艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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冗談じゃないよぉっ・・・。

今年初めての投稿なのに

こんな(艦娘が出て来ない)話なんて誰も読みたくないんだよぉ・・・。

 


第六十二話

 日本国首相、岳田次郎が広い壇上で終えた演説とも説明ともつかない情報公開によってその場にいる国家の代表達は複雑な表情を浮かべながらも静まり返る。

 

 霊的エネルギーをその存在と生命の根幹に据える生物達が過去に存在していた事実の立証。

 

 それらが神話の中の神や悪魔として語られている存在であると言う仮説。

 

 その現代では幻想となっている人外こそが深海棲艦として出現した未知の生物群であると言う推論。

 

 1980年代に初めて大気中で観測されたマナと日本が仮称する特殊な性質を持った粒子。

 

 その霊力の根源とも言える元素が世界規模で増加し、最早、人の手ではどうにもできないと言う観測結果。

 

 過去にも現代と同じくマナの存在があった事を証明する遺跡や資料の提示。

 

 さらに世界各地の地質と断層の調査によってマナの存在した時代とそうでない時代が地球上で交互に繰り返していた事の証明。

 

 それら研究と並行してある日本人の科学者は私財を投じ、戦後の日本政府に働きかけ、官民問わず多くの手を借り。

 その科学者が死してなお遺志を継いだ者達が近い未来(120年後)に訪れるであろう人の時代の終わりへと抵抗する為の手段として艦娘と言う霊的エネルギーをその能力の中核に持つ人造の生命を完成させた。

 

 そして、過去に存在した天使や悪魔、魔女に聖女、あらゆる霊的エネルギーをその生命の根幹に持つ幻想の獣達の遺物を解析して現代科学によって再現された技術の集大成こそが艦娘を形作る本質なのだ、と粛々と淀み無く岳田首相の口から世界へと明かされる。

 

 その今までの常識から大きく外れた研究成果を一国の首相が全面的に肯定する姿は、霊力と言う荒唐無稽な代物の研究の原点に居た刀堂吉行と言う天才的な科学者でありながら存在しない怪物や現象の出現を世界へと訴えかけ続けた狂人と同じ様に、岳田もまた同様に気狂いを疑われるはずだった。

 

 深海棲艦と言う人類の常識が通用しない怪物が現実に多くの人命を危機に晒す凶暴性を見せてさえいなければ。

 

 日本が数日前に公開した艦娘が演習戦闘を行う姿が電波に乗って世界中を駆け巡っていなければ。

 

 演習会場となった佐世保に招待された各国の駐日大使を含めた千人以上の目がそれを目撃していなければ、この岳田の妄言もまた全ての人間によって一笑に付されていただろう。

 

 だが、それらは過去に埋もれたおとぎ話だと笑い飛ばすには理論も証拠も、何より事実と激変した世界情勢をその場にいる者達は自らの国から優先的に情報を受け取る事が出来る立場であるが故に知る事が出来てしまっていた。

 

 日本からの情報提供だけに頼る事無く自国でプロアマ問わずその手の研究者を集めて専門チームの結成を行った国も多く、手元に上がってきた全ての資料が今は亡き刀堂博士が残した仮説と資料の正しさを肯定している。

 現代科学の最先端を自称する者達の中には頑なにオカルトだとレッテルを張ってかつて狂科学者(刀堂吉行)をこき下ろした事が正しかったのだと自己弁護して自らの矜持を守ろうとする者も少なくない。

 だが、今この場に居る人間はほぼ全員が政治家であり、科学を信仰する事よりも自国の利益と安全の為にあらゆる方策を取らなければならない義務を優先する立場に居るのだ。

 

 こうして本人の死から九年目にして刀堂吉行の予言は正しかったのだと今更で何の慰めにもならない評価が彼の名に付けられる事となり、存在そのものを疑われていた彼の遺産とも言える艦娘が幾重にも重ねられたベールを脱ぎ落してその姿を表し認められた。

 

 2015年のクリスマス、その当日である12月25日に行われた艦娘による筆舌に尽くし難い内容の公開演習を日本政府が主導して行った意味と意義の説明を終えた岳田総理は壇上で頭を下げ、自分を見つめる多くの視線の前で堂々と微笑みを湛える。

 

 会場は静まり返り、後は礼を終えた岳田総理が壇上から降りればこの国際会議の一幕は一応の終わりを見るはずだったのだがそれを遮る様に通訳の声を介して一人の男が、岳田首相に質問を要求する、と声を上げた。

 

 質疑があるならば前もって会談の場を用意するか閉会後にコンタクトを取るのが定石であるのだが、それを傲慢に無視したとある国家の外交分野の代表へと岳田総理は表情を変えずに応えを返す。

 

 その直後に、日本がこれから国際社会に向かって艦娘による武力侵略、または技術的優位による圧力を行う用意があるかどうか、そう問う声に会場がざわめく。

 

 本国から出る事を拒んだ国家主席の代役としてこの場に居るはずの男性が恰幅の腹を揺らしながら言う言葉に従って通訳はその内容を会場に響かせ、その場にいる各国の大使が目を剥いて赤い国旗を机の上に立てている太々しい笑みを浮かべるスーツの男性を見詰める。

 

「その様な用意も意図も我が国には存在いたしません」

 

 世界に名だたる大国であるという自信と深海棲艦の驚異から遠く居られると目されている国土の広さ、それらによって国連と言う場において近年では横暴と横柄が多く見られる様になった国家。

 その国に所属する外交を取り仕切る人物の発言としてはあまりに挑発的で軽率な攻撃とまで言えるその男の言葉に、しかし、動じる事無く否であると岳田は答えた。

 

「それは嘘である!」

 

 だが、その否定の返答に被せて常任理事国の一角にいる国家の外務大臣たる政治家は日本の虚偽を指摘する声を上げ。

 中国の外相でしかないはずの男は外交官としての経験から日本語を喋れるくせにわざわざ通訳を通し立場では上である日本の首相に対して母国語で(さえず)る。

 

 そこからまるで会場は議論を交わす舌戦の場の様な状態に変わり、先ほどの岳田の艦娘と深海棲艦に関わる重大な情報開示によって戸惑っていた各国の要人を置き去りにして日中二国を中心に言葉が飛び交う。

 

 そして、頑なに戦争の意図を否定する岳田に対して痺れを切らしたのか、日本による武力行使の証拠はここにあると、これこそが日本がドイツと結んだ艦娘の提供を約束する軍事協力を結んだ条約の証拠だ、と中国外相がとある資料の束を振りかざしまるで周囲に見せびらかすように声高に声を上げる。

 

 日本は各国に艦娘を供与する名目で自国の軍事拠点となる施設を造らせて、艦娘と日本軍を派遣してその地域の実効支配を目論むだけに留まらず深海棲艦への対抗可能な兵器の存在を統制する事で実質的な海外への軍拡を行うつもりであると言う声が波の様な騒がしさと共に会場に響いた。

 

「日本は自国の艦娘を使って他国に実質的な占領地を確保し、かつての大戦と同じ様に戦火を世界に広げようとしているのではないか!?」

 

 堂々と、まるで歌劇俳優の様に一方的な自論を捲し立てた中国人に視線が集中し、彼が言った言葉を自分の耳や通訳の翻訳によって理解した各国の首相や大使達は戸惑いつつも岳田がそれにどう答えるのか、とそれぞれの脳内で利害や損得を勘定する準備を始める。

 

「我が国家に所属する艦娘を海外に派遣する予定はありません。また同様に彼女達の身柄を贈与や提供する事もまた日本の法的立場から不可能であると回答させていただきます」

 

 日本は艦娘を他国に譲るつもりはない、そう言った岳田の言葉に目を剥いた幾つかの国家の代表はあらかじめ彼から打診されていた情報と約束が覆されたのだと表情を困惑から渋面に変え、即座にこの場が閉会した後に不義理な男への制裁の為に思考を切り替え始めた。

 

「約束が違うぞ、岳田首相っ!!」

 

 そんな水面下で始まろうとしていた政治家達の算段をまるで妨害する様にドイツの首相が顔を真っ赤にして叫び声を上げ、自分の国は艦娘を受け入れる為の施設と法案の用意を既に始めているのだと周囲の耳目を憚らずに暴露する。

 その約束があるからこそつい最近に中国が行おうとした日本への経済制裁決議に反対票を入れたのだと高い声を壇上の狸親父へと叩き付けた。

 

「はい、締結した条約の通りに貴国ドイツ、そして、我が国と同様の取り交わしを行った幾つかの国家へと艦娘に帰還(・・)してもらう政策は日本にとって最優先事項であります」

 

 多くの目がある場で言い放つには浅慮と言う他無い怒りを叩きつけたドイツ首相の声をまるでどこ吹く風と言う様子で受け流した岳田は艦娘を派遣しないと言った舌の根も乾かぬ内にドイツだけでなくアメリカの外交官やオーストラリアの首相など過去に根回しを行い約束を取り付けた人物の顔をゆっくりとした動きで見まわしてからその言葉を言い切った。

 

「日本は戦争と侵略と言う行為の完全な放棄を国際社会へと宣言した国家であります。

 

 そのため防衛を目的とした場合を除き自国の艦娘に限らず兵器の生産と輸出を公式には認める立場にありません。

 

 そして、私は基本的人権を尊重する国際国家の一員として一個の人格を持った生命である彼女達にも人権を持つ国民としての資格を保証しなければならないと考えています」

 

 兵器として自国(・・)の艦娘を防衛以外の目的によって国外に出す事も拒否し、人権を持つ国民となる日本国籍(・・・・)の艦娘を他国に譲る事は人身売買に該当しかねないので行わない。

 さらに未だ国内で法整備には至っていないが艦娘に他の国民と同じ人権を与える事は今後の日本と世界に必要不可欠な課題であると岳田が淀み無く語る。

 

「でありますからこそ、彼女達が母国への帰国(・・・・・・)を望む場合に最大限に援助しなければならないのです」

 

 その場にいる全ての人間、各国の要人だけでなく自分達へとカメラとマイクを持っている報道陣、日本側の強い要請で誤魔化しを許さない(編集も改竄も出来ない)生中継を行っているメディアに向けて岳田は条約を結んだ国へ艦娘を派遣しない。

 

 だが、帰還はさせると一見意味の通らない言葉を保証した。

 

 言われた意味が分からない者、その意図に気付いた者、知っていた者達はそれぞれの思考内容は別として全員が揃って目を点にする。

 

「そして、そちらの周外相からの指摘があった資料に関して・・・これ以上の誤解が皆様に広がる前にこちらから開示する許可をいただいても構いませんか?」

 

 岳田の周囲の目を理由にした要求にドイツの首相は渋々と言う顔で、なのに文句一つ付けずまるで予定通りの行動と言えるほどスムーズにその要求を受け入れると返事を返し、壇上に立つ日本国首相の背後に予め用意されていた映写機の光が照射され壁をスクリーンへと変える。

 

「これが、我が国からドイツへと返還される予定となっている艦娘、その中核(コア)である霊核のリストです、古いモノでは四十年以上前のモノでもある為、読み難くはあるでしょうが・・・」

 

 スクリーンには所々が黄ばんだ紙に古いインクで記された文字列が並び、かつて軍国としてヨーロッパにその勢力を広げようとしたドイツ海軍に所属していた艦艇の名が箇条書きで記され、それぞれの名の横には発見された日時と座標や海域の名称が書き込まれていた。

 

 そして、これと同様のリストが別の国の分も存在していると公言する岳田の声に彼が言った人権と言う盾を使って自国の艦娘を派遣する予定は無いと言う言葉の真意、この茶番の目的を察したアメリカの国連大使が苦虫を噛み潰して呻きを漏らす。

 

 ハメられた。

 

 どうやってかは分からないが中国とドイツにこの茶番の為に協力を取り付けていた目の前に立つ太々しい日本国首相は艦娘や深海棲艦の正体だけでなく。

 今、この場で日本から他国に帰還する予定の艦娘が存在している事までもを世界に公開しようとしているのだ、と。

 

 しかし、それを下手に止めれば最も多く艦娘を保有することになる自国(アメリカ)はその膨大になる戦力の存在を秘匿していた事を突かれて外交の場で日本以上の攻撃対象となりかねない。

 その反面、人権と言う過敏に反応する人間が多い問題を、その上に艦娘の意志を尊重すると言う理由を乗せて利用できると大義名分は言葉だけの絵空事であっても艦娘を持たない国への戦力を出し渋る言い訳として使える。

 

 刀堂博士が残した研究内容が正しいとすれば深海棲艦の勢力が更に増えるのだから結局は自国の艦娘を外国に派遣する(貸し出す)事になるだろう、だがその条件はアメリカが上位に立って交渉できる立場と理由は多いほど良い。

 

「それでは我が国が他国の艦艇の魂たる霊核を保管している事に関して説明させていただきます」

 

 この問題のリスクとリターンは一大使としての権限しかない自分が勝手な判断をするには荷が勝ちすぎていると判断し眉間にしわを寄せた壮年の米国人は海外渡航の危険を負ってでも今日この場には大統領閣下が居るべきだった、と今この場に小賢しい日本人の頭を抑え付ける権限を持つ母国の人間が居ない事を悔やむ。

 

 そんな悩みを抱えるアメリカ大使の姿を何処か愉快気な顔をして日本に対する侵略疑惑をこの場で告発したはずの中国外相がいつの間にか椅子に行儀良く座り、自分の役目は終わったとばかりに岳田の独壇場へと静かに耳を傾けていた。

 

・・・

 

 遡る事、50年前、まだ日本が昭和の年号を使っていた時期、来たる地球環境の大異変に備える為に協力者達と共に活動を行っていた刀堂吉行は大塔財団の造船部門によって建造された海洋調査船に乗り込み海原へと漕ぎ出した。

 

 その目的は新技術を搭載した船による貿易路の開拓と広範囲の海洋資源調査、そして、その裏側に隠した目的こそが世界各地の海に没した日本船舶に宿る英霊の魂を結晶化させて回収して日本へと持ち帰る事。

 

 そして、字面だけなら正気を疑われても仕方ない内容の計画において最初の回収目標とされたのがかつての第二次世界大戦期に繰り広げられた激戦によってアイアンボトムサウンド(鉄底海峡)と呼ばれる事となったソロモン諸島近海に沈む一隻の駆逐艦、日本帝国海軍に属し白露型駆逐艦四番艦として建造され夕立の名を与えられた戦船だった。

 

 当時、まだ大戦後に敗戦国となった日本に対する外的圧力は強く完成したばかりの最新鋭とは言え民間船が外洋に出ると言う事そのものが危険であり、あるかどうかも分からない存在を回収する眉唾な技術の試験運用が目的ならば初めての霊核回収(サルベージ)は母国の近海に沈む軍艦に行われるべきと言う周囲の声に刀堂は深く頭を下げ懇願する様にその駆逐艦の沈む南海へと向かう事を願った。

 

「あの船は深い深い海の底に沈んでいるから今の技術ではどう頑張っても遺品一つ回収できやしない、問題無く霊核を回収できたとしても言葉を交わす事が出来ないのは百も承知している」

 

 常人離れした理屈で知識と技術を編み上げる頭脳を持った刀堂は普段の自らをも俯瞰して見ている様な達観した雰囲気を剥ぎ捨て。

 

「・・・だが、私は一番初めに義弟を日本に連れ帰りたい、アイツが命を懸けて守った人々を、国をアイツに見せてやりたい」

 

 完全な私事の為に現在の価値で数百億円を超える資金を投入して新造されたばかりの海洋調査船【綿津見】に処女航海で遥か南の海を目指して欲しいと航海の目的を知る当時の船長を含めた協力者達へと頼み込む。

 

 その海への渡航許可を外交的に得ていたとしても日本船籍である事と所詮は武装を持たない海洋調査船である綿津見にとって冷戦期の外海は海賊だけでなく外国軍艦までもが敵になり兼ねない危険な領域。

 それでも博士の必死の懇願に根負けした船長の了承と設立したばかりの会社の資金を使い果たしかけてまで綿津見を造り上げた船主(オーナー)である大塔弦蔵の決定(二つ返事)によって始まる事となった。

 

 だが、苦難を覚悟していた大半の船員たちの予想を覆して綿津見の初航海は危険と言えるほどの危険など無くスムーズに進む。

 

 そして、日本から遙か5600kmの航路を彼らを乗せた海洋調査船は走り抜けてソロモン海へと入り込む事に成功した。

 

 それは快速と言われる軍艦ですら30ノットが全速力と言っていい時代において平均的な巡洋艦より一回り大きい巨体を持っているのに綿津見は快適な居住性を維持しながら全速航行で40ノットを維持できると言う百年先の技術で作られたと言う触れ込み通りの性能を発揮し、旧式の海賊船や哨戒船の類を悉く振り切る事が出来たからだった。

 

 綿津見に乗船していた元軍人であった者達は何故もっと早くこの船が生まれてくれなかったのか、と泣けば良いのか笑えば良いのか、と嘆きと歓声を上げて生まれたばかりの海洋調査船に日本再興の希望を重ね見る。

 

 この世界において現代船舶の母とまで言われる事になる新造船の活躍によって辿り着いたサボ島沖にて巨大な白銀の錨をサルベージユニットが海へと投げ。

 

 数えきれないほどの英霊が眠る海底から綿津見は鎖と錨を引き揚げ、計画通りに手の平に乗るサイズまで圧縮され結晶化した駆逐艦夕立の魂を、刀堂の妻である女性の弟とその仲間達の意志が眠る霊核を回収する事に成功した。

 

「こんなに小さくなっちまって・・・でもなぁ、やっと国さ、けえれるぞ、(ひで)坊」

 

 赤道に近い燃える様な夕陽の中で成功したサルベージによって回収された煌めく夕立の霊核を両手で包むように抱えて双眸を潤ませ感極まっていた刀堂。

 そんな彼を見守っていた綿津見の本来の目的を知る一部の船員達の前にそれは現れる。

 

「は、博士・・・霊核がもう一つ!?」

 

 それは夕陽にきらめく魂を宿した水晶、回収装置から存在しないはずの二つ目の霊核がコロリと転がり出てその場の全員の目を驚きに見開かせた。

 

「な、何故!? 回収装置の影響範囲に他の日本艦は沈んでいないはず・・・?」

 

 装置の設計者ですら予想外な事に引き上げられた輝く錨を伝って綿津見の甲板へと現れた水晶体は一つでは無く、転がり出てきたソレは綿津見船内で刀堂博士自らが行った精密検査の結果、日本の艦艇の霊核で無い事が発覚する。

 

シグナル(呼び声)フォーマット(言語)は日本語なのに、なんでこんな事が起きた・・・? だがこれは・・・」

 

・・・

 

『その日、偶然に回収してしまったアメリカ海軍属の重巡洋艦ノーザンプトンを始めとした他の日本艦の霊核を回収する際に収容する事になった多くの連合国軍艦船のコアは刀堂博士達によって秘密裏に保管されることなり、然るべき時に母国へと返還される事が取り決められました』

 

 両手を広げ、いかにも自分は正しい事をしているのだと堂々とした態度でその然るべき時の始まりが今日この場であると言外に示す岳田の姿に会場は静まり返り、自国艦の霊核を回収する際に偶然(・・)見つけた拾い物を本来の持ち主達へと返還する為の事業を遂行する事が自分が政治家として行わなければならない重要事項であると日本国総理大臣は語る。

 

『現在でもまだ艦娘を含めた多くの霊的技術は非常識の一種として扱われる事になる事は私自身もまた理解している事でありますが、それが事実であると知る各国の皆様には善意と節度を持った対応で彼女達を迎え入れていただきたく、お願いいたします』

 

 世界の海を着実に蝕んでいる深海棲艦の脅威が嘘か幻の様に栄える街が輝かせる光を見下ろすホテルの一室でソファーに肥えた身体を腰掛けさせ二日経っても静まる気配を見せない世界中を騒がせているニュース映像の様子に小さく喉を震わせて笑う。

 そんな彼の下に秘書らしいスーツ姿の女性が歩み寄り耳打ちをし、それに頷いた中国外相はソファーから立ち上がると襟を正してスイートルームの入り口へと身体を向けた。

 

「お待たせしてしまいました、周外相」

「おおっ、岳田さんっ、いえいえ、貴方こそ今は身を二つに割るほど忙しいでしょうに、時間を取っていただいただけでもありがたい事です」

 

 部屋のドアが開き、護衛を連れて入ってきた岳田次郎の姿に部屋で待っていた周博文はにこやかな微笑みを浮かべて歩み寄り握手を求めて相手の手を両手で包むように握り親愛が籠った歓迎の言葉で迎える。

 とてもでは無いが二日前に岳田へと険悪な挑発を行った人物と同一であるとは思えないほど友好的な姿を見せる中国外相の姿に日本国首相は笑みを返して護衛に部屋の入り口で待機する様に命じた。

 

「この度は貴方に敵役の様な真似をさせてしまって本当に申し訳ありませんでした、周外相」

 

 そして、岳田の口から告げられた謝罪を受け入れた上で周外相は気にしていないとにこやかに返答する。

 

「いえいえ、むしろ当局に親日家として煙たがられている身としては丁度良いご機嫌取り(デモンストレーション)になりましたよ」

「それは・・・問題無いのですか?」

「張りぼての共産主義に従うしか能の無いバカだらけですが中には保身に対する嗅覚だけは鋭いのも居ます、足の下を支えている者達を弾圧して利益だけを得られていた時代はもう終わりました」

 

 しかし、一部の馬鹿が暴発して自分達にテロを仕掛けて来ない程度には形を整えておかねばならない、と駐日大使として日本に滞在していた事が知られる親日家の外交官は面倒臭そうに言う。

 

 彼が若き日に巻き込まれた暴動の中でこじつけじみた理由で中国当局に拘束されかけた際、まるで彼らの危機を知っていたかの様に何の前触れもなく現れた刀堂博士の手助けで逃れた過去がある事は極一部の人間しか知らない。

 その彼が中心となってかつての刀堂吉行の様に造り上げた人の網は共産党の内外問わずに広がり、何処に混じっているか分からない彼等は中国当局の虱潰し(弾圧)にすら抵抗可能な力(政治と武力)を得ており、近年では深海棲艦の出現と合わさり中国の内憂外患問題に拍車をかけている。

 

「まぁ、シナ海の一件で世界からの信用を失い針の筵になったこの席を私に押し付け、日本を手懐けろと言ってヒステリックに喚き立てるクセにいざ手を結ぼうとすれば今度は売国奴と叫ぶ連中を相手にするのは実に疲れます」

「我々としては周外相にはもっと高い場所に立って貰いたいものですがね、仲違いして無駄な時間を使っていられる猶予はもう人類には無いのですから」

「それに本気で気付いていない(・・・・・・・)連中も少なからず居るのがまた頭痛の種、と」

 

 中国共産党の端っこにいた一家族の倅でしかなかった彼は刀堂の手に縋って家族や友人と共に命からがら中国当局の手から逃れるまでは自国を疑う事のない善良な一般市民だった。

 皮肉な事に共産党の一部が起こした内乱じみた暴動と弾圧に巻き込まれた事で周博文は自国の政治に疑問を抱き、留学生として滞在した日本の刀堂博士の下で多くを学び大きな歪みを抱えた母国を正道に戻す志を胸に燃やし同胞達と故郷の地へと戻った。

 

「そして、だからこそ、今回の話をお受けしたわけですな」

 

 それから二十数年、周博文は同士を増やし中国共産党の一角を成す(二割を占める)派閥の代表的な位置に立つ事となり、彼の派閥が中心的に活動する地域では汚職が極端に少なく経済活動が活性化が著しく。

 その成果を妬む者には資本の犬などと言われ蛇蝎の如く嫌われながら命の恩人であり刀堂の教えを守り、教えられた人心掌握の手管で玉石選ばずの人脈を無節操に網の様に繋いで今も着実に増やしている。 

 

「お願いした立場で言うのも何ですが、まさかこちらからの御礼の内容も聞かずに了解していただけるとは思っていませんでした」

「はっはっはっ、刀堂老師も言っておられたでしょう? 成功者の秘訣とは弱者を虐げる腕力でも強者を丸め込む弁舌でもなく、恩の売り時を間違えないセンスである、とね?」

「今回がそうだったと?」

 

 得意げに頷いている周博文が留学生として日本に居た時に刀堂の紹介で出会い、交友関係を今も続けている日本の政治家となった男はその言葉に肩を軽く揺らして笑いを漏らし、なかなか実践するのは難しい訓示ですな、と返事を返す。

 

「それではこれを」

「ほう・・・これは・・・、水晶ですかな?」

「材質そのものは通常のガラスと同じとの事です」

 

 周博文に今回の無理な願いを受け入れてもらう為に用意したお礼として岳田が持ち込んだアタッシュケースがテーブルの上に開かれ、蛍光灯の明かりの下でその内部が煌めく。

 

「正式には結晶基幹と名付けられた物ですが、鎮守府の研究室ではクリスタルコイル、もしくは単純にネジと呼んでいるようですね」

「確かに・・・水晶でできたネジに見えますなぁ、それでこれは一体どういうモノなのですか?」

 

 首を傾げる中国外相へとその水晶体が持つ力の説明が岳田の口から告げられ、その内容を徐々に理解していった周博文は驚きに目を見開き彼が持ってきた対深海棲艦用ミサイルや艦娘の増設装備にとっての重要部品を凝視する。

 

「つまりこれを組み込めば通常兵器でも深海棲艦にダメージを与えられると・・・?」

「携行出来る火器への応用は現代人の霊力係数の低さ故に今の所は不可能らしいですが、戦車や戦闘機などなら艦娘の武装並みの威力に近づけられると」

 

 その水晶(ネジ)の使用方法と製造方法、これがあの茶番の報酬であるのだと理解が追いついた事で周博文は笑い声を上げて脱力する様にソファーの背もたれに背を預けた。

 

「は、ははっ! まったく、日本人から貰うプレゼントには決まって痺れさせられてしまう、今回もそうだった!」

「とは言え、これの効果を最も効率良く発揮させたい場合には火薬などの爆発物は厳禁であるらしいので通常兵器としての威力はあってない様な物になるそうです」

「ならば、これを他国へ提供する事は日本が兵器を輸出した事にはなりませんな、大気中の霊力を集めるだけの不思議なガラスでしかないのですから」

「いやいや、本当に・・・、話の分かる相手が居てくれると言うのはありがたい」

 

 ありがたみを(人の話を聞かない連)噛みしめる(中の迷惑さを嫌と)様にそう呟いた(言うほど知っている)岳田の手から受け渡された人類を相手にした兵器としての威力は欠陥品となる技術、深海棲艦の脅威に立ち向かわなければならない今後の人類にとっては値千金となるそれを受け取った中国外相はにんまりと微笑みもう一度、笑顔で頷きを返す岳田の手を取って握手を交わす。

 

「朋友に良い土産が出来ました。沿岸部の防衛が確立すれば当局がそこに押し込めて切り捨てようとしている多くの同胞も守れますからな」

「それによって貴方の支持基盤が更に盤石となる、と羨ましい事です・・・ところでこれの量産がそちらで安定した暁にはペイバックをいただく事は?」

「おや、プレゼントに配当金など聞いた事がありませんなぁ・・・、まぁ、今後の交渉次第と言う事でしょう」

 

 秘書である女性に閉じたアタッシュケースを渡した周は親指と人差し指で円を作ると自分は恩情の安売りはしない主義だと笑い。

 

「ですが、条件次第で値引きぐらいは考えますよ」

 

 そんな周博文の姿に苦笑しながら岳田は軽く肩をすくめて商売は専門外なんですが、とおどけて見せた。

 

「随分と弱気な、まだドイツの首相との交渉が控えているでしょう?」

「ええ、安売りだけはしない様に気を付けるとします」

 




 
善意だけでは淘汰される。

悪意だけなら自滅する。

中庸など幻想にすぎない。

理想は陽も届かぬ海の底・・・。


鎮守府にネジが実装されていました!(唐突な事後報告)

そんなわけで蜂の巣よりも穴だらけのなんちゃって政治シーンから

2019年の【投稿、始まるよ。】


遅ればせながらご挨拶をば!
年があけました! 今年もよろしくお願いします!!


この話の構成は途中でまたマサンの脳ミソが混乱をし始めた結果こうなりました。
間違いなくお気に入りがダース単位で消える。(確信)
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