艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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おひるの時間です。


給油艦h「今日の御献立は親子丼定食と鯖味噌定食ですよ~」
駆逐艦y「ごはんっ♪ ごはん~♪」

空母a「この献立、非常に迷いますね・・・」
空母k「ええ、どちらも捨てがたいです・・・」

駆逐艦y「ぽぃ~・・・」
軽空母r「そこの赤青コンビ! さっさと選びいや! 後ろ待っとる子おるやろ!」



第四十二話

「さて、今日お前達に集まって貰ったのは他でもない。我々、戦艦娘の運用をどう改善していくかを議論する為だ」

 

 昼食のピークとなり賑わう大食堂のテーブルの前で腕を組み、長門型戦艦の一番艦が厳しい表情でそんな話題を切り出す。

 

「集まった・・・? 何言ってるのよ、たまたま同じ時間に食事をとってるだけじゃない」

 

 その長門のすぐ横で空っぽになった丼の乗ったお盆へと箸をそろえて置き口元をナプキンで拭いている長門型戦艦二番艦である陸奥の指摘に小さく口を尖らせて無視した同型の姉は同じテーブルに掛けている戦艦に分類される艦娘達を見回した。

 

「それに改善って別にあたし達、前ほど出撃は制限されてないじゃない」

「ええ、日本海側はともかく、少なくとも太平洋側でなら他の艦種と編成条件はほとんど変わらないはずだわ、それとも長門は殲滅戦形態が必要になる様な戦場を求めているの?」

 

 短いポニーテールを揺らして親子丼を頬張っている伊勢型戦艦一番艦を原型に持つ伊勢の言葉に食後のお茶を嗜んでいる一見して巫女服にしか見えない制服を纏った戦艦が頷き同意する。

 

「そう言う事ではない、我々の運用にとって必要不可欠な要素が司令部の提示する編成方針には欠けていると言いたいのだ」

「必要不可欠な要素?」

「ふっ、なるほどな、流石は長門型、慧眼を持っていると言う事か」

 

 編成の運用だの方針だのと小難しい事を言い出した長門にその場にいた戦艦達は首を傾げ、長門以外では一人だけ伊勢の妹である日向だけが首をひねる事無く訳知り顔で腕を組み頷いていた。

 

「おお、日向、分かるか!」

 

 あまりにも賛同が無い事に自分の考えが独りよがりであったかもしないと少し不安になりそうになった長門は表情を明るくして妙な自信を醸し出している日向へと身を乗り出す。

 

「我々、戦艦に必要な要素、則ち・・・瑞雲だな?」

「・・・お前は何を言っているんだ?」

「索敵、先制爆撃、着弾観測を可能とする水上戦闘機こそ遠距離を主戦場とする我々に必要不可欠な要素だ」

 

 鯖みそ定食を食べている伊勢型の次女が食堂と言う場所には相応しくない鉄の塊を付けた左腕で天井を指し妙な事を言い出し、その様子に喜びに肩透かしを食らわされた長門がげんなりとした顔を浮かべる。

 

「そして、この新型カタパルトによって運用できる瑞雲こそが我々戦艦娘の未来を確約すると言っても過言ではない。・・・長門はそう言いたいのではないのか?」

「・・・って、日向、それ模型じゃなくて本物じゃないっ! あんた、運用試験中の装備をなんで勝手に持ち出してるのよ!?」

「むっ、何を言っている伊勢、私はこれを常日頃から身に着け身体に馴染ませることで航空戦艦としての練度を上げなければならないんだ」

 

 その二人のせいで妙な方向へと転がり始めた会話の内容に頭痛がしてきたような感覚に長門は額に手を当てて口論を始めた伊勢型姉妹から他の戦艦へと視線を向ける。

 

「ふぅ・・・長門、貴女が言いたいのは現在の編成時に大型艦と小型艦を別部隊で運用する方針を司令部が広めている問題を指しているのでしょう?」

「お、おおっ! その通りだ、速力が決定的に遅い我々とその欠点を補う駆逐艦を別艦隊として運用する事はあまりにも非効率である事は明白! 直ちに司令部へと反対を提言せねばならないのだ!」

 

 ティーカップを上品にソーサーへと戻して巫女服の戦艦娘が呆れを滲ませた調子で長門が言わんとしていた内容をぴたりと言い当て、自分以外にもそれに思い至っていた仲間がいる事に彼女は安堵と喜びに顔を輝かせる。

 

「お姉様、おかわりはいかがですか?」

「ええ、比叡ありがとう、お願いするわ」

 

 しかし、長門の興奮をまるで無視して妹が持つポットから注がれる温かい紅茶の香に微笑む金剛型の長女、その優雅な淑女を思わせる姿にその場にいた半数以上が妙にむず痒いモノを感じているような顔をする。

 

「霧島、・・・金剛御姉様はどうされたのでしょう、もしかしてお加減が悪いのでしょうか?」

「私の分析によると、朝の挨拶に向かった執務室に田中提督がおられなかった事が原因かと・・・」

 

 金剛の妹艦娘である榛名と霧島がこそこそと耳打ちをし合い、あらあらと首を傾げながら陸奥が癖毛の明るい茶髪を揺らす。

 

「ふむ? 金剛、無理は良くないな」

「はい? 無理とは何のことかしら?」

「いや、うん、何か悩みがあるなら相談に乗るわよ?」

 

 装備を返しに行け、絶対に嫌だ、と押し問答をしていた伊勢と日向までもが妙な雰囲気を察して静まり、図らずもその静まりの中心になっている金剛へと声を掛ける。

 

「お前達、金剛がどうかしたのか? いや、それよりも今は艦隊編成についてだな」

「・・・長門、今の金剛が変だと思わないの?」

「は? 変とは何のことだ、いつも通りの金剛ではないか」

 

 陸奥の問いかけに長門は問いの意味が分からないと言う言葉と表情を返し、妹戦艦は人差し指を自分の口元に添えて少し考えを巡らせながら周囲の視線に対して我関せずと言う態度で紅茶を嗜んでいる金剛とそのすぐ横で満面の笑みを浮かべて付き従っている比叡を見つめる。

 

「いつものって長門・・・金剛って何て言うか、もっと愉快な感じでしょ?」

「・・・愉快? 金剛が? ・・・ああ! なんだあれの事か」

 

 妹からの言葉に首を傾げ、大人しく食後の紅茶を嗜んでいる金剛に注目している周囲を見回した長門はたっぷり数秒の思考の後に拳で手の平を打つ。

 

「お二人共、愉快とかあれとか、その言い方はお姉様に対して失礼ではありませんかっ!」

「比叡、止しなさい、はしたないわよ」

「ですがっ、金剛お姉様、む、むぅ・・・」

 

 微妙に含むものがある言い回しで陸奥に愉快な感じと評された金剛本人は片眉を小さくぴくりと動かすだけに止め、敬愛する姉が暗に貶されていると感じた比叡が顔を顰めて長門型姉妹に噛み付くような勢いで口を開くが直後に姉に手で制されてすぐさま口を噤んだ。

 

「ふむ、あれは単に金剛が素面では惚れた男の前で喋れなくなってしまうから照れ隠しで道化になり切っているだけだ」

「んぐっ、ごほっ!? ちょっと、長門! なんて事を言うの!?」

「いや、あれをそれ以外にどう言えと言うんだ?」

「言い方もそうですが、アナタは他人のprivacy(プライバシー)にはもっと気を配るべきデース!!」

 

 本当にどうでも良い話題で時間を盗られたと言う顔で溜息を吐いた長門に対して先ほどの落ち着いた態度が一変した金剛がテーブルを叩いて立ち上がり、隣に座っていた比叡がそれの動きに合わせてすぐさま姉の座っていた椅子を邪魔にならないように引く。

 

「だから、こんなどうでも良いことよりもまずは艦隊編成に関する議論をだな・・・」

「どうでも良くないヨ! よりにもよってワタシをピエロ扱いするなんてすっごく失礼ネ!」

「・・・そうか、すまん・・・だが、ん?」

 

 紅茶の湯気が揺れるティーカップが置かれた席を立ち眉を吊り上げた金剛が長門に詰め寄り、その剣幕に圧倒されかけた自称ビッグセブンは妙な違和感に小さく首を傾げた。

 

「そもそも、駆逐艦の子なら今いる指揮官全員の指揮下にいるヨ! よっぽどCommander(指揮官)Stupid(マヌケ)じゃないならそんなProblem(問題)なんて悩む必要はnothig(要らない)デース!!」

「お、おい金剛? ・・・あぁ、なるほど」

 

 先ほどまでの落ち着きが幻だったのか気炎を上げて鋭く人差し指を突き刺すように胸に突きつけてくる金剛に圧倒されて椅子の上に尻餅をついて仰け反った長門は妙に発音の良い英単語を混ぜエセ外国人じみた滑稽にも感じるイントネーションへと言葉遣いが変わった金剛型の長女の姿に何かを察する。

 そして、金剛の正しく豹変と言ってもいい変化にその場にいる戦艦たちは目を瞬かせ、長門の次に何かに思い至った比叡がムッと眉を顰めて椅子から立ち上がり周囲を見回した。

 

「君達、賑やかなところ悪いんだけど、少し割り込ませてもらって構わないかな?」

「What!? ァ・・・Wow! テイトクゥ♪」

 

 テーブル越しに長門へ人差し指を突き付けていた金剛が背後から掛けられた男性の声にピクリと小さく肩を震わせて腕を引っ込め、あっと言う間に居住まいと呼吸を整えて声が聞こえた背後へと振り向く。

 

「もしかしてワタシに会いに来てくれたノー? とっても嬉しいネ!」

「あ、いや、そう言うわけじゃないんだが、金剛は食事中じゃないのかな?」

「oh、もう食べ終わっちゃったヨ、もしかしてテイトクは今からlunch(ランチ)ですカー?」

 

 さっきまで激した剣幕が消え入れ替わるように満面の笑みを浮かべた金剛は振り返った先にいた白い士官服の青年へと素早く近寄り、彼の腕へと両手で抱き付き頬を朱に染めた積極的な態度で身体を摺り寄せる。

 

「そ、そう言うわけじゃないんだ、・・・とりあえず、腕を放してくれると助かるんだけど」

「ぇ~、減るものじゃないデショ~? 何がダメなノ~? ネー♪」

「頼むよ・・・その、あれがだな・・・当たっててだな・・・」

 

 誰もが一目見れば分かるほど金剛の熱を上げて媚びを売る態度に少し表情を引き攣らせた海自の特務士官、田中良介はどこは言わないが女性特有の魅力を押し付けてくる戦艦娘へぎこちなく上擦った声でやんわりと腕を解いて欲しいと頼む。

 

「あぁ、えっとだ・・・それに用があるのはそっちの伊勢と日向になんだよ、艦隊運営に関することなんだ」

「エ~、ワタシとお話するよりも大事な用なノ?」

「本当に頼むよ、金剛、離してくれ」

「ウゥ~、仕方ないネ・・・」

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべ顔の前で手の平を立てて頭を下げる田中の姿に少し不満そうにしながら金剛はしぶしぶ抱きしめていた腕を解き、自分の席へと座り直し彼が用があると言っていた戦艦姉妹へと不満そうな顔を向ける。

 

「ああ、君か、私達に何か用なのか?」

「もうっ! 日向、もうちょっと丁寧に喋りなさいよ・・・ゴメンね? 提督」

 

 いつも何を考えているか分からない無表情をしている日向が薄く微笑み鷹揚な態度で迎え、その無礼にも見える態度を軽く注意しながら妹とは対照的に伊勢は愛想の良い笑みを浮かべる。

 

「構わないよ、それで用と言うのは、だ・・・君等が勝手に持ち出した装備を返却して貰いたいんだよ」

 

 田中がそう言った瞬間、伊勢は笑顔を強張らせて明後日の方向へと視線を反らし、日向は椅子に座ったまま器用に身体の向きをスススッと動かし始める。

 が、彼女が向いた方向には三つ編みにした烏羽髪を揺らす駆逐艦娘が笑顔で立ち塞がっていた。

 

「提督のこと、困らせないでくれるかな?」

「ふっ・・・まぁ、こうなるか」

 

 にっこりと中性的な笑みを浮かべ黒髪の上で金細工の髪飾りをシャラリと揺らす時雨の姿に日向はふっと力を抜いた笑みを返して身体の向きを田中の方へと戻していく。

 

「What!? 日向だけじゃなくて伊勢も装備を持ち出してましたカ?」

「そう言えばそうだ、さっきは私ばかりを責めていたのにどう言う事なんだ、伊勢」

「いや~、これは何て言うか・・・」

 

 汗を顔に浮かべ気まずそう頬を掻く伊勢型戦艦一番艦を良く見れば椅子に座っているその腰にはシンプルなデザインの軍刀に見える長物があった。

 その鞘から伸びる増設装備の特徴とも言える細いケーブルが伊勢の服の中へと入り込んでいる。

 

「で、出来心だったのよ! だってあたしは戦艦なのよっ!? それなのに丸腰なんて箔が付かないじゃない~!!」

「うむ・・・、確かにそれも一理あるか」

 

 いや、何を言ってるんだこの姉妹は、とそのテーブルにいる戦艦娘達だけでなく周りで昼食を摂っていた他艦娘までもが目を丸くして伊勢型戦艦の二人へと視線を向けて心を一つにする。

 

「いや、君らね・・・圧縮状態の装備は完全に機能停止してるんだからただの重りにしかならないし、そもそもそれは私物じゃなくて鎮守府の備品なんだ」

「え~、倉庫に山ほどあるんだから一本ぐらいいいじゃない~」

「俺には規則を破ってまで抜けない剣や鉄の重りを身に付けるメリットの方が分からないよ」

 

 ある艦娘が自分の身体に備えた増設端子の全てに軽巡に標準装備されている刀剣型の近接武装を解析して作った武器を装備すると言う血迷った試みを思いつき。

 それに何故か共感した鎮守府の研究員達によって刃渡り10m前後、総数26本分の巨大な刀のみを開発する為に資材と資金が浪費されると言う事件が起きる。

 

 件の艦娘はそれらを全て装備する事は出来たが、装備した武装の重量で航行はおろか歩くのも一苦労な上に装備した刀に基本の艤装が干渉して主砲や雷装が使用不能となる不具合が発覚。

 そして、やる前から分かり切っていた結果ではあるが超接近戦巡洋艦と言う常人には理解し難い夕張の夢は泡と消える事になった。

 

 基本装備の刀剣よりも劣る予備を装備するぐらいなら魚雷や連装砲を求める軽巡。

 敵の障壁を切断出来るとは言え重りになる代物よりも加速を増強する予備推進機を欲しがる駆逐艦。

 そもそも遠距離戦闘を前提とした艦種能力に特化している為に格闘戦の必要が無い重巡、戦艦。

 空母と潜水艦に至っては活動領域の特殊性と自分達の元から持っている装備と能力で遠近両用の戦闘をこなしてしまう為に増設装備そのものをあまり必要としない。

 

 そんな事情もあり研究室の独断で製造された26本の巨大な刃物は他の艦娘が求めるニーズに合わず鎮守府の倉庫で不良在庫となっている。

 しかし、誰も使わないと言っても勝手に持ち出していいと言う事にはならないのは常識なのは言うまでもない。

 

「何を言う、これはすでに私の身体の一部と言っても過言ではないぞ?」

 

 日向の腕のカタパルトに関しても空母艦娘の装備の劣化コピーでしかなく。

 さらに複数の不具合が確認され設計の修正がされるまで鎮守府の工廠に保管されることになっているはずの代物であり、一艦娘が独断で持ち出せる装備ではないはずだった。

 

「はぁぁ・・・たまに装備を外したくないとか言い出す艦娘はいるけど、ホントに無許可で持ち出したのは君等が初めてだよ」

「許可って言うなら主任に試してみたいって言ったら着けてくれたから良いと思ったの、でも、日向と違って私は銀蝿するつもりは無いし、後で返そうと思ってたわよ?」

「私とは違うとはなんだ? 私だってそのつもりだった。まるで人の事を盗人と言うようじゃないか、そんな物言いをして戦艦として恥ずかしくないのか?」

 

 また五十歩百歩な会話を始めようとする二人の戦艦娘に向かって田中は大袈裟な溜め息を吐く。

 

「いい加減にしないか、君達・・・はぁ、と言うかまた主任達の甘やかしのせいなのか」

 

 すると自分の罪の所在を誤魔化す為に口論を再開しようとしていた伊勢と日向が不思議なほど簡単に黙って少し気まずそうに上目遣いで田中の顔色を窺う。

 

「二人とも装備を取り外すから今から港湾まで来てもらう、良いね?」

「は~い・・・ごめんなさい、提督」

「まぁ、君がそこまで言うなら仕方ないな・・・」

 

 その穏やかながらも拒否を許さないと断言する田中の命令に伊勢と日向が観念したように揃って項垂れてそれぞれの口から了解の返事がこぼれる。

 だが、項垂れる伊勢型戦艦の表情が正面に座る金剛の目に止まった、その一瞬、伊勢の顔にどこか得意気と言うべきか、隠していた目的を達成したと勝ち誇る様な色が見えた。

 

 金剛の脳裏に電流が走る。

 

 悪意は無くわざとでもない、ただ研究室の主任の許可があったと勘違いしていただけ、隣の妹の方は確信犯であるが自分は違う、などと規則を蔑ろにする様な事を伊勢は悪びれなく喚いた。

 なのにその直後には手の平を反すように田中からの命令へ従順な態度で従い自分は貴方の忠実な部下です、とでも言う露骨な態度を見せる。

 

(まさかっ!? 伊勢もテイトクのBestlover(秘書艦)を狙ってるデスカ!? そうだとしたら、彼女が自らの共犯に仕立て上げる為に元からカタパルトを欲しがっていた日向を唆した可能性もありえる!)

 

 田中に対して並外れた強い恋慕を抱えているからこそ、その一瞬で金剛は目の前の姉妹が先ほどやってきた寸劇の様な口論が周囲に自分達の居場所を知らしめ意中の相手を引き寄せる為に伊勢が画策した作戦であったのだと気付く。

 

(持ち出した物も不良在庫だから過去の負い目で艦娘に甘い研究室からは口頭注意のみで放免されるのが目に見えている、あまつさえ『装備を外すなら貴方が乗ってくれなきゃ、や~だ』と提督の艦隊へ加入登録をおねだりする事まで可能!! なんて知謀なの!?)

 

 わざとらしさを感じるほど従順な態度で田中に付いていく伊勢が不意に彼の袖を軽く摘まむように握った。

 

「何てうらやま・・・破廉恥な!!」

 

 そのいじらしい姿を目撃した金剛が目を見開きテーブルに手を叩き付けて足まで乗せ。

 

「金剛お姉様!? いきなりどうしたんですか!?」

「こんな所でお茶を飲んでいる場合じゃないわ! 私も工廠に向かわなければなりません!!」

 

 そのまま食堂の出口を睨み据えながら机を踏み台にして跳ぼうとしている姿に驚いた比叡が慌てながらも素早く姉の腰へと抱き付く。

 

「きゃっ! この、放しなさい比叡、私は今から明石を、工廠に向かわねばならないのです!」

「だからどうしたって言うんですか!? 落ち着いてくださいよぉっ!」

「・・・なるほど、私の計測が正しいなら金剛お姉様は半径20mに田中司令が近づく事でご乱心されると言う事ですね、興味深い」

「霧島、妙な事を分析していないでお姉様を落ち着かせるのを手伝って! 榛名が今お助けします、比叡姉様はそのまま腰を!」

 

 食堂から去っていった田中と伊勢達を見送った戦艦娘が固まって座っている一画で騒ぎ出す金剛型姉妹、そして、その慌ただしさに議論どころではなくなったと呟いた長門が眉を顰めつつ食べ終わった食器の乗ったお盆を手に立ち上がって食器返却所へと向かう。

 そんなしかめっ面の姉に苦笑しながら陸奥もテーブルを立ち、田中の気を惹きたいが為に規則違反を犯しかねない状態となっている金剛を取り押さえた妹達がわっせわっせと姉を食堂の外へと運び出して行き。

 

 そうして一時的に沸騰した賑やかさもお昼のピークを過ぎた事もあって艦娘寮の一階にある広いスペースは次第に静かになっていった。

 

「はぁ・・・不幸だわ・・・」

 

 客足が減り静けさが広がり始めた食堂のテーブルの上、さっきまで戦艦娘が集まっていた食卓に一人の戦艦が陰鬱な感情を吐き出しながら味噌で程よく煮込まれた鯖を食べるわけでもなく無為に箸先でつつく。

 

(私が目覚めてからずっと辛そうに、山城・・・一体どうしたと言うの・・・? 私は貴女に何をしてあげられるの・・・?)

 

 その様子にため息を吐いている艦娘と同じ巫女衣装に見える制服を纏っている美女が憂いに沈む妹の様子に心を痛めているが、しかし、どうすれば相手を慰められるのか分からずもどかし気に鯖味噌の味がするお箸を噛む。

 さっきまでは長門の妙な騒がしさや伊勢型姉妹の犯行に驚かされたりしていたお陰で気が紛れていたが、それが落ち着いたせいでまた妹が何かを気に病んでいる事を感じた扶桑は表情を曇らせる。

 

「扶桑、隣に座っても良いかい?」

「え? ええ、どうぞ、時雨は今から食べるのかしら?」

 

 つい一カ月ほど前に艦娘として目覚めてから度々、慣れない現代の生活に対する助言や手助けをしてくれる駆逐艦娘に扶桑は頷きを返し、隣の席に座る時雨の姿に少しだけ表情を明るくした。

 

「うん、朝から提督と一緒に装備泥棒を探してたからね、鎮守府を隈なく探したつもりだったけどまさか犯人が堂々と食堂でご飯を食べてるとは思わなかったよ」

 

 先ほど日向の前に立っていた時には無かった親子丼と味噌汁のセットが乗ったお盆をいつの間にか用意してきた時雨は朗らかな笑みを浮かべてテーブルの上にある箸立てから割り箸を手に取る。

 

「それは大変だったのね」

「そうでも無いよ、でも、最近はさっきみたいな羽目を外して妙な事件を起こしちゃう子が多い気がするな」

「そうなの?」

「うん、少し前まではこう言う事件は中村三佐、じゃなくて中村二佐が原因だったんだけどね、鎮守府に妙な噂を流したり酒保に変な商品を仕入れたりさ」

 

 扶桑は朗らかに笑っている時雨の言った中村二佐と言う名前に心当たりが無く首を傾げた。

 この鎮守府で二佐と言えば扶桑の記憶するところでは先ほど伊勢達を連れて行った田中だけのはずである。

 

「ちょっと事情があって今は少し遠い所で任務に就いている人なんだ・・・今年の春頃に昇進の辞令と同時に鎮守府から離れちゃったから扶桑が知らないのも無理は無いよ」

「・・・もしかして、日本海に現れたと言う深海棲艦の討伐作戦の関係かしら?」

「うん、いろいろあってね、僕としては二佐の判断と行動は間違ってなかったと思うんだけど上層部とはちょっとごたごたがあったみたい」

 

 その言葉を濁す時雨の言い方に先代の自分が戦いの末に果てたと言う大規模作戦で何かしら自衛隊の上層部とその指揮官の間で軋轢が起こったのではと予想した扶桑は部外者である自分がそれ以上の事を聞くのは止そうと口を噤む。

 

「ところで山城、ご飯が冷めちゃってるよ、どうしたんだい?」

「・・・あぁ、時雨、何でもないのよ、ええ、何でもないの・・・ただ私が勝手に自分の無力さを思い知っているだけよ」

 

 話しかけてきた時雨へとぎこちない笑みを浮かべて返事を返した山城の姿に目を見開いた扶桑はのっぴきならない事情を抱えているらしい妹へと迂闊に踏み込んで行く駆逐艦の姿にハラハラと気をもむ。

 自分よりも先に鎮守府に戻っていた二人の艦娘の間にどれだけの交友関係があるのかはまだ艦娘としての経験が少ない扶桑には想像できないが、時雨の髪を飾る自分や山城と同じデザインの髪飾りから過去の自分とも強い絆を結んでいたのは間違いないだろうと彼女は予想していた。

 

「ああ、もしかして・・・扶桑の事かい? そう言えばもうそろそろだね」

「し、時雨っ!? な、なんて事をっ!」

 

 親子丼の丼を片手に軽い口調で時雨が呟いた言葉に扶桑は背筋を慄かせる。

 おそらく、否、確実に隣の駆逐艦が言った扶桑の名は自分ではなく先代の事を指しているのだと今の扶桑でも気付けた。

 同時にそれは姉を失って間もないはずの山城へとかけていい言葉ではないと扶桑は目を白黒させて慌て。

 

「ええ・・・もうそろそろなのよ・・・なのに私は姉様を励ます事も、見守る事も出来ない・・・あぁ、不幸だわ・・・」

「大丈夫だよ、この前の電話では赤ちゃんも順調に育ってるって言ってたじゃないか、良い先生にもついて貰ってるらしいから僕らは心配しなくて良いんだよ」

「それは分かってるのよ・・・分かってるんだけどぉ、心配なのよぉ・・・」

 

 箸をテーブルに置いて両手で顔を覆い何やら深刻そうに昏い声を漏らしている山城とその様子を苦笑して眺める時雨の姿に扶桑は自分の感覚と二人の間に何かしらのズレがある様に感じた。

 

「ね、ねえ・・・二人とも、ちょっと良いかしら?」

「はい、姉様、なんでしょうか?」

「扶桑、どうかしたの?」

 

 恐る恐る自分が感じた違和感への答えを求めて扶桑は意を決し、山城と時雨へと疑問を投げかける。

 

「・・・その、さっきの言い方だと・・・なんだか先代の扶桑が今も生きているように聞こえたのだけど・・・?」

「はい? ええ、先代の扶桑姉様なら生きておられます。 今は大木芙蓉と言う名前で一般人として生活されてますが」

「あれ? 扶桑は司令部の方から聞いてなかったの? あ、でも・・・そうか、あの作戦自体が機密事項だったせいかな」

 

 まるで知っていて当然の情報とでも言う様に告げられた自分にとって先代である扶桑が存命していると言う話に白目を剥きそうになった戦艦娘は額を押さえて何とか精神的衝撃に耐えた。

 

「時雨、私の聞き間違いじゃなければ扶桑の名前と一緒に・・・さっき赤ちゃんがどうとか、言わなかった?」

「あっ、あ~そうか、うん・・・えっとどう言えばいいんだろう? 扶桑、落ち着いて聞いてよ?」

 

 勿体ぶったと言うよりは自分を心配する様に気遣う思いを感じる時雨の態度と言葉に首が座らずにグラグラ揺れる頭を扶桑は何とか縦に頷かせる。

 そして、事の顛末を知る駆逐艦が先代の扶桑の身に何があったのかを掻い摘んで説明し始めた。

 

「それで、その・・・前の扶桑は退役後に大木裕介さんって言う人と結婚してさ、二人にはもうすぐ赤ちゃんも生まれるらしいんだ」

 

 その言葉が告げられたと同時に扶桑の視界が暗転してその額に硬いモノがぶつかり、ビシリッと言う音と同時に戦艦娘の頭突きによって罪の無い食堂のテーブルに丸い陥没が刻まれ。

 長く艶やかな黒髪が広がる食卓にパラパラと霊力の光粒が散らばりチリチリと空気に溶けていく。

 

「ふ、扶桑姉様! どうされたんですか!?」

「ふふふっ、ふふ・・・私にも分からないわ、コレはどう言う事なの・・・?」

 

 自分の先代が春先に起こった大規模作戦後に鎮守府を去ったのだと聞かされ、自分の先代はその任務で殉職したのだと思い込んでいた扶桑は山城と時雨から告げられた言葉の衝撃に抗えず、ただ脱力して割れたテーブルに向かって乾いた笑いを漏らす事しかできなかった。

 

 てっきり時雨の付けている髪飾りは先代の扶桑から死に際に渡された形見か何かで、出会ってから敬愛を捧げてくれるものの時折酷く陰鬱に表情を暗くする妹はまだ前の姉の死から立ち直れないでいる。

 

 そう思い込んで相手との距離感を掴めずにいた扶桑はそれが全て自分の勘違いだと気付かされ、さらに前の扶桑が生きているだけでなくどこかの大木何某とやらと結婚して子供までこさえていると言う追加情報に目眩までしてきた。

 

「扶桑しっかり、うわっ、霊力が漏れすぎてるよっ!」

「ぅふふふっ、まるで道化になった気分だわぁ・・・前の扶桑が居るの? なら私は本当に扶桑なのかしらぁ・・・?」

「姉様っ、気を確かに落ち着いてください! 山城にとって前も今もお二人とも大切な姉様なのです、どちらかを蔑ろにするつもりはありません!!」

 

 今まで無駄な杞憂に踊らされたのだと気付かされた扶桑は溜め込んだストレスを吐き出すように霊力を肌から溢れさせ、山城と時雨が慌てた声を上げてとっさに扶桑へと抱き付いてその体から溢れて空気を揺らめかせる霊力を抑え込む。

 その二人の様子が少しだけ滑稽で、必死に慰めてくれる妹と友人の姿に申し訳ないとは思いつつもこの際、目覚めてからまるまる一カ月も悩まされ続けたのだからと扶桑は溜った鬱憤を自分の中から全て吐き出してしまう事にした。

 

 そして、もう少しだけ勇気を出して二人や先代の事を教えて貰おうと艦娘一年生の扶桑は決心する。

 




 
ここは日替り二種類の献立が並ぶ基本無料の艦娘寮の食堂です。

酒保コインを支払う事で定食のご飯が大盛に出来たり、お味噌汁を豚汁にパワーアップさせる事ができます。

でも・・・それだって限度ってものが有るんですよ?

いえ、だからコインをたくさん積めば良いわけじゃありません。

限度があるんです!

これで足りないなら酒保に行って下さい!

レトルトに飽きたとか、甘味しかないとか言われても品揃えは私がどうこう出来る事じゃありませんよ!?
 
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