艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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Merry Christmas!

今日は偉大な聖人の生誕を祀る祝祭日。

でも、現代では祝福を恋人たちに届ける日になっちゃってマース。

なら、流行りに合わせて神様は奇跡の一つや二つは気前良くくれるべきデース。

だからこそ! Please!(寄越しなさい!) 提督に勝利をっ!!

まっ、私がテイトクのheartを掴むのは神様にだって変えられない運命デスけどネッ♪ 
 


第六十話

 悪夢だ、と独り言を漏らした田所浩輔は我知らず整った顔立ちを掻く様に片手で自分の顔半分を覆いながら目の前、今回の艦娘の公開イベントに際して佐世保会場に特設された巨大なモニターと手元の液晶端末に送られてくる詳細情報の間を忙しなく行き来させていた。

 

(地球上のマナの増大によって将来的(・・・)に神話の中の存在が復活する・・・?)

 

 VIPやマスコミを含めた千人以上の観客が座る観覧席の前、19m×6mと言う巨大な壁にも見える二つのモニターの中で繰り広げられている艦娘同士の模擬戦闘(デモンストレーション)

 右側の画面が追う鉄の輪を背負った二対の白翼を羽ばたかせる天使の様な美女が四基の大砲から閃光を放てば海面が煮え立ち白煙を渦巻かせ灼熱地獄へと変わる。

 左側でその熱量の標的となった妖艶な美女が二本の鉄角が付いたサークレットの下で不敵に笑い、自分を穿つ為に海水を蒸発させながら突き進んできた光線をその背中から生えた翼で受けて光粒一つ残さず打ち消して見せた。

 

(なにが近い未来だっ、冗談じゃない! もうそれ(・・)は我々の目の前にいるじゃないかっ!?)

 

 発電所の下に隠された霊核保管施設で日本国総理大臣、岳田次郎が言っていた確実にやってくるこの世界の未来を聞いて頭では理解していたつもりになっていたエリート官僚は今回の演習で自身に叩きつけられている凶悪な実体験による胃を苛む吐き気に呻く。

 

 時間を止める、未来を予知するなどと言う信じ難い超能力を持った駆逐艦達が時速700kmで海上を走る事は資料では知っていた。

 空母を原型に持つ艦娘が空中サーカスの様な曲芸飛行を行うと言う事も事前に知っていた。

 その他の艦種にしても全てこの日の為に各種資料を読み込み万全を期していた筈だった。

 

(だが、こんな事・・・、誰が予想できる!?)

 

 吹雪と島風の正面衝突で金髪の少女の下半身と上半身が真っ二つになり、その直後に黒髪のセーラー服が海面を何度も跳ね宙にその手足がバラバラに飛び散る光景にフランス駐日大使夫人を含めた十数人の観客が卒倒した。

 

 龍驤と鳳翔の空中戦は演習海域の外円からカメラ向けている数百個のセンサーユニットすら追いつけず、自衛隊内で厳選された広報担当官である筈の解説者(アナウンサー)が手元の資料とマイクの間で呻く様な意味を成さない戸惑いの声を漏らすだけの役立たずに変わる。

 

 アイドルの様に賑やかな美少女が画面に登場し一瞬だけ和んだ会場の空気が直後に降り注いだ砲弾を合図に凍り付き、砲口と刃物を突き付け合う軽巡二人の血飛沫にまみれた生々しい殺し合いにしか見えない試合によって多数の女性が上げる悲鳴で周囲が騒然となり。

 

 重巡に至ってはこちらの鼓膜とモニターのスピーカーを破壊する為に大量の砲撃を撃ち合い、トドメとばかりに200cmと言う常識はずれの巨大砲弾を連発させて兵器に詳しいと豪語していた各国の知識人に白目を剥かせる。

 

 さらに続く戦艦同士の戦いでは撃ち出した砲弾が轟音と共にばらまく暴力的なマナ濃度の上昇がモニターを砂嵐へと変え映像そのものが届かなくなる事態が発生。

 そして、遠く海の彼方から聞こえてくる巨人の足音にも感じる砲声に困惑する田所や観客達の目の前で唐突に大画面のノイズが消え。

 

 そこ(海上)には巫女服を纏い背に黒鉄の輪を背負う天使が光で作られた翼を広げ立っていた。

 

(艦娘と深海棲艦は対となる存在・・・過去の地球を支配していた神魔の再現体)

 

 光粒を振り撒き二対の天使の翼を閃かせる巫女装束と妖艶な美貌が羽ばたかせるドラゴンの翼を象った四枚の光膜が海面を打ち波打たせる。

 

(その通りだ、あれは人の形をした化け物で・・・)

 

 ビーム兵器、それはプラズマ化した粒子を指向方向へと加速させ投射する架空の兵器であり、現代の科学技術では理論的には可能だが技術的には不可能とされている存在。

 マナと仮称される得体の知れない粒子によって原理不明の製法で造られた存在しない筈の兵器が現実の中で光線を放ち、相対している同艦種を討ち取る為に海面を凪ぐように焼き払い、海を抉り取って蒸発させる。

 

 演習海域を覆い被害を内側に押し留める防護障壁に陸奥が避けた光線が直撃して中空がひび割れ、直後に不可視の防壁から光の破片が外側に散り障壁にエネルギーを供給している護衛艦の動力が障壁の維持と修復の重労働に悲鳴を上げた。

 

(そして、将来的に人間が辿り着いてしまう進化の終端の体現者達)

 

 第二次大戦時には力の象徴とされていた戦艦を原型に持つ美女達が宿すもう一つの姿。

 殲滅戦(Genocide)の名を与えられた形態が生み出す光景を映し出すモニターの向こう側、佐世保沖に現出した地獄絵図を前にした田所は自分の認識がどうしようもなく甘かった事を今更に後悔する。

 

 同じ艦種同士が戦うと艦娘が持つ特徴の潰し合いになって泥沼な戦いになってしまう、今回が彼女達が持つ本来の実力を見せる為の演習だと言うならこんな制限は無い方が良い。

 黙って自由に戦わせろ、そんな意図を言外に主張する太々しい態度を見せた中村義男と言う特務士官、田所と同じく別の現代日本で生きた記憶を持ち艦娘を率いる指揮官として国防の最前線にいる青年の一人。

 そして、鎮守府で妨害工作を行っていた者達によって欠陥品のレッテルを貼られていた艦娘の(怪物共に)能力を覚醒させた(余計な事をしてくれた)人物の言葉を頭の中で反芻する。

 

(しかも、これすら全力ではない、だと・・・?)

 

 自衛隊から内閣総理大臣のお墨付きで根こそぎ持ってこさせた過去の資料や現在の運営状況などの記録や映像を残らず精査し、その中村と言う典型的な個人主義者(脳筋な野蛮人)が自分を大きく見せこちらから譲歩を引き出す為に艦娘の運用実態を過剰表現しているのだと鼻で笑った。

 そんな数時間前に頭にあった想定を中村だけでなくもう一方の指揮官である田中までもが当たり前の顔をして上回っている現状に若年の官僚は目眩を止める事が出来ない。

 

 建前も裏事情も纏めて提出させたはずの資料に書かれていた現代兵器より少し優れているなどという文面は何だったのだ、と憤る田所の手が握る端末に集まる情報は事前情報が大まかには(大部分が)合っている(想定外)と伝えてくる。

 海の向こうで今もビームを撃ち合っている戦艦娘の砲に注がれている出力が10%前後であると言う知らせに息を止めノンフレーム(インテリ眼鏡)の下を苦悶に歪めた。

 そして、田所は戦艦娘の艦種能力の制限の有無に言及してきた指揮官、田中良介の言葉を些細な問題として自己判断に任せるなどと言ってしまった自分の愚かさを呪う。

 

 そもそも常識外れな十数mの巨人となれるとは言え、せいぜい36cmの大砲(電柱程度の太さ)が最大出力で砲撃を放つと単純計算で東京から京都までを一撃で焼き払えるなどと言う荒唐無稽な計算結果を誰が信じると言うのだ。

 軍事技術に精通していなくとも常識を是とする真っ当な人間ならそんな事を宣う者を指して狂人と言うだろう。

 

(刀堂博士、貴方はなんてモノを造り出してしまったんだっ!)

 

 様々な(政治的な)事情から詳細な記録が欠落した(抹消された)日本海に出現した限定海域の中で戦艦娘が放った全力砲撃が海上から空を穿つ光の柱を立てたなんて情報は現場の人間の主観が誇大させたモノだと高を括っていた。

 そんな先入観を棚に上げて田所は各省庁のわがままを真に受けて馬鹿正直に重要極まる作戦と戦闘の記録を消した自衛隊の迂闊さ(無能さ)に殺意を胸に沸き立たせて握り込んだ掌に爪を食い込ませる。

 

(確かに、対外的な基準となる艦娘の能力を示し、かつ各国との交渉を有利にする為に多少派手な演習をと注文を付けた、・・・だが、誰がここまでやれと言った!? 出来ると思うわけがないじゃないか!!)

 

 中村と田中、二名とも転生者である事を差し引いても経歴も実績も十分に優秀な人材であると田所にも分かる。

 だが、同時にその素行と指揮下にいる艦娘の状況を見ると両名とも田所を含めた日本が抱える致命的な地雷の存在を知る者達にとっては危険極まりない存在と言える。

 

 目的の為なら手段を選ばず詐術を口に囀らせ規則のグレーゾーンに躊躇い無く踏み込む組織の運営を根本から破壊しかねない中村義男の気質。

 彼の部隊に所属している艦娘はその内の数人が自衛隊組織ではなく彼個人に対して忠誠を捧げる私兵と化していると言う誇張でなければ危険極まりない報告が上がってきていた。

 

 艦娘との連携と友好関係を気にし過ぎるあまりにミスに対してほとんど罰則を下さないばかりか戦功を徒に称え賞与にばかりへと手間を振り分ける田中良介の考え方。

 その指揮下の艦娘の手綱を引く事を実質放棄している彼の艦隊では信じがたい事に上司と部下の関係が一部だが逆転していると言う。

 

 そして、腹立たしい事にその両名こそが艦娘運用能力だけなら鎮守府に所属している特務士官の中で最も高く、さらに多数の艦娘と友好的な関係を結んでしまっている事が問題だった。

 

(あの二人のどちらかが艦娘から中枢機構の破壊を提案されたとしたら・・・どちらかが艦娘にそれを命じたら・・・)

 

 おそらく曲がりなりにも国防に殉じる者達の登竜門である防衛大でも好成績を修め自衛隊士官と成った人間なのだからそこまで彼らが愚か者では無いと信じたい。

 だが、その二人の自衛官の出生から現在までの経歴を掻き集め、鎮守府などでの言動を含めて分析した田所は霊核が眠る地下施設で岳田総理から聞かされた最悪のシナリオが現実となった時。

 

 現代の終わりを艦娘に懇願されたとしたら彼らは彼女達へ向けて首を縦に振る可能性が高く、そして、逆であってもまた同じだろうと田所は根拠なく確信する。

 

 なのに、不本意極まる事に人類の敵として造られた深海棲艦が存在する以上は現代兵器は過去の産物として歴史の底に埋まっていく事は止められず、人類が生き残る為には対抗兵器である艦娘を運用しないワケには行かない。

 

 しかも、頼るべき自衛官の筆頭は人類よりも艦娘を選びかねない危険人物達。

 

 目の前で行われている演習によって発生する国内外への影響とその後始末、今後も続く怪物達(艦娘達)に世界を滅ぼさないで下さいと願い祈りながら貢ぎ物でご機嫌を取ると言うやりたくもない管理者(お世話係)としての役割。

 

 そして、田所にとって一番問題なのは危険だからとその指揮官か艦娘、どちらかを排除しようとすれば彼ら彼女らの戦力をあてにして安全かつ(刺激を嫌)緩やかに(い弱腰で)世界と地球の環境変化に対応しようとしている日本政府(岳田達)の方針は田所の方こそを危険人物と見なしてその首を物理的に切り落すだろう。

 

 そうならない為に向かい合わなければならない目の前に山積みになっていく諸問題と今後への不安でマイナス方向へ田所の思考は過剰回転して彼の正気と共に気力まで削っていく。

 最早、感情を表に出す事すら出来なくなった真顔の美男子の前で巨大モニターが一際強い閃光によって白へと染まり。

 式典の生放送を望むマスコミをかなり強引な方法でだが抑え込みシャットアウトできた事だけは今回のイベントで唯一、自分にとってファインプレーだったと田所は自画自賛(現実逃避)する事にした。

 

(そうとでも考えないとやってられない・・・なんで、なんで、私がこんな目に遭わなければならないんだ・・・)

 

 そして、観覧席がある港からでも見えるほど長大な熱光線が昼下がりの空へと駆け上り雲を穿った。

 

・・・

 

 小うるさい駆逐艦娘との再会と同時に始まった小笠原から本州への帰還と九州は佐世保で行われる式典への参加の準備、ある意味では深海棲艦と戦っていた方がマシと思えるスケジュール(強行軍)に責め立てられ、やっとまともな寝床に休めたのは演習当日の朝だった。

 

 霊力の動きを捉えて高濃度のマナが歪ませる空間すら三次元的に観測する事が可能な新型のセンサーの運用成果。

 小笠原海域で発見された深海棲艦の艦種と性質の詳細。

 護衛艦はつゆきの乗員に関する細々とした報告の書類化。

 その他諸々、それだけでも膨大な処理が必要だと言うのによりにもよって私の提督は南方諸島で私達と一緒に開発した鳳翔さん用の電子機器装備に関する報告を意図的に怠るなんて馬鹿な真似をした。

 

 しかもその理由が親友との真剣勝負で勝ち目(奥の手)を増やしたいと言う子供じみた我が儘だと言うのだからその報告を演習当日に港に残り時間差で行わないといけなくなったこちらは堪ったモノではない。

 

「ふふっ♪ でも、その分はきっちりと五十鈴が取り立ててあげるんだから・・・」

 

 その身勝手な注文を聞く私も私だけれど、もちろんこっちもタダで請け負うつもりは無いから代わりに順番を繰り上げる事を提督と小笠原に同行していた三人の仲間に認めさせた。

 それを聞いた(次の番の筈だった)鳳翔さんがこちらに見せた微笑みの中に少し悲しみを混ぜた顔に少し気まずい思いをしたが元を正せば提督の小細工のせいであり、彼女の装備に関する問題が発端なのだから大目に見て欲しいとも思う。

 

(まぁ、報告書関係は佐世保までの移動中、サボり魔のゴーヤまで働かせたのに終わらなかったし・・・そもそも半年分の情報処理と部隊再編の手続きをまとめて二三日でやれって言う司令部と研究室の方がおかしいのよ)

 

 乾いた硫黄の臭いが吹き抜ける小春日和が平常だった小笠原と違い陽が落ちると九州でも肌寒さを感じる程度には気温が低くなっている様で掛布団の下から這い出た私は寝起きの軽いダルさを振り払う様に伸びをしながら霊力を肌の上に広げる。

 現在気温は9度前後だと感じる肌に広がる淡い光が肌を晒していても快適な程度まで私の身体を保護し、欠伸と同時に目じりから零れた滴を拭った指先が光粒を輝かせた。

 

 ふと時計を見ればもう公開演習も終わり式典も全体の撤収が始まっている頃合い。

 

「・・・ぁ、そう言えば・・・しまった、こんなミスをするなんて」

 

 気怠さを身体からふるい落として部屋の電気をつけた私は準備の為に着替え類が詰められたトランクへと向かい。

 それを開けたと同時に中に畳まれていた自分の制服の予備を一枚手に取って自らの失態に気付いて呻く。

 

 白と赤に色分けされた軽巡艦娘五十鈴の為に用意された戦闘服兼制服と地味で無地な下着しか入っていない衣装箱の中身、良く考えれば酒保で買った私服やアクセサリは半年前の小笠原への出発前に自室の戸棚に仕舞ってからそのままになっている。

 一週間前のやっと鎮守府に一時帰還した日も慌ただしい手続きの連続で自分用の衣類棚に触れるどころか姉妹共用の自室へと戻る暇すらも無かった。

 

(今から買いに行くって事も出来ないし・・・どうしようかしら)

 

 酒保で使えるコインは姉妹艦よりも一桁多く貯めているがここ佐世保には艦娘が自由に買い物できる場所など無く。

 もちろん現金収入の無い艦娘の手元に日本円は一円たりとも無いので仮に今から外の街に出れたとしても衣類を購入できる当ては無い。

 かと言って私物の購入に提督の財布を頼るのは気恥ずかしさが邪魔をする為に選択肢から外さざるを得ない。

 そうして開けたままのトランクの前で腕を組んだ私は意味も無く一人分のベッドと最低限の家具が置かれた寝室を見回す。

 

 カーテンが閉まった窓際にある机の上には小笠原から現在も世話になっている文明の利器であるノートパソコンがスリープサインをチカチカと点滅させ、愛用の万年筆と数枚のメモ用紙だけが乗っている程度。

 先ほど私が寝ていたベッドは這い出た時のまま、エアコンはあるが自分はそれ以上に便利な防寒力を持っているので世話になる事は無く。

 試しに開けてみた備え付けのクローゼットにはタオル地の白いバスローブとハンガーが二三本しか入っていなかった。

 

(こんな格好で彼の前に立たったらあからさまに誘ってると思われるわね、そもそも出歩くための服じゃないし・・・)

 

 手に取ったバスローブを身体に合わせてからクローゼットの扉に備え付けられた鏡に映して見るがそれは自分が求めている趣向から明らかに外れていると感じ、ため息を吐いてから元の場所に戻した。

 

「仕方ない、もういつも通りで良いわ」

 

 少し不満が籠もった声が出てしまったがどうにもならない事をうじうじと考えても仕方ないと割り切っていつも通りの制服へと腕を通し手早く身なりを整えていく。

 ままならない事ばかりなのは面倒な仕事を後回しにする悪癖を直そうとしない提督のせいだと決めつけ、クリスマスの夜(お忍びデート)の装いとしてデザインは少々ズレているが色合いだけならピッタリだと無理矢理気味な納得(自己弁護)をしながらトランクから取り出したシワ一つ無い制服を着て、寝癖を整え髪を結う。

 

(まっ、外に出る時には提督からコートでも借りて羽織って隠せばいいでしょ、・・・それはそれで悪くないわね)

 

 指揮官と部下の艦娘の間に立ち相互の連絡と価値観のすり合わせを行う補佐と言う名目で任命される秘書艦と言う立場は自衛隊に認められた正式な役職でもなければ特別な権限が与えらえていると言うわけではない。

 指揮官から直接任命されるせいで自分が上官のお気に入りだとか、仲が良く出来る役なんて勘違いをしている娘もいる。

 

(まっ、その中でも特に面倒なこの艦隊の秘書艦なんて五十鈴以外には務まらないでしょうけどねっ♪)

 

 言ってしまえば面倒事を上下どちらの側からも押し付けられ挟まれる損な役回り。

 貰えるコインの基本給が上がる以外の特典は無く、提督曰く学級委員とか言うモノと同じだとかなんとか。

 そして、その事情を知った艦娘の中には秘書よりも単純な戦闘要員としてMVPを狙う方が褒められるのも戦果を稼ぐのも楽で良い、と考える者も多い。

 

 基本的に提督に纏わりついて暇さえあれば彼の小間使いをしている吹雪なんかはその典型である。

 

 事務作業なんかは積極的に手伝ってくれるので助けられる事は多いが他のメンバーへの作戦などの説明や(増設装備の取り合いや)出撃の編成に関する(出撃したがり達を止める為)調整(の説得)とかは手伝う気配すら見せない。

 普段から愛想も良いし努力家である良い子なのだが、その裏側にある吹雪の優先順位は全て司令官に固定されている為に彼の一言で態度をコロリと変えてしまうなんて事も度々起こる。

 

 秘書艦と言う時には提督と角突き合わせる必要のある調整と調停を行う役には決定的に向いていないその性格は本人も自覚している為か司令官に優先的に可愛がられるお手伝いさん以上の業務に手を出す事はしないのが救いか。

 

 もし上官に就いた男が人でなしの類だったとしたら吹雪は完全に目を腐らせたお人形になっていたか、早々に海で砕け散り次の吹雪となっていたのだろう。

 

 私達の提督は素養は高く、やれば出来る優秀さを持っているクセに追い立ててやらないと行動に移さないダメ人間の一種である。

 

 であるが悪人ではない。

 

(・・・そのおかげで吹雪も外面だけはまともに見える様に取り繕えてるんでしょうけど)

 

 職務に対して不真面目さを隠さず目を離せば途端に遊び始めるクズ系人間だが部下に向かって理不尽を一方的に押し付ける真似をしない程度には道理が解っている。

 軍人としての心構えは及第点だが私達と共に深海棲艦に立ち向かう為に命をかける事が出来る勇気を持った人だ。

 

 そう言う意味では個人としての彼が好感に値する良い人なのは間違いない。

 

(でもね、吹雪、・・・俗物共がやらかした妨害工作のせいで精神を病んだからって、それは彼にとっての一番(・・)をずっと独占し続けて良い理由にはならないのよ?)

 

 そうでなければ自分の前にいた先代艦娘の五十鈴がどうして沈んだのかをうっすらとだけど覚えている私が現代の日本軍人に心を許す事なんてありえないのだから。

 

 頻繁に傍迷惑な嘘と余計な仕事を増やしていく提督。

 彼に依存して忠実過ぎるイエスガールと化した初期艦。

 ただそこに居るだけで五月蠅い自称アイドル。

 無自覚に問題な発言と行動をばら撒く潜水艦。

 犬が擬人化した懐きっぷりで指揮官に抱き付くお子様。

 お淑やかなのは見た目だけで中身は川内型二番艦と同類である空母。

 

 殺し屋みたいな性格をした桃髪やトリガーハッピーな吹雪の妹、したたかなサボり魔の潜水艦、その三人がマシな分類に入る様な艦隊。

 

 そんな状態に戻ってしまう前にここ数日の苦労の分だけでも見返りを求めるのは当然。

 そもそも苦労ばかりするだけの立場なんて役得の一つもなければ面倒見の良い私ですらやってられない。

 

(いえ、あの子が居たわね、彼に向かって悪態ばかり吐く癖に必ず艦隊に戻って来る子が・・・)

 

 この艦隊の中で私だけじゃなく吹雪とも指揮官に求める条件(感情)が重なってしまっている意地っ張りな駆逐艦娘。

 明確に私にとってライバルと言える艦娘ではあるが、かと言って霞の事が嫌いと言うわけでは無い。

 そもそも私の前に提督の秘書艦だった彼女の仕事ぶりには駆逐艦と侮れない手際の良さに感心させられた事もあるぐらいだ。

 

 だが、今更のこのこと艦隊に戻ってきた彼女にこの場所を譲って(返して)くれと言われて頷いてやるほど私は無責任(お人好し)では無いのだ。

 

「そう言えば、演習はどうなったのかしら?」

 

 思考を切り替え、私が苦労したのに肝心の提督が結果を出せませんでしたなんて事を言い出す様なら彼にはディナーの値段を含めて色々と覚悟をして貰う事になるだろう。

 

『確か佐世保に来てるのは・・・由良と阿武隈だったかしら?』

『はい、呼びましたか? 五十鈴姉さん、おはようございます?』

『もう夜だよ、由良ちゃん・・・って、そのお鍋を持ってくのはそっちじゃありませんっ!? 待って、待ってくださいー!』

 

 姉妹艦同士なら待機状態でも繋ぐ事が出来る通信網に脳内で打電すると数秒もせずに私と同じ様に九州にやってきている二人の妹艦娘から返事が返ってくる。

 

『・・ぃ鈴・・・・寝ぼ』

『姉さん・・・お疲れさ・・・した』

 

 そして、通信は鎮守府にいる長良や名取にも繋がっているのだろうけれど耳を澄まさなければ聞き取れない程度まで輪郭を失っている微かな声が聞こえる程度。

 そちらに集中すれば会話も出来るだろうが今は連絡を取る必要も無いので軽く挨拶を送ってから通信相手は由良に合わせる。

 

『ンンッ! 私もいますよ!』

『オガ…ワラ…パナイ』

『なによ、今の・・・? まぁいいわ、阿武隈は片付け手伝ってるんならそっちに集中しなさい、由良は時間は大丈夫かしら?』

『ええ、私の方は海上防衛の為に待機しているだけですから、今日は一度も出撃せずに終わりそうですけれど』

 

 指揮官や艦隊の仲間と共にいつ深海棲艦が九州の周辺に現れても対応できるように待機しているらしい由良へと連絡を取り。

 朗らかに笑う彼女の言葉に耳を傾けながらベッドに腰掛けた私は自分が寝ている間に行わていたイベントの内容に相槌を打つ。

 

『その砲撃の余波でカメラだけじゃなく計器類も壊れてしまって決着は分からず仕舞いで実質無効試合の様なものになりました』

 

 金剛と陸奥の砲撃によって発生した熱量と衝撃波に演習海域を覆っていた防壁はギリギリ耐えられたらしいがそれを維持する為に海に浮かんでいた護衛艦やブイに装備されていた記録機器は全滅、白く染まった式典会場の巨大モニターは直後にブラックアウトし、顔色の悪い責任者らしい官僚に命じられた解説兼司会が呻く様な声で演習終了の宣言をした事で史上初の艦娘同士の戦いは幕を閉じた。

 

『連絡が出来ずに戦闘を続行していた両艦隊も帰還し治療も少し前に終わったらしいです・・・噂には聞いてましたけど高速修復材って凄く便利ですね、ね?』

 

 私が苦労を掛けられた欺瞞工作に関しては一応の成果はあったみたいだけれどほとんど引き分けの様な結末に納得しろと言うのはあまりに虫が良すぎる。

 

『ふふっ♪ これはちょっとやそっとじゃ勘弁してあげられないわねぇ・・・』

『ェッ! もしかして、アタシ何かやっちゃったんですかっ!? 』

『阿武隈は撤収作業に集中してなさい・・・えっと、ところで由良?』

『はい?』

 

 気恥ずかしさを堪えて妹にオシャレな私服を持って来ていないかと聞くと、申し訳なさそうな声色でここには職務として来ているので私服や私物は最低限のモノだけしか持って来ていないです、と言う返事が返ってきた。

 それは普通に考えれば当たり前の事で任務中に呆けた算段をしていた自分の不徳を恥じ、私事の為に妹の服を借りるなんて恥をかかずに済んだ事を喜ぶべきか。

 

 そう言う事にでもしておかないと代り映えしないこの着なれた制服が気になり過ぎて、折角勝ち取ったクリスマスの夜を提督と一緒に楽しめなくなりそうだから。

 

・・・

 

 そうして姉妹艦との通信を終え、ベッドから立ち上がった五十鈴が自分に振り分けられた個室のドアを開けて戦闘を終えて疲労を癒しているだろう仲間達の下へと向かう。

 まさか、その先で演習中に提督が安請け合いで(自分達を差し置いて)重巡高雄へ編成枠を一つ贈った問題を鳳翔と共に彼を問いつめる事になり。

 予約していた筈のお楽しみ時間が丸ごと潰れる事になるとはその時点の彼女は夢にも思っていなかった。

 

 




下記の二名に二ヶ月の減俸と鎮守府及び基地内施設の清掃活動を命じる。

田中良介特務二等海佐
中村義男特務二等海佐

また、両名指揮下の艦娘には再編成の為に部隊を解散任意の艦隊への変更を推奨します。

戦艦金剛及び戦艦陸奥は予定通り(・・・・)艦隊編成から待機編成へ異動していただきます。

可及的速やかに・・・お願いします。

追記事項

田中海佐及び中村海佐の指揮下にある艦娘は司令部職員に対しての威圧的な態度を慎む事を要請します。

・・・

あきづき型護衛艦4姉妹「み、味方に沈められかけるとは思ってませんでした・・・」
_:(´ཀ`」 ∠):_うぅ・・・

中村「・・・いや、護衛艦のエンジンがオーバーヒートしたのは俺らのせいじゃねぇたろ?」メソラシ
田中「ああ、一隻だけなら偶然かもしれないしな」震え声

護衛艦艦長達「「「ほぅ・・・、我々からのクリスマスプレゼントは足りなかったと言う事かね?」」」(#^ω^)ビキビキ

この後、滅茶苦茶謝罪した。

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