艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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俺が思う確かなことはッ!

読者がこれを読んだ次の瞬間、お気に入りを解除するだろうと言う事だけだぜッ!!


第三十九話

 医務室らしい内装の一室、白衣の男性と一組の男女が神妙な表情を突き合わせている。

 

「何故こんな事が起こったのかまだ調査中でこちらとしても解らない事だらけなんだけどね」

 

 そして、研究者である白衣の男が言う言葉に嫋やかな女性の隣に座っている男が驚きに目を見開いた。

 

「ただはっきりしているのは・・・検査によるともう三か月になるって事だよ」

 

 その研究者の言葉に丸眼鏡の男は狐につままれたような呆け顔で自分の隣に座る艶やかな黒髪の恋人と白衣のゴマ塩髪の男の間で視線を行き来させる。

 

「でだ、鎮守府側にとって彼女はつい一カ月前まで行方不明だったのでね・・・我々としては保護してくれていた君に何か心当たりが無いかと伺いたいわけなんだよ」

 

 目と口を大きく開いたまま硬直してしまった男性の姿に研究者は苦笑を漏らしてから神妙さを剥いだ軽い口調で問いかける。

 

「まぁ、つまり・・・、彼女のお相手とその赤ちゃんの父親に心当たりはないかな? 大木裕介さん」

 

 仲間を助け出す為にと自分の元を去った恋人に関する重要な事態が起こったと言われ長野から千葉県某所まで車で駆けてきた大木旅館の若旦那は消毒液の匂いが漂う医務室で口を無意味にパクパクさせて隣に座る恋人と見つめ合い。

 その視線に少し恥ずかしそうに頬を赤らめた艶髪の美女は内縁の夫に向かって小さく、しかし、しっかりと頷いて見せた。

 

「ぼ、僕です!! 僕がやりました!!」

「もぉ、裕介さんったら///」

 

 丸椅子から飛び上がる様に立ち上がった大木の歓喜に満ちた叫び声が鎮守府の一角で上がり、初めから知ってたと言う呆れが混じった苦笑を浮かべた鎮守府研究室の主任は大木の隣にいる女性へと軽くウィンクして見せる。

 

「まぁ、そうだろうねぇ・・・しかし、その言い方はどうなんだい、ねぇ?」

「ふふふっ、楽しい人なんですよ」

 

 子供の様に喜びはしゃいでいる恋人の姿に口元に手を添えて微笑んでいた元戦艦娘である扶桑は研究室主任に向かって深く頭を下げた。

 

「それじゃあ、他の手続きはこちらでしておこう、それと病院の方も信用できる所を紹介するよ」

「火野原主任・・・重ね重ね、本当にお世話になります」

「鎮守府にいなかったとは言え、こっちの勝手な都合で産み出した君に散々辛い思いをさせたのに僕達は今まで何もしてあげられなかったんだ、最後くらいは大盤振る舞いするさ」

 

 そして、鎮守府の研究員を取り纏めている主任である研究者は苦笑を浮かべ、目の前の二人がある手続きをする為に必要としている一枚の書類へ判子を押してからキィッと軋む椅子の背もたれに背を預けて肩を軽く竦めて見せた。

 

・・・

 

 2015年6月某日、大安吉日であり梅雨の時期には珍しく晴れたまばらな雲と青い空の下で静々と白無垢姿の花嫁と緊張に紋付き袴の肩を強ばらせた丸メガネの婿が並んで境内を歩き、前を行く神主に続いて本殿へと入っていく。

 スーツや着物を身に着けた新郎新婦の親類が厳かな雰囲気に緊張しながらその後に列を作り、その中にいる桜色に蹴鞠の柄を飾る着物を身に着けた女性が何度も鼻を啜り手に持ったハンカチで目元を拭いている。

 

「本当に、本当にお綺麗ですっ、ねえざまぁ・・・」

「もぉ、ましろちゃんったら、しゃんとしなさいなお姉さんの晴れ姿なんでしょ?」

 

 そんな少し突けばその場で泣きわめき始めるのではと思わせるほど感極まり目を潤ませた新婦に良く似た顔立ちの女性に新郎の母親が苦笑を浮かべてその背中をあやす様に撫でている。

 

「あの子、随分と涙脆いねぇ、芙蓉ちゃんと同じくらい美人なのに勿体ない」

「行方知れずだったお姉さんと久し振りに再会できたと言ってたんだから今日くらい仕方ないじゃないの」

 

 鎮守府の外である事もあり自分の名前から一文字抜いた偽名を名乗っている扶桑型戦艦の二番艦である艦娘は涙と鼻水で美しい顔を台無しにしながら大木家親族の生温かい視線を浴び、その列に続いて神社の本殿へと入っていった。

 

「こんな所にいなくても・・・時雨も式に参加して良かったんだぞ?」

「僕が入るにはちょっと場違いだよ・・・」

 

 その神前の結婚式が行われている神社の境内に立つ御神木の木陰にスーツ姿の男性と黒地のセーラー服を着た少女が並んで新しい門出を迎えている二人の男女を眩しそうに眺めている。

 

「船としての扶桑は知っているけれど、艦娘としての扶桑を知っていた前の時雨は・・・僕じゃないから」

 

 自分ではない時雨が扶桑と交わした約束、何が原因かは不明だが死んで記憶を失い再生した後も朧気に時雨の心の奥底で眠っていた願い。

 それは日本海上に出現した限定海域から囚われていた仲間を助け出し、その原因を作っていた巨大な深海棲艦が討ち滅ぼされた事で果たされた。

 

「それに、人になった扶桑はこれから僕らとは違う場所で幸せになるべきなんだと・・・思う」

 

 だからこそ扶桑に自分は必要以上に昔を引き摺らせるような事はさせたく無いと言い、少し悲しそうに微笑んだ時雨の前髪に小さな雨粒が掛った。

 

「天気予報は晴れだと言っていたんだけどな・・・まぁ、梅雨だからか」

「大丈夫だよ提督、すぐに止むよ、止まない雨はないんだから」

 

 空色の瞳の上へと雨が降る。

 

 神木の葉の下からまばらな通り雨の中に傘も持たずに軽い足取りで踏み出した時雨が濡れ始めた髪を艶めかせ自分の中の蟠りを洗い落とす禊のように両手を空に向かって伸ばす。

 

「提督もどうかな? なかなか気持ち良いよ」

「まったくそんなんじゃ風邪をひいてしまうだろ、社務所で雨宿りさせてもらおう」

「・・・うんっ」

 

 そんな時雨の言葉に呆れて肩を竦めた田中は木陰から歩き出し少女の背中を軽く押して雨粒を煌めかせる境内の社務所へと向かい、頷きを返してからさりげなく手を握ってきた駆逐艦娘の柔らかさと清潔感を感じる匂いに軽く頬を掻いた。

 

・・・

 

 2015年4月7日、日本海に出現した深海棲艦の巣である限定海域の崩壊とその中心にいた港湾水鬼の撃破が成功し、全艦娘部隊は一人も欠ける事無く拠点としている舞鶴の港へと帰り着いた。

 そして、帰って来た艦娘のほとんどは助け出された百人近い艦娘達であり、夕陽が沈み夜になろうとしている港は負傷者でごった返しになり救護に駆け付けた自衛官達が慌ただしく担架や簡易食を手に走り回る。

 

(あぁ、やっと・・・終わったのね)

 

 負傷はしていないが二年半以上も実戦から離れていた為に鈍っていた扶桑の身体は大量の霊力消費も重なり酷く疲れ果て、何とか気力だけで立ちながらすぐ近くで肩口から千切れた腕や身体中の折れた骨などの応急処置をされている山城の様子を見守っていた。

 

「姉様・・・? ふ、扶桑姉様!?」

 

 疲労によって一時ぼんやりとしていた扶桑は不意に自分の名を呼び驚きに目を見開いている妹の声で我に返り、何故、妹がそんな引き攣った顔を自分に向けるのか分からず小さく首を傾げた。

 そんな戦艦娘の胸を突然に鋭く刺す様な痛みが走り、彼女は突然の痛みに呼吸を詰まらせてその場にうずくまる。

 

(な、何が・・・これは・・・?)

 

 救護作業の慌ただしさとは別の理由で扶桑の周囲が騒然とし、自分の身体に起こった異変に膝と手を地面に突いて座り込んだ戦艦娘は鼓動するように痛みを走らせる胸へと手を当てようとして自分の指先から立ち上る霊力の揺らめきに目を見開いた。

 指先から湯気のように立ち上り空気の中へと解けるように上へ上へと向かって行く霊力の粒は次第にその量を増やしていき、それに合わせて扶桑の肌から光があふれて夜闇にまるで蛍の様な明かりを散らしていく。

 

「・・・これは・・・霊核が散る光?」

「ね、姉さまっ! 何で、何で!? やっと会えたのにっ何でっ!!」

 

 困惑する自衛隊とは違い周りの艦娘達は艦娘としての本能的に、或いは過去に死んだ艦娘の身体が解けて光に変わる様子を目撃した経験から扶桑の身体から散る光の正体が彼女の身体から霊核が離れようとしているのだと気付く。

 悲鳴を上げて救護してくれている自衛官の手を振りほどこうとしている山城の前で強く弱く鼓動する青白い光が扶桑の胸元から溢れて夜空に向かい光の帯を作って登る。

 

「山城・・・大丈夫よ、これはそう言うものじゃないの」

「でもっ! 扶桑姉様!?」

「私は大丈夫だから・・・」

 

 身体の内側から解けて溢れ出ていく光の袂に跪いて手を胸に当て、扶桑は自分の身体から空へと昇っていく霊核の光を見上げる。

 まるで別れを惜しんでくれている様に自分の身体の周りで円を作って回りながら螺旋となって夜へと挑むように空へと向かうその光に扶桑は艦娘として生まれてからずっと重なり合って一緒にいてくれた英霊達の声無き意志を初めて聴く。

 

 我ら離れるとも幾久しく壮健たれ、と。

 

「恥知らずにも逃げ隠れて、言い訳ばかり重ねて・・・それでも、こんな私を見捨てずに見守って一緒にいてくれて、最後に自分の意志で戦う機会を与えてくれた事をっ」

 

 祈る様に懺悔するように星が瞬く東の空へと向かって登っていく光の帯へと扶桑と名乗っていた美女は深く深く頭を下げた。

 

「妹を、仲間達を助ける為に力を貸してくれた事に感謝します・・・戦艦扶桑」

 

 その言葉に返事を返すように低く微かに聞こえる汽笛の音が星空を征く霊核の光から届き、その場にいた全員が目の前で起こった幻想的な情景に見惚れて立ち尽くす。

 身体を折る様に深く頭を下げて両手で抱く自分の身体は妙に熱く、その熱が霊核を宿していた胸にはぽっかりと空いた穴のような心細さが溢れ出て不安に泣き叫びそうになる心を温めてくれる。

 

(温かい、何かしら・・・霊核を、力を失ったはずなのに同じくらい温かい何かが私の中に、いてくれているの?)

 

 救護員の手を振りほどき自分の代わりに泣き喚いてくれている山城に抱き付かれ、明らかな自分の身体の変化に戸惑う扶桑だった女は霊核が宿っていた胸では無く、自分の臍の下から広がって支えようとしてくれている命の存在に気付く。

 

 そして、それを彼女が自覚したと同時に霊核が抜けて空いた穴を埋めるように心臓が強く脈打ち血の流れが命の熱を身体中に広げ、艦娘ではなくなった女は自分だけの命と胎に宿るもう一つの生命をしっかりと両手で抱いた。

 

・・・

 

 自分が艦娘ではなくなった日をふと思い返していた新婦はその身を覆うふわふわした気分はお腹の子に悪いからと酒類から遠ざけられていると言うのに周囲のおめでたい雰囲気に酔ってしまったのかと微笑む。

 

 艦娘として生まれた時点では自分がこんな事になるとは想像もしていなかったと白無垢から装いを披露宴の物へと変えた扶桑は四か月目を越えて少しふっくらとしてきた自分の下腹部を撫でる。

 

 厳かな結婚式が終わり、参加者全員がその足で大木屋旅館に向かい、始まった結婚披露宴では親戚に弄りまわされて酒を飲む為の理由として何度も宴会場の真ん中に立たされている自分の夫となった大木屋の若旦那が嬉恥ずかしと言う顔で丸眼鏡がずれるのも気にせず手に持ったビールの泡が揺れるグラスカップを掲げていた。

 

 戦う為に生まれた自分が鎮守府の外で子供を産み育て円満に家庭を築けるのか、と言う不安はまだその心中に付いて回っている。

 けれどそれを知っても自分を蔑む事無くむしろ溢れんばかりの祝福をくれた仲間達の声や握ってくれた手の温かさが確かな勇気を心に与えてくれた。

 

 その際、何故か船としても艦娘としても大して面識が無い金剛型一番艦に熱烈な祝福をされる事になり、別れ際には金剛が手から放った光弾がまるで花火の様に弾けて空を飾り。

 そんな長女に忠犬の如く追従する次女、その二人の姿に病み上がりの妹達が目を白黒させて慌てる騒がしい姿には驚かされたが、その戦艦姉妹に続いて見送りに来ていた艦娘達が打ち上げた多くの祝砲は鎮守府を去る扶桑にとって良い思い出にもなった。

 

(そう言えばライバルがどうとか・・・金剛さんの言っていたのは結局、何の事だったのかしら?)

 

 霊核を失い艦娘を辞め、人として生きていく為の手続きを終え、そして、今日から大木裕介の妻として正式に大木芙蓉と名乗る事になった元艦娘はこれから始まる人間としての生活に不安と期待を混ぜ合わせ。

 心折れそうになり死を選ぼうとしたかつての自分を救ってくれた愛する夫、そして、艦娘としての力を失い凍えそうになった身体を温めてくれた愛しい命と共にこれからも生きていくのだと改めて強く心に誓った。

 

(・・・時雨? あの子、どこに行ったのかしら?)

 

 ふと宴もたけなわとなった騒がしい会場を見回すとビール瓶をラッパ飲みしながら何やら喚いて田中の袖を掴んで絡んでいる山城の姿。

 は見なかった事にして、扶桑はこの場に招待されているもう一人の艦娘の姿を探して見るが宴会場に時雨はいなかった。

 それが妙に気になった扶桑は少し会場を出る事を自分の義母となった大木屋の女将へと伝えて宴会場から廊下へと向う。

 

 朝の結婚式の後すぐに昼から始まった宴会の外はまだ夕方に早く、結婚式の途中から曇り雨がまばらに降る空の様子を廊下の窓から見た扶桑はふと思い立って旅館の中庭へと足を向ける。

 

「やっぱり・・・時雨、ここにいたのね」

「ん、ああ、扶桑・・・じゃなくて芙蓉さんかな?」

「どちらでも構わないわ、貴女が呼びやすい方で呼んで」

 

 良く手入れされた初夏の中庭、緑が鮮やかに葉を茂らせる木々に小さな雨粒が当たって跳ねる様子を縁側に座って眺めていたらしい時雨が近づいてきた扶桑へと顔を上げた。

 

「宴会は退屈だったかしら?」

「そうじゃないんだけどね、こう言うのはなんて言えばいいんだろう」

 

 時雨と隣り合って座り暫し無言で庭を眺めていた扶桑が問いかければ駆逐艦娘は自分でもその戸惑いが分からないと言う様子で頭を掻き苦笑する。

 そう言えばと扶桑は三月に突然現れた時雨と再会した時も同じ様にこの庭の天気は曇り空で小雨が降っていたと思い出す。

 

「私が艦娘でなくなってしまった事が、それを恥じていない私が疎ましい?」

「そんなわけないさ、扶桑は幸せになって良いんだよ・・・前にもそう言ったじゃないか」

「戦いの場から離れているのが不安?」

「ううん、そうなのかな? でも多分それも違うと思う・・・」

 

 静かに雨音が満ちる庭を臨む廊下に座る二人の間に静かさが横たわる。

 まるであの日、時雨が戦う理由を知りたいと思って問いかけた時の様に、その問いかける幾つかの言葉に自分の思いを纏め切れていない駆逐艦娘は表情を少し曇らせて首を横に振る。

 

「ねえ、扶桑・・・僕は、前の僕が扶桑と交わした約束を果たせたのかな?」

「ええ、貴女のお陰よ・・・ここに時雨がやってきてくれなかったら私はきっと今も怯えたまま周りの人達と、裕介さんとも本当の意味で向かい合って生きていく事を決心できなかったから」

「そっか・・・」

 

 想いと感謝を重ねた自分の言葉に対するには呆気ないぐらい軽い時雨の声に顔を向けた扶桑は雨の名を持つ少女が少し寂しそうに空を見上げている事に気付いた。

 

「時雨、貴女は自分の中から戦いを続ける為の大きな理由が無くなってしまったと思ってる?」

「えっ!? ・・・ぁ・・・」

 

 ふとそれに思い当たった扶桑が掛けた問いかけに時雨は大袈裟に見えるほど背筋と三つ編みを跳ねさせ、空色の瞳をいっぱいに開いた視線を隣に座る和服美人へと向けた。

 

「そうかな・・・そうなのかも、でも、僕が艦娘として戦い続ける事は変わらないと思う」

「それならそれで構わないんじゃないかしら、時雨がそれを選ぶなら」

「・・・そうかな?」

「ええ、でもね・・・それは時雨が選べる生き方の中の一つでしかないって事も覚えておいて欲しいの」

 

 自覚の有る無しに関わらず幸せも不幸も、自分の身体も意志も、形の有無は関係なく与えられたモノ、手に入れたモノはそれらを得た本人の考えに影響を与えて気付かないうちに多くの選択肢を増やしていく。

 

「一番大事なのはその中から何を選ぶかだと思うわ、後悔したり苦しい思いをしても最後には幸せになれるように自分の一番大切な願いは自分で探すしかないのよ」

「幸せになる為に探していくしかない、難しいね・・・いまいちピンと来ないや」

「そうね、漠然としていて難しい事だわ。 ふふっ、自分の事で手一杯のくせに訳知り顔で偉そうな事言ってしまったわね・・・時雨、少しジッとしていて」

 

 そう言って扶桑は自分の髪から金の花飾りを外し、それを隣に座って自分を見上げている時雨の髪へと付け替え、戸惑っている少女の顔を笑顔でのぞき込む。

 

「扶桑、これは?」

「いつか時雨が自分にとって一番大切な何かを見つけられた時には私の所へ遊び来ること、これはその約束の証」

「約束?」

「そう前の貴女とじゃなくて、今の貴女との新しい約束、ダメかしら?」

 

 自分の黒髪の上でシャラリと揺れる髪飾りに恐る恐る触れながら時雨は扶桑を見つめ、数秒ほど逡巡してから意を決したように強く頷いた。

 

「うん、約束する・・・その時は絶対に僕はまたここに戻ってくるよ」

「ええ、その時は今日よりももっとたくさんお話しましょう」

 

 笑顔で頷き合った二人の前で降り続いていた雨足が途切れ、曇り空の合間から日の光が差して庭の緑がまるで宝石箱のように雨露が煌めく。

 

「あぁ、青い空が、世界がとっても綺麗」

「うん、綺麗だ、すごく・・・すごい」

 

 灰色の雲が風に流され青い空が顔を出して初夏の日差しに切り開かれた空色の下で水と風が輝き、目の前の世界が急激に広がっていくような光景に二人は揃って見惚れる。

 

「・・・ホントはずっと見ていたいけれど、そろそろ戻ろうか? 結婚式の主役を僕が独り占めしてたら後で女将さん達に怒られそうだ」

「そうね、この続きはまた会った時にでも取っておきましょう?」

「うんっ!」

 

 もう一度、笑顔で頷き合って手を繋いだ扶桑と時雨は立ち上がり、随分と軽くなった足取りでまだ騒がしさが下火にならない宴会場へと向かった。

 

「ぜったいにぃ、ふぉお姉様を泣かせたりするんじゃないわぉっ!!

 分かってんでしぉうねっ!! もしそうなったら、 

あたしがぁっその眼鏡ぇ、叩き割ってやるんだかぁあ!!」

 

「ははははっ! もっと言ってやれぇ、妹ちゃんっ!!」 

 

 廊下と宴会場を隔てる襖を開けた時雨と扶桑にカラオケ用のマイクを手に絶叫する山城の姿とそれを囃し立てる中年オヤジ共の酔っぱらった歓声が襲い掛かり、和やかに笑顔を浮かべていた二人は次の瞬間にはその口元を引き攣らせることになった。

 

「て、提督、これはどう言う・・・事なのかな?」

 

 たまたま入り口の近くに座っていた田中へと近寄った時雨にビールが並々と注がれたコップの処理に苦心している指揮官は頭痛を我慢しているような顰め面で酒臭いため息を吐いた。

 

「俺にも分からん・・・とりあえず、今後は山城に酒を飲ませるのだけは避けた方がよさそうだ」

「・・・うん、そうだね」

 

 酒と興奮で肌から薄っすらと霊力の粒を零し始めている山城がマイクを独占したまま歌詞も知らない曲を調子っ外れに歌い始め、その初めて見る妹の姿にあれもまた自分の意思で山城が選んだ結果なのね、と扶桑は微笑みを強張らせた諦観に満ちた表情を浮かべる。

 

「まなっつの浜べぇっ♪ 君の胸にあいおんちゅ~!!」

 

「いいぞっ、いいぞっ! 嬢ちゃん輝いてるぞ!」

「はははっ、スポットライトもあるのかぁ、大木屋さんは用意がいいねぇ」

 

 とりあえず狂乱する妹と口笛を吹き鳴らす酔っ払い共を視界から締め出した新妻は酒を飲まされ過ぎて半死半生になっている夫の元へと救援に向かう事にした。

 

「裕介さん、大丈夫かしら?」

「だ、だいじょばないかもしれない・・・み、みず・・・」

「アナタったらもぉ、飲み過ぎは身体に毒ですよ、少し待っていて」

 

 心配になるほどお人好しな夫の姿に自分が後ろ向きに悩んでいる暇は無さそうだ、と新しい名前を得た元艦娘は朗らかに微笑みながらグラスに水を注ぐことにした。




何でこうなったのかを詳しく説明しようとするとR18描写が必要になるから書けないんです!

それでもっ、出来る限り書いたんです!

必死に! その結果がこれなんですよ!?

これ以上どう表現しろって言うんですか!!



あ、第二十四話で姉様が悪夢で起きた後にケロケロしてたり体調不良が続いていたのは悪阻のせいです。
だから病院で診てもらってたらすぐに原因は分かってた。
まぁ、保険証どころか戸籍すら無かったから仕方ない話だけどね。
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