艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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羅針盤に惑わされず、ゲージを削る必要がなく、連続で出撃する事も無いだって?

なんて良心的な設計のイベントなんだっ!

高速修復剤もほっとけば湧いて来る資材もないけど問題無いね!


第二十七話

 敵の侵攻の知らせを受けて舞鶴港から出撃し、道中で遭遇した敵を辻斬りじみた早さで撃破しながら中村と指揮下の艦娘たちは進軍する。

 途中で出会った指揮官歴がまだ半年も経ってないという素人さが抜けない特務三尉とその指揮下にいる重巡洋艦娘利根と軽巡洋艦娘名取と合流した中村は彼らの援護を頼りに敵艦隊の戦力を把握するために威力偵察を考えた。

 考えはしたがあまりにも後輩指揮官の艦娘運用が拙かったせいでほとんどの時間が彼らの実地訓練と化して敵艦隊の中央に向かう事は叶わず、はぐれ艦を撃破しながら敵艦隊の外周を回ることしかできなかった。

 

「・・・まさか、新人の訓練で半日が過ぎるとは思ってなかった」

「でも、綿津見が予定よりも沖に出てきてくれていて良かったですね」

 

 一般に財団と呼ばれている彼の前世には存在していなかった巨大企業から海上自衛隊が借り受けている大型海洋調査船の後部デッキで中村と吹雪が軽食と仮眠を終えて立っている。

 敵の勢力がまだ遠い位置にあるとは言え日本海沿岸である舞鶴港よりも間違いなく危険な場所へと臨時司令部を乗せた非武装の船舶が無理を押してきてくれた事には感謝の言葉しかない。

 

「それは、まぁ、後ろから命令するだけの連中じゃなかったことは素直に感謝するべきか・・・」

 

 これでこちら側の戦力が昼戦で削られていなければ万々歳だったのだが、中村と彼に同行していた利根と名取の指揮官を除くほとんどの指揮官と艦娘は少なくない損害を受け、中には大破して実質戦闘不能となってしっまった艦娘も複数人いた。

 指揮官達に大破もしくは強制解除と言われる様になった大きな損傷を受けた艦娘は待機形態に戻ると生命活動に支障が出ないと言うだけで十分に酷い重傷が残り、傷が悪化する前に出来るだけ早い治療槽での修復が必要となる。

 東京湾の鎮守府にある百人以上を同時に治療できるクレイドルが利用できれば最善であるのだがここは鎮守府から遠く離れた日本海海上であり、今回の作戦の為に舞鶴港に設置された治療槽は性能は問題無くとも同時に四人の艦娘までしか治療できない。

 

「傷の浅い子達でも応急処置には限界があるし、本当にじり貧になるぞこれは・・・」

「それでも私達がやらないとたくさんの人が深海棲艦の犠牲になっちゃいます」

 

 真剣な顔で胸の前で握った自分の手を見つめる吹雪を横目に見た中村は微笑みながら少女の頭をポンポンと手のひらで軽く撫でて気負うなと短い言葉をかける。

 そして、彼から見て頭一つ半ほど背が低い少女は撫でられて目を閉じ、白い士官服の胸に耳を当てるように緊張に強張った身体を寄りかからせた。

 

「司令、少しだけ、こうしてて良いですか・・・?」

「まぁ、少しだけだぞ・・・準備が終わったら再出撃なんだからな」

 

 何かと暇さえあれば中村に対して吹雪は彼の前世の話を幼い子供の様にしつこくねだっていた。

 だが、今のどこか女性らしさを感じさせるしおらしい彼女の姿に少し前まで吹雪を見た目相応の子供だと思っていた中村はひどく驚かされドギマギする内心をごまかすために明後日の方向を向きながら頬を掻く。

 

 そんな夕暮れの海原に向かって顔を向けて照れ隠しをする中村と目を合わせる少女がいた。

 

 吹雪と同じ吹雪型駆逐艦のセーラー服に身を包んだ二つ結びの短いお下げ、長女と似通った顔立ちには清楚さが見える特型駆逐艦二番艦が14mの巨体に艤装を背負った状態で綿津見の甲板にいる中村と吹雪を見ている。

 

(白雪、なんだよその微笑ましいモノを見るような顔は・・・)

 

 吹雪と特に仲が良い姉妹艦であり、たまに整備場で機関銃や対空砲を磨く姿が見れるトリガーハッピーな駆逐艦娘はクスッと小さく笑ってから綿津見の護衛任務の為に周辺警戒へと戻っていった。

 そう言えば白雪には今回の吹雪と自分の事情に気を使わせてしまっていた事を思い出し、今度詫びの一つでもしないとな、と中村は心にそう留めて置くことにする。

 

・・・

 

 2015年、三月末日・・・

 

 水平線へと太陽が沈み、曇り空にまばらに見える星と月の明かりは頼りなく、それでも戦艦水鬼を中心としてゆっくりと日本に向かって進軍する深海棲艦の群はそれぞれが目に宿す鬼火で海上に黒い巨体を浮かび上がらせていた。

 艦娘達に昼戦で叩かれ学習でもしたのか隊列からはぐれて好き勝手に行動するモノはおらず、その気になれば100ノットを超える速度で走れる小型艦種ですら大樹に寄り添うように艦隊から離れずにいる。

 最新の情報では大半が駆逐艦と軽巡級であるが193隻に達する深海棲艦の大勢力はさながら一つの巨大な黒い生物のように海を進む。

 

『予想通りに一直線に進んできてくれたのは良いが思ったより待たされたな、準備は良いか?』

『いつでも良いよ、早く始めちゃいましょ~』

 

 時速25ノットと言う鈍足で自らの眷属に囲まれて進む巨大な鬼女と取り巻きの艦隊は何の邪魔も無ければ翌日の昼には石川県の沿岸へと到達してその身に宿した猛威を振るう事になるだろう。

 その艦隊の首魁である戦艦水鬼と呼称される事となった角の先から足下まで全高210mという巨大すぎる人型は周囲の異形とは一線を画す完成度を持った不気味な漆黒の美貌を闇夜に溶け込ませながらゆったりとした足取りで海原を歩いている。

 

『なら、行くか、総員っ! 戦闘開始だ!』

 

《そんじゃ、ギッタギッタにしてあげましょうかねっ!!》

 

 艦橋の指揮官からGOサインが出され、真夜中の海原で障壁と主機を止めていた北上が海面に匍匐していた身体を素早く起こし、片膝立ちとなり両腕を白黒の葬式行列の様な怪物の列へと突き出す。

 闇の中に目を開いた軽巡洋艦娘北上の身体から霊力の光が淡く立ち上り、防御障壁の展開と同時に彼女の肩や手足に装備されている魚雷管が霊力の供給を受けて駆動音を立て各部に光の筋を走らせる。

 

『一発一殺なんて欲張りは言わん、とにかく確実に戦艦水鬼への進路にいる連中だけ片付けろ!』

 

 鈍い音を上げながら増設された魚雷管が細かい角度調整を行い、艦橋にいる艦娘達によって照準されて北上の霊力を圧縮して作り上げられた魚雷が発射の合図を待って仄かに輝きを漏らす。

 

《アイアイサーッ! 両舷合わせて40門、特大の魚雷衾をくらっちゃいなよぉっ!!》

 

 指揮官の命令に嗜虐的な笑みを浮かべた北上の声を合図に手足や肩から魚雷の大群が放出されて着水音を連続させ、直進する敵の侵攻ルートに待ち伏せしていた重雷装巡洋艦の出現に未だ気付いた様子の見えない深海棲艦の群れに向かって太平洋戦争で猛威を振るった九十三式魚雷を模した破壊エネルギーの結晶体が水面下を駆け抜けて行く。

 そして、深海棲艦の艦隊の横っ腹に食いついた魚雷達が闇を切り裂くように霊力の輝きを波打たせて放出し、夜の海面にまるで花火のように光る水柱が次々に立ち上り夜闇を飾る。

 

『前方敵勢力、重巡三隻撃沈、軽巡と駆逐艦は全滅っ、空母二隻大破・・・先制雷撃で敵の三十隻以上が行動不能に、凄い戦果ですよ!』

『・・・は、はしゃいでんじゃないの! 魚雷管の接続と増幅を開始、本命を用意するわよ、北上!』

 

 電探で敵の状態を確認した吹雪が北上が放った先制雷撃の破壊力に歓声を上げ、予想を超える威力に驚きを隠せない五十鈴が自分と周りを叱咤するように叫びながら次の行動へと移るように催促する。

 

 馬鹿みたいに真っ直ぐに突き進んでくる敵軍が横切る海域に待ち伏せして大量の魚雷による先制攻撃を与えるという単純故に効果の高い作戦を成功させた北上はニヤニヤと緩みそうになる顔を軽く手で撫でて抑え、立ち上がって背中で霊力を渦巻かせて唸りを上げる推進機に押されて波を蹴った。

 

《後はあのデカ鬼に雷撃カットインをぶち込むだけってね~! 悪いけど一発で仕留めちゃうよ~》

 

『油断はするな、今ので俺らは完全に敵に見つかったと思って良い!』

『各方面の友軍が支援攻撃を開始するわよ! 流れ弾に当たらないで!』

 

 曇天の夜空の下を走る北上は自分の足に装備された五連装魚雷から聞こえた音に手を伸ばし、その装甲から突き出した数本のケーブルが束ねられた端子を握って引き出して腕に装備されている魚雷管に用意された接続口へと繋げる。

 充填された霊力を魚雷として放出した彼女の手足となっている兵器が今度は複数の連結を経て北上の本艤装とエネルギーの循環増幅を行うコンデンサーへと役目を変えた。

 

『魚雷管同士の連結を確認、増幅率安定しています』

『霊力と力場の圧縮が終わるまで障壁と武装に伝達される霊力が減るからな油断するなよ!』

『圧縮完了まで21分! ちゃんと敵の攻撃も避けなさいよ!』

 

 先輩風を吹かせる生意気な駆逐艦を少しだけ煩わしく思いながらも北上は自分が船であった頃ですら上げた事の無い更なる大戦果の予感に意気揚々と瞳に戦意を漲らせ、艦橋にいる司令官の操作によって背部艤装から脇腹に沿う様に突き出てきた螺鈿仕立ての鞘から刀を引き抜き右手に握る単装砲と共に構えた。

 その間も青白い光の筋が脈打つように艤装同士で行き来し、それに合わせて左腕にある二連装魚雷が唸りを上げる気配を感じながら北上は敵艦隊から放たれた砲撃を避け。

 薄く輝く刀で赤く灼熱する敵弾を切り払って自分達の奇襲に泡を喰って慌てふためいている敵の横っ面へと牽制の単装砲を打ち込んで敵艦の間を縫うように走り抜ける。

 

『北上さんの邪魔はさせないんだからっ!!』

『魚雷でも砲撃でも良いから、とにかく撃つクマァ!!』

 

 飛び交う通信に耳を澄ませれば自分とは別の方向から友軍による援護が出発前に綿津見で行われた臨時作戦会議の予定通りに始まったらしく敵は隊列を乱し、反撃や逃走をてんでバラバラに始めた深海棲艦の艦隊に入り込んだ北上はその目に巨大な鬼の姿を捉える。

 待機形態から比べると16m強となる自分も随分と大きい身体を持っていると思っていたが、その北上を見下ろす白い顔が周りの混乱など知った事ではないとばかりに悠々と歩を進めてくる威容に軽巡艦娘は一匙ほどの恐怖を飲み込むように喉を鳴らした。

 

『魚雷管力場、圧縮完了まで後三十秒!』

 

《っ・・・あいよ~! さっさとヤッちゃいましょ~・・・さっさとね!!》

 

 ただ正面から戦艦水鬼の姿を見ただけで威圧されかけた北上は艦橋から聞こえた声に強張りかけていた顔をわざとらしい笑みで無理やり上書きして奥の手を放つため、左手の刀を鞘に戻して後ろ手に背部艤装へと押し込み格納する。

 秒読みを始めた霞の声に耳を傾けながら周りを飛び交う敵味方の攻撃による水柱を避け、北上は何かが掠れる様な音と青白い光を渦巻かせる自前の魚雷管を黒く刺々しいドレスに身を包んだ怪物へと向けた。

 

 9、8、7、6、5、4、3、2、1。

 

 周囲の砲撃の余波で荒れる海を最大戦速で走る北上とそれを意に介せず堂々と歩む戦艦水鬼、その距離が1000mを切ったと同時に秒読みが終わる。

 そして、自分を見下ろす怪物への恐怖を押し殺して腕を振った北上の魚雷管から青白く輝く二発の魚雷が飛び出して白い航跡を真夜中の海面下へと描きながら凄まじい速度で敵旗艦へと突き進む。

 

 周りの砲雷撃の余波が花火だとするならそれは海に落ちた太陽とでも言うべきか、暗闇の曇天をも照らす霊力の爆発は撃ち出した本人である北上の視界と艦橋だけでなく遠くから援護射撃を行っている友軍の指揮官や艦娘ですら目を晦ませるほどの閃光を放った。

 

《やった、ははっ! やったよっ、あははっ♪ この北上さまを前にして、馬鹿みたいに突っ立ってるからそうなるんだ・・・よ・・・っ!?》

 

 閃光から顔を庇う様に腕を交差していた北上は爆発で巻き上がった海水の雨の中で大袈裟に笑い声を上げ、自分が討ち取った敵の末路を見てやろうと目を向け。

 

 その目に映った光景に絶句した。

 

・・・

 

 モニターに映る戦艦タ級の姿、大きさだけなら戦艦水鬼とほぼ同じ体格を持ち背中から砲身を備えた大蛇を幾匹も生やす強力な深海棲艦の一種、病的な白い肌に身に着けるのはセーラー服の上と白いマント、下半身は局部以外ほぼ剥き出しで両脚は歪な装甲に包まれている。

 そのタ級の頭が巨大な黒光りする掌に握られてぶら下がり、首から下がほぼ全て弾け飛んで死に体となった戦艦級深海棲艦から黒く粘度の高い液体がボタボタと海面へと落ちて沈んでいく。

 

「え? なにそれ・・・」

 

 艦橋の中にいる誰かの呻く、もしかしたら全員が同時に言ったかもしれないそれを合図にしたかのようにタ級の頭を掴んでいる巨大な掌が卵かなにかの様に他愛なく同胞の頭をグシャリと潰し、原形を完全に失った戦艦級深海棲艦の残骸が砕け散りながら昏い海へと沈んでいく。

 奇襲の成功に湧き立っていた俺の精神が急激に冷え凍え、モニターに映る月明りの下で黒光りする剛腕とそれを背中から生やしている戦艦水鬼の姿に沸き上がった恐ろしい予感に警鐘をガンガンと鳴らす。

 

「・・・アイツっ、タ級を盾にしやがった!?」

 

《なにあれ!? 提督、アレはっ、一体なんなのさぁっ!?》

 

 同胞をゴミの様に握り潰す巨大な腕を背中から生やした戦艦水鬼と言う異常を見せられた北上が恐慌を起こして悲鳴を上げ。

 その光景に俺は自分達が最悪の選択をしてしまったのでは無いかと直感する。

 

 前世で見たゲームの中の戦艦水鬼はその美貌の背後に厳つくおどろおどろしい巨漢の怪物を従えて高すぎる攻撃力と防御力で猛威を振るっていた。

 鎮守府の中枢機構は星の内側から溢れる霊的エネルギーに干渉して無秩序に進化するはずだった神話の中から復活した怪物たちに一定の制限と誘導を行い。

 そして、前世ではゲームの中だけに存在していた深海棲艦の姿を模倣させると言う話ではなかっただろうか。

 

『中村っ! 何が起こった! 攻撃は成功したのか!?』

(化け物艤装が無いからゲームの時より攻略は簡単だって? 冗談じゃない・・・何処に隠してんだよそんな化け物をっ!?)

『ビジッ・・・どうした! 状況を報告っ・・・ジジッ』

 

 周囲の霊的力場の増大によって発生するノイズで不明瞭になっていく通信機から聞こえる菱田先輩の通信に答える余裕もなく俺は恐怖に歪んだ顔で変化を始めた鬼級の深海棲艦を呆然と見つめる。

 戦艦水鬼の周りを走る北上の艦橋に映る威容はその質量を更に増やし、身に纏った闇色のドレスが内側から膨張して弾ける。

 千切れた黒い布地を舞い散らし鬼級深海棲艦の艶かしい白い背中から筋骨を隆々に盛り上げた黒鉄の腕が脱皮するように這い出て、それを追う様に牙が並ぶ口だけが開く双頭と巨大な大口径主砲が耳に痛い鋼の軋みをまき散らしながらその巨影を夜空の下に現した。

 

『て、提督っ・・・か、帰っていい?』

「・・・ダメだっ、ここから離れるな!」

『ちょ、無理無理! あれはダメでしょ! アタシみたいな軽巡がどうにかできるレベルじゃないって!!』

 

 その身体を縛る様に巻き付く刺々しい鎖とビルの様に太い砲身を備えた大口径連装砲、黒鉄の巨体から生える腕は胴体よりも長くそれだけで東京タワーを引っこ抜いて振り回せるだろう。

 初見時の210mと言う計測結果の時点でも十分に巨大だったのに二本の巨大な黒腕を海面に突いて立つ巨大艤装は1kmの距離があっても視界から月を隠す程の巨体を揺らす。

 その腕長で短足のアンバランスな筋肉ダルマに抱かれるように白い肌と胸を惜しげもなく晒した戦艦水鬼の上半身が鋭利な黒い角と前髪を揺らし俺達を見下すように赤い火が灯った目を向けてきた。

 

 背中から出現した巨大艤装と融合してその鈍く光る黒く広い胸板に両腕と下半身を深くめり込ませて帆船時代の船首像のようにぶら下がり白い肌を晒すその姿はゲームと大きく異なる。

 だが全体のシルエットは確かに俺の記憶の中の戦艦水鬼と多くの部分が符合する怪物が目の前に正体を現した。

 

「くっ、あれを相手にするのは無理よ、撤退する以外に無いって分かるでしょ?」

「でも、あんなのが本土を攻撃したら! 私達が何とか・・・」

「吹雪! 出来る事と出来ない事ぐらい分かりなさいったら!!」

 

 五十鈴と霞が気丈に顔を強張らせながらも撤退を進言し、吹雪は恐怖を押し殺しながらも自分にできる事を求めて俺へと助けを求めるように顔を向けた。

 

「さっきも言ったがこの距離から、奴から離れるな」

 

《冗談でしょ!? いくら何でもそれはおかしいって!!》

 

 深呼吸をしてから俺はモニターに映る正体を現した戦艦水鬼へから艦橋にいる仲間達へと視線を回して乾きを訴えてくる舌と喉を湿らせる為に唾を飲み込んだ。

 

「ここは奴の射程の空白だ。幸か不幸か少なくともここから近づくか離れるかしない限り、戦艦水鬼の攻撃範囲内に入る事は無い・・・はずだ」

「はずって・・・提督、何を根拠に・・・?」

「アイツは身体もそうだが武装もデカすぎる、だから攻撃手段があの巨大な腕でぶん殴るか、離れた場所にいる目標を主砲で薙ぎ払うかの二択しかないんだ」

 

 呻くように問い返してくる鳳翔の青い顔にそう答えながら何故そんな事が分かるのかと自問自答してみるが正直に言うと俺自身にも分からなかった。

 

 目の前のアレの構造は端的に言ってしまえば大量の霊的エネルギ―、高濃度のマナで元の質量を膨れ上がらせた風船のようなものであり、その内部のマナが表皮に鋼鉄を凌ぐ強度の障壁を生み出し、主砲へと莫大な火力を注ぎ込む。

 だが、暴力という一点にのみ集中してそれ以外の部分を切り捨てた方向を選び突き進んだソレはあまりにも鈍足で愚鈍な応用性が無い歪な存在として進化した。

 

 ただ、奴がそういう進化へと誘導されたのだという事を俺はまた根拠無く感覚で理解させられる。

 

(親切なのはありがたいですけどっ、刀堂博士っ! もっとマシな進化の誘導先は無かったんすか!?)

 

 ある意味ではこの状況の原因である科学者からイメージで教えられた情報を垂れ流した俺の言葉。

 それに耳を傾けていた全員が顔を恐怖に強張らせて真の姿を現した戦艦水鬼へと畏怖の目を向けた。

 

「あぁ、クソ、だけどなっ・・・中核になっている鬼級を破壊できれば艤装部分は連鎖して崩壊するったって、俺達にその決定打が無い!」

 

 突然に脳内へと供給された情報を自分で理解する為に吐き出し終わってから俺は戦艦娘がそれを可能にする戦闘能力を持ているらしいと言う猫吊るしからの後付け情報に、何でその肝心の長門が舞鶴港で留守番しているんだ、とこの防衛作戦が始まってから何十回めになるか分からない愚痴を怨嗟の思いと共に吐き出す。

 艦橋にいる仲間達の様子を見る余裕もなく被っていた帽子を投げ捨てるように取って髪の毛を掻き毟る俺は予想外の状況に思考停止しかけている脳みそに打開案を吐き出せと命令する。

 

 現状での最善手は逃げ以外にない、だが肝心の逃走方法をはじき出すまでもう少し時間をくれと宣う回転の鈍った自分の頭の悪さに嫌気がさす。

 

『ちょ、それってあの怪物を何とかしない限りアタシ達・・・逃げる事も出来ないっての?』

「朝になれば鳳翔に全力で飛んでもらえれば逃げ、いやその前に撃ち落されるか・・・? 戦艦水鬼って言ったら矢鱈と命中率が良くて更に一撃必殺ってのが印象に残ってるからな・・・」

 

 もしかしたらゲームをやっていた頃の自分の艦隊がへぼ過ぎて滅多打ちにされていただけかもしれないが、何度挑戦しても大破する艦娘が増えるだけで入渠の順番待ちと資材や緑のバケツが溶ける様に減っていく様子に呻いた平和な悩みを抱えていた前世の思い出に現実逃避をする。

 ゲームではボタン一つで撤退も進撃も思いのままであったし、敵地との行き来も数分あれば往復する事も出来たが残念な事に現実にはそんな便利で都合の良いモノは存在しない。

 

 そんな風にぶつぶつと頭の中から情報を引っ張り出して狼狽えていたのが悪かったのか、俺達の都合を無視して戦艦水鬼が山の頂上を思わせる双頭の更に上へと腕を振り上げて自分の周りを回っている北上へと拳を振り下ろす。

 いくら巨大化したとは言え1km離れた場所に届くほどの長さが無いはずの剛腕、それが振り上げられた頂点から海面へとまるでシーンのコマを飛ばしたような速度で海面を叩き、一本一本が小さな建物と言えるような指が海を抉って左右に開くように割り、その一撃が届かない位置にいたはずの北上ごと海原を掻き混ぜる。

 

《ちょっ!? 提督っ! あいつはアタシ達に攻撃できないんじゃなかったの!?》

 

「俺に言うな!? 掠めもしてないのに、こんなの反則だろぉ!?」

 

 ただ腕を上げて振り下ろしただけで周囲の空気が突風に変わり、抉れた海が昏く渦を巻いて津波へとなる。

 その自分の身長の数倍まで巻き上がった高波を見上げた北上が暴れる海面に足を取られながら悲鳴を上げた。

 

「くぉっ! 一番、七番端子の装備を破棄! 誰でもいい、撃て!!」

「はい! 司令官!!」

 

 迫りくる海水の壁となった津波に向かって仰け反り呆然とする北上の艦橋で俺は突然頭の中に走ったイメージに従って霊力を溜め込み増幅している増設装備を強制的に廃棄して津波に向かって飛ばす。

 接続基部から青白い光を噴き出す二つの五連装魚雷管が海面に叩き付けられる寸前、俺の命令に反応した吹雪がこちらの意図を正しく理解して北上の背部艤装の機銃を操作して光弾を魚雷管へと叩き付けた。

 ついさっきの雷撃カットイン程では無いが青白い閃光が周囲にまき散らされ、銃撃で砕け散る二基合わせれば一千万円に達する特別製の魚雷管から放出された霊力の衝撃波が頭上まで迫った津波から北上の身体を弾き飛ばして引き離し海面を滑らせる。

 

《うあぁ!? なにが! なんで爆発ぅ!?》

 

「旗艦変更! 伊58っ潜れぇっ!」

 

 突然に右の肩と腕から射出され爆発した自分の装備が放った圧力に押されて海面を転がり、暴力的な水圧で迫る津波を回避できた北上が手元のコンソールパネルの上で目を回している姿へと手を伸ばし、俺は指揮席の後ろにいる潜水艦娘へと叫びながら立体映像に指を走らせて旗艦をゴーヤへと変える。

 

「ヤツは戦艦、なら対潜能力は無いはずだ! ゴーヤ、頼む!!」

《うわぁん!!  こんなのってないよぉ!?》

 

 ゆっくりとこちらへと振り返る戦艦水鬼の目の前で北上が光に包まれ、その背後に作られた金の茅の輪からセーラー服の下にスクール水着を身に着けた潜水艦娘が身体を捩じり背面飛びで海上を舞い、ゴーヤはヤケクソ気味に叫びピンク色のくせ毛を揺らす頭から滑り込むように海中へと飛び込んだ。

 

『やっぱり海の中もぐちゃぐちゃでちぃ! てーとくぅ! ゴーヤ、潜れないよぉっ!』

「文句言わずにとにかく潜れっ!」

 

 もう、戦艦は潜水艦に攻撃できないと言う現実では何の根拠にもならないゲーム知識に頼ってゴーヤに旗艦を変更する。

 洗濯機の中に飛び込んだような海流に振り回されて悲鳴を上げた潜水艦娘の艦橋で祈る様に俺は叫ぶ。

 

「し、司令官っ! ソナーにっ!?」

「今度は何なんだよ、今はとにかく逃げるしかっ・・・ぁ・・・?」

 

 とっさに思いついた海底まで急速潜航して多少の被害は無視して戦艦水鬼の取り巻きの下を逃げると言う考えは、しかし、悲鳴を上げた吹雪の声と伊58の暗視能力でモニターに浮かび上がる黒い渦潮によって破綻する事になった。

 ソナーとレーダーに浮かび上がる赤い敵性反応、戦艦水鬼の丁度足下に存在する直径数百メートルの黒い渦の中から赤や黄色の鬼火が黒い船体と共に顔を出してくる。

 

「敵が減らない手品のタネが・・・よりにもよってっ・・・かよ・・・」

「この異常に巨大な空間の反応、限定海域っ・・・ですっ」

 

 鳳翔が顔を真っ青にして正面モニターから俺を振り返り、彼女の手元にあるソナー表示には見た目の大きさを裏切って示される小窓を真っ赤に染める超巨大な質量と空間が存在していると教えていた。

 これだけの代物が突然に現れる事はまずあり得ない、つまりは海上の戦艦水鬼の下に隠され引っ張られてここまで運ばれてきたのだろう。

 

 偶然にも深海棲艦の巣を海中に潜った為に発見する事になった俺達は絶望的な状況に呻き声を漏らす。

 

『これ以上潜るとあの渦に引き込まれるよっ! どーするのっ! てーとく!?』

 

 海上には歩く暴力災害と言っても過言ではない真の姿を現した戦艦水鬼、海中には俺達を引き込もうとしながら増援の深海棲艦を吐き出そうとしている黒く渦巻く異空間を内部に収める限定海域。

 ゴーヤの超音波による探査(エコーロケーション)が必要ないほどはっきりと目に見える脅威の存在に俺はただ頭を抱えた。

 




迷わずボスに挑める。
ゲージを削る必要はない。
そして、連続して出撃する必要もない(白目)

でもボスと艦娘の戦力差はマクロスクォーターvsガンダムRX-78状態。

クソゲーここに極まれり。

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