艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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アンタ等には此処でケジメ付けてもらわなあかん。

理由は分かっとるやろ?

演習やと思って調子に乗り過ぎたんやなぁっ!!
 


第五十四話

 空に向かって波打つ境界線を打ち破り、構築を優先した巻物型の飛行甲板を手に軽空母艦娘が銀線を手繰って光の粒子を纏わり付かせた肌を宙に踊らせる。

 海面に置き去りにした輝く茅の輪から噴出する光の粒と金属部品が空へと昇る龍驤の体を追いかけて純白のシャツを膝丈のスカートを編み上げ、膝を脚を腰を鋼で武装させていく。

 

《さぁっ、艦載機の皆っお仕事や!!》

 

 鋼色のサンバイザーの下で戦意を漲らせた視線を鋭く眼下へ向け、高らかに声を上げ、青い空に紅色の袖をはためかせる戦装束を纏った軽空母龍驤がその手の巻物に繋がり揺れる飾り紐を掴んで引き延ばす。

 

『第一部隊の編成は全て爆撃機にしたわ! 12機行くわよ!』

 

 まるでゴムの様な伸縮性を見せて巨大な巻物の芯棒と龍驤の手の間で伸ばされた紐を伝って霊力の光が立ち上り、短弓の様に構えた巻物を手に強い視線で眼下の海原を見下ろす龍驤によって引き絞られた紐がその手から離され弾ける様に風を切る。

 

《しゃぁっ! 攻撃隊発進っ!》

 

 意気込みの声を上げる龍驤の指の間から紐に弾かれて勅令と記された火の玉がスリングショットの要領で飛び出し、流れる様な手際の良さで同じ動きを水干風の袖が繰り返す。

 青い空で燃え上がった複数の火の玉がその姿をレシプロ機へと作り替えて碧い海で輝く金の輪へと急降下していった。

 

《先手必勝やっ、いてこましたれ!》

 

 鳳の字が浮かび上がろうとしている輪へと機首を向けた灰色の艦上爆撃機が胴体に装備した爆弾を次々と切り離して海面の攻撃目標に目掛けて落とす。

 黒い涙型の爆弾が風切り音をたてて金の輪の周りで起爆し、龍驤が見下ろす海面が真っ白に染まるほど巨大な水柱が彼女の足下まで水飛沫を立ち上らせる。

 

《やったで! ちょい早いけどこれで決着やなっ!》

 

 自重を重力から切り離す性質を持った空母艦娘特有の障壁を展開した龍驤の手で飛行甲板の模様が光線で浮かび上がる巻物が広げられ風を受け縦長のハンググライダーの様に芯棒に繋がる紐にぶら下がった軽空母の体ごと海面の爆風で発生した上昇気流に乗せ舞い上がらせる。

 

『重量軽減1/10で安定、龍驤、提督、艦爆隊収容後に偵察機を出すよ』

 

 先ほど発進させた十一機(・・・)の爆撃機がU字を描いて反転し母艦(自分)へと帰投してくる様子に会心の笑みを浮かべた龍驤の焦げ茶色のツインテールが揺れるこめかみを突然に針で刺した様な短く鋭い傷みが走った。

 

《痛ぅっ! 今のなんや!?》

 

『脚部機銃、下舷五時方向、照準急げ! 龍驤、姿勢制御頼む!』

 

 艦橋で命令を出す指揮官の言葉に戸惑いに眉を寄せたものの龍驤はすぐさま膝に増設された機銃の角度を言われた方向へと合わせる為に体を捻り斜め下へと目を向け。

 

『時雨っ、偵察機への換装を中止!』

『わ、分かったよ!』

 

 その先にあった淡く輝く空を向いたプロペラが生えた光球、そして、海面へと収まり始めた水柱の中からそれに繋がる銀色のワイヤーに目を見開いた。

 

 彼女達、空母艦娘にとって馴染み深いそれを見た直後、何故そんな物が自分の真下に存在しているのか龍驤には分からず一拍の間驚き戸惑う。

 

 だが、頭の上に広がる平面へと着艦した十一機目の艦載機が最後尾だと知らせる声が艦橋の仲間から伝えられたと同時に先ほどの頭痛の原因へと辿り着いた軽空母は先ほどの浮かべたばかりの笑みをへの字に強ばらせて眉と目を怒りに顰めた。

 

《鳳翔ぉっ!! あんた、ウチの艦載機を盗りおったなぁっ!?》

 

 龍驤の膝に接続されたケーブルから霊力を供給された25mm機銃が火を噴き、他空母の手で中継機に変形させられてしまった九九艦爆を貫こうとするが、その弾丸が命中する直前に真下から急上昇してきた解れ一つ無い朱色の着物がプロペラへとぶつかり燐光を散らす。

 

《あら、盗んだなんて人聞きの悪い》

 

 銃弾の雨を難無くすり抜け上昇の勢いをそのままに深い紺色のスカートを翻し、長弓を手に飛行甲板を模した肩当てを左肩に付けた素朴ながら整った顔立ちの美女が太陽へと黒髪の尾をうねらせ龍驤を見下ろす。

 

《この子はちょっとだけ借りているだけですよ?》

 

 その右手を包む弓掛が握るのは勅令と記された火を宿した水晶の玉。

 表面上はお淑やかな微笑みを浮かべる鳳翔の名を与えられた空母艦娘の手の中で勅令の文字が消えて玉の主導権が完全に書き換えられて一本の矢へと姿を変えた。

 

《なので、お返ししますね?》

 

 目の前で他人の所有物の名義を書き換える所業をしておきながら悪びれる様子など一欠片も無く、鳳翔は龍驤から奪った艦載機を弓に番えて自分の身長と同じ長さを持った強弓を容易く引き絞る。

 

《こっ、のぉおおっ!!》

《あら、受け取ってくれないんですか》

 

 相手が何をやろうとしているのか、鎮守府の湾内演習で嫌と言うほど味わった経験を持つ龍驤は巻物型の飛行甲板を素早く巻き取り丸め、身体を覆う障壁の一部を弱めて自重を増やす。

 

《ならこの子はこのまま私が使わせてもらいますね?》

 

 指揮官の許可を取らずに咄嗟の判断で重量を変化させ揚力を失いながら振った手足の慣性移動、それによって空中回転した龍驤の額を覆う金属のサンバイザーがガリリと固い音を発し、艦載機を奪われた軽空母が音と衝撃の正体を確かめる流し目の先に燐光を纏った矢が光の中で翼を生やしていく様子が映った。

 

『龍驤、戦闘機隊いけるよ!』

『身体の向きっ、もうちょっとそのままにしててヨ! 弾丸のシャワーをお見舞いしてやるデース!』

 

 頭から海面へと落下する龍驤の腰と膝で対空機銃の矛先が落下していく彼女を見下ろす上空の鳳翔へと向かい光の礫を大量に撃ち出す。

 だが、その銃弾が鳳翔へと到達する寸前にその肩の飛行甲板が鋼線を撃ち出してウィンチが火花を散らし、和服が風の中で暴れるようにはためいたと同時に映像のコマが抜けたような急激な加速でその身体が真横へと跳んで対空砲火を全て回避する。

 

『くそっ、毎度ながら冗談みたいな動きをする! 義男の奴なんであれに耐えられるんだ!?』

 

 艦橋にいる指揮官の悲鳴じみた苦情に言葉無く同意しながら龍驤は袖の内側から出てきた火の入った水晶玉を一つ握り、愛用の巻物の紐をまた引き絞り上空に向けて頭数を用意する事だけを念頭に置いた出鱈目撃ちで戦闘機を連続発進させる。

 

 そして、素早く発艦作業を終えたが海面まで数十mと言う所まで落下していた龍驤の身体は再び淡い光に包まれその重量を減らす。

 海面近くで低空の風に煽られながら落下速度を軽減した龍驤は自分の胴体とほぼ同じ太さを持つ巻物型の飛行甲板から機動ワイヤーを打ち出して上空で待つ自分の子機へと接続させる。

 

『ど、どう言う事ですの!? 私達の戦闘機が!?』

 

 スカイダイビングから使い慣れた九六式艦上戦闘機へと繋いだワイヤーで逆バンジーじみた急上昇を行っている龍驤の中で三隈が悲鳴を上げた。

 

《ちぃっ、なんやこれ、次から次に落とされとる・・・あんの連中、どんな手品使っとんね、・・・はっ、ぁ?》

 

 急落下に対処する為に艦載機の制御を全て艦橋に居るメンバーに任せたとは言えついさっき打ち出したばかりの戦闘機が次々に撃墜されていく情報が飛び交う艦橋の様子に眉を顰め、バイザーの下から軽空母艦娘が見上げた空にあり得ないモノが舞う。

 

 ディープグリーンに塗装された太いボディに映える赤丸、ゼロ戦よりも大きく広い翼が風を切り、二丁の20mm弾を連発する機銃が上空を逃げ回る九六艦戦を追い回して撃ち抜き光粒へと砕いていく。

 軍艦だった頃の龍驤は知らない機体、艦娘になってから鎮守府の第二次大戦史を学ぶ座学で見た資料でその存在だけは知っていた幻の戦闘機が唖然と口を開けたまま中継機とぶつかり艦内へと回収する花火の様な光を散らした龍驤とその艦橋のメンバーの視界を高速で横切った。

 

『・・・烈風・・・だと・・・』

 

 数機の試作機のみ造られたが戦場での戦闘記録を持たない最高の戦闘機、戦争に間に合わなかったゴーストファイターが空を征く。

 

《んな、アホな・・・》

 

 同じ日の丸を翼に記した白灰色の旧式機が濃緑に追い立てられる様に逃げ回る戦闘空域を目撃した指揮官が目の前で起こっている状況の荒唐無稽さに掠れた呻きを漏らす。

 

《・・・そんな分かり易い油断を見せているのは、撃墜(おと)されたいと言う事ですね?》

 

 時間にして十数秒、龍驤達が陥った思考の停滞は後ろ頭に聞こえた鳳翔の穏やかな声で中断され、耳を掠る風切り音に反射的に身を捩る。

 だが避けきれず水干風の袖を中の腕ごとへし折る為に叩き付けられた厚底の船底によって割れた龍驤の障壁が爆ぜる光の粒を宙に撒く。

 

 咄嗟に艦橋の仲間が増やしてくれた霊力の供給によって厚みを増した障壁に覆われた事で骨だけは守れたものの赤い布地が引き裂かれて上空の風に散り。

 裂傷を負った左腕を庇いながら龍驤は踵落としの姿勢で足を振り下ろしていた鳳翔へと振り向く勢いのまま身体を横回転させて障壁の光を纏った足を猛スピードで振り抜いた。

 

《鳳翔ぉっ! なんであんなもんがあるんやっ!?》

《提督から頂きました。 私には少々大袈裟かもしれませんが良い子達ばかりで助かっています》

 

 しかし、その龍驤の反撃が当たる寸前に鳳翔の身体がまるで風に煽られた木の葉の様にふわりと揺れて風を鋭く切る足を最小限の動きで避け、微笑みを絶やす事なく朱色の袖を振った空母はまるで今日の献立を教える様な他愛の無さでそう告げる。

 

《も、貰ったって、なんやそれ!?》

 

『航空隊の残存三機だっ、龍驤、一度回避に専念して体勢を整えてくれ!』

 

《・・・こんのっぅ!》

 

 負傷した腕を庇いながら手近な艦載機の生き残りへ鋼糸を繋いで一目散に鳳翔から離れる龍驤は驚愕に目を剥き悔しげな呻きを漏らす。

 その姿を見送りながら鳳翔は左肩の航空甲板から光の線で形作る滑走路を広げ、その輝くガイドビーコンに従って翼を休める為に戻ってきた戦闘機達を迎え入れていく。

 

 同じ航空母艦の黎明期に造られた過去を持つ龍と鳳、銀線に引っ張られて天を駆ける驚愕に見開かれた瞳と慈母の微笑みを浮かべ片翼で風に乗る視線が交わる。

 

・・・

 

 吹雪と島風による海上で行われたドッグファイトの直後に展開した龍驤の爆撃、その見事な急降下爆撃を行う飛行編隊の先制攻撃は同じ空母艦娘として見習うべき部分が多くあると赤城型航空母艦を原型に持つ赤城は感じ取った。

 だが、それは自分が理解できる範疇においての見解であってその後に自分が師と仰ぐ鳳翔が放った艦載機の姿に彼女の果物を詰め込みリスの様に膨らんでモゴモゴしていた頬が静止して涎の様に果汁が口元から滴を落とす。

 

「赤城さん、口元が汚れているわ・・・」

「加賀ふぁんも・・・リンほ、落ひましたよ」

 

 佐世保で行われている式典と公開演習の様子が映る広いスクリーン。

 国土防衛任務の為に待機もしくは休息している鎮守府に残った艦娘達は自分達が参加出来なかったイベントを艦娘寮の一階食堂に持ち込まれた大型の映写機によって映し出されている中継映像を観戦気分で楽しんでいた。

 

 そんな風についさっきまでは駆逐艦同士の超高速戦闘と言う鎮守府での湾内演習とは比べ物にならない迫力に、ぽいぽい、わーわーと少し耳障りな程に騒いでいた駆逐艦達。

 士官達とスクリーンの向こうで行われている演習に関して自分達ならどう対処するかなどと戦術議論を交わしていた軽巡、重巡。

 その場の全員が高く空を舞い立体的に飛び交う航空機と龍驤と鳳翔の戦いに揃って目を丸くしている。

 

 だが、彼ら、彼女ら以上に空母艦娘達は映像の中の鳳翔が行っている戦闘の異常性に自分達の目を疑って絶句したまま目を擦ったり何度も瞬きを繰り返していた。

 

「あ、あれって烈風って奴でしょ!? 何であんなのが、私たちでも52型を再現するのがぎりぎりなのにっ!」

「本当に、鳳翔さんはいったいどうやって・・・」

 

 演習を見るついでの間食用に給糧艦娘の間宮が切って盛ってくれたリンゴの皿にフォークを持った手を伸ばした状態で硬直した瑞鶴が薄墨色のツインテールを揺らし、同じく唖然としている姉の翔鶴が妹の言葉に同意して小さく首を縦に振った。

 

 原理不明の方法で作り出される砲弾や魚雷へと霊力を圧縮注入し着弾時に熱エネルギーへと変換する事を基本にしている他艦種の艦娘の武装と比べると空母艦娘が行う攻撃方法は一際、その特異性が強い。

 

 そして、空母の代名詞とも言うべき艦載機の運用は彼女達の記憶や思考の影響を強く受ける性質があり、自分達の原型である軍艦が運用し慣れ親しんだ経験がある機体なら目を瞑っていても霊力を結晶化させ像を結んで形作り、それらを現代へと蘇らせる事が出来る。

 更にラジオコントロールの様に思考だけで過去の艦載機を再現した無人機を動かすだけに留まらず、その各機体から送られてくる複数の視界と情報を同時に認識して集約管理すると言う並みの人間には無理な芸当を彼女達は生まれながらに行う事が可能だった。

 

 だが、それは良く知っている機体の話であり、使った事が無かったり運んだだけの飛行機の場合はどれだけ頑張って想像しようとも機体構造や実際の飛行機動などの記憶や思い出の欠落によって形だけがマネされた中途半端なモノが飛び出し墜落すれば良い方と言う有り様となる。

 

 その問題を解決する為に埃を被っていた飛行機の写真や設計資料を頭に詰め込み、戦時中の貴重な記録映像を穴が開くほど見詰め、最新の航空力学を徹夜で学び、それらの理解をさらに深める為に議論と実践を仲間達と数えきれない回数繰り返して頭に叩き込んだ。

 そこまでやった結果はそれぞれの艦載機の運用の習熟には役立ったものの新機体の再現には至らず。

 

 その苦く辛い詰め込み学習の経験をその場の空母達全員が知っているからこそ、あり得ないと断言できる現象を日本で初めて建造された空母である鳳翔を原型に持つ空母艦娘が成した事実が現実であると信じられないでいる。

 

 同じ空母としても美しいとすら思える発着艦技術で存在しないはずの艦載機を操り、船だった頃には見た事も無く乗せた事の無いはずの烈風を自由自在に空に舞わせ。

 鳳翔はその逞しい緑の翼と並行して青い空に朱色の袖を羽ばたかせる。

 

『義男、お前今度は何をやったんだっ!? いくら何でもそれはあり得ないだろ、それは!?』

『おいおい、人間が想像できる事は現実になるって名言を知らねぇのかよ? 俺に言わせりゃ島風の特撮じみた遠隔砲台の方があり得ないぜ』

 

 一般のテレビ放送と違って研究室の要望で佐世保の海上で行われている演習の全ての映像音声と無数のセンサーが捉えた情報が鎮守府へと送られてくる関係からか、その回線を利用している艦娘寮の食堂での上映会はリアルタイムで交わされる指揮官同士やその指揮下にいる艦娘達の声を響かせる。

 

『だが、今までどうやっても出来なかったはずだ! どれだけ彼女達に機体構造を覚え込ませてもっ』

 

 艦載機を全て戦闘機に換えて防戦している龍驤とそれを余裕の表情で見下ろしながら烈風を体の周りで周回させる鳳翔の艦橋同士で言葉を交わす指揮官達の声を一言一句逃してはならないと赤城は自分の耳へと神経を集中させ。

 

『あぁ、言っとくが鳳翔は機体の細かい構造とか性能とか理解して烈風を使ってるわけじゃないぞ?』

 

 そして、中村が何気ない調子で言ったその言葉で瑞鶴の横に座っていた最近クレイドルから目覚めた雲龍型空母がごふっと咽せて緑の胸当てを口と鼻から零れたお茶で濡らした。

 彼女もまた先達の助言を借りながら航空知識が盛り込まれた百科辞典数札分に相当するテキストを相手に現在進行形で難関大学に挑む受験生じみた生活を送っている空母艦娘である。

 

『バカな、それこそあり得ない!?』

『はっはっ、現実を直視しろよ』

 

 まるでしてやったりとでも言う様に笑う中村の自慢げで能天気な声と映像の中で残像すら見えるほど早い手捌きで強弓に追加の烈風を番えて青空へと羽ばたかせ、自分に襲い掛かってきた九六式戦闘機の銃弾を躱し蹴り潰し、哀れな犠牲者を踏み台にする鳳翔の戦い方の間で強烈なギャップとなって食堂に居る空母艦娘達を更に混乱させる。

 

 あらゆる角度から死角が無い様に張り巡らされた障壁の維持とカメラやセンサーを詰め込まれた最新機材ですら追い付けない不規則かつ複雑な飛行を行う鳳翔の姿は艦娘の優れた動体視力ならギリギリ捉えられる程度。

 つまり、食堂に居る艦娘以外の士官や基地職員の目には朱色の残像と鳳翔が片翼(飛行甲板)を広げ着艦を行いながら弓を引いている様子が交互見えている状態となっていた。

 そして、戸惑い近くの艦娘に何が起こっているのかを問う自衛官達だが、聞かれた方も画面内の様子を追いかけるので手一杯となっており、艦娘達の口から出るのは要領を得ない説明未満の言葉か擬音語がふんだんに盛り込まれた特撮を見ている子供の様なセリフだった。

 

『まぁ、こんなもん試すどころか想像すら出来ないだろうよ、俺だって出撃続きでテンションが変になってなきゃ、やらなかったさ・・・くくっ』

 

 そんな彼等の混乱の原因の一つであろう中村の乾いた笑いが混じる声に耳を(そばだ)てていた赤城はいつの間にか自分がつい食堂のテーブルに身を乗り出してしまっている事に気付き。

 そのはしたなさに頬を赤らめるが周りを見ると同じ様に空母だけでなく多くの艦娘が目を皿の様にしてスクリーンへと熱心な視線を向け自分の行儀の悪さに気付いていない事に胸を撫で下ろした。

 そんな彼女の横からスッとハンカチが差し出され、先ほどの驚きでリンゴの汁を零して口元を汚していた赤城は相方である加賀の思いやりに溢れた無言の行動に感謝しながら頬を少し赤らめて自分の席に戻る。

 

『思わせぶりにっ! 何が言いたい!?』

『つまりあれだ、間宮がドラム缶をミニチュアに変えた時と同じ様な偶然の発見だよ』

 

 上下左右から襲い掛かてくるゴーストファイターへ応戦している龍驤の艦橋で制御盤に向かっている田中の横で時雨が残存の戦闘機が半分以下になったと悲鳴を上げ、霊力の消費によって障壁の維持が限界に近付いていると矢矧が叫ぶ。

 

『ははっ、お前知ってるか? 艦娘の増設端子には・・・USBケーブルも接続できるんだぜ?』

 

『・・・は? いきなり何を・・・おい、それ冗談だよな・・・な?』

 

 中村のその言葉で食堂が静まり返り、風を切って空を飛ぶ空母艦娘と艦載機のエンジン音や銃弾をばら撒く機関銃の音が妙に大きく響く。

 

「ゆーえすびー? ゆーえすびーとはいったい、新しい訓練法方なのでしょうか?」

 

 数十の艦載機を手足の様に操り、風を読み舞う様に空を飛ぶ事は出来るがコンピューターの扱いには疎い一航戦の赤い方の脳内でハテナマークが乱舞し。

 

「いえ、赤城さん、接続と言うのですから新型の装備でしょう、・・・もしかして、あの艦載機はケーブルで鳳翔さんと繋がっている、と言う事?」

 

 初めて聞く単語を何とか推理によって惜しい所まで理解して見せる一航戦の青い方が珍しく表情を変えて困惑の思いを込めて頓珍漢なセリフと同時に眉を寄せる。

 

「なるほど、目に見えない凧紐の様なモノなのね、と言う事はゆーえすびーと言う物を付ければ私達もあの艦載機が使えるようになるのでしょうか?」

「・・・それは、分からないわ。けれど、鳳翔さんほどの業が無くては優秀な機体であってもあそこまで性能は出せないのは間違い無いでしょうね、きっと五航戦だったなら発艦の時点で絡まってしまうわ」

 

 そして、そんな正体不明の新技術を自分の手足の様に使える尊敬する師匠の姿に一航戦コンビ(アナログ空母達)はその胸に宿す畏敬の念を更に高めた。

 

「瑞鶴先輩、確かUSBってパソコンに繋いで情報をやり取りする導線ですよね? 凧糸じゃない・・・ですよね?」

「・・・あの二人、艦載機の構築と制御に使う空力とか機動の計算、頭の中で全部やっちゃうから必要ないって言って情報処理(コンピューター)の授業受けてないのよ」

 

 一定以上の演習経験と高校程度の教育を受けテストで合格点を取りさえすれば出撃許可が出る現在の艦娘教育体制では一般常識以上の専門知識に関する授業は基本的に選択制であり、艦娘の中には最低限の授業が終わったら演習などの訓練と戦闘だけに注力する(脳筋化する)者も少なくない。

 そして、その選択制の弊害からか艦娘の中には現代人以上にコンピューター技術を巧みに操る者がいる半面ではそう言った技術を必要無しと見なしてしまった為にテレビとパソコンの違いが分からないと言うちょっと残念な艦娘も一定数存在している。

 

「天才と何とかは紙一重って言うでしょ、そう言う事よ」

「ゆ、優秀な方達なんですね・・・」

「それにしても鳳翔さんはそれをどう使って烈風の再現を可能にしたのかしら・・・」

 

 口元を引き攣らせる後輩に素っ気ない態度で返事を返した瑞鶴はフォークで突き刺したリンゴを口の中に放り込む。

 そして、そんな残念な二人の艦娘のどちらにも湾内演習で一度も勝利した事が無い翔鶴型の次女はスクリーンの向こうで理不尽な相手に奮戦する自分の艦載機運用の教導を担当してくれた龍驤を心の中で応援していた。

 




 
多分、一章と二章の数少ない出撃シーンで気付いている人はいると思う。

この作品の艦娘は戦闘形態になった直後は〇〇〇で現れます。(○にはひらがな三文字)

別に気付かなくても何の問題も無い情報だけどね。

龍驤の艦載機はヒトガタのはずだって?

そんなの紙っぺら飛ばすより勅令の火の玉を飛ばす方がカッコいいからに決まってんでしょ。
(原作へのリスペクトを失ったクズ作者談)
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