艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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 慌てちゃダメさ。

 だって、まだエピローグが残ってるんだからね。



第三十八話

「去年の夏、義男の言っていた言葉の意味がやっと分かった・・・確かに一艦隊だけで限定海域に突入なんてバカな真似はやるもんじゃないな・・・」

「ははっ、提督それは今更じゃないかな、でもそのお陰で皆を助けられたんだ・・・僕は助けられんだっ・・・」

 

 夕日に照らされる扶桑の艦橋で指揮席にもたれ掛かり打撲や軽い火傷で肌をひりつかせている田中に苦笑を浮かべた時雨が解けた黒髪を揺らして艦橋のモニターに映る外の世界へと戻ってきた仲間達の姿に目を潤ませ自然と綻ぶ口元を隠すように手を当てる。

 船として艦娘としての時雨にとって魂の奥底に隠れていた悔いと願い、その成就に彼女が浮かべる泣き笑いは見た目の年齢とは不釣り合いなほどに大人びて美しく指揮官はその少女に見惚れそうになった視線を気恥ずかしそうに反らす。

 

「提督・・・さっきから通信を試してるんだけど全く応答が無いわ」

「故障じゃないさ、GPSすら機能していないんだ・・・おそらく、限定海域崩壊による霊力濃度の上昇のせいだろうな」

 

 そんな時、矢矧が訝しげに眉を顰めて振り返り田中は手元のコンソールパネルでノイズを吐き出す通信機と砂嵐になっているレーダー画面に苦笑してじきに落ち着くだろうと返事を返した。

 

「提督、飲料水と携帯食も皆さんに配り終わりました。こんな事なら医療品も持ってくれば良かったですわ」

「艦橋に持ち込める物にも限度があるから仕方ないわよ」

 

 通信手をやっている矢矧のすぐ横で薄っすらと光が散り艦橋へと重巡艦娘が姿を現し、一時下船していた三隈が幾つかの濡れた段ボール箱を畳みながら自分達が持ち込んだ非常食を救助した艦娘達に配り終わった事を報告する。

 

 艦橋に持ち込める物品は鉄球などの重量物で調べた結果、重量制限はあって無いようなモノであると分かっているが大きさの制限に関しては実に曖昧となっていた。

 前例で言うなら艦橋に乗り込んだ艦娘よりも大きなドラム缶を持ち込める場合もあればそれよりも小さいはずの陸自隊員の標準装備である背嚢が弾き出されるなんて事もあり、今のところは両手で抱えられる程度の量と言うのが適正量であると言うのが試行錯誤と調査の末の結論となっている。

 

「三隈、ありがとう。とは言えこれで一安心か、救助を待つまでのその場しのぎにはなるな」

 

 限定海域を破壊すると言う方法で港湾水鬼を撃破し、閉じ込められていた艦娘達と共に脱出できた幸運続きだった田中艦隊だが、想定を大きく上回る高濃度のマナが限定海域の崩壊と同時に大気中に放出された為に電探は機能不全を起こし目視以外の索敵は意味を成さない状態となっている。

 

「流石にEEZの外まで流されている事は無いはずだけど、ちゃんと見つけてもらえるのかな?」

「発信信号に関しては限定海域の外まで届くのは前回で実証されているんだ、俺達は外に出て来れているんだから遅いか早いかの差でしかないよ」

 

 要するに彼らは敵地からの脱出と同時に完全に自分達の現在地を見失っていた。

 

「敵拠点の崩壊が私達を押し出して、周りの敵は引き寄せて崩壊に巻き込むなんて・・・この作戦を聞いた時には半信半疑だったけれどホントになっちゃったわね」

「磁石の反発作用だと思えば良い、主任曰く全く違う原理らしいが、まぁ、マナエネルギーの専門家になりたいわけじゃないなら気にしなくても構わんさ」

 

 そんな激戦の後とは思えないほど和やかな会話をしている田中達を艦橋に乗せた扶桑が海原に横座りして再会を喜び合う艦娘達を見守り。

 

『姉様っ、扶桑姉様』

『山城・・・』

 

 その艦娘達の中からよろよろと覚束ない足取りで自分の下に近づいて来る妹の姿を見つけた姉は大の大人が寝そべっても余裕があるほど大きな手を差し伸べた。

 

『・・・貴女の声が聞こえていたのに気付かないふりをしていたこんな恥知らずな私に言われても嬉しくはないでしょうけれど・・・』

 

 後ろめたさとそれ以上に生きて再会できたことに喜び潤む瞳で妹を見つめる扶桑は彼女に言わねばならないと心に秘めていた言葉を霊力に乗せた相手の心に届く声で紡ぐ。

 

『山城、今まで長い間、とても良く頑張ったわね、・・・そして、本当にこんなにも待たせてしまってごめんなさい』

『姉様、謝らないで、山城は、山城は・・・扶桑姉様にお会いできて、また会う事ができて・・・本当にっ、それだけで胸がいっぱいになるぐらい嬉しいんですからっ』

 

 頭上から差し伸べられてきた扶桑の手に左腕が無くなっている山城は感極まった返事と共に抱きつき。

 万感の思いを込め瞳を潤ませている姉からの労いと謝罪の言葉に声を殺して涙を流して二年ぶり再会した扶桑へと山城はもどかしそうに息を詰まらせながらも笑顔を向けた。

 

(彼女達に関してもこれで一件落着か・・・まだ一日も経っていないのに、何日も戦っていたみたいだ・・・疲れた)

 

 そんな仲睦まじい姉妹のやりとりが聞こえる艦橋で田中はやっと任務の完了を確信してリクライニングシートへと背中を預け、ぼんやりとコンソールパネルの上でカラカラと回り続けている羅針盤を眺める。

 

(そう言えば、これにも助けられたな・・・)

 

 後は迎えが来るのを待つだけと言う戦勝に緩んでいた空気の中で気を抜いていた田中は指揮席に据え付けられている羅針盤の持っていた不思議機能を心中で反芻し、触れてもいないのにカラカラと音を立てながら回り続けるそれの様子に気付く。

 

(これの回転が敵の奇襲や落とし穴みたいな渦潮を警告してくれていると気付かなければ危なか・・・っ!?)

 

 どういう原理かは不明だが自分達に迫る一定以上の危険を察知して回転する能力を持った羅針盤に向かって目を見開いた指揮官は緩んでいた脳天に電流を浴びたような感覚で背もたれから跳ね起き勢い込んでコンソールパネルに手を突いた。

 

「全員、警戒態勢を取れ!! 索敵急げっ!」

「ぉぅっ!? どーしたの、提督!?」

「羅針盤が回っている! 敵が近くに居るぞ!?」

 

 手すりにぶら下がるようにしゃがんでいた島風が指揮官の叫びに跳ね上がり髪やリボンをざわめかせ、その警告の内容に艦橋にいる全員が一瞬だけ呆然と立ち尽くす。

 

《山城、皆と一緒に私の後ろに急いで!》

 

 友軍と連絡を取るために通信機能を広範囲に設定していた為か敵がいると言った彼の叫びが下にいる艦娘達にも伝わり、山城と再会を喜び合っていた扶桑が表情を引き締め直して海に立ち上がる。

 

『は、はい、姉様!』

『山城さん! こちらへ!』

 

 足下にいた艦娘が扶桑の後方に集まり負傷で動けなかったり意識が戻らない仲間を守るために素早く円陣を作り、彼女達はそれぞれの手に限定海域で手に入れたであろう拳銃や機関銃を構えて周囲へと鋭い目を向けた。

 全員が疲労と負傷している状態では戦力になるわけでも無いが、それでも休息から即座に戦闘へと体勢を切り替え一糸乱れず行動できるのは過剰に積み重ねてきた経験故なのだろう。

 

「水上、対空共に電探使用不能! 上空への望遠・・・敵機無しですわ!!」

「目視距離の海上にも艦影無いわ!」

 

 すぐさまモニターに向かった三隈と叢雲が指揮席の左右から声を上げ、だとすれば海中からかと当たりを付けた田中はコンソールパネル上に浮かぶ扶桑のステータスを表示させる立体映像へと手を伸ばす。

 

「なら下からか! 矢矧出れるか!?」

「中破してる叢雲や時雨よりはマシって所だけど、やるしかないわね!」

 

 限定海域の広大な内部を駆け抜ける際に戦艦ル級へ槍を手に突撃をした時に負傷した叢雲や最深部と他の階層を隔てる棘が蠢く黒壁を砲雷撃で打ち破り飛び込んだ時雨、二人とも行動不能と言うほどでは無くとも戦闘に駆り出すには心もとなく。

 三隈と島風、そして、扶桑は負傷こそ無いが霊力を全て使い切り砲弾一発すら作り出せない状態となっている。

 即座にそう判断した田中の手によってコンソールパネルの上で旗艦変更の作業が行われ、山城達の目の前で扶桑の身体が光に包まれ入れ替わる様に二つの砲塔が壊れた状態の艤装を装備した軽巡艦娘が海原に立ったと同時に足下へとソナーを打つ。

 

「ソナー・・・反応・・・、あり! 三時方向1800m!! って、なにっ、この大きさはっ!?」

 

 突然に扶桑が消えて別の艦娘が自分達の目の前に現れた事に感嘆や戸惑いの声を上げる足下の少女達に田中は構っている余裕は無く。

 使用可能な主砲への装填を三隈に命じてまだ砂嵐を騒めかせているレーダーを横目にした直後、叢雲が上げた悲鳴と海中に蠢く巨大な影を映し出すソナー画面に唾を飲み込んだ。

 

「周りの敵は限定海域に吸い込まれて押し潰されたんじゃありませんの!?」

 

 そんな田中や艦娘達の前で海面が盛り上がり黒く歪な岩がフジツボのように張り付いた巨大な手が海を割って天へと鋭い爪を突き上げる。

 

「冗談、だろ・・・? 関東平野二つ分の空間崩壊の中心に居たんだぞ、なんで生きてるんだ・・・」

 

 扶桑が霊力を振り絞り作った障壁で身を守りながら風と海流に乗って脱出した自分達と違って押し寄せる限定海域崩壊の重圧で中心に縫い付けられ広大な領域の重みに潰されたはずの港湾水鬼が海上に手を突きながら血の様に紅い瞳の周りを黒血で縁取り、溢れる様な怒りを炎のように身体から立ち上らせる。

 

 見た目と言う点では海面に現れた怪物は無数の大砲を備えた玉座は無く、その白い肌は所狭しと黒い血が固まったヒビの様な模様で埋め尽くされ、片胸が抉れた上半身と抉れてがらんどうになった腹から下はごっそりと無くなっていた。

 

 誰が見ても満身創痍を通り越して歪な死体にしか見えないと言うのに、それでも海上に現れた百数十mを超える威容はぎらぎらと命を燃やし。

 半死半生の港湾水鬼が大きく口を開けて放った野太く響く咆哮がその場にいた全員を金縛りにするほどの凄まじい威圧感となって襲い掛かる。

 

「て、提督っ!」

「深海棲艦は、あんなになっても生きてられるのか・・・これは、いくら何でも反則じゃないか」

 

 額から生えた黒角を軋ませ、長かった白い髪がざんばらに千切れ、固まった溶岩のような黒岩を大量に張り付けた顔は元の美貌からは信じられない程に醜く焼け爛れている。

 

 その元の姿から見る影も無くなったひび割れた肌が崩れて黒い体液と共に破片を海に落とす。

 

 青い海に穢れた破片をまき散らすその身体を引っ張る様に巨大な手が海面を引っ掻き、這う巨体が穏やかだった波を掻き立てる様子に田中はこのまま深海棲艦の接近を許し戦闘を始めれば折角助けた艦娘達を沈めてしまいかねないと焦りに汗をにじませた。

 

『よぉ、待ち合わ・・時間はとっ・くに過ぎ・・ぞ、場所も間違え・・・くせに女と遊ん・・・余裕があんのかよ?』

 

 足元の艦娘達にとにかく生き延びるために逃げろと指示しようとした田中が伸ばした手が通信機に触れる直前。

 

 そのスピーカーがノイズとともに彼にとって馴染み深い声を届け、その場違いなほど軽い口調に彼の身体中を走っていた危機感が不思議なほど簡単に収まっていく。

 

「は、ははっ・・・生憎と道が混んでたんだ。それとあれは勝手についてきただけだ、俺のせいじゃない」

 

 まだ遠く見える巨体がその手で高波を作り出し海原を這い、その割れ目だらけの大腕や身体から崩れて落ちた黒い塊が下手な砲弾よりも大きな水柱をその港湾水鬼の周りで上げている。

 その様子に顔を引き締めた矢矧は足下の仲間達を庇うために前に出て、その腰の艤装から太刀を引き抜き盾にする様に自分の身体の前で鈍く銀に輝く刃を横に構えた。

 

『そ・・・聞いて安心した。俺・・んなグロイ・・・をナンパするヤツを友達とか言いたくないからな』

 

 その臨戦に構える艦娘の艦橋に座る田中の手元で未だに砂嵐になっているレーダー、その外円に味方を示す信号が点滅しながら表示され、飛ぶような速さで一回の点滅ごとに田中達がいる場所への距離を縮め通信が明瞭になっていく。

 

・・・

 

 眷属と領地だけでなく自分の体まで破壊尽くされた怒りから復讐心に囚われた港湾水鬼がその原因である艦娘達へと向かって這い進む。

 相手の中に見える力は小さくなっただけで無く、忌々しい白ヒレから銀色の棒切れを手にした一回り小さい身体に変わっている。

 

 ヤツは消耗しているのだ、と手負いの深海棲艦は確信した。

 

 ならばヤツだけでなくその足下にいる小虫共ごと喰い殺し、その血で喉を潤し、肉で腹を満たし、また自分の世界を造る為の材料に使ってやる。

 そんな欲望と怒りで紅瞳を燃え上がらせ目の前の敵にしか見えなくなった獣は牙を剥き出しにしていた。

 

『そんな恰好の割には随分と元気だな、それともお城を壊されて怒ってるだけか、なぁ、お姫様?』

 

 それは音として獣の耳に届いたが彼女がその意味を理解する事は無くただ怨敵へと猛進を続ける深海棲艦を止める力は無かった。

 

 だが、その通信の直後に海原に這いつくばる白黒斑の鬼女は顔を引き攣らせ、その上半身は仰け反り両手で海面を押すように前進を止めて紅い目を見開く。

 

 その原因は小さな虫と忌々しい銀の棒を持つ敵のそのすぐ近くに走り込んできた別の敵の姿。

 

《折角、急いで雪風達を迎えに来たのにさぁ、邪魔だなぁ~、・・・邪魔だよ、お前》

 

 銀の棒を持っている敵よりもさらに一回り小さな身体をワンピースセーラーに包み黒から灰色へとグラデーションする髪を持つその姿が突然に光に包まれて消え、その場に金の輪を作り出して輝く。

 

 その光景に玉座だけでなくその身に備えた全ての武装を壊され霊力を失った肉体を残すだけとなった港湾水鬼の身中を嫌な予感が這い上がって来る。

 

 あの小さいくせに自分よりも強力な破壊の力を振るった白ヒレは何処から現れたのか。

 今、目の前にある金の輪と同じモノからでは無かったか。

 予感と言うよりはもう確信に近いそれは耐え難い恐怖を港湾水鬼の中に塗り広げていった。

 

 輪から出て来ようとしているのは白ヒレではない、だが黒鉄の装甲を纏い強い戦意を漲らせるその気配、その輪の中で造り上げられていく力の形には紛れも無く深海棲艦の女王だった彼女から全てを剥ぎ取り破壊尽くした理不尽な怪物と同じモノが宿っていた。

 

 あれはダメだ。 逃げなければ今度こそ殺されてしまう。

 小さいくせに、弱いくせに、支配者(自分)を殺せる力を持った怪物(理不尽)がやってくる。

 

 戦艦を原型に持つ艦娘によって植え付けられた恐怖は元支配者に逃走を命じたが、今まで自分の世界に閉じこもり、生まれてから一度も自分で海を進んだ経験が無い箱入り娘は腰から下を失った体には大きすぎる熊手で無様に水を掻く事しかできなかった。

 

《戦艦長門っ!! 出撃するぞっ!!》

 

 そして、その恐怖に支配された巨体が自分が起こした波に邪魔されてのたうつように這いずる背後で黒い籠手に包まれた手が金輪の縁を掴み。

 二本の角に見える電探が生えた艶やかな黒髪を夕陽の中へとたなびかせ戦艦の名を冠する艦娘が海原に立った。

 

・・・

 

 まともな索敵もできない大海原で上空から観測を行っている空母と光信号やハンドサインに目を凝らしながらやっと見つけた限定海域への突入艦隊は死にかけの敵首魁と鉢合わせしていた。

 それは今回の作戦においては想定外であり、まさか万が一の時の為に用意していたエースカードを切る事態が発生するとは彼女を連れて来ていた中村自身も思っていなかった。

 

「どうした、待ちに待った艦隊戦だぞ?」

「ここまで待たされては喜ぶ気にはなれん・・・だが、やらせてもらおう!」

 

 鎮守府から舞鶴までやってきて一カ月近く港で待ちぼうけをくらいストレスを爆発させる寸前の状態を戦艦としての矜持で耐えていた長門のご機嫌取りが半分、自分の艦隊の半数が戦闘不能になり治療中で少しでも自分の安全の為に戦力を求めていたのが半分。

 田中達を確実に助ける手段と言う理由は少しむず痒いので心中に留め置く。

 それはともかくとして、ここに長門が居ると言う状況は実のところ偶然だった。

 

「まぁ、そりゃそうだな」

 

 そう言って時津風と入れ替わりに旗艦変更の光の中に消えていく長門型戦艦一番艦を見送る中村は苦笑とともに田中の艦隊と繋げた通信機に耳を傾けた。

 

『どう言う事だ!? 何故長門がここに、出撃が許可されたのか!?』

 

 長門の出撃が司令部の上にいる連中によってタブー扱いにされていたのは周知の事実であり、だからこそ田中は書類の上では未だにMIAとなっている扶桑の協力を得て今回の作戦に挑んだ。

 表向きには戦艦娘は作戦に参加していないと言う理由をこじつけなければならなかったはずなのに頭の上の連中から許可が下りてきたのかと通信機の向こうで驚きの声を上げる。

 

「いや、長門は出撃していないぞ?」

『何を言っているんだ? 現に今目の前にっ・・・』

「あのな、今ここはレーダーどころか人工衛星の目すら塗り潰すほど強烈な霊力力場の真っ直中だぜ?」

 

 海上の国境線とも言える日本海沖での作戦に対して神経質になっている政治家にとって歩く大量破壊兵器である戦艦娘の運用は長門に限らず許可が出るはずがない。

 それが嫌と言うほど分かっているからこそ混乱する友人に向かって中村は苦笑を浮かべて少し得意げにタネを明かす。

 

「周囲百数十キロ、高度三千mまで届く見えないドームには船どころか航空機すら近づけやしない。艦娘しか入れない密室と化したここじゃ、誰が何をしてるかなんて分からないだろ?」

『お前、なんて事を前から相当なバカだと思っていたが、今日改めて確信した。お前、本当にバカだろ、もしくはアホだ!』

「おいおい、助けに来てやったんだ。もう少し有り難がれよ」

『辻褄合わせや後始末の事務処理はどうするつもりだ! 俺は頼まれたってやらないからな!』

 

 自衛隊に存在しない事になっている扶桑が参加している為に田中の艦隊は音声、映像ともに事前の不備によって記録し損なう事になっている。

 それと同じだと嘯き、喉の奥で小さく笑いながら両手を組んで指揮席にふんぞり返っていた中村は呆れを滲ませる友人からの罵倒に不敵な笑みを深くした。

 

「舞鶴の司令部は見なかった事にしてくれるらしいぞ? 後で駐在する艦娘の艦種と人数に口を出されるかもしれないけどな」

『はああっ!? もぉっ、お前はぁなぁ!!』

 

 そして、中村は目の前のモニターに映る上半身だけでのたうつ港湾水鬼へと幾つものターゲットマーカーが重なっていく様子を眺める。

 

「祥鳳と瑞鳳からの発光信号・・・作戦海域の霊力濃度が通常域に戻るまで推定、12分前後とのことです」

 

 指揮席へと振り返った鳳翔が自分と同じ鳳の名を持つ空母姉妹から受け取った情報を伝え。

 

「一番から四番主砲装填完了しましたよぉ! 大潮どんどん詰めますから長門さん! ガッツーンッ!ってやっちゃってください!」

「距離風速の計算、照準への同期も完了したから・・・これでアイツに引導を渡してやって!」

 

 長門が装備する全ての主砲に弾が込められ敵への照準が終了した事を朝潮型の次女と末妹が知らせる。

 その二人の表情には哀れなほど無様な姿を晒す元女王への同情は一欠片も無く、今まで自分の姉妹艦を弄んだ代償を支払わせる為に瞳にヤル気を漲らせていた。

 

「なら、手早く仕留めちまおう、と言うわけだ。長門、やるなら十二分以内で頼む」

 

 復讐だの、恨み返しなどと言う後ろ暗い考え方は褒められたモノでは無い、だが二人の駆逐艦が倒すべき明確な敵に向けている敵意は立場的には正しいとも言える。

 中村個人の心情は事ここに至ってはなんの意味もないのだ。

 

(本当は攻略作戦が失敗した時にアストラルテザーで良介達だけでも引っ張り戻す為に連れてきたんだが、まぁ、結果オーライか)

 

 今の大潮と霞に水を差す理由もないと割り切って小さく溜息を吐いてから中村は気の抜けた攻撃指示を旗艦へと命じた。

 

『一カ月待たされて・・・たった12分の出撃か。 だがな提督、私を侮るなよ?』

 

 露骨な不機嫌さと隠しきれない戦いへの高揚に意気込む声が勇ましく艦橋に届く。

 

《この長門、あの程度の敵に手間取るような戦艦ではない!!》

 

 堂々と張った胸の前で腕を組み海原に立つ戦艦娘の宣言の直後、その身体に装備した黒鉄の戦艦砲が一斉に大爆音を空に響かせて砲口が火と硝煙を放ち。

 大気を焼き貫きながら飛んだ炎塊が波の上に這いつくばった港湾水鬼の背中を穿ち、腕を砕き、そして次々と炸裂する霊力の爆発に目を見開いて悲鳴を上げる鬼女の顔が飲み込まれた。

 

 そして、背中にサルベージユニットを背負っている為に艤装が干渉し形態変更が出来ない長門が放ったその一斉射の後に残ったのは深海棲艦だったナニかの残骸がチリチリと昏いマナの光粒に変わって夕焼けの海原に溶けていく様子だけだった。

 




 
始まりがあれば終わりは必ずやって来る。
 
交わした約束が果たされたならそれは過去に埋もれていく記憶へと変わるものだ。

だが、終わりは常に次の始まりを告げる鐘の音であり。
 
いつの世も一つの約束が終わったらならば次の約束が交わされるものなのだから。

次回 艦これ、始まるよ。第二章 エピローグ


【六月の花嫁】







 作者(ワタシ)だけが死ぬはずがない、お前達(読者達)も道連れにしてやる!!
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