艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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あらあら、彼って本当に長門が言ってた通り「信用できない人間(ひと)」なのね。

だけど、彼女が感じた「不思議と信頼する事は出来る」って感覚も分かってしまう。

ただ、私は毎回彼と一緒に海に出るのは遠慮したいわねぇ。

だって、高雄と違って私は火遊びで自分を焼く趣味なんてないんだもの。

ふふっ♪
 


第五十九話

 仮にだが、演習が始まる前に資料を隅々まで読み込んで三隈が航空機を持っていると言う情報を得ていたとしたら現在とは別の選択肢があっただろうか、と首を傾げた中村は少しだけ悩んだ後に攻撃能力は無い観測機であってもそれを持った同艦種に持たない高雄が対抗出来たかと言われると否であると考える。

 

「どうせ同じ装備を寄越せって言っても無理って言われただろうし、高雄の方も初めて使う代物を土壇場で渡されても重りにしかならなかったか・・・?」

 

 ご高説と机上の戦術を纏めて本にする様な頭の良い人間ならいざ知らず、自分には無理だと直感した時点で中村の思考はどうすれば上手く重巡同士の戦闘から逃げられるか、と言う方向へと全力回転した。

 

「少なくともそれが出来てれば、私がこんなサーカスみたいな事やらされずには、済んだでしょうねっ・・・!」

「・・・結果としては同じになってただろうよ」

 

 200cmと言う冗談みたいな巨大砲弾の着弾と言う中村がかつて日本海で戦った戦艦水鬼の拳並の迫力と威力を持った衝撃の中、長距離砲戦形態から砲雷撃戦形態へと高雄を戻し。

 その直後に津波の様な水柱に隠して放たれた八本の魚雷は引っ掻き回された海流に翻弄され三本が折れて自壊し、それを乗り越え三隈に向かう行程の前半である潜航中に二本が水圧で圧壊する。

 駆逐艦や軽巡の艦娘なら当たり前の様に装備している対潜ソナーがあれば海中を進む魚雷の進路をより安全なものに出来たのだろうが、重巡洋艦娘である高雄の艦橋には残念ながらそんな便利なものは無く、さらにもう一本が海底の岩礁にでもぶつかったのか海底で自爆してしまった。

 

「だが、頼りになる駆逐艦がここに居てくれたからこそアイツらに一矢報いる事が出来た」

「下っ手くそな褒め方! 調子に乗んじゃないわよ! ・・・ふんっ!」

 

 しかし、その困難な道程に対して魚雷へ同期させた感覚だけを頼りに二発の魚雷を演習相手に命中させた頼りになる駆逐艦娘は額に玉の様な汗を浮かべ精神的な疲労で怠そうに顰めた顔を中村へと向ける。

 そんな霞は彼の軽い雰囲気の褒め言葉にどこか不機嫌そう(誇らしそう)に鼻を鳴した。

 

「そして、その成果は高雄、君が俺達にとって最良の負け方をしてくれたから成し得た、ありがとうと言わせてくれ」

「お褒めにあずかりまして、恐縮です。提督」

 

 勝てない勝負と割り切り次の戦艦同士の戦いの為に相手の艦橋で戦闘補助を行う艦娘を減らす、作戦と言うより嫌がらせに近い目的を実行する為に不本意なやられ役を最小限の損傷で演じきった重巡が光の中から艦橋へと歩み出て中村へと微笑み。

 右袖が半ばまで千切れひび割れの様な切り傷だらけの右腕、その肘から先は恐らくは骨折しているだろう右手を胸の前に添え。

 高雄は大の男でも泣き叫ぶだろう大怪我をしているとは思えないほど上品かつ丁寧な一礼をしてみせた。

 

『あらあら、右手一本と交換は相手の片足ねぇ・・・、それって本当に割のいい取引だったのかしら?』

「あくまで俺の経験則だが艦橋にいる艦娘にとって艤装の破損や上半身の怪我より足が動かない、もしくは立てないって方が戦闘補助に悪影響が出るんだ」

 

 艦橋の外、光の輪から歩み出て胸の前で腕を組む陸奥が背中に接続され組み立てられていく装備に身を任せながら遠く彼方で右足を失い海面に手を突き跪いている最上型重巡洋艦三隈へと視界を拡大させて少し同情的な視線を投げた。

 

「普通の戦闘ならそうなる前に旗艦を交代させて回避できる問題だからホントなら考える必要の無い事なんだけどなぁ・・・」

 

 艤装だけが破壊されて艦橋に戻った場合には艦娘本人にはほとんど損傷と言えるものは無い、しかし、身体などに直接受けた損傷は五体満足になるよう補填されるが所詮は形だけの修復でしかなく、受けた損害の程度によるが肌の表面、骨や筋肉、内臓などにダメージが残る場合がある。

 そして、武装が無事でも下半身をやられて艦橋に戻った吹雪達が床に座り込む事しか出来なくなった時の姿を思い出す中村は見ているだけで痛々しい彼女達の姿がその後の戦闘を決定的に不利にする要因となる事を南の海で散々に思い知らされていた。

 

「つまり、不用意に旗艦変更が出来ない演習であるからこその策と言う事、流石です、提督」

「あ、ああ、そう言う事だ・・・それじゃ、高雄、君は配置に着くよりも先に応急処置を」

「その前に提督、作戦実行前に私がお願いした事に関して話しをさせてください」

 

 実際には策と言うより防衛と砲戦に掛かりっきりでその存在を忘れていた出撃直後から装填状態のままだった魚雷を在庫処分のつもりで放つ程度の思い付き、普通に撃つのでは簡単に相手にばれるからそうならない為の欺瞞が必要だったと言うだけ。

 しかも、それすら優先度としては低く、下手に粘って指揮官としての力量の低さを高雄に嘲られるなら潔く退いてさっぱりと彼女に見限られた方が精神的な被害は抑えられるかもしれないと考えた中村はワザと高潔な気質を持つ者が多い重巡艦娘が嫌がる類の提案を行う事にしたのだ。

 だが、その思惑と予想を裏切って高雄はとある要求を指揮官に認めさせる事を条件にして安全な試合の棄権では無く自らの艤装を失うリスク(愚策)の実行を選び取った。

 

「確か浜風と同じ様に、俺へ出来る限りの対応を求める権利を自分にも、って話だったか・・・?」

 

 彼女の返事は中村の予想から少しズレたものの仮にこちらの思惑通りに三隈達が動かなかったとしても高雄に砲弾が命中して大破する前に条件反射レベルで身体に染みついた旗艦変更による回避をしてしまえば問題無いと彼は判断して嫌がらせの実行を重巡に命じ。

 そして、思わぬ方向に進んだ結果が偶然上手くいっただけとは口が裂けても言えなくなった状況に戸惑いながら少し気まずそうに頬を指で掻く中村が高雄を見れば莞爾と微笑む彼女は満足げにその通りだと同意の意味を込めて深く首を縦に振った。

 

「それは構わないが、欲しいモノがあるとか必要な手続きがあるとか、そう言うものは今すぐってわけにはだな」

「いえ、私がお願いしたい事は提督がここで頷いていただければそれだけで済む事ですので」

 

 その言葉に三桁万円の高級な酒を寄越せとか最新ファッション一式を用意しろなんて財布が大破しかねない要求ではないらしい事に一安心するが、直後に高雄の口からよくもこの私に屈辱的な真似をさせてくれたな、と恨み節と共に気が済むまで殴らせろなんて今すぐ可能な要求が飛び出す可能性に気付いた中村は顔を強張らせる。

 実際、気性の荒い艦娘なら艤装をワザと破壊するなんて作戦をやらされればその後に指揮官をぶちのめすだけで済めばマシと言う結果が起こっても不思議ではないぐらいに自分の分身である装備を誇りにしている事を中村は知っていた。

 

 わざとでなくとも過去に指揮下にいた天龍型軽巡の龍田が持つ薙刀が折れた際、その原因を作った深海棲艦を軽巡艦娘は過剰なほど痛めつけて凄惨な残骸へと変え。

 その暴走行為でさらに破損した装備に気付いた龍田は艦橋に戻った直後に中村に剣呑な笑みで詰め寄り、彼の戦術の粗をネチネチと過剰に口撃し。

 そして、その後日、自分の指揮官なら薙刀の扱いを知らなければならないと言う意味の分からない理由によって先端に布が巻かれた長めの棒を持たされ基本の型から訓練は始まり中村はその日一日ぶっ通しで龍田にしごかれた。

 

「提督、宜しいですか?」

「あ、ああ、言ってしまった以上はまぁ、仕方ない・・・何でも言ってくれ」

 

 他にも同じ様な理由で天龍に、特に理由無く五十鈴にも同じ様な目に遇わされた事がある自衛官は史上初の艦娘同士による公開演習の勝敗の原因が部下の反乱となり兼ねない事態に背筋を慄かせた。

 だが言葉だけとは言え一度はっきりと約束してしまった事を翻すのは情けないと感じる気質と安っぽいプライドのせいで彼は頷きと返事を高雄に返す。

 

「ありがとうございます、では・・・」

 

 吹雪に創作の中の物語を現実の様にして吐いていた事を謝った時にはその本人のビンタで顔面に大きな紅葉を一枚張り付けられて、その後に口に柔らかい追撃を喰らった鉄の味がする思い出を持つ指揮官は流石に駆逐艦よりも大人である(自制が利く)重巡なら本気でぶん殴ってくる事だけは無いだろうと希望的観測を抱く。

 

(人間でもクレイドルが使えれば良かったんだけどな・・・)

 

 だが、駆逐艦ですら本気で殴るとレンガやコンクリートブロック程度なら粉々に出来るぐらいのパンチ力を持っている事を考えると重巡の場合には手加減して貰ったとしても顎の骨がゴムより柔らかくされてしまうかもしれないと中村は似合わない神妙な面持ちで高雄の言葉(判決)を待った。

 

「私が欲しいモノは貴方の隣、秘書艦としての席です・・・」

「・・・は?」

 

 無茶な作戦の対価にどんな責任の取り方を要求されるか顔を強張らせ戦々恐々していた中村の脳が高雄の言った言葉を一度素通りさせてからもう一度反芻してやっぱりその内容の突拍子の無さで目を瞬かせる。

 

 唖然としたマヌケ面を見せる指揮官と向かい合う高雄がしてやったりと言う態度を隠さない満面の笑みを浮かべ、横目にその二人を睨んだ霞の左目が苛立ちを示す様にその中の花菱紋をジリジリと電流にも似た光りで瞬かせ。

 

 床に横座りして向かい合う二人の様子を見守っていた鳳翔が能面の様な笑みを顔に被せ、その近くで全身打撲と骨折で絶対安静になっている吹雪が昏い色を浮かべた両目を青い重巡洋艦に向けてその姿を鏡の様に映し込む。

 

 自分の内側(艦橋)の温度が数度低下した気配で僅かに身震いした陸奥は努めて平静を保ちながらあらあらと誤魔化す様に口癖を漏らし、プロデューサー(提督)が中村でさえあればマネージャー(秘書艦)が誰であろうと気にしない自称アイドルは我関せずと言う態度で破れた自分の衣装を簡易裁縫キットで繕う。

 

「ですが、それは自分で勝ち取りますので、今回はこの艦隊に私の為だけの編成枠を一つ戴こうと思います」

 

 敢えて自分から地雷を踏み抜きに行った重巡洋艦は胸を張り堂々とした笑みで艦橋に居るメンバーを見回して自己主張を確定させる。

 

「っえ、あ、・・・それはまあ、構わないが、そんな事で良いのか?」

「ありがとうごさいます、提督、これから末永くよろしくお願いしますね♪」

 

 元から高雄にフラれない限りは自分の艦隊に居てもらいたいと考えていた中村にとって彼女からの申し出は有難いと言えるが、同時に艤装を敵に差し出す無謀で無茶な作戦を実行する対価になる程の価値があるモノでは無いのでは、と指揮官は首を傾げる。

 

(末永くって大袈裟な・・・まぁ、多分、高雄から脱退を言い出すまではって事だろう?)

 

 そうして高雄の思惑を勘違いしたまま今まで全ての艦娘の中で吹雪以外に前例が無かった所属艦隊の完全固定が中村によって認められてしまった。

 一人の艦娘が指揮官に自分専用の編成枠を求めると言う事の真意が分からない中村の周囲で空気が重みをさらに増す。

 

「では、・・・皆さん、戦闘を再開いたしましょうか?」

 

 その周囲の空気の変化を私の知った事か、とでも言う様に完全に無視した高雄は魅力的な笑み崩す事無く正面モニターへと手を向け、その先に見える水平線上で小さく見える金色の輪を指さした。

 過剰反応にも感じる仲間達の様子に恐れおののき、脳内で乱舞する疑問符によって思考停止しかけていた中村の頭が高雄の言葉と対戦相手の旗艦変更の光のお陰で戦闘再開の為に動き出す。

 

「主砲を幾つか高雄と霞に回す! 鳳翔、那珂やれるか?」

「那珂ちゃんは今、お着替え中で~す☆ プロデューサーさんだからってジロジロ見ちゃダメだよ~♪」

「鳳翔、電探と観測に入ります・・・提督、後で少々お話しないといけない事が出来ました、よろしいですね?

 

 中村の命令ですぐさまモニターに向かった高雄と霞の背後、スッと立ち上がり龍驤との戦闘で破れて水着の様に露出度が高くなった着物を身に着けた空母艦娘が陸奥の索敵機能(モジュール)に着く前に中村へとコンソールパネル越しに顔を近づけてその耳に囁きを吹き込んでから離れ。

 鳳翔の言葉に頬を引き攣らせながらも声無く頷きを返した中村は不意に視線を感じた方向へと横目を向け、その先には普段通りの朗らかで素朴な笑みを浮かべている少女の顔、痛み止めを飲んでいるとは言え全身が引き裂かれる様な痛みに晒されているはずの吹雪が指揮官へと重く(私が貴方の)強い信頼(一番艦ですよね?)を視線に乗せた微笑みを向けていた。

 

(ふ、二人とも笑ってんのに笑ってねぇ・・・これは、演習後の方が俺にとって危険かもしれない・・・のか?)

 

 この日の夜、彼は小笠原に同行していた4人の艦娘に囲まれて正座させられる事になり。

 相手が軍人の手本の様な節度を持った重巡艦娘(大人)であっても不用意に何でもしますなんて約束をしてはいけないのだと中村が学習させられるのは別の話である。

 

・・・

 

 義男達を相手にする演習が始まってからとことん自分は予想外の事態にばかり巻き込まれると内心で呻く俺は気を抜けば吐きそうになる溜め息を気力を振り絞って耐える。

 

《当たってクダサーイ!! FIRE!!》

 

 そんな憂鬱さを掻き乱す様に艦橋まで響く巨大な爆音に鼓膜を震わされ、連続で金剛の艤装から放たれ放物線を描きながら水平線の向こう側に隠れている戦艦娘に向かう砲弾の流れ星を見送る。

 

「・・・砲撃着弾確認できず! また全弾外れたわ!」

 

《Shit! 狭叉にもならないなんて! この緒元情報は合ってるんですカー!?》

 

「水平線の向こう側に居る相手なんですよ!? あちらからの弾道と予測針路から逆算する事しか出来ないんです、むしろこれでも上出来な方ですわ!」

 

 砲撃の大音声に続いて今にも海面で地団駄を踏みかねない程苛立った金剛の大声が艦橋に響くが彼女の感じている不満は俺達にも当てはまる為にそんな事をこちらに言われてもどうしようもない。

 

「・・・まさか、ここまで命中率が低くなるとは」

「深海棲艦だったら間違いなく二回目の砲撃で撃沈できてただろうけどね・・・」

 

 最低でも100mを超える深海棲艦の巨体と比べると精々が十数mの艦娘では単純な重量と質量は言うに及ばず、表面積で言うなら艦種によっては数百倍まで差が広がる事になる。

 更に手元のコンソールパネルにあるレーダーの丸い画面は砂嵐に覆われ、その外縁に恐らく対戦相手である陸奥のモノであろう信号が頼りなさげな点滅しているが、それすらころころ距離を変える為に大体の方角を知るぐらいにしか役に立たない。

 

「提督、あっちからの砲撃くるよ!」

「速力針路そのまま! 数撃って当たるならとっくに俺達のも当たっている!」

 

 時雨の警告と同時に水平線の向こう側から先ほど撃ち出した砲弾が跳ね返ってきたかの様に金剛の頭上を飛び越え後方や前方など数百mは離れた場所に水柱を上げ、海面に落ちたと同時に炸裂した戦艦砲弾が大量のマナの光粒をばら撒き。

 砲弾の着弾で海面に放出された攻撃的な霊力が金剛の障壁に干渉してバチバチと火花を散らし、その上に艦橋内のモニターや電探に砂嵐を追加して狂わせる。

 

「障壁減衰0.3%、あっちも当てずっぽうって事ね」

「何か花火大会見てる気分になってきたわ・・・撃っても当たらんし、ウチ、もう島風と一緒に寝ててええかな?」

「足が痛くて立てないくまりんこも頑張ってるんですから貴女も頑張ってください!」

 

 重巡同士の戦いで骨折した右足を床に投げ出した女の子座りで手すりの下からモニターに無理矢理ぎみに手を伸ばしている三隈が自分の隣に立ち金剛の砲撃を補助しているガーゼを肌に張り付けた半裸の龍驤へと柳眉を吊り上げて強い声を上げる。

 船足は他艦種の艦娘よりも大きく劣るがそれを補って余りあるレーダーの探知範囲と大量の砲弾による火力によって敵を圧殺する筈の戦艦娘が数度の全門斉射を経ても敵を討ち取れないでいた。

 

「こんなのを見せられると観測機は重巡だけでなく全ての艦種に必須の装備になりそうだと分かるな・・・」

「数人分製造するだけで鎮守府の予算を空っぽにするっていう高級品よ? 贅沢な望みね」

「それが出来るのなら最上型で一つのカタパルトを使い回ししなくても良くなるのでしょうけど、到底無理な話ですわ」

 

 砲撃の残滓を砲口から立ち上らせている金剛の各砲塔へと再装填が行われる中、叶わぬ望みに愚痴を漏らす俺の声にその場にいた全員が苦笑して不毛な次の砲撃に備えて演習相手の位置情報を割り出す為に再計算を行う。

 白い雲が漂う青い空と高波をうねらせる青い海の向こう、地球が丸い為に物理的に目視出来なくなるほど離れた場所にいるはずの相手の顔を思い浮かべた()は自分が義男に勝ちたいと思っている事を改めて確認する。

 

 今では無い一回目の人生、普通に小中高と学生時代を終えてそのまま大学で文系の学科を進み30代になる頃には名ばかりの助教授として上司の教授代わりで教壇に立ち講義を行っていた人生と比べると些か刺激が強すぎる今世の自分へと不意に苦笑が漏れる。

 偏ったジャンルのTVゲームか読書ぐらいしか趣味と言えるものが無く、年老いた親に勧められるまま見合い相手と結婚したが仕事に感け過ぎて仮面夫婦みたいな出来となった家庭は自分にとって本当に必要だったのかと疑問に苛まれながら65歳の時に定年退職してから押し寄せた諸問題に精神を疲弊させ、その数年後に誰も居なくなった自宅で眠りについたと思ったらこの世界で再び赤ん坊からやり直す事になった。

 妻の浮気を巡る裁判とか自分の子供の素行不良による巻き込まれた犯罪事件とか、家庭を顧みなかった自分の身から出た錆で勝手に自滅した人生に向かう道は今では跡形も無く自衛官として艦娘達と共に苦楽を共にしている。

 

(思っていたよりも僕、いや、俺は軍人に向いていたって事なんだろうか・・・)

 

 自分と同じ様に別の人生を歩みこの世界に産まれ直した義男と出会い、前の人生では全く縁の無かった彼と親友となっていろいろな意味で引っ張り回されなければ、もしかしたらまた田中良介と言う人間は前と同じ人生をなぞっていたかもしれない。

 

(矢矧からは未だに情けないと言われる事もあるけれど・・・)

 

 未練が無いと言えば嘘になるが出会ってもいない女性にしてもいない結婚生活の不備を謝るだとか、生まれていない自分の子供が道を踏み外さない様に交流するなんて事はもう出来るはずも無い望み。

 だからこそ新しい人生で出来るだけ多くの変化を望んで義男に引っ張られて自分の一人称を僕から俺へと変えたり、その悪友が頻繁にやる馬鹿な行動とばら撒く嘘に巻き込まれながらも心を弾ませながら前世と全く違う自衛士官への狭き門に挑み、そして、此処にいる事に後悔はもう無かった。

 

「山ほど感謝はしてるさ、でも負けてやるつもりはないんだ・・・ん?」

 

 脳裏に微笑ましいモノを見る様な笑みを浮かべる三つ編みとアホ毛を揺らす青髪の小人(三等身)水上機(瑞雲)の上で手を振っている様子が見えた気がしたが、今は構ってあげている暇が無いので妖精(博士)にはお引き取りを願う。

 

「提督?」

「何でもない・・・時雨、皆、状況を動かすぞ!」

 

 演習で戦闘不能になった五人が強制解除で外に放り出されない為に艦橋に控えて艦隊の補助に徹している時雨に向かって表情を引き締めた俺はコンソールパネル上に集まる情報へと目を走らせる。

 

「金剛、進路を中村艦隊へ! こちらから仕掛ける!」

《イェスッ! その言葉を待っていたネー! テイトクゥッ♪》

 

 直径100kmの巨大な円に囲まれた海上の外縁を巡航していた金剛が俺の言葉でその針路を円の中心を挟んで水平線の向こう側にいるだろう陸奥へと向ける。

 

「でも霊力の濃度が高いせいで電探も信用できないわ、闇雲に接近しても狙い撃ちにされるわよ?」

 

 布地の大部分が破れたセーラー服の切れ端の下、身体中に刻まれた無数の裂傷にガーゼを張り付けサラシの様に上半身に巻いた包帯で胸を覆っている矢矧が俺の方を振り返って警告を口にするがそれは相手方も同じだと短く返す。

 

「金剛、形態変更用意! 周りにはたんまりとマナが散らばっているんだからそれを吸収すれば攻撃も出来るし、電探も使える様になるはずだ!」

 

 指揮官として作戦方針を決断する時には部下に躊躇いを見せてはいけない、義男だってやれている事なのだから俺にだって出来ない事じゃないと防衛大時代に部屋長や教官から教えられた訓示を実践する。

 

 そして、握った形態変更レバーを砲撃戦から殲滅戦へと切り替えた。

 

《OK! テイトクゥ、私から目を離しちゃっノーなんだからネー!》

 

 いや、戦闘中なんだから見るのは君じゃなくて相手じゃないといけないだろう、とツッコミを入れそうになった俺が座る艦橋のモニターに変形を始めた金剛の艤装が霊力の吸収と増幅を行う金属板を広げ、そこから溢れた青白い光が彼女の身体を覆う様に幻想的で巨大な光の翼を造っていく。

 

・・・

 

 陸奥が放った砲撃が海上にばら撒いた霊力の残滓が海に溶ける事無く金剛の艤装へと引き寄せられ、白い線を宙に引く様に無数の光粒が巫女服の背中で円環を作り内部機構を剥き出しにして体積を巨大化させた兵器へと吸収されていく。

 

『予備砲弾の分解完了、薬室内(チャンバー)圧力43%や、増幅率は毎秒2%で安定しとるで』

『霊力力場のよる探知妨害の軽減もしてます・・・やっと見つけましたわ! 中村艦隊捕捉です!』

 

 例えるなら輝く鉄の輪から生える白鳥の翼、二対四枚のそれは天使を思わせるほど穢れの無い純白を青い空と海の間で羽ばたかせて溢れる光が散る羽の様に海原を撫ぜる。

 17mの巨大な美女の背中から生えた翼の雄大さと美しさは一枚の絵画の様な趣深さとなって演習海域で外に被害が出ない様に障壁を展開している護衛艦などのカメラを通し、遠く離れた佐世保の港へと送られ観覧席の前に設置された壁の様に巨大なモニターに観客達の目をくぎ付けにした。

 

『距離30kmで出力10%で第一射、その後も続けて接近しろ!』

 

 金剛の翼が周囲の霊力を吸収して回収したお陰で砂嵐が無くなったレーダーが捕えた敵艦に向かって円環がその陽光を砲口へと詰め、指揮官の指示と仲間達の情報に従って戦艦娘は姿の見えない敵の想定位置をその脳裏に浮かび上がらせる。

 

『仰角補正、照準距離29900! 提督どうぞ!』

『金剛! 撃ち方始めぇっ!』

 

 艦橋で捕捉された陸奥の姿がはっきりと金剛の目の中に像を結び、鉄輪から十分の一の火力を受け渡された四基の主砲が火を噴く寸前の火山を思わせる熱で周囲の空気を陽炎へと変え。

 

《撃ちますッ! FIREァアッ!!》

 

 甲高い叫び声と共に海水を焦がす火線が標的を目がけて走り、空気を熱で歪ませながら突き進んだ砲撃が着弾点に吸い込まれるように消え、一拍の間をおいて巨大な水蒸気爆発が水平線上に水柱となって巨大な影を海上に作り出した。

 

『じゅ、10%でこれか・・・』

『扶桑の時は限定海域の壁のせいで良くわからなったけど・・・、外で使うとこんな事になるんだね』

『使用に関しては実行委員会に止められなかったけど、使って良かったんだろうか・・・?』

『なに言っとんねんっ!? 今さっき命令したんはキミやろが!』

 

 自分で命令しておいて目の前で起こった大爆発に恐れ戦いた田中が指揮席で怖気づいた声を漏らし、金剛は関西弁の鋭いツッコミが響く艦橋から意識を水平線上に立ち上る水蒸気の雲の向こう側へと集中させ、自分の背で羽ばたく翼と同じ色の光を宿した何かがきらめく様子に戦艦娘は不敵な笑みを浮かべた。

 

《オゥーケー! たった一撃でFinishなんて戦艦同士の戦いなんて言えないデース!》

 

 




高雄さんの勘違い

①中村の指揮は他の特務士官と比べて特に優れているワケではない。
指揮できる艦娘の人数が多いから戦術に広い幅が有るように見えるだけ。

コイツ(中村)は誇り高い日本男子ではないのでわりと簡単に逃げ腰になる。
例えば深海棲艦との戦闘でも追い返しさせすれば追撃せずに帰るとかすぐ言い出す。(帰れるとは言っていない)

③実はわざわざ欺瞞作戦で自滅しなくても観測機の必要無い距離まで近付ければ勝負を正々堂々と引き分けに持ち込めた。
まぁ、その場合は高雄も三隈も両方ともひどい事になるはず。

接近中にワンパン大破させられる危険性?
気にするな!

④吹雪は中村にとって初期艦であり最も親密な艦娘、そして、いつも付き人みたいな事をしてる。

 ・・・だが、吹雪は彼の秘書艦ではない。
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