艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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今までの自分が本当の実力を発揮出てきていない事を知ったとしたら。

それまで満足していたその力がほんの一欠片でしかなかったと教えられたら。

私はその時、何を思うのだろう。

本当の自分を解放してくれた事へ感謝するだろうか?

それとも・・・

実力を出せない環境へ戻る可能性に恐れ、震えるのだろうか?
 


第五十七話

 他の艦娘達より多く所属艦隊を変えていた事には大した意味など無かった。

 

 ただ指揮官の態度や命令、戦術や戦いに対する考え方が自分にはしっくり来なかったと言うだけの話だった。

 

 要するにその気になれば(少し我慢すれば)誰の下でも十分な実力を出せる自分にはもっと良い提督(王子様)が現れてくれるのかも、と言う小さな女の子が抱える夢見るお姫様の様な願望と似たり寄ったりな考えでしかない。

 そして、私よりも早くその願望と踏ん切りを付けられた愛宕は気に入ったらしい士官の指揮下で得られるそれなりの戦果に満足していると言っていた。

 

 座学と演習の基礎単位を修め、出撃許可を貰ってから多くの指揮官の艦隊を渡り歩き、鎮守府に登録されている半分以上の士官を観察した感想は可もなく不可も無し、しかし、経験と年齢に不安があるが全員がエリートを名乗るに相応しい優秀な人材である事には疑いは無かった。

 

 おそらくだけれど、私ならどこの艦隊でも上手くやっていけるなんて妄想の様な自負と矜持はその時点で出来上がっていたのだろう。

 

 そんなある日、特務士官の中でも特に大きな戦果を立てていると言う指揮官、中村義男特務二佐が鎮守府に戻って艦隊を再編成させると言う話を聞く事になった。

 

 彼から自分への指名が来た時には断るべきか否かの天秤はどちらにも傾いておらず、艦娘による観艦式とも言える式典に参加が決まりそれに合わせて何となく雑多な出撃を控えたかったから艦隊を抜けていた私は書類を前に逡巡する。

 だから、その指名を了解した理由は艦娘の代表の一人として世界に武威を示す誉れ高い公開演習に参加できる権利が得られ、さらに噂の指揮官のお手並みを拝見出来ると言う内容に心引かれただけと言う自分本位な傲慢な考えからだった。

 

 今では自分から申請を出さ無くても所属した事がある艦隊から再度の参戦を求める申し出が行列の様に並んでいた事もその助長に繋がり、一度だけ彼の艦隊に自分から出した申請が妹共々に司令部から申請を却下された為に所属する事は叶わなかったちょっと苦い経験がその提督からの指名と言う下手に出された誘いによって私の自尊心を刺激したのだろう。

 

 そんな風に今日までの私は司令部からのそろそろ腰を落ち着けて欲しいと言う要請や艦隊を決めたらしい三人の妹達の姿にそろそろ自分も丁度良さそうな艦隊を選んであげても良いか、と考えながらも日々の訓練と出撃の合間に興味深い現代社会(鎮守府の外側)を学びつつ艦隊を選り好みし続ける呑気な生活をしていた。

 

(嗚呼、なんて馬鹿な事を考えていたの、私は・・・)

 

 強い充実感、心臓がまるで火の玉になってしまったかの様な高鳴りは出撃前に感じた失望感を簡単に吹き飛ばし、軍人として本当の顔を見せてくれた彼の指揮下に就ける悦びで身体の内側から力が無限に溢れてくる様な錯覚にさえ陥る。

 

(あの時、逃した魚がこんなにも大きかった事に今さら気付くなんて!?)

 

 司令部の横槍が無ければ本当ならもっと早く彼の指揮下で共に戦場を駆ける事が出来ていたはずだったのに、と言う自分の傲慢さを棚に上げて過ぎた過去のもしもを妄想する女々しい考えが心に湧き立つ。

 

『正直に言って俺は重巡を運用した経験がほとんど無い! 高雄、そちらに管制を合わせる事になるからリードは任せるぞ!』

 

 自分の実績に見栄を張る事のない正直さ、着任したばかりの部下に戦闘の主導を任せる器の大きさ、それが私の中で彼の評価をまた一段高みに押し上げる。

 

《はいっ! 任されました提督っ!》

 

 今まで私に乗ってきた士官達と比べて段違いの指揮能力、他の指揮官と明らかな差の上に立ち艦娘の力を最大まで引き出す彼の戦い方を見せつけられ。

 彼の指揮下で数回出撃した経験があると言うだけで一種のステータスとでも言う様に誇る艦娘の姿に呆れて笑いを漏らした自らの過去へと失笑せざるを得ない。

 

 幼い胸を張って妹達に自らの武勇を自慢する暁型駆逐艦の長女と同じ感覚を身をもって実感してしまった私にはもう彼女を笑う資格が無くなっているのだから。

 

 繊細かつ大胆な出力機関の制御、基本から応用まで最大限に各艦の武装を使いこなせる知識と経験、絶え間なく艦橋のメンバーに仕事を振る巧みな采配、そして、自身の直感に従い窮地を踏み越える豪胆さ。

 

 自分の先に海原に立った三人の艦娘がその身を厭わず彼への強い忠義と共に彼の指揮下で疑い一つ無く命令と戦闘を実行して見せた姿に私もまた戦船としてそうありたいと憧れで胸が一杯になる。

 

(さぁ、提督、貴方は私をどう使ってくれると言うのっ!?)

 

 理想の指揮官に出会ってしまった私は羽の付いた紅いハイヒールで海原に立ち、動力を唸らせる腰を覆う巨大な鋼の半円を従え、ブラックシルクの手袋を着けた手を強く強く握りしめた。

 

・・・

 

「やっぱ、メンバー減らしながら戦うこの演習おかしいだろっ! 火が点いた車運転してるみたいな感覚に嫌気がさしてくる!!」

「文句言ってないで迎撃しなさいったら! 左舷弾幕薄いわよ!!」

「だから、人手が足んねぇの! 高雄、一番主砲は障壁弾だ、斜め前に壁作って進路を確保してくれ!」

 

 ボロボロになった制服姿で目を回して床に転がる那珂の介抱を破れた着物を強引に結んで何とか隠すべき場所だけは隠せている鳳翔に任せ。

 主砲に装填できる障壁を打ち出す弾頭と敵装甲を貫通させる徹甲弾の入れ替えの管理やこちらに目がけて飛んでくる正確な砲弾を対空砲で迎撃しながら加減速と共に高雄へと回避方向を指示する。

 

『お任せください!』

 

 これで高雄が障壁の展開距離を間違う戦闘経験の少ない重巡艦娘だったら三隈からの初弾幕(挨拶)を浴びてノックダウンされていたのだろうから、彼女の多数の艦隊を渡り歩いた末の戦闘経験はこの場で値千金と言える価値を発揮していた。

 

「だが、くっそ、防戦一方でこのままだと撃ち合いに負けるか・・・」

『すみません、私の拙い(つたない)戦い方で提督にご迷惑を』

「いや、これは単純に指揮官との連携と経験の差だ、良介の艦隊に三隈が入ったのは大分早い時期だったしな、俺が原因ってのは癪に障るが・・・」

 

 出撃前の人の良さそうな笑みに隠したこちらの実力を窺う様な視線を向けてくる慇懃な態度がいつの間にか消え、かと思えばまるで俺に遜って(へりくだって)いるかの様な従順さで命令を聞いてくれている高雄の心境の変化が少し気になりつつも火器と動力の管制に注力する。

 俺の目に映るのは嫌と言うほど正確にこちらを狙ってくる良介の指揮下の重巡が水平線の上で米粒の様に小さく見えるモニター、敵弾の飛来を警告する赤色のマークが消えたり点いたりする様子に眉をしかめた。

 

「高雄はこれ以上ないほど良くやってくれている、それだけは保証する」

 

《はいっ、ありがとうございます! 提督♪》

 

 俺のたった一言を大袈裟に喜び強い喜色で彩られた魅力的な笑みをコンソールパネルの上で浮かべる高雄の立体映像に見惚れかけたが、こちらを無言で振り返った霞が指揮官に向けるには少々鋭過ぎる視線を投げてきたおかげで風で捲くれそうになっている見えそうで見えない部分から目を引き剥がせた。

 

「しっかし、なんだ、お互い見える位置にいるったって重巡の砲撃はこんなに命中率が良いもんなのか?」

『船だった頃と比べれば大きく向上している事は間違いないですけれど・・・しかし、ここまでの彼女と練度の差があるなんて、同じ重巡として自分が情けなくなってしまします』

 

 第二次大戦前後の艦載砲、十発に一発当たれば神の御加護なんて言われていた時代と比べるのは基準がおかしいが、それでも現代兵器と比べても見劣りしない艦娘の武装とは言え敵に向かって撃てば当たるなんて出鱈目な事は出来ないはずだ。

 

(それにしたって高雄は深海棲艦ほどデカいわけじゃない、経験が多いってだけでそうそうポンポンとこっちの砲撃が防がれてあっちは当てまくるのは道理がおかしいだろ)

 

 障壁を投射できる特殊弾頭のお陰で直撃弾は無いが十発の内で九発が高雄の身体を脅かすルートで降って来る敵の砲撃精度に脱帽する他ないのかと唸り、二割ほど削られた障壁の耐久力をこれ以上減らされない為にも敵の攻撃に何かタネがあるじゃないかと頭の中で問う様に呟くが。

 

 座布団に座って縁側で湯呑を手に猫を撫でている猫吊るしの姿が過るだけで、特に良い考えが浮かぶ事は無かった。

 

(って、今のはアンタに聞いたわけじゃないんだから忙しい時に顔を出すな!)

 

 と、叫びそうになったのを何とか堪え俺は言葉にせず心の中だけで愚痴る。

 

「・・・あら? 三隈からの砲撃が止んだわ。再装填してる様ね、まぁ、こっちもそうなんだけど」

「接近戦が出来るわけじゃないし、この距離だと雷撃は簡単に処理されるから宝の持ち腐れになってるし・・・どうすっかなぁ」

 

 砲撃補助をやってくれていた陸奥が告げたちょっとだけ良いニュースに何とか敵の攻勢を一時凌ぎ切ったと知り、張り詰めた考えを解す為に俺は指揮席へと背中を預けて気の抜けた声を上げながら全周囲モニター越しに高雄の魅惑的な身体のラインを強調するタイトな制服と同じ青色をした空を見上げ。

 

「対空砲は障壁弾を再装填完了したったら、ほら、ボケッとして無いで主砲はそっちで管理してるんでしょっ!」

 

 空を見上げ空母艦娘なら頭の上からアイツらに爆弾でも叩き込んでやれるのにと益体も無い事を考え、直後にそんな休む暇すらくれない駆逐艦にせっつかれて俺は高雄が霊力を供給する艤装の様子へと目を向けた。

 だが、ふと、さっき考えた空から攻撃と言う現時点では何の意味も無いはずのアイディアに何か引っかかりを感じる。

 

 逆に自分達が頭の上から見られていたならさっきの意味不明なほど正確に砲弾の雨を浴びせられた状況にも説明がつくのでは、と。

 

「・・・高雄、俺が南の方に行ってた時に鎮守府で巡洋艦娘用に航空機カタパルトが作られてたって話は本当か?」

『はい、私は装備した経験はありませんが最上型を中心に実験運用が行われてる、とか・・・ぁ』

 

 それは俺の艦隊に戻ってきてくれた不知火が教えてくれた鎮守府の近況に混じっていた情報、そのふと漏らした問いかけの言葉に高雄は是と肯定し、二人して数秒の逡巡の間を置き。

 そのキーワードが現在の不可解な窮地の答えとなり俺は指揮席で高雄は立体映像の中で目を見開いた。

 

 航空機を運用できる巡洋艦娘の存在は記憶としては存在していたが、ゲームと違ってあれこれと面倒臭く不自由な現実ではそれの実現が難しいと考えていただけに俺は航空巡洋艦娘が目の前に現れるとは夢にも思っていなかった。

 

「・・・最上型って、三隈もそうじゃねぇか・・・?」

『・・・私とした事がなんて迂闊を、気付かなかった自分が恥ずかしい・・・です』

 

 前世のゲームの中でも観測機の有無で命中率に大きな差が生まれる事は周知の事実であったし、この世界でも空母が遠距離から狙い撃ちで水上の深海棲艦を仕留められるのもまた同じ理由からだ。

 

「でも砲撃に集中していたけれど電探の確認も目視警戒も疎かにしてたつもりは無いわ、航空機が飛んでれば流石に分かるわよ」

「演習前の資料でもそんな装備は書かれてなかったったら、田中二佐があなたと同じ方法で装備を持ち込んだって言うの?」

「それはまずないだろうな・・・だがそれを三隈が持っているかどうかを確かめる方法はある」

 

 こういう場合には経験に従うのが一番良いと言うのが俺の人生における自論、ゲームのキャラクターとして艦娘達が存在していた俺にとっては前の人生で彼女達の姿は未だに色あせる事無くしっかりと記憶の中にある。

 防衛大から世話になっている先輩に言わせれば出所の怪しい情報にまた頼ろうとしている俺は苦笑を浮かべてコンソールパネル上にある旗艦の戦闘形態を変更するレバーを握った。

 

「ちょっとばかり変則的な使い方だが、高雄、長距離戦形態に移行するぞ!」

『了解しました。 提督のお考え通りにっ!』

 

 高雄の返事に頷いた俺の手で押されたレバーがガチャリと音を立てながら反対側へと倒れ、その下に表示された砲雷撃戦形態が水平線の向こうまで射程に収める長距離砲を扱う形態へと変更され。

 コンソールパネルの上に浮かぶ高雄の艤装が複雑に装甲を展開させ、艦橋に響き渡る鋼の音と共に巨大な単装砲を形作り噛み合い一つへと変わっていく。

 

・・・

 

 その形状を表現するならば13mの銃身を持つ対物ライフルとでも言うべきか、腰を覆う艤装基部に銃床が繋がり固定され、腰の高さで高雄の両手で支えらえた200cm口径砲が重厚な重みを示す様な鋼色を日の下で誇る。

 それと同時に青いベレー帽で飾られた黒髪の下、鋭く敵がいる方角を睨み据える右側の目元にまるで照準器の様な十字のレティクル表示が印されたモノクルが浮かび、超大型のライフルへと姿を変えた艤装のスコープと同期したガラス板が数十倍の拡大を行い水平線に立つ臙脂色のセーラー服を捉えた。

 

『・・・おーい、田中さんよ、そんなもん持って来てるなんて資料には書いてなかったぞ?』

 

 巨大砲を構え少し速度を落として航行する高雄の目に演習相手の背部に装備された煙突型の艤装に増設されたアームと金属の長方形が映る。

 サイズとしては1m前後の小型無人機が並ぶカタパルトから雲に混じる白い塗装の羽が飛び立つ様子、三隈の足下に着水した白いトンボがぷかぷかと浮かび重巡艦娘がそれへと手を伸ばして拾っている姿が見えた。

 いくら優秀な索敵能力が高雄にあっても飛行機と言うよりは大きな鳥といた方がサイズ的にはぴったりくるそれを捕捉する事は難しい、だが、機械で作り上げられた海鳥(無人機)は機体に取り付けられた高精度カメラを使い母艦である三隈の艦橋へと偵察した情報を逐一報告していたのだ。

 

『たまたま三隈がこれの試験運用していた時に演習の話が来てね、一度装備すると専用の機材が無いと外せないからそのままになっている。いきなり何なんだ? 資料はちゃんと読んだか?』

『・・・は、・・・えっ? 』

 

 三隈の情報が記載されたページでは無いが別枠にちゃんと書いてあるはずだぞ、と秘密ですらないと言いきる田中の言葉に高雄の艦橋で中村が歯噛みして呻き。

 重巡艦娘の目を通して拡大された三隈の腰に展開されている分厚い鉄板で造られた航空管制装置を睨む。

 

『もしかして、な・・・それって電探に引っかからない塗料とか使ってる?』

『・・・知ってると思うが、増設装備の試験運用中に得た情報は守秘義務の対象になるんだぞ?』

 

 紙で出来ているかの様に軟な機体な上に攻撃能力が無い事、空母が扱う艦載機ほど航続距離が無い事、小さいくせに精密機器の塊であるので一機にかかる製造費用が高い事、動作不良を起こすとその場で修理する事が出来ない事。

 他にも山ほどの欠陥が見つかりほとんどお蔵入りになっていると軽く聞いていた程度だが、そのデメリットよりも今回の演習の様にデータ採集にうってつけの状況なら使わない方がおかしいとも言える。

 

 仮に田中や三隈が怪しい新兵器を嫌がったとしても研究室は司令部に協力を要請し鎮守府の管理者側の権限を利用して今回限りだからと調子の良い事を言って新技術の運用を要求するだろう。

 最近の主任達の新技術に対するアグレッシブさで食傷気味な中村は容易にその光景が想像が出来てしまった。

 

『くっそぉ、撃て、高雄・・・あの甲板ぶっ飛ばしてやれっ!』

『それは困る、これが幾らすると思ってるんだ・・・長距離砲が来るぞ防御用意っ!』

 

 わざわざ形態変更までして見つけ出した情報だと思ったら蓋を開ければ秘密でも何でもなかった。

 通信越しにしれっとした返事を返されてから直ぐにプツリと切れた通信装置を前でマヌケが一人、眉間にシワを寄せる。

 

 相手の状態をただ初めから見誤り勝手に恐慌状態になっていた事実に気付かされた中村は高雄の艦橋で自分のマヌケっぷりに赤面して八つ当たり気味に砲撃を命じた。

 指揮官が情報を見落とした事で危機的状況に陥る、ある意味では軍隊の実戦では度々起こる事故であるが、それは優秀な補佐があれば防げる事でもある。

 

《・・・了解しました》

 

 残念な事に今の恥ずかしそうにしている中村の下にはそれを補う人材が居なかったのだと察した高雄は、しかし、自分が艦隊で果たすべき役割が戦場以外にもあると言う新しい情報に巨大ライフルを構えながらほくそ笑む。

 それは彼の実力不足への失望から出た嘲笑ではない。

 むしろ相手が完全ではないからこそ彼を支える自分の実力の証明へと繋がり、そして、指揮官と共に成長していける事への期待感が高雄の口元を緩めたのだ。

 

(差し当たって駆逐艦の子には秘書艦を退いて貰いましょう・・・実働と内勤の機微は子供には分からないみたいだから)

 

 吹雪の戦いを彼女の艦橋で見て感じ同艦隊で肩を並べて共に戦いたいと思える優秀な戦士である事に疑いが無い事は分かっていた。

 だが少々感情的で少し見ているだけでも分かる程に中村にべったりと甘えている少女の軍人としての拙さは彼の指揮を鈍らせてしまうと高雄は結論する。

 

 それに加え多くの艦娘と艦隊を共にし彼女達を見てきた経験から総じて直情的な艦娘が多い駆逐艦級は指示された事務処理は出来てもそれを他の業務と連携させて考えると言う事が苦手であり、目の前の仕事にかかりっきりになって意外な所で手続きや確認を忘れる事があると知っているからこその分析結果。

 急な配置転換の移動や降って湧いた雑務が山程あったなど言い訳にもならない、それを熟し上官を助けてこそ秘書艦と名乗れる。

 そして、優れた戦闘要員はその力を充分に発揮する為に注力する事が提督の為にもなるのだと知るべきなのだから。

 

(その為にも今回の演習で提督の期待通りの、・・・いえ、それ以上の戦果を上げ、この艦隊に残らないといけないわね)

 

 しかし、正論を並べたとしても何の手柄も無い新参者がいきなり彼の隣に立つなどと言い出せば元からいるメンバーにも反感となってしまい、拒絶されれば艦隊の士気と和を優先して自分が艦隊枠から外される可能性がある。

 今は左遷の関係で少し彼の艦隊に申請を出すべきかを迷い様子見をしている艦娘が多いと言う話は特に情報を集めたわけでもない高雄の耳にすら届いているが今後もそうとは限らない。

 否、私の提督(・・・・)は必ず大成するのだ、と軍艦としての感覚で理解した重巡洋艦は自分が目覚める前に起こったと言う中村と田中の限られた編成枠の取り合いが艦娘同士の間でまた起こる事を直感した。

 

 今、この幸運を逃し編成から外されれば様子見を止めたライバル達の群がりによって彼の艦隊に戻るまでに考えるだけで恐ろしくなるほどの努力と時間を要求される。

 そんなのは胸に宿るこの充実感を知ってしまった自分には耐えられないと高雄は断定した。

 

 我知らず偶然とは言えこの手に舞い込んできた幸運を取り落として別の艦娘に攫われ、自分は彼と比べて数段下の指揮官に就かなければならないなんて事になるなんて冗談でも笑えない。

 

 だからこそ彼女の自己利的な意志(殺意)を漲らせた瞳は30km以上も離れた海上を航行する三隈を正確に捕捉し、一撃にて必中必殺する為に優秀な頭脳が適切な着弾予想地点を割り出す。

 

大人しくっ(私の為にっ)、沈みなさい!!》

 

 普段の穏やかさを裏切るやけに物騒なセリフと共に放たれた貫通力を高められた戦艦級深海棲艦の障壁と装甲を容易く穿つ威力を圧縮された砲弾が音速を越えて撃ち出され。

 遠く海の彼方まで甲高く響き渡る轟音、高雄の背中側に発生した半円の水柱。

 それらを置き去りにして主砲内部のライフリングによって螺旋を刻まれた直径2mの弾頭が凄まじい回転をそのままに空気を貫き目標(獲物)へと直進した。

 




演習もついに後半戦に入ったよ。

そして、高雄は決定的な勘違いに気付かず更に妄想を暴走させる。

そんな理不尽な殺意に晒された三隈の運命や如何に!?

次回【艦これ、始まるよ。】

第五十八話
『高雄、敗北ス!』

演習スタンバイ!!
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