艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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夜更かしはお肌の大敵なの。
血行が悪くなってターンオーバーが乱れたり滞っちゃうんだって。
知ってた?

軽巡s「夜かな?」
軽巡t(姉)「ああ、夜だぜ!」

「「なら、夜戦の時間だぁっ!!」」

軽巡t(妹)「真夜中に五月蠅くしようとする悪い子はどこかしらぁ~?」

軽巡s「た、多分、あ、あっちに行ったんじゃないかな・・・」(震え声)
軽巡t(姉)「ああ、少なくとも俺達じゃねえなぁ、ははっ」(白目)

坊や良い子だ、ねんねしな。
 


第四十四話

 舞鶴港の一角、艦娘部隊の運用の為に用意された施設の休憩と待機用の部屋。

 幾つかの段ボール箱と電源の点いていないテレビ、そして、パイプ椅子と長いテーブルだけが置かれた殺風景な室内に二人の艦娘がいる。

 

「ウチな、そん日は非番で司令はんのおごりで酒保にお茶しに行っとったんよ」

「うん・・・」

「そしたら、深海棲艦には勝ったけど舞鶴の艦隊が半壊したっちゅう知らせが来たんや」

「・・・知ってる」

 

 机の上のあるお盆の上に置かれた煎餅を取り湯呑を手に薄暗い海が見える窓を眺め陽炎型駆逐艦の三女が関西訛の口調で話を続ける。

 

「作戦終わったら終わったで陽炎と不知火も大怪我して帰ってきて、大変やったんやなぁ、って思っとったら・・・週明けから舞鶴勤務って言われたわ」

 

 煎餅をポリポリ齧り、温いお茶を啜り、ボソボソと喋る黒潮と特に意味の無い手遊びをしながら物憂げな表情で月明かりが波間に揺れる海をぼんやりと眺める山風。

 

「でもまぁ、ウチも日本海守備の要を任された艦娘の一人になったからにはって、気合入れてはるばる舞鶴までやってきたわけや」

「そう・・・私と同じだね」

「やろ? なら、なんで・・・ウチらこんな場所で一日何もせんで暇人やっとるんかな?」

 

 敵が海にいないというわけではないが彼女達の出動条件を満たすEEZ内に侵入してくる深海棲艦が居ない為、かれこれ一週間ほど出撃も無く舞鶴の港で待機を続けている黒潮が切実な疑問を呟く。

 それに対して彼女と同じ立場にいる駆逐艦娘山風は、私が知るわけないでしょ、と言えるほど非情な艦娘ではなかった。

 

「お仕事、増えると良い・・・ね」

 

 持て余す暇のせいで戦闘艦を原型に持つが戦闘に対して消極的な性質を持つ少数グループに含まれている山風ですらそろそろ船団護衛ぐらいはしたいな、と思っているぐらいだ。

 そんな気弱な少女の思いやりが混じる小さな声に眉を顰めていた黒潮はふっと表情から力を抜いて笑みを浮かべる。

 

「せやなぁ、でもまぁ、ウチらの仕事が増えたら増えたで日本が危ないっちゅう事やし、今は我慢しとこか」

「うん・・・そう、だね」

 

 政府からの安全確保要請によって民間船舶の往来が今までになく制限されている事や日本の領海外へ出る事が禁止されている艦娘としての立場はただ暇を持て余すだけの時間を過ごす事を強制する。

 出撃命令が出れば話は違うのだが太平洋側と違ってこちら側は深海棲艦の数そのものが少なくさらに行動を許される範囲も狭いために彼女達が出撃する平均回数は月に三回あれば多い方だった。

 

(お姉ちゃん達どうしてるかな・・・)

 

 一緒に鎮守府からやってきた30人の艦娘の中に自分と同じ白露型の姉妹が一人でもいてくれればこの時間を持て余す暇に対しても心強いのに、と山風は思う。

 そんないつ発生するか分からない急な出撃に備えて待機している二人の艦娘の頭上で飾り気のない丸時計がカチカチと事務的に歯車と針を動かし続けていた。

 

「こんばんわ~、暇してる~?」

「暇に決まっとるやろ、見て分からんの?」

 

 どこかの中学校が女子制服に使っていそうな紺の襟袖に白地のセーラー服を身に着けた少女が陽気な調子を振り撒きながら黒潮たちが暇を持て余している待機所の空気を唐突に掻き混ぜ。

 

「で、あんたら揃って何しに来たん?」

 

 特型駆逐艦と言う大別に含まれる綾波型駆逐艦としては九番目の駆逐艦娘、漣がプリーツスカートのポケットから小さな白うさぎのぬいぐるみの頭を覗かせながら元気に裾を揺らして室内に入ってくる。

 

「いやぁ~なんと申しますか~、ウチのぼのたんが暇だ暇だとわがままを言われましてね~?」

「はぁ? 何言ってんのさっきまで暇って駄々こねてたのはアンタの方じゃない!」

「二人ともあんまり騒がしくしたら迷惑だよ、ごめんねお邪魔しちゃって」

 

 いつもおどけた調子で喋る漣をその姉妹艦であり真面目ながら意地っ張りが過ぎる曙が諌めるように睨みつけ、その後ろで気恥ずかしそうにもじもじしながら二人に注意するのは綾波型の一人であり、どこがとは言わないが駆逐艦の中で特に大きいと話題に上がる潮が続いて入ってきた。

 

「んで~、第七駆が何しに来たん? 先に言うとくけどここお茶と煎餅しかないよ、暇つぶし探してるんやったら他あたりぃ」

「え? でもテレビあるでしょ、なんで点けてないの?」

「何や、テレビ見たいんやったら基地の談話室にあるやん」

 

 少し騒がしくなった待機所の戸を後ろ手に閉めて最後に入ってきた漣達三人と一緒に第七駆逐隊(鎮守府非公認)を名乗っている朧は電源の点いていないブラウン管テレビを指さす。

 

「それがさ~、談話室は敷島さん達がゾンビみたいな顔で居着いちゃってて、今はちょっと近寄りたくないんですわ~」

「ゾンビってもうちょっと言い方ってもんがあるでしょ! 失礼じゃない!」

「え~、それ以外にどう言うの? ぼのたんだってあの四人見た時、ドン引きしてたっしょ」

 

 ずかずかと遠慮の欠片も無く部屋の端に畳んであるパイプ椅子を人数分持ち上げる桃髪娘の指摘にツリ目の少女がサイドテールに結った鈴をチリンと揺らして顔を背け、図星を突かれたのか返答に窮した事を誤魔化すようにテレビのリモコンを手に取る。

 

 前回の大規模作戦である指揮官の勝手な行動により舞鶴基地に弱みを握られてしまった鎮守府の司令部は長時間の議論と交渉の末に人数の大幅な増員は防ぐ事ができたものの、舞鶴側が熱烈に要求した艦娘の中で最大火力を誇る艦種である戦艦に属する艦娘を四人も出向させる事になった。

 

 まだ鎮守府では出撃許可を得ていない訓練過程の途中であった戦艦達ではあるが舞鶴基地としては日本海側から本土攻撃を受けた際の保険でありエースカードとなり得る存在を四人も確保できて万々歳。

 さらにやってきたのが日本海軍の黎明期を支えた敷島型戦艦姉妹であった事もあり着任から現在まで敷島、初瀬、春日、三笠の四人は下にも置けない厚待遇を受けている。

 

「あぁ・・・敷島はんら、最近ずっとそんな感じやもんね、でも舞鶴に来て一度も出撃できてへんしあれはしゃーないわ」

「私たちで何か助けられる事があれば良いんですけど、なかなか思いつかなくて」

「でも今日は特にひどかったよ、漣が言うほどじゃないけど談話室のソファーに並んで暗い顔して項垂れててさ・・・」

 

 原型は旧式艦である為か基本装備が戦艦と言うより重巡に近い敷島達ではあるが艦娘としての種別としてはちゃんと戦艦であるので艦種能力である殲滅戦形態への変形は問題無く行えた。

 しかし、その大量破壊能力を使えてしまうが故に政治的な理由から敷島型戦艦達は派遣されてから一度たりとも海に立てず、日がな一日、陸上訓練か自習、もしくは割り当てられた寮の保守点検ぐらいしか仕事が無く舞鶴基地の厚遇と自分達の存在意義の間に挟まれて答えの出ない問題に頭を悩ませる日々を続けている。

 

「あ・・・テレビ点けるの?」

「何よ、なんか文句あんの?」

「ぅ・・・別に、無いけど・・・」

 

 リモコンを手にしてテレビに向ける曙から少し不機嫌そうな視線を向けられた山風は小動物を思わせる仕草で肩を竦めてパイプ椅子の上で身を縮め。

 わざとでは無いが気弱な少女を睨みつける様な真似をしてしまった綾波型八番艦へと姉妹艦達が非難するように眉を顰めた。

 

「ちょっと、曙・・・」

「べ、別に怒ったわけじゃないし! さっきのは何で暇そうにしてるのにテレビ点けてないのかって聞いたのよ!」

「いや、その言い訳は流石に苦し過ぎますぞ、ぼのたんェ・・・」

「山風ちゃんをイジメちゃダメだよ、曙ちゃん」

 

 その場の空気に居心地悪そうな顔で口を尖らせながら小さく曙は山風に短く謝罪し、それに対して目を反らしながらも舞鶴基地に一人だけしかいない白露型艦娘は気にしていないと小さな返事を返す。

 

「でも、ホントに何でテレビ点けてないの? 黒潮も暇だって言ってたよね?」

「ぁ~、うん、なんちゅうか今日な、碌な番組がやっとらんねん・・・ほとんどが国連がどうたらこうたらっちゅう特番になっとるみたいでなぁ」

 

 丁度、曙がテレビリモコンの電源ボタンを押したのと黒潮が少し拗ねた様に顔を顰めて朧に何故テレビを点けていなかったのかを明かしたのは同時だった。

 

「どっかの政治家はんとかエライ大学の先生(センセ)とか言うのんがウチらの事ボロカスに言うとってね、気分悪いから電源切っとったんよ」

 

 ぶぅんと小さく唸りブラウン管テレビの画面に光が走り、丁度どこかのテレビ局が放送している番組のロゴが大きくガラスの内側に映し出される。

 

 国連による日本制裁決議直前! 徹底討論、日本党と艦娘の実態!

 

 画面一杯に書かれた原色の太文字を読み上げる張りのある司会の声が彼女達のいる待機所に響いた。

 

「は? なにそれ・・・?」

 

 黒潮と山風は揃ってうんざりした顔になり、今日は一度も外のニュースに触れていなかったらしい第七駆逐隊の面々が目を瞬かせ疑問符を頭の上に浮かべた。

 

・・・

 

「岳田総理は確かにリーダーとしては優秀ですが、だからこそ党内でも独裁者のように振る舞う事が当然と言う風潮が許されています」

 

 テレビカメラが並ぶスタジオのゲスト席で微笑を浮かべながら日本党に所属する議員が主観に基づいた(脚色された)内部事情を口にする。

 

「そのワンマンシップが今回のような国連による日本への経済制裁を踏み切らせる原因になったのは明らかでしょうね」

 

 灰色のスーツに華美なネクタイを締めた中年、数年前にとある野党の党首をしていながら選挙の直前で日本党にすり寄りどうやったのか推薦を得て、議席の端に滑り込んだ男は自らの所属する組織の代表をここぞとばかりにこき下ろす。

 まるでその決議案を国連が主導しているかのように、まるでもう制裁が決定したかのように、笑顔を浮かべてその原因が日本の首相であるかの様に騙ってみせる。

 

「国民の税金が注がれていると言うのに艦娘の運用管理も不透明である事もまた、過剰な戦争技術の秘匿によって近隣諸国を徒に刺激しているのは日を見るよりも明らかです!」

 

 自分の所属する政党や自衛隊がわざわざ防衛力とオブラートに包んだ言い回しをしている事を完全に無視して艦娘が憲法に反する過剰な戦力であると言う。

 放言と言うよりはもはや失言として取られかねないセリフを厚顔に言い切るが彼にとってそれは些末な事でしかなかった。

 

「平和国家である日本にとって過剰戦力である艦娘は世界平和の為に国連軍の管理下に置かれるべきです」

 

 海路を荒らし回る深海棲艦のせいで経済活動を滞らせる国がちらほらと現れる世界情勢、半ば形骸化した国際連合の議会では今のところは国勢を維持できている大国の大使が無為に牽制し合うだけの場となっており。

 軍事と言う一点において他国からお飾りと言われてきた自衛隊だけが持つ唯一と言って良い深海棲艦への対抗手段を薄っぺらな世界平和の題目に捧げると言うのはあまりにも理想主義が過ぎる。

 

「戦争をしないと宣言した国が矛盾する存在である艦娘を独占したことで多くの犠牲を世界に強いることになりました!」

 

 被害だけを増やした名も無い海戦以降は意見の一致すら難しくなった国際組織によって現在に至っても結成された事実が無い国連軍が今後、仮に結成されたとしてそこへと艦娘を差し出したところで日本を優先的に守ると言う確証は無い。

 その男は自国防衛に興味を持つ者や軍事をかじった者が聞けば噴飯するだろう支離滅裂な内容の理想論を主張する。

 

 だが、そのセリフの大半はテレビ局側が日本国民協和党に所属する彼に言って欲しいと札束と共に差し出してきた台本をいかにも自分の言葉であるかのように語ってみせているだけでしかない。

 

 そう言う意味ではこの番組の趣旨は出演者による討論では無く、彼の演説が主題でもない。

 言うなれば台本に定められた役柄を演じ、テレビ局側が望むセリフを吐く出演者によるドラマ番組だった。

 

「そのために今回の日本に対する経済制裁案が国連へと提出されたことはある意味では当然の結果かもしれません」

 

 現段階でその制裁案に賛成を表明している国が片手で数えられる程度と言う情報は伏せ、まるで世界全体の意志によって日本が孤立して市民の権利と安全が岳田内閣によって脅かされるのだ、と。

 そんな陰謀論を織り交ぜた話にタイミング良く合いの手を入れる司会や無意味にはやし立てるタレントのざわめきを受けながら男の演技は台本通りに終わる。

 

 岳田首相が諸悪の権化で独裁者であるとか、艦娘を内輪揉めに忙しい国連に差し出してしまえとか、遠回しな言い方であるがベラベラと彼が垂れ流した演説は日本党の保守派が一番悪いと言う印象操作の為の材料であり。

 だからこそ、その主張をひっくり返しかねない五ヶ国の常任理事国の中でとある一国以外はその制裁に関する議題に否定的な立場を表明していると言う情報はおくびにも出さない。

 

(ははっ、たった小一時間の演説でこの稼ぎ、笑いが止まらねぇなぁっ、日本党様々だ)

 

 現政権がいくら滞りなく政策を進めていると主張してもそれに対して疑いを持つ人間は必ず存在し、そう言った人間にとって首相や内閣が不正を隠していると言うのは決定事項であり、男にとって今日の放送は日本党内のリベラル派から支持を集める為のデモンストレーションとしては効果的と言える。

 

 そして、メディアにとっても自衛隊がしっかりと仕事をしてくれているので今日も大きな問題無く日本は平和です、などと放送した所で視聴率は稼げないと思い込んでいる為に報道関係者は多かれ少なかれ何かしら政府内部の不正(火種)を見つけたいと考えており、今回の中国中心になって国連に提出した制裁決議は渡りに船だった。

 

 その政治家にとっては艦娘の待遇がどうなろうと構わない、艦娘の試験運用中だった数年前に鎮守府への妨害工作を行った日本党内外の議員の複数人が事件発覚後に行方不明(消された)になった事すらどうでも良い。

 

 自分は考え無しに与党がする事だから反対反対と叫ぶ事しかできない様なバカ共と同じミスを犯す事は無いと確信している。

 

 オカルト技術で生まれた人造人間共が化け物と殺し合いがしたいと言うなら好きなだけやっていればいい。

 要は自分の地位と金を更に高めてより豊かな暮らしをする為に使えるモノは全て使うだけの話なのだ。

 

 野党よりも与党、衆議院よりも参議院、日本と言う一国よりも国連と言う巨大な組織、より大きな権力を笠に着て自由と平和など耳に聞こえの良い主張を振り翳せば支持者と後援会(金づる達)は財布の紐を緩める。

 全体的には保守系政党である為に左派市民の票を集め辛い日本国民協和党にとって党内リベラル派の代表とも言える席にある自分を一方的に切り捨てると言うリスクはまず犯さないだろうと彼は高を括っていた。

 

 選択権は自分の手にある。

 

 より良い豊かさを手に入れる為なら強そうな組織を目敏く選び潜り込む事に、政治家としての主義主張をすり替える事に躊躇いを持たない獅子身中の虫には国や政党に対する忠誠心など欠片も無く。

 自分以外の存在を使えるか使えないかで選んできた拝金主義者は今までもこれからも手に入れたモノをいつ使えば一番良いか、いつ売り飛ばせば高い値が付くかだけで判断するだろう。

 

 仮に日本党と言う組織が自分を排除しようとしたり、党や国が危なくなれば次の自分の地位を保証してくれる国や組織へ他人を売り飛ばしてでも居場所を確保すればいいだけの話なのだ。

 

 ペコペコ頭を下げるテレビ局のディレクターに見送られ政治屋(蝙蝠)は鷹揚な態度で秘書が運転してきたらしい車に乗り込み後部座席でふんぞり返る。

 

(アメリカか中国、いや、どの国だろうとあのオカルト兵器の資料は高く売れる、さて、どこに幾らで売るか・・・う~ん♪)

 

 党内の状況を報告し合う会議や資料室などで先日、運が良い事に偶然(漁って)見つけた(盗み出した)艦娘の研究資料やその流用技術で造られたミサイルや弾丸の設計資料のコピー類をいつ国外に持ち出して売り捌くかを皮算用し始めた。

 

 艦娘とか言う得体のしれない人間の形をした怪物を有難がっている党内部のおめでたい連中と違い自分は海に囲まれたこの国の寿命は長くない事を理解しているからこそ、どこに付くかの選択を間違えたりはしない。

 

 深海棲艦に空路や海路が塞がれる前に取引材料に使えるモノを集めるだけ集め、資産も外国口座へと移せば予め伝手を用意しておいた大国の交渉相手と桁違いの金が動く商談を始める事が出来る。

 今日のテレビ出演はその前の小遣い稼ぎのようなモノであると同時に自分が日本党の内部で世界平和と国際協調を掲げる善意の代表であると周囲に思わせておく為に用意した時間稼ぎの芝居だった。

 

 怪物がばら撒く被害を受ける沿岸部からの人離れが加速する事を見込み出来るだけ早く日本を離れて、大陸の内陸で優良な不動産を手にすれば将来の需要増加によってさらに莫大な富を自分に運んでくるだろう。

 小国の政治家から土地転がしの富豪に転職するのも悪くないと顔をニヤつかせていた男は自分が乗っている車がいつの間にか止まっている事に気付く。

 

 まだ一時間も経っていないはずなのにもう自分の事務所に到着したのかと窓の外を見た男は首を傾げる。

 

「おい、どう言う事だっ、ここは何処なんだ!?」

 

 スモークガラスの向こう側に見えるのは薄暗い地下駐車場らしく、まばらに車が停まっている地下空間に何故自分が連れて来られたのか分からず男は秘書が座っている運転席を後ろから何度も蹴り乱暴に問う。

 

「返事もしないで、おい、聞いているのか!」

 

 しかし、秘書は椅子を揺らす振動を無視しているようで微動だにせず、その態度に苛立ちを感じた政治家は前方の座席へと身を乗り出して相手の顔を睨みつけた。

 

「よっぽど首にされたいらしいっ・・・、・・・お、お前は誰だ?」

 

 男の記憶が確かなら今日の運転手をしている秘書は額が広くいつもおどおどしているヒョロ長の中年であるはずなのに、目の前の運転席にいるのは折り目正しいスーツ姿を姿勢良く着こなした見覚えの無いオールバックで髪型を整えた細目の優男だった。

 

「失礼しました。随分と楽しそうに考え事をされていた様なので、声を掛けるタイミングを測りかねていたんですよ」

 

 人の良さそうな笑みを浮かべ背中を座席ごと蹴られた事をまるで気にしていない様子でその男は慇懃な口調で金満政治家へとおどけて見せる。

 

「だ、誰だと聞いてるんだ!! お前は!?」

「いやいや、我々は名乗るほどの者じゃないですよ、それに・・・貴方に覚えておいてもらいたいとも思いませんからねぇ」

 

 不気味なほどに朗らかな調子で受け答えする運転席の男の調子に嫌な予感を感じた政治家は後退り後部ドアへと手を掛け、ノブを握り押し開けようとした。

 その直後に中年太りをスーツで隠した身体が外からの力で開かれたドアに引っ張られて何処とも分からない地下駐車場の床へと転げ落ちて彼は呻く。

 

「どうも、失礼は重々承知していますが、我々は貴方が持ち出した部外秘の資料に関して少しばかりお話がありまして」

 

 いつの間にか車を囲むように体格の良いスーツ姿の男達が並び立ち、運転席のドアを開けて車内から出てきたオールバックが苦笑しながらコンクリート床にへたり込んで困惑している参議院議員を見下ろす。

 

「あれは、いつかは世界に公開される予定ではあるのですが、今はまだ他の国に持っていかれると困るんですよ」

「な、何のことを言っている!? 私は知らないぞ、そんなモノ!」

 

 相手が言う資料が何を指しているのかは分からない。

 おそらくは艦娘に関する資料の事だろうと予想は出来るものの自分が何かしらの機密に触れる時には潔癖なほど証拠を残さず処理してある筈だと確信している男はどもりながらも白を切る。

 

「お前達は自分が何をしているのか分かっているのか!? 私は参議院議員で、こんなっ誘拐するようなまねをして! これは犯罪だぞ!!」

「ええ、失礼は承知しております、と先ほど言ったはずですよ? 岳田総理からも了解はとってありますので」

 

 得体の知れない男達に囲まれて縮み上がりながら虚勢を張る政治家へと朗らかな微笑を浮かべたままリーダーであるらしいオールバックの男が軽く手を挙げる。

 

「・・・は? 何を言って・・・おいッ!?」

 

 それを合図にビジネススーツの上からでも筋肉の盛り上がりが分かる男達が中年男を取り押さえ、その顔に最低限の空気穴がある皮袋を被せて無理矢理に黙らせた。

 

「貴方以外にも資料に引っかかったネズミは他にも何人かいるんですけどね、どいつもこいつも簡単に尻尾を出してくれたので張り合いがなかったんですよ」

「ッ! ッ!?」

 

 その点では貴方は優秀だったですね、と笑う男の声に皮袋の中で自分が何者かの罠にかけられた事を悟ったネズミが袋の中に閉じ込められたまま籠もった叫びを上げる。

 

「そろそろ前回の掃除を忘れてしまった記憶力の悪い連中が動き始めたので余計な事をされる前に先手を打つ必要がありまして、そう暴れなくとも我々は手荒なことはしませんよ・・・それも、まぁ、貴方の態度次第ですが?」

 

 袋一枚隔てた真横から耳元に囁いてくる男の声に暗闇の中に閉じこめられた獲物は締め上げられた鶏の様なうめきを漏らす。

 

「まぁ、落ち着いた場所で酒でも嗜みながら我々と今後の日本の事を語り合ってみませんか?」

 

 きっと有意義な時間が過ごせますよ、と嗤う声を漏らすオールバックの内襟で大の字を塔の形に見立てたような意匠のバッチが鈍く光った。

 

「多大な資金と労力を掛けた数えきれない様々な活動によって他国から信用と信頼を勝ち取る難しさ、そして、それを土足で踏みにじって自分の利を貪る寄生虫がどうなるかの話など、きっと貴方も興味を持っていただけるでしょうからねぇ・・・」

 

・・・

 

「・・・んぁ!?」

 

 深海棲艦が原因の地価変動により最後のオーナーが手放してから放置されていた舞鶴港の一角にあった中古マンションを国が買い取り、改装した艦娘寮の一室でベッドにウサギ柄のパジャマを着込み寝転がって足をパタパタと意味なく動かしていた少女が不意に手の中の携帯電話を覗き込み目を瞬かせる。

 

「漣? どうしたの、変な声出して?」

 

 無地のスポーツブラにショートパンツと言う寝間着と言うには薄着過ぎる下着姿で床に座り込み手足のストレッチをしている明るい茶髪の少女が妙な声を出した姉妹へと顔を向ける。

 

「んふぃ~、なんでもないですぞ、おぼろん」

「そう? なら、良いけど」

 

 露骨に何かを誤魔化す様な怪しい喋り方だが、良く考えれば漣はいつも無意味に意味深な物言いをしたり妙な語尾を付けて喋ってるか、と納得した朧は風呂上がりのストレッチを再開した。

 

「ぁっ、ちょっとそれ、クソ提督の携帯電話じゃないの? まさか、あんた、また勝手に持ち出したんじゃないでしょうね!」

「いやいや、流石に漣でももうそんな事しないって・・・コレはご主人様が漣達の為に用意してくれた第七駆逐隊専用の携帯ですぞ~」

 

 大規模作戦が舞鶴で行われていた時期に東京湾の鎮守府で起こったとある現代の文化に興味を抑えきれなかった駆逐艦によるインターネット掲示板への書き込み事件。

 書き込みが匿名であった事や内情に関係なく他愛無い内容であった為に大事にならず、犯人である勝手に指揮官の携帯電話を持ち出して遊んでいた漣への罰は驚くほど軽く厳重注意と謹慎で済んだ。

 だが、彼女にネットスラングを教えた原因である指揮官はたっぷりと鎮守府の司令部から所持品の管理の拙さや部下の教育がなっていないなどとネチネチと責められた後に舞鶴勤務を言い渡されて第七駆逐隊と共に任地に就く事になった。

 

「私達の携帯? いつの間にそんなの貰ったの?」

「お風呂入るちょっと前ですな、まぁ、防諜の為とかでいろいろ制限があるから電話としては使えないしNi‐チャンネルにカキコも出来ないんだよぉ、萎え~」

「でも、いんたーねっとって言うのは出来るんでしょ? 図書室に行かなくても本とか新聞が読めるんだよね?」

 

 運動神経は抜群だが現代の科学技術にはまだ対応しきっていない姉妹艦の少しずれた言葉に苦笑しながらも漣はその通りだと返事を返す。

 

「漣っ、そう言う大事な事はちゃんと先に言いなさいよ!」

「聞かれなかったもんで、えへへっ♪ でも司令部に怒られて貯めてたコイン全部没収されちゃったってご主人様に愚痴ってたら持って来てくれたし、これ、ほとんど私が貰ったもんじゃね?」

 

 ベッドの横に設置された勉強机から睨むような吊り目を向けて強い口調をぶつけてくる曙へベッドの上でごろごろしている漣はのらりくらりとした態度で返事を返す。

 

「んなわけあるか! ああ・・・もぉ、夜中に変な事で叫ばせるんじゃないわよ・・・」

 

 綾波型の八番艦はあまり反省の見えない九番艦の態度に深い溜め息を吐いて勉強を続ける気力を失い机の上に開いていたノートを閉じた。

 

「それで何か気になるサイトがあったの?」

 

 姉妹の中でもっとも髪の量が多いためにドライヤーの使用時間も比例して長い潮がドレープでボディラインが目立たないゆったりとしたパジャマを揺らしながら二段ベッドの一段目にいる漣の手元をのぞき込む。

 

「・・・んっふっふ、気になるぅ?」

 

 反射的に携帯の画面を胸に押しつけるように伏せた漣は一瞬の逡巡の後、にぱっと顔に明るい笑みを浮かべて勿体ぶる。

 

「そう言うのもう良いから、勿体ぶってないでさっさと言いなさいよ」

 

 姉妹でもっとも早く風呂を上がり自習をしていた薄紫の花が散らばる柄の寝間着を着た曙が呆れを滲ませる半眼を二人の方へと向けながら、机の上の筆記道具や参考書、ノートを机の引き出しへと片付けて手元を照らしていたスタンドライトの電源を落とす。

 

「それはですねぇ・・・来週の腕白RUSHは釣り吉ラッシュのスペシャルやるみたいだよ~♪ ぼのたん一押しコーナーktkr(キタコレ)♪」

 

 大袈裟にまるで何かの記念日を祝うような言い方で漣は少し前にインターネットで調べた来週のテレビ番組の予定を発表した。

 

「わぁ、良かったねっ、曙ちゃん!」

「べ、別に楽しみにしてるわけじゃないし、・・・見ないわけじゃないけど」

 

 それを自分の事の様に喜ぶ潮と少し頬を朱に染めながら満更でも無さそうに横目でカレンダーを確認している曙の姿に漣は微笑み。

 ふと自分の方をじっと見ている朧が自分の他愛の無い嘘に気付いていると察した漣は小さく肩を竦めて見せてあまり追及しないで欲しいと他の二人に聞こえない様に彼女の心へと通信を送る。

 

『じゃあ今度、私にもいんたーねっとの使い方教えて』

『おk♪』

 

 その漣の手の中に隠された携帯電話の画面、胸元の布地に押さえつけられて隠された液晶にはとある政治家が自宅で死亡していたと言う速報記事が開いていた。

 

 その記事にはつい数日前に待機所のテレビを借りて見ようとした曙が(本人は)毎週楽(頑なに)しみにしてい(認めていない)るDIY精神の塊で出来たようなアイドル兼何でも屋達が主役の番組。

 それを潰して放送されていた特別番組のゲスト席で調子良く頭の中身が心配になる様なおめでたい演説をしていた政治家の名前が記されている。

 

 本人の自宅で発見された死後二日ほど経ったその遺体に外傷は無く、検視結果から死因は急性アルコール中毒であると断定された事や空になった酒瓶がいくつも遺体があった部屋に散乱していたと言う記事の内容を流し読みして。

 

(言っても皆の気分悪くさせるだけだし、大した事でも無いし、まぁ、いっか)

 

 漣にとっては平和ボケした政治家が飲酒の加減を間違えて勝手に死んだだけの話でしかない。

 曙達も気分を悪くするだけだった内容のテレビ番組に出演していた政治家が死んだ、などといきなり言われてもそれがどうした、と言う他に無いだろうと戦いを日常としている少女は結論する。

 

 そして、ブックマークボタンからお気に入りの雑談掲示板を開き、明日の朝には忘れているだろう彼女にとってどうでもいいニュースのページは上書きされた。

 




次回からついに第三章が始まるよ。

始まっちゃうよ・・・。
ちゃんと書ききれるか不安で仕方ない。

プロット通りに書くとグロい描写や鬱シーン、政治シーンだらけの誰得展開が待ってる。

さてはコイツ、艦これ始める気ねぇな?
ストーリー改変しなきゃ(使命感)
 
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