艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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沈黙は黄金の価値を持つと言うだろう?


まぁ、金塊なんぞを有り難がるのは人間ぐらいなもんだがね。



第二十五話

 2015年、三月は下旬に入り春の兆しが全国的に広がり始めた時期、日本海側に出現した深海棲艦の大群へと注意深い監視を続けていた舞鶴に詰めている指揮官と艦娘達は散発的に群れからはぐれて日本へと針路を向ける敵艦を追い払いながら敵勢力の分析を続けていた。

 そんなある意味では膠着状態と言えた戦況は日本に向かって進攻を開始した敵首魁である戦艦水鬼とそれを取り巻く大艦隊の知らせによって終わりを告げる。

 

≪三番端子、12cm単装砲接続しました、確認お願いします≫

 

「三番、12cm砲の接続を確認した。しかし、駆逐艦に主砲をガン積みは悪手だろうに・・・しかも単装砲をよ」

 

≪波状攻撃を仕掛けてくる大群相手に連射も誘導も出来ない魚雷で挑みたいなら雷装に積み直しても構いませんよ?≫

 

 戦闘形態となった艦娘の艦橋で中村が呟いた言葉にモニターに大写しになっている桃色の髪に彩られた才女、工作艦娘である明石の顔が苦笑を浮かべて律義に返事を返してくる。

 

『今さら積み直しなんて冗談じゃないったら、もう連中の侵攻は始まってるのよ!?』

「まぁ、確かに今さらか」

 

 そして、通信機から飛び出す不機嫌そうな声を合図にしたのか艦橋の外では作業を終えた明石が背中のクレーンを背面艤装へと畳むように収納して中村達に進路を譲るために離れて行く。

 

「増設装備の動作確認終わりました。司令官」

 

 コンソールパネルに浮かぶ立体映像の中で口調通りに不機嫌そうに顔を顰めている霞の剣幕に押された中村は指揮席で頬を掻き、不意に自分の周りにある円形通路からかけられた声に顔を向ける。

 

「ああ、そうか・・・ご苦労さん」

 

 モニターに触れて各種武装から送られてくる情報を確認していた少女、吹雪型駆逐艦の長女である吹雪が肩越しに振り返って中村を見つめており、一瞬だけ気まずそうな顔をした彼は表情を引き締め直してセーラー服の少女に小さく頷きを返した。

 

「んじゃ、提督そろそろ出撃すんの~?」

 

 そんな二人の様子に艦橋にいる艦娘達がひどく居心地の悪そうな表情を浮かべる中で肩や腕に足と至る所に魚雷管のミニチュアをくっ付けた軽巡洋艦の北上が通路の手すりに座りモニターに背中を預けて五連装魚雷を四基装備した足をぶらぶらさせて気の抜けた糸目と声を中村に向ける。

 

「随分と出遅れちゃったわね、まだ戦闘状態には入ってないみたいだけど」

「いえ、航空支援をしてくれている木村艦隊が敵の戦闘機隊と遭遇したようです」

 

 全周モニターに表示された友軍艦隊からの情報を整理している五十鈴と鳳翔が北上の緩い雰囲気に助けられて現在の戦況を司令官である中村に伝え、彼はそれに頷きを返してコンソールパネルへと手を伸ばした。

 

「こちら中村義男特務三佐、これより指揮下の艦娘部隊の出撃を開始します」

『作戦司令部より中村特務三佐へ、貴艦隊の出撃を許可します。今作戦での航路計画の提出は必要ありません。出撃どうぞ!』

 

 短い出撃の連絡を海洋調査船である綿津見の中に置かれている臨時司令部へと入れて中村はコンソールパネルの推進出力レバーを握り停止から原速へと表示を押し上げる。

 

≪霞、出るわ! さっさと出力上げなさいったら、ただでさえ遅れて出るんだから最高速で行くわよ!≫

 

「戦う前からバテてくれるなよ?」

 

 港の出口へと進み始めた様子が見える艦橋に届く霞の声に軽口を叩いた中村は表示する数字を増やしていく出力計と速度計を横目に握っている出力レバーを更に押し上げて第一戦速から第二第三と切り替え、艦橋に響く推進機関の唸り声と揺れが増していく。

 

「ちょ、急がば回れって言うもんでしょーよっ!?」

「北上、貴女がウチの艦隊に居続けたいなら嫌でも慣れるしかないわよ?」

 

 その超高速航行の前兆に手すりに腰掛けていた北上が後頭部にたんこぶを作った最近の記憶を脳裏にフラッシュバックさせ慌てて手すりから飛び降り、五十鈴から呆れ顔を向けられながらも手すりの支柱にしがみ付いた。

 手元の立体映像では艤装を纏い前傾姿勢になった霞がショットガンに似た形状の増設装備を両肩と左足に三基装備した状態で前方を見据え、その背中のスクリューが燐光をまき散らして回転をどんどん早めていく。

 

≪誰に言ってんの、そっちこそ目を回したら承知しないんだから!≫

 

 手を大きく振る明石に見送られスピードスケーターのように両足で海面を蹴り舞鶴の港湾を駆け出した霞の速度が見る間に200ノットを超え、通常の空間よりも慣性運動が軽減されていると研究室から発表を受けた艦橋内であっても圧力に息苦しさを感じ始めた中村は大きく息を吸ってから意を決して出力レバーを全速に切り替えた。

 次の瞬間、一際強い振動と共に彼は増大する加速の重圧で指揮席に押さえつけられ小さく呻き、ふと司令官の目に手すりを離してしまったらしい北上が悲鳴を上げて円形通路の後方へと転がっていく姿が通りすぎる。

 

「北上っ、怪我無いか?」

 

 出力計の針が目一杯まで吊り上がっているのを横目に転がっていった軽巡艦娘の姿を確認すると出撃時から指揮席の後ろで後方警戒と言う名目のサボりをしていた潜水艦娘と雷巡艦娘は抱き合う様にモニターと手すりに押し付けられて二人揃って呻いていた。

 

「うぐぐっ、これ、結構キツイかもぉ」

「早く退いてほしいよぉっ、重いでちぃ・・・」

 

 二人の安否を確認してからその姿にまだ大丈夫そうだと判断した中村はとうとう400ノットの速度域に達した艦橋で前方を見据え、進行方向を映し出すモニターの手すりに慣れた様子で掴まり前方に顔を向けている吹雪の姿を視界に収める。

 中村の予定では彼女の妹である白雪が立っている筈の場所いる吹雪に司令官はどうにも居心地の悪い思いを蟠らせていた。

 

(言いたいことが山ほどあっても呆気なく言う時間は無くなっちまう、か・・・)

 

 前世の世界において彼の高校卒業とほぼ同時期に発見された胃ガンで酒屋家業を畳んで挑んだ闘病生活の甲斐なく亡くなった父。

 その葬式に参列していた兄が呟いた言葉を中村は口の中だけで反芻した。

 今の世界ではあらかじめ知っていた胃ガンの発生時期に父へと病院に行くよう催促して半ば無理やり受診させた事で手術する必要もないほど早期に治療は成功して今も実家は家業を続けている。

 尤も長男はそこそこ大きいリサイクルショップの店長となり、次男である義男は何の因果か艦娘達と共に日本の平和を守るために化け物相手に切った張ったを繰り返している為、中村酒造は前の世界と同じように父の代で店を畳むことになるだろう。

 

 彼自身も二度目の人生という幸運に全ての事を上手くやってきたと自画自賛できるほど厚顔では無い、自分の力量を大きく上回る問題などは出来るだけと遠ざけておきたいと常日頃から思っている。

 周りからは凄く行動力があると言われているがそれらを実行したのは彼にとって行動が実を結ぶ根拠があったからこそであり、所謂カンニングに近い前世の記憶に頼ってきた彼は本当の意味で未知の存在には小動物よりも臆病だった。

 

「・・・吹雪」

 

 速度計が400と390の間を行き来するのを見た中村は霞の加速が限界まで達した事を確認する。

 そして、空気の抵抗を突き破りながら海上を突き進む艦娘の艦橋に小さく、出来る事なら気付いてくれるなと言う思いを込めた小さな声で目の前の通路に立つ自分の初期艦の名を呼んだ。

 気付かないならそれで良い、何時死んでしまうかもわからない戦場にいる中で後悔しない程度には自分で行動したのだと言う自己弁護は出来ると言う臆病な思惑から零れた卑怯の一言で表せる言葉だった。

 

「はい、司令官なんでしょうか?」

 

 しかし、速度は安定したとは言え艦橋内には推進機関が吐き出す轟音が響いているはずなのに。

 

「司令官、私の事呼びましたよね?」

「あぁ、何て言うかな・・・」

 

 それにもかかわらず怪訝な表情をした吹雪は短いお下げを揺らしながら真っ直ぐに指揮席に座る中村へと振り返って返事を返してきた。

 そんな耳が良いにも程がある彼女の反応に優柔不断な司令官は驚きに目を見開く。

 

「いや、こんな所で言う事じゃないのは分かってるんだけどな」

 

 数日前の出撃の際に敵機動艦隊の奇襲を受けて中村の艦隊に所属していたお気楽娘であるが戦闘では頼りになる時津風が負傷し、空いた出撃枠は本来なら彼の艦隊の交代要員として控えていた白雪が入るはずだった。

 しかし、吹雪型の次女はその編成命令を拒否し、それだけでなく途中から今作戦に参加した予備戦力であるはずの増員メンバーの吹雪を中村の艦隊への編入に推した。

 

「今さらなんだがお前にとっての司令官は俺なんかで良かったのか、とな・・・?」

 

 艦娘の編成に対する拒否というのは珍しい事ではあるが今までに無かったわけではない、そして、その時点では敵群のEEZへの侵入は確認されておらず、緊急事態と言うでもない状態で吹雪の能力に問題らしい問題も無く本人も司令部からの編成の要請を承諾する。

 

 そして、その数日後に突然侵攻を始めた敵を前に中村の気分の問題だけを理由に今更メンバーの変更をするわけにもいかず。

 

 何より結局のところは問題らしい問題など中村が抱えた吹雪への後ろめたさだけ、自分の吐いた嘘が彼女にばれてしまった事に対する罪悪感だけが彼にとって居心地の悪い感情を作っている。

 

「俺なんかよりも真面目でお前と上手くやっていける指揮官は他にも・・・ちょっと探せばいくらでも」

「私にとっての司令官は、中村司令だけです」

 

 増員として舞鶴に吹雪が来た時に確認した書類から目の前の少女がわざわざ鎮守府から自分を追いかけてきた事は中村にだって分かっている。

 そんな少女の淡々と簡潔に言い切る言葉、それが架空の物語の自分(吹雪)に必要な指揮官を求めてのモノなのか、それとも吹雪自身が中村を指揮官として本当の意味で認めているからなのか。

 少なくとも自分がロクデナシな嘘吐きであると自覚がある彼はむしろ今旗艦として海を走っている霞の様に罵倒の一つでも叩き付けてくれた方が気が楽だった。

 

「あのな、だからお前はもっと自分の・・・」

「少し前に、霞ちゃん達が教えてくれました」

「・・・は?」

 

 そのきっぱりとした返答が見た目は話を聞いているのにこちらの意図を無意識に選別して無視する今までの吹雪と同じであると感じた中村はなおも言い訳がましい言葉を重ねようとした。

 

「司令官が私の可能性を潰したくないと言ってたって、私だけの可能性・・・」

 

 その女々しい男の言葉を遮る様に吹雪がモニターから指揮席へと完全に身体を向けてコンソールパネル越しに何時になく真剣な表情を見せながら中村と向かい合う。

 

「正直に言うと、そんなモノが本当にあるなんて私自身には信じられません」

 

 彼女の可愛らしい笑顔や不満そうに頬を膨らませる態度、どこかわざとらしくぎこちなく自分ではない自分を演じる吹雪の顔は何度も見てきた。

 

「どんなに頑張っても届かないかもしれない、それでも強くて格好良い司令官の世界の吹雪に成れた方が今の私よりも、もっと皆の為に出来ることが増えるんだって今もそう思っています」

 

 今までのそれとは全く違う、東京湾襲撃の際にたった一度だけ自らの裏側を覗かせた時と似通った彼女の態度に、どうしようもないほどの不安に揺れる表情で自分を見つめる吹雪に彼は驚き絶句する。

 あの初出撃の日以来、明確な怒りや恨みと言った負の感情を全く見せなくなった少女が自分から自覚的に中村の目の前でその心の裏側にあったものを吐き出すように昏く表情を揺らしていた。

 

「だから、皆が言うみたいに司令が教えてくれた物語の吹雪に成れないって、進む先が見えないままの自分でいなければならないって、そう思うだけで不安でしかたなくなります」

 

 心臓を抑えるように手を当てて服を握り、周囲の仲間達の視線も気にせずに自分の気持ちをさらけ出していく吹雪の姿に中村は驚きに目を見開いて何も言えずに黙り込む。

 

「それでも、あの時、初めて司令が私と一緒に戦ってくれると言ってくれた日に叫んだ思いだけは自分のモノだって胸を張って言えるんです!」

 

 私が皆を守るんだから、と中村が知る吹雪(架空の英雄)が言ったセリフと同じであってもそこに込められた思いだけは自分のモノだと吹雪(一つの生命)としてここに立っている少女は言い切った。

 彼女が変わろうとしないと思い込んでいた男は自分が知るキャラクターと全く別の人格を目の前の吹雪がちゃんと表に出せるのだと言う事実に自分の杞憂が全く無駄だったのだと理解して小さく嘆息する。

 

 いや、本当の所は自分の責任と言っておきながら中村は自分以外のもっと良い人間が傷ついた彼女を心を癒して独り立ちさせてくれる事を願って逃げに徹した。

 言ってしまえばただ自分の責任を放棄したかっただけで糾弾を彼女から突き付けられる事が中村にとって何よりも怖かっただけの話なのだろう。

 

「司令官は面倒臭がりなサボり魔でくだらない嘘ばっかり吐く人だって皆言ってました、だけど、それでも・・・」

 

 不安そうな顔にふっと自然な笑顔を浮かべた少女の少し明るくなった口調と共に出てきた周囲からの評判、それが自己評価とさほど変わらない事に中村は不満に呻くわけもなくただ苦笑だけを浮かべる。

 

「それでもっ! たとえ司令のお話が、私を救ってくれた言葉が全部嘘だったとしても私の司令官はアナタで・・・、中村義男少佐であって欲しいです!」

「なんだそれ・・・ホントに、なんだよそれは・・・」

「私は司令の事を信じたいんです・・・だから、信じさせてください(・・・・・・・・・)

 

 なんて愚かで献身的な我儘だ、と片手で両目を覆って呻き吹雪の言葉から感じる重すぎる信頼の意思を自分が背負わないといけないのかと中村はウンザリする。

 しているはずなのに、吹雪に自分のフルネームを初めて呼ばれた事に対する妙な嬉しさへと傾いた心の中の天秤が彼の口の端を緩めた。

 

「吹雪、俺は少佐じゃなくて三佐だ・・・いい加減慣れろよっ」

 

 彼女との関係に逃げ腰になってから2ヶ月と少し、出来なくなっていた吹雪の髪を混ぜるように少し乱暴に撫でるスキンシップ。

 

「きゃっ、ぁっ・・・はいっ! 司令官!」

 

 それを自然に手を伸ばしてする事ができた中村へと擽ったそうに笑って吹雪が嬉しそうに声を上げた。

 初めに自分が吐いた出まかせが原因で一人の女の子を振り回して、その本人に恨まれるどころかここまで自分が必要なのだと頼られてたらもう逃げきれない事を悟り、それもまぁ仕方ないかと笑いながら中村は背中を指揮席に預ける。

 

(そこまで言われたらもう腹括って責任を取るしかなくなるなぁ・・・仕方ない、ああ、仕方ないなっ)

 

 脱力させた身体を指揮席に預けて真っ直ぐ見つめてくる少女から顔を天井に向けた中村は一人の女の子にやってしまった自分の罪から逃げるのを止める踏ん切りをつける為の声にならない呟きを口の中に転がす。

 その瞬間、コンソールパネル越しにこちらを向いている吹雪だけでなく前方のモニターに顔を向けながらもチラチラとこちらを伺っていた五十鈴と鳳翔までもが驚いたような表情をして指揮席に座る中村へと視線を集中させた。

 

「司令官、・・・今、責任を取るって・・・え、えぇっ!?」

「ちょっと、提督、作戦中に何言ってんのよっ!」

「・・・もしかして、吹雪ちゃんに先を越されちゃったかしら?」

 

「はっ? えっ、今の聞こえたのか? いや、あり得ないだろ! 声になんか出して・・・」

 

     “大事だと思うならしっかり言葉にしたまえ”

“失う事への恐怖を知っているなら”       “尚更だよ”

 

 言葉ではない何か、お節介極まりない小人の姿が肘掛の上に一瞬だけ見え、驚きを顔中に広げていた吹雪が何を思ったのか徐々に少し恥ずかしそうに頬を赤らめる。

 その少女の姿に中村はついさっきの言い訳を用意する為だけの短い呼びかけが彼女の耳に届いたのも太々しい妖精モドキのせいだったのだと根拠の無い確信を得た。

 

「いや、さっきのは決して変な意味じゃないぞ!?」

 

 そう言えばあの夢の中では中枢機構と艦娘の霊核が枝と実の様に繋がりを持ち、中枢機構と精神を混線させている自分が居るならば他の指揮官と違い猫吊るしが現在進行形で艦橋内に何らかの調整を行っていたとしても何ら不思議なことではないと再び中村は誰かに教えられるように理解させられる。

 

「変な意味じゃないって、じゃあ、司令が責任を取るって言ったのは・・・?」

「まぁ、あれだ・・・あ~・・・俺の話でさんざん悩ませたわけだし、吹雪が良いなら退役した後にでも養子として面倒を見るってぐらいか・・・な?」

 

 ふざけた悪環境の鎮守府で出会い、そこから助けた事で得た恩と好意に付け込んでまだ人として心の未熟な女の子と親密になる後ろめたさ、そして、お節介な妖精モドキの思惑通りに進ませられる事に対する反感から往生際の悪い言い訳が性懲りもなく指揮官の口から垂れ流された。

 

「ようし? 養子って、は? 司令官っ!?」

 

 その言葉を聞いた次の瞬間に何かの期待を裏切られた吹雪が眉を顰めて不満そうな上目遣いを中村に向け、そんな二人の姿にあからさまにホッとしたような雰囲気を見せた鳳翔と五十鈴が顔を見合わせて苦笑していた。

 

(ああそうだ。今じゃないけどいつか責任は取る、嘘は言っちゃいないさ)

 

 余計な事をしてくれた小人がどこかで呆れ顔を浮かべている気配を察しながらも中村は今度こそ心の中だけで言い訳して問題を先送りにする。

 

「え、これ、どういう状態なわけ?」

「ただの痴話げんかでち、関わらない方が良いよ」

 

 そして、やっと慣性の重さから逃れて手すりを頼りに立ち上がった重雷装巡洋艦とサボり魔の潜水艦がそんな場の雰囲気に置き去りにされていた。

 

『まったくっ、馬鹿みたいな話はさっさと終わらせなさいったら! 前方六海里、電探に何か引っかかったわよ!』

 

 コンソールパネルの通信機から飛び出した霞の鋭い声にさっきとは別の意味で気まずい空気になっていた艦橋の人員は慌ただしくそれぞれの仕事へと向かう。

 

「北上は取り敢えず対空機銃に着け、ゴーヤは使い方教えてやれ! 鳳翔、航空観測してくれてる艦隊から位置情報を貰ってくれ!」

「一番と二番の単装砲、装填したわよ! 照準の同期も問題無し!」

「前方4.4kmに敵艦を確認、いるのは軽巡ホ級一隻、駆逐イ級三隻のようですが既に回頭してEEZ外への進路をとっているようですね」

 

 今回ばかりは忌々しい深海棲艦のタイミングの良い出現に感謝してしまった中村はワザとらしく顔を引き締めてコンソールパネルのレーダー表示へと目を向けながら部下へと指示を出す。

 

「他には別艦隊と交戦に入った戦艦級を旗艦とした数隻と・・・観測後に行方を晦ませた潜航中の敵艦が複数いるようです」

「いやなんでそんなに抜かれてんだよ、我が軍の防衛網はザルか?」

「敵が大小二百隻の大艦隊相手に、こっちは大半が二隻で艦隊を名乗ってる新人部隊ばかりよ。何期待してんの? バカなの?」

「一言で日本海って言っても広いんですから十人の指揮官だけで賄うのは難しいですよ」

 

 中村の口を衝いて出たマヌケな言葉に妙に辛辣な五十鈴と真面目な吹雪の尤もな指摘が重なって返ってきた。

 

『軽巡に駆逐ね、準備運動には丁度良いわ』

「霞、去る者追わずって言葉は知ってるか?」

『少なくとも他人の庭に土足で上がり込んだ連中に使う言葉じゃないわね!』

 

 好戦的なセリフを吐き、まるでストレスを解消するための的を見つけた様な獰猛な笑みを立体映像の中で浮かべた駆逐艦娘、霞が海上を400ノットで駆けて針路を最も近い位置にいる敵艦隊へと向けて一直線に突き進む。

 

「それにしても、こんな人材と戦力不足な状態なのになんで長門が舞鶴港で留守番なんだよ・・・」

「提督、本人には絶対に言わないでくださいね? 敵艦隊の位置を海図と重ねて表示します」

 

 苛立ち紛れに飛び出た中村の愚痴に困り顔の鳳翔がやんわりと注意をして現在の敵の位置を正面モニターに表示させる。

 敵本隊と比べれば大した戦力ではないが、それでも日本の海岸線に近づかれて一発でも深海棲艦の大砲が火を噴けば少なくない人命と財産が灰にされるだろう。

 そんな危険性が目の前にあると言うのに司令部の更に上からから降りてきた要請という名の命令は現在の艦娘の中で最大火力を誇る戦艦級艦娘に運用禁止と言う頭が狂っているのか、と呻きたくなるものだった。

 

「ねぇ、提督、アタシ担当するなら機銃より魚雷の方が良いんだけど」

「慣れてない艦娘が魚雷撃つと決まって一度に全弾撃ち尽くすからダメだ」

 

 とは言え、中村にとって未だ明確な答えが出ない吹雪との今後に頭を悩ませるよりは撃破すれば終わりという簡単な解決法が存在している深海棲艦の方が相手としては楽なのかもしれない。

 

「えぇ? 魚雷って数撃って範囲広げないと当たんないでしょ」

 

 差し当たって追尾誘導が出来る魚雷というモノをまだ理解していない新人雷巡に少し表情が和らいだ吹雪と一緒に簡単な講義してやる必要がありそうだと中村は苦笑を浮かべて軽くため息を吐いた。

 




研究室「申し上げます! 戦艦娘の全力砲撃はメガ粒子砲並みであると言う計算結果が現れましたぁ!」
岳田「すげぇじゃねえか! ワクワクしてきたぞ!」(大艦巨砲主義)
長門「(`・ω・´)=3 フンス」



外務省「ダニィ!? そんな危険物、日本海で絶対使わせるなよ! 海の向こうの国と戦争になるぞぉっ!?」
司令部「ゴメンね、長門さん・・・」(出撃禁止命令)
長門「(´・ω・`) ェッ?」



出撃艦隊「留守番お願いします」
長門「・・・どう言う・・・・・・事だ・・・?」
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