――やっと、お戻りになって真っ先に手を付ける案件がこれなんですか?
まったく何を言っているのか、むしろこれ以外にはありえないと言うのに
――あら、さっそく詳細の確認ですか? ・・・では今資料をお持ちします
まったく準備の良い事だ・・・優秀過ぎて嫌になる
――どうぞ、情報はこちらに
二日と言わず一か月は実家とやらでおとなしくしていれば良いモノを
□□ 司令には珈琲をお出しするべきでしょうか? それとも紅茶を・・・あ、はい。了解です。直ぐにお持ちいたします
・・・なのに何故、お前達は私の前に現れるッ! 何故、増える!!
第百五十三話
四角く切り取られた灰色の寒空の下、四方を背の高い寮の壁で囲まれているおかげで一月初旬の冷たい海風にさらされずに済む場所。
「結局、あれだけ皆が皆大袈裟に騒ぎ立ててさ、終わってみれば見事にな~んにもなかったわね」
運動場と言うには狭く、中庭と言うには少し広い、東京湾沿岸に存在する鎮守府と名付けられた某所で暮らす艦娘達にとっては馴染み深い広場の一角でオレンジ色のツインテールが曇り空へしみじみと呟く。
「いやいや、流石に何にもってわけじゃないだろ」
雪でも振り出しそうな空を見上げているツインテールの駆逐艦娘、陽炎へとショートヘアの特型駆逐艦が怪訝そうな顔の前で軽く手を横に振る。
「でも、気持ちは分かる、・・・いっちばーん頼りになる艦娘がここにいるのにさぁ」
普段と比べるとかなりテンションが低い白露型一番艦の前でパチパチと火の粉がはぜ、灰色の煙が同じ色の空を目指す様にゆらゆらと上っていく。
「そう言えば鎮守府から救援に出たのって結局、金剛さん達だけ?」
「そうでしょ、ひぃ、ふう・・・8人?」
「ん~、先行した中村さんの艦隊に秋津洲が入ってたから一応9人だぞ」
ぼんやりと眺めていた空から視線を正面に戻した陽炎が手に持った火ばさみで側面に空気穴を開けた一斗缶の中の暖かな火を揺らす炭を突っつきつつそう聞けば、同じ焚火を囲んでいる深雪と白露が気の抜けた顔で火の上で炙られている串焼きを適度に回転させながら返事を返す。
「それにしたって少なすぎでしょ、両手の指で数えられる程度しか増援送らないって戦闘待機してたの一つや二つの艦隊じゃないのよ? 鎮守府全体よ?」
「だよなー、こんなんだと非番日返上で待機する必要なんかあったもんじゃねぇ、と・・・焼けた! あちちっ」
「なんか舞鶴組や佐世保組も同じだったみたいだし、あ~ぁ、年末に詰めてた予定ぜーんぶ台無し、・・・あれ、塩だけ? まさか二人も他に調味料持ってきてないの?」
長串に刺さっているホカホカのジャガイモと香ばしい
「忘年会どころか新年会の計画も立ち消えになっちゃったし、ホントなんだかなぁ・・・深海棲艦に来る時期選べとか言っても意味なんかないんでしょうけど~」
二階の窓から垂れ下がる大きな迎春の二文字や今年の干支の絵など本当なら紅白めでたい装飾と共に年末年始の賑やかさを彩るはずだったモノ達が引っ込むタイミングを完全に逃して一月半ばの寒風に揺れている。
「だいたいな、何でうちが米帝のお家騒動で右往左往させられなきゃなんないんだ?」
「まぁ、それはそう」「うん、右に同じ」
焼きジャガをハフハフと頬張りながら眉をしかめる深雪の物言いに白露が食べかけの鯵の串焼きを手に何度も頷き、どこか物悲しく揺れる垂れ幕から視線を戻した陽炎は苦笑いを浮かべる。
「要するに・・・泰山鳴動し鼠一匹って事?」
「だな」「あははっ」
そんなふうに魚や芋を炭火で焼いている三人からは広義の意味では一連の事件の関係者であっても当事者ではないと言う微妙な立場である為か山一つどころかアメリカ合衆国ひいては世界までもを震撼させた深海棲艦の大規模侵攻に対して自分が感じた不満ぐらいしか出てこない様である。
「でもさ、よく考えてみれば今回の事件って一歩間違えばハワイだけじゃなく太平洋が丸ごと深海棲艦に奪われるとこだったんじゃない?」
「ん~? おいおい、なんだいきなり、それは流石に言いすぎってモンだぞ」
「あっ、そっか、あっちの世界だと太平洋側の制海権ってほとんど深海棲艦に取られてたんだっけ?」
「白露まで・・・あっちの世界ってもしかして中村さん達の? 言われてみればそんな事も言ってたな、あの人」
期間にして半年にも満たないものの一時期は同じ艦隊で釜の飯を食べていた事がある三人はその時に自分達の指揮官をやっていたホラ吹き男の言動を頭に思い浮かべ。
「でさ、もしかするとホントなら今回のハワイ防衛って失敗してたって事じゃない?」
「あー、そんで要塞型の姫級に制圧されたハワイから現地で奮戦する友軍を救出する為に北海道からアリューシャン列島迂回しての大作戦! 一航戦、二航戦、五航戦そろい踏み空母機動部隊八面六臂の大活躍! ってなってたかもしんないって事?」
それは陽炎達にとっては真偽どころか存在すら定かではない別世界の話。
「ありえねー!」
「よねー!」
「でしょー?」
他人を揶揄う事に過剰な情熱を注ぐ悪癖を持った特務士官が得意気に彼女達へ
「て言うかあの話が本当ならとっくの昔にシーレーン崩壊してなきゃなんなくなるんだし」
「ところでなんでこのカボチャ丸ごとなの? 包丁もまな板も無いの、なんで?」
「あ、中村さんと言えば話は変わるんだけど、今、白露って能代さんと同じ艦隊よね? あの人・・・大丈夫?」
「せめてマヨとか、え、能代さんが大丈夫って? ・・・ぁっ、あー、うん、何言いたいのかは分かった」
不意なセリフと自分の髪を軽く指に絡ませてこちらに見せる陽炎の様子に何かを察したのか白露は手に持っていたすこぶる皮の固いカボチャを食材が入っている籠へと戻してげんなりとした表情を浮かべた。
「今日の朝、洗面所で顔洗ってたらいきなり『阿賀野ねぇったら寝癖だらけになってるわよ』とか言いながら髪いじられてさ、驚いたってもんじゃなかったわよ、あれ」
愚痴とも文句とも言えない陽炎の微妙な物言いに白露は「そんな事私に言われても知らないってば」とため息混じりの呟きを返して何かを探す様に視線を虚空へと巡らせる。
「あー、だから今日妙に艶々してんだなその髪」
「もー、そんな事より味付け、はぁ、仕方ないなぁ・・・誰か暇? ちょっと持ってきて欲しいのあるんだけど~」
そんな二人を横目にthe・他人事とでも言う様な態度で深雪は野菜籠の横に置かれたクーラーボックスから鶏肉とネギが交互に刺さった金串を数本まとめて取り出し一斗缶コンロの上に並べていく。
「げに恐ろしきは長期間姉妹艦と合流できない艦娘が発症する病気だな~」
「正にそれね、心構え無い状態で絡まれるとどうしていいか分かんなくなるし、案外しっかりしてる人ほど発症しやすいみたいよね」
「あのさぁ、私いつも思うんだけどとりあえず病気って言い方は良くないと思うんだよね」
普通の人間がそれをやれば電波人間だの精神異常者だのとレッテルを張られて病院行きになる事確実なのだが白露の弁護する通り感情表現豊かに虚空に向かって話しかけている少女達の姿がどんなに奇妙に見えても艦娘に限定して言うならばそれは病気などではない。
「陽炎も他人事みたいに言ってるけど私達だって通信中につい身振り手振り出ちゃう事あるでしょ」
「でも普通に連絡する以上に姉妹艦通信にハマっちゃう子達って言っちゃ悪いけど実際病的に見えるじゃん」
とは言え艦娘特有の不思議能力の一つ、離れた場所にいる姉妹と電話なんかより手軽に連絡が行える便利な能力だが【精神の混線】と言う別名で呼ばれる事もあるそれは時として言葉だけでなく感情や五感まで相手と共有してしまうのも事実。
長時間もしくは頻繁にその能力を使い続ければどれだけ使用に慣れていると自負する者でも話している相手が自分の目の前にいると錯覚してしまう程度には脳内と現実の間にある感覚にズレが生じると言う無視するには少々大きい副作用が発生するのだ。
「って、ちょっと深雪! 一度に並べ過ぎ焦げちゃうわよ!」
なので
「なぁ~、陽炎・・・そう言やさ、さっきの
「・・・うん、ところで話は変わるんだけど!」
焼き鳥の焼き方に文句を付けられたお返しか深雪からの「お前の姉妹にも
「なんか瑞雲教、いつの間にかマジの宗教みたいになってきたよね・・・初めは道楽クラブ活動みたいなのだったのに」
なんとなく、本当になんとなく気になった事を口にしてから陽炎は改めて鳥居の神額に【瑞雲】と書かれた神社、その横に鎮座する全長2.7m全幅3.2mの物体を視界に収め、かつて旧日本海軍にて運用された水上偵察機の1/4スケール模型と純和風神輿が合体したかのような悪ふざけの権化と言える存在に失笑を漏らす。
「確かにあそこまでとは思ってなかったよなぁ、てか、瑞雲お神輿とか誰が言い出したんだ?」
「誰って十中八九、日向さんでしょ、予定通りだったら瑞雲神社のメンバーが担いだあれの上で新年の祝砲をあげるとか言ってたらしいよ」
「いや、深雪さまはもがみん辺りが怪しいと思うぞ、なんたって
一部の同好の士を除くほぼ全ての艦娘から異常瑞雲愛好者として扱われている自称・航空戦艦もしくはその瑞雲マニアを何故か師匠と呼んでいるボーイッシュな重巡のどちらかがあのやたらと場所を取る暗緑色の物体を作った犯人だとお互いに偏見まみれの推理を交わす二人に陽炎は軽く肩をすくめる。
「一番初めのご神体は時津風が作った隼なんだけど、じゃなくて、おほんっ、ところが瑞雲お神輿の言い出しっぺはその二人じゃないのよ」
「「え?」」
絶対に間違いないと思っていた推測が両方とも間違いだと横から言われて目を丸くする白露と深雪へ陽炎は自分の交友関係と言う名の情報網に引っかかった日常生活では全く役に立たない情報をちょっと勿体ぶりつつ語り出し、コンロの上で香ばしい匂いを立てている焼き鳥を取る。
「白露姉さ~ん持ってきたわよー」「ぽーい♪」
まず前提知識として鎮守府内で瑞雲教と呼ばれる事もある同好会*2の活動期間はまだ一年も経っておらず、しかも会の発足時点で所属していた艦娘はなんとたったの三人しかいなかった。
にも拘わらず、やたらと艦娘達の間で上記のイロモノ集団の知名度が高いのは某ホラ吹き特務士官が大袈裟かつ面白おかしくまだ艦娘として目覚めてから間もない現代日本の情報に疎い少女達に別の世界で発生した瑞雲カルト教団の情報を吹き込んだせいである。
「あら、三人で何の話してるの?」
「陽炎プレゼンツ、毒にも薬にもならない話~」
その後、件の水上機へ異様に執着する艦娘が実際に出現しても多くの艦娘は嘘吐き男の眉唾話が本当になった事に驚きつつも生暖かい目と苦笑いで瑞雲神社管理委員会の活動を見守る事にした。
「おっ、バターにケチャップ、焼肉のタレもあるじゃんか♪」
何故なら艦上戦闘機と比較して運用の自由度が高い水上機とは言え戦艦や巡洋艦が効果的に航空戦力を扱えるとは思われていなかったから、言い方は悪いが艦娘用カタパルトを装備したとしても砲艦である彼女達の航空機の操縦技能は本職の空母と比べるべくもなく低いのは確かな数字で裏打ちされた事実だった。
「やるじゃない、さすが村雨! ・・・夕立は、なにその袋?」
下手をすれば船足を引っ張る重りにしかならない飛行甲板の劣化コピーと言うのが大半の艦娘にとっての共通認識、おまけにその中途半端な性能の割りに高価な特殊装備を運用するのが怖いのか指揮官達も引け腰。
そんなコストに対して戦果が期待できない代物に傾倒している同好会の活動と言えば演習や訓練で特に理由なく瑞雲を飛ばしたり、神社前を掃除しながら「瑞雲、良いよね」「・・・良い」と仲間同士で語り合うだけ。
「んふっ、お餅っぽい♪」「他にもいろいろ持ってきてますよ~」
つまりは遠巻きに見ている分には実質無害な小集団、むしろ下手に話しかけたら延々と瑞雲語りを始める伊勢型二番艦がいるからよっぽどの事がない限り瑞雲神社にたむろする艦娘達は放置されていた。*3
「だ~か~ら~、そこら辺は私達だって知ってるってば、今はあの瑞雲お神輿を作ったのが誰かって話でしょ」
「そもそもなぁ、長ったらしい話しなくたって
「まあ、聞きなさいって、話はまだ途中なんだから」
そんなある時、周囲からの偏見の色眼鏡で見られ少しばかり不遇な扱い(?)を受けていた
「あ、村雨こっちにもバター頂戴、ジャガバター!」
それはデータが欲しい研究室の要請で航空甲板モドキを装備していたとある艦娘が戦艦レ級と仮称された新種の深海棲艦の討伐任務中に遭遇した度重なる困難なトラブルを乗り越えて無事に鎮守府へと無事戻った後にその艦種が
「か~ら~の、焼き鳥ジャガバター♪」
「おぉ、それ良いな! 深雪さまもやろっと♪」
元は輸送艦よりちょっとマシな程度の戦闘能力しかない潜水母艦だった彼女が前述の航空甲板モドキを身に着けて経験を積んで付け焼刃ではなく本職の航空戦力を担う存在へと
「自分達もあの装備を貰えたら活躍できるかも? とか思っちゃった子達が結構いんのよ輸送艦組に」
モソモソと香ばしい鶏肉と長ネギを食みながら自分と同じ艦隊に所属している非戦闘艦から軽空母となってしまった艦娘とその周囲で起こっているあまり良くない状況を図らずも再確認する事になった陽炎は口の中の旨味とは裏腹に少しだけ眉を顰め。
その話を聞いた駆逐艦達は下手をすれば自分達が守るべき輸送艦や補助艦が出来損ないのハリボテを身に着けて自分達と同じ最前線に並びかねないと言う
「じゃぁ、あれか・・・あの瑞雲神輿ってその子達が?」
「みたいね、むしろあれに関しては日向さんには珍しくメンバーに自重を呼び掛けてたっぽいわ」
「っぽい?」
もっとも「瑞雲は一日にしてならず」や「形だけの瑞雲に真の瑞雲は宿らない」とか「祈りはいらない、ただ飛ばせ、瑞雲とはそう言うモノだ」などなど、瑞雲神社管理委員会の代表艦娘が垂れ流した常人にはちょっと理解し難い格言っぽい何かが果たして自分達の不当な扱いに抗う力を求める非戦闘艦達を落ち着かせる事に一役買う事が出来ていたのかと言われると疑問である。
「でも、これに関しては司令部のが問題よ! 未だに輸送艦の子達をいらない子扱いしてる連中を処分どころか注意すら碌にしないんだから!」
「あ~、だから戦えるようになって見返してやろうって?」
「そんな・・・戦い方が私達と違うだけであの子達だって立派な艦娘なのに」
「そう言えば戦うのは怖いけど司令官は欲しいって言ってる子けっこういるっぽいぃ」
ともあれ、結果として瑞雲神社管理委員会に新しく入ってきたメンバーの勢いを完全には抑えきれず本人達にとっては切実な願いが込められた依り代は自称・航空戦艦とその一番弟子の制作監修によって非常にディティールの凝った水上機型お神輿として完成した。
「って、待てぇ! 何が自重を呼び掛けてただよ! 二人ともめっちゃ積極的に関わってんじゃねーか!?」
「もぉ、私に怒鳴らないでよ、日向さん達が時々マジで何考えてるのか分かんない事するのは稀によくある事でしょ~よ」
寒々しい曇り空の下で深雪の大きなツッコミが四方のコンクリート壁に反響し、その大声を正面から浴びた陽炎は痛そうに両耳を押さえながら心の底から心外そうに口元を尖らせる。
「こんな所で何を騒いでるんですか、周りの事も考えなさい」
そんな時、その場にいる駆逐艦達が皆揃って耳の奥をキーンと痺れさせていたら四方を囲う艦娘寮の壁の隙間、路地の様な広場の入り口からサスペンダーで吊ったお揃いのスカートを揺らして小柄な少女達が陽炎達が囲んでいる焚火に近づいてきた。
「あれ? 今日は自主練してたんじゃないの? 折角の一日丸ごと休みだってのにね、真面目な朝潮ちゃん」
「ええ、そのつもりではありましたが司令官から御用事を受けて途中で切り上げてきました」
「そうなの? 珍しい事もあるもんねぇ・・・まぁ、そんなとこで立ってないで座んなさいよ♪」
鎮守府の外を歩いていたら小学生と間違われるだろう駆逐艦娘へ人懐っこい笑みを浮かべて手招きしつつ陽炎は何本目かの串焼きを空いてる方の手で取る。
「いえ、何よりまず・・・陽炎、貴女は司令官へ速やかに提出するべき書類があると言う事を知るべきです」
「ぇっ、提出? ぅ~ん・・・ん、今日が期限のモノなんてない筈だけど?」
同じ指揮官の艦隊に所属している朝潮型一番艦の突然の指摘に呆気にとられた陽炎は数秒首を捻ってからやっぱり全く心当たりがないと返事を返し。
その後たっぷり数十秒ほど朝潮は直立不動で待つが一向に思い当たる節がなさそうな様子の同僚艦の態度に生真面目な少女は小さく嘆息した。
「貴女が望んでいた実技試験の申し込みを本日
背後にニパッと元気な笑顔を浮かべて手を振る妹を従え朝潮の幼げな見た目を裏切る堂に入った立ち姿と軍式の呼吸から繰り出された勇ましくも良く通る声が陽炎へと通達事項を無駄なく伝える。
「え・・・マジ? 今、主任いないし他の研究員の人達も余裕ないから当分やんないって」
「特務士官の賛同者と申し込みを希望していた艦娘が多かったから話が通し易かったと木村司令は言っておられましたが、それだけの事で横車を押す様な要望が通るとは思えないわね」
そう言ってから朝潮は自分の指揮官がその頑なな程の実直さに隠れた部下想いな計らいへ改めて尊敬の念を抱きつつ、その不器用な思いやりを現在進行形*4で台無しにしかけている同僚への有り余る呆れを深い溜め息に変えて吐き出した。
「貴女が今日の予定の一つでも書き置いていれば司令や艦隊の皆の手を煩わせる事などなかったのに、良いですか私達は艦娘として・・・」
「今何時!? 嘘でしょ1625ですって!? 間に合わ・・・不知火アンタがいるのハワイじゃない!!」
説教臭い事を続けて言おうとしている朝潮がついさっき伝えてきた連絡の内容に理解が追いついた瞬間、こんなとこで焼き鳥食ってる場合じゃない、と血相を変えて身を翻す様に立ち上がった陽炎は一目散に駆け出す。
そして、炭火の上から取ったばかりの焼き鳥を朝潮型二人の横をすれ違う瞬間に大潮へリレーバトンの様にパスし、悲鳴じみた叫びをその場に残し広場の出入り口の向こうへオレンジ色のツインテールがあっと言う間に消えた。
「朝潮姉さん、ネギま貰っちゃいました♪ 良い匂いで気分アゲアゲです!」
「大潮ったら・・・我が艦隊の者のせいで歓談中のところをお騒がせしてしまい、申し訳ありません」
陽炎が残したドップラー効果が広場から消えたのを見送った朝潮は後ろでなんの躊躇もなく貰った焼き鳥を頬張る妹の嬉しそうな様子に小さく笑みを浮かべつつ突然の出来事に驚いて目を丸くしている焚火の周りを囲んでる仲間達へと頭を下げる。
「いや、そんな改まって謝られる事じゃないし、な?」
「そうそう、私達って休み持て余してグダグダしてるだけだし、ね?」
「二週間の戦闘待機の代わりに丸々一日お休み貰っても特にやる事ないのよね~」
「訓練や演習にも参加できないし、授業や部活も再開は来週以降だからすっごい暇っぽい」
そうして、ものの見事に時間を持て余した現代の戦乙女達が苦笑いを浮かべつつ朝潮と大潮も自分達の輪に招き入れる。
「あの、陽炎も先ほど言っていましたが、朝潮達がお邪魔しても良いんですか? 私も大潮も持ち寄るモノなんて何も持っていないわ」
「正直、この量片付けるにゃもうちょっと人数が欲しかったとこなんだよ」
「いやー、仕方ないとは言えさ、ぶっちゃけ買い込み過ぎだよねっ」
そう言って深雪と白露が指さす先、並の女の子より身体も胃袋も逞しい艦娘とは言え三人程度で消費するには少々荷が重い量の魚、肉、野菜類が積まれているのに気付いて朝潮が驚きに目を丸くした。
「そう言えば白露達は何故、こんな所でこんな事を?」
「さっきのなんだったんだろね、のわっち?」「ええ、私達を呼んだのは陽炎なのに、どうするこのマシュマロ」「てか、あと三十分しかないって、何がだ?」
「朝潮は知らないのか? 今月中にコイン使っちゃわないと没収されるんだってよ」
「眠い、寒い、お布団に戻りたい」「そんな声出さなくても巡回やり過ごしたら戻れるってぇ」
「は? そんな馬鹿な事が」
「うっぅ、大鯨はもういないんだ」「いくら呼んでも帰ってこないんですって・・・」「あ痛った、もぉっ、これホントに必要なの?」
「あれ? 酒保の商品の値段が何倍も高くなるんじゃなかった?」
「大丈夫、大鯨さんは私達の思い出の中にいるよ」「でも、お酒、飲まずにはいられない!」「網どころか鉄板もねぇんだとよ、一斗缶一つで野営が出来るもんか」
「ど、どういう事っぽい!? 夕立そんなの知らないっぽい!」
「睦月ちゃんは何持ってきたの?」「園芸部で育てたサツマイモにゃしぃ♪」「とっても大きくて立派でしょ、ふふっ、もっと近くで見てよ♡」
余りに荒唐無稽な内容に驚くよりも困惑して詳しい理由を朝潮が白露達に聞いているタイミングで広場の入り口からガヤガヤと十数人以上の騒がしさが近づいてくるのだった。
「どうして、どうして・・・潜水艦の子達の中で私いなくなった事になってるんですかぁ・・・?」
「アナタ達! いい加減にしないと龍鳳さんが・・・泣いちゃってるじゃない!?」「大丈夫ですから、あの子達だって本気で言ってるわけじゃないですよっ」
「それにしても酒保内で使用されている商品交換用コインの価格改定、いえ、是正ですか」
「こんな事を一度に、それも強引に行えば鎮守府全体から反感を買うのでは?」
「目に見えて貧すると知れば酒保を利用している艦娘達による反抗運動が起こる危険性は高いかと」
「それは、まぁ・・・確か、コイン1枚に対して100円の交換レートと言う事になっているはずですが」
「ぇ、あら・・・ホント、この商品なら鎮守府外の価格の半分で販売されている事になりますね」
「ですが、それらのほとんどは端数切り上げと備品課と納入業者の問題です」
「だと言うのに艦娘個人の所有物を懐をまさぐる様に調べるなど流石にプライベートな」
「・・・は? 待ってください」
「この子一人で十万三千枚? 現状、これが下手をすれば二倍強の差額に・・・?」
「他にも何人も同じ様なっ、なんですかこの異常な所持数は!?」
「まさか、鎮守府の司令部は自分達の年間予算を越える金額に交換されかねない疑似通貨が過剰発行されている事に気付いていないのですか!?」
「へっ・・・さらに日本円をコインに両替できる設備が? 鎮守府の職員も利用できる状態で?」
「任務報酬ではないコインの譲渡、指揮官が個人的に使用するは多過ぎる枚数の両替記録っ」
「ふ、ぅっ・・・失礼、少しめまいが」
「ええ、確かに室長のおっしゃる通り、これは多少強引でも是正が必要な案件のようですね」
「弥汐さんはすぐに他の資料の精査を!」
「・・・この際、不正取得されたコインの没収も考えなければなりませんね、それでは室長少しの間失礼します」
「ところで親潮さん、ここでの私は軽巡香取ではなく茅野
「も、申し訳ありません、気を付けます!」