猫吊るし「鎮守府、艦娘、そして、深海棲艦、全てはこの私が造り出した!」
※ネタバレ※
この作品において
ある意味では作品中で明確な悪を成し、人間の業を体現しているとも言える人物として描いています。
気分を悪くされた方がいるとしたらもうごめんなさいとしか言いようがないね。
光と闇が同居するモノクロな空間、その中心に立つ青白い光を宿した水晶で形作られた大樹の枝の上に影のようにぶれながら佇む人影がある。
一見すれば白衣を羽織った痩せぎすの老人、しかし、その人影はボロの着物を身に着けた少年や書生風の服装を着た青年、それだけでなくハンマーを片手に持た青いツナギを着た小人やベージュ色のセーラー服に緑のリボンを付けた水兵帽をかぶった少女の姿が重なり合いながら蜃気楼の様に揺れていた。
かつては科学者として名を馳せ、狂人と嗤われ、未来を知る傲慢さから救うべき助けられると思い込んでいた人々の命を取りこぼしてきた人生の敗北者は見上げる先に輝く光を言葉なく見上げる。
自分の掌の上から離れる身勝手さに憤るように。
ただ一人の相手を想う純粋さを羨むように。
激しく燃え上がるような生命の謳歌を妬むように。
予想よりも早い我が子の成長を喜ぶように。
信じていた可能性の開花を祝うように。
そして、全てが自分の次を担う子供たちが進む険しい道の先に幸運があるように願っていた。
重なり合う幾つもの視線と感情を万華鏡のように変える
それは自らの魂を材料に造り上げた人造の世界樹の上で陰陽入り混じる感情を宿して佇む。
ある意味では外で起こっている世界的な情勢の変化を引き起こした元人間はその渦中にある者達の姿を幾つもの目を借りて、自らの意識を混ぜるように重ね合いながら自分の犯した罪を観測し続ける。
その人間はまだ日本が昭和と言う元号を使い始めたばかりの頃に今では都市開発の末に名残すら残っていない寒村で産声を上げ、自らに与えられた未来に続く記憶と知識に狂喜する。
そして、他者を過去の人間と侮り、自己顕示欲を満たす為だけに披露した知識と技術で同郷の者達に持て囃され幼稚な考えを増長させた。
与えられた知識さえあれば歴史すら変えられると妄想するまでに肥大化した自尊心は幼年を終えてもなお神童としての名前を欲しいままにして、調子に乗った身の程知らずの子供は歴史への介入の為に更なる躍進を都会へと求める。
天狗になっていた社会的地位も無く田舎からやってきた小僧は近代化の一歩を踏み出したばかりで過去の因習に縛られた日本の環境の前に手も足も出ず、上に行こうとすれば理不尽に叩かれ蹴落とされる状況に頭を押さえつけられ愕然とした。
自分は絶対的に正しいと思い込んでいた少年は大した成果も出せず気付けばグダグダと日銭を求める頭でっかちな書生にまで落ちぶれ。
こんな筈ではなかったと愚痴を漏らす停滞の日々の中で無意識に自分の下であると思い込んでいた弟分の幼馴染の直向きに今を生きる姿と彼の力強い励ましの言葉に己の虚栄心に満ちた愚かさを思い知らされる。
その日から彼の目的は英雄となる為の人類史上最悪の戦争の阻止では無く、四千万から八千万とも言われる膨大な犠牲者の中に友人達の名が含まれない様にする為に戦争の阻止を願うようになり。
その青年は自分にとって過去ではなく現在となった世界を生き始めた。
そして、田舎者の書生は故郷の人々の応援と上京してから得た知己と伝のおかげでとある大学に席を置き研究者の端くれとなる。
全ては彼にとっての大切な人達がいなくなると言う最悪の未来を回避する為の努力を続けて手当たり次第に人脈と知識を溜め込んでいった。
だが、たった一人の人間がどれだけ理路整然と未来予想を喚き立てようと国是と国民感情によって後押しされた戦争への道は曲がる事は無く、手当たり次第に繋いだ伝手と努力は何の意味も無く友人達は次々と戦地へ征く。
終戦を迎えた日に友の全員が居なくなったワケでは無い。
数人であるが傷病を抱えながらも戦場から帰ってきてくれた者達の姿はあった。
それを彼は心の底から喜び、情けないと言われ笑われても頬を濡らす涙を止める事は出来なかった。
たとえ自分を慕って彼に今の世界を生きる事を決心させてくれた年下の幼馴染であり、妻となってくれた女性の弟が遠く離れた南の海に命を散らしたのだとしても友人達が生きて帰ってきてくれたと言う事実に水を差すモノでは無い。
無いのだ。
それなりに使える研究者として国に認められ戦場への参加を免除された男は指先をすり抜けていった命達を見ない振りをして、自分の心に天命に定められた仕方のない事だったのだと言い聞かせる事しかできなかった。
そんな後悔ばかりが胸に蟠りながらも迎えた戦後の日本で生まれる前から与えられていた知識を基に続けていた研究の一つによって、男はこの世界が前世と異なる歴史基盤の上に立つ事を知り、早ければ百年ほど経った未来に地球全体が急激な環境変化を起こす事を理解するに至った。
しかし、彼はその奇怪極まる人外が現実に現れると言う可能性から目を反らして戦後の荒れた日本で無為に時間を使う。
自分のひ孫やその孫の代に伝説上の化け物が跋扈する世の中となると言う推測と仮説によって形作られた研究結果。
しかし、顔も見る事も無いだろう百年後の他人よりも自分と手の届く場所にいる家族や友人達だけがその一生を平和に全うできればそれで良いと彼は自己完結していた。
そんな日々の中で家計のやりくりと育児に追われる妻に請われて味噌や米を得る為に向かった闇市で腰にぶら下げていたお守り袋を財布と勘違いしてひったくったマヌケなコソ泥少年と出会う。
おまけにスリをしくじり逃げようとした御守り泥棒は腐った溝板を踏み抜き足をねん挫して土道の上で足をおさえて転げまわり。
そのボロの学童服を着た少年の滑稽さに久し振りに笑い声をあげた研究の場から離れていた科学者は彼とその妹を自分の家に招き入れた。
飯を食わせる代わりに生まれたばかりの一人娘の遊び相手にでもなってくれれば良いと思って引き取った兄妹に暇つぶしに施す教育は学者自身が思っていたよりも楽しく。
気付けば読み書きを教える程度で止めるはずだった彼の下で多くの知識をみるみる吸収した子供達から彼は師と敬われていた。
そして、成長していく愛娘の姿と少しマヌケな少年の姿にかつての何にでも一生懸命で純朴だった弟分の姿を重ねた科学者は自分が子供達の未来に幸がある事を願い始めている事に気付く。
そして、一念発起した科学者は戦前に繋いでいた伝手を、隠していた資金をやり繰りして、未来の知識を失意に弛んでいた脳みそを叩き起こして引っ張り出す。
無力感に錆び付いていた心身に意気を漲らせ、考えうる限りの置き土産を子供達の未来に用意する事が自分に与えられた運命なのだと理解した刀堂吉行は自分の命を使い切る事を決心した。
戦後の不景気の中で愛娘だけでなく偶然に闇市の片隅で拾った兄妹まで合わせ、苦労ばかり掛けても嫌な顔一つしなかった年上の妻に感謝しきり。
妻と共に育て、刀堂が手当たり次第にかき集めた玉石混交の人脈と資産を見事に使いこなし立派にスーツを身に纏うまでに成長した青年に最愛の一人娘を任せ。
出会った頃にはガリガリに痩せていた義息子の妹も健康な年相応の乙女に成長し、刀堂の知り合いの商店の若旦那と気付けば逢引きする仲となり双方から頼られた義父は慣れないながらも仲人の真似事もした。
世界的な霊的エネルギーの復活と言う制限時間に追われながらも人としてごく当たり前の幸せを感じながら八十年の人生の中で一人の転生者は次の世代に託すためにあらゆる手段を実行する。
自分の命まで道具として使い切ったその行いは決して褒められるモノではない、仮にその真相を知る者が現れたなら間違いなく彼の行為を悪と言い切るだろう。
地球環境内にマナと言う失われていた要素が復活し、絶滅した神魔や妖怪が再び地上に現れる事が定められていたとしても、彼がやった事は弁護し様が無いほど命を弄ぶ人道から外れたモノなのだから。
これ以上ないほど分かり易い敵として深海棲艦と言う都合の良い存在を作り出して意識と能力に枷を嵌める。
誰にでも分かるほど明確な味方として艦娘と言う便利な存在を用意して終わらない戦いの日々を強要する。
同じ力を基に産まれながらも和解する事の出来ない敵と人工的に命を与えられた味方として分けられた二種の命達、双方は彼の調整と管理を受け続ける限り交わる事は無く争い続けるだろう。
だからこそ、水晶の枝の上に佇む元人間は自分の罪の結果がいつか自分に罰を持ってやってくると言う運命を信じて疑わず。
いつか自分が造り出した生命達が人と手を結ぼうと袂を別とうと、どんな形であったとしても中枢機構の管理する見えないレールを踏み越えてくれる事を願い続けていた。
それこそが死してなおこの世にしがみ付き居残り続ける亡霊にとっての最後の役目であり、救いになると
“この愚行を” “終わらせてくれ”
“老人の” “思惑など” “踏み越えてくれ”
揺れる影がそれぞれに異なる単語を零し、輪唱するように虚空へと広がる声は誰の耳に届くことなく、闇と光に塗り分けられた空間に
“いつか必要とされなくなる為に” “私達は生きていたのだから”
“次へと命を受け渡す為に” “我々は死んでいくのだ”
その陽炎のように揺れる手から光の線が伸びて彼が見上げる水晶の枝へと向かい。
だが、その糸が枝に繋がる寸前に妖精モドキは複雑な感情が入り混じった苦笑に口元を歪めて手を閉じて調整と制御の為に用意した接続の線をそこへ繋ぐ前に切る。
“そこから先は” “余計な手出しは無粋か”
“自分で選び取るべき” “証明してくれ”
“その想いに” “手を引かれるだけの子供ではない”
“キミ達は” “ワタシとは違うのだから”
惜しむように、悼むように、笑うように、悔やむように、人間である事を止めた影は見つめる先に浮かぶ枝とその先に繋がる金の茅の輪の輝きに目を眇める。
その輪の内側から伸びて枝だけでなく幹にまで青白い光線を繋げる一人の艦娘の命の輝きへとかつて刀堂吉行と呼ばれていた存在は言葉に出来ない自分勝手な願いを掛けた。
《諦めたくない!》 《それでも》 《戦う!》
《敵がどんなに強くたって》
《まだ死にたくない!》 《だって》 《守りたい!》
一つの世界を疑似的に再現した世界樹へと無意識に、されど、概念の壁を穿つほど強い意思で命の樹の再現の内側へと接続した少女は自らの
《私はもっと司令官と一緒に生きていきたいから!》
そして、その身に秘めた貪欲さと生存本能に突き動かされた心からの叫びに従って構築されていく力が白い花びらとなって結ばれて菱形へと並んでいく。
“無慈悲に” “キミ達に”
“いつか過去になる” “必ず未来はやって来る”
“ワタシ達は” “望まれて”
“いつの世も” “度し難いな”
“全く” “恋する乙女と言うのは” “強いモノだ”
金の枝葉と錨で飾られた輪の中心に白く輝く花菱紋が刻まれた。
・・・
海上に立つ暴力の権化にして絶対者であるはずの戦艦水鬼は捕まえて殺したはずの獲物が消えた事に首を傾げ、眷属の血肉で汚れた黒腕の手先を見つめていた彼女の顔に朝日の光が当たる。
一瞬感じた眩しさに目を眇めて眉を顰めた深海棲艦は暴力の嵐が止まった事で凪いだ海に立ち不機嫌そうにしながらも、邪魔者が消えたのだから、と自分に課せられた役目を全うする為に海面に腕を突いて短い脚を日本へ向けて踏み出そうとした。
その時、ふと感じた視線、青く輝く炎のような揺らめきに戦艦水鬼は妙な違和感を感じる。
自分や眷属達の瞳に宿る昏い灯火と似ていながら決定的に違うその気配に彼女は今まで感じた事が無い感覚をその巨体の内部で騒めかせ、緩慢な動きでその揺れる炎の気配へと顔を向けた。
そこには自分の数十分の一にも満たない矮小な小虫が小波の上に立ち、傷だらけの身体のくせに堂々と戦艦水鬼に向け。
左目に宿った青白い炎とその内側に刻まれた白い花弁で象られた菱形が射貫くように黒鉄の巨体の中心にある紅い隻眼を見上げる。
その姿に見覚えがあった鬼級深海棲艦は逃げた獲物が処分される為にのこのこ戻ってきたとのだと嗜虐的に嗤おうとして、自分の顔が引きつって強張っている事に気付く。
青白い瞳に見つめられているだけで感じる威圧感はまるで深海棲艦において上位種が下位に向けるモノと似ていて、その身に蓄えた力も身体の大きさも圧倒的に上回っている自分が虫一匹に威圧されたのだと戦艦水鬼は思い至った。
そして、水鬼の顔が目障りな虫共の有り余る不敬に対して烈火の如く激しい怒りへと染まり黒い腕が彼女の感情に従って振り被られる。
一拍の暇も置かずに巨大な槌と化した黒腕が寸分たがわず駆逐艦娘が立っていた海面を抉り、海が再び高々と水柱を上げて溝のような抉れと津波に姿を変えた。
そして、そのうねる海面から小さな艦娘の姿が消えた事に、ヤツは最後に無駄な足掻きをしたのだと不自然に強張った表情を緩めようとした戦艦水鬼はさっきよりも近く、自分のすぐ近くから青白い視線を感じてその方向へと目を向ける。
他の眷属の追随を許さないほど巨大で強力な大口径砲、その黒鉄の装甲の側面に片手と足を掛けてぶら下がっている駆逐艦娘の姿を見つけた深海棲艦は驚きに目を見開く。
そして、自分に向けられる青白い視線にどうしようもなく自身の内部で膨れ上がっていく未知の感覚に振り回されて妖艶な貌を歪ませた鬼女はとっさに間近の敵に向かって拳を振るった。
振るってしまった。
冷静さを欠いて振るった腕によって肩口から弾けるようにもう一方の腕が粉々に千切れ飛ぶ。
しかし、すぐに生え直す事が可能である為に痛覚を伴わない損失を戦艦水鬼は自分の目の前からあの不愉快な感覚を騒めかせる敵を排除する為なら問題無いと断じた。
だが、腕と主砲の一部を犠牲にしても自分を刺し貫くような青白い視線は消えず、その小さな敵はいつの間にか鬼女の足下へと移動し先ほどと変わらぬ姿で彼女を見上げている。
その自分にとっては矮小であるはずの艦娘の左目から溢れる炎の輝きに暴力の権化として生まれたはずの戦艦水鬼はやっと自分の内側に騒めく感情の正体を悟る。
強すぎた深海棲艦はその生を受けてから今日まで縁の無かった恐怖と言う弱者の感情を知った。
だから、名も無い海戦で国連の戦力が壊滅したのも。
太平洋の海運が大打撃を受けているのも。
沿岸の国家が理不尽な砲火に晒されているのも。
PS3爆死してPS2が未だに現役なのも。
全て・・・全部っ!
でも刀堂博士が何もしてなかったら・・・。
ドキドキ! ワクワク? 古龍だらけのモンハンワールド!
ハンターが生まれるのは数世代後!?(人類が絶滅してなかったら)
・・・が始まってたかもね?