艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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前話の文字数が多すぎたために切れた部分なのでちょっと短め。
誤解が誤解を呼ぶスパイラル。
良いと思います。


第四話

 史上初の深海棲艦による日本の本土襲撃と艦娘による深海棲艦の撃破から丁度一週間。

 

「で、あれだけ派手に暴れまわったってのに深海棲艦の死体や上官殿の情けない命令と行動の証拠を隠滅で事件そのものが無かったことにされたと、アホか・・・」

「だが、アレのおかげで千切れる予定だった俺たちの首の皮が繋がったとも言えるな。何せ海将を含めた上級将校数人分の弱みって言うのは中々に使えるネタだ」

 

 東京湾に面する艦娘の研究と開発を行う鎮守府の一画に設置されたベンチに強い湿布の臭いを漂わせる中村と少し間を開けて隣に座る田中の姿があった。

 二人は不満そうな顔と愉快そうに笑う顔と言う対照的な表情を浮かべる。

 

 東京湾の入り口に作られた長大な防壁は海水の浸食劣化と一部の設計ミスによる破損。

 政府の主導する避難誘導によって海岸に近い危険区への民間人の出入りは禁止されている為に人の目はほぼ無いため、当事者たちが口を噤めば情報規制は問題無く。

 吹雪が撃破した深海棲艦の遺骸は政府直轄の研究機関へと一部が回収されて他は焼却や破砕処分の後に外洋へと投棄された。

 

「・・・しかし、まさか、お前が吹いた大法螺が本当になるとは思ってもみなかったぞ?」

 

 まさか、今まで政治的に利用できると言うだけで政治家も自衛隊も役立たずだと思っていた可愛い女の子にしか見えない欠陥兵器と揶揄される艦娘。

 そんな彼女が物理学と常識に正面からケンカを売る様なとんでもない能力を発揮するとは誰一人として想像もしていなかった。

 そう、前世の記憶を頼りに努力と口八丁手八丁で艦娘の司令官に収まった青年達ですらこんな形で艦娘が力を発揮するとは考えていなかったのだ。

 

「俺だって予想外だっての、司令官が巨大化した艦娘に乗り込んで戦うってどこの機動戦記だよ・・・」

「主任に頼んで額にくっ付けるV字角でも作って貰えばらしくなるな」

「吹雪が持ってるのは斧だからむしろ一本角じゃね?」

 

 そもそも兵器に乗り込んで直接戦うのは指揮官では無くパイロットと言うべきだとウンザリしたような顔で指摘する中村に田中はクックッと小さく笑いを漏らす。

 鎮守府の閉鎖が全くの無駄足になった青年は初戦闘で時速720kmの世界を体験して急激な慣性運動に振り回されて痣だらけになり未だに大量の湿布で治療を続けている友人の姿を愉快そうな顔で見る。

 

「他人事みたいに笑ってるがな、あの子達はお前も司令官の一人として当然戦場について来てくれるモンだと思い込んでるぞ?」

「・・・いや、俺は事務とか交渉なんかの担当であってだな、俺が作戦を立ててお前が実行ってのが昔からのっ、!?」

 

 恨みがましい目つきで見上げてくる中村の言葉に笑顔を引きつらせた田中はあらぬ方向へと視線を向けて言い訳を垂れ流していた。

 そんなベンチに座っている彼の背後から伸びてきた細い手が彼の首に巻き付くように抱き付いてそれ以上の言葉をせき止める。

 片手に黒い手袋を付けた腕と共に長い三つ編みと烏羽色の黒髪が垂れた前髪がずいっと肩越しに突き出され、真横から青い瞳の美少女が田中の顔を覗き込んできた。

 

「楽しそうだね、提督、僕も話に混ぜてもらいたいな?」

「し、時雨、いや大した話じゃないんだ、まぁ、昔こいつとバカやってた頃の話を少しばかりな、それと俺は階級的に言って提督じゃないぞっ」

「バカって言うなよ、ちょっと前世の学歴が良いからって調子に乗って高校の数学で俺に負けたくせによぉ」

「あれはただ計算ミスが重なっただけだ! そも何年前の話を引っ張てくるんだ、いい加減に一回勝っただけで調子に乗った言い方は止めろ!」

 

 白露型と呼ばれる駆逐艦の二番艦、どこか中性的な雰囲気を纏っている時雨は田中に懐いた様子を隠すことなく彼の背中へともたれ掛かる。

 黒地に赤いリボンタイが鮮やかな白い襟と袖のセーラー服と顔の真横で揺れる黒い三つ編みが石鹸の爽やかな香りを彼の鼻へと届けた。

 

「昔って提督たちの前世の世界の話かな、僕もその話ならすごく興味があるよ」

「・・・あんまり他の連中には言わんでくれよ。俺らはともかくお前達まで変人扱いされるぞ?」

 

 特に口止めをしていなかった事と実際に中村が吹いた法螺が現実のモノとなってしまった事で彼から前世の世界で活躍したと言う艦娘達の話を聞いていた吹雪はその全てを信じ切ってしまい。

 それが原因となってあの事件の後にクレイドルから目覚めた艦娘達にも吹雪はその話を誇らしげに言って聞かせてしまっている。

 

「俺らってなんだよ、言い出したのお前だけじゃないか」

「僕らが普通じゃないのは今さらだと思うけど、二人にとって都合が悪いならそれに従うよ」

 

 その話を知らない他の自衛隊員にとって中村と田中は頭の出来と優秀さはともかく性格と行動が残念な男達である事は変わらない。

 だが、艦娘達にとっては異なる世界からやってきて自分達と共に日本を守るために立ち上がった勇気ある指揮官へとなってしまっている。

 

「提督たちの話を聞いた主任さん達は僕らの研究がまた一歩進んだって嬉しそうにしてたんだけどね」

 

 さらに艦娘達から鎮守府の研究員にまで伝わったその話にほとんどの人員は半信半疑ではあったが実際に巨大化した吹雪や彼女が戦う姿をその場に居合わせて目撃した主任はかなり彼らの話への興味を強めていた。

 

「あくまで俺達が知っているのは前世の世界の話であって、ココとは事情が違うかもしれない、だから俺達の話が正しいか間違ってるかは関係なく確定していない情報はばら撒くべきじゃないんだ」

「そうそう、あれだ。何か致命的なズレとかあったら困るだろ? 良介が言うようにそういう事なんだよ」

 

 そんなわけで図らずも肥大化した艦娘達からの重すぎる信頼感に新人自衛官の二人は虚勢と話術で何とか司令官としての威厳を取り繕っていた。

 

「なら、それ以外の提督の話を教えて欲しいなっ♪」

「そ、そんなにくっ付くんじゃない、女の子がはしたないぞっ!」

 

 息がかかるほど間近で甘える様に囁く時雨の頬がムニッと柔らかく瑞々しい感触と共に田中の頬に押し付けられた。

 瞬間、声を上ずらせた田中は跳ね上がるように彼女の手から逃れてベンチから立ち上がり背後にいた駆逐艦娘へと向き直って意味も無く白い士官服の襟元を整え帽子を弄る。

 

「なにキョドってんだよ、前世合わせたら米寿になる奴が中学生ぐらいの相手に情けない。これだからロリコンは」

 

 そんな相棒の情けない姿に呆れ顔を向けて中村は顔の半分を片手で覆い大げさに頭を振って呟き、その言葉に田中は不機嫌そうにへの字に口を歪ませた。

 

「ロリコンじゃない! なら吹雪に同じことされてもそのセリフがお前に言えるのか?」

「いや、吹雪は明らかに田舎育ちの親戚の子供とかそんな感じだろ、興奮する方がおかしい相手じゃないか?」

「・・・中村三佐、今のは聞かなかった事にしてあげるけど吹雪の前でそんな事言っちゃダメだよ?」

 

 反撃のように放たれた田中のセリフに中村はまるで意味が分からないと言った顔を見せ、その様子に今度は時雨が呆れ顔を浮かべて頭を振り子供の間違いを正して言って聞かせるように忠告する。

 

「ところで時雨は何でここに? 確か今の俺たちは開店休業だから艦娘も訓練か待機中だろ」

「散々こき使ってきた癖に都合の悪い大戦果は無かったことにする。その為の時間稼ぎ、全て基地司令部の都合だけどね」

「それに一枚噛んで基地の権限に食い込んで見せた奴が何言ってんだよ」

 

 太平洋上で散発する深海棲艦の襲撃は日本にとって東側のシーレーンを脅かすモノではあるがユーラシアや中東アジアを迂回するルートは今のところ問題無く使える。

 漁業および海運系業界に痛烈な打撃を与えはしたが日本全体の物価はやや上昇した程度に収まっている。

 近い将来にはシーレーンが崩壊すると言う事実を知る者にとっては薄氷の上にある平和を享受している今日の日本はなんておめでたい国なのだろうと愚痴の一つや二つも吐くだろう。

 

 その裏では鎮守府が運用開始されてから既に三年、その間に四百人以上の艦娘が現代へと目覚め。

 その悉くが頭の中身と道徳観の軽い指揮官の命令で民間船から敵を引き離す囮として使われ実力の一割も発揮できずに海の藻屑となった。

 

「将来的には本土が戦場になりかねないって状態なのに悠長な話だね、深海棲艦にはこの前の奴らよりもっと強力な個体が山ほどいるんだよね? 相談とか助言を貰いたいって皆で二人を探してたんだ、暇なら付き合ってくれないかな?」

 

 そして、ある者は霊核となって、またある者は蘇生不全を起こして再び鎮守府の中で長い眠りに就いている。

 この計画に賛同した政治家ですらそのほとんどが艦娘と言う存在に見切りをつけて責任を全て引っ被らせる態の良いスケープゴートを求めているような状態だった。

 

「・・・さっきも言ったけどあくまで俺達のいた世界の話であって全部コッチの世界と同じとは限らんからな? 吹雪みたいに鵜呑みにはしないでくれよ?」

「提督も中村三佐も前の世界では民間人だったなら軍事機密とか知らない事が多くても仕方ない思うけどね、それでも僕らよりも僕らの事を知ってくれてる人が居るのはとっても心強いよ」

 

 言い訳がましい物言いで責任問題をはぐらかそうとする中村だったが友好的で朗らかな笑顔を見せる時雨の姿に何も言えず閉口して湿布塗れの臭い身体をベンチから立ち上がらせる。

 前世の記憶に頼り切り自分から飛び込んだ落とし穴の底で責任を逃れたい上層部や政治家の思惑通りにスケープゴートにされた二人の新米司令官は当初の思惑とは少し違いはあれど艦娘との友好的な関係を作ることに成功していた。

 

「ところで義男、お前結局どの艦娘が好みなんだ?」

 

 艦娘への好み云々の話で散々にいじられた田中は友人が特に好んでいる相手を知らない事に気付き。

 自分達の前を歩く時雨に聞かれない程度まで絞った囁き声で真横を行く中村に問いかけた。

 

「ロリコンのお前には分らんだろうが素直で可愛くてオッパイがでっかい娘だな」

「だからっ俺はロリコンじゃないよ」

 

 艦娘達が待っていると言う場所へと先導する時雨の後を並んで歩きながら両手を意味深にワキワキ動かし軽口を叩いた中村が白目を剥いて路上に引っくり返る。

 

「高雄とか榛名とか特に、良いぃったぁ!?」

「え? ・・・義男?」

 

 そんな友の姿に驚き硬直した田中は突然にゴツンと硬い何かに脛を叩かれ中村と同じく、無様に路上に崩れ落ちてむさ苦しい悶え声を上げた。

 

「うわぅっぐぉっ!? 時雨、何で、俺まで・・・」

「君達には失望したよ・・・少しそこで反省してくれないかな?」

 

 さっきまで朗らかな笑みを浮かべていた中性的な雰囲気の美少女は履いている革靴の爪先で地面をトントンと軽く突き。

 氷の様に冷たい視線で路上でのたうつ男どもを見下ろしながらそんなセリフを吐き捨てた。

 

 




吹雪がザ〇なら時雨はガ〇キャノン。
異論は認める。
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