艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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貴女の生き方は艦娘の存在意義すら歪めていく。

そして、いつか貴女は本当に偶像(アイドル)に成ってしまう。

私にはまだ、それを認める事が出来ないから・・・

私の艦娘としての誇りを守る為に。
貴女を艦娘で在り続けさせる為に。

私は貴女を討つ。
 


第五十六話

 装甲が施されたブーツが海面でステップを踏み、星形の光を散らしながら黒色のグローブと小手に包まれていく腕が煌めく光の中で弧を描き。

 碧い海に一際目立つ明るいオレンジ色のセーラー服を纏った少女の茶髪が頭の左右でお団子に結ばれ二本の前髪がピンとおでこの上で揺れる。

 

《艦隊のアイドル、那っ珂ちゃんだよー♪ よっろしくぅっ☆》

 

 演習と言う疑似戦場には明らかにそぐわない、自分をアイドルか何かと勘違いしているような態度のまま軽巡洋艦那珂を原型に持つ艦娘がまるでステージの真ん中でファンに挨拶しているつもりなのか茶色のスカーフタイを海風に揺らし、両手を上げて四方八方へと手を振る。

 そんなどこかの誰か(ファン)に向かって挨拶している最中らしい那珂の遠く十数キロ離れた場所で砲声が連続し、空へと打ち上げられた熱エネルギーの集合体が空気を焼きながら放物線を描いてお団子頭に目掛けて飛来した。

 

《きゃはっ♪ もぉ~、せっかちさんは嫌われちゃうぞっ☆》

 

 几帳面なほど正確に自分を狙う砲弾へと顔を向けた那珂はあざといスマイルを保ったまま軽くしゃがみ。

 その両手を自分の装甲ブーツへと向け、直後に開いた黒鉄の装甲板から飛び出す様に突き出てきた仕込みナイフの柄を引き抜き滑らかに半回転させ。

 那珂の掌から供給される霊力でケミカルライトの様な光を灯した小刀を逆手に握った両手を川内型軽巡艦娘は体の前で交差させて構える。

 

 直後に連続する破砕音と無数の水柱。

 

 その渦中で中腰の姿勢から自分への命中弾をナイフの刃先で切り払い、立ち上がり次弾を刃の反りにあわせて背後へと受け反らし、回避出来る砲弾は最低限の足捌きで避け。

 砲撃の着弾で波打つ不安定な足場をものともせずに川内型姉妹の三女は演習相手が放った一斉射の中からアイドルスマイル(あざとい笑み)を絶やす事無く悠々と歩み出た。

 

『先制攻撃は取られたが、・・・那珂は相変わらず良い動きをしてくれる』

 

《アイドルなら当然ですよぉ、プロデューサーさんっ☆》

 

 光刃を手に那珂は脚を踏み出し波を蹴って走り出し、そのブーツの踵と左右に四連装魚雷管を接続している腰部艤装、計三機の推進機関が燐光を渦巻かせて唸りを上げる。

 駆逐艦ほどではなくとも現代船舶を大きく上回る航行速度で波を踏み割り、航跡を海原に刻む軽巡艦娘は左腕を前方へと突き出しその腕の上に並ぶ四基の単装砲を先ほどの砲撃から予測される敵位置へと向けた。

 

《それじゃぁ、今度は那珂ちゃんの番ですねっ♪ いっきまーす!》

 

・・・

 

 軽巡洋艦娘としての那珂、クレイドルによって作り出された人の体を得た直後から自分をアイドルと自称している艦娘であり、着任当初の中村と田中に艦娘はクレイドルの中から目覚める際に現代知識を得て出てくるのだ、と勘違いさせた元凶。

 

 その無闇矢鱈に明るく人懐っこい性格は多くの艦娘、特に一部の駆逐艦には本人の自称通りのアイドル的な立ち位置で好意的に受け入れられている。

 だが、同時にその軍人に見合わない奇っ怪なしゃべり方とおチャラけた性格が気に入らない艦娘達からは現代気触(かぶ)れの歌舞伎者(かぶきもの)として嫌われてもいた。

 

 そんなふうに人格に関しては両極端な評価を受ける軽巡艦娘であるが、大半の艦娘、彼女の本質を知る事になった者達は口を揃えて那珂と言う艦娘を指してこう評する。

 

『本当に質の悪い軽巡だわ・・・』

 

 旗艦として海に立った直後からすぐさま水平線へと目を走らせ艦橋の望遠機能を最大にして空から海上へと降下していく中村艦隊を見つけ。

 彼らが着水した地点を目視と計算を駆使してわずか一分程で割り出した矢矧は15cm連装砲三基、8cm連装高角砲、計八門を使った自分の一斉射が、しかし、何の戦果も出さなかった事に歯噛みする。

 

「取り回しが良い小刀型とは言え亜音速で飛んでくる八発の砲弾を全部切り払うかい・・・」

 

 仲間達が抱く那珂の評価を纏める要因とはつまり、彼女の装備の性能ではなく華やかなアイドルを自称する性格に見合わない単純で地味な反復訓練の成果である。

 

「敵に回すと途端に質の悪さが目立つよね、那珂ちゃんさんってさ」

 

 面白半分に別の世界の(架空の)那珂の姿を騙った中村にアイドルなら出来て当然と唆され、彼を一流のプロデューサーと思い込んで慕っている那珂は今では艦娘達が戦闘の基礎技術として使っている幾つかの技を初めて会得した艦娘でもある。

 そうして中村が吐いた突っ込み待ちだったはずの嘘を現実のモノにしてしまった軽巡はその後も自棄になった指揮官のプロデュース(口から出まかせ)を受け続け、自らが志す最高のアイドル(艦娘)へと昇り詰める為、彼女自身がレッスンと称する学習と訓練を地道かつ着実に積み上げてきた。

 

 彼女の姉妹艦、長女の川内なら夜間戦闘と言う奇襲を前提とする領域に高い適性を持ち、戦士としての気質と危険の臭いを嗅ぎ分ける感覚は次女である神通にこそ適性がある。

 むしろ戦闘と言う分野において他の艦娘には必ずと言って良いほど得意な状況や好みの戦術が存在しているのだが、川内型の三番艦は戦闘と言う分野においては得意と特長を持たないある意味では非常に珍しい艦娘だと言えた。

 

 しかし、彼女は対潜爆雷、対空砲撃、砲雷撃戦、接近戦、軽巡が持つ豊富な手札の全てを使いこなしどんな状況であっても、相手が何であれ出来て当然とでも言う様に対応する。

 その経験値の塊の様な那珂の戦い方を湾内演習で体験したり、実戦の中で目撃した艦娘達は彼女の無駄に騒がしい性格も合わせて鎮守府で最も質の悪い(・・・・・・)艦娘として好き嫌いの差はあれど忘れられなくなるほど強い印象をそれぞれの胸に刻んでいく。

 

 その那珂による船足を止める為の堅実に足下を狙ってくる砲撃によって矢矧の左足を守る障壁が削られて細かい傷を受けて肌を覆うストッキングが幾つかの伝線跡を開けていく。

 

「距離2300照じゅっ! もぉっ、フラフラと動いて踊りでも踊っているつもりですの!?」

「テイトクゥ、もう一度攻撃を、このままだと矢矧のバリアが削られる一方デース!」

 

 撃たれても対処できる適度な距離を維持して近接武装と蛇行運転で防御と回避を両立させながら相手の体力を削る。

 

「いや、今は防御に専念して全ての砲の再装填が終わるまで待て、下手に牽制を撃っても反らされて無駄弾になるだけだ」

 

 軽巡艦娘の戦闘方法に教本が存在していたなら写真付きで掲載される事になるだろう手本の様な地味だが有効な戦い方で攻撃してくる那珂を捉えるモニターの望遠画像に視線を鋭くしながら田中は反撃の一手を手繰り寄せる為に頭を働かせ。

 青年士官は指揮席でコンソールパネルに指を走らせながら特殊な力が無いとは言え普通に強い艦娘もまた十分以上に厄介な敵であると今更ながらに理解して唸る。

 

「矢矧、何とか丁字に持ち込めるか?」

『難しいわね、あの子が素直に鼻先を譲ってくれるとは思えないわ、ああ見えて計算高いもの』

「かと言って反転する為に速度を落としたら雷撃の的になるか・・・なら、このまま並行しながら距離を詰める他ないな」

 

 並走しながら牽制弾でダメージを稼ぎ矢矧を演習海域を覆う円形の壁に追い込む事、恐らくはそれが中村と那珂が取ろうとしている戦法だと理解した田中は並走または背中を追われる状態でその状況となった場合に確定してしまう自分達の不利を覆す為に旗艦へとその命令を出す。

 

「しかし、現代の戦場で白兵戦なんてナンセンスとしか言い様が無いんだけどな」

「何言ってるんだい、提督、戦闘の基本は格闘なんだよ?」

 

 約2km先でこちらの様子を伺いながら並走する那珂へ接近を試みる為に出力を上げ推進機関を高鳴らせて身体の重心を傾ける矢矧の艦橋で片目に手を当てて溜め息を吐く田中へと顔を向けた時雨が中性的な微笑みと共に一部の駆逐艦が信奉する格闘戦重視論を口にする。

 

「なぁ、あんま激しい動きされるとウチも島風も辛いんやけど・・・」

「我慢してください、さっきは二人してくまりんこ達を嫌と言うほど振り回してくれたんですもの」

「はぁ・・・、自業自得っちゅう事かいな、かなわんわぁ」

 

 モニターと手すりに背中を預けて足場に座り上着とシャツを取り払われた上半身を満遍なく消毒液臭いガーゼで覆った龍驤が三隈の素気無い言葉にがくっと首を垂れ。

 火傷の痛みに顔を顰めながら空母艦娘は自分の隣で身体を足場に固定されながら腰とお腹の激痛と敗北感で出来た傷心にいじけて丸まっている島風の頭を撫でた。

 

・・・

 

 矢矧が装備している三基六門の15cm連装砲と二基の8cm高角連装砲が再び同時に轟音を放ち、那珂の進行方向を狙った進路妨害によって相手を水柱の中に巻き込み、それを隙と見た阿賀野型三番艦は川内型三番艦へと加速をかけて接近していく。

 

『似合わない戦い方すんな、粗が出るぞ!』

『方法を選んでいられる立場じゃないんだよ!』

 

 しかし、次の瞬間には矢矧の一斉射による水飛沫を速度を全く落とさずに突き破りおでこで揺れ前髪をまっすぐに相手へと向けた那珂が満面の笑みとともに右手に掴んだ魚雷を宙に放っていた。

 直後、時速にして320kmで繰り出された装甲された革靴が海面へと落ちようとしていた魚雷の尻を思いっきり蹴り飛ばし、速度と数百トンの重量エネルギーを押しつけられて爆発物が海上の空気を突き抜く。

 

 そして、底部を蛇腹の様に蹴り潰された魚雷が直線で矢矧へと向かうが、それは彼女に着弾する事無く空中で自爆し海上で急激に熱エネルギーと霊力の粒子に変換されて波打つ光を広げた。

 

『スタン・・ネード、とでも、言う・・・っ!』

『馬鹿正直に・・面から・・・るわけ、ねえだろ!!』

 

 戦艦娘の砲弾一発分に相当する破壊力を溜め込んだ魚雷の空中爆発によって瞬間的に濃度を増した空気中のマナが通信機能や電探(レーダー)を撹乱し、炎と波打つ閃光が海面を掻き混ぜ、叩き付けられる暴風で高波が数mの障害物として矢矧に押し寄せる。

 

《でも、それぐらいは想定内なのよっ!》

 

 投げ(蹴り)魚雷、それは駆逐艦娘の第三戦速(320knot)とほぼ同等の速度と艦橋からの無線誘導が可能な高性能魚雷を無駄に使うだけの一見何の意味も無さそうな戦技であり、中村が冗談半分に言ったそれは実践した艦娘達が失敗して手や足を火傷するだけで終わるはずだった。

 しかし、戦艦級を含む敵水上打撃艦隊を相手にした実戦において初めてそれを成功させた那珂によって魚雷の空中爆発が発生させる熱と衝撃波による破壊は微々たるものだが、弾頭方向へと扇状に放出される高濃度マナが強力な情報妨害(ジャミング)攻撃となって深海棲艦の連携を撹乱する効果が存在する事が発覚する。

 六対十二と言う数的不利を敵の連携を分断させて壊走に追い込んだ撹乱効果の有用性には目を見張るモノがあり現在では駆逐艦と軽巡など水雷艦にとって原理を座学で、実技を演習で、と学ぶべき技術としてカリキュラムに組み込まれている。

 

《でもね、知ってるのと出来るって事は違うんだってさぁ♪》

 

 一時眩んだ視界を何度も瞬かせて矢矧は足下へと襲い掛かって来る魚雷へと艤装を向けて機銃による無駄の無い三点射で仕留め。

 立ち上った水柱でますます荒れる高波の上で足を乗り上げながら砂嵐になった電探を無視して阿賀野型軽巡は自分の目と耳を頼りに撹乱された海上から敵を見つけ出す。

 

《戦い方だけは堅実だからこそ、やり方が分かり易い!》

《ありゃりゃっ、那珂ちゃん、見つかっちゃったぁ!?》

 

 目測で6mはある波の壁へと矢矧が装填したばかりの連装砲を向けて砲弾を撃ち込めば、その裏で身をかがめながら自分の後ろへと回り込もうとしていたらしい那珂がどこか滑稽な恰好で飛び跳ねて攻撃を避ける。

 直後、海面に転げる那珂の右腕が矢矧へと向けられ、その黒いグローブと長い籠手の上で三基の14cm砲がその顎に火を灯す。

 笑顔を浮かべる狩人の目が自分を射抜こうとしている予感に艶黒のポニーテルが猫のしっぽの様に撓り矢矧の身体が横回転しながら波を滑り三回の発砲音が荒れた海の上を駆け抜けた。

 

《提督! 刀を!!》

 

 海水を飛び散らせながら素早く起き上がって叫ぶ矢矧の艤装の一部、かつての軽巡洋艦矢矧の艦橋を模した構造物が割れるように展開し赤い鞘に収められた大太刀が柄を彼女の手へ向け。

 それを掴み勢いのまま鞘走らせた鋭い視線の向こう、両足のブーツの中から輝くナイフを抜刀する油断ならない相手の姿へと足を踏み出して大上段から刃を振り下ろす。

 瞬間、ガラスを削る様な耳障りで神経を逆撫でする音が阿賀野型と川内型の二人の軽巡艦娘の手に握られた刃の接触によって発生し、お互いがお互いを削り切ってやると言う殺気を放って光を宿す刃が刀身の高速振動を拮抗させた。

 

《こんなに近くに来てくれたって事はもしかして、那珂ちゃんと一緒に踊りたいのかな~?》

《貴女の戯言に付き合う気は無いのよっ!》

 

 険悪に吐き捨てる言葉と共に腕の力だけで生真面目な軽巡は始終ふざけた調子を崩さない相手を突き放す。

 

《それは残念だねぇっ♪》

 

 その矢矧の態度を分厚い面の皮で弾いた自称アイドルの左腕で再装填を終えた四基の砲がてんでバラバラな方向を照準して発砲する。

 距離にして7m、巨大化した艦娘にとっては一歩で届く距離から放たれた両足を狙う砲弾を二歩引いて避け、横っ腹を狙う一発を翻した刀身で斬り付けて分解し、顔を穿とうと突き進んできた弾頭を首を大きく傾けて横髪を焦がしながらも回避する。

 直後、僅か一呼吸にも満たない攻防は攻守を入れ替え、刀を手に後ろへと跳ぶ矢矧の腰で艤装が機銃を乱射し背中の煙突部の底辺が開いて魚雷管が海面へと頭を向けた。

 

《この距離なら貴女でもっ!》

《避けれないねぇっ! だからこうするんだよっ!!》

 

 自分が放つ魚雷の範囲から離れる為に更に後退する矢矧を素早く追い駆け、機銃の飛礫にあえて飛び込み前傾姿勢で突撃を仕掛けた那珂の腕が光の線を描き。

 オレンジ色のセーラー服が銃弾で布地を散らす海風の中、矢矧の下腹部と頸部を同時に狙う刃がその肌を抉る為に振るわれる。

 首を狙う凶刃はぎりぎりで間に合った太刀の峰に阻まれるが身を捩ったものの括れた腰は避け切れず障壁を素通りして差し込まれるように短剣が刺さり、斬られた身体の内側を傷つける損傷に歯を食いしばって呻きながらも矢矧は目の前の憎たらしい顔を蹴り飛ばす勢いで高く足を振り上げ蹴りを叩き込む。

 

《ひゃあっ、顔は止めてぇっ!?》

 

 金属で覆われた堅牢な造りの靴が紅い船底を叩き付けようとした直前に大袈裟な悲鳴を上げて仰け反った那珂の胴体で障壁とぶつかり合う硬い音が響き、顔を守る為に身体を弾き飛ばされた軽巡がバシャバシャと水飛沫を上げながら面白い様に転がっていく。

 脚から伝わる衝撃から考えて障壁を破壊できたとは到底思えない軽さ、そして、不自然なほどの距離を転がる那珂の姿、それこそ自分で衝撃を相殺する為に転がりでもしなければあんなふうにはならないと矢矧はすぐさま理解する。

 

 鎮守府が艦娘の運用を妨害する勢力から田中や中村の活躍によって正常化を始めた時期、鉄の揺り籠から目覚めた自分が初めて会った同艦種の艦娘。

 矢矧にとって那珂は艦娘として目覚めてから最も長く何度も同じ戦場で背中を任せて来た仲間ではあるし、その実力は信頼できるモノである。

 だが、どうしてもその真面目さを感じない騒がしい性格は好きにはなれない。

 

 本当はまともな態度を取り繕い真面目な口調で喋る事が出来るクセによりにもよって今日この場、公衆の面前でその態度を改めない厚顔さは軍人として恥の一言で斬って捨てるべき醜聞としか言いようがない。

 そして、彼女のそれを止めるどころか助長する様な真似をしている中村に対してもまた同じく矢矧は心中で毒吐く。

 

〈 でもね、私がこうしてアイドルっぽい事する事が出来るって事がさ、私達の心は自由なんだって、戦うだけの存在じゃないんだって教えてくれてるんだと思う 〉

 

 まだ出会って間もなかった頃、姉妹艦がまだ鎮守府へと戻ってきていなかった頃。

 

〈 私は・・・そう信じたいな 〉 

 

 誰かが自分を呼ぶ声に胸で騒めかされていた時にも変わらずアイドルのフリを周囲の目も憚らずに続けていた相手へと焦燥感と共に苛立ちの言葉をぶつけた際に帰ってきた返答。

 その時、初めて見たアイドル(偶像)もどきではない軽巡艦娘としての那珂の顔に唖然として反論の言葉を次げなかった矢矧はその直後に抱擁され、落ち着いて、と、お姉ちゃん達は絶対に帰ってきてくれるから、と慰める様に自分の背中を撫でてくれた手の温かさに理由の分からない悔しさを感じた。

 

《その虚飾が無ければ!》

 

 何度も夢に現れる姿の見えない誰かの声に無性に焦り、争いを避けたがる穏やかな気質が情けなく見えた指揮官に苛立ち、自分自身が強くなる事だけが仲間を守るのだと思い込んでいた自分とは違う。

 自分と同じく行方の分からない姉妹艦を想う辛さを堪えながら、それでも、仲間の不安を拭いその心を鼓舞する為に道化になり切る事を厭わない自分の姉と同じ優しさを心に抱く川内型軽巡洋艦三番艦。

 

 彼女の強さを知っているからこそ自分の姉妹である阿賀野達が閉じ込められた深海棲艦の巣へと飛び込む那珂とその艦隊が仲間達の救出を叶えるのだと信じる事が出来た。

 その優しく仲間を勇気付けて心を助ける方法(やり方)を知る事が出来たから今も自分は姉妹と同じぐらいに大切だと感じる人となった相手(田中)を指揮官として共にここに立っていられる。

 

《私は貴女の在り方を認められるのに!!》

 

 切り裂かれた腹部から光に解ける血を迸らせて船の頃には無かった蟠る怒り(感情)を叫び、矢矧はどうしても好きになれない憎たらしい(尊敬している)相手へと魚雷を放つ。

 

《誰だって素直になるのは難しいもんだよ、矢矧ちゃん》

 

 蹴り飛ばされ転がっている状態から那珂の身体がいつの間にか横回転から後転へと変え、更に海面に手を突いてバク宙しながら空中へと跳んで体勢を整える那珂の腰部艤装から8cm高角砲が叫びを上げる矢矧へと照準される。

 

 こう見えても軍艦として戦いの中を生きた記憶があるのだから、戦友(矢矧)自分(那珂)に向かって言いたい事ぐらいとっくに分かっている。

 けれど、それで止められるほど自分の心を形作っているこの気質は簡単なモノじゃないんだもの、と那珂は苦笑して四発の火砲を撃ち、四発の魚雷が迫る海面へと着水した。

 

 暴力的な水柱が立ち上り装甲ごと足をへし折り、燃え盛る命中弾が服と肌を砕き爆ぜさせる。

 直後に二人の軽巡の身体が海面へと叩き付けられひび割れた肌や破れた服の合間から光の粒が溢れて海へと落ちていく。

 

《こんなになっても、那珂ちゃんは路線変更しないんだからっ!!》

《だからその言い方が癪に障るのよ! せめて阿賀野姉ぐらい大人しくなりなさい!!》

 

 阿賀野もまた大概、艦娘としては自由が過ぎるキャラ(性格)の持ち主であるが身内の色眼鏡のせいか矢矧にとっては那珂よりもマシな扱いとなっているらしい。

 

 それはともかく、海に這いつくばる様に向かい合った軽巡の砲門と魚雷管が小細工無しの直線距離で向かい合い。

 傷だらけでも笑顔を浮かべる那珂の艦橋で中村が苦笑と共に肩を竦め、激情に身を任せる矢矧の指揮席で田中はため息を吐いて軍帽のツバを指で弾いた。

 

 装填された砲弾と魚雷が同時に放たれ、自分達の持てる全ての力を使って攻撃と防御を行った軽巡達の手で刃が砕け、その身体に着弾した砲弾と魚雷が破壊力を遺憾なく発揮して服と艤装を爆ぜさせる。

 衝撃でお互いが相手とは反対側へと吹き飛ばされ、天高く水柱が二枚の壁を作り、重力に従って大量に巻き上げられた海水が乱れる水面を均すように大雨を降らせ。

 

 ゴォンと強く重い金属音が土砂降りの雨に負けない響きを天高く打ち鳴らした。

 

《高雄、出撃いたします! 提督、貴方の為に栄光を勝ち取りますっ!!》

 

 雨の帳を障壁の光で散らし金環が放つ後光を背に蒼を身に着けた美女がその身体を誇る様に胸を張り、無数の武装が組み込まれた機械の塊が深いスリットの入ったミニスカートを覆うように腰を鎧う。

 

《はい、提督。彼女達に三隈の砲雷撃戦を見せつけてあげますわ!》

 

 両手に重々しい20cm口径連装砲を二丁握り、出撃を知らせる響きを背に臙脂色のセーラー服の裾が揺れ、背中に届く黒髪が背部艤装の接続を避ける様に纏り、セーラー服と同色のリボンで二つのお下げとなって側頭部で揺れた。

 

 




軽巡能代「もぉ、矢矧もいい迷惑ね、那珂に振り回されて・・・」
駆逐夕d「・・・ぽい?」(・_・)
駆逐野w「能代さん、今、那珂ちゃんさんの事なんて言いました」(・_・)

軽巡能r「那珂ちゃんさんって、貴女達も那珂を呼ぶ時にそのふざけた呼び方するのはいい加減止めた方が良いわよ?」

駆逐舞k「・・・ちゃんを付けてよ」(・_・)
軽巡酒k「そうだよ能代お姉ちゃん」(・_・)

軽巡のs「は? どうしたのよ酒匂? そんな顔して・・・貴女達もなんでそんなに近づいて来るの?」

NTFメンバーズ「那珂ちゃんを呼ぶ時にはちゃん(・・・)を付けなさいよ!!」

軽じゅ(ry「ひぇっ!? 一体なんなのっ!? わっわっ、こ、こないでぇ!?」
 ッポイ!  ナノデス!  カモッ!  ピァァ!!

説明しよう!

NTFとは【那珂ちゃん鎮守府公認ファンクラブ】の略であるっ!
(実は鎮守府にも司令部にも自衛隊にすら公認されていない!!)

 艦娘寮の談話室に自称プロデューサー(現役自衛官)が悪ふざけで設置(無許可)したNTFボックスから無記名の会員証(裏面は那珂ちゃんブロマイド)を取り出して自分の名前を書く事でお手軽に入会出来るぞ!
 ちなみに季節ごとに那珂ちゃんの写真は変わるので複数の会員証を持っているコアなファンもいるのだ!
 なお、NTFボックス横の退会用紙に記名するだけでお手軽にファンを止めれます♪

【退会理由】
 ・出撃中に大破したから。
 ・今日のご飯にナスが出てきたから。
 ・那珂ちゃんに湾内演習で負けたから。
 ・退会しないと新しい会員証が貰えないから。
 ・その他、多種多様。
 この様に会員数は日によって些細な理由で減ったり増えたりするから正確な人数は分からない!!
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