なるほど試す価値はありそうだ。
(翻訳※長くなり過ぎたから前話と半分こにしただけじゃん)
「よりにもよって、時間停止能力か・・・」
荒波の上で綿津見を支える三隈の艦橋に座る田中は目の前のモニターに映る常軌を逸した光景に呻き、その場に居る指揮下の艦娘達が映像の中で戦艦水鬼が自分の腕を自分で殴り飛ばして引き千切る姿に顔と頭の中を全て困惑で染め上げる。
「提督、一体何が起きているの? 吹雪達は無事って事で良いの・・・?」
「あれは、さっき提督が言ってた限界突破って言う力のせい、なのかな?」
矢矧も時雨も目の前のモニターの中で自分の腕と主砲を自分で破壊する怪物の姿に困惑し、次の瞬間に何の前触れも無くその姿をぶれさせながら戦艦水鬼から少し離れた場所に着水した吹雪が左目の花菱紋を再び敵へと向ける姿に艦橋にいる艦娘達が理解不能な状況に呻く。
突然、目の前から消えて別の場所に現れた敵の姿に引き攣った顔を向けた戦艦水鬼が無事な方の巨大な連装砲を向け、自分がその大威力の範囲内にいる事すら頭に無く砲塔に火を入れる。
その錯乱した破壊の化身を見上げている吹雪はまるで歩くような足取りで洗濯機のようにかき混ぜられている海面を苦も無く滑り、戦艦水鬼の主砲が火を噴こうとした瞬間、一瞬だけその姿をぶれさせてその場に立ち止まった。
「不味いっ! 直撃されちゃうよ!」
「まだ中村艦隊との通信は繋がらないの!?」
まるで手負いで腹を空かせた肉食獣の前に無警戒に立つような吹雪の姿に全員が慌てふためき、その中で田中だけが仲間達とは別の事に気を割いて声を上げる。
「三隈、また特大の津波が来るかもしれん! 障壁弾再装填! 綿津見にも警告を!」
《ぇっ! えぇ!? でも、それより中村三佐達がっ!》
そして、モニターの中で凄まじい轟音と共に戦艦水鬼の主砲が文字通りに火を噴いて破壊をまき散らす。
ただし、その黒鉄の巨体の上で、だ。
炎を天に吹き上げながら巨砲が自爆し、鬼級深海棲艦の双頭と肩を焼き潰して残った剛腕と胸板がまとめて砕け散り海の藻屑と消えていく。
背負った巨大な砲が内部から爆発して巨大な体格の三分の一を抉る様に吹き飛ばし、爆炎と霊力の波が周囲にまき散らされて海面や空気だけでなく通信によって届いている映像すら嵐のようなノイズで乱す。
突然に自爆した超巨大な深海棲艦の姿に今度こそ呻く事も出来ずに絶句した艦橋に立つメンバーに向かって田中は落ち着いて冷静になれと言い、言われた彼女達は自分達の指揮官が何故ここまで落ち着いているのかが分からずにますます混乱する。
「・・・もしかして提督は何が起こっているのか分かるのかい?」
「今、吹雪が使っている能力には心当たりがある・・・おそらく俺の前世の世界にいたあるテロリストが使っていた力と同じモノだ」
「て、てろりすと・・・?」
田中の口から飛び出したテロリストと言う言葉に呆気にとられた面々を放置して彼はコンソールパネルの操作に手を動かしながら砂嵐が消え始めて鮮明さを取り戻したモニターに映る両腕を失った戦艦水鬼を見つめた。
「テロリストと言っても政府が行おうとした人命を蔑ろにする愚行を止める為に敢えて反旗を翻した特殊部隊なんだが・・・この際、それはどうでもいいか」
本当ならば前世における艦これとは全く関係ないゲームに登場するキャラクターの設定であるが、前世でそのシリーズにハマり指にマメが出来るほど遊んでいた田中はその荒唐無稽な能力を持ったボスの姿をソックリそのまま現実化したような挙動を見せる吹雪の姿を前世の記憶と重ね合わせる。
「吹雪が使っているアレは、その部隊の中でも最強と言われていたメンバーが持っていた力と同じ・・・一言で言うなら、自分以外の時間を止める能力だろう」
この世界では幾つもの軽微なズレが重なり合い、技術や時期の差異も重なりゲーム業界そのものが2008年前後の深海棲艦出現の煽りで急激に衰退した事によりそのゲームを作っていた制作会社が他の会社に買収された事でシリーズは彼が語るキャラクターの物語に到達する前に事実上の打ち切りとなってその姿を消した。
そんな、今では余程のコアなファンの間でも無い限り話題にすら上らないその物語、この世界では作られなかった作品の中に登場する強敵の姿、コントローラーを手に少なくとも百回以上は挑んだ異能者の動きと共通点が多すぎる吹雪の様子に田中は背筋を強張らせる。
(精神の混線、やはり、義男だけじゃなかったって事か・・・確かにコレは言われなきゃ分からない、刀堂博士、貴方は確かにアイツが言ってた通りに性質の悪い人だ)
同じ前世の世界を知る友人は好みではないと言っていたジャンルであるが故に彼女がその能力を使う理由はまず間違いなくそのシリーズのファンだった自分の影響があるのだと田中は根拠なく確信する。
そして、その何者かの意志を感じる確信に中村が言っていた眉唾な夢の内容が事実であり、言われなければ自覚できないその感覚に元凶である科学者の性質の悪さへと内心で文句を付けた。
「じ、時間を止めるってそんな事、あり得ないわ・・・」
「だが、そうでも無ければ今の吹雪の移動速度は説明がつかない、それに姿形は別人だけど前世の世界で見た記録映像の中の動きと全く同じなんだよ・・・俺自身も信じられない事に・・・な」
戦闘開始直後にいきなり目の前に現れて大威力の斬撃で斬りかかってきたのをタイミング良く防御できても下手な反撃は掠りもせず、その姿を何度もぶれさせ離れた場所を転々と瞬間移動しながら弾丸の雨をばら撒きヒット&アウェイを繰り返す。
一度でも防御を失敗すれば時間が停止した世界に放り込まれ死ぬまで連続攻撃を浴び、その上に攻撃のタイミングは初見殺しのオンパレードと言う反則としか言いようがない戦闘スタイルを持つボスキャラクター。
多くのプレイヤー達に公式チートと言わしめた強敵が一方的に敵を撃破していくゲーム内のデモムービー、それがそのまま現実となったかのように戦艦水鬼を翻弄していた吹雪の姿が再びぶれて海上から消える。
先ほどの鬼級の主砲が爆発したのも発射の直前に吹雪が時間を止めて砲塔内へと海上に浮いていた深海棲艦の残骸か何かを押し込んだのだろう。
ゲーム内のストーリーでその時間停止能力を持っていたそのキャラクターが戦略級の威力を持つ巨大要塞砲を破壊した時と全く同じ手法であると傍観者となっているからこそ田中は察することが出来た。
「俺の予想が正しければもう吹雪と戦艦水鬼の絶対速度の差は覆らない」
田中の見つめるモニターの向こう側で両腕を失った戦艦水鬼が艤装と融合した身体を捩り自分の胸元に走った衝撃を見下ろし、自分の胸の谷間に錨斧を突き立てている駆逐艦娘の姿に気付いて恐れ慄き悲鳴を上げようとする。
「そして、当たらなければどんな強力な攻撃も意味が無い」
だが、それよりも早く吹雪の姿がぶれて白磁の首に一秒にも満たない間に連続で打ち込まれた砲撃と魚雷の爆発が穴を開ける。
そして、戦艦水鬼の口と喉笛から赤黒い血流を吹き出し、直後に首の破壊に続いて鬼女の胸元へ無数の打撃痕が刻まれて白い肌が裂けるように割れていく。
人であったら傾国と言われていたであろう美貌が痛みと恐怖に染まって歪む。
グロテスクな噴水へと変わった戦艦水鬼の上半身から天高く噴き出した血流が海上に落ちて昏く光るマナへと分解されて消えていく。
「そして、強固な装甲があっても傷さえ付けれるなら時間を止めて殴り続ければいつか壊れる」
正しい意味で反則だ、と指揮席に脱力して苦笑する田中の目の前のモニターには死の恐怖に声なき悲鳴を上げて巨大艤装ごと解け砕けていく戦艦水鬼、そして、前線から映像を送ってきている名取の近くに瞬間移動してきた満身創痍の吹雪の姿が映った。
三隈の艦橋にいる田中の指揮下の艦娘達はモニターと自分達の指揮官の間を呆然とした表情で視線を行き来させ、彼の解説を聞いても理解を超える現象の前にただただ戸惑う。
「ずっ・・・るいぃいいっ!!」
その部下の中でただ一人だけ艦橋のモニターを照らす朝日に輝く金髪の長い毛先を振り乱してウサギの耳を思わせるリボンを頭上に揺らしている駆逐艦娘が肩を怒らせて叫び声をあげた。
その叫びに田中は脱力していた背筋を跳ねさせるように伸ばし、円形通路で呆然として黙り込んでいた仲間達が叫びを上げた駆逐艦娘、自らだけでなく他人の早さに対してまで凄まじい偏執を見せる島風が地団太を踏む姿に困惑する。
「時間を止めるなんてズルい! それって吹雪が島風より早いって事じゃないですかっ!? そんなのズルい! ズルいっ!!」
「うわっ、島風っ止せ!? 放せっ! く、くるしっぅ・・・」
「提督! 私ももっと早くなりたい!! あの子よりもっともっともっとっ!!」
駄々っ子と化した島風が目を丸くしている指揮官に手を伸ばしてコンソールパネルの上にノースリーブのセーラー服に包まれた上半身を乗せて詰め寄り、彼の襟首を白い長手袋に包まれた両腕が掴んで彼の身体をガクガクと揺さぶった。
ただでさえ短いスカートの青い裾が暴れるように振り回される足によってはためき尻を丸出しにしている駆逐艦の姿に仲間達がつい先ほどの衝撃的な光景から正気を取り戻して駄々を捏ねて指揮官に無茶な要求をしている島風の身体を後ろから捕まえて引き離す。
「提督、限界突破って言うのは僕らにもできる事なのかい?」
「痛ぅ、いや正直言って分からない。俺が知ってるのは鎮守府の工廠で改造と言う処置を受けた艦娘がそうなるって事ぐらいだな」
司令部を経由して三隈の艦橋へと送られてくる戦場の中心では身体中に霊力の燐光を漏らす割れ目を刻み、軸がくの字に曲がり刃が真っ二つに割れた斧を手に海面に膝を着いた吹雪が虚ろな瞳を揺らし意識を朦朧とさせて名取の手に支えられながら旗艦変更の光の中へと消えていく。
「とは言え・・・今の世界でそんな技術があるなんて鎮守府の研究員だって聞いた事も無ければ見た事も無いだろう」
たった一人の艦娘が戦艦水鬼と言う圧倒的な暴力の塊を一方的に屠ったと言う事実にその場にいた全ての艦娘は吹雪に対して恐れと同時に胸の中で強く羨望で騒めかせる。
「か、改造って身体を弄るって事よね・・・でも、あの力があれば・・・」
「この世界では間違いなくまだ技術的に確立されていないモノの一つだ、今すぐどうこう出来るもんじゃない」
『それは、わかりますけれど・・・三隈も・・・』
うわ言のように呟く矢矧や三隈の声にさっきの知識の元がゲームの中の話であるとは言う気にもなれず、自分でも気付かないうちに興奮して余計な事をベラベラと喋ってしまった田中はモニターの向こうで戦艦水鬼を打ち倒した友人のように厚顔でいる事の難しさと自己嫌悪に小さく呻いた。
(義男の言う通り、慣れない事はするもんじゃないな・・・)
対空カットインが導入されてから何日か経ったある日、何で同じレベルで同じ装備をしているのに撃墜する数に大幅な差が開くのかとと首を傾げた事がありまして。
同じ武器なら同じ弾数と射撃速度になるから単純な命中率の差なのか?
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なんで艦娘のよっては撃墜数が二倍近く広がる事があるんだ?
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狙う際に他の艦娘よりも余裕を持って狙えるからじゃないかな?
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なんで同じ環境でそんなに余裕ができるの?
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ゆっくりとスムーズに狙う時間が他の艦娘よりもあるって事じゃないか?
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つまり、特定の艦娘は時間を止める能力でしっかりと狙えるから撃墜数に差が出るんだな!?
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何て言うかホント頭の悪い発想を作品にしてごめんなさい_(:3」∠)_