まぁ、全部まとめて自業自得なんですけどね。
やっちゃったモンは仕方ないね。
そう言えば艦娘って改造すると損傷が治るだけじゃなくて燃料弾薬も補充されるのはなんでだろ?
光の中から艦橋の円形通路へと倒れ込むように姿を現した吹雪の姿に中村は指揮席を立ってコンソールパネルを飛び越えて床に倒れそうになっている少女の身体を受け止める。
「吹雪っ、大丈夫か!?」
「しれい、かん・・・私たち・・・生きて、ますよね?」
「は、ははっ、ああ、見れば分かるだろ・・・よく頑張った!」
破れた服の下の内出血で痣だらけになった身体は痛々しく、目や鼻からだけでなく身体中から血の筋を滴らせて千切れたセーラー服の白い布地や肌に落ちて汚していく。
その少女の身体を抱きしめた中村の服も血で汚れていくがそれを気に止める事無く指揮官は吹雪を褒めてその小さな背中を出来る限り優しく強く抱きしめる。
「司令、私、少し・・・疲れ・・・ました」
「後は帰るだけだ、お前は今回のMVPなんだから寝てても誰も文句なんか言わねぇよ」
頭上から落ちてくる戦艦水鬼の拳を見上げて、生きていたい、と叫んだ吹雪に呼応するように艦橋に満ちた青白い光と制止した世界。
目と鼻の先で氷の彫像のように固まった敵の姿に戸惑う駆逐艦娘にとっさに回避を命令してその場から離れ、コンソールパネルに浮かぶ吹雪の立体映像に重なる様に表示された花菱紋に中村はその現象が中枢機構から彼女が自分の意思で願いを叶える為に必要な力を引っ張り出したのだと教えられる。
そして、どこからか送り込まれた霊力の補充を受けた上にまるで中二病臭い漫画のキャラクターが使うような自分以外の時間を止めると言う反則な能力に目覚めた吹雪は中村の声に従って思いつく限りの方法で戦艦水鬼へ攻撃を仕掛け。
指揮席で時間停止能力の発動可能な時間を知らせて数字を減らしてくカウントタイマーを止めては動かし、最後の手段として中村と吹雪は叫ぶだけで音波攻撃となる水鬼の喉へ砲身が破裂するほどの砲撃と雷撃を撃ち込み、返す刃で心臓部であると思われる胸元を壊れるまで錨斧で殴ると言う乱暴な方法で破壊する。
自らの加速度と蓄積する衝撃によって歩くだけで、腕を振るだけで砕けていく身体と武器、そして、幸運を全て使い切るように吹雪は全身全霊を賭け無理矢理に猛攻を戦艦水鬼へと叩きつけた。
その止まった時間の中で補充され満タンになったはずの霊力も湯に放り込まれた氷のようにみるみる溶け消え、続いて吹雪の背面艤装がオーバーヒートを超えてスクリューや煙突が弾け飛び原形を失い、さらに肉体が内側から砕け始め戦闘形態が強制解除される寸前。
まさにギリギリの所で戦艦水鬼と彼等の戦いは中村達の勝利で決した。
少し考えるだけでも途方もないと分かる吹雪の力を制御する方法は案の定であるが中枢機構に住み着いている妖精モドキからのイメージで伝わってきた。
だが、彼女が中枢機構から勝手に持ち出し、自分で無理やりに繋いだ力の欠片は今までの妖精に調整された安全なモノでは無く吹雪の心身にハイリスクを要求するものだった。
何故そんな能力が彼女に目覚めたのか、何故今までの能力のように使いやすいように調整しなかったのか、と頭の中で呟く中村の脳裏に猫吊るしから戻ってきた曖昧な内容の返事にもならない言葉だけが揺れる。
(吹雪が俺と生きていたいと願ったから? それに子供の成長に手出しは無粋、ってなんだよ、根性とか友情とかそう言うもんを有難がる精神論者かよ?)
科学者のくせに昭和の親父みたいな根拠の欠片も無い精神論を振り翳して言うな、と内心で愚痴り。
疲れを身体全体から滲ませつつも抱きしめた吹雪が生きている事を触れ合った体から伝わってくる呼吸と心音でしっかりと確認した中村は深く息を吐いて安心に苦笑する。
「提督、海面下の限定海域が浮上を開始したようです」
「さしずめ門番が居なくなったから扉が開くって所か・・・良し逃げるぞ!」
鳳翔が戦艦水鬼の一撃が掠って破れ開けた胸元を手で押さえながらモニターの向こうの海面を黒く染めていく大質量の接近を知らせ、文字通り目が回る戦闘で精神的にも肉体的にも限界が近づいていた中村は自分の胸に寄りかかり寝息を立て始めた吹雪を抱き上げて撤退を宣言する。
「いや、提督、帰るのはアタシもさんせーなんだけどさぁ、もうちょっと言い方ってありますよね~?」
「言うな、情けないのは自分でも分かってんだよ」
そして、北上の呆れ声を背に指揮席へと戻るために中村がコンソールパネルを跨ごうとしたと同時に艦橋が不意に揺れ。
吹雪を抱き上げている重さと片足を上げていた事で重心を崩した指揮官は円形通路に尻もちを着いて後頭部をモニターにぶつけて呻く。
「なんだっ!? やっぱり気絶から起きたばかりの霞に旗艦はまずかったかっ?」
敵主砲の余波による気絶から復帰した霞は多少の損傷はあれど最低限の航行と戦闘は可能な状態だと判断して中村は自分が発動させた能力の負荷で戦闘形態を自壊させて戦闘不能になった吹雪を休ませる為に交代させた。
その霞が突然にすぐ近くにいる名取に支えられながら海面に座り込んで虚ろな目を前方に浮かび上がってきている巨大な深海棲艦の巣へと向け。
「ぐっぅっ!? なに、これ・・・?」
「ちょ、いきなりどうしたのよ、五十鈴!?」
中村がすっ転んだ艦橋の円形通路に大破状態で北上に支えられて横座りしていた五十鈴が手を額に当てて虚空に目をさ迷わせ、彼女を介抱していた北上が尋常ではなさそうなその様子に戸惑いの声を上げる。
「て、てーとく、モニターがっ!」
戦闘の負傷による疲労が原因かと考えた中村の推理を中断させてゴーヤが朝日を遮るように薄暗く染まっていく全周モニターに気付き、彼等は潜水艦娘が指さす先に映る奇妙な映像に目を見開いた。
『止めてっ!! 返して、山雲を返してよっ!』
身体に纏わりつく深海棲艦の体液を思わせる黒い海水の中でもがくように泳いで海面に座り込んでいる妹の元へと向かう情景。
『・・・手を離しっ・・・なさいよぉっ!』
まるで母親が子供を守る様に覆いかぶさっている戦艦娘の下でコールタールの様な黒い海に這いつくばって海面を引っ掻く手が見える視界。
『ごめんね、みんな。 山雲が弱くて、勝手に諦めちゃって・・・ごめんなさい・・・ごめん・・・』
奇妙な月が浮かぶ空の下、巨大で歪な鎌首をもたげる蛇に半身を咥えられ黒い海を見下ろして嘆く声に揺れる景色。
まるで同じシーンを別の視点から同時に観測しているかのような映像がモニター全体を覆うように広がる。
守る様に覆いかぶさっている仲間の手で押さえつけられて上げる怒声、黒い海に溺れながら上げる絹を裂くような耳に痛い叫び声、うわ言の様に繰り返される掠れた謝罪の言葉が中村達のいる艦橋に届いた。
(あれは確か鎮守府に戻ってきていない艦娘の・・・、それになんで港湾水鬼が・・・)
突然の映像に目を見開いて唖然としている中村の前で蛇の口から落とされて木の葉のように宙に舞い落ち、巨大な要塞型深海棲艦の真っ赤に開いた口へと落ちていく小さな艦娘の姿がそれぞれの視点が同時にモニターに並び。
『朝雲ねぇ、満潮ねぇ・・・、二人はこっちに来ちゃ、ダメ・・だからね・・・』
痛々しいほどの怒りと絶望と嘆きに満ちた映像の中で涙を零し散らしながら落ちていく朝潮型駆逐艦娘である山雲が耳まで裂けた巨大な口を開ける深海棲艦に呑み込まれる。
そして、始まった時と同じように唐突にモニターに広がっていた奇妙な光景がブツリと切り替わって元の朝日を浴びる海上へと戻った。
「あ、あの黒い海、限定海域だよっ、間違いないよ!」
「でも、なんで、そんなのが艦橋に映るのさ・・・」
前回の艦娘救出作戦に参加して限定海域に突入した経験を持つ伊58が叫び、その言葉に衝撃的な光景に目を見開いたまま硬直している北上が喘ぐように呻く。
海原へとモニターの景色が戻っても思考停止していた中村達の身体と艦橋に激しい推進機関の唸りが響き、艦娘が高速機動を行う際に感じるものと同じ前兆の揺れが彼らの身に伝わってくる。
「い、今のは一体・・・?」
《ふざけぇっ、ふざけんじゃないったらぁああ!!》
見る間に黒い渦を青い海上に広げていく限定海域へと霞が怒りに染まった猛獣を思わせる怒声を腹の底から迸らせ、その背中の艤装の汽笛が過剰な圧力で吹き鳴らされて遠く遠く早朝の海原へと響き渡る。
「ぉっぁっ!? 今度は何だっ! 何だって言うんだ!?」
中村が座っていない指揮席のコンソールパネルの上で推進機関の制御レバーがガチャガチャと音を立てて勝手にその出力を上げて艦橋を揺らす。
「うっ、まさか!? 止めろ、今そこに飛び込むのは自殺行為だっ!」
「名取ぃっ!! 霞を捕まえなさいぃ!!」
指揮官の手によらず勝手に艦娘が推進機の出力を引き上げると言う異常な光景に驚いた中村は霞が黒い渦へと突撃を行おうとしている様子に目を剥いて叫び。
それと同時に虚空を見つめてへたり込んでいた五十鈴が身体の重傷を思わせないほど素早く立ち上がりモニターを叩くように通信回線を開いて、その向こうにいる妹艦娘に大声で命令する。
スクリューを過剰回転させ加速準備段階だった霞の背中に体当たりするように抱き付いた名取が体格と重量で暴れる駆逐艦娘を抑え。
《離せっ! 離しなさいよ! あそこには私の、私達の姉妹艦がっ!!》
衝撃で揺れる艦橋に振り回されながらも中村は指揮席に戻り、気を失っている吹雪を膝の上に乗せた状態で勝手に出力を上げようとしているレバーを渾身の力で引き下ろす。
《落ち着いてっ! 霞ちゃん落ち着いてくださいっ!》
《落ち着けるわけないでしょ! 食われたのよ! 山雲が深海棲艦にっ!!》
身長と体格に差がある為に何とか霞の加速を押し留めている名取であるがその脇や頬に暴れる駆逐艦の腕や肘がぶつかり痛そうな呻きと鈍い音を立てる。
「霞、今あそこに行っても無駄な犠牲を増やすだけなのよ! そんな簡単な事ぐらい分かるでしょ!!」
中村がレバーを抑え込んだ事で急回転しようとしていたスクリューが停止して名取に押さえつけられてうつ伏せに倒された霞が怨嗟の声を上げて海面を引っ掻き、その艦橋でフラフラと今にも倒れそうな状態の五十鈴が解けて顔にかかった髪を掻き上げて目元を濡らす血の筋を拭う。
《黙ってなさいっ、五十鈴には私の気持ちが分からないのよ! あんなのを見せられて平気でいられっ・・・》
「平気なわけないでしょ!! 私と、名取の姉妹艦も・・・いるのよ、あそこにっ・・・あの中に見えたのよ・・・」
突然の出来事に呆気に取られた中村や他の面々を他所に五十鈴はモニターに背を預けて霞の言葉を遮り一喝し、そして、額に血まみれの手を当てて震える声で呻く。
その姿と言葉についさっき様子がおかしかった軽巡洋艦娘もまた霞と同じように自分とは別の誰かの視点で先ほどの悍ましい光景を目撃したのだとその場にいた全員が気付いた。
《っぁ・・・う、ぅぅうっ・・・》
頭に血を昇らせていた霞の激情が五十鈴の苦しげに呟いた言葉で行き場のない怒りと無力感に変わり、涙を滲ませ突然に知らされた姉妹艦の苦境を知り悲しみに震えている名取に抱きしめられたまま朝潮型の末妹は強く歯を食いしばる。
「そうか、さっきのは精神の混線か・・・夢の中だけで起こるってわけじゃなかったんだな」
「・・・それは、夏の作戦前の時にも何人かの子達が見たと言う悪夢の事ですね?」
「あぁ、多分な・・・」
前回の限定海域が近海へと近づいてきた時に鎮守府で妙な夢を見た艦娘が姉妹艦の苦境を感じ取り精神を不安定にさせた事を思い出した中村は聞きいてきた鳳翔に向かって頷きを返し、アストラルテザーで脱出した後に体験した自分自身の経験から先ほどの現象の正体を掴む。
中枢機構の中で世界樹の枝に繋がる無数の霊核、どれだけ物理的に離れていても水晶の幹を中心に繋がった霊核同士、それも姉妹艦であるが故に強い共感現象を起こしてしまう。
(たまに明後日の方向に独り言を言ってる子がいると思ったら、実は離れた場所にいる姉妹艦とテレパシーで会話してたって事もあるぐらいだからな)
霞も五十鈴も一度は霊核となって鎮守府に戻った艦娘である為、あの限定海域内の艦娘とは面識は無い。
普通な人間の感覚では会った事も無い生別れの兄弟姉妹に何を大袈裟なと思うだろう。
だが艦娘にとっては文字通りに魂が繋がっている相手であり、それほどに密接な関係を持っている姉妹艦娘の苦境は我が事のように感じてしまうのかもしれない。
『中村三佐、司令部から帰還命令が来ています・・・早急に状況の報告しないと、それに早く利根を治療させてやりたいのです』
「ああ、わかってる・・・さっきは部下の暴走を止めてくれてありがとう、名取にも感謝を伝えて欲しい」
戦艦水鬼から溢れ吹き荒れるマナの大気中、接触した事で鮮明な音声となった名取の艦橋からの通信に中村は同意と感謝を伝え。
恐縮する後輩の前で恰好の悪い事をしてしまったと頭を掻きぼやく。
「霞、辛いなら旗艦を交代しても構わないぞ? 幸い、今なら敵も疎らだからな」
友軍の奇襲攻撃や戦艦水鬼の大暴れによって敵艦隊はほぼ壊滅状態であるが、それでも浮上した深海棲艦の巣から湧き出る新手や手負いで海上を彷徨っているはぐれ敵艦は存在している。
そんな海上を船足の遅い空母や防御力が極端に低い潜水艦で帰るのは少々不安であるし、武装を失い負傷した軽巡達にこれ以上の無理を言うわけにもいかない。
『自分がどれだけ馬鹿な事をやろうとしてたかぐらい分かったわよ・・・帰投するわ』
一応は冷静さを取り戻したように見えるが指揮席に座り直した中村の目の前、コンソールパネルの上で霞の手や肩の破損した増設艤装が彼女の激しい怒りを代弁するかのようにバチバチと過剰な霊力の供給を電力に変換して火花を散らせている。
『名取、さん・・・さっきは暴れてごめんなさい・・・』
『ううん、霞ちゃんや五十鈴姉が居なかったら、私があそこに飛び込んでたかもしれないから・・・だから謝らないで・・・』
名取の手を借りて立ち上がり言い辛そうにしながらもその言葉を吐き出した霞が未練を振り払うように顔を限定海域の渦から背けて進路を司令部のある綿津見へと向けた。
中枢機構から能力と補給をぶん盗った直後に霊力弾薬使い切り装備を一つ残らず大破させ赤疲労になる戦闘スタイル。特型駆逐艦ェ(呆れ)
戦艦水鬼の撃破を確認しました。
おめでとうございます。
日本海沖防衛作戦、作戦成功しました!
・・・そして、新しい海域が出現しました。
これより後段作戦が開始されます。