艦娘が出て来ない艦これ小説とか誰得やねん?
2015年の春と言うには少し早い時期、前世では世界的に普及したスマホの台頭でさながらガラパゴス諸島の絶滅危惧種のように日本特有の携帯電話などと言われていた折り畳み式の画面にウェブページを表示させながら私はそこに書かれている文面へと目を通す。
艦娘が合憲であると最高裁判所が出した判決に関する記事、賛否両論が飛び交う中で私は法律家を目指すなんて宣っていながら今の今まで気付かなかった盲点と言える前の世界と決定的に異なる事象に気付かされた。
憲法九条、前も今も世界に対して平和の為の武力放棄を宣言した史上稀に見る憲法であると言う事は同じなのだが、今世においてはその条文の中に前の世界に無かった条項が付け加えられていたのだ。
第三項、前項に定義した自国及び国際平和を脅かす可能性に対する防衛力は国家の主権の内であると認め、対話不能であると認められる生物学的な緊急事態及び超自然災害に類する案件に備え、日本政府は研究と準備を拡充するものとする。
それは、まるで将来的に話が通じない超常現象を起こす生物災害が発生する事を予知していたかのような文面。
(いや、解っていたからこそ無理やりにでも組み込んだんだろう、刀堂吉行博士とその協力者が)
その協力者の最たる者こそ大塔財団の設立者である大塔弦蔵であり、彼は一般にはTIAもしくは財団などと略される日本有数の巨大総合企業の会長である。
刀堂博士との関わりは大塔の幼少期まで遡る事になり、大戦直後の日本で戦災孤児だった少年は研究者としてはまだ無名だった刀堂と出会い、彼に師事してわずか十数年後には若年ながら経済界へと頭角を現した。
しかし、私の前世においては影も形も存在してなかった刀堂吉行と大塔財団、世間では憲法の制定時にも何かしらの介入を行っていたと言う都市伝説もチラホラと見えるがその当時の大塔弦蔵はまだ10歳前後であり、社会的な立場など存在しないストリートチルドレンの一人でしかなかった。
存在しない大塔財団による戦後混乱期の政界への介入と言う矛盾は大塔が自らの半生を綴った自伝の中に登場する刀堂博士の行動を追ったことで解き明かすことが出来た。
大前提として刀堂博士が私と同じ転生者であり日本が辿る未来を詳細に知ることが出来たと言う条件を付けた時に前世の世界の歴史を知る私だからこそ彼が行っていた事象への先回りに気付く。
他の人間に言えば頭のおかしい男だと笑われるだろうが私は刀堂博士が将来有力者となる相手に手を貸し、本来なら人生の道半ばに世を去るはずだった人間の運命を捻じ曲げていた事に気付き戦慄した。
そして、戦前から一人の男によって繋げられて来た人間の網が現在の大塔財団の基礎となり、その名前の無かった頃の協力者達のネットワークこそが日本を実質統治していた連合国軍を出し抜き本来なら書き込まれるはずがなかった一文を憲法と言う日本の司法の基礎へと組み込んだのだ。
そして、その秘密裏に巨大化した連絡網の代表を刀堂博士から任されたのがまともな学歴も無く政財界へと殴り込みを仕掛けた大塔弦蔵と言う二十歳の青年である。
当時、大半の識者の予想は生き馬の目を抜く世界で大塔はすぐに頭を潰されて消えるであろうというモノだった。
だが、その突き出た釘に過ぎなかった若者は協力者達の支援によってその数年後には現在の財団の前身組織を造り上げる事に成功する。
そう言う意味で言うならば財団が憲法への介入を行ったと言う都市伝説は事実とも言えるが、同時にその当時には刀堂博士を中心にした個人同士の繋がりで組織としての体裁も整っていなかったことを考えるとまさしく憲法への介入は反則以外の何物でも無い無謀な綱渡りだった。
だが、そうして生まれた財団は大塔を中心に刀堂博士を陰日向に支援しながら戦後の高度経済成長期の後押しを受けてその規模を爆発的に巨大化させていく。
(そして、艦娘と鎮守府の支援にも湯水のように資金を投入した)
この艦娘に関する一連の計画への参加は財団内でも賛否が分かれたのだが財団の頂点に現在も立っている大塔会長の強硬とも言える命令によって反対派は黙らされる。
だが、鎮守府から上がってきた報告は艦娘が刀堂博士の計算結果とは比べ物にならないほど弱いと言うモノであり、その失敗をあげて大塔会長の支持基盤が揺らがせる工作が行われていた。
しかし、去年から日本中で騒がれている国防特務優先執行法の施行から艦娘の姿と計画の成果が一般にも見え始めた事で老いたる昭和の風雲児の采配は未だ健在であると内外へと知らしめる事となった。
それよりなにより、私を驚愕させたのは現場の指揮官がわざと彼女達の運用法を間違うと言う計画への妨害工作であり、その内情を記したテレビ局の資料室の端っこに隠されるように置かれていた取材資料の存在だった。
さらにあくまでも噂と言う事になっているが、大塔会長が強行した計画を敢えて妨害する事で利を得ようとした財団内の派閥が自衛隊や政治家へと働きかけて鎮守府へと妨害と圧力をかけていたと言う証拠があったのにメディアはそれを表沙汰にする事無く消極的ながら艦娘否定派へと加担していたと言う話まである。
(それを解決したのはおそらく自衛隊内部にいる艦娘の“正しい運用法”を知っていた転生者だろう)
そして、艦娘が本来の能力を発揮する準備が整い、特務法が衆参両院へと審議入りした前後から財団内では嵐のような粛清が大塔会長とその側近の手によって行われたらしい。
少なくとも一つの部門を任されていた重役とダース単位で役員や社員の首が周囲への理由の説明も無く挿げ替わった事は事実であり、部下による鎮守府への妨害工作を知った大塔会長がまるで火山と化したかのように怒り狂ったと言う噂はその時に老人が発した『何という事をしてくれた!? これでは先生に申し訳が立たんではないか!!』と言う怒声と共にマスコミの耳に届いていた。
だが、その噂話が事実であるかを確認する度胸を持ったジャーナリストは一人たりともおらず、全ての報道に携わる人間は箝口令をしかれたように口と耳を閉ざして嵐が過ぎ去るのを願う小動物と化した。
自伝を読めばわかる事だが大塔弦蔵があえて虚偽を記していない限り彼本人は前世の記憶など持たない普通の人間であり、たまたま戦後の闇市で刀堂博士の財布を盗み取るのを失敗したケチな盗人だった。
そして、貧困に痩せ細った妹を守り養う為に科学者を自称する胡散臭い男の世話になったのが少年時代の大塔会長にとって本来あり得ない人生を歩く切っ掛けとなった運命の分かれ目だったのだろう。
そんな学の無かった浮浪児はその当時の日本人の思考とはかけ離れた先進的な経済知識を刀堂博士から与えられ、それまでの不遇と不幸が嘘か幻だったかのように時代の寵児として経済界の頂点へと駆け登っていく。
自伝の中ですら命を捧げても返せないほど山ほどの恩を彼から受けたのだと記し、刀堂博士の一人娘と結婚する事となった後も義父と呼ぶ事なく師弟である事に拘り、本人の許しを受けても恐れ多いと頭を下げ博士へ深い敬愛を捧げた。
(それがまさか内部の足の引っ張り合いで四年近く無駄足を踏んでいたなんてこんな情報は財団も自衛隊も外に出せるわけが無い)
そんな大塔にとって自分を育ててくれた恩師であり義父でもある科学者が残した遺言と言える計画の実現はあらゆる困難と問題を排してでも実行せねばならないものだったのだろう。
(いや、むしろ本来の能力を封じられた状態で護衛していた船を艦娘が守り切っていた事こそ奇跡なのか?)
現在、艦娘の情報を統制しているのは自衛隊そのものでは無く財団からの圧力であると言うのが一般人の耳に入るよりは多いと言える情報へと触れる機会を持つ事になった私の結論である。
また、その理由が身内から出た裏切者への凄惨とも言える制裁によって組織内に広がった大塔会長への畏怖によって彼の機嫌を損ねない為に財団が取った予防処置であると言うのが見ざる言わざるを決め込んだ報道陣の共通認識だった。
・・・
「真面目な顔して何見てんだ? エロか? エロサイトなのか?」
「・・・たまにね、自分はなんで君なんかと友人なのか、と心の底から疑問に思う事があるよ」
「じょ、冗談だって怒んなよ、暇なんだよぉ~」
肺の中身を全て吐き出すように深い深いため息を吐きだして私は折り畳み式の携帯電話の画面を閉じてから、鬱陶しい調子で子供のような理由を喚く友人へと顔を向ける。
三月となってもまだ冬の寒さが吹き抜ける長野県の某所にある温泉旅館、観光地としては定番と言われている場所であるらしいが深海棲艦の出現によって海外からの観光客が激減した事でかつての賑わいは久しくなり疎らな客足がたまに目につく程度しか見えない。
「雑用ばっかでつまんねぇのなんのって、テレビ局の仕事ってもっとこう、なんかもうちょっと、なぁ?」
「何が言いたいのかよくわからないけど君が暇だって事はよくわかった」
実際に暇だからこそ携帯片手にウェブサイトを巡回していたのだから私も彼に同意する立場であるのだが、それを口にすると絶対に目の前の馬鹿は我が意を得たりと調子に乗るのでとりあえず訳知り顔で頷くに止めておいた。
これで携帯電話の電波すら届かない秘湯や秘境での仕事だったら万が一の確率で私も彼と共に馬鹿なセリフの一つも吐いていたかもしれない。
大学の先輩や求人雑誌などで業界でもそれなりに規模の大きいテレビ局でのアルバイトを見つけて入り込むことに成功したのは良いのだが私に割り振られたのはアシスタント以下の荷物運びなどの雑用係だった。
一応は関係者証を使う事で資料室に入る事が出来たので一般に出回っていなかった艦娘に関するドロドロした裏事情に触れる事になったがそれが彼女らへの失望へと繋がったかと言うと否である。
むしろ率先して捨て艦戦法をとった過去の鎮守府に勤めていた指揮官や司令部、それに繋がっていた政治家と財団の艦娘否定派こそが唾棄すべき者達である。
だが、私がその情報へと辿り着いた時点で彼等はそれまでの自分達の行いの責任を取らされており、鎮守府は刀堂博士が想定した通りの活動を開始していた。
「折角温泉に来てんのに俺たちはロケバスの横で待たされるだけって何なんだよっ!」
「あと二時間も経てば撤収の機材の移動とかで呼ばれるさ、むしろほとんど立ってるだけで日給一万円は中々美味しい仕事とも言えるね」
これで温かい室内でコーヒーの一杯でもあれば言う事は無いのだけれど、残念なことにAD以下の私達はそこそこテレビで顔の売れている芸人達が大げさなリアクションで温泉や料理を褒め称える宣伝番組の画面端にも映らずに労働に勤しまなければならない。
「京都の舞鶴港だっけか、本物の艦娘が来てるって話だろ、俺っち、そっちの方に行きたかったなぁ」
「大学を休学するわけにもいかないんだから私はともかく君は落としそうな単位へもうちょっと気を配るべきだよ」
「ふぇ~、俺っちよりお前の方が気にしてると思ってたんだけど違うのか?」
たまにどうしようもなくバカな発言をするくせに他人の機微を察する能力だけは無駄に高い友人がこちらを見るがそれに対する返事を私は持っていなかった。
思っていた以上に鎮守府や艦娘の情報を得る事が出来た半面、彼女達に関わっていた大半の人間が言い方は悪いがクズばかりだった為に今の艦娘の大多数の人間に対する感情は間違いなくマイナス方向へと傾いている。
そう思うと私が友好的な態度で近づいたとしても艦娘達から向けられるのは敵を見る様な視線であり、かつては画面の向こう側で親しんだ相手からの敵意はとてもではないが耐えられそうにない。
(鎮守府にいる転生者が上手くやってくれていたらそれも解決しているのかもしれないけれど)
前世で嫁艦と呼んでいた艦娘が他人と仲睦まじくしている姿を目にするかもしれない可能性の方がもしかしたら敵意の視線よりも私の心を砕くかもしれないが、今は彼女達の状況が少しでも良くなりますようにと祈りながら他力本願を決め込むしかなかった。
「おーい、バイト、こっち来い!」
「はいっ! なんすか~?」
撮影の予定を挟んだファイルを手にした番組のディレクターが無精ひげに覆われた顎をぼりぼり掻きながら私達を呼び、友人が呑気な返事をしながら小走りで彼の元へと向かい、私もそろそろこの苦行から解放されるのかと期待してディレクターの方へと向かった。
「旅館側のご厚意でちょっと遅いがスタッフ全員に昼食を出してもらえる事になった」
感謝しろよとまるで自分へとそれを催促する様にニヤニヤするディレクターへと友人は無邪気に喜び、その様子に苦笑しながら私は昼食代が浮いた事に貧乏くさい喜びを感じた。
「はいはい、こちらにどうぞ入ってくださいな、若いっても外は寒かんでしょ」
五十代前後だろうか、ミカン色の着物を身に着けてどこか標準語と方言が混じったような不思議なイントネーションで喋る旅館の女将だと言う女性が私と友人を愛想よく迎えて他のスタッフがいると言う食堂へと案内してくれる。
「料理って何が出るんすか? 俺美味いモンなら何でも好きっすよ♪」
「美味い料理ならうんとありますからね、お腹いっぱいにして行ってくださいよ」
たまにこの友人の積極性が人間離れしている気がするのは私だけではないだろう、ただ接客のプロである女将にとっては大した事は無いようで朗らかな笑顔で彼の人懐っこい無駄話を見事に対応しきっている。
「あら、・・・ちょっとごめんなさいね」
食堂へと向かう途中の廊下で女将が何かに気付いたように立ち止まり、内容の全く無い話と言うある意味では奇跡的な言葉を吐いていた友人へと小さく頭を下げて音も無く滑る様な足取りで廊下を進む。
その先には料理の入っている黒い重箱を縦に連ねて運んでいるらしい黒く長い艶髪を項で結って控えめな薄紫色の着物の背で揺らしている女性がいた。
「ようちゃんっ、芙蓉ちゃんったら! ダメじゃないそんなに積んじゃ、危ないわよ」
「あの、その・・・すみません、女将さん、でもお客様を待たせるのも・・・」
ドラマなどで旅館の仲居さんがドタバタと塔の様に高くお膳を重ねて走り回ると言う演出は見た事があるが、走ってはいないものの実際にそれをやる人間が居るとは思ってもいなかった。
女性にしては上背のある頭の上まで突き出すような高さに重ねられた弁当箱、それの半分を奪う様に取って下ろさせた女将が少しはにかんだ微笑みでこちらへと振り返ったすぐ後に彼女が怪訝そうな顔をする。
「あら、お客様、どうかされましたか?」
「・・・おい、お前その顔なんなん? すんげぇ美人だけどその驚き方は失礼じゃね?」
隣から話しかけてくる能天気な友人の言葉に返事も出来ず、私はお膳の塔を抱えていた黒髪の和服美女、どこか儚げな雰囲気を纏った芙蓉と呼ばれていた女性へと視線を引き付けられて離せなくなった。
原型の経歴からかゲームの中で薄幸美人としてイラストレーター達に描かれ、高火力艦の代名詞とも言える戦艦から改造を経て艦載機運用を可能とする航空戦艦と言うもしかしたらあり得たかもしれない艦種へと転身できる事も手伝い運用面でもビジュアル面でも人気が高かった。
その艦娘が、まるでモニターの向こう側から抜け出してきたと言っても過言ではないほどに似通った容姿をしている女性が顔を驚きに強張らせている私へと怪訝そうな表情を見せる。
「・・・戦艦、扶桑?」
余りにも似通ったその姿に私が呻くようにその名前を呟いた直後、旅館の床板にガシャッガチャッと五月蠅く食器と料理が散らばる音が廊下に響き、私が見つめる先にいる女性が顔を真っ青にして後退りして背中を壁にぶつけた。
まるで警察に罪の証拠を突き付けられた犯人のように声も無く狼狽え、男である私よりも背が高い女性従業員は両手を胸の前で重ねて身を縮めて怯えたような視線を私へと向けてくる。
「申し訳ありませんね! すぐにお片づけを致しますのでお二人は食堂の方にいらしてくださいね! ほら芙蓉ちゃん掃除道具取って来て!」
「ぁ、女将さん、ご、ごめんなさい、私っ・・・」
「ほら、ここは任せて早く早く!」
私が前世の世界で触れていた艦隊これくしょんと言うゲームで扶桑型戦艦の一番艦であった扶桑と服装は違うが身体つきや顔立ち、そして、身に纏う控えめで儚げな雰囲気が瓜二つの女性。
その盾となるように女将が素早く私の視線を塞ぐように立ち丁寧ながら抵抗を許さないと言う気迫を感じる誘導と共に背後の芙蓉と呼ばれている彼女を逃がすように急かす。
「あ、あの・・・彼女は」
「ここは汚れてしましますので、お二人は食堂へどうぞ」
逃げるように食堂とは別の方向へ続く廊下へと足早に去っていく女性の背中に反射的に手を伸ばそうとした私の前にススッと滑る様な足さばきで詰め寄ってきた女将はさっきまでの我々を歓迎する様な朗らかな笑顔が打って変わって能面を張り付けたような営業スマイルと有無を言わせぬ迫力でこちらの言葉を封殺する。
「ぉっ? おっ? あ、じゃあ、俺がそっちの無事な方運びますよ」
「あら、悪いですね、ではお願いしますね?」
いきなりの事態に戸惑っていた友人が数秒の思考停止からすぐさま女将の抱えている重箱へと手を伸ばし、本来なら客にやらせる事ではないのに女将は能面の笑顔のまま弁当箱の連なりを彼へと受け渡して私達を追い払う様に軽く手を振って見せた。
「おわっ、思ったより重ぇわっ、ははっ、半分持ってチョーダイよ♪」
「え、ぁ、だけど」
「・・・お前が何言ったか良く聞こえなかったからなんでああなったかわかんねぇけどよ」
おそらくは私や彼を含めた番組スタッフに用意された料理が詰められていた弁当箱が散乱している廊下に立ち尽くしている私に少し声を抑えた友人が耳打ちして強引に二つに弁当箱を押し付けてくる。
「あれってあんまりチョッカイかけてイイことじゃねぇっぽいだろ、行くぞ」
私から見れば異常とも感じられるコミュニケーション能力を遺憾なく発揮した友人は散らばった料理のすぐ近くから営業スマイルを張り付けた顔でこちらを見ている女将へと軽薄そうな笑顔で頭を下げながら肩で私の背中を押してこの場から引き離していった。
「あ、えっと・・・お仕事の邪魔をしてすみませんでした」
「いえいえ、こちらこそ御見苦しいものを・・・」
二度目の人生を生きている私でも早々体験した事の無い混乱の極致、前世の世界でモニターの中にしかいなかった艦娘という二次元の存在と現実での遭遇は彼女らが居ると言う事実を知っていても私に強烈な衝撃をもたらした。
汚れた廊下から友人に背を押されて引き離された私は不意に表面上は笑顔である女将がまるで子供を守る為に威嚇する母鳥のような態度をとっていた事に遅まきながら気付く。
(なんで・・・こんな長野の温泉旅館に、艦娘の扶桑がいるんだ!?)
食堂へと入り、手に持っていた弁当箱を半ば奪われる形で他のスタッフに持っていかれた私は呆然とした顔のまま椅子に座り、一発ギャグで一世を風靡しているレポーターの芸人に愛想よく挨拶してから流れる様に交友を深めに行っている友人を横目に衝撃が抜けきらない脳みそを働かせていた。
・・・
「はぁ? 帰らないってお前なぁ、明日は大学で受講する講座があるって言ってただろよぉ」
「財布には少しは余裕があるから一泊するだけなら足りる」
「こーつー費はどうすんよ、ロケバスに乗せてもらわないとタダになんないだろ」
高速道路を使い県を跨いで長野までやってきている以上はそれも考えねばならなかったか、と普段は因数分解の公式すら言えない友人の指摘で気付かせられた。
しかし、こうなったら野宿やコンビニの前で夜更かししてでも何とかして見せると自分でも信じられないほどの気合が私の身体に満ちていた。
「とにかく確かめなきゃならない事が出来たんだ」
「ほ~ん、さっきの芙蓉ちゃんって美人がそんなに気になんのか?」
あれほど分かり易いほどの動揺を見せてしまったのだからその場の空気を察する事だけは野生動物並みに鋭い彼なら私の考えを読み取るのは簡単だったのだろう。
「しゃーねぇの、単位落としそうになったらまた手伝ってくれよなぁ」
「え、いや、それは良いけど? いきなりなんでそんな事を」
「ちょい待ってろよっ」
苦笑を浮かべて潰れたプリンのような斑模様の髪を掻いて友人は少し離れた場所にあるロケバスへと走り、撤収の指示をしていたディレクターへと話しかける。
数分ほど何度も頭を下げ媚びを売るような揉み手と笑顔でディレクターと会話していた友人は無精ひげの中年の手にあったファイルで頭を小突かれてから数枚の紙幣を渡されてからこちらへと戻ってきた。
「ほれ、軍資金、バイト代前借させてもらったからよ」
「あ、ありがとう・・・」
たまにだけコミュニケーション能力に人生を全振りしたような頭の軽い友人と交友を深めている自分は幸運な人間なのだろうと思う時がある。
「んじゃ、行くぞ、ソバと行動は早いうちに打てって言うだろよ」
「いや、君は何を言ってるんだい・・・」
ごく自然に同行しようとしている友人の姿とその意味不明な言動に私は眉を顰めながらも人懐っこい笑みを浮かべるコイツは本当に人生を楽しんでいるなと、前世では大学を中退した後にアフリカや中南米などで旅をするついでに商品を仕入れる輸入雑貨商となった自由過ぎる男の若い頃の姿に呆れと尊敬を向けた。
早速、テレビ局のスタッフが乗り込んでいっているロケバスから離れて夕暮れの旅館への道を戻り、受付で素泊まりは可能かと問えば従業員らしい女性が私達の顔を見てから不審そうに片眉を上げてから何かに気付いたように顔を顰めて今の時間は予約の無い方はお断りしていると言う返事を返してきた。
あまりに不自然で素気無い態度に私と友人は何とか食い下がろうとするが不意に玄関の広間に現れた女将が音も無く滑る様にこちらへと近づき他のお客様の迷惑になるから今日の所はお引き取りくださいと丁寧な態度で頭を下げる。
愛想よく丁寧な対応ではあるがその裏側には確実に私達を追い出そうとする意志を感じ、これ以上は事を荒立てるだけにしかならないと判断した私は友人と連れ立って旅館から離れる事にした。
「取り付く島もないとはこの事だね・・・」
「ふっへぇ、おっかねぇのっ、あれはどうしようもねぇよ、うん」
旅館を追い出された後、一時間以上かけてやっと見つけた夜闇に輝くコンビニに照らされた寒い駐車場で肉まんを片手にホットコーヒーを飲み、手詰まりになった私達は上着の前をしっかりと閉じて息が白くなる気温の中、コンビニで買ったマフラーと手袋と言う少し心もとない装備で暖を取る。
「どうする、あの感じだともっかい行っても同じじゃね?」
「アルバイト代の前借と家族にお土産買う為のお金は多目に持ってきたから他のホテルに泊まるだけなら大丈夫だけど・・・」
県が少し離れているだけと思い込んでいた私は春先でマイナスに足を突っ込む気温を体験する事になるとは思っておらず、このままでは友人と一緒に長野の路上で凍死体となって新聞を騒がせるかもしれない。
しかし、ここで他のホテルに泊まって次の日にあの旅館へと向かうのでは時間的にも資金的にも心もとなく、そんな行動の理由が私のわがままであるわけでそんな事に付き合いの良い友人を巻き込んでいる事にも申し訳ない気持ちが湧く。
「ああ~、それにしても長野さみぃなあっ! 冬のオリンピックやってたぐらいだもんなぁ!」
「叫ばないでくれよ、近所迷惑になるだろ」
「でもよ! 止まってたら死んじゃうってほら息まで白くなってるじゃん!」
どこかの怪獣を真似して腕を突き出し白い息を勢いよく吹く無駄に騒がしくて元気な友人の姿に苦笑し、私はもう一度だけあの艦娘の扶桑と瓜二つの女性と話だけでも出来ないかと頼みに行くことにしてそれでダメならすっぱりと諦めて始発電車で自宅へと帰って温かい風呂にでも入ろうと心に決める。
「・・・あの、こんな所でどうかされましたか?」
真夜中のコンビニ前で二人して騒いでいる大学生と言う普通なら近寄りがたい存在へと話しかけてきたのは丸眼鏡と柔和な表情が相まって人の良さそうな雰囲気が見える三十代前後の男性。
最近めっきり数を減らした24h営業のコンビニ前に駐車された車から降りてきたらしい彼はこちらを純粋に心配してくれているようで私は気恥ずかしさに小さく頭を下げ、友人は何を考えたのか自分達が泊まる当てが無くて野宿でもしなければならなそうだと馬鹿正直に男性へと答えた。
「ええっ? この時期に外で夜を過ごすなんて危ないですよ」
「あ、いえ、コイツは大袈裟に言っただけでちょっと用事を済ませたらちゃんと近くのビジネスホテルに向かうつもりですから」
「しかし、ここから一番近いホテルなんて3キロは歩くことに・・・少し待ってください」
見ず知らずの相手を本気で心配してくれているらしい人の良い男性に恐縮しっぱなしで私は極力心配を掛けないようにと顔の前で軽く手を振って見せると、彼は少し考えてから少し型が古い携帯電話を取り出してどこかと連絡を取り始めた。
「僕はこの近くで旅館をやっているんですよ、今確認したら部屋も空いているようなので良ければどうですか?」
「ぇ、いやいや、それはちょっと悪いですよ、こんな遅い時間で・・・」
「マジっすか! やったぜ、あはは、俺ら本気で凍っちまうかと思ってたんすよ!」
私の慎ましい遠慮の言葉は隣で動物園の猿を思わせる跳躍を見せたバカの歓声でかき消され、暗闇でも羞恥で赤くなっている私の顔はおそらく目の前の男性にも気づかれているだろう。
料金はちゃんと払いますと蚊の鳴くような力ない言葉を男性に向け、柔和な笑みを浮かべた男性はちょっとコンビニで用事を済ませてから車で一緒に宿へ行こうと優しい言葉をかけてくれた。
「お兄さんの旅館って温泉あるんすか? 長野って言ったら温泉ですよね!」
「ははっ、もうお兄さんって年じゃないさ、今はもう遅いから大浴場は閉まってるけれど良ければ従業員用の内湯でも使うかい?」
「うっす、お世話になりますっ!」
車を運転する善意の人に向かって冗談みたいな積極性を見せる友人の言動にお前は長野の何を知ってるんだとツッコミを入れそうになるが人見知りと言うほどでは無くてもどんな事にも物怖じしない性格と言うワケではないごく普通な人間である私は借りてきた猫の様に黙り込み後部座席で肩身の狭い思いをした。
「ただいま、ちょっと寄り道をしてしまって遅くなっちゃったよ」
「裕介さん、おかえりなさい・・・お客様が二名おられると聞いて・・・ぇ?」
十分も経たないうちに私達は目的の旅館へと到着して従業員用の駐車場に駐車された乗用車から本日三度目の旅館の前に立つ事になり、玄関で到着を待っていた女性が嬉しそうに微笑みながら穏やかな声を私達よりも先に車から降りた男性を迎え、偶然と言う言葉の恐ろしさを思い知りながら私は非常にバツの悪い思いと共に彼女の前に姿を見せる事になった。
「ぁっ・・・ぁぁ・・・」
「芙蓉、どうしたんだい?」
どうやら想像の中の敵意を宿した瞳よりも現実として出会ってしまった恐れに染まった視線の方が何倍も私の心にダメージを与えるらしい。
「いやあの、これは本当に偶然で決して私は怪しい者じゃなくてですね」
「何言ってんだお前、どう見ても俺ら怪しいだろ・・・、なんかわかんないけど取り敢えず謝っとけって」
こうして、私は今世で初めて出会う本物の艦娘、自衛隊から脱走した艦娘の一人である戦艦扶桑と邂逅した。
【 財団の恥ずかしい話 】
会長「深海棲艦が現れたやって?やっぱり刀堂先生の言ってた通りや、早く艦娘を用意せな!男、大塔弦蔵、人生最後の大仕事、先生見たっててください!」
↓
部下A「創始者の一人とは言え狂人が残したオカルト理論に頼るなんて会長はもうダメだな、財団全体の為にも引退してもらわないといけないね」
部下B「それじゃ、俺の知り合いに頼んで計画の邪魔してもらうわw」
↓
政治家「良かれと思って!国会で!」
司令官「気合入れて!現場で!」
基地司令「鎮守府で妨害工作しました!」
↓
部下A「カクカクしかじか、計画そのものが間違ってましたねぇ、会長?」
会長「そんなっ、艦娘が弱いなんて先生の遺言は間違っとったんか・・・?」
部下B「後は俺達若いのに任せて楽隠居でもどうっすか?」
↓
田中「艦娘と一緒に海に出て戦うなんて馬鹿な考えは止すんだ!」
中村「できらぁ!!」
↓
吹雪「私がやっつけちゃうんだから!」巨大化
↓
艦娘否定派「はぁっ!? 嘘だろお前らっ!?」
↓
会長「制裁っ・・・!」
部下AB「・・・ぇっ?」
会長「先生の名前に泥塗りおってからにっ、アホ共が纏めて地獄に送ったらぁ!!」
↓
ポポポポーン(何かが飛ぶ音)
↓
マスコミ「ヤバい、このネタは絶対にヤバい、隠しとかなあかん」
↓
大学生「(;゚Д゚) エエ…ナニソレ?」
おバカ様「日本語でおk」