艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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いやぁ、・・・港湾水鬼は強敵でしたね。
 


第三十七話

 その巨大な力を秘めた深海棲艦の女王は不機嫌だった。

 

 自分の世界の外から落ちてくる粉粒の様に小さい身体にしては質の良い力を持った玩具を弄り、時間が経つほどに増して漲る自分の力に平伏す眷属へと施しを行いながら上機嫌に従えていたある日。

 無性に自分の気を引く方向が存在する事に気付き彼女は眷属の中でも自分に次ぐ力と身体を持った従僕に自らの支配する領域と玉座を牽かせる事にした。

 

 その優雅な航路の途中、いつものようにピーピーと無意味な音を立てて喚く小さな小さな出来損ない共で遊んでいたら突然に外に出ていた自分と同じ黒い角を持つ眷属が下位個体を自分の領域から外へと呼び出し始める。

 

 ただそれだけなら問題無い、あれもまた自分に及ばないまでも見事な力と大きさを持つ者であり下位個体にとって支配者であるからには多少の我儘もむしろ可愛いモノだと女王は許容した。

 

 だが、その呼び出しが彼女の支配下にある深海棲艦の半分に達しようとした時、流石にこれ以上の勝手を許すわけにはいかないと思い立った限定海域の主は自分に次ぐ力を宿す眷属を領域へ呼び戻す事にする。

 

 しかし、その決心と同時に悲痛な悲鳴が霊力の波となり女王の支配領域を震わせ、自分に及ばないまでも強者であるはずの眷属が上げたと分かる断末魔の叫びに女王は赤い瞳を驚きに瞬かせた。

 

 身体に秘めた破壊力だけならば自分と変わらぬだろう眷属が死するほどの脅威が外に存在しているなど考えもしなかった彼女は急に自分の周りに侍る従僕の数、力と大きさの貧弱さに不安を掻き立てられ。

 万が一にも自分を殺しかねないような巨大さと力を持った敵が外に存在し、自分の領域に侵入してくる可能性に表情を顰める。

 

 そして、彼女は喰らっても溶ける事無く腹の中に閉じ込めている些か扱い辛い性質の力を持つ矮小な存在。

 弱く小さい下位個体の最たるものではあるが際限なく力を作り続ける少し便利な出来損ない共を玩具以外に利用する事を思い付く。

 自分の力に変えるには少々面倒はあるが新しい眷属を作るための力の足しにはなるだろうと考えた女王はまだ遊んでいる途中ではあるが領域内に放し飼いにしている玩具共を手元に集める事にした。

 

 加減を間違えて壊してしまってはまた集める為に領域の時間を戻さなければならなくなる為に箱庭に残っている従僕を外壁まで下がらせたのは良かったのだが。

 肝心の自分の足下に集まってきた虫共を捕まえる為の作業が思いの外に面倒であった事に女王は眉を顰める事になった。

 

 その間にも外壁に下がらせた眷属が一つ二つと砕ける音に姿の見えない脅威が自分へと近づいて来る気配を悟った女王は臨戦態勢を整えながら自分が座る玉座に命じて足下を逃げ回る玩具を捕まえさせる。

 

 しかし、いざそれを目にして時間と空間を支配する女王はこれ以上無いほど不機嫌になった。

 

 おそらくは自らの眷属を打ち倒して自分の目の前まで入り込んできた敵であろうそれは玩具共よりは大きく見栄えはあるが自分どころか最も小さい眷属よりも更に小さく。

 その白い腕ヒレをはためかせる身体の中に見える力は質は良くはあっても拍子抜けするほど弱く脅威と言うにはあまりにその弱い力と釣り合いが取れていない。

 

 この程度の相手に自分の眷属が打ち倒される事などあり得ない。

 とすれば下位個体である事を逆手に取り油断を突いたと言う事である。

 

 それは彼女ら(深海棲艦に)が信じる(組み込まれた)命の在り方に対する明確な反逆と唾棄すべき小細工を弄して自分が気に入っていた黒角の同胞を弑逆した事を意味する。

 

 すぐに戻せる部品に過ぎないとは言え玉座を飾る砲である蛇を壊された女王は眉間に深くしわを寄せ、卑怯な手段を使った眼下のそれによって自分の次席たる下僕が斃されたのだと理解し。

 それだけに止まらず自分との絶対の差を理解せず、こちらが発する意を解さず平伏する事も無く立っている様子にいよいよもってその不敬な下手人が許されざる断罪するべき欠陥品であると支配者は断じた。

 

 貧弱な細い砲を数本備えただけの黒い髪を揺らす白赤に向かって嘲笑と共に鼻息を強く吹き、傲慢な女王は巨大な手の平に生える漆黒の鉤爪を開いて爪先と全砲を不愉快な青白い光を放つ小虫へと突き付け。

 

 この世界において弱者による強者への反逆は全ての理に反する大罪であり、死をもって償う以外の道理は無い、と。

 

 心中の怒りを深め嗤いながら女王がその判決を下した瞬間、巨大すぎる轟音が辺り一面の音を掻き消し圧し潰し、妖しい月の下で黒い世界が血のような紅へと染まった。

 

・・・

 

「い、いやぁあああっ!! 姉様っ! 扶桑姉様ぁあっ!?」

「山城さんっ、岩陰から出ないで! 貴女まで焼かれちゃう!」

 

 光り輝くアゲハの翅を広げて勇ましく立っていた扶桑の姿が業炎に呑まれ、砲撃の予兆を察した満潮と朝雲の体当たりで近場で最も大きな岩陰に転がり込んだ山城は半狂乱になって叫び声を上げて灼熱する空気の中に飛び込もうとする。

 彼女達と同時に岩陰に駆け込んだ大淀が死地に飛び出そうとした戦艦娘に抱きつき、その軽巡の半分だけになっていた眼鏡のレンズが振りまわされた山城の手に弾かれて足下の海中へと没する事になったが近くの仲間の力も借りて抑え込む。

 

「そんな、こんなの・・・せっかくまた会えたのにっ・・・!」

 

 希望などまやかしだったのだと言う様に振るわれた絶望的な破壊力、何度も繰り返し反攻を続け、何度もその威力を身をもって受けたからこそ知る暴力が敬愛する姉に振るわれた事実は彼女を絶望に落としかねないモノだった。

 

「山城さん・・・」

 

『なるほどな・・・戦艦、・・・の艦種・・力とはこう言うモノかっ、とんでもない・・・言いようがないっ』

 

「・・・え?」

 

 濡れた手で胸を掻き毟り泣き喚く山城の姿に通夜の参列のように意気消沈していた艦娘達の耳を不明瞭な男の声が震わし、聞き覚えの無いその声に全員が顔を見合わせ目を丸くする。

 

『循環・・・最大・・・圧縮・・・が急激・上がってますわ!?』

『まさか相手の・・・霊力を分解して吸収・・・るの!?』

 

 さらに耳に届く若い女達の声に聞き覚えがあると口にする数人の仲間に山城は自分の耳を疑い、そして、頭上を照らす炎が急激にその範囲と熱を消していく様子気付く。

 骨が軋む痛みを伝えてくる右手で岩礁を掴んで大淀や満潮達の手から逃れて這うように戦艦娘は岩影から顔を出した。

 

「あ、あぁ・・・扶桑姉様ぁっ!」

 

 これ以上流せばもう涙が枯れ果ててしまうのではないだろうかと変な危機感を抱きながらも黒い海に這いつくばっていた山城は溢れ頬を伝い落ちる滴をそのままにして。

 

 確かな姉の鼓動を感じる炎が収束していくその一点へと潤んだ瞳を凝らす。

 

 渦巻くように紅く燃え上がる焔が青白い光に同化して吸い尽くされ、その消えていく炎の帳の向こう側に見える繭玉が力強い振動と輝きを周囲に放った。

 

『全主砲、霊力圧縮率が臨界点に到達っ! でも、これ以上は扶桑のチャンバーが持たないよ!』

『と言うか、こんな大きすぎる霊力に砲身が耐えられるの!?』

『あっつーぃい!? 早く撃って! じゃないと艦内温度が下げれない、早く早くっ!!』

 

 鼓膜を直接震わせるように聞こえる声が澄んでいき、はっきりと彼女達が叫ぶ通信の内容が分かるようになったと同時、跪いて祈る様に片腕を胸の前で握りしめる山城の前で光の繭が割れて炎に巻かれる前よりも大きさと厚みを増した揚羽模様を象った翅が羽ばたく。

 

 周囲の霊力を吸い込み敵の攻撃すら分解して自分の力へと変換していった光の膜がその内包した力を中心に立つ戦艦扶桑への受け渡しを再開し、彼女の周りで放熱板の様な形の増幅供給機構を広げた主砲へと陽が点る。

 

「あれなら、あれなら・・・やっつけられますよっ!」

 

 山城と同じように岩陰から顔を出した面々が歓喜に湧く。

 

「ぁ、ああっ、でも、ダメ、ダメよっ! アイツのお腹の中には山雲達がっ!」

 

 だが、扶桑の宿す今まで見た事も無いほど強力な力の存在を予見した朝雲が顔を真っ青にして悲鳴を上げ、その忘れていた可能性にその場にいた仲間達は息を詰まらせる。

 

 しかし、それと同時にその場にいた全員が今を逃せばあの忌々しい仇敵を討つ機会は永遠に失われるだろうと予感していた。

 

「でも、アイツさえやっつけれるなら・・・熊野だって、囚われたあの子達だって納得してくれるよ・・・」

「鈴谷さん・・・そ、そうですよね、衣笠だってちゃんと霊核さえ鎮守府に戻れれば・・・」

 

 岩礁に座り込んで折れた腕を庇うように抱く鈴谷が目の前で自分を庇って居なくなった姉妹艦を想い歯を食いしばり、それぞれが溢れそうになるこれまで重ねてきた限定海域での記憶に苦し気に呻く。

 仲間の命と悪夢の終わり、死んだとしても霊核が鎮守府に戻りさえすれば復活する艦娘の特性と天秤にかければむしろ地獄を這いずった記憶を持ったまま帰るよりも幸せと言えるのかも知れない。

 

『いや問題無い、君達は全員助け出す・・・もちろん、奴に囚われている艦娘も残らずにだ』

 

 何処か戦場に似合わない穏やかな口調で自分達に語りかけてくる声に項垂れていた山城を含めた全員がその信じ難い言葉に目を瞬かせる。

 

『ふふ、その通りよ。提督、固定錨の打ち込み完了したわ!』

『当然でしょ、あの愚か者に目にもの見せてやるわ!!』

 

 はっきりと言い切られたその言葉を切っ掛けに扶桑の腰や膝当てから勢い良く放たれた長い鎖に繋がれた錨が光羽に包まれたその身体を黒い海上に固定する。

 

『提督、扶桑・・・撃てるよ』

 

 そして、扶桑の艦橋に立つ駆逐艦娘が最後の準備段階が終了した事を告げた。

 

 自分よりも小さく弱いはずの相手が一瞬のうちに自分を凌ぐ破壊力を溜め込んだ羽をはためかせる姿へと変わった事に深海棲艦の女王は恐れ慄き表情を引き攣らせ。

 

 箱庭の主(井の中の蛙)は二次攻撃よりも保身を選び、玉座の上で自分を守る様に身を縮めて目にはっきりと見えるほど厚みを増した障壁を前面に張る。

 

『指揮官より扶桑へ砲撃を命じる! 攻撃目標はっ・・・』

 

・・・

 

 全部、アナタのせいなのよ?

 

 私が自分の名前から逃げ出して後悔し続けてきたのも。

 山城が悲鳴を押し殺しながら戦い続ける事になったのも。

 たくさんの仲間達が弄ばれ苦しんだ末に無念に膝を折り倒れたのも。

 あの子達に、姉や妹を奪われる悲しみを刻み付けたのも。

 

 全部、貴女がやってきた事なのよ?

 

 それなのに、なんでそんな怯えた顔で私を見るの?

 

 さあ、小さな小さな恨みに取り憑かれたこの私に向かって、さっきの様に傲慢に嗤いなさい。

 

《だって・・・貴女にそんな顔をする権利なんて無いのよ?》

 

 私の声とその意味は目の前の深海棲艦には届かない事は分かっている。

 

 深海棲艦には自分とは別の誰かと分かり合うために必要な手段である言葉など存在せず、動物のような本能と子供じみた無邪気さだけがその巨体を支配している事は百も承知。

 

 それでも言わずにはいられない。

 

 恨み言以上の意味など無い負の感情を煮詰めた様な言葉であっても、その無邪気が生み出した悪夢に振り回されて来た扶桑(山城)として言わずにはいられなかった。

 

『攻撃目標はっ・・・限定海域外壁部! 撃ち方始めぇっ!!』

 

 数日前に突然目の前に現れて過去の影に怯え隠れていた私に人として生きる道を用意して去っていた田中と言う名の士官。

 鎮守府に所属している艦娘の指揮官の一人であり、情報提供の代わりに自分の手で妹達を助けたいと言う私の無茶な懇願に応じて自分の首を掛けてまで今回の作戦へと挑んでくれた恩人。

 今は私にとっても指揮官である彼に命じられて自分の身体の一部である主砲へと命令を伝達する。

 

 そして、後戻りをする必要も無くこの場に辿り着き、相対した相手が道理を解しない幼い子供同然だとしても、いや、だからこそ私も子供じみた感情で力を振るう。

 

 ただ後悔を雪ぎたい、ただ妹達を本物の青空の下に連れ帰りたい、戦場から逃げた後も私を追いかけ苦しめてきた悪夢を終わらせたい。

 

 その自分勝手な想いを燃やし黒い海を踏みしめ、まともに受ければ蒸発するであろう敵の砲撃による破壊力を全て私の主砲から溢れた光の膜が分解し吸収を終えた。

 

 私の背中から溢れる霊力の奔流の強さに困惑し、恐れ戦き、数秒前まで笑みを浮かべていた顔を青ざめさせた鬼の姫がイジメられた子供のように両手両足を玉座の上で縮め込ませる。

 

《今さらそんな顔してもっ、これは全部っ、貴女自身のせいなのよぉっ!!》

 

 蝶を思わせる形をとった光の膜から砲塔内の薬室へと供給され圧縮される焔の行き先を指し示すように私は両手を突き出し広げ。

 

 私は怯えた顔を見せる深海棲艦の女王が座る玉座の真横へ向けて砲門を開いた。

 

・・・

 

 まるで扶桑の身体全体が大砲と化したようにリング状に繋がった主砲がうなりを上げ、太陽の光を凝縮したような閃光が限定海域の支配者の真横を通り過ぎてはるか遠くに見える黒い壁へと突き刺さる。

 

 自分が重ね張った障壁の中で自分を殺しうる攻撃をワザと敵が外したと言う状況に呆気にとられた顔をした港湾水鬼は両手で庇っている頭を傾げてその強烈な閃光の行き先を赤い目で見た。

 

「な、なんで外したの!?」

「攻撃目標が外壁ってどう言う・・・」

 

 太陽が間近に落ちてきたような光に目を晦ませながら岩礁に隠れていた艦娘達が唖然とした顔で扶桑の放つ光の柱が箱庭の壁に突き刺さる様を目撃する。

 

『限定海域と言う空間は外側からの攻撃に滅法強い、言うなれば玉ねぎを手で支えずに上から叩くようなモノだ』

 

 その場にいる全員がその攻撃の真意が分からず困惑する中、山城達の耳に扶桑の艦橋に座る田中の声が届く。

 

『外側からいくら強力な砲撃を打ち込んでも空間そのものが捻じ曲がり破壊力が分散する。 精々破壊できるのは皮が二、三枚剥ける程度、そして、また供給された霊力で再生する事になる・・・』

 

 見た目は球体であっても捻じ曲げられ折りたたまれ多重構造をとる空間を内部に収めている為に内側、それも中心から直線で切り裂かなければ限定海域と言う特殊な空間を根本的に破壊する事は出来ない。

 しかし、逆に言えば空間の中心点を押さえ、内壁を全て焼き切り外壁までを破壊する強力な直線を用意できるなら深海棲艦が造り出した巨大な圧縮領域を崩壊させることが出来ると言う事でもある。

 

 鎮守府の研究員が言っていた調査と仮説から導き出された敵拠点の攻略法を掻い摘んで言った田中は砲撃で白く染まる艦橋に表示される膨大な破壊力を示す無数の数字を流し読みして苦笑した。

 

『さて、ヤツが時間を戻すのが早いか、扶桑が閉じた世界を切り裂くのが早いか・・・いや、コレはもう賭けにすらならない』

 

 捻じ曲がった空間が中心から扶桑が放つ砲撃の光柱によって引き伸ばされ、深海棲艦の霊力によって編まれた檻の中で無理矢理に皺を寄せられていた距離や時間がアイロンに轢かれたように光の奔流で正しい長さと大きさへと戻され。

 

 さらに砲撃の反動を抑え込む為に海面下へと打ち込まれた扶桑の脚や腰に繋がる錨と鎖が耳に痛い音を立てて忙しなく軋み、巫女装束を思わせる紅白の衣を纏った戦艦が歯を食いしばって上半身を捩じる。

 

 彼女の身体の動きに追従して繋がり合い円環となった巨大な戦艦砲がその光線と攻撃範囲を横滑りさせて黒い外壁をバターの様に切り熔かし更に破壊を広げていく。

 

 黒い渦の中心に浮かぶ楕円形の巨大な浮島の外壁を光の柱が穿ち、空の雲にまで達しさらに切り裂くように破壊を続ける様子にやっと敵が何をしようとしているのかを理解した港湾水鬼が悲鳴を上げて自分の領域を直す為に霊力の供給量を増やす。

 

 だが、その努力は霊力で編まれた壁と言う枷から解き放たれ本来の大きさへ戻っていく空間の崩壊の前では焼け石に水と言う他になかった。

 

『悪いが時間は戻させない。そもそも我々にはお前の土俵で戦ってやる義理は無いんだからな』

 

 深海棲艦に向かって言い切る田中のその言葉と同時に扶桑の放っていた光線が途切れ、水蒸気を立ち上らせ干潟となった岩礁に立つ戦艦娘の背中で赤く砲身を灼熱させる主砲が排気口から大量の熱風を放出し。

 その砲塔基部で蝶の翅を作っていたラジエーターに見える鋼板が並ぶ部分は吸収し溜め込んでいた膨大な霊力を使い切り薄っすらと湯気のようにか細い霊力の光を揺らす。

 

 そして、砲撃の終わりに続いて空間そのものが軋む音が四方八方から聞こえ、天井から見下ろす模造の月が無数のひび割れを走らせ、山城達を二年以上も閉じ込めていた箱庭の壁がドミノ倒しのように次々と砕け消え始めた。

 

 扶桑が薙ぐように放った扇状の全力砲撃によって切り裂かれ開いた外側と内部の境目から優しい橙色の陽光が差し込み、その眩しさの前に閉じ込められていた艦娘達が手を取り合い肩を抱き合い、久しぶりに感じる本物の太陽の存在に声も出せずただ涙を溢れさせる。

 

 そんな感動に震える艦娘達とは裏腹に自分の支配する世界が壊れていく様子に玉座に張り巡らせた障壁の中で頭を抱え悲鳴を上げた女王は必死に千切れた空間を縫い合わそうと試み。

 しかし、穴の開いた風船どころか切り裂かれた気球とも言える限定海域の状態は霊力を注ぎ繋いだ端から解れ、継ぎ接ぎすら許さずに大きすぎる負担のしわ寄せが港湾水鬼へと押し寄せてきた。

 

・・・

 

 何をやっても敵わないと思っていた要塞と地獄の様な箱庭が崩壊を始め、扶桑の砲撃で引き伸ばされた空間に外から吹き込み、内側から吐き出される空気の流れが強風となって山城達の身体を打つ。

 穏やかな夕陽から一転して嵐となった岩礁にしがみ付き自分の領域が崩壊する重圧に圧し潰され始めた女王へと顔を向けた山城はその敵の足下へと風に翻弄されながら駆けていく駆逐艦の姿に目を見開いた。

 

「あ、朝雲! 何処に行くの!? 戻りなさい、危ないわ!!」

 

 最後の霊力を振り絞って障壁を張ったとは言え200m以上の高さからの落下で身体中の骨が軋み、左腕を失った戦艦娘は近くにいる仲間の手を借りて岩礁にしがみ付く事しかできず。

 その山城の声を無視して朝雲がよろめきながら、水色のリボンが解けた長い髪を強風に煽られ、高波に足を取られても目に映るその姿に向かって手や足を振り回しながら暴れる海面を必死に進む。

 

 自らと玉座を守る障壁すら維持できなくなった女王の膨らんだ下腹部、その一部だけ強度が低くなっていたそこは内側からの内圧で破れ、始めは1mほどだった穴が見る間に広がり赤黒い体液が噴き出し、その血の滝へと変わろうとしている血流に流されて青白い光を宿した何かがぽろぽろと玉座の下へと落ちていく。

 

「や、山雲っ、山雲ぉっ!!」

 

 台風の中を進むような苦しさの果てに朝雲は腹の裂け目を広げていく港湾水鬼の足下、海流と強風で流され近付いて来る黒い血と海水の混じった海面に浮かぶ船であった頃から多くの苦楽を共にした姉妹艦の姿に顔を笑顔で輝かせた。

 

「起きてっ! 分かるでしょっ、私よ! 起きて山雲っ!」

「・・・けほっ、ぁ・・・ぅ・・・あさぐも、ねぇ・・・? もぉ、朝なの・・・?」

「もぉっ、何言ってんのよっ・・・相変わらず、呑気なんだからっ・・・」

 

 黒い海から両手で確かめるように抱き上げた山雲の少し眠そうな声に嗚咽を堪えながら朝雲は強く妹の身体を抱きしめ、弱弱しくも抱き返してきた妹の手の温かさで胸をいっぱいにする。

 

「熊野っ! 鎮守府に帰るんだっててば、寝ぼけてないで起きなよぉ!」

「ロープを持ってる人は意識の無い子達を固定するのを手伝って! 外に出れても遭難してしまっては元も子もありません!」

「重いぃっ、榛名さんと霧島さんが沈んじゃうっ、手を貸して誰かぁ!」

 

 気付けば朝雲は山雲と共に割れ始めた岩礁と崩れ始めた玉座の間まで流され、周りに駆け寄ってきた仲間達が敵の腹から流れ出てきた艦娘達を抱き上げて風と海流に流されないように身体を支え合い始めていた。

 

「でも扶桑姉様の砲撃は当たっていないのに、何で・・・」

 

 仲間の手を借りて外から押し寄せる青い海に沈み始めた岩礁から離れた山城は風の中で身を屈めて敵の腹から解き放たれた仲間の姿を嬉しく思いながらも困惑の表情を浮かべる。

 

『同じマナの力を基にしているとは言え艦娘と深海棲艦はプラスとマイナスの関係にある。 そして、広大な限定海域の崩壊によって押し寄せる重圧に消耗したアイツはもうその子達の力を抑え込んでいられなくなったんだろう』

 

 要するに量を間違えた毒と薬の関係そのものだと言い切る頭の上から聞こえてきた男の声に顔を上げた山城の目に自分を優し気な微笑みで見下ろす姉の顔が映り、扶桑は仲間達の頭上に覆いかぶさるように膝をついた。

 その大きな両腕で円を作り外からの海水で黒色が駆逐されていく海面に身体を伏せ、白い袖や朱色のスカートが揺れる身体全体を使って吹きすさぶ強風や暴れ波を遮り少女達を守る。

 

《山城、ジッとしていて、もう、大丈夫だから・・・》

 

「っ、はいっ! 姉様っ!」

 

 砕けた天井の欠片が昏いマナに分解されながら扶桑の背中に降り注ぎ、その身体から残りの霊力を全て絞り出すように自分とその下にいる仲間達を覆って光る戦艦娘の障壁にぶつかった瓦礫が海面に無数の水柱を立て水飛沫が彼女達の視界を埋めていった。

 




 
勝った!! 第二章 完!!







・・・と、でも思ったかい?
 
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