予定は未定って言葉を心の底から思い知ったよ。
何だか敗北感すら感じてしまうな。
うるさいエンジン音を響かせる輸送ヘリの搭乗口まで向かうストレッチャーに寄り添い歩く体中を青あざだらけした中村は鼻にキツい湿布の臭いを周囲に振りまいていた。
「すみません司令官、私が不甲斐なくて・・・」
「気にするな、むしろお前が居なきゃ俺も他の連中もあの怪物にやられてたんだ。今はしっかり休んで怪我直してこい」
日本海での艦隊戦から数日経ち綿津見を中心にした護衛艦隊とともに舞鶴港へと帰還した艦娘と指揮官達は簡易的な治療を受けた後に次の作戦へと向けて戦力の再編を行っている。
だが、本人達はやる気があっても戦闘不能となった大破艦娘をこれ以上の戦闘に向かわせる訳にもいかず緊急に治療が必要な負傷を負った者達は中村の目の前のストレッチャーに乗せられた吹雪のように空輸で鎮守府へと帰還することになった。
「・・・良く頑張った。すげえよ、吹雪は俺に勿体ないぐらいの艦娘だ」
「えへ、へへ・・・私は司令の艦娘ですよ・・・ずっと」
他の負傷した数人の艦娘がヘリに乗り込む横で中村は満身創痍の吹雪の頭を撫で、それに嬉しそうな笑顔を返す少女の左目には黒い瞳孔に重なるように薄く菱形の花びらが見える。
「正直言って信頼が重いなっ、ははっ」
「それでも責任は取ってもらいますから、司令官が・・・言ったんですよ?」
「だな、自分で言っちまった約束ぐらいは守るさ」
先の作戦で散々に不甲斐なさを見せた指揮官は自分に対する執着心を隠さなくなった初期艦に苦笑いを返してヘリのパイロット達や救護員へと大切な部下を任せる為に頭を深く下げ、ヘリの中へと運び込まれていく吹雪を含めた数人の艦娘を見送る。
そして、搭乗員達の手で大型ヘリの中へと運ばれて搭乗口の中から名残惜しそうに自分を見詰めている少女に中村は軽く手を振った。
その目の前でドアが閉まったと同時に暖気していた大型輸送ヘリは双発ローターの回転速度を急速に早め、離陸を始めた輸送機から彼は後ずさって離れる。
「義男、今日の会議が始まるらしい、指揮官は全員集合だそうだ」
「あのな、俺こんなにボロボロなんだぜ? ちょっとくらい休ませてくれたって罰は当たらないだろ」
吹雪達を乗せて空へと飛んでいくヘリをぼんやりと見送り眺めていた中村の背にいつの間にか近づいて来ていた田中の声がかかった。
「罰は当たらなくても深海棲艦の大群はやってくるだろうね」
その声に振り返り不機嫌そうに口を尖らせて休息を要求する中村に田中のすぐ横に立っていた時雨が肩を小さく竦めてから避け難い現実を告げる。
「会議ったって上と下で押し問答してるだけじゃねぇか・・・作戦方針も決まんねぇのに最低限の戦力だけで敵の本拠地に挑めって言う上層部の連中を相手にして何の進展も無く、もうすぐ一週間だぞ?」
「敵艦隊が限定海域周辺から動かないのがせめてもの救いか」
「それは救いって言わないだろ」
たった五日、その一週間にも満たない時間で日本海上に浮上した巨大な黒い渦は内部から赤黒く脈動する巨大な浮島を迫り出させ、その周囲には戦艦水鬼を取り巻いていた規模ほどではないがそれでも日本を脅かすには十分すぎる戦力を持った艦隊が姿を見せていた。
「それにしても海底に突っかかるほどデカい代物が何でここまで進んでこれたんだろうな、おい」
「霊的力場をある法則で編むように固めると外見の質量を無視して内部と外部で見せかけの空間に差が出来るらしい、艦娘達の増設装備の縮小化もこれの応用で・・・」
石川県沿岸から見て西に300km、中村達が居る舞鶴からみれば北方に230km、そこに黒い渦を発生させた深海棲艦の巣は海面下で無数のねじれた螺旋を絡め合わせた根を海底に張り、そのクラゲの傘にも似た赤黒い半球体をまるで停泊させるように海上に浮かべている。
そんな敵の巨大さに対する愚痴に専門知識が詰まった真面目な考察を述べ始めた友人の姿にげんなりとした中村はポケットに手を突っ込んで踵を返して舞鶴基地の司令部が置かれた建物へと歩き出した。
「・・・お願いだから、人間の言葉でしゃべってくれ」
「そうだな、主任が一番簡単な例えで言ってたのは・・・霊力の一定供給さえすれば入れたモノの分だけ容量を増やすけれど見た目の大きさと重さが変わらない箱だったか」
「何て言うか、そっちはそっちで分かりそうで分からない例えだ・・・青狸のポケットみたいなもんか?」
「いや、似てるけど原理的には全く違うらしい」
並んで歩き始めた田中を横目に中村は大して役に立たなそうな知識だと結論して歩くだけで不調を訴える身体の痛みに顔を顰める。
「・・・ん? 時雨はどうしたんだ? あっちに立ったままだけど」
「ああ、あの子は俺とは別でここに用事があるんだ」
ほぼ必ず田中を見たらその隣か5m範囲内にいる駆逐艦娘が珍しい事に離れて行く彼に付いてこない様子に気付いた中村が問いかければ、急遽増援として舞鶴にやってきた指揮官はただそう言って意味あり気に笑った。
「それにしてもな、助けに来てくれるのは良いんだが・・・何とか金剛を連れてこれなかったのか?」
「俺の指揮下で問題ないと判断された三隈、矢矧、島風、そして、俺に同行していた時雨だけが鎮守府から出せる増援と言う事になってるな・・・金剛は、まぁ、色々あってね」
実際に戦う艦娘ほどではないが指揮官にも負傷者は続出し、名取と利根の指揮官をしていた新人も戦艦水鬼の砲撃を浴びた際に衝撃で打撲や骨折を負い今は最寄りの病院に担ぎ込まれて治療を受けている。
応急処置で何とかなったのは艦娘は全体の七割ほどであり、鎮守府に戻るほどではないが重傷である艦娘達は四人ずつしか治療できない治療槽の順番を待っている有り様だった。
「だから、増援の艦娘がたった四人だけって上層部の連中は頭がおかしいだろっ」
「確かにな、俺がごねなかったら三隈すら連れてこれなかったぐらいだからな」
津波のような荒波に揉まれて甲板や装甲を捩じられたように砕かれた二隻の護衛艦はドックで修繕が行われているが一日二日程度ではどうにもならず。
何故か老朽船であるはずの海洋調査船【綿津見】は船上構造物の一部と内装が少し壊れた程度で済んでいるのだが、かと言って非武装の民間船に護衛無しで深海棲艦の巣まで付いて来てくださいというわけにもいかない。
つまり海上での補給は望めないのに敵は限定海域を中心にぞろぞろと湧いて出て、先行偵察に向かった潜水艦娘や空母艦娘の観測情報からあと十日も指を咥えて見ていれば敵勢力は戦艦水鬼を取り巻いていた大軍を超えることになるだろうと予測されている状況なのだ。
「だけどな、こっち側にかまけて太平洋側の防衛を疎かにも出来ないだろ?」
「それはまぁ、わからない理屈じゃないけどよ・・・」
それが理解できないわけではないが強力無比な敵の本隊を前にして予備戦力を逐次投入するという悪い戦略の見本をやってくれている自衛隊の上層部と政治家の介入に中村はげんなりとした顔でため息を吐く。
「で、増援の人数制限はまた政治家どもからの有難いお言葉のせいか? 中国のご機嫌を気にするのは構わんけど日本海が敵の住処になったら外交だの国交だのを考える事もできなくなるだろうに」
「ぁ~、まぁ、それが原因ではあるんだが・・・金剛だけじゃなく複数の艦娘が今、鎮守府で謹慎処分を受けていてだな」
「謹慎・・・複数? は?」
自分達への増援に反対を叫んだであろう顔も名前も知らない政治家に対して一方的に不信感を募らせていた中村は隣から聞こえた歯切れの悪い田中の言葉で苦虫を噛んだような顔から呆気にとられた様なマヌケ顔に変わり隣を歩いている相方を見る。
「窮地にある仲間の元に駆け付けず何が軍艦か、と自分達も舞鶴に出るべきだと金剛を中心に少なくない人数が鎮守府の司令部に直談判しに行ったそうなんだが・・・いろいろと口論が白熱し過ぎて司令部の佐官を一人、ノックアウトしてしまったらしい」
田中の言う言葉が中村の右耳から入って左側に抜け、その理解に苦しむ内容に怪訝な顔をした湿布と包帯まみれの特務三等海佐は口を半開きにして首を傾げた。
「手を出すのは確かにまずいけど、その士官も彼女達が自分の命令を聞くのは当然ってあからさまに高圧的な態度だったのもあってか自室待機以上の罰は無いらしい」
「・・・いや意味が解らん、それ日本語だよな?」
「英語で喋った覚えなんかないよ。とは言え彼女達がここに来たとしても長門のように出撃の許可は出なかっただろうし、鎮守府で大人しくしていた方が無難だな」
苦い顔をしているのに何故かちょっとだけ安心している様な物言いをする田中の姿に違和感を感じた中村は首を傾げ、ふと彼とさっきの話に出た金剛型戦艦一番艦との関係を脳裏に浮かべた。
艦娘達は霊力係数とやらが高い相手に対して好感や魅力を感じる性質を持って生まれてくると言うのは中村が猫吊るしと夢の中で交信した際に聞いた話である。
そして、それを証明するかのように現在の鎮守府で二人しかいない戦艦の片方である金剛は目覚めてから初めて出会った指揮官であり、転生者故に高い霊的許容量を持っている田中に対して非常に積極的な方法でアプローチを繰り返していた。
「これに懲りて金剛も少しは大人しくなってくれれば嬉しいんだけどね」
「あんな美人に追いかけ回されてそれかよ、ぜーたくな奴」
「あのテンションで四六時中だぞ? ネットやゲームでネタにされていたほど飛び抜けているわけじゃないが、なぁ?」
実のところ中村は自分の艦隊にと金剛に誘いをかけたことがあるのだが、既にターゲットを田中に定めていた金剛型の長女からは良い返事は返ってこなかった。
「何がなぁ? だよ」
「・・・そもそも彼女が何で俺みたいなのに付き纏ってくるのかが分からない」
それより何より田中に対してエセ外国人のような陽気で積極的なラブアピールをする金剛が自分を含めた他の相手に対してはお淑やかな女性の見本のような態度と喋り方で対応している事に中村は飛び上がるほど驚かされて興味を擽られ。
そして、田中が居ない時にはまるで前世の艦隊これくしょんの中にいた金剛型戦艦の三番艦に通じるものがある喋り方の金剛から喋る相手によって態度が急変する理由を中村は聞き出すことに成功した。
(その理由が無理矢理にでもテンション上げていないと恥ずかしくて喋れなくなるからなんて、どんだけ金剛にベタ惚れされてんだよ、コイツ)
基本的に時雨に付き纏われながら執務をしているか矢矧に剣道などの戦闘訓練を強いられているか、島風の艦橋で振り回されて悲鳴を上げているだけの田中が何をやったらそこまで金剛に好かれているのか疑問が尽きない。
だが同じ転生者であり士官としての条件も同じであるはずの中村に対して丁寧で友好的であるが自分の艦隊への申請を出してくれそうもない戦艦娘の態度を察するのは簡単であり。
そして、とある経験から彼女を自分の艦隊へ加える事をすぐさま諦めた中村はその思考を切り替えた。
(・・・それにしても未だに素の金剛に気付かないってコイツの目と耳は節穴なのか? いや、良介が近くにいる気配を感じただけでエセ外国人化する金剛にも問題はあるけどなぁ)
とある目的の為、中村は金剛に田中の食べ物や話題の好みなどをアドバイスして更に彼の艦隊のスケジュールを渡し、将を射んとするなら将を射よとばかりに焚き付けたのだ。
「一度だけで良いから落ち着いた場で金剛と一対一で話してみろよ、大分印象変わるぞ?」
その甲斐もあって金剛型の長女が紅茶とお菓子を手に田中の執務室に通う事にも違和感が無くなり、これで田中が彼女に対して一歩引いた態度を改め、一言俺に付いて来いと金剛に言えばまず間違いなく恋する戦艦娘は尻尾を振ってこの舞鶴港まで来てくれていただろうと思うと中村は残念でしかたない。
あくまでも戦力的な意味で残念なだけである。
決して前世で好きだった艦娘が真横の文系インテリに首ったけになっているのが気に入らないからイタズラ程度の感覚で田中の艦隊を軽い修羅場に落としてやろうとして失敗した事が残念なわけではない。
ただ、その目論見は外れ、猫吊るしが夢の中で言っていた通り艦娘は一人が抜け駆け同然の積極的な行動をしても嫉妬の対象にならないどころか、恋愛感情の有無はともかく
(計画通りなら末永く爆発しろと言ってやるはずだったのに単純な人望の差なのか、それともそう言う気質の艦娘がコイツの周りに集まっているからなのか・・・わっかんねぇなこれ・・・)
少なくとも中村の艦隊で同じことが起きれば間違いなく吹雪は露骨に不機嫌になって面倒なほど喚いて詰め寄って来るのを想像するのは簡単であり。
また他のメンバーの場合なら五十鈴は鼻で笑ってからだらしないと彼の方を叱り飛ばし、霞は机の上が汚いとか姿勢が悪いと言う理由と同列扱いで彼の太腿にローキックを放つだろう。
鳳翔や那珂、そして、伊58などの他の艦娘は苦笑か微笑みかの差はあれど傍観者に徹して指揮官を助ける事はしないだろう。
と言うか、実際に中村が高雄と愛宕に粉をかけるような真似をした時に彼は自分達に何か落ち度があったのかとしつこく問いかけてくる吹雪に鼓膜を震わされながら霞が繰り出す怪我はしないがとても痛いと言う絶妙な威力の蹴りにさらされる事になった。
さらにその後、通常の三倍の仕事を運んでくる軽巡のとっても良い笑顔と応援の言葉はかけてくれるが手助けはしてくれない軽空母の妙な迫力を宿した柔和な笑みに鉛のような唾を呑み。
自分達の艦隊には砲火力が決定的に欠けているのだ、決して邪な考えで動いている訳ではない、と全身全霊を持って不満そうな顔している艦隊メンバーを説得しなかったら中村は今も胃薬を友にしていたかもしれない。
「難しい注文だな・・・俺はお前みたいに話題豊富な人間じゃないから彼女を退屈させてしまうだろうさ」
「いや、それは無いだろよ・・・ハァ」
中村の個人的な事情はともかくとして現在の艦隊編成は艦娘の申請を司令部が許可すると言う形で行われるが、その申請を出された指揮官と出した艦娘が強く編成を望んだ場合には司令部の命令に優先する事がある。
何故なら艦娘は過去の日本に対する義理で協力してくれている英霊であり、人としての生活基盤を提供しているとは言え国民としての戸籍すら無い善意の協力者でしかない彼女達に対して鎮守府や自衛隊は絶対的な命令権があるわけではないのだ。
なので今、長門が出撃出来ないと言うのも上からの要請で公務員である指揮官達が彼女の編成申請を拒んでいると言う建前でしかなく、司令部が止める時間を与えずに免職覚悟で編成を彼女に要請すれば戦艦娘の出撃も不可能ではない。
「なんだって?」
「何でもねぇよ・・・まぁ、無いモノ強請りだな、ただでさえ要塞型の深海棲艦を相手にするには火力が決定的に足りないってのにホント嫌になる」
首を傾げて聞き返してくる田中に小さく肩を竦めて見せて中村は未練がましく愚痴を零すが、深海棲艦を打倒する為とは言え散々に好き勝手をして司令部から危険人物扱いされている自分達がこれ以上下手な真似をしたら本当に自衛隊を追い出されるだろうと分かる程度には冷静さを保っていた。
「反則火力の塊をトンデモ能力で覆したヤツが言うかい」
「好きでやったわけじゃねぇよ、誰が予想できるかあんなの・・・それにあれは吹雪の頑張りであって俺は座ってただけみたいなもんだ」
だが、出撃を禁じられて一人港に留守番をしている長門の苛立ちを知っている中村は彼女が自分からの出撃要請を二つ返事で了承するだろうと確信している。
中村としては考えたくはないが、それでも、もしもの時の最後の手段としてクビを覚悟し、その方法を頭の端に置いておく事にした。
「・・・それはそうと、限定海域内の姉妹艦と精神の混線を起こした艦娘達から聞き取りした話は聞いたか?」
「ん、ぁぁ、あの中で起こっている異常現象の事だろ、ふざけるにも程があるよな」
限定海域の外と中にいる姉妹艦同士の精神交感現象によって不確かながら深海棲艦の支配領域の情報を図らずも手に入れる事になった中村達だったが、その情報の荒唐無稽さに艦娘だけでなく指揮官全員が呆気にとられることになった。
「吹雪が時間を止めたと思ったら、今度は時間を巻き戻す深海棲艦・・・次から次に、マンガやアニメじゃねぇんだぞ」
「現実だからこそリスクの無い能力は存在しない。付け入る隙が無いわけじゃないさ・・・」
吹雪の新しい能力の覚醒に関して少しばかり責任を感じていた田中は吐き捨てる様に溜め息を吐く友人に何とも言えない苦笑を向けた。
「はぁ? 隙っつってもなぁ、前回の救難信号みたいな目印もねぇし、だだっ広い限定海域に飛び込んでも捕まってる艦娘を見つけるどころか、出鱈目な能力を持ったボスのいる場所まで辿り着く事すら難しいだろ」
「いや、辿り着くだけなら問題ない、・・・彼女ならそれが出来る」
目の前に立ちふさがる苦難に背を丸めて不景気な顔をしている中村に向けて田中は短く言い切ってから颯爽と作戦会議が行われる市役所のような鉄筋コンクリート造りの角ばった建物へと入っていった。
「は? 彼女って誰のことだよ、増援はお前の艦隊だけだろ? 待てっておいっ!」
・・・
ヘリコプターが着陸して徐々に回転速度を落としていくプロペラの音が響く機体の窓から青く輝く海原と白い雲が浮かぶ空が見える。
(私は帰って来たのね・・・海に・・・)
まるまる二年ぶりに手を通した白い袖、鮮やかな緋色の少しはしたなく感じる短いスカートの裾を払うように座席から立ち上がってここまで私を運んでくれたパイロットの人が開いた扉から潮風の中へと歩み出て小さく礼をする。
目の前に広がる青い海と青い空、この向こうに妹達を捕え苦しめ続けている敵地が存在するとは思えないほど晴れやかな港のヘリポートに降り立った私は視線の先、少し離れたアスファルトの上に立つ自分を待っていた仲間の姿を見つけた。
「やっぱり、戻って来てしまったんだね・・・」
「いいえ、時雨、私は帰って来たのよ」
かつての戦友との再会の喜びと守るべき相手が戦場に現れた事に対する悲しみ、海風に黒く艶のある三つ編みを揺らしている時雨が浮かべる複雑な思いを宿した表情へと私ははっきりと自分の意思を告げる。
「貴女に押し付けてしまった約束を終わらせる為、終わらない悪夢から山城達を助け出す為、・・・あの日から逃げ続けてきた自分の名前と向かい合う為にっ」
そして、私を待っていてくれると言ってくれた人への想いだけは心に秘めて、私はお世話になった旅館の女将さんが出発前に結ってくれた髪の上で妹と揃いの髪飾りをシャラリと揺らす。
「私はここに、・・・自分の意思で帰ってきたのよ」
自分は戦艦として駆逐艦に守られるだけの存在ではないのだ、と意思表示を終えてここまで私を運んできてくれたヘリを背に海を臨む舞鶴の基地へと足を向けて時雨の横を通り過ぎる。
「そっか・・・そうだね」
その私の隣へと並んで歩き始めた時雨が微笑みを浮かべた。
「おかえり、扶桑」
「時雨・・・とても長い間、待たせてしまったわね」
「でも扶桑は帰ってきてくれた、だから大丈夫だよ」
どこか嬉しそうに私の帰還を受け入れる時雨の声に、恥知らずにも戻ってきた脱走艦娘を受け入れてくれるその言葉に深く感謝しながら私は強く引き締めた顔を海の向こう、山城の鼓動を感じる遠く彼方へ視線を向ける。
「だから、一緒に皆を助けに行こう」
「ええ、必ず、必ずっ!」
桜が咲き乱れる四月の空の下、艦娘としての
(山城・・・今、行くわ)
後段作戦が開始されます。
本作戦での限定海域への突入艦隊には白露型駆逐艦と扶桑型戦艦からそれぞれ一人ずつが艦隊編成に必要になります。
現在、鎮守府に扶桑型戦艦娘は二名とも登録されていません。
必要な艦娘がMIAとなっている為、突入部隊の出撃は受理できません。
現在、限定海域攻略作戦の実行は許可されていません。
【上記条件を満たす民間人の協力が得られました。】
・・・貴艦隊の出撃を承認します。
貴女達の航路に幸運がありますように。