棲艦)ではないと分かる、しかし、伝わってくる気配は憎むべき敵のそれであるのに自分の身体は艤装の展開すらせずに洗練された動きで艦列を整えていく彼女達の動きを静観し、その先頭で大きく真っ白な布地が海面に広がるロングコートを羽織った戦艦が一歩前に歩み出て右手の先を栗色の前髪が揺れる額に当て余裕を持った笑みを浮かべた。

 

「横浜鎮守府第一艦隊代表旗艦、大和型一番艦大和です。親善大使殿のお迎え及び護衛として参りました」

「出迎エ御苦労、コノ御方ガ我ラガ旗艦ニシテ此度ノ全権親善大使、深海七国ノ盟主タル螟ェ蟷ウ豢倶クュ螟ョ王国、第一王位継承者デアラセラレル豕雁慍豌エ鬯シ殿下デアル」

「ソレデハ殿下、御挨拶ノ言葉ヲ頂キタク」

 

 そうして白く長い衣を羽織り逞しい黒鉄の艤装を背負う戦艦が不思議な動作(最敬礼)と共に発した淀みのない澄んだ汽笛の音に私の左右に控える戦艦と空母の姫が鷹揚に頷き、こちらへと導く様に差し出された姫級二人の手に従い私の身体が細波を踏みしめる様に一歩前に出てまた勝手に口を動かそうとする。

 

“貴キ方々ニ於カレマシテハ御機嫌麗シク、御尊顔拝スル栄誉誠ニ有リ難キ幸セデアリマス”

 

 しかし、その直前、姫級である義姉妹の二人だけでなく周囲に並ぶ普通種の従僕達からすら不自然なほどに聞こえてこなかった思惟が目の前で姿勢を正していた戦艦から聞こえてきた為に口だけでなく体中が強張り私の表情が驚愕に歪む。

 

「マ、マサカ・・・今ノッテ思惟!?」

「馬鹿ナ! 我ラデモ上位種ヤ先祖返リデモナケレバアンナ強サデ発振デキワケガ!?」

「デモ冗談ミタイニハッキリ聞コエタワ!」

「シカシ、彼女ハ艦娘ダゾ!?」

 

 呆気に取られながらも聞こえてくる汽笛の音(会話)に振り向けば姫級の二人が揃って目を丸くし、少し離れた場所に並ぶ従僕達までもが何故か泡を食った様にザワザワと汽笛()を騒めかせながら私の目の前にいる体の大きさも力の量も姫級に劣らぬと分かる白い衣を纏った不思議な戦艦へ視線を集中させる。

 

「ちょっと何で、は? 挨拶ハ大事、ってでもよりにもよって今って・・・今日のオヤツは無しね、いいえ、酷くないし当然よっ」

 

 少し聞いただけでも分かるぐらい丁寧で礼儀正しい思惟(挨拶)に対して過剰な程に狼狽える私の同胞同族達の姿や背後に列を成し控える重巡や駆逐艦の格を感じる者達が事態を呑み込めないらしく首を傾げる様子を横目にして戦艦の彼女はその整った顔立ちに浮かべていた笑みをピクピクと痙攣させ口の中だけでモゴモゴと何かを呟く。

 

「マァ! モシカシテ貴女ッテ私達ノ同族ナノ!? 見タ目ガ完全ニ地上ノ人ダッタカラ気付カナカッタワ!」

 

 そして、いち早く強い驚きから我に返った私はすぐに小走りで目の前の戦艦へと駆け寄り、白いアームカバーと金ボタンのカフスが飾るしなやかな両手を取り興奮と感動を伝えようと何度も振る。

 

「あ、いえ、決してそう言うわけでは無くですね・・・」

「深海ト地上ノ間デ和平ガ結バレテモウ百年以上、地上ノ人ト結婚シタ同族ガイルノモ知ッテルワ、ダカラソウ言ウ事ナンデショ?」

「え、ぇ? 確かに深海棲艦のハーフやクォーターは結構いますけど・・・いや、そうじゃなくて、ど、どう言えばいいの!?

 

 緑豊かにして輝く巨塔が並ぶ大地からやってきた者が発した思惟(言葉)、それは紛れも無く上位者である私への敬意と恭順を示すモノ。

 

「私達ノ国ニハ百年前ニ地上ノ人ト結バレタ姫級ノ御伽噺ガアルノ、今デモ人気デ色ンナ劇場デ何度モ上演サレテキタ物語ヨ!」

「は? え? いえ、これには少し特殊な事情がありまして、そのぉ・・・何笑ってるのっ! アナタのせいでしょ!? なんでよりによってこんな大事な時にぃ

 

 その意味する事は即ち私の支配下へと加わる事を望んでいると言う事であり、同時にどうして二隻(二人)義姉妹(同盟者)が始終だんまり(・・・・)を決め込んでいたのかその理由をワタシはやっと理解する。

 

「ダカラ、怖ガラナクテモ虐メタリナンカシナイワ!」

「だ、だから本当に違うんです、お願いですから落ち着いてくださいぃ」

 

 つまり、愛すべき我が近衛艦と従僕達は眼前に広がる大地と珍しい姿形を持った新たな同胞を私に献上する為に、それをより新鮮なモノとするべく敢えて秘密にして私をここまで連れてきたのだろう。

 

モォ、強情ネ、ナラ本当ハ秘密ダケド私ノ御祖母様ハ地上デ

「え? え? なんで接触通信が??」

 

 度重なる失敗を返上して余りある素敵なプレゼントをこうして用意して見せた優れた二人(二隻)同盟者(義姉妹)の鮮烈かつ健気な計らいに心が弾む。

 

「チョッ、ソレハダメヨ殿下!?」

豕雁慍豌エ鬯シ様! ソレ以上ハナリマセン!!」

 

 そして、はしゃいで仕方ない心のままにあの色鮮やかな島々では無いけれどより大きくより鮮明に瞳に映るもの全てが自分のモノになるのだと確信し新たな同胞となる白衣の戦艦に褒美として肌を許し情を重ね様としたら目を赤白させて慌てふためく戦艦と空母の姫に抱きしめられ新たな同胞から引き離される。

 それと同時、再び視界が義姉妹の二隻は言うに及ばず万に及ぶ従僕一人(一隻)たりとも失う事無く新たに加わった不思議な艦達(艦娘達)友人(人間)達との思い出を詰め込みさらにさらに大きく広がっていく繁栄(未来)で埋め尽くされていく。

 

“艤装制御権、奪取完了”

 ふいに胸を強く打つ感動(痛み)の熱さに涙があふれた。

 

 そうだ、ワタシは何も失っていない。失わない。

“障壁回路への霊力供給を停止”

 全てがいつか私の所有物となる(ワタシへと戻ってくる)

 

 夢見心地の果てに視界がひび割れて歪む。

 

 昏い海の底でワタシと共に産まれて以来ずっと天井を七色に染めていた輝きが砕ける。

“全兵装再装填、取り消し”

 けれどそれはこれから(いつの日にか)訪れるその瞬間を想えば些細な事でしかない。

 

 ふと、遠くから聞こえてきた“我ラガ泊地(女王)ヲ守護レ”と魂が張り裂けそうなほど強く叫んでいる無数の思惟に向かってひび割れ始めた腕を伸ばす。

“重要機関部への致命的損傷”

 ワタシはもうそちら(現実)に戻れない。戻りたくない。

 

 気付けば取り返しがつかなくなるほどにワタシを内部から聞こえる何者かの囁きが目の前に差し出したあの綺麗な世界が欲しい(未来へ行きたい)と思ってしまっていた。

“応急修理の実行は・・・許可しない”

 

 だからこそ、自らの手の平が無い腕が向かう先、たくさんの所有物(宝物)が壊れて無くなった(亡くなった)辛い世界(現実)に向かって。

 

 割れた装甲から黒い()を撒き散らしている緑目の駆逐艦に、その後ろに続き押し寄せる多様な巡洋艦に、力強い戦艦に、技巧に優れた空母に、賢い潜水艦に、丸いお腹の輸送艦へと。

 

 敵の攻撃に装甲を穿たれても黒鉄の壁と化して突き進む同胞同族達、私の所有物でありながらその命を勝手に使い果たそうとしている全ての宝物(艦隊)に向かって。

“粒子通信回路、起動を確認”

“お前達は決して無くなってはならない(死んではならない)

 

 と、思惟(勅命)を発する。

“広域思念の放出、停・・・”

“そして、いつか復活する泊地(ワタシ)の下へと必ず帰投せよ”

 

 そう、思惟(願い)を発する。 

“・・・実行を、許可”

 気が遠くなるぐらい遥か彼方にある眩く美しく温かさに満ちた繁栄を見せる代償としてワタシから()を奪っていく忌々しい誰かの呼び掛けに(悪魔の囁きに)抗い。

 

 痛み一つなく海へと還る心地良さに包まれて燃え尽きかけている憤怒と最後に残った支配者としての矜持を振り絞って私は従僕達の魂へと願いを掛けた(呪いを掛けた)

 

当該個体(泊地水鬼)、生命反応”

“消失を確認”

 





未来への道は善意で創られる。

だから、きっと次に生まれてくるのは平和な世界。


そうとでも思わなければ何のために今、罪を重ね続けていると言うのか。

願わくば、地獄に堕ちるのは人間を止めた悪魔だけでありますように・・・。

 
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