もがみんは鎮守府から私の活躍を見てくれてるかしら?
最近の彼女ったら日向さんとばかりお話ししているから、くまりんこちょっと不満です。
でもだからって、貴女に八つ当たりしようなんてはしたない事は考えていませんよ。
ええ、八つ当たりなんて
海上に撃ち出された複数の砲弾が次々と何もない空中で着弾したかの様にその弾頭を円板形に潰し広げ、炸薬の代わりに爆発音を上げて内部から吹き出した輝く粒子の奔流が空中に半透明の膜を広げる。
それは艦娘や深海棲艦が生まれながらに持っている能力によって作られる霊力を利用した不可視の障壁、霊力の元素と言うべきマナと呼ばれる微粒子を結合し1mmの十分の一以下の薄さで結晶化させた集合体が等間隔の距離を開けて八枚の
《大人しくっ、沈みなさいっ!!》
しかし、最後の一枚が完成したと同時に遠くから聞こえた女性の叫びに押されて螺旋回転を行う巨大な砲弾がドリルの様に完成したばかりの一枚目を抉り貫き。
若干の減速を伴い次の障壁を叩き割り、本来なら一枚に対して六発以上のミサイルによる集中攻撃を行わなければ破壊できない障害物が薄いガラスの様に連続で貫かれていく。
そして、その障壁の密集陣を用意した重巡洋艦娘が苦虫を噛んだ様に顔を顰めて最終防御である自分自身の体に纏う障壁を前面に集中展開させ。
正確無比に三隈の額へと命中しかけた200cm砲弾が最後の壁への衝突で力尽き砕け散り光粒の飛沫と化して空気に溶ける。
『障壁耐久12%down! でも艦体への直接被害はありませんヨー!』
『・・・八枚の投射障壁を全て貫いただけじゃなくここまでの威力を発揮するのか、長距離砲に狙われると言うのは想像以上に肝が冷えるな』
念入りに三隈が装備している20cm口径連装砲の四基で防御を固めて良かったと胸を撫で下ろす指揮官の声を余所に砲弾の分解でばら撒かれた光粒の破片を払うように手で風になびく小豆色のセーラー服を軽く叩き最上型重巡洋艦の二番艦である少女は不機嫌さに口を開く。
《もぉっ、くまりんこに向かって沈みなさいだなんて失礼な方ね! 彼女はもう少し慎みのある重巡だと思っていましたのにっ!》
残念ですわと不機嫌そうに締め括られ、数分後には削られた防御壁を張り直して何事も無かったかの様に航行する重巡艦娘。
戦艦級の深海棲艦に右半身を吹き飛ばされた時にも自分の損傷よりも洋服の心配をしていた最上型重巡の二番艦にとって障壁が削られた程度なら本当に些事なのだろうか、と頼もしすぎる部下と若干狼狽えた自分の態度の差に田中は苦笑した。
『・・・しかし、これはチャンスだ、長距離砲は威力は高いが再装填までの時間が』
『提督! 高雄がもう砲撃しようとしてるっ!?』
『はっ? まだ砲撃から十分経ったかぐらいのはず!?』
波の上を進む三隈の増設端子に繋がったカタパルトから送られてくる全長1,2mの翼を持つ無人
その言葉の意味に戸惑った田中と海上に立つ三隈の目に敵艦が少し前に見せたモノと同じ閃光を放つ様子が映った。
『っ! 三隈、加速をっ!!』
『ダメっ! 回避間に合わないヨ!』
『今は防御でしょ!?』
背中で急回転するスクリューと推進力が一気に引き上げられる感覚、しかし、三隈は音よりも早く自分に向かって突き進んでくる砲弾を避けれないと判断して体と自分に増設された航空甲板を守る為に強引に身を捩る。
止血だけの応急処置を終えたばかりで艦橋に立ち上がった軽巡のお陰で着弾が予想される部分へと重巡の体を覆う不可視の装甲がその厚みを増やす。
《きゃああっ!?》
しかし、掠めただけでも服の上から体を守る障壁は削り砕かれ、臙脂色の布地ごと脇腹が焦げ付き。
『あぉっ!? くっ、被害報告をっ!!』
艦橋を襲った衝撃で慌て悲鳴を上げる田中や仲間達の声、激しい振動と鈍い金属の砕ける音によって黒猫の尻尾を思わせる細長いツインテールを振り乱した三隈が海面へと転倒した。
『背部艤装右舷スクリューが
『魚雷管格納部分破損! 誘爆はしてないけど、起動不能って!?』
艦橋で叫ぶ田中や仲間達の損害報告に掠めただけなのにぐらぐらと揺れる頭を連装砲を持つ手で押さえて何があったのかと三隈は自分の提督へと問いかける。
『提督・・・長距離砲の再装填には最速でも二十分以上は必要なはず、ですよ?』
『そのはずだ。いくら何でもあり得ない、何をやったら半分以下の時間に・・・』
自分よりも穏やかで博識な指揮官である田中の慌て戸惑う声に三隈は慕う相手の心をここまで脅かす中村艦隊に対して僅かな苛立ちを表情に浮かべ。
『Everyone! look !? タカオが信じられない事やってマス!!』
戦艦娘の驚きに震える声が指し示す艦橋のモニターに表示された上空から空撮を行っている偵察機の映像。
それへと片目を瞑って意識を向けた三隈は小さな窓枠の中に見えるタイトスーツの襟元で白いスカーフを揺らす高雄のその姿に驚愕した。
《推進機関を止めるだけじゃなく、障壁まで消しているなんて!?》
海を走る為の推進力も防御の要である障壁も元を辿れば艦娘の心臓部である霊核が作り出すエネルギーを変換したモノである。
その振り分けをわざと偏らせて防御力や航続距離を増やしたり攻撃に利用する弾薬として振り分ける技術は艦娘にとって基本技能とも言える。
だが、戦場でそのエネルギーリソースを全て火砲へと注ぎ込んで二連続の長距離砲撃を実行した高雄の姿は同じ艦娘にすら正気を疑われても仕方がない無謀だった。
『・・・いやっ、
専用の改装を行われた護衛艦数隻によって作り出された巨大な障壁の内部と言う閉鎖空間であり、今日この日の為の警備体制によりいつ深海棲艦が海面下から奇襲をかけてくるか分からない外洋とは無縁の疑似戦場。
そして、一対一で戦っている三隈の航空観測に対抗する為には高精度かつ高倍率の視界を確保できる長距離砲戦しか選択肢が無いという判断から高雄の艦橋に居る中村がその無謀な戦術の実行を決断したのだと田中は気付く。
『だが、義男! それはあまりにも乱暴すぎる手段だ!』
それは自らの原動力を攻撃だけに割り振る無謀、そして、その裏返しは三隈の攻撃に対して防御も回避も捨てた標的になると言う事を意味する。
そもそも重巡艦娘の艦種能力である長距離砲はその大口径に見合った消費を要求する諸刃の刃であり一度に連発出来るほど便利な武装では無いのだ。
『アイツらに反撃を受けて貰う、全砲門照準! 目標、重巡洋艦高雄!』
『了解! ぇ、って、ホワッ? ・・・ロックオンが解除されちゃうデース!?』
『・・・どうしたんだい、三隈、なんでそんな事をするのかな?』
田中達が戸惑いの声を上げる艦橋の様子を余所に三隈は奇策によって自分に手傷を与えた同艦種への侮りを拭い落とす。
新兵器と新能力を引き下げて強敵を圧倒しようとした島風、手堅い戦術を乱暴極まる突撃で台無しにされた龍驤。
アイドルを名乗る相手に調子を崩されまいと毅然としていた矢矧ですら結果として相手との正面衝突による引き分けで勝負を決した。
《提督、彼女は私に沈めなどと不届きな台詞を吐いた上に、この三隈の艤装に傷を付けてくれたんですよ?》
思えば自分達の艦隊は最初から相手よりも有利な条件を与えられてなお引き分けと敗北感を喫してきたではないかと三隈は再確認する。
そして、航空甲板と観測機と言うアドバンテージを与えれていた自分もそうであった、とその一部を敵の砲弾で抉られた背部艤装を横目にした重巡は正面へと顔を戻し、黒くつぶらな瞳にありったけの険を込めてその視線を敵が居る方向へと向けた。
『・・・つまり三隈、キミは何を言いたいんだ?』
《彼女との決着は、装備に頼り切り勝ちを得たなどと誰一人にも笑われない為に三隈は、私達はあの人達に打ち勝たなければなりません!》
そうして、衆人観衆の前で誰の目にも明らかに三隈が高雄よりも勝っている事を証明しなければならないと言い切った最上型二番艦は指揮官へと
相手を侮って痛手を受け、そして、それに怖じ気付いて腰が引けた狙いで当たって下さいと相手に頼むような砲撃を行うなど自分の勝利の形に相応しくないのだ、と三隈は無言の主張を行う。
『やらんでもええのにわざわざあっちと同じ土俵に立つっちゅうんは、どうかと思うで?』
巨体を馬鹿みたいに晒して獣の様に直進してくる深海棲艦と比べ大きさは1/10ほどなのに船足もそれ以上に早い、さらに回避も巧みな
そして、自分と違い立体的な観測を行えないはずの高雄は拡大された視力のみでこちらを狙い撃ち、その二発ともを三隈へと命中させその練度の高さを見せつけてきた。
《だからこそ、三度目はありません・・・、彼女の失礼千万に私が怒っているんだって教えてあげないとならないのよ》
三隈自身も無茶を言っているのは承知しているし、司令官の言う通りに勝つだけながらこのまま砲を数撃てば良いだけの話だ、と姿は見ずとも艦橋に居る全員が眉を顰めたり苦笑している様子が脳裏に浮かぶ。
だが三隈はそれを押し退けてでも長距離重火力を旨とする重巡洋艦娘として自分より優れていると感じてしまった高雄の精密射撃に対して刺激されたプライドを優先しなければならないと言い切った。
『キミぃ、こらあかんわ、もうこの子言うて聞く感じやないで?』
『これは決闘じゃなくて演習なんだが・・・』
『僕はどっちも同じ事だと思うけどね、それにさっき提督も言ったじゃないか
そして、三隈の意志を尊重してくれる仲間達の声に指揮席に小さな溜息が落ち。
静かな怒りを瞳の中で揺らし眉を顰め立ち上がった三隈の左右の太股に装備されている二基の20cm口径連装砲が固定されているベルトの上でその装甲を展開させる。
《三隈のわがままを聞いていただいた事、提督に感謝いたします》
自分の意を汲んでくれた指揮官に礼をしながら三隈は形態の変更を始めた両脚のそれと同じ口径の連装砲を握った右手を正面に突き出し左手を焦げた腰の添わせる。
その両手が握る二基の連装砲までもが展開を始め両脚の主砲の中から飛び出した幾本ものケーブルが四基の主砲の間で繋がり引き合い太股のベルトがバチリと弾けるように外れた。
『一番砲塔から四番砲塔までの連結異常無し! そのまま合体デース!』
そして、ケーブルに引き合わされ忙しなく絡まり合う金属音とともに幾何学パズルの様に開いた連装砲の装甲同士が繋がり合い、重巡の両手に巨大な一つの砲を形成していく。
『装填されていた砲弾を長距離砲用へ分解と変換を開始、80から秒読み開始するよ、・・・80、・・・79』
自分の艤装を穿った砲弾を撃ち出したモノと同じ200cm口径、しかし、ロングライフルに形状が酷似していた高雄の長距離砲と比べれば太く短く角張った装甲に鎧われた三隈のそれは両手持ちのグレネードランチャーの様な形を作り上げた。
その長距離砲を脇に挟む三隈の左手がグリップを握り込み人差し指が引き金に掛かり、右手が上部に突き出した取っ手を掴みその重厚な重みを支え海上に黒鉄の威容を吊り上げる。
そして、200cm砲を構え高雄が居る方向を睨む三隈の鼻にブリッジを掛けた片眼鏡が右目を覆い、銀のつるが湾曲を耳へと掛け鏡面に遙か遠くの映像が引き寄せられた。
『さて三隈、やるからにはアイツらの無茶をやれば勝てるなんて考えを叩き壊してやれ!』
自分と同じく躊躇いを吹っ切ったと分かる指揮官の声に口の両端を引き上げた重巡は艦橋に立つ白露型駆逐艦娘が告げる残り10秒の秒読みに耳を澄ませる。
《はい! 提督!》
・・・
同方向への多重投射障壁と言う技術は知っていたがそれが砲弾に向かって正確に八枚も重ねられる驚くべき練度によって一撃目の長距離弾を三隈に無力化された高雄は悔し気に歯噛みする。
そして、その悔しさが消える間も置かずに指揮官から、このまま戦い続けても俺達は三隈には勝てない、と言われた高雄型一番艦は自分の耳を疑った。
中村の言葉に自分が彼の期待に応えられずしくじってしまったのだと感じた高雄は更に胸中で膨らんだ悔しさに叫びそうになる感情を押さえ込む。
正直に言えば彼の言う通り観測機と言う自分の持たない装備によって安定して高い命中精度を得る事が出来る三隈を攻略する方法は高雄にも思い付かず、しかし、指揮官からこれ以上の失望を買ってしまう様な言葉を吐くわけにはいかないと思考を廻らせ。
結局は解決策の無いまま一度目の長距離射撃は失敗したけれどまだ挽回の余地はあります、と虚勢を張った高雄は彼の口から続いて飛び出てきた話の内容に攻撃失敗の動揺すら忘れて絶句した。
指揮官が言い出した奇策と無茶を履き違えた愚策、軍艦だった頃でも艦娘になってからでも両方の知識と経験はその無謀に強い拒絶感を発している
この作戦が嫌だと言うならすぐに旗艦を陸奥に変更する。
それで重巡同士の試合は終わって次の勝負が始まるだけだ。
どうせ演習の勝ち負けが命に関わるわけじゃない。
わざわざ高雄も難易度が高いだけの骨折り損に付き合って痛い目を見る必要は無いだろう。
自身が言った作戦に向かって執拗なほど重ねられた消極的なセリフで終わった中村の話にこの方は正気なのだろうかと高雄は内心で呻く。
男子たるもの勝利を望まないなどある筈が無い、しかし、戦う前から負けると平然と言い切る彼の軽薄さに不快感が湧き立ちかけ。
眉を顰めた直後に高雄の脳裏に走った直感によって指揮官の言葉が彼女の身体と心を気遣うモノであり、愚策を提示された事を理由に試合から退く事を中村の責任としても構わないと勧めてくれているのだと重巡艦娘は気付く。
それによって彼の言葉の裏を察する事が出来た高雄はその優しい言葉に縋って指揮官に恥を被せる真似をしてしまえば自分は中村にだけでなくその指揮下の艦娘にまで見限られ艦隊での居場所を失うと言う予想に辿り着いた。
しかし、指揮官が言った作戦は目的と方法を理解できても難易度の高さだけでなく高雄にとって認める事の出来きない屈辱的な内容が含まれており。
そして、中村の言う目隠しで綱渡りをする様なリスクしかない作戦を実行しても、戦艦娘へと旗艦を変更する事によって演習を途中で棄権しても、どちらを選んだとしても自分には敗北が待つと理解した高雄の心の中で天秤が僅かに揺れる。
『・・・では、その代わりに提督へお願いしたい事があります』
だからこそ今回の演習によって優柔不断に迷っていた過去の自分が幸運を逃していた事に気付いた重巡は即決に近い早さで自分からその天秤を動かす為に片方の皿へと
(嗚呼、だから、こうなる事は分かっていたと言うのにっ・・・)
僅か数分で長距離砲を再装填できた反動で動力を失い停止したスクリュー、全てを吐き出し
腰を覆う半円の艤装に直結した13m200cm口径と言う軍艦だった頃では考えられないほど逞しかった大砲が三隈から砲撃の直撃によってまるで粘土の様に引き延ばされ崩れて千切れ、自分を守る霊力の装甲の維持すら覚束ない体が破壊の権化によって無様に跳ね飛ばされ砕け散る金属片と共に海面で水飛沫を上げ。
海原を縦に切り裂く200cm砲弾の着弾によって自分の主砲が粉々になっていく様子を見ている為か、今まで感じた事が無いほど強く身体を苛む痛みの為か、それとも分かり切っていた結果に対する諦観によってか、歪な笑みを浮かべた高雄の体がすさまじい衝撃で発生した激流に揉まれ海面に弄ばれる。
『・・・如何かしら、三隈の砲撃のお味は?』
たっぷり暴力的な海流に揉まれ洗濯機の中から取り出された後の様に濡れ鼠となった高雄の耳に遠く離れた場所から自分へと砲撃を行った三隈の澄ました声が届く。
濡れた制服がじっとりと重く肌に張り付く不快感、正確な砲撃による直撃で自分の主砲が消し飛んだ喪失感、その砲を支えていた右腕が激しい痛みを発し、肘の先からすっぱりと消えた蒼い袖の切れ目から光粒が止めどなく海面へと流れ落ちていく。
今まで戦ってきたどの深海棲艦であってもこれほどの損傷を自分に与えた個体は存在せず、相対している存在が自分と同等かそれ以上の戦力を持った艦娘であると高雄は身を持って実感した。
『驚くほど正確で強力な破壊力、結構なお手前で・・・とでも言えば満足してくれるのかしら?』
『そうですわね、後ろの余計な台詞がなければ勘弁してあげていましたわ』
その返事にむしろ
出来るだけ弱々しく見えるように、いや、腕を千切られた激痛だけでなく砲艦としての誇りである主砲を粉々に砕かれた衝撃は演技するまでもなく高雄の心と身体を痛めつけている。
『手は抜きません、容赦もしません、そうでなくとも私と提督の艦隊は貴女達の指揮官に騙され、からかわれ続けたのですから!』
自分もまた中村に騙された立場であるが故、なるほどと妙な納得と同意を彼女の言葉にしてしまった高雄の伏せた顔の口元を緩め。
実力の差をこれほど見えやすい形で観客に見せつける気分と言うのはどれだけ気味の良い事だろうか、もしかしたら自分がその立場にいたかもしれないと考えた所で高雄はその馬鹿馬鹿しさに小さく吹き出した。
『・・・何を笑っているのかしら』
『いえ、・・・少し自分の迂闊さが今更に可笑しくなっただけよ』
『それはそうでしょうね、私としても中村二佐に振り回された貴女の不幸には同情してしまいますもの』
海面に顔を伏せているから相手の姿は見えない、いや、立っていたとしても長距離砲を失い通常の砲雷撃戦形態へと戻った今の高雄では遙か40km先にある水平線上に立つ三隈は豆粒程度の大きさでしか確認できないだろう。
しかし、その臙脂色のセーラー服が自分を捕捉し戦艦級をも一撃で屠る大砲に火を込めている事は見なくとも分かってしまっていた。
先ほどの自分がやった全霊力を火砲に注ぐなんて迂闊を彼女がするはずが無く万全な砲撃を行うだろう事も。
自分の
その避けられない
『お喋りが過ぎましたわね、ではそろそろ楽にして差し上げます』
後少し、あと数十秒足りない。
『三隈、重巡と言う艦種は気位が高い艦娘が多いって知っていましたか? 私はついさっき提督から聞かされて知りました』
無駄な会話だと分かっているのに相手に敗北感を与える為に通信を送ってきた普段の奥ゆかしさをかなぐり捨てた三隈の言動、そして、自分や妹達にも多少の差はあるが確実に存在する他の艦種よりも強い堂々とした戦いを好む傲慢さ。
それをついさっき中村に指摘されて初めて自覚した高雄は作戦の前提条件の一つである自分達の性根を肯定して自分と同じ性質を持つ三隈を刺激する為に言葉を弄し。
そして、高雄は遠く青い空と蒼い海の間にいる小豆少女へと魅惑的な笑みを浮かべた美貌を海面から上げて見せた。
『特に最上型の貴女や四番艦の熊野はその典型らしいわよ?』
『なんですの? それは・・・本当に何が言いたいのかしら?』
主砲への再装填が終わり引き金を引こうとした三隈の顔が不機嫌そうに歪んだのだろう、一拍、見ずとも苛立ちで動きが止まる様子が手に取るように分かる少女の声が高雄の耳に届く。
『だから、その誇り高い戦いを見せてくれた最上型へお礼を言わせて貰うわ・・・この戦いは貴女の勝ちよ、三隈』
これで自分は
もう、この屈辱的な
『ふぅ、可哀想な人、中村二佐に振り回され過ぎて頭がおかしくなったのね・・・演習が終わったらクレイドルでの療養をお勧めしいたします』
高雄の顔に浮かぶ今にも大きな声で笑い出しそうなほどの笑み、片眼鏡が拡大して映し出すその様子に三隈がその声を哀れみと同情に変え、その手の人差し指が引き金を動かして長距離砲の奥で砲弾を撃鉄が打つ。
『そして・・・ふふっ、
『えっ?』
その言葉が三隈に届いたのはその指が引き金を引き終わった後、高雄の顔に照準された砲弾が砲口から飛び出し海上を超音速で駆ける直前だった。
なにを言われたのか理解できない重巡洋艦の足下、強力無比な砲撃の反動を押さえ込むスクリューの回転によって背後へと放たれた衝撃で激しく波打つ海面が輝きと共に真下から盛り上がるように膨れ上がる。
『ぎょっ、魚雷デース!?』
『冗談じゃっ!? 発射するタイミングなんて無かったはずだ!?』
突然に現れた波打つ光を放って海面を爆発させる魚雷によって二人の重巡の会話に割り込む事無く聞きに徹していた田中達が慌てふためく声に高雄は自分達の作戦が成功した事を確信する。
そして、自分の艦橋で海面に雷跡を見せない海中でV字を描く潜航と浮上によって敵の足下へと魚雷を届かせると言う離れ業をやってのけてくれた朝潮型駆逐艦の遠隔操作技術に高雄は胸中で喝采を上げた。
『下舷障壁貫通!? 左足の方は無事だけど右足を持ってかれたよ!』
『ああっ、くまりんこのお靴がっ! 酷い、酷いですわっ!?』
『艤装に損傷は無いけど! こら、あかんで!?』
三隈が確実な勝利を得る為に観測機と通常砲撃で高雄にトドメを刺そうとしていたら。
長距離砲の矛先が高雄の主砲では無く身体そのものを狙っていたとしたら。
砲撃に跳ね飛ばされながら波飛沫の中に紛れ込ませた魚雷に気付かれていたら。
海面に伏せていた自分が長距離砲戦形態を解除していた事がばれてしまったら。
霞が魚雷を三隈の足下まで届ける前に敵の砲撃が行われてしまっていたら。
どれか一つでも条件を満たせていなければ中村が言い出した高雄にワザと敵の攻撃を受けさせて雷撃の着弾までの時間稼ぐと言う
(重巡に慣れていない? ここまで
そして、真昼の太陽が見下ろす青い空の下、未来への期待に胸を膨らませ会心の笑みを浮かべる高雄の目と鼻の先に大気との摩擦と霊力による加速によって紅く灼熱した超音速の砲弾が襲い掛かる直前、青いタイトスーツを纏った重巡艦娘の身体が金色の輝きを散らして光粒に変わって消え。
『重巡同士の試合はそっちの勝ちで良いぞ、ただし、三隈の足は取らせてもらったけどな!』
『くそっ、勝ち逃げのつもりか!?』
光粒の揺らめきに高雄が姿を消した海上を三隈の200cm砲弾が素通りしてはるか遠くの海面に突き刺さって切り裂かれた海水が壁の様な水柱となって演習海域に立ち上り。
その白い絶景をバックに輝く金の輪が長門型戦艦二番艦陸奥の名前を宙に刻む。
『おいおい、今回はむしろ俺達の負け逃げだろ?』
旗艦が入れ替わる数十秒、光粒に変わる艦娘の身体は物体と気体の中間となってある程度の攻撃なら無効化してしまう現象、それは緊急回避手段として複数の艦娘を指揮下に置く指揮官にとっては必須技能となっている。
『それじゃ、こっちが旗艦を変更するんだからお前の方も合わせろよ、それがこの演習のルールだったよな?』
さもなければ武装は無事でも足を負傷して航行に不自由となった重巡洋艦が戦艦の重火力に晒される事になるぞ、と悪辣な脅しで要求をしてくる中村に対する怒りで三隈の艦橋に座る田中はコンソールパネルに握り拳を叩きつけた。
『三隈を負傷させ艦橋の人員を減らす事が目的だったか!?』
『足が折れた状態で艦橋に立つのは艦娘でも難しいからなぁ、三隈には無理させず休ませてやれよ?』
In the 舞鶴基地ぃ♪
三番艦「姉貴になんて事させやがんだ!! あの野郎!?」
四番艦「摩耶、失礼な言い方しないで、それにあれは高雄姉さんも納得してやっていたみたいだし」
三番艦「はんっ、元は中村とか言う馬鹿野郎が情報の確認して無かったのが原因じゃねえか! クソだクソ!」
時津風(<●> <●>)ジー…
四番艦「(ち、近い近いぃ)だ、だから、摩耶お願い・・・あんまり汚い言い方は・・・」
三番艦「なんだよ、鳥海、お前もしかしてあんなのが良いのか? 趣味わり―なぁ」
伊19 ( ゚∀゚)イヒッ♪
四番艦「ひぃっ・・・(いつの間に後ろにぃっ!?)」