艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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今回のお題は、ぼーいみーつがーる。

つまり榛名をポンコツにするためだけの話。

そして、キャラ崩壊注意だ! 特に金剛。


幕間
第六十四話


 師走も中頃を越えて佐世保で行われる観艦式の支度の為に多くの仲間達が浮足立っている中、私は姉艦娘である金剛が栄えある公開演習の参加者に選ばれた事を誇らしく思う。

 ただ心に秘め思うだけ、沢山の艦娘の中から姉が選ばれるのは彼女の持つ実力と実績から言って当然の事であって殊更に喧伝する様な事とは思えないから。

 それに姉の栄光を祝う気持ちに偽りはないけれど自分がその演習だけでなく式典に参加する事すら出来ないと言う事に思う所が無いとは言い切れない。

 

 司令部と研究室からのお墨付きで出撃許可はもう手に入れているが戦艦と言う私を示す艦種は駆逐艦や軽巡などと違って艦隊行動へ参加する為に幾つかの煩わしい手続きが必要とされる。

 慣れてしまえば片手間で終わる類らしいけれどまだ本来の力を発揮して外海へと出撃した経験が一度も無い為にその事前情報は姉や同艦種の長門達からの伝聞だけが頼り。

 戦船であると言うのに座学と訓練に明け暮れるだけの日々だけでは海から迫りくる敵を迎え撃ち日本国民を守ると言う誇りを実感する事すら出来ない。

 

 そんな穏やかな時間は次第に自分の中の緩んではならない何かが弛んで私自身が決定的にダメな存在に変わっていくような危機感を薄っすらと帯びていた。

 

「きゃっ、もぅ、なに・・・?」

 

 鎮守府の教室棟の廊下、初出撃の予定すら決まらないまま持て余した時間の手慰みに何となく選択した古文と詩歌の授業を終えて分厚い曇り空の下で灰色の海が揺れる様子を眺めながら歩いていた時。

 

 軽い衝撃を肩に受けて胸の前で抱えていた教科書を幾つか取り落とす。

 

「すまん、少し余所見していた、大丈夫か?」

 

 軍人にしては力みの無い声に顔を向ければ特務士官であろう青年が少し疲れている様な表情でこちらに頭を下げていた。

 

 鼓動の一拍を永遠に感じ、私の目はこれ以上ないほど見開き、息が止まりかけた。

 

 鎮守府所属の意匠が取り付けられた白い軍帽、金の刺繍で飾られた佐官を示す階級章と特務士官用の純白の制服、それを身に纏っているにも拘らず姿勢は猫背気味で覇気と言うモノが一欠片も感じられない。

 

 なのに、その彼の姿はまるで後光でも背負っているのかと言うほど輝いて私の目に眩しく映る。

 

「は、はい、大丈夫ですっ!」

 

 新兵の様に情けなく喉をどもらせながらなんとかその言葉を伝え、顔を背ける様にぎこちなく床に屈んで床に落ちた教科書やテキストを拾おうとしていると彼も私と同じ様に廊下に落ちたプリントを拾ってくれた。

 

「そうか・・・これは詩か?」

 

 その中の一枚、授業で基本中の基本に従って当たり障り無い文面を書き込んだ紙を彼に見られた事に顔が内側から火で炙られる様な感覚に襲われ、ついさっき彼と触れ合った肩までむず痒い火照りに襲われる。

 

「少し表現が固い気がするが、良いセンスだ」

「あ、あっ・・・ありがとうございます」

 

 耳の中に入ってくる声に鼓膜が擽られるだけで頭の芯が蕩ける様な喜びに揺らされ、手ずから渡してもらった紙一枚がまるで宝物の様な神々しさとなる。

 直後にこんな事ならもっと褒めて貰える様な出来のモノを用意すれば良かったのにと今さらな後悔が疼いた。

 そして、手を伸ばせば届く距離だと言うのに私は拾ってもらった紙束を胸に抱いて顔を伏せてしまい、直視できない彼の顔をチラチラと前髪の簾ごしに窺う事しかできない。

 

「あぁ、君の私物を勝手に見たのに偉そうなこと言ってしまったか、戦艦榛名だよな? 悪かった許してくれ」

 

 彼が私の名前を知っていてくれている。

 

 名前を呼ばれただけで心臓が暴れる様に胸の奥を叩く音で硬直した身体を震える。

 たったそれだけの事だと言うのに身の内から歓喜が溢れ出しそうで、もう彼の顔を見る事が出来なくなるぐらいに、彼に顔を見せられないぐらいに私は自分の顔が真っ赤になっている事を自覚した。

 

「め、めっ・・・」

 

 滅相もありませんと言いたいのに役立たずの口が何度もつっかえ彼を困惑させる。

 

「め?」

 

 返事も出来ない失礼な私に向かって首を傾げる彼に何か、何かを言わなければならないのにちっとも開いてくれない自分の口がもどかしく、なのに近くに居ると言う事実だけで心が熱い何かで破裂しそうだった。

 

 不意に少し遠くから彼を司令官と呼んでいるらしい駆逐艦娘の声が届き、そちらへ視線を向けた彼が返事を返して歩き始め私から離れて行く。

 

「・・・あ、あの!」

「ん、なんだ? 機嫌を損ねたなら改めて謝るが・・・」

「いえっ、だ、大丈夫です! 榛名は大丈夫ですっ!」

 

 貴方のお名前を教えてください、とお願いするはずが口から飛び出したのはまったく関係のないセリフ。

 それに振り向いた青年は少し目を瞬かせてから力を抜いた微笑みを浮かべてそれは良かった、と言って短いお下げ髪を揺らす飾り気の無いセーラー服の特型駆逐艦娘の方へと歩いて行ってしまった。

 

 そして、彼が離れていき見えなくなったと言う悲しい事実で急激に私の身体から熱が抜け、強張っていた身体と喉が自由を取り戻し、どこかに(肝心な時に)隠れていた冷静さ(役立たず)が頭に戻って来る。

 

「あら、こんな所で立ったままでどうしたの、・・・榛名?」

 

 去っていった彼の背中を惜しんでその場から動けず立ち尽くしていたのはどれぐらいの時間だろうか、気付けば偶然通りかかった姉妹艦が私が受けていた授業とは違う教本を持ちながら眼鏡を指で押し上げつつ不審なモノを見る様な目でこちらを見ていた。

 

「・・・これが運命だと言うなら、私は受け入れます」

「は・・・へっ?」

 

 尊敬するお姉様が日頃から想いを寄せる田中と言う指揮官に向けている言葉だけでは足りないぐらいの燃える愛情の意味をその日、私は頭ではなく心で理解した。

 

「榛名・・・、貴女、大丈夫?」

「ええ、榛名は大丈夫です」

 

・・・

 

 2016年二月某日、艦娘達の拠点である鎮守府の天気は晴れ時々曇り。

 

 アンニュイな溜め息を吐く金剛型三番艦の手元、白い品の良いティーカップの中で冷めた紅茶が無為に揺れ、姉妹艦の物憂げな視線が宙をさ迷う様子に同じ席に座っている二人の姉と一人の妹が顔を見合わせる。

 

「比叡、霧島、・・・榛名はどうしてあんな事になっているの?」

「さ、さぁ? 私にもさっぱりわかりません、金剛お姉様」

「私の記憶が正しければ佐世保の式典が行われた前後の時期から時々こんな調子になっていますね」

 

 他の艦種の様に特定の艦隊に所属し続ける事が許可されない為に鎮守府で非番として過ごす時間が長くなりがちな戦艦娘達。

 湾内演習への参加やそれの監督艦であったり多種多様(必要かどうか)な選択授業(怪しいモノもある)など、彼女達は己を磨くための鍛錬を怠る事は無いが一つの生命として人格と個性を持つ乙女であるが故に艦娘としての任務とは関わりの無い趣味などを持つ事が多い。

 そして、その戦艦である金剛型姉妹も長女の発案で始まり鎮守府の倉庫区画の酒保で同じテーブルを囲って定期的にお茶会を開く事を習慣化させていた。

 

「榛名、具合が悪かったのなら無理に参加しなくても良かったのよ?」

 

 酒保内のカフェで席に着いた時はまだちゃんとした反応を見せていた三女が気が付けば切なげな表情で心ここにあらずと言う溜め息を漏らし続ける様子を心配した金剛が妹の肩を優しく揺らす。

 

「ぁ、申し訳ありません、金剛お姉様・・・榛名は大丈夫です」

「さっきからそればっかり、どう見たって大丈夫じゃないでしょ」

「すみません、比叡姉様」

 

 呆れ顔の比叡の指摘に榛名は肩を小さくして謝り、その戦艦と言うにはあまりに情けない彼女の姿に金剛達はまた顔を見合わせて困惑を深めた。

 

 別に妹をイジメたいわけじゃない、しかし、この場は殺伐とした心が荒む深海棲艦との闘いを横に除けて姉妹同士の絆を深め楽しく朗らかに過ごす時間として行っている。

 それが妹を畏縮させてしてしまうのであれば本末転倒だと金剛は悩みに眉を寄せ。

 

「私達は心を繋げ合っている姉妹艦、そして、私にとって榛名は何物にも代え難い大事な妹なのだから」

「お姉様っ・・・」

「だからどんな悩み事だって言ってくれていいの、金剛型姉妹の間に遠慮なんていらないのよ」

「金剛お姉さま、その実は・・・そのっ、榛名は、榛名は・・・」

 

 優しく慈しむ微笑みを金剛からかけられた榛名はその優しさに瞳を潤ませ、少しだけ躊躇いつつも悩みを告白する様に口を開きかけ。

 

「榛名は大丈夫です!」

 

 直後に快活とした声を上げた。

 

「「「はぁ?」」」

 

 妙に大きく酒保の一角で響いた三女の声によってお茶会の空気が凍り、微笑んでいた長女とセットで次女と四女の頬までが引きつる。

 

「は、榛名、・・・ふざけているの?」

「そんな事はありません、ですが、榛名は大丈夫なんです」

 

 尊敬する一番艦の好意を蔑ろにした三番艦へと二番艦が努めて平常心を維持しながら青筋をこめかみに浮かべて問いかけるが妹艦娘からの返事は先ほどと同じセリフだった。

 もしかして大和撫子と言う文字が艦娘となったとと思えるほどお淑やかな性格の妹が繰り出した渾身のギャグか何かだろうか、と金剛型姉妹はとりあえず様子見の為に全員が視線を榛名へと集め。

 その黙り込んだ姉妹達の様子に朗らかな笑みを浮かべつつ小首を傾げる榛名の姿は自然で可愛らしい、と言うか微妙に違うキャラに入れ替わった様なその変貌は少しぶりっ子が過ぎて見える。

 

「お茶会の途中みたいですまんが、ちょっと話させてもらってかまわないか?」

 

 にっこりと笑う榛名とそれを訝し気に見つめる金剛達と言う妙な沈黙が生まれたテーブルに少し気まずそうな声色で口を挟んできたのは特務士官の制服を纏った青年。

 去年のクリスマスに佐世保で行われた公開演習でやりたい放題やってつい最近まで艦娘の指揮官と鎮守府の清掃員と言う二足の草鞋をやっていた人物だった。

 

「あらまあ、お元気そうで何よりですね、中村・・・」

「はいっ! 榛名で良ければお相手いたしますっ♪」

「二佐・・・」

 

 金剛型のお茶会の主催者である金剛の了解を取る事無く、長女のセリフに被せて独断し、声のした方向へとロングヘアをダイナミックになびかせて身体ごと振り向いた榛名は満面の笑みを浮かべて部外者を招き入れる。

 中村への挨拶を途中で叩き切られた金剛が上げかけた片手を所在無さげに揺らし、勝手な事を言う妹の姿に比叡のこめかみに新しい青筋が浮かび、霧島が意味ありげに目を細めレンズを白く反射させながら中指で眼鏡のブリッジを押し上げた。

 

「さぁ、どうぞっ、提督♪」

「いや、手早く済む、美人四人とお茶出来るっていうのは魅力的だが腰を落ち着けるわけにも行かないんだ」

 

 わざわざ立ち上がり自分が座っていた椅子を引いて中村へと勧めてきた榛名に軽く頭を下げ彼女の行為を遠慮し、お茶会に乱入してきた男は本題を切り出す。

 その彼の横で美人や魅力的と言う言葉に金剛型の三女が照れた様に頬を赤らめ小さくモジモジし始めた。

 

「知っているとは思うが鎮守府から見て南、八丈島周辺海域で新種の深海棲艦が確認されたんだが」

「ええ、人型に近くサイズも前例が無いほど小さい戦艦級の深海棲艦であると、もっとも本体では無く艤装の方は戦艦の名に恥じない代物らしいですね・・・」

 

 金剛達が囲むテーブルの前に立った中村が軽く丸い天板に片手をおいて話し始め、椅子に座り直した榛名がさりげなく彼の近くへと身体を傾け。

 士官服の布越しに軽く触れた柔らかい栗色の髪の感触と鼻孔を擽る花の香(シャンプー)に横目で榛名を見下ろした中村は嬉しそうに自分を見上げてくる美女の顔に少しむず痒そうに頬を掻いてから会話を続行する。

 

「そうだ、そして、その戦艦級に日本近海をうろつかれると言うのは日本にも俺達にも都合が悪い、と言うか目撃情報が正しければそいつはル級だとかタ級だのみたいな普通の戦艦級と一括りにしていい存在じゃない」

「黒い合羽に巨大な尻尾、確かレ級とかって言う航空戦力を持った戦艦でしたっけ、先週に三回目の遭遇があってその時に赤城さんが大破させられたとか・・・油断できないですね」

 

 中村の言葉に耳を傾けつつ額に自分の指を当てた比叡が情報通な仲間との情報交換で得た新しい敵の情報を口に出していく。

 

「提督や貴方の前世の世界ではソロモン海域に住む、悪魔とまで言われていた深海棲艦だったかしら?」

「全てその通りと保証は出来ないがな、正直言うと戦うのは遠慮したいレベルの怪物である事は間違いなさそうだ」

 

 次女の補足を受けつつ湯気が揺れるティーカップを手に金剛が優雅に微笑み、それに珍しく真面目そうな表情をしている中村がうなずきを返した。

 

「それで貴方は私にどんな御用なのかしら?」

「俺の艦隊にも司令部から討伐命令が来てな、金剛に戦艦レ級と仮称される事になった深海棲艦の撃破に協力してもらいたいんだ」

「お断りします」

 

 打てば響くとでも言うべきか、中村の頼みから一呼吸の合間も無く拒絶を告げた金剛は粛々と態度を全く変えずに紅茶へ上品に口を付けた。

 

「実は私の提督にもその討伐作戦に参加すると言う話が来ているの、まだ司令部への申請が処理中なだけで今回の私が所属する艦隊はもう決まっています」

「え・・・マジか・・・」

 

 気を引き締め凛々しく見えなくも無い表情を張っていた中村の肩が微笑みティーカップをソーサーに戻す金剛の返事でガクリと落ち、その気が抜けかけた士官はテーブルに突いた手を支えにもう一度顔を上げ、視線を横にスライドさせて比叡を見る。

 

「中村中佐、申し訳ありません、私、今は司令部から出撃制限を受けてるんです」

「出撃、制限?」

 

 戦艦娘の戦闘能力が公開される前から前線指揮官と言う一個人にその強力な破壊力を自由に行使できる権限を与える事に慎重論を唱える一部の上層部の意向によって戦艦娘は他の艦娘よりも出撃に制限がある。

 だが一時期、鎮守府で艦娘否定派だった海自基地司令をその席から引きずり下ろす前は中村達が戦艦を出撃させる事そのものが禁止されていたのを考えれば多少面倒な書類の提出さえすれば他の艦娘と同じ様に戦列に加われると言うのは環境の改善と言えなくも無い。

 

「戦艦だから、前に居た艦隊から抜けた後には休息期間を取らないといけないと言われて・・・」

「あぁ・・・あの面倒臭いヤツか」

「ですよね! 面倒ですよ!」

 

 少しだけ申し訳なさそうな顔をしながら隣に座る金剛のカップに紅茶を注ぐ比叡にまだ勧誘もしていないのに断られた事で小さくため息を吐いて中村は今度こそ完全に身体に入れていた気合を萎ませて平常の少しやる気のない顔に戻った。

 

「所属していられる期間の制限もそうですけど艦隊を抜けた後に休暇が必要って言うのも余計なお世話で過保護です!」

「それは俺に言われてもなぁ・・・どうすっかなぁ、今、俺んとこの艦隊、高雄と大鳳以外、全員水雷艦なんだよなぁ・・・

 

 相手の言葉に我が意を得たりと言う顔で鼻息を強め自分達の雇用条件に憤る労働者の様な態度で休暇など要らぬから私にもっと戦わせろと言い出しそうな比叡の気合の入った声に驚かされながらも中村は歓談中に邪魔してすまなかったと頭を下げて踵を返す。

 

「中村司令、私達には何もないんですか?」

「は、榛名なら大丈夫です・・・よ?」

 

 そのまま立ち去ろうとしている中村を霧島が呼び止め、振り返った彼に向かってはにかんだ笑みを浮かべる榛名の言葉に青年は少し困惑しながら頬を掻く。

 

「何かって、霧島と榛名はもう別艦隊に所属しているだろ」

 

 その指摘に眼鏡のレンズを意味有り気に白く反射させる霧島と一瞬で微笑みを強張らせて顔を真っ青にする榛名。

 中村が来るよりも先に指名を受けて意気揚々と新しい任務への参戦を決めていた事を心の底から後悔する榛名の隣で澄まし顔の霧島は本日何度目かの眼鏡の位置調整をクイッと行う。

 

「艦隊の異動の手続きさえしていただけるなら問題無いかと、それなら休暇期間も挟まりません」

「あのな、戦艦がやってきたぞって万歳してる艦隊に横からその子を寄越せって言えるほど厚顔じゃねえの、俺は」

 

 もう完全に士官らしい態度を取り繕う事を放棄した中村は霧島に向かって軽く片手を左右に振り、その彼の態度へ少しの間だけ疑いの視線を向けた金剛型四番艦は肩を小さく竦めてから、そうですか、とだけ小さく言葉を漏らした。

 今の時代は規則だけでなく様々な名前のハラスメントなるもののせいで窮屈を強いられる事は知っているが上官による部下への横暴に対する抑止力としてはそこそこに役に立っているらしいと霧島は静かに分析する。

 ただ、こんな事なら大尉では無く中佐である彼が指名を持って来るまで待っているべきだった、と霧島は心中で呟いた。

 

「あ、あの、なきゃむら提督っ! ・・・っ!?」

 

 そして、これで彼からの話は終わりと言う流れになるが、それに待ったをかけようとした榛名が慌てて椅子から立ち上がり盛大に相手の名前を噛む。

 直後、あっと言う間に茹蛸に負けない赤面を見せる妹の身体を張ったチャレンジ精神に比叡が小さく噴き出し、金剛と霧島は中村と榛名を交互に観察してから何かに気付き納得した様な顔をする。

 

『榛名のこれ、もしかして金剛お姉様と同じじゃありませんか?』

『霧島、私は提督の前であんなに取り乱す様な事はしてはいません・・・ですが、あれは・・・まぁ』

『もしかしてですけど、私や比叡お姉様もそう言った相手に出会ってしまったら・・・』

『ちょっ!? 霧島、お願いだから怖い事言わないで!』

 

 直接脳内に届ける声で会話して状況を分析した姉妹が向ける視線の先で赤面したまま身体を強張らせブルブルと震えている無言の榛名と物凄く気まずそうな顔をした中村がお見合いしており、助け舟の一つでも出すべきかと金剛は小さくため息を吐いた。

 

「前に言った通り菱田先輩は指揮官として優秀だし言葉遣いはきついがちゃんと人情味もある優しい人だ、今は経験を積む時期だと考えて精進してくれ」

 

 金剛が善意の人になろうとするよりも先に羞恥心で震え火を噴きそうなほど、と言うか実際に身体から霊力の光を蒸気の様に吹き出している榛名の頭を中村が軽く撫で苦笑する。

 

「そして、今回は仕方がないが次の機会があればよろしく頼む、榛名」

 

 悪くない判断かもしれないが、淑女を相手に子ども扱いをする様な態度は落第点であり自慢の妹に対して相応しくないと指摘する為に眉を顰めた長女が口を開く。

 

「もう少し榛名への思いに・・・」

「提督、お心遣いありがとうございます! 榛名感激です♪」

 

「「「ぬわぁああっ!?」」」

 

 だが姉の心遣いは閃光弾並に輝きながら絶叫の様な歓喜の声を上げる榛名によって弾き飛ばされ、学校の体育館ほどの大きさとは言え密室である酒保に戦艦が放出する霊力の流れが風を作り出し渦巻かせて何枚かのポスターを千切って暴れ舞い散らせる。

 

 直後に近くにいた中村と姉妹艦達が目を押さえて仰け反り悲鳴を上げ、その近くでスイーツを乗せたお盆を運んでいた輸送艦娘がすっころび、お盆から発射されて宙を舞うモナカが席についてお菓子を待ちつつ欠伸をしていた白露型駆逐艦の口へと着弾した。

 

 我を忘れてやってしまった自分の失態にオロオロと全方位に謝罪の声と頭を下げる榛名、その足下には白目を剥いて椅子から転げ落ちた金剛、比叡、霧島の姿。

 そして、目をやられた某大佐の様に呻きながら中村を含めた数人がヨロヨロと無秩序に歩き回り酒保の商品棚や自販機にぶつかる。

 

 そこから少し離れたテーブルで。

 

「なんで食べちゃったの!? アタシが注文してたのにっ、返してよ!」

「勝手に口に入ってきたんだから仕方ないっぽい~」

 

 などと程度の低い言い争いが始まり。

 

「そんなっ、わ、私の酒保がぁ!?

「酒保は明石さんのじゃなくてみんなのです!」

 

 榛名が発生源の閃光と強風で飛ばされたポスターやチラシ類が舞う喧騒が溢れる酒保の中、倒れて商品を床にばらまく幾つもの棚の様子に店員をやっていた工作艦娘が両手を頬に当てて悲鳴を響かせた。

 

 厄介な新型の敵が現れたと言うのにその場の空気はあっと言う間に戦場とは少しズレた騒がしさに満ち溢れ。

 結局、自分の艦隊の戦力問題を解決する事無く中村義男は這う這うの体で艦娘酒保から戦略的撤退をしなければならなくなったのだった。

 

 




 
駆逐艦y「じゃぁ、半分だけあげるっぽい」

駆逐艦s「あげるって、それアタシが一番に注文したやつでしょ!」

駆逐艦h「め、目が・・・姉さん達どこに、何が起こってるんですかぁ~」

駆逐艦m「ほんと困るんですけど、あぁ、クリームが服に付いちゃったぁ」

・・・

2019初イベントお疲れ様です。
今回は白露型に滅茶苦茶お世話になりました!
次もこうありたいです。

・・・所で涼月は何処に居るんですかね?

2020/6/17 加筆。
 
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