艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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防衛省「やったで! 艦娘達が日本海の限定海域を撃破してくれた! 良うやったわ、お手柄や!!」

外務省「お前らさぁ、外交舐めてる? あれだけ派手な事やらかして、責任は誰が取るつもりだぁ!?」
漁業関係者「(港の)被害がなぁ、出てんだよなぁ! 組合を舐めんじゃねぇぞ?」

防衛省「うわ、メンドクサイ奴らやなぁ・・・せや、あの中村っちゅう司令官、昇進させてちょっとお使いに行ってもらお、鎮守府で否定派の妨害工作に協力した奴らの面倒もこの際まとめて・・・」

中村「ぇ・・・硫黄島の基地を奪還しろって、冗談でしょ?」
防衛省「本気やで、ガンバッてな!」

防衛省(まぁ、危なくなったら人死に出る前に帰って来るやろ、んで表向き作戦中止の責任で中村くんの階級元に戻して妨害工作やった連中も危険な任務で責任とったって建前作れるから動員に戻せる、一石二鳥やん!)

はつゆき「やだ! この任務、わたしに沈めって言ってる様なもんじゃない!? 助けてお母さん!」

初雪「ハッ・・・!? 誰かが私を呼んでる・・・? 気のせい?」

 流石に、護衛艦一隻とたった四人の艦娘で硫黄島奪還できるわけないよねぇ(慢心)
 


第四十八話

 シワだらけのズボンとランニングシャツの上から海自士官用の白上着を羽織り、生暖かい風で揺れる緑が鬱蒼と茂る道を顰めっ面の中村義男は自分が駐在している硫黄島で唯一の港へと向かう。

 

(それにしても今までいくら報告と要望上げても補給以外はまともに連絡をして来なかった連中が今日いきなり俺に直接伝える事なんて、なんだって言うんだ?)

 

 その背後で彼の歩調に合わせながらも斜め後ろに付き従っている空母艦娘、鳳翔から彼に本土側から重要な連絡があるらしいとだけ聞いただらしない格好の指揮官は無精ひげがまばらに生える口元をへの字にする。

 

(だいたい、艦の連中もそう言う事は鳳翔に伝言頼むんじゃなくて伝令の一人でも寄越せよなっ)

 

 小笠原諸島の敵勢力調査と放棄された硫黄島の航空基地の確保、可能なら基地機能を復旧せよと言う無茶振りをされた士官の一人である中村は同じ任務を受けているはずなのに港の護衛艦とその周辺施設にばかり人手を割いている元艦娘否定派だった連中の様子を思い浮かべて軽く鼻を鳴らす。

 

 自分達の命が係っている状況だった小笠原諸島までの海路で深海棲艦との戦闘を行っていた前半の二カ月は彼等も必死だったが、中村と四人の艦娘によって大まかな敵勢力の危険が取り除かれ、そして、この島へと上陸して拠点を確立し、定期的な物資の輸送路が確保されてからは自分以上に気が抜けてしまっている。

 などと中村は部下と親密な仲になると言う公務員にあるまじき失態を犯している自分の事を棚に上げて、自分や艦娘達を腫れもの扱いする連中に対する不満は優先的に物資や住居を整えて貰った程度では消えるわけではないと愚痴った。

 

 そう言う意味では自分達が電気とお湯のシャワーを自由に使える事を妬まれる謂れは無いはずだと中村は内心で頷く。

 

(場所がかさばるからって本土から送られてくるマンガや週刊誌だのを港で独占して、酒なんかを楽しめるって連中の方がよっぽど恵まれてるだろうに・・・)

 

 戦況が好転して辺境生活に安定が出来始めた一時期はわざと中村の近くでヒモ男だとか陰口を言い、これ見よがしに中指を立てて挑発してくる様な者までちらほら見えた事がある。

 しかし、その後日に態度の悪かった連中が揃って腕立てやランニングを命じられて目を白黒差せて汗を垂れ流し。

 その様子に中村はちゃんと港で上官が部下を監督をしている事が分かり多少の安心を覚えた。

 

(でも、あの日ぐらいから五十鈴や鳳翔にちょっかいを掛けるヤツまで居なくなったんだよな・・・)

 

 十数分前に指揮下の軽巡艦娘のストレス解消に付き合わされ、運動後のダルさで少し猫背になって歩く中村は肩越しの横目で後ろからついて来る鳳翔を見ながらそんな事を思い出す。

 

 この任務に送り込まれた175人の海自隊員のほぼ全てが男性であり、女性と言えば艦娘である吹雪、五十鈴、鳳翔、伊58の四人だけと言う恐ろしい程の男女比の差が生まれている閉鎖的な環境。

 唯一の艦娘指揮官である以上は仕方ないとは言え彼女らを独占している状態の中村は多くの男達から嫉妬を受ける。

 

 そんな中、過去に自分達が艦娘を虐げてその結果としてこんな僻地に左遷された事を忘れたかの様に彼女達に馴れ馴れしい態度で声を掛け秋波を送ってくる者も多数現れた。

 

 しかし、対応時の態度に強弱の差はあれど全てを拒絶によって隊員達へと返した吹雪達に対する不満は自分達を敵から守る戦力である彼女達へと向けれないジレンマから標的をある意味では(霊力に適正さえ有れば)替えがきく中村へと定めた様な鬱屈とした気配が部隊内に充満した事に彼は内心冷や汗を滴らせる。

 

 だが、その不満が実際に艦娘の指揮官を襲う直前、彼女達の姿を見るだけで顔を青くしたり脂汗を浮かべながらそれを誤魔化す様に真面目に働く様になった人数が劇的に増え、気付けば中村に対する他の男共の抱えた負の感情の矛先が不思議と消え去っていた。

 

 何故か一部には上官としてではなく男として畏敬や尊敬の眼差しで中村に向かって敬礼する者達も混じるようになったがそれに関しては直接に害が有るわけではないので敢えて彼は見ない振りをしている。

 

 ある日、吹雪と連れだって歩いていた時に、あの人はよくもまぁ平気であんなヤバい女達と一緒にいられるな、などと言う呆れが混じった呟きをとある隊員が中村に向かって不意に漏した事があった。

 そして、その一時間後に所用で通りかかった護衛艦が接舷されている桟橋近くの広場で顔を青ざめさせた件の隊員が筋トレをしている(させられている)光景を目撃する事になったのだが、中村の中では彼は自分の知らない別の事情で罰を受けていると言う事になっている。

 

「提督、どうかされましたか?」

「いや、何でもない、・・・鳳翔、そんなに離れて歩かなくても良いんじゃないか?」

「ふふ、いえ、私はまだ遠慮しておきます、順番は弁えていますので」

 

 また順番かと呟き、いまいち意味の分からない理由で立ち位置を変えるつもりは無いと言う鳳翔の様子に艦娘の指揮官になって三年目となった中村は未だに謎に満ちた彼女達の行動理念に対して困惑を深める。

 

(絶え間ない深海棲艦との戦闘があったからこそ張っていた緊張、それが緩んだら箍の外れるヤツが出るかもしれないと思って釘を刺すつもりで艦長の所に行ったのが全くの無駄足になったのは良いんだが・・・)

 

 硫黄島の港に停泊している護衛艦の艦長であり自分と同じ二等海佐である士官と今後の予定を理由に話し合いをした日、態度があからさまに悪い隊員の存在を中村に指摘され、怯えた顔を隠さず彼へ失礼な真似をした部下に代わって謝罪する艦長のテーブルに額を擦り付ける姿は大袈裟で見ている方が哀れに感じるほどだった。

 その後、涙まで目に浮かべ始めた40代のオッサンを宥めている内に中村は何故か本土からの補給物資に含まれていたアルコール類を艦長と酌み交わす事となり。

 小笠原諸島での辛い任務に対する泣き言や艦娘否定派だった元上官を持ったばかりにこんな目に合っているとか、左遷が決まり妻が実家に帰ってしまって子供の顔も見に行けない状況への絶望感などと延々と垂れ流される愚痴に長々と付き合わされた。

 

 こちらのご機嫌を取る為なのかやたら酒を勧めてくる艦長の攻勢をいなして何とか酒量を缶ビール三本に抑えたもののアルコールに弱い中村は空き缶を握ったままソファーに丸まった苦労人艦長に毛布を掛けて千鳥足で自分の拠点へと帰る。

 他の隊員が過ごす港の護衛艦や兵舎から歩いて十数分、急な出撃の際に巨大化した艦娘が施設を破壊しないように港から離れた場所にある中村と吹雪達の居住区。

 その暗闇に沈んだ自分や艦娘達に一棟ずつ用意されているユニットハウスの集まっている場所にアルコールで鈍った足を止めた中村は自分以外の気配が全くない事に気付く。

 

 そして、不躾ながらユニットハウスのドアをノックしたりカーテンの閉じた窓を覗いて声をかけたりもしたが、月明りの下には彼女達の影すら無く。

 疑問には思いつつも体内のアルコールが視界を振り回すまでになった為にそれ以上探索する気力が持たなかった彼はゾンビの様に呻きながら自分のベッドに辿り着いた所で気を失う様に倒れた。

 

 気付けば朝、そして、いつの間にか自分と同じベッドに潜り込んでいたスク水少女を押し退けて二日酔いの鋭く刺す頭痛でグラグラ揺れる世界に苦しむ彼を心配そうな顔で、情けないと眉を顰め、しょうがない人だと微笑む、三人者三様の表情を浮かべる艦娘達がいつの間にかそこに居た。

 

 その謎の正体には中村自身、薄々気付いていたがその時にはまだ周辺海域は深海棲艦が虎視眈々と島を狙っている状態であり、昼夜を問わずほぼ毎日繰り返される出撃による疲労とストレスで些細な事を気にしていられない状態も手伝い彼は事実を鳳翔達に問う暇は無かった。

 だが、大まかな危機を取り除き補給線も安定したここ一カ月半ほど、適度な暇が出来た現在でも中村はその問いかけを艦娘達にする事が出来ずにいる。

 

(この島の部隊だけ、日本帝国軍に先祖返りとかホント、洒落にならんぞ・・・)

 

 何故なら自分達の指揮官を馬鹿にしたからと言う理由で仮にも身内である海自隊員を旧軍式で(鼻っ柱を)教育してあげました(へし折ってやった)なんて答えが彼女達の口から返って来るかもしれないからだ。

 鳳翔達が前を通っただけで直立不動の敬礼と応援団もかくやと言わんばかりの声量で挨拶をする隊員達の姿と彼等に対して上官が如く当然と言う顔で対応する彼女達の姿が上層部に知られたら、下手をすれば責任問題で指揮官である自分は懲戒免職の上に吹雪達の立場も危うくなるかもしれない。

 隊内のイジメ問題を解決したとか銀蝿をしていた隊員をとっちめたとか中村も一枚噛んだ事はあるがそれでも彼女達は自衛隊の隊員では無く、艦娘の運用方法などを定めた法によってあくまでも兵器であるとされており階級自体を持っていない。

 持っていないのに他の隊員達が行っている調練の監督を五十鈴や吹雪がやっている姿(幻影)が見えたりするのは非常にまずい、具体的に問題点を上げていくと数えきれないほどにマズイ状況なのだ。

 

「・・・まぁ、なんにしても今は補給の事が第一だな」

 

 そして、また中村は現実逃避を選択して思考を別の方向へと向ける。

 彼自身の嫌な問題を後回しにする悪い癖によって答えの出ない堂々巡りに今後も中村は自業自得で苦しむ事になるだろう。

 

「修復材も後二つになってしまっていましたから、補給は助かりますね、提督」

「正直に言うと深海棲艦の能力をコピーした代物の世話にはなりたくないんだけどな・・・この前の新型センサーにしても信用できるのは分かったけど最前線でデータを取りたいからこっちに回されてきた様なもんだし、どれもこれも俺達を使った生体実験じゃねえか」

 

 朗らかに微笑む鳳翔の言葉に少し顔を顰めて中村は脳裏にこの任務に就く直前、掛け値無しに怪しい新技術の塊を手渡してきた工作艦娘と研究室の主任の顔が過る。

 

 刀堂博士が基礎理論を組み上げた鎮守府の研究室を支える頭からネジが二三本飛んでいる研究者によって日進月歩で磨かれている霊力を利用する技術はついに深海棲艦の残骸から取り出した要因にまで手を出した。

 緑色のバケツに見える円錐台形の物体、その中に詰め込まれた精密機械と得体の知れない液体によって再現されたある深海棲艦が持っていた【時間を戻す力】の劣化コピーは艦娘の負傷だけでなく着ている服すらも立ちどころに直して、否、元に戻してしまう事が出来る。

 

 高速修復材と名付けられたそれの原理はさっぱり分からないが効果そのものは非常に便利である。

 が、鎮守府の一番広い研究室で様々な機械に繋がれた巨大な脊椎の一部や黒く鋭い爪が生えた指、マナとして分解せずに残った深海棲艦の遺骸から破片を取り出して様々な実験を行っている連中(MAD共)の姿を見さえしなければここまで不信感を募らせる事は無かっただろうと中村は内心で呻く。

 

「高速修復材は提督の前世にもあったのではありませんか? 吹雪ちゃんからも司令官が言ってましたと聞いた事があります」

「・・・まさか深海棲艦の能力が元になってるなんて想像出来るわけないだろ」

 

 この任務の為なら一個単価百数万円の貴重な最新技術を無料で優先的に安定供給しますと言われ、実際にこの南の海で何度もそれに窮地を救われる事になった日本防衛の最前線に立つ士官はそれでも研究室から恩を着せられている様な感覚に釈然としない蟠りを抱えたまま口を一文字に引き結んで両手をズボンのポケットに意味なく突っ込む。

 

「それは・・・確かに表沙汰に出来る内容ではありませんけれど」

 

 戦艦級の砲撃で上半身を消し飛ばされて大破(強制解除)し治療槽を使っても数十日は寝たきりになる程の重傷を負った事がある鳳翔はそれをたった数十秒で無かった事にした高速修復材の効果とその技術の由来を比べ。

 

「現状で私達はあれに頼らないわけにいきません」

 

 眉を下げつつもこれからもそれを使い続けるのは仕方ないと口にする。

 

「そりゃ、分かってんだけどなぁ・・・鳳翔達の身体になんか有ってからじゃ遅いだろ?」

「・・・ふふっ、心配していただいてありがとうございます、提督」

 

 気付けば一歩斜め後ろにいた鳳翔が手を伸ばしてポケットに入れていた中村の手を引き出し、自分の手に指を絡めるように握ってきた軽空母の優し気な微笑みに中村は肩を竦めて、そのしなやかでありながら弓だこを感じる戦う女性の手を握り返した。

 

「まぁ・・・なるようになるか、少なくとも今より悪くなる事は無いだろうしなぁ」

 

 前世のゲームでイベントに備えて溜め込んでいたアイテムの再現までもがこの世界に現れたのは良い。

 だが、まさかそれが深海棲艦由来の技術で造られる事になるとは中村は想像もしていなかった。

 

「ええ、それにどんな困難な事があっても私は提督にお供いたします」

「っ!? 鳳翔、けっこ、・・・うな事だな、それは、うん・・・」

「ええ、そうですね、ふふふっ♪」

 

 さらりと彼と共にある事が当然と言い切る鳳翔の微笑みに見惚れた中村は思わず告白し掛けた言葉を無理矢理切って誤魔化す為に咳払いし、彼の様子にクスクスと笑う空母艦娘から顔を正面へと戻す。

 そして、二人は硫黄島の端に位置する港湾施設、丁度、入港してくる船への対応で慌ただしさが見える港へと足を踏み入れた。

 

 数か月前までは南方海域の諸島を根城にしていた深海棲艦達のボス、戦艦タ級フラッグシップが自らの200mを超える巨体に合わせて島の大地を削りとって下僕を侍らせる為の寝床に使っていたこの場所は皮肉な事に彼女が討ち取られた後は海上自衛隊所属の汎用護衛艦【はつゆき】が停泊する港へと生まれ変わった。

 

 機密事項である為、知る者は少ないが深海棲艦は地球の環境変化によって自然発生したある意味では野生動物と呼べる存在で、それが人間にとって危険であると言うこちら側の勝手な理由で深海棲艦を駆除すると言う行為は中村にとって思う所が無いと言えば嘘になる。

 

 だが、その後ろめたさもこの深海棲艦が掘った湾の水底や岬に食い散らかされて転がっていた民間の輸送船や軍艦の成れの果てとその中に散らばっていた腐臭を放つ人間だった物体の末路を見て胃の中身と一緒に吐き出し海に流す事になった。

 

 猫吊るしから送られてきた豆知識では深海棲艦の生命活動はほぼ全て海底から湧き出るマナによって成り立っており、食事による栄養補給はエネルギーの変換効率から言って補助にもならない微々たるものであるらしい。

 だが、自分達が生まれ持った(組み込まれた)本能(命令)に従って深海棲艦は好き好んで船を襲い、海岸沿いの町を砲火で焼き払い、その中から少なくない人間の命をその口へと放り込んでいる。

 

(アイツ等も中枢機構に戦い続ける事を強制されていると言うのは同情の余地があるのかもしれないが・・・)

 

 海を逃げ惑う船を遊び半分の感覚で追いつめて捕まえ、中身をほじくって悲鳴を上げる人間の姿と味を楽しむ、それは深海棲艦にとって娯楽の一種であるそうだ。

 戦闘後に砕けた敵の腹からこぼれ出てきたモノを見た時に妖精(妖怪)から送られてきた胸くそ悪くなる分析情報を思い出した中村は眉間にしわを寄せた。

 

 転生者としての特権とも言うべき艦娘の艦橋にいる時限定ではあるが疑問に思ったり初めて見る敵の能力などをすぐさま分析してイメージで教えてくれる中枢機構(刀堂博士)からのサポート。

 それ無ければ任務に就いてから数週間も経たずに彼等は恥も外聞も無く尻尾を撒いて本土へ逃げ帰る事になっていただろう。

 しかし、海の怪物達(深海棲艦)を人食いたらしめている原因である存在の協力と言うのはいくら便利であっても釈然としない感情が中村の胸に蟠る。

 

「考えても仕方ない事で悩むのは止めた方が良いですよ、提督・・・深海棲艦は倒すべき敵です、それで良いじゃありませんか」

「・・・顔に出ていたか?」

 

 深海棲艦の巣作りによって全長130mの護衛艦が余裕で入港できるぐらいに深さを増した硫黄島の周辺海域、多くの自衛隊員の努力と巨大化した艦娘の馬力によって整備されたコンクリートの地面に幾つかの倉庫やプレハブが規律正しく建てられた街に見えなくも無い場所で中村は立ち止まった。

 彼と繋いでいた手を離して身体の前で重ねて揃えた鳳翔が眉を少し下げて微笑み小さく首を横に振る。

 

「・・・いえ、墓所に目を向けておられましたので」

「そうか、まぁ、・・・考えても仕方ない事の一つだな」

 

 その少し遠くに海中から引き上げられた深海棲艦の犠牲となった船達が野ざらしになり、その乗員だった無数の遺体は引き取り手も無く今は出来うる限り身元が分かる様にして簡易的な埋葬をされている。

 そして、見ているだけで憂鬱になりそうな錆色の景色から顔を背けて補給物資を運んでくる輸送船が来るだろう場所へと中村は鳳翔を連れて向かう。

 

「てーとく、遅いよぉ、もう船の接舷始まってるでち」

「ん、ゴーヤ、お前、吹雪と海上のセンサーの点検してるはずだろ? 吹雪もいるのか?」

「そんなのもう終わっちゃったよ、吹雪ははつゆきの厨房でお昼の用意手伝ってるでち」

 

 精悍だったり脂汗を浮かべたり様々な表情でこちらへと敬礼をする港湾施設の隊員達に気の抜けた敬礼を返しながら中村は先に桟橋で待っていたらしい伊号潜水艦を原型に持つ艦娘に気付き、岸壁に腰掛けて足をぶらぶら揺らしている伊58へと声をかける。

 

「・・・なんだ? やけに船の数が多い・・・おいおいおい、なんであんな数が来てるんだ!?」

 

 その伊58の近くへと向かい波止場に立った中村は湾の入り口に見えるいくつかの船が港へと入港してくる様子に目を丸くした。

 

「なんかね、年内に島の基地を元通りに復旧させるらしいよ? 他の島に住民の人達が戻ってくる事が決まったからみんな急がないといけなんだって~」

「・・・は? なんだそれ!? 上層部の連中は正気か!?」

「ん~、小笠原村復興なんとか、えぬじーおーとか言う人達の活動で署名がすごい数になったとか聞いた?」

「俺はそんな事聞いてないぞ!? って言うか何考えてんだ本土の連中はっ! 敵の攻勢は無くなったけど、たった四人の艦娘でカバーできる範囲なんてたかが知れてんだろ!? 民間人守りながら深海棲艦と戦えるわけないだろが!」

 

 重機が甲板に見える輸送船が島の港へと入って来る様子に目を剥いて伊58ののんきな様子と反比例した態度で中村は守らなければならない人数が数倍になり、自分達に降りかかる手間と労力は軽く百倍になるだろうと予測して驚愕に叫ぶ。

 

「ふんっ! 久しぶりに顔見たと思ったら、随分となっさけないセリフを吐いてるわね!」

 

 基地の復旧に使う資材を積んでいるらしい輸送船団に向かって一頻り叫んだ後に呆然としていた中村のすぐ近くから気の強い少女の大声が上がる。

 

「は? なんで・・・霞の声が? ・・・どこからだ?」

 

 聞き覚えのあるその声の主に心当たりがあった中村は辺りを見回してその姿を探すが、声はするのにその姿は見えず髭面を傾げる。

 

「どこ見てんのよ、ホント鈍いったら無いわね!」

「うぉわっ!? なんでそんな所から!?」

 

 首を傾げている中村の足下、小さな少女の手が下から波止場の縁を掴み、小柄な体が跳ねる様に彼の前へと躍り出て灰色のサイドテールの毛先を跳ねさせた。

 

「あ~、霞でち、霞もあの船できたの?」

「ええ、でも接舷作業にもたもたしてるから先に降りて来たわ」

「あらあら、久し振りね、相変わらず霞ちゃんは元気なのね」

 

 軽く手に付いた土を払った朝潮型の駆逐艦娘がのほほんとした調子で声を掛けてくる潜水艦や空母と短く再会の挨拶を交わしてから中村へと歩み寄り、一歩ほど間を開けた場所から小学生にしか見えない少女は睨むような気の強い視線を彼へと向ける。

 

「霞、お前、何で・・・? もしかしてお前の指揮官と増援に来てくれたのか?」

「はぁ? なに馬鹿な事言ってんの、って言うか馬鹿じゃないの? ホント、なんでこんなのが私の司令官なのかしらっ」

 

 彼女の突然の出現に呆然として見下ろす中村と腰に両手を当てて肩を怒らせ顎を上げて彼を見上げる霞。

 その言葉と態度に困惑しながら中村は見つめ合っていた霞の澄んだ瞳にふと違和感を感じて覗き込むように身体を傾げる。

 

「司令官ってお前は俺の艦隊から外れて・・・はぁっ!? 霞、お前、その目どうしたんだ!?」

 

 両手で霞の頭を挟みその左目の瞳孔に重なるように刻まれている菱形に並ぶ四枚の花弁に気付き驚きの声を上げ、その彼の反応に朝潮型駆逐艦はどこか満足げに口元をつり上げた。

 

「てーとく、どうしたの?」

 

 幼い見た目に不釣り合いなほど気位の高い少女がされるがままに頬を中村の手で挟まれたまま、その腕を振り払う事無くむしろ誇らしそうな態度で不敵な笑みを浮かべて彼と見つめ合う。

 

「ぁっ、すごいでち!? 霞の目が吹雪と同じになってる~!」

 

 驚きに硬直した中村と存分に驚くが良いとばかりに胸を張る霞の様子が気になった伊58が横合いから駆逐艦娘へと目を向け驚きの声を上げる。

 

「研究室が新しく艦娘の改造技術を開発したから被検体をやっただけよ、まっ、こんなの強化の内にも入らないわね」

「被検体ってお前、何でそんな危なっかしい事を・・・うぉっ!?」

 

 アンテナ型の髪飾りを付けたサイドポニーを揺らし自分の顔を挟んでいる中村の手を振り払った霞はさらに一歩踏み出して彼に近付き、頭がぶつかりそうになったところを咄嗟に仰け反った男の胸元へと素早く手を伸ばす。

 

「っと、なら何でこんな所にっ、ぐぅぇっ!?」

 

 開けっ放しの胸元を少女の手が握り、白い布生地が強引に引き伸ばされ中村の胸元にも届かない背丈の身体に見合わない腕力によって額同士がくっ付くほどの至近距離まで二人の顔は近付き。

 花菱の模様が刻まれた大きな琥珀色の瞳が一気に剣呑さを宿し、目の前で急激に膨らんだ威圧感に仮にも自衛隊士官であるはずの青年は蛇に睨まれた蛙の様にその場で硬直する。

 

「それにしてもなんて格好してんのよ!? 制服の開襟どころかまともに服も着てないし、その汚らしい髭面、・・・鳳翔さん、こいつの事を甘やかし過ぎだったら!!」

「あら、霞ちゃん、お髭の提督も素敵なのよ? 野性味があって、ふふっ♪」

「は、離せ、離してくれ!? ちょっ、よ、止せ! 霞っ!?」

 

 すさまじい剣幕で柳眉をつり上げ今にも噛みついてきそうな程に八重歯をむき出しにした霞が指揮官の襟首を片手の握力だけで締め上げ、のらりくらりとした調子で微笑む鳳翔の前で中村の顎に生えた中途半端な髭が少女の爪で数本が一気引き抜かれた。

 

「ひぎゃぁっ!!」

 

 次の瞬間、無造作に無精ひげを引き千切られた些か情けない男の悲鳴が港に響き渡り、慌ただしく仕事に従事している海自隊員達が何事かと中村達がいる一角へと視線を向ける。

 だが彼等が視線の先に鳳翔と伊58の姿を確認した直後、労働の熱にバテかけていた隊員達は表情を真顔に戻して自分達は何も見なかったと自己暗示して勤労精神を満たす為に仕事へと戻っていく。

 

「ふんっ! アタシが艦隊に戻ったからにはもうこんなだらし無い真似はさせないわよ!!」

 

 霞は不機嫌そうに鼻を鳴らしてから千切った毛を指先から払い落して中村の襟首を引っ掴んでいた手を開く。

 

「覚悟しなさい、このクズ!!」

 

 そして、中村の異動後に所属していた艦隊の司令官から「(ママ)、行かないで!」と言う懇願を文字通りに蹴り飛ばして(私はアンタの母親じゃないったら!して)、研究室や司令部と交渉の末に自らを新技術の被検体にする事で中村の艦隊へと戻る権利をもぎ取った駆逐艦の怒声が南の島の穏やかな空気を震わせた。

 

「さぁ、さっさと準備しなさい、帰るわよ!」

「痛っぅ・・・準備ってなんのだよ、帰るって何の話だ? いきなりすぎて意味が分からないぞ」

 

 やっと襟首を解放された中村は突然に髭を引き抜かれてヒリヒリする顎を横から手を伸ばしてきた鳳翔に撫でられながら目の前でふんぞり返る霞へと問いかけ。

 

「そんなの鎮守府に決まってるったら! みんな待ってるんだからこれ以上待たせたら承知しないわよ!」

 

 硫黄と緑の匂いが風に揺れる冬と言うには温かい南の島の港、顎を引き鼻息強く腰に手を当てて堂々と朝潮型駆逐艦娘の霞は呆けた顔をしている中村義男特務二等海佐へと宣言した。

 

「は~い、みんなこっちよぉ、足下に気をつけてねぇ~」

「「「はーい!」」」

 

 胸を張り堂々と中村の艦隊に復帰した事を宣言する霞の背後、反対側の岸壁への接舷が終わった輸送船から遠征とかかれた旗が先端で揺れる薙刀を手に持つ軽巡洋艦娘、龍田と彼女に引率されているらしい輸送艦娘が小さなコンテナが幾つも乗った背負子と共に硫黄島へとぞろぞろと上陸し。

 

「護衛艦隊も行くぞ! 遅れんな、ちゃっちゃとしろよ!」

「うん、がんばる・・・」

「は、初雪が自分から隊列に!?」

「むぅ、司令官・・・私だってやる時はちゃんと、やる・・・よ」

 

 その後ろから模造刀を腰に佩いた天龍が指揮官と共に妹の引率する列に続いて数人の艦娘達を引き連れていく。

 




そして、ここがモンダイノカイイキッ!

吹雪「そんなっ! ダメですぅ!(大破)」
五十鈴「まだ大丈夫っ(ry
鳳翔「このまま(ry
伊58「治しt(ry
吹雪「(ry
・・・ループ&ループ

主任「高速修復材送るよ~♪」
明石「どんどん送りますよ~♪」
猫吊るし「78歳(故)、学者です」つライブラ

タ級F「私ヲ倒シテモ第二、第三ノ(ry」チュドーン!

中村(赤疲労)「二ヵ月かかりましたけど何とか硫黄島確保しました、自分、帰って良いっすか?」

防衛省「ファッ!? なんやて!?」
   (どないしょ、基地確保まで考えとらんかった、しゃーない、また深海棲艦に奪われるかもしれんけどここは戦略的撤退やな、優秀な人間に死なれたら元も子も無いわ)

国交省「おい、何で折角確保した土地を勝手に捨てようとしている、許さんぞ」
農水省「新鮮なご飯(水産資源)の匂いがしたので国の方から来ましたぁ! 国民皆さんの為にも食料自給率をも~と上げたいです!」
小笠原島民「我々は賢いので署名をたくさん集めました、さぁ、私達に島を返すのです」

防衛省「面倒事が増えたぁ!? なんでアイツ(中村)無茶振りのはずの作戦、成功させとんねーん! 空気読め、アホぉおっ!!」

その為の放置プレイ。
 
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