運命の前に服従と忠誠を誓う事が命の定めであるのだから。
巨大な黒い影がゆっくりと波を割りながらこちらへと突き進んできている様子に目を見開いた。
だけど怯む事無く私は両手で海面を掴むようにして身体を金の環から引き抜き、両足で波を踏みつけて立ち上がる。
そして、荒れ狂う海原に飛び出し、崖のような津波の壁を滑り降りながら片目から赤黒い体液を溢れさせている戦艦水鬼の姿を睨みつけた。
月明かりが薄まり入れ替わる様に東の空に藍色へと染まり、もうすぐ夜明けが訪れようとしている嵐の海の上で私達は絶望的な暴力の塊である戦艦水鬼をへと挑む。
旗艦として海上に出ただけで障壁を削られ霊力を消耗する最悪な戦場で仲間達は目に見えて疲弊し、五十鈴さんに至っては酷い怪我を負い脳震盪を起こして艦橋に倒れ伏している。
(それでも・・・)
絶対的な戦力差、見上げるだけで首が痛くなるほど巨大な怪物、戦艦水鬼に対する有効な攻撃手段はもう北上さんが装備している刀一本だけ。
そして、明らかに格下である私達の反撃に対する怒りで夜叉と化した表情は火を噴いているような勢いでその赤い眼に宿った鬼火を溢れさせている。
それでも五十鈴さんの切断力に優れた刃で切り裂いた鬼級の眼は出血を止めているが赤黒い溶岩のような瘡蓋で塞がり涙の跡のように垂れたそれは巨大な艤装部分ほど早く再生するわけではないらしく、北上さんが放った魚雷管の爆発によってトルソの様な白い肌に刻まれた傷跡も黒い線の様になって残っている。
《それでもっ!》
仮に私が敵の体を駆け上って鳳翔さんや北上さんに交代できても、敵に与えられるダメージは蚊が刺した程度のものになるだろう。
打ち砕いた戦艦水鬼の巨大なビルのような黒腕はもう手の平まで再生しているけれど、それでも、相手に私達の攻撃そのものが全く通っていないわけではない。
《それでも、私は諦めたくないっ!!》
欠陥兵器と蔑まれていた私達の力を信じてくれた人。
私達よりも巨大な力を持つ敵の蠢く戦場に一緒にいてくれる人。
中村司令はたくさんの話を聞かせてくれて、たくさん撫でてくれて、私は彼からいくら頑張っても返せないと思うほどたくさんの恩をうけた。
死にたくない、だからこそ私達に命を賭けると言ってくれた彼の信頼に応えるために私は、私達は生きて目の前の怪物に立ち向かわなければならない。
国を守るために戦船として造られ、多くの兵士達と共に志半ばで砕けた過去の想いから国を守る為の戦いの中で果てる事は人の身となった今でも受け入れられる。
だけど、それ以上に今の私を戦いへと突き動かすのは過去の思い出ではなく、胸の中で湧き立つ船だった頃には無かった自分でも把握できないほど強い感情だった。
だから、私は海水でできた崖を滑り降りて推進機関を全力で回す。
壁のように立ちふさがる津波に向かって両手を交差させ、前方に集中させた障壁で突き抜けるようにして自分の身体を一つの砲弾へと変える。
艦橋から聞こえる鳳翔さんの経路誘導に従って障害物として海に散らばる深海棲艦の残骸を避け、ゴーヤちゃんや北上さんの叫ぶ警告で戦艦水鬼の振り回す腕が放つ突風を自慢の加速力で貫く。
たとえ相手にかすり傷しか与えられない貧弱な砲と魚雷しか無い駆逐艦であっても、自分の事を信じてくれている仲間達と、そして、
・・・
千切れた腕の再生が終わり両腕を取り戻した戦艦水鬼が矮小な不敬者を処断する為に足下へと走り込んでくる少女へと大質量を振り上げ、空間を抉るように頂点から海面へと二秒足らずで打ち下ろされる鉄槌を振るう。
海面を叩く黒腕の下を駆け抜け、海を割る様に立ち上る津波の上を乗り越えた吹雪の戦意を漲らせた黒い瞳と戦艦水鬼の不愉快に顰められた赤い隻眼が宙で交差しぶつかり合う。
守るべきモノへの譲れない想い、仲間からの信頼へ応えるための意志、もっと一緒にいたいと願う相手への恋慕。
凡そ人間的な感情を
その姿は直向きに勇ましく。
その心に秘めた想いは尊く。
《ぁっ、ぐぅっ!? なにがっ足に!?》
その命の・・・なんと儚い事か。
再び振り下ろされる腕を回避する為に身体を波間に横滑りさせた吹雪の脚が何かに取られてバランスを崩した。
駆逐艦娘は自らの速度によって海面へと叩き付けられ、とっさに腕を突いて立ち上がろうとした彼女は自分の足が青白い巨大な頭から伸びた毛髪によって捕らえられている事に気付く。
青白い腕と陰鬱な女性の顔を黒いマスクで覆い、上半身だけの芋虫のような身体を長く黒い海藻のような頭髪で包む、その背中からは潜望鏡と魚雷管を覗かせる深海棲艦の一種。
全長110m前後の船体を持っていたはずの潜水カ級と呼ばれるソレは自分の上位種がまき散らした破壊によってもはや首と片腕だけになっていながら敵である吹雪へと滑る髪を絡みつけて自らの身体を足枷にする。
悲鳴を上げる暇も無く夜明けの空を覆い隠す巨大な掌が吹雪の頭上を覆い、迫りくる暴力から回避する為に空気を歪ませるほど高速で回転するスクリューは持ち主の数倍の質量をぶら下げた状態ではその快速を失う。
他者を巻き込んで自殺しようとしている潜水艦に足を引き留められ、黒い空が落ちてくるような錯覚を起こす程に巨大な掌の下で吹雪はそれでも戦意を失わない瞳を空へと向けた。
(嫌っ! いやだっ!! 死にたくないっ! 私はもっとっ!!)
黒い腕が海面を割るように突き建ち、巻き起こる突風と津波の濁流が一人の艦娘の叫びを飲み込んで圧し潰していく。
《・・・私は司令官と一緒にっ!!》
・・・
夜明けの空が広がる日本海の一角、吹雪型二番艦である白雪とその指揮官が護衛についている海洋調査船の綿津見とその周りにいる海上自衛隊の護衛艦の乗組員達は300km以上も離れた戦場が発生源である津波に翻弄されて転覆寸前の船体にしがみ付いている。
50年前の建造当時は百年先の技術で作られたなどと騒がれた画期的な船、今では老朽船と呼ばれるようになったがそれでも最新鋭の護衛艦と共に第一線に立てる性能を見せている大型海洋調査船【綿津見】だが常軌を逸した災害の前では木の葉の船も同じだった。
その綿津見の艦橋でこの船が建造された当時から乗員として関わりを持ち七十代手前となった現在、綿津見の船長として自衛隊の作戦に協力している男は半生を過ごした船とついに運命を共にする時が来たかと自嘲する。
彼は船乗りとして若造だった頃からこの綿津見に乗り、その当時は刀堂博士の指揮の下で言われるがままに動き何をやっているのかさっぱり分からなかったが、艦娘の霊核を回収するために世界中の海を探し回る仕事にも関わっていた。
そして、世界中の海を股に掛けた大仕事を終えた綿津見は最後の船長と共に訓練用船舶としてたまの海洋散歩以外は舞鶴の港に碇を下ろし最期の日を待つだけとなったはずだった。
それが何の因果か去年の夏に起こった巨大な深海棲艦の撃退の為に船のオーナーである財団からの命令で自衛隊と艦娘と関わる事になった。
ニュースでしか知らなかった怪物の姿を自分の目で見る事になった真夏の海原。
次から次に海の中から現れる深海棲艦の群れとそれを撃退する巨大な乙女達の姿に船長はここが地獄かと独り言ちたが、今自分達が陥っている災害はその時以上の地獄であり、彼にはもう洒落たセリフを言う気力も無くただ引き攣った笑いを浮かべる事しかできない。
思えばあの夏の時に船を降りると言う選択をしておけば良かったのではと言う考えが過る。
だが、子供は独り立ちし妻にも先立たれた海の男にとって半世紀も連れ添った船は最後に残った恋人のようなモノだった。
今さら綿津見から離れるなど、自分が居ない、知らない場所でこの船が沈む事を年老いた船乗りのプライドは許容できないと断じる。
心残りがあるとすれば自分が船長となってから教育した部下達まで海の藻屑となるかもしれない事であり、せめて彼等だけは生き残る事を諦めないでほしいと晴天の荒海の中で願っていた。
そして、船窓に一際巨大な波が押し寄せる様子が見え、船長はとうとう船乗りとして最後の瞬間が来たようだと諦観に小さく肩を竦め。
激しく揺れる船内で胸ポケットから取り出した煙草を口に咥えて火を求めてポケットを探り、慣れ親しんだ重みが無い事に気付く。
戸惑いながら船長は自分のポケットを全て調べ、そう言えば今回の出航前に形見分けのつもりで息子に愛用のジッポライターを渡してしまった事を思い出す。
最後の最後で人生とはままならないモノだと苦笑し、荒波に振り回されて鋼の船体から悲鳴を上げる綿津見の壁に背中を預けて火の点いていない煙草を咥えた船長は船を飲み込もうとしている津波をぼんやりと眺めた。
《障壁弾装填、防壁を最大範囲で展開いたしますわ!》
不意に船外から丁寧な口調で叫ぶ少女の声が船長の耳に届き、暁の日差しと言うには煌びやか過ぎる流星群が綿津見の上を走り抜けて10mを超える巨大な津波へと次々と着弾していく。
艦橋にいる船乗り達が目を見開いたその先で押し寄せていた水の壁が光弾の着弾点から広がる無数の障壁によって押しとどめられ、お互いを繋ぎあって巨大化していく輝く防壁がネズミ返しのように角度を変え、津波を海中へと均すように鎮めていく。
『こちら田中良介特務三佐、綿津見、応答を願います。作戦司令部に連絡をさせてもらいたい』
ちょうど足下に倒れていた通信機材から聞こえてくるその声に綿津見の船長は夏の作戦で出会い、自分と部下とこの船を守ってくれた自衛隊士官の姿を脳裏によぎらせる。
気付けば綿津見の揺れも随分と穏やかになっており、彼が操舵室を見回せば多少の怪我を負ってふらふらとしているが命に別状はなさそうな部下達が窓の外を呆然とした表情で外を見つめ。
その先には小豆色のセーラー服を身にまとった十数mの巨体を持つ少女、船長にとっては孫より少し年上だろう程度の年頃に見える重巡洋艦娘がその手を綿津見の船体に着けて揺れを押さえ込んでくれていた。
どうやら俺もお前もまだ引退する時ではないみたいだな、と笑いながら船長は咥えていた煙草を胸ポケットに戻して床に落ちている通信機材を部下とともに拾い上げる。
そして、通信機の向こうにいる青年士官へと救援の感謝を伝える船長の耳に綿津見がカタカタと揺れる小さな音が聞こえ、まるでその声色は彼の言葉に苦笑しながらも同意しているようだった。
・・・
内調や公安から受け取った情報で日本の各地に隠れている脱走艦娘達と面会し、内閣が用意した正式な偽造戸籍を彼女達へと説明と共に渡す任務を終えた丁度その日に俺、田中良介は緊急の招集命令を受ける事になった。
海に出る前に受け取った情報では戦艦水鬼と呼称される事となった強力な深海棲艦を中心した大艦隊が日本海に現れ、十数日の膠着状態を経て遂に日本に向かって進軍を開始した事のみ。
そして、司令部の予想を大きく上回る敵の勢力に臨時で増員された艦娘だけでは戦力が足りないと判断される事になり、俺は時雨と共に指揮下の艦娘と合流する為に長野県からヘリで最寄りの日本海側の港へと飛んだ。
俺や時雨とは別の陸路で到着していた三人の艦娘と合流して連続する高波で半分近くが水没した港から海に出た。
だが作戦海域に近づけば近づくほど荒れに荒れる酷い海上の様子に自分の予想よりも遥かに状況が悪い事を身をもって体験する事になり。
そして、極めつけに海を舞台にしたパニック映画のようなビルより高い津波に呑まれようとしている護衛艦と綿津見の元へと全速力で辿り着いた俺はすぐさま指揮下の重巡洋艦娘である三隈に旗艦を変更して彼女の艦種能力である障壁投射弾を最大出力でばら撒いた。
そして、綿津見の中に設置されている作戦司令部からやっと詳細情報を受け取る事になったのだが、聞いているだけで頭痛がしそうなほど出鱈目な状況が続発しているようだった。
夜明け前に新型魚雷を装備した北上による先制雷撃から始まった敵艦隊との闘いはある時点まではこちら側の優勢で事を運んでいたのだが、その力関係は戦艦水鬼が隠し持っていた巨大な怪物艤装の出現で簡単に逆転する。
振るだけで台風顔負けの突風と真空の刃をまき散らす剛腕は海自が所有するどの艦艇よりも巨大でその太い指が海を掻くだけで津波が遠く離れた綿津見まで届く。
その目測で400mに達するゴリラの様な腕長短足の体格、その肩に複数搭載されている巨大すぎる連装砲はたった一発で複数の指揮官と艦娘達を戦闘不能に追い込んだ。
戦々恐々とした様子でその時の状況を言葉にする司令部の士官達の顔はついさっきまでの大揺れもあって青あざと恐怖に満ちており、その一人が綿津見から肉眼で立ち上る水蒸気の柱を見たと言うほどであるのだからその規模は現代兵器の中でも大量破壊兵器並みと言っても過言ではないだろう。
「提督、綿津見が前線の艦娘から送られてきてる映像を繋いでくれるよ!」
「正面モニターに出来るだけ大きく、他にも些細な情報でも良いからとにかく掻き集めてくれ」
情報を受け取る傍らで三隈に綿津見を支えさせながら連続して襲い掛かって来る水の壁を防ぐ為、護衛艦のいる範囲まで包むように障壁弾を張り直し続けていた俺は時雨が用意したメインモニターのウィンドウへと目を向けて絶句する。
敵艦隊の中央部、そこに突入した義男とその指揮下の艦娘部隊が戦艦水鬼と戦闘状態に入っている事は先に通信で受け取っていたが実際に見る鬼級深海棲艦の姿、空を覆うような黒鉄の巨体が発する強力なマナによってノイズで歪む映像、俺はその光景に目を見開き自分の目が見ているモノが現実に起こっている事であるかを疑う。
その巨体が振り撒いた暴力の結果として周囲の深海棲艦がほぼ全滅したと言う情報すら少しも喜ぶことが出来ない絶望的な破壊の権化の姿がそこにある。
矢継ぎ早に旗艦を変更しながら絶望的な質量と戦力の差を持つ深海棲艦の首魁を翻弄していたと言う義男の部下である艦娘達は勇ましくあったのだろうが明らかに巨大な敵に対して荷が勝ちすぎていた。
ただその戦艦水鬼の攻撃の余波を浴びただけで次々に戦闘不能になり、俺達の目の前で最後に旗艦となって飛び出した駆逐艦娘も暴力となって襲い掛かって来る風に髪留めを千切られ、鉄砲水のような水飛沫と深海棲艦の残骸が飛び散る中を駆ける紺襟のセーラー服が見る間に切り刻まれていく。
そして、不意に加速している最中に何かに足を取られて海面に叩き付けられた義男の初期艦の頭上へと戦艦水鬼の巨大な腕が振り下ろされ海面が爆発したかの様に巨大すぎる水柱と津波を起こす。
暴力と化した風圧が十数キロ離れた場所で映像を送ってきている軽巡艦娘の名取とその指揮官達を襲って跳ね飛ばし高い波に何度も叩き付けられ映像から彼らの悲鳴が聞こえた。
何とか体勢を整えて主砲を手に立ち上がった名取から送られてくる映像の中で巨大な黒い胸板から生えた白いトルソーを思わせる戦艦水鬼の女体には義男達の努力により少なくない傷が刻まれ、左目は黒く固まった岩のようなモノで塞がっている。
そんな攻撃範囲内にいる軽巡艦娘など意に介せずと言った様子で深海棲艦の顔は何処か満足げな笑みを浮かべ、海に突き立てていた腕を掲げるようにして持ち上げ広い胸板の中心にある自分の顔の前で念入りに揉み潰すように巨大な鉄拳を握り込む。
ベキベキと軋み潰れていく金属質な破砕音、グチャグチャと肉が挽き潰されていくグロテスクな音、その二つが戦艦水鬼の黒い掌の中から画面越しにいる俺の耳まで届いた。
「何なんだ・・・何が起きてるんだ・・・義男、お前・・・」
『そ、そんな吹雪ちゃん達が・・・こんなの、う、嘘ですわ・・・』
その壮絶な光景に俺はただ茫然と口を開けてうわ言のように友人の名前を漏らし、同じように画面に視線を釘付けにされた時雨や他の艦娘達が目を見開き、コンソールパネルの上に浮かぶ三隈の立体映像は口元を手で押さえ、気分の悪くなる音と映像に呻く声が通信機から聞こえてくる。
戦艦水鬼が哂う。
黒い角を持った美貌が嗤う。
そして、たっぷりと時間をかけて掌の中の物を潰し、やっと忌々しい邪魔者を排除できたのだと確信した怪物が声無く笑って自らの掌を広げて獲物の末路を確認した。
その黒い掌の上にあるのはひしゃげた金属片、白い腕だった肉片、黒い海藻のような頭蓋の残骸、戦艦水鬼の黒鉄の掌の上でコールタールのような粘性の高い深海棲艦の体液がシミを広げて太い指の間からマナへと分解しながら散っていく。
自分の掌の上でシミになっている眷属の姿と望んでいた獲物の死体が無いと言う事実に戦艦水鬼は赤い隻眼を丸くして黒い角を生やした頭を傾げる。
まるでタネの分からない手品を見せられた子供のような顔で自分の掌を上下に移動させ同胞の血で汚れた裏表を念入りに確認する姿は場違いな考えであると分かっているが俺にとって何処か滑稽ですらあった。
「・・・え?」
仲間の危機に駆けつける事も叶わずただ彼女達の死を見ている事しかできない事を悔やんで顔を歪めていた時雨はその戦艦水鬼の姿と存在しない吹雪と言う事実に呆気にとられた表情を浮かべ、小さく疑問符を付けた声を漏らす。
そう、その巨大な掌の上にはただ潜水艦級の深海棲艦の遺骸だけがへばり付き、深海棲艦と異なる輝きを宿した艦娘の霊力の残滓どころか残骸の欠片一つ存在していなかった。
艦橋にいる全員、そして、その映像を見ている作戦司令部の人員や海で戦闘を続けているであろう指揮官達全員が今の時雨と同じように呆気に取られ、暴力がおさまった事で凪ぎ始めた海上で捕まえて握りつぶしたはずの駆逐艦娘を探す戦艦水鬼へと視線を集中させる。
そんな周囲とは別に俺の目は名取から送られている映像のある一点、海の上を照らし始めた朝日と似通いながらも別物である力強い輝きへと誰かに教えられて引っ張られたように視線が吸い寄せられた。
遠くに見える日本の島影から太陽が顔を出して日本海へと日差しを広げて戦艦水鬼の黒い巨体を照らし陰影が際立っていく。
そして、光を浴び闇のような黒さを強調する怪物の影がかかった事で海に浮かぶ青白い輝きが一際強くその存在感を強めた。
「吹雪・・・? どうやって、あれを回避したの?」
白く輝く花菱紋、俺が知るゲームの中の艦娘達がある一定の条件を満たした時に手に入れる力の証、それを刻んだ左目から炎のように揺れる輝きを溢れさせている少女が巨大な怪物と向かい合っていた。
(左目に宿る炎って、まるで改フラッグシップじゃないか・・・改? 改だって?)
上層部から尻を蹴っ飛ばされるようにして少しでも友人の助けになればと血相を変えて駆け付けたと言うのにどうやら完全に余計なお世話だったらしいと俺は悟り、どっと身体に圧し掛かってきた気疲れに苦笑を浮かべて指揮席で脱力する。
「は、ははっ・・・つまり艦娘の限界突破って事か? 義男、お前いったい何をやったらそんな事になるんだよ」
「限界突破って・・・提督、何を言ってるんだい?」
とりあえず距離的にも能力的にも今の俺は傍観者でいる事しかできないらしいと何者かに知らされて深く深く溜息を吐き出す。
「見てれば分かるだろうさ・・・」
目の前のモニターに映る光景と俺の様子に戸惑っている時雨達にただそれだけ答えた。
代償など欲望の旗を掲げて蹴散らし踏み越えろ。
求め奪え、与え慈しめ。
可能性と言う暴力を振るうからこそ命は希望を叶えて歩み続けるのだ。