艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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注意・空母以外の艦娘はまだ自前の艦載機(水上偵察機など)は持ってません!

現在、鎮守府の研究室で空母艦娘の艦載機のメカニズムが解析されているので近いうちに増設装備として艦載機とそれを管制する外付けカタパルトが完成するかも?



当然、瑞雲も存在しません。

伊勢「(´・ω・`)」日向「(´・ω・`)」

そんな顔しても無いものは無いのです。




第二十六話

 輝く太陽の下、激しい爆発音を海原に響き渡らせて戦艦ル級と呼称されている巨体がその上半身を砲塔ごと破裂させて海に溶けるように残りの身体も砕けて昏い光の粒へと解けていく。

 

《やったぞ! 見たか、吾輩の砲撃が戦艦級を討ち取ったのじゃっ!》

 

 そして、その様子を指さすように身に纏った艤装を連結変形させた巨大な長距離砲を右手に掲げた重巡洋艦娘が手柄じゃ、手柄じゃ、とはしゃぐ。

 戦艦ル級から優に十海里は離れた海上にいる16,6mの巨大な身体を持った利根は頭の上のツインテールを上機嫌に跳ねさせていた。

 

《この主砲と航空機の着弾観測があれば深海棲艦など吾輩の敵では無い! 筑摩にまた土産話が出来たぞ♪》

 

 自分よりも数か月ほど遅くクレイドルから目覚め、今は鎮守府で訓練を積んでいる姉妹艦娘に自慢できる事がまた増えたと歓声を上げて長距離砲戦形態を維持したまま利根は自身の艦橋で苦笑をしている指揮官と同僚艦娘を気に留めずに海原を艦娘としてはいささか遅い速度で航行する。

 

 次の獲物は何処にいるのだ、と艦橋にいる指揮官に催促し利根はニンマリと笑みを浮かべたまま自慢の艤装へ霊力を充填をするために霊力の伝達率を強化する。

 海原を走る為の推進力や今は必要ない防御障壁に使う霊力を敢えて減らし、余剰分となったエネルギーを主砲や雷装へと分ける事で再装填の時間を減らす技能は鎮守府の演習や訓練で嫌と言うほど反復練習を繰り返した。

 演習では何のためにこんな面倒な単純作業を繰り返すのかと愚痴っていた利根はそれが自らの戦果に直結する事を今回の任務で知り自分の武器を磨くように霊力を込めていく。

 

《なんじゃ、もう敵は居らんのか? せっかく再装填したと言うに・・・》

 

 駆逐級や軽巡級だけでなく戦艦ル級まで撃破し、訓練通りどころかそれ以上の戦果に有頂天となった重巡艦娘は艦橋の指揮官からもう上空にいる空母艦娘から観測できる自分の周囲に敵がいない事を聞き少し不満そうに口を尖らせた。

 

(しかし、やれるぞ! 吾輩なら敵首魁である戦艦水鬼とやらも敵では無いかもしれん・・・ふふっん♪)

 

 今は司令部からの命令で日本海沿岸へと接近する敵を追い払うために遠距離から撃ち抜くだけの防衛任務に就いているが自分の目に捉えた敵であれば噂に聞く鬼級だろうと姫級だろうと見事に沈めて見せると利根型重巡洋艦の一番艦は慢心していた。

 

『障壁出力を上げろ! 足下、集中急げ!!』

 

《ひひゃっ!? なんじゃぁっ!》

 

 そんな利根の耳に鋭く突き刺さる様な男性の怒声が届き、鎮守府の訓練で先輩艦娘から警告された時と同じ厳しい雰囲気を持ったその声に彼女はツインテールを逆立てて反射的に両足へと霊力を流し込み放出する。

 その次の瞬間、艦橋にいる軽巡艦娘が直下からの雷撃を探知して悲鳴を上げ、まだ新人の指揮官が戸惑いに硬直し、ついさっきまで我に敵無しと胸を張っていた利根が真下で膨れ上がった爆発と水柱に足を掬われた。

 雷跡も無く出現した魚雷攻撃に目を白黒させた利根は艦橋で同僚艦娘が叫ぶ三割近い障壁が損耗したと言う報告に針を飲んだように痛みと恐怖に顔を歪める。

 

(三割じゃとっ? 何と言う威力っ、障壁を足に集中させておらねば吾輩の両足が無くなっておったではないか!?)

 

 戦闘形態での肉体の損傷は待機形態に戻った際にある程度は軽減され四肢の損失であろうと補填される。

 

 それこそ身体が真っ二つになったり、頭が吹き飛んだとしても死ぬほど痛いめに遭うが強制的に待機形態に戻されるだけで肉や骨が爆ぜたり泣き別れになる事だけは無い。

 だが、死ぬことだけは無いと分かっていても船であった頃の魚雷に対する恐怖と人の姿を得てから学んだ感覚は身体の痛みと損傷への忌避感を強く利根に与えた。

 

《ど、何処からの攻撃なのじゃ!? 名取っ、提督、早く下手人を見つけよ!》

 

 ブーツの金具や左脚を包むニーソックスに多少の損傷を受けたが一撃でアメリカのミサイル巡洋艦を撃沈する破壊力を持った魚雷の直撃を受けたと言うならその程度は破格の幸運と言える。

 その鈍い痛みを発する足に力を入れて海面に立ち上がった利根は恐怖に慌てふためき黒髪の毛先と右手の長距離砲を振り回すように周囲へと視線を走らせるが水平線の先まで敵影らしいものは見えなかった。

 

(足下? 真下からじゃと? 潜水艦であると言うのかっ!?)

 

 艦橋にいる長良型軽巡艦娘が電探に何の反応も無いと悲鳴を上げ、そして、指揮官である男性が自分達の盲点に気付いて海面下からの攻撃の可能性を叫ぶ。

 だが、彼の声に利根が反応するよりも先に彼女の足下を押し上げる高波と黒い影が海面を乱して不安定になった足場にバランスを取ろうとする重巡艦娘は自らの手にある巨大な砲によって重心を崩して転び、また波と飛沫を周囲に散らした。

 

(潜水艦、な、なっ!? 此奴(こやつ)、駆逐艦では無かったのか!?)

 

 昏い黄色にぎらつく目で無様に尻もちを着いた利根へと向ける駆逐イ級のフラッグシップが身体中から塩水を排水しながら鋭い牙が並んだ顎を驚愕に絶句している艦娘へと突き進ませる。

 その迫力に上げそうになった悲鳴を噛み殺し、重巡が駆逐艦に怖気づいて堪るかと負けん気を発揮した利根は海面に尻もちを着いたまま右手の砲口を自分を噛み砕こうと大口を開けて迫ってくる相手へと向けた。

 

《この痴れ者めが! 沈めぃっ!》

 

 そして、四基八門の連装砲が連結した長筒の引き金を引き絞った利根の視界に突然、赤く警告を知らせる文字列が閃き引き金が固まる。

 その視界に浮かぶ赤い文字を読んだ利根は長距離砲戦形態での近距離射撃は自分にも損害を与える可能性がある場合には安全装置が起動するのだとその時に初めて知ることになった。

 

(にゃにぃっ!? 我輩はその様な事聞いておらんぞ!?)

 

 とは言え、実戦での失態は知りませんでしたで許されるわけもなく、故に目の前で隙を見せた重巡艦娘に深海棲艦は砲塔を舌のように突き出して突進する。

 ついさっきまで一方的に敵を討っていた武器が使えないという事実に利根はついに恐慌状態となり涙目を大きく見開きながら悲鳴を上げる。

 

《指揮官は何やってるの! その状態じゃ重巡は戦えないでしょっ!》

 

『そんなノロノロ走りながらスナイパー気取って、敵さんに狙ってくださいって言ってるのかよ』

 

 利根の身体を食い千切ろうと大口を開けて飛びかかってきた駆逐イ級の胴体が輝く砲弾に撃ち抜かれ、驚きに目を見開いている重巡艦娘の前で粉々に砕けながら海面に無数の波を作る。

 耳に届く怒声とあきれ声に情けなく尻もちを着いた重巡洋艦娘はポカンとした顔を浮かべ、自分の中の艦橋で名取が上げる歓声に味方からの援護砲撃によって助かったのだとやっと気付く。

 そして、巫女服とセーラー服を混ぜた様な意匠の鮮やかな赤白の服装を身に纏った軽巡洋艦娘が大きく弧を描くように滑りながら白いリボンで飾られたツインテールをなびかせて接近してきていた。

 

『海面下の軽巡ヘ級を捕捉っ、艦影の強調補正します!』

 

 自分の窮地を助けた声の主から届いた通信に顔を真っ赤にして恥じ入る利根の腕で今さらながら主砲が装甲を展開させながら分離して二の腕や腰の定位置へと戻り、20cm口径の連装砲となって収まる。

 よろよろと立ち上がった利根の目が海面下にある巨大な影が映り、すわまた深海棲艦の奇襲かと砲を構えようとした彼女よりも早く波の下の艦影へと駆け寄った長良型軽巡艦娘が腰に接続されている艤装を展開させ。

 装甲の内側から姿を見せた白木の鞘に白い菱形を連ねた根付で柄を飾った居合刀が銀色の線を引くように腰だめの状態から鞘走り。

 明るい朱色の短袴と白いニーソックスに飾られた五十鈴の足下の海面へと滑り込むように霊力で輝く刀身が走り抜ける。

 

《五十鈴から逃げようなんて考えっ、甘いのよ!!》

 

 海面の下で響いた鈍い金属音が利根の足下まで届き、中腰で刀を海面に突き刺した五十鈴は加速を止める事なく走り抜けて波と共に海中に隠れていた軽巡ヘ級を障壁ごと真っ二つに切り裂いて撃破した。

 

『残り一隻、駆逐級が北西へ転進しました!』

『今さら尻尾巻いて逃げるんじゃないわよ! 誘導するからさっさと魚雷を撃ちなさいったら!』

 

 五十鈴の背面艤装から太腿に向かって装備されている魚雷管がその矛先を海面下で逃げようとしている駆逐ハ級に向け、勢いよく飛び出した二発の魚雷が雷跡を走らせて1kmほど先で立て続けに水柱を上げる。

 

(なんと、軽巡の艦娘がこれほど強いものとは・・・いや我輩が未熟なだけ、じゃな・・・)

 

 流れる様な手際で三隻の深海棲艦を撃破して見せた軽巡艦娘の姿に棒立ちになった重巡艦娘は艦橋に届いた相手からの通信とそれに答える自分の指揮官の会話から目の前の五十鈴の指揮官が鎮守府の艦娘達にとって知らぬ者は居ないと言われる指揮官の一人、中村義男特務三佐であると知る。

 利根自身も配属されるならば彼の艦隊にと鎮守府の訓練単位を一通り取り終えた日に申請書を出したが中村の艦隊に定員の空きは既に無く。

 口惜しさに文句を零しながらも妹に慰められた彼女はその時期にたまたま編成枠が増えた今の司令官の指揮下に就くことになった。

 

(それにしても、ぅぅ、何という生き恥じゃ・・・こんな無様をかの提督に見られてしまうとはっ)

 

 逃げも隠れもできない海原である為に穴があったら入りたいと羞恥心に震える内心を押し隠してせめて見た目だけは取り繕おうと利根は背筋を伸ばして近づいて来る五十鈴へと顔を引き締めて身体を向ける事にした。

 

・・・

 

『しかしっ、我々は沿岸部へと近づく敵艦の排除を命令されています』

「そう言うのは次から次に湧いてくる敵に対して無意味どころか悪手だって分かれよ」

 

 近海で漁をする漁船団の護衛を主に行っていた戦い慣れしていない指揮官と自分の能力を過信した重巡洋艦、そして、慎重というよりは臆病な気質を持った五十鈴の妹艦娘の三人、中村から見て能力と戦力バランスは悪くないが残念なことに彼らには経験だけが決定的に足りていない。

 そして、彼らは新しい海域で戦闘経験を積むために日本海へとやってきて運悪く司令部も予想外の大艦隊に挑む事になった。

 その新人に中村は呆れをワザと見せる態度で迂闊さを指摘しながら純朴そうな特務士官を丸め込むために言葉を重ねる。

 

「つまり、俺らが囮をやって敵を誘引して、それを狙い撃てば君等の任務もこなせて作戦全体の為にもなるわけだ」

『ですが、自分達は司令部からはこの周辺海域の防衛を命令されて、離れるのは・・・』

「だが、足下の敵に気付かずにひっくり返る新人を放っておいたら今度こそ敵に抜かれるからなぁ?」

 

 話してみたところ、とある頭の固い後輩よりはマシだが命令に忠実な新人を説得するのは中々に骨が折れると内心でため息を吐き、中村は少しばかり嫌味っぽく彼らの失敗を挙げて強引に話を纏めていく。

 その二人の通信を聞いている利根が顔を真っ赤にして恥ずかしそうに表情を曇らせ、艦娘にしては珍しく戦闘そのものに消極的な名取ですら自分達の拙さで本土を危機に陥れる可能性があった事を指摘されて呻いていた。

 

「敵の絶対数を減らす方法が分からんのではいつまで経っても終わらないだろ?」

 

 すでに数十隻の深海棲艦を撃破したという友軍から届く情報と戦闘開始前で観測された戦艦水鬼を含めた二百隻の大艦隊という報告と敵艦の数が明らかに釣り合わない状態になって来ている。

 上空で対空と観測を行っている空母艦娘から新しい報告としてやってきたのはこちらが敵を撃破する度に戦艦水鬼の周辺から新たな敵艦がまさに湧くように現れているらしいという情報だった。

 

「俺もお前も艦娘達だって延々と海の上ってわけにもいかん、飯を食って寝る時間だって必要なんだからな」

 

 現状の中村達は最も小さい駆逐級ですら100mの巨体を持つ深海棲艦がどこからともなく現れると言う質量保存の法則を完全に無視した敵勢力の規模が本当はどれほどなのかぐらいは確認できなければ今後の作戦すら立てられない状態だった。

 ある意味、艦娘も深海棲艦と同じように現代の常識に正面からケンカを売る存在なのだが今は棚上げして理不尽な敵への対策に思考を集中させなければならない。

 

『・・・了解しました、ですが』

「付いて来いったって後ろにピッタリとってわけじゃない、自分達の安全を第一に砲撃支援をやってくれれば十分だ・・・だが頼りにしてるぞ!」

 

 不承不承と言った様子で返事を返してくる利根の指揮官との通信を終えて中村は軽く首を回して肩を解し、原速まで落としていた五十鈴の推進機の出力を二段階ほど上げて偵察の為に敵艦隊へと進路を向けさせる。

 

「頼りにしているねぇ・・・、提督、ホントのところはどうなのさ?」

「本当も何も重巡洋艦の火力と長良型の脚の早さは俺達にとってこれ以上ないってくらいの味方になる」

「指揮官がヘボじゃなければねっ、敵の大艦隊を前に遠足の引率なんて冗談じゃないったら」

 

 指揮席の後ろから顔を覗かせた北上が疑わしそうな視線を中村に向け、正面モニターで五十鈴の艤装に伝達する霊力の調整補助をしている霞が振り返る事無く不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「まぁ、今まで単艦運用だけしてきて今回初めて二人の艦娘を指揮下におくことになったらしいから、多少は大目に見てやるしかない」

 

 航空支援からの情報だけを頼りにしてほとんど同じ場所から狙撃を繰り返すという初心者じみた戦い方、潜水艦でなくとも深海棲艦は浅い水深なら潜航することが出来ると言う情報を失念していた迂闊さ、さらに足も速くソナーを標準装備している軽巡洋艦娘に旗艦を変更する事であの状況でも挽回できるはずだったのに彼等はそれすら気付いていなかった。

 

「てーとく、戦場でそう言うのは死んじゃうんだよ?」

「・・・と言ってもほっとくわけにはいかんだろ」

 

 そもそも、艦娘は人と同じ食事や休息を必要とする性質を持つために他の兵器と比べると極端に継戦能力が低いと言う弱点を抱えている。

 それを理解していれば司令部の命令だけに従って防衛に徹していたら次から次へと湧いて来る深海棲艦に追い詰められてじり貧になるのは少し考えれば分かる筈なのだ。

 

「今後の為にもアイツらにはここで一皮剥けてもらう」

「実戦経験を積ませるために敵の本隊に引き摺って行くんだ? 中村提督って思ってたより酷い人なんだねぇ、あははっ」

 

 足手纏いは邪魔なだけだと言外に伝えてくる仲間達の態度に中村は軽く肩を竦めてから火力支援を得るメリットといろいろと拙い新人の面倒を見るデメリットの差をあえて無視する。

 何より、そこらのはぐれ深海棲艦なら簡単にやっつけてしまえる実力者揃いの部下達にも決定的に足りない物はあり、軽巡と駆逐艦を主にした編成であるが故に中村の艦隊は純粋な破壊力と射程距離に難を抱えていた。

 そして、偶然にもその力を備えた艦娘が無意味な点数稼ぎに躍起になって棒立ちしていたのだから、それを放っておくのは中村にとっては勿体ないの一言に尽きる。

 

「まぁ、高雄か愛宕が来てくれていたらこんな面倒な事を考える必要も無かったんだがなぁ・・・」

「確か高雄さん達の編成申請が却下されたのは一つの艦隊に戦力の集中が起きないようにするためでしたっけ?」

「表向きはな、実際の所はこの作戦が終わった後に日本海側の防衛拠点となる舞鶴に駐在する艦娘の戦力が多くなりすぎるのを司令部が嫌がったからだ」

 

 霞と並んで作業をしていた吹雪が振り返り残念そうな表情を見せるが、彼女へ手を横に振って見せてから鎮守府の事情で望みの艦娘の艦隊編成に待ったをかけられた司令官は口を尖らせる。

 

 何処がとは言わないが魅力的な高雄型姉妹に対して下心はあれど自分達の艦隊の問題点を解決してもらうと言う正当な理由の為に中村は現代の日本の変わりように戸惑う二人へと助言や手助けをした。

 そして、少々露骨なご機嫌取りやシミュレーターゲームなどで個人的にも交流を深めて無事に中村は彼女達に気に入られる事に成功したのだが、その重巡姉妹が出した彼の艦隊への編成申請は司令部に却下された。

 

 さらにこの作戦に参加してる艦娘は大半である駆逐艦と軽巡洋艦はそのまま舞鶴基地に居残る予定になっているのに戦艦である長門には作戦終了後に鎮守府に戻れと命令が出されている。

 

「それを考えると、戦艦や重巡なんかの大型艦娘は東京湾で首都防衛をして欲しいって上の連中の考えが透けて見える」

『・・・何それ、ふざけてるの? それとも私達を馬鹿にしてるわけ?』

「これに関しては俺のせいじゃない。だが、映画やドラマでよく戦場に政治が絡むと碌な事がないとか言ってたが実際に体験する事になるとは思ってなかった」

 

 通信機から聞こえてくる五十鈴の呆れ声に肩を竦めてから中村は正面モニターに表示された敵や味方の位置が表示された海図に目を向け、その中で最も大きい赤い光点を睨む。

 終わってもいない作戦の後の事を考えられるなんて頭の良い連中は器用なモノだ、と他人事の様に考える前線士官は目下の障害である戦艦水鬼と仮称された怪物が居る海域を見据える。

 

「それはともかく菱田先輩中心に上手く立ち回ってくれてるから取り巻きは分散してるか・・・いや、戦艦水鬼だけが孤立してるのか? 砲撃支援もあるから様子見程度なら仕掛けれるか・・・?」

「提督、作戦目的は近海への敵艦隊の侵入の阻止もしくはEEZ外への誘導のはずでは?」

 

 顎に手を添えてボソッと中村が呟いた言葉に鳳翔が小さく首を傾げて見せるが、その柔和な表情は彼のその言葉を当然のものとして受け入れるような笑みが薄っすらと浮かんでいる。

 大人しそうに見えるが実は中村の指揮下にいる艦娘の中で一二を争うほどに苛烈な戦い方を好む空母艦娘の獰猛さを隠した微笑みに少し判断に迷いを感じた指揮官は短く嘆息して雑念を払う。

 

「少なくとも敵が次々に湧いて来る手品のタネを暴かないとおちおち休憩も出来ないからな、いくぞ」

 

 中村の気の抜けた命令にその場にいた全員がどこか嬉しそうに笑い、戦意を高揚させた五十鈴が不敵な笑みを浮かべて背後に続く利根を引き離していく。

 

 そう、自分達の後に続いて付いて来ているはずの利根との距離がどんどん離れているのだ。

 

 当然であるが艦種故に航行速度に大きく差がある五十鈴と利根の距離はさらに広がり、必死にスクリューと脚で波を掻き分ける重巡艦娘の遠く小さくなっていく姿を振り返って見た軽巡艦娘とその艦橋の面々がその状況の不可解さに首を傾げた。

 

「・・・って、なんでアイツは重巡を旗艦にしたまま俺達について来ようとしてるんだっ!?」

「ホントに素人じゃないの・・・」

「あははぁ・・・ちょっと、あちらの艦隊に連絡を入れますね」

 

 それなりに距離のある敵艦隊に向かうと言うのに火力は高くても速力に難がある重巡洋艦である利根を旗艦にしたまま軽巡洋艦娘の中でも特に船足の早い五十鈴に同行しようとしている背後の新人の姿に目を剥いた中村は驚愕の声を上げてとっさに推進出力を下げた。

 そして、怒る気も失せた霞が苦み走った表情から呆れ声を吐き出し、苦笑いを浮かべた吹雪が利根の艦橋へと通信を繋いで注意や助言を送る。

 

 そして、吹雪からの連絡で複数の艦隊で行動する際の注意事項を聞かされて自分と指揮官の迂闊さに気付いた利根は行き足を止め、とうとう恥ずかしさのあまり涙を零し限界まで真っ赤な顔を両手で隠してしゃがみ込んでしまった。

 

《筑摩ぁ、我輩はだめな姉なのじゃぁ・・・うぅ、ちくまぁ・・・》

 

 そんな泣き声を漏らしながらもういっそ殺してくれと言いかねない雰囲気を纏った利根が艦橋にいる指揮官に謝罪され慰められながら光に包まれて海上から姿を消していく。

 

《名取っ!! アンタが居るのに何やってるのよ!?》

《ひひゃっぁ、五十鈴ねぇっ、ごめんなさいぃっ!!》

 

 利根が消えたと同時に作り出された金の輪から入れ替わって海上に現れた妹艦娘である名取へとツインテールを逆立てた五十鈴が肩を怒らせて詰め寄り、怒りに満ちた顔で迫る姉に涙目になった妹が些か情けない声を海原に上げる。

 

「実戦よりもまず艦娘と指揮官の訓練内容の大幅な見直しが必要みたいですね、提督?」

「・・・勘弁してくれ」

 

 艦橋の外の様子と苦笑いを浮かべる鳳翔の言葉に頭の上の軍帽を目深に被り直した中村はもしかして勧誘する相手を間違えたかもしれないと今更な後悔にため息を吐いた。

 




名取「ひぃっひぃっ、もう息が、ひぅぅ・・・」(350ノット)

利根「駆逐艦は足が早すぎて追いつけんのじゃ! 待ってくれぃ!」(210ノット)

霞「だらしないったら!!」(403ノット)

中村「あっ(察し)・・・ゲームで支援艦隊に駆逐艦が必須ってそう言う事なのな」



※()内はそれぞれにとっての最高速度であり周囲の環境や本人の体調によって変化するだけでなく同じ艦種でも個人差があります。
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