艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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時の進む行き先は未来だけ、と誰が決めたの?

世界は私の手の内に、ここでは全てが私の為だけに存在する。

そう、時間も、空間も、生命も。

総て(女王)の下に跪かなければならない。
 


第三十六話

 妙に長く感じる浮遊感の直後に身体がバラバラになるかと思うほどの衝撃で視界が白と黒に明滅し、口や鼻に流れ込んでくる汚らわしい黒水に溺れかけた私は伸びてきた手によって胸倉を掴まれて海面へと引っ張り戻された。

 

「山城さん! しっかりしてください! 総員退避、急いで!!」

「ごほっけほっ・・・おお、よど・・・?」

 

 普段の冷静さをかなぐり捨てて私の身体を引っ張り上げた軽巡艦娘が周囲の仲間達へと檄を飛ばすように指示を走らせ、それに従って私よりも先に海面に落ちた鈴谷や青葉達を助け起こした仲間達が慌ただしく岩礁へと向かって逃げていく。

 

「これはっ!? 止血します! 痛いかもしれませんが我慢してください!」

 

 体中の痛みでフラフラしていた私の意識が真横から掛けられた大淀の声と間髪入れずに続いた左脇から肩を締め付けるビリビリと痺れるような圧迫の痛みに無理やり覚醒させられた。

 

「ぐぅ、ぁあっ!? はっは、ぅくっ、・・・ここは・・・?」

 

 意識ははっきりしたけれど海水で濡れて顔に張り付く前髪のせいで視界は悪く、ただ自分の左腕が肩口から千切れてなくなっている事に私はついさっきの出来事を思い出す。

 

 気付かれないように敵首魁の巨体を登ってその腹に閉じ込められた仲間達を救出するための作戦、途中までは確かに成功への手応えを感じていたそれは自分達が深海棲艦側の目的をはき違えていた為に失敗した。

 大淀が自分の服を割いて作った布の紐で縛っただけの応急処置をされながら振り返った敵の姿は健在そのもので、その腹部に私達が必死になって与えた損傷などあって無いようだった。

 

「大淀・・・離して・・・」

 

 はるか遠くに見える巨体の白い肌にあるはずの小さな小さな黒い傷、おそらく少し前に私達が居た場所は海面に落ちて離れただけで呆気なく見えなくなった。

 その事実に乾いた笑いが漏れて黒く鋭い岩が突き出す岩礁に大淀達と逃げ込んだ私は肩を貸してくれていた軽巡を突き放すように離れて背中を海水に濡れた岩に預ける。

 

(今回も無駄だった。失敗した。何をやってもアイツに私達は勝てない・・・)

 

 わざわざ心中で反芻しなくともそんな事は私にだって初めから分かっていた。

 

「山城さんっ、何を!?」

 

 敵の障壁に穴を開ける為に使ったマシンガンは落下の際に取り落として無くしてしまっていたようだけれど、今の私が必要としている事は予備として懐に入れていた拳銃で十分に果たせる。

 

「何って・・・それくらい貴女にだって分かるでしょ?」

 

 攻撃に使える霊力はもう使い果たしたけれど、幸か不幸かこれから行う事に必要は無い。

 私は自分に残された右手で安全装置を外し、銃身に噛みつくように歯を立ててスライドを真横に引いて拳銃の撃鉄を起こす。

 そして、グリップを前後逆さに構えて私は自分の胸の谷間にうずめるように胸の真ん中へと銃口を突き付けた。

 

「山城さん、それは、それはダメですよ!!」

「今回は、失敗した。もう私達に出来る事が、繰り返しが起きるまで待つかアイツに喰われるか、なら・・・いっその事」

「何やってんのよ!? 山城さん!!」

 

 私を止める大淀の声を無視して引き金を引こうとしたと同時に私の手にある自動拳銃の撃鉄に横から伸びてきた小さな指が挟み込まれ、引き金にかけた指をトリガーガードの中から引き抜かれる。

 

「お願いだから邪魔、しないで・・・満潮・・・」

「何それ!? 貴女は指揮官でしょっ! なのに勝手に諦めるって言うの!?」

 

 気付けばいつの間にか自分の近くまで駆け寄ってきていた駆逐艦娘が私の手から拳銃を取り上げ、解けた淡い茶髪を振り乱して責め立てる声と表情で私を見上げていた。

 

「諦める? 違うわ、諦めたくないからこそよ・・・それを返しなさい」

「意味わかんない! 自決ってあんな奴に負けを認めるって事じゃない! 今までどれだけ追い詰められたって、一度だって私達はしなかった事でしょ!?」

 

 海面であっても普通の人間なら肉片になる高さからの落下でも死なずに済んでいるとは言え霊力を使い切った身体は鉛の塊になったかのように重く。

 満身創痍で抵抗すら出来ずに拳銃を奪われた手を力なく垂れ下げて岩に寄りかかった私は浅く早い呼吸を続け、痛みと疲労と絶望感に押し潰されかけている心にそれでも抗えと命じる。

 

 それがどれだけ負け犬じみた屈辱的な敗走を意味すると分かっていても、喰われて反攻の機会すら奪われる事の方が私にとっては認められない事なのだ。

 

「満潮、なにも私は恥や諦めで自害しようとしてるんじゃないわ・・・今回はダメだった、でも、次なら」

「今までがそうだったとしても、アイツが今回もまた時間を巻き戻すとは限らないじゃない!! そんなのを期待するなんて!!」

 

 何とか揺れる海面に立っていられた足から力が抜け始め、バシャリと岩礁に尻もちを着いた私に覆いかぶさるように満潮が両手を伸ばして襟首を掴み苛立ちと悔しさで涙を滲ませる幼い顔がいっぱいになったと思うほど大きく口を開いて叫ぶ。

 

「自分から死ぬことを認めたら、心が折れちゃったら、戻れたって意味ないでしょ・・・お願いだからそんな事しないで、ください・・・」

 

 だけど次の瞬間にその声は消え入りそうなほど弱弱しいものに変わり、苦しそうに嗚咽を漏らす満潮の姿に私は彼女がが失った姉妹艦が前回の山雲だけでは無くその前にも居る事を思い出した。

 

「山城さんは夏雲や山雲みたいに・・・、他の居なくなった子達みたいにならないでよっ・・・」

 

 その妹もまた山雲と同じように姉や仲間達がそれを制止する為に上げる必死な声と手から顔を背けて自分から楽になる為にこの世界の主の前に自害同然に倒れ込み、その身体を差し出して喰われた。

 彼女達の判断を責める事は出来ない、むしろあの胎の中がどうなっているのかは分からないが命を弄ばれる地獄を繰り返すよりは賢い考えだと感じる自分がいる事に呆れるぐらいだ。

 

「そうよ、でも、自分がそうならないと分かっているから、私は戻ろうとしてるの・・・私なら大丈夫、次ならきっと・・・」

「そうじゃないわよ! そうじゃないでしょっ! 山城さん!?」

 

 彼女達以降にも新しくこの箱庭へと落ちて来ては圧倒的強者の前に挫けて姿を消した仲間達はもう数えるのも億劫なほどの人数であり、だからこそ間違った方法であったとしても彼女達の犠牲の上に立っている私は諦めてはいけないのだ。

 感情に振り回されて駄々っ子になった仲間の苛立たし気に振り上げられた手、その握りこぶしが力なく私の胸を打つ。

 

 そんな正直すぎる感情を見せる事が出来るからこそ、その小さな身体を満たそうとしている敗北感と無力さを私よりも誇り高い矜持で押し留めているのだと分かってしまう。

 

 私にとって眩しいぐらいに正しく戦船である少女、琥珀色の瞳から零れた涙が雨になって私の肌に落ちる。

 

(嗚呼、・・・私は指揮官であるのに、戦艦であるのに・・・駆逐艦になんて無様な姿を見せているのかしら)

 

 自業自得過ぎて不幸のせいにもできやしない。

 

 自分の無様さを嗤う事も悲しむ事もできない程に擦り切れた気力は打撲だけでなく無数の骨折からくる痛みを訴える身体を諦観に沈めていく。

 

「二人共そこまでです、蛇に見つかりました! 立ってください、移動しますよ!」

「くっ、ええ! 山城さんはもう推力が保てないわ! 朝雲、手を貸して!!」

 

 鈍く銅鑼を鳴らす様な痛みと左腕の大量失血で霞始めた視界とグラグラと揺れる意識の向こう側、まるで夢を見ているかのような感覚に囚われ始めた私の左右を支えるように二人の駆逐艦が寄り添い強引に立たされた。

 

それでも次ならっ、(いいえ、山城、)・・・次こそは・・・絶対にっ(貴女達にもう次は無いの)

 

 ぐらぐらと揺れる戦艦と言うにもあまりに情けなく頼りない身体の中で意識が白と黒の間で明滅を繰り返し、満潮と朝雲にされるがまま引っ張られて進む月明りの下で私は少し前から自分の心中に付き纏う違和感に首を傾げる。

 

 何故、私は自分が呟いたうわ言に・・・何故、自分で否定するような考えを重ねてしまったのだろう。

 

「二人はそのまま山城さんと前進してE-3地点で阿武隈さん達と合流を急いでください!」

「大淀さんは!?」

「そうよ、私達と一緒に逃げないと!」

 

 自分ではない自分の声に混乱を始めた私は否応なく二人の駆逐艦に引っ張られて岩礁の間を進み、頭上で私達を追いかけてきている黒蛇が牙をぎらつかせる。

 

「今の貴女達の速度では追いつかれます。だからあれに陽動を仕掛けます! 早く行ってください!」

 

 途中の岩場にとどまった大淀がその背に背負っていたロケットランチャーを素早く担いで姿勢を低くして私達に目がけて降下してくる姫級の僕へと墳進弾を放った。

 狙い通りに爆発と霊力の光をまき散らして蛇の鎌首に命中したロケット弾は黒いウロコに少しの傷をつけた程度であったが、その標的を大淀に変えて列車のように太い胴体をうねらせる。

 射撃の直後に大淀は低くしていた姿勢から短距離走選手のように前方へと駆けだし、その背後で振り下ろされた槌のように蛇の頭が浅い海に突き刺さり砕けた岩が飛び散り水飛沫が私達の足下まで届く。

 

(ふふふっ・・・、もう次が無いなんて、それなら今までの私達は(そんな事は無いわ、貴女達が)山城達は無駄な時(耐え忍んできた戦いには)間を繰り返していただけなのね?(これ以上ないほど価値があるの)

 

 飛び散る岩に身を打たれながらなんとか蛇の体当たりを回避した大淀の姿がグラグラ揺れて覚束ない視界の端に見えたけれどその時間稼ぎにどれほどの意味があるのだろう。

 もうあぶり出されたネズミでしかない私達がいつ訪れるか分からない繰り返しを待っている事しかできない事を考えると無駄な努力でしかないはずなのに。

 

(負け続けてきた、弄ばれてきた私達の戦いに価値があった? そんなモノが?(ええ、) 本当に・・・?(本当よ・・・)

 

 それなのにさっきから私の心を励ます様に触れてくるこの温かい声は一体誰のものなのだろう。

 

『だからこそ、私達はここ(・・)に辿り着く事が出来たのよ・・・山城』

 

「ぇ・・・っ?」

 

 黒い海水をまき散らして鎌首をもたげ私達を見下ろす蛇から少しでも離れようとする満潮と朝雲の二人に引っ張られ、半ば諦めに染まった思考でその威容を見上げていた私は耳にはっきりと届いた姉様の声に息を詰まらせた。

 

『貴女達の悪夢は今日、私が終わらせるわ』

 

「扶桑、姉さま・・・?」

 

 次の瞬間、空気を揺らす強烈な爆音が響き渡り、夜明けを告げる眩い輝きを宿した巨大な光弾が私達を見下ろしていた蛇の頭を打ち砕き、その長い胴体をも巻き込んで黒い装甲を破裂させ昏い海面にばら撒いた。

 

「な、何が・・・?」

「み、満潮っ、あれ・・・なんなの・・・?」

 

 霊力の光が波打ってまき散らされ妖しい月の明かりを塗り潰して私達の視界を照らし出し、私を支えてくれている朝雲が呆然とした表情で遥か彼方、私達がここに辿り着くまでに通ってきた方角を震える指で指し示す。

 妖しい月の下に弧を描く枝葉と錨が形作る金色の輪が黒い海を照らし、ゴォンゴォンとまるで進撃を鼓舞する力強い陣太鼓のような大きな音が目を見開き唖然としている私達の耳にまで届く。

 

《戦艦扶桑、出撃いたします!!》

 

 懐かしい、懐かしくて何度も会いたいと夢想した人の大きな声が、扶桑型戦艦の名が刻まれた金色に輝く茅の輪から響き渡り、その輝く輪の中央から舞い散る光粒と共に滑らかな指先が突き出されて白い袖が夜闇の中で鮮やかにはためく。

 

 厳つい黒鉄の膝当てから伸びる白足袋に包まれた脚が朱の鼻緒に飾られた履物と共に光の中から踏み出され黒い海面に輝く粒子と水柱を上げ。

 

 光り輝く輪の後光を浴びて艶めく黒髪が波打ち、その左側頭部に無数の部品が噛み合い組み立てられていく艦橋を模した電探、その根元に私の頭にあるモノと同じ金の花飾りがシャラシャラと並んでいく。

 

「あれって、扶桑・・・さん・・・? なんで、どう言う事っ・・・!?」

 

 岩礁の中で立ちすくみ呆然とした顔で私の隣にいる満潮が目の前で起こっている信じがたい光景に呻き、少し遠く大淀に指示された合流地点にいる複数の艦娘の中に明るい金色のツインテールが扶桑姉様を指さして「アタシの言った通りなんですけど!」とかなんとか言いながら歓声を上げて飛び跳ねている。

 

 その信じられない光景に思考が停止してしまっている私の目に金の輪から出てきた巨大な機械が複雑な機構を動かして白い着物を纏った姉様の腰と腹部を覆って鈍い金属音を立てる様子が映り。

 ビリビリと空気を震わせる唸りと共に巨大な四基の大口径砲が光の中から姿を現して戦艦扶桑へと重苦しい金属がぶつかり合う音と共に接続されその砲塔がまるで身体の一部にのように自然な滑らかさで動き始める。

 

「姉様なの? 本当に・・・っ、私、また夢でも見てるんじゃ・・・」

 

《いいえ、山城・・・私はっ、扶桑はここにいるわ!!》

 

 記憶の中の優しく御淑やかで儚げな姿とは全く違う、強く自己を主張する巨大な身体を得た戦乙女としての姿、それでもそこに立つ人が扶桑姉様であると私は心で感じ取る。

 紅白の着物を重厚な黒鉄で鎧った戦艦娘の今まで聞いた事が無い大きな宣言に頭の中が真っ白になるほどの衝撃を受けた私は澱んだ黒い海面の上で立ち尽くした。

 

 命の輝きがその煌めきを姉様の背へと収束させ一歩、また一歩と私達へ黒い海を踏みしめる威風堂々とした人の形を持った戦艦がその黒い瞳に強い意思を宿して歪な人の形をした要塞へと相対する。

 

『もう大丈夫よ、山城・・・』

 

 身体は離れているのに確かに私の身体を包み込んでくれる優しい温かさ。

 

『謝っても仕方ないくらいに、許してもらえないぐらい遅くなってしまったけれど・・・』

 

 ただその感覚に包まれて現実感を失った私は膝を折りじくじくと痛む腕の無くなった自分の左側を抱きしめるように座り込んで、ただ顔だけを上げて止め処無く溢れてくる涙で頬を濡らした。

 

『それでも、貴女達を迎えに来たの・・・だから、そこで見ていて山城!』

 

「姉様、姉さまっ・・・ぁああっ・・・はぃっ、はいっ! 扶桑姉様ぁっ!!」

 

 私と同じように海に座り込み、寄り添ってくれている二人の駆逐艦に抱き付かれながら私は子供の様に喉が枯れても良いからと渾身の叫びを上げる。

 その親を求める子供の様に幼稚な呼び声に応えてくれる人が居ると言う事実が私にはどうしようもなく嬉しかった。

 

《・・・戦艦扶桑、戦闘を開始します!》

 

・・・

 

 日本海に現れた限定海域の内部構造を全て知っていると言う電話越しに聞いた彼女の言葉に始めこそ田中は半信半疑ではあった。

 だがその後に詳しく聞かされた詳細な情報、妹艦娘の目や耳、全ての感覚と重なり合うようにして得る事になった深海棲艦が支配する領域の内情の正確さは信じるに足るものだと判断した。

 

 二年を超える休む事無く続けられた情報と経験の蓄積、信じられない事に深海棲艦と比べれば貧弱極まりない待機形態でありながら軽巡級までなら撃破できると言う戦術を確立しただけに止まらず。

 

(作戦会議では虚勢を張って言わなかったけれど、この作戦には賭けの要素は大きかった)

 

 限定海域に閉じ込められた艦娘達はその箱庭の中の海を時間が繰り返すと言う特性を利用して隅から隅まで調べ尽くしたのだと言う。

 

(だが、扶桑の情報は正しかったっ! 俺たちは賭けに勝った!)

 

 彼女らが調べ尽くした危険が少なく敵も少ないルートをなぞり駆け抜け、田中の艦隊が辿り着いた多重の円を描く入り組んだ岩礁に囲まれた玉座。

 そこに座る前世において港湾水鬼と命名されていたゲームの中だけの存在が忌々し気に顔を歪めて腕を肘掛に付いている。

 

 その腕の先、黒く鋭い爪をぎらつかせる手の甲に頬を乗せて頭を支えるように姿勢を斜めに崩した女王が全体の半ほどまで弾け飛んだ黒蛇のような単装砲を一瞥して不満そうに赤い視線を田中達の旗艦となっている扶桑へと突き刺していた。

 

「総員、戦闘用意ぃ!!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 海上の全てを飲み込まんばかりに広がる黒い渦へと飛び込み時間が経っていくほどに範囲を狭めていく海域を覆う棘壁を撃ち破り踏み越えた先、田中達の侵入を察知し扶桑の記憶では別の場所に現れる戦艦級などと交戦する予定外は存在した。

 だが彼の艦隊は扶桑の的確な案内によって誰一人として大破する事無く最深部へと辿り着き、満を持して指揮官は深く被った白い軍帽の下、加速度や艦橋への衝撃で痣を作り鈍く痛む顔や体に鞭を打ってコンソールパネル上の形態変更レバーへと手を伸ばして握る。

 彼の声に反応して煤けた顔や所々破れた服が見える艦橋に立つ艦娘達が全周モニターへと手を伸ばして予め取り決めていたそれぞれが担当する機能を立ち上げていく。

 

「さぁ、戦艦娘による史上初の全力砲撃・・・公式記録には残らない戦いを始めようかっ!」

 

 戦艦娘である扶桑の艦橋で不敵な笑みを浮かべ田中は形態変更レバーを引き、少々似合わない気障なセリフと共にレバーの下の表示が砲撃戦形態から殲滅戦形態へと切り替わった。

 

 次の瞬間、扶桑の背中で四基の主砲が鋼の音を立てて装甲を展開し内部機構が迫り出し別形態へと変化を始める。

 そして、体積を増やし扶桑の身体を覆う様に展開した主砲基部から放熱板にも見える羽が生えて激しい振動音と共に無数の光子が鋼板の間を行き交わせ加速していく。

 

「蝶の・・・翅・・・?」

 

 艦橋のモニターに映る夥しい霊力を吸収し循環し増幅していく扶桑の艤装の様子に時雨が空色の瞳に映した光景に感嘆とも畏敬ともつかない呟きを漏らし、あまりにも幻想的なその光景にその場にいた全員が唖然とした表情で見惚れる。

 

《戦艦扶桑、戦闘を開始します!》

 

 戦闘の開始を告げる戦乙女の声に従って輝く翅が広がり限定海域を満たす妖しい月明りを青白く塗り潰す。

 

 それは身体を覆う四基の主砲から溢れ扶桑の背を中心に上下に溢れた幻想的な光の渦が羽化する蝶のように羽ばたき、そこから散った欠片が光の雨となって黒い海を照らした。

 




 
眠りを終えた繭玉は孵り、やがて青空(そら)を包むほど大きく翅模様を広げる。

その命を輝かせる為に。

閉じた時の停滞を終わらせる為に。

その怒りを叩き付ける為に!






2018/12/24 一部表現の追加と修正
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