艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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新年イベントで日進の救出は成功した。
つまり、我が軍の勝利である。 いいね?
 
そして、今回はスパロボとかで良くあるインターミッション的なサムシング。


Q.レ級への対応が遅い上に戦力まで足りないようだが?

A.限定海域並の大艦隊とかならまだしも新種とは言え所詮は一体だけだろ(要約)とか言われました。
 偉い人は現場の事を何も分かってないんです(某工作艦談)

(なお、日本党や自衛隊の中にいてレ級にトラウマを持っている人達(転生者)が騒がなかったら上層部は・・・)
 


第六十五話

「・・・うぅ、まだ目がチカチカしやがる」

 

 まだ春は少し遠い二月の寒空の下、まだ騒がしさが聞こえてくる艦娘酒保の看板が掛けられたレンガ倉庫から何とか脱出できた自衛官である中村義男は目頭を指で揉みながら呻く。

 つい数分前、健気な様子で自分へと好意を持ってくれているであろう戦艦娘を中村は不器用なりに慰め、その直後に感情(感激)を爆発させスタングレネードの様な発光を起こした榛名のせいで一時的に呻きながら酒保内を無意味に歩き回るゾンビの様な醜態を見せる事になった。

 

「はぁ・・・他の子の方にも先約がついてるし、どうすんだよホント・・・人数少なすぎるだろ戦艦・・・」

 

 たっぷり時間をかけて小春日和の路上をまともに歩けるぐらいまで調子を取り戻した中村は憂鬱のどん底まで届くような溜め息を吐く。

 

「それにしても榛名も金剛も流石は姉妹艦って事か」

 

 中村にとって金剛型戦艦である榛名は(前世)の世界で触れた艦隊これくしょんと言うゲームの中で特に好んでいた艦娘であり、ゲームでは最初期に入手した後も常に頼りなる戦力だった。

 しかし、当たり前の事だがそれがそのまま現実に置き換わるというわけでは無い。

 

「しれぇー! だーれだっ!」

 

 その態度から榛名が自分に向ける感情の正体には気付いているがある理由から彼女と距離を置きたいと考えている中村は苦そうな顔をしていた。

 その直後に彼の表情は真後ろから飛びかかってきた小柄な重みで戸惑いと苦悶に歪む。

 

「おっわ!? なんだっ、おい、何すんだっ!? いてっ、いてぇっ!?」

「うぁ~、登り難いから動かないでってばぁ~、んふっふっ♪」

 

 遠慮と言う言葉を知らない少女の手が中村の服や髪を握って木登りの様に彼の身体をよじ登り、両足を白い制服の肩に乗せて軍帽の上に両手を乗せ満足げに笑う。

 青いラインと紺色の襟で飾られた白地のワンピースセーラー、その胸元で揺れる黄色いスカーフタイ、顔を左右から挟むストッキングに包まれた脚と鼠色の金属で補強された靴が見えた事で子供一人分の重量にふら付いていた中村は自分の頭の上でご満悦している少女の正体に気付く。

 

「いきなり登るんじゃねぇよ、時津風っ!」

「せいかーい、久しぶり、しれ~♪」

 

 名前を呼ばれ頭の上から毛先に向かって黒色から灰色へとグラデーションする不思議な地毛を持つショートボブの少女が中村の顔を覗き込み、満面の笑みを浮かべた陽炎型駆逐艦娘が再会を大げさに表現して彼の顔をベタベタと触る。

 

「このっ、せいっ!」

「わわっ!?」

 

 少女の手で頬をグニグニと揉む遠慮なしのスキンシップに晒されながら中村は犬の垂れ耳にも見える癖毛と黒いカチューシャの少女へと手を伸ばして彼女の両脇腹を掴み自分の身体を前傾させながら短い気合の声と共に頭の上から前方へと引っ張り落とす。

 だが、相手もさるものだった様で時津風は腰を掴まれた状態のまま身体を半回転させ中村の肩に手を掛けて足を彼の腰に引っ掛け肩車から今度は抱っこで指揮官の身体に正面からくっ付く。

 

「あははっ♪ おもしろーいっ、もっかいやって良い~?」

「離せって言ってんの、あとその靴履いてる時に登るなってんだろ、背中痛てえんだよ!」

「ん~、そうだったっけ? しれー、ごめーん」

 

 一頻り全く反省の色が見えない笑い声を上げてから時津風は中村の身体から降りて彼の正面に立ちポーズだけは立派な敬礼をする。

 

「時津風、鎮守府に帰って来たよ♪」

「ん、帰って来るの今日だったのか? 月末までは舞鶴に居るって聞いてたんだが」

「戦艦の人達の交代が予定より早くなったからそれにびんじょーさせてもらったんだ~、イクちゃんも帰ってきてるよ」

 

 聞いているだけで身体の芯が緩みそうになるお気楽少女の声に微笑んだ中村は帰ってきた駆逐艦娘のおでこを軽く小突いてから自分の執務室がある棟を目指して道路をまた歩き出す。

 

「ああ、なるほどな・・・俺の方はその交代のお陰で当てにしていた戦力が居なくなったわけだけどな」

「ぉ~? あぁ、三笠さんの交代は陸奥さんだっけ~、仲良かったんだ~?」

「軽口で喋れる程度だがな、もう一方の頼みの綱だった長門は去年の式典から日本各地のイベントで引っ張りだこ、鎮守府に帰ってくる気配すらねぇ、まったく災難だ」

 

 もしこの場に長門が居たならば彼のセリフに対して災難なのは見世物にされている私の方だ、と憤慨するだろう。

 

「しれー、三笠さん紹介してあげよっか? 出撃できるって聞いたら三笠さんも喜ぶよっ」

「いや、三笠にはまだ出撃許可でてねぇじゃん、舞鶴の自習じゃ単位出ねえんだから、おまけに戦艦娘は海上訓練の許可すら出なかったんだろ?」

 

 中村と並んで歩き上機嫌に手足を振っている時津風は舞鶴で過ごした半年の出来事を彼女の特有の思考パターン(一貫性の無い内容)を楽しそうに語り、それに相槌を打ちながら指揮官は司令部からの命令に頭を悩ませていた。

 他の戦艦娘よりは中村と仲が良く条件次第で彼の艦隊に参加してくれる事もある金剛だが、彼女が特に気に入っている指揮官である田中良介特務二佐からの先約があった場合にはその名前の通りの硬い意志でどれだけ好条件を出しても話を聞いてくれなくなる。

 

「ふ~ん、手強い敵ね~・・・ならさぁ、あのまま霧島さんか榛名さんに来てもらえば良かったじゃん」

「・・・見てたのかよ」

「ばっちし、て言うかしれーは時津風に気付いてなかったの~? 結構近くに居たんだよぉ?」

 

 酒保に入った時点で時津風に尾行されていた事を教えられた指揮官は、まぁ、そう言う事もあるだろうと精神年齢が十代前後の駆逐艦の行動を容認する。

 いつの間にか自分の後ろに指揮下の艦娘が居ると言うのは特務士官にとってはよく遭遇する状況であり、中村も廊下を歩いている際に吹雪や不知火が並んで付いて来ていた事に気付かず驚かされた回数はもう数えきれない。

 

 それすら彼にとっては近付くだけで無意味にキラキラ光る挨拶と言う名の騒がしいアピール(迷惑行為)を行う那珂と愉快な仲間達と比べれば大した事ではないと言える程度まで慣れてしまった。

 

「榛名さん絶対しれーのこと好きだよ、もうちょっと粘れば行けたって」

「いや、榛名が今いる艦隊の指揮官は前に俺があの子に紹介した相手でな、なのに横からやっぱり無しって言うわけにはいかんのよ」

「ん~? なんでそんな事したの?」

 

 舞鶴に居た彼女の耳にも新型の深海棲艦の噂、かなり強力な力を持っている敵が現れた話は鎮守府に居る姉妹艦からの噂話(脳内通信)で知っており、その新種を討伐する為の戦力は多ければ多いほど良いのは普段からあまり指揮官の示す戦術戦略を深く考えずに野性的な感覚で深海棲艦と戦っている時津風ですら分かる事である。

 なのに隣を歩く鎮守府で最も艦娘の扱い方に優れている(と時津風は考えている)指揮官は渋い顔をしながらも自分に好意を寄せている戦艦娘を他の艦隊に紹介するなんて事をやったと言う。

 

「しれー」

 

 ほっといたって優秀な自分達の艦隊に厄介なお鉢が回って来る事は分かり切っていたのに、とまだ中村艦隊への再登録が終わってない駆逐艦娘は胡乱気な目を隣でポケットに手を突っ込みながら歩く覇気の薄い自衛官を見上げた。

 

「・・・短歌、いや、ポエムかな・・・それが俺の机に置かれてたんだよ」

「ぽえむ?」

 

 ばつの悪そうな顔をした中村曰く、ある日、佐世保の式典から鎮守府に無事に帰り着いた彼は自分の執務室にある机の上に短冊が一枚置かれているのを発見し、差出人は不明だが達筆な筆文字で冬の季節と恋焦がれる情緒を巧みに組み合わせ表現したその一文の首を傾げた。

 その次の日、演習でやらかした問題行動の罰として鎮守府の清掃を田中と手分けして行っていた彼は背後からの何者かの視線に気づいて振り返り、曲がり角の物陰から自分の方へに微笑みを向けている戦艦娘を見つける。

 その時にはお互いに会釈して特に会話する事も無く別れたのだが、その次の日にもモップ掛けをしている自分を物陰から笑顔で見つめている榛名と顔を合わせる事になり、昼食から戻り事務仕事を片付けようとした彼の机の上にはまた見事な短歌がしたためられた短冊が置かれていた。

 

 そこでやっと彼はその短歌(ラブレター)の差出人の正体に気付く事となった。

 

「で、今日の昼飯の後にもまたあって、な・・・これで二十二枚目なんだよ」

「ふ~ん、で? それがなんか問題なの?」

「あのなっ、二日に一枚のペースで知らないうちに自分の机に詩が置かれるってかなり怖いんだぞ!?」

 

 恋愛に奥手な乙女が丹精込めて書き綴ったポエムを想い人へ送ると言うイベントは他人事なら微笑ましい話題で済むがそれが自分の事になると途端に精神的な重みがのしかかるものだ。

 

「嫌ってくらい丁寧に書かれてるし、込められた思いは良く分かるんだが・・・」

 

 と言っても彼女から送られてくる詩歌が赤文字で同じ単語が並ぶとか偏執的かつホラーな文面であるとか言うわけではない。

 

 文学に造詣が浅い中村でもするりと読めて非常に書き手が読み手に伝えたい事が分かる詩はコンクールに出せば優秀作として花を付けられるだろう。

 そして、そのポエムの書き手である金剛型戦艦三番艦は上品かつお淑やかな雰囲気の持ち主であり姉妹艦に負けず劣らず見る者達を惹きつける花の様な美しさは深窓の令嬢に例えたとしても言い過ぎではない。

 

「だが、いざ本人とその話しをしようとするとだな・・・」

 

 そんな彼女からのアプローチに少し気後れしつつも中村は交流を試みる事にしたのだが、面と向かって彼が話しかけると榛名は決まって語彙力を欠落させ特定の単語を連呼する様になり。

 さらに彼の些細な言葉へ過剰に一喜一憂して顔色を目まぐるしく青くしたり赤くしたりとコミュニケーションの基本である会話すら困難な状態になってしまう事が分かった。

 

「一度だけ榛名がうちの艦隊に来て出撃した事もあるが・・・あれは何と言うか・・・かなり、ひどかった」

 

 先月のある日の夕方、海上哨戒網に侵入してきた敵艦隊を追い払う為に急遽出撃した中村艦隊。

 その前日に偶然、中村の艦隊への所属申請が通っていた榛名だが艦橋に立つと同時に緊張でガチガチに固まり。

 一応は索敵や警戒など戦闘補助は何とか出来ていたのだが中村が話しかけるだけで声は裏返り、突然に集中力が無くなったり、戦闘後には恍惚とした表情ながら無言で指揮官の顔を見詰め続ける、などなど艦娘にあるまじき拙さを余す所なく披露した。

 

 最低限の仕事は出来ていたが、逆に言えば最低限の仕事しかしてくれなかった榛名に対する他の艦隊メンバーの感想は呆れの一言でまとめられ。

 それは他者への配慮と思慮に優れた重巡高雄ですら眉を顰めて榛名へ直接に苦言をぶつけた程である。

 

 そして、その次の日、戦艦娘榛名は艦隊所属期間の最短記録(鎮守府調べ)を更新する事になった。

 

「あそこに霞が居たら本格的な殴り合いの喧嘩が始まってたかもしれん」

「うわ、何それ、面白そー」

「棒読みになってんぞ・・・まぁ、そう言う事で榛名に関しては他の艦隊で経験を積んでもらうわけだ、うちの艦隊に所属する云々に関しては経験積んだ上で彼女が望むなら、だな」

 

 実は古式ゆかしい手段で思いを伝えてくる榛名の手段そのものは驚かされる事はあれど顔を合わせればポンコツと化す彼女の可愛らしくも面白い姿のお陰で勝手に執務室へ忍び込まれる不気味さは相殺され中村はほとんど金剛型三番艦に不快感を感じていなかった。

 

 では何が中村にとって問題なのか、と言うと明らかに恋愛感情を持って戦艦娘が馴れ馴れしく彼へと近寄って来る度に恋敵への(司令官への)対抗心(執着心)を燃やした吹雪が闇色の瞳で見つめてくる事なのだ。

 

(今んところは仕事を理由にしたり、間宮カフェとかテーブルゲームのおかげで気を反らせてるけど榛名に刺激されたせいで吹雪達が硫黄島の時みたいな事始めたら、今度こそ俺、死んじゃうぞ・・・社会的に)

 

 なんて個人的な裏事情(自業自得の結果)を帰ってきたばかりのお子様へ正直に教えるわけにもいかず。

 戦艦娘は確かに強力な艦種であるがその彼女の参加で自分の艦隊のレベルが明らかに下がるとなれば致し方ない判断であると言い切った(言い訳をした)中村の視線の先に彼が使っている執務室のドアが半開きになっているのが見える。

 

 そして、まだ上目遣いで司令官へ探る様な疑いの視線を向けている時津風を連れてその扉に手を突いて押した中村は素早く隣の少女の後ろ襟を掴んでドアの影にいた不審な少女へ向かって突き出す。

 次の瞬間、紺色と白の布地がぶつかってむぎゃっと二つの小さい悲鳴が上がった。

 

「む~、イクの奇襲に気付くなんて敵ながらあっぱれなの!」

「敵じゃねぇし、出る時にちゃんと閉めたドアが開きかけてたらなんかいるってわかるだろ」

「しれー、ちょっとひどくない? こういうの良くないなぁ~」

「近くに居たお前が悪い、二人とも申請用紙出すから待ってろ・・・」

 

 イ19と書かれたゼッケンを付けた胸を揺らすスクール水着の少女が顔を上げ妙に楽し気な声を上げ、その潜水艦の下敷きになった駆逐艦娘が非常に不満であると主張して頬を膨らませる。

 七カ月ぶりに帰ってきた二人に苦笑してから中村はごちゃごちゃっと色々なモノが置かれている自分の執務机へと向かって必要書類を引き出しから取り出し。

 部屋の入り口で倒れている時津風と何故か彼女を捕まえ抱き付いて床に寝転んでいる伊19へと取り出した二枚の紙を揺らして見せた。

 

「よっと、お先に失礼するよ~」

「いひひっ♪ イクもいただいちゃうなのねっ」

 

 潜水艦を押しのけ飛び上がるように立って申請書類をひったくる様に取った時津風が勝手に彼の机の上に転がっているボールペンを手に申請用紙に記入を始め、その横で中村は床から起き上がった潜水艦娘の頭を片手で押さえる。

 

「と、その前にだ」

「きゃっ、提督ぅ意地悪しないで欲しいの~」

 

 指揮官は不満そうに自分を上目遣いで見上げて頬を膨らませている大きな花びらの様な髪飾りと紫色の髪を揺らす美少女の手が届かない位置で未記入の書類を揺らした。

 

「イク、お前なぁ、基地に居る間はちゃんと上着着ろって言ってんだろ、なんでまたスク水だけなんだよ」

「ぶ~」

「ぶー、じゃないの、ゴーヤだって最近は港にいる時だけはスカート穿いてんだぞ?」

 

・・・

 

 年始から鎮守府内の艦娘の間では日本近海に現れた新種の深海棲艦の話題で持ち切りになっている。

 

 戦艦レ級と仮称されるそれとの一度目の遭遇戦闘で中破させられた重巡青葉は生きたまま敵に喰われかけて過去のトラウマ(箱庭の記憶)を呼び起こされ軽度の神経過敏を起こした為に肉体の治療が終わった後も念の為に出撃を控え内勤をやっている。

 

 二度目にその新種が確認されたのはEEZの外縁部、複数の駆逐艦級を引き連れて航行する様子が自衛隊の哨戒網に捉えられ数時間の追跡の後にまたその怪物は海の夜闇に姿を消した。

 

 三度目、戦艦級の深海棲艦に備え準備を整えた複数の空母を主とした艦隊による広範囲索敵によって紀伊半島から南方の海上で発見されたレ級とその随伴艦へと攻撃が行われる。

 

 その戦闘での損害からやっとその深海棲艦の危険性を認めた司令部は鎮守府で遊ばせている最大の戦力を持った二つの部隊を戦艦レ級の撃破を目的とした作戦へ投入する事を決断した。

 

「結果は随伴を減らせたけれど肝心の目標には多少のダメージしか与えられなかった上に逃走を許したと・・・」

「そうは言っても高高度を最大戦速で飛行していた赤城さんを狙い撃ちで大破させる正確さと攻撃力は油断できないですよ」

「・・・ええ、障壁を貫通した250kg爆弾の直撃に耐える防御力、確かに戦艦ね」

 

 手元に集まってきている情報と自分の提督が言っていた情報を比べ、彼が言っていた荒唐無稽な怪物と実際に現れた新種の情報が同じモノであると確信した高雄は口元を手で隠しながら小さく微笑む。

 油断できない航空戦力と戦艦の名の通りの強力な大口径砲、そして、その大砲を備える尻尾には大量の魚雷を搭載している事も赤城と加賀を旗艦とする二個艦隊の戦闘記録によって確認された。

 間違いなく自分が知る深海棲艦の中でも指折りの強敵であり、巨大で強力で鈍重が主流と言える怪物達の中で明らかなイレギュラーである事も間違いない。

 

 しかし、自分ならこの強敵を討ち提督への手柄として捧げる事が出来る、と重巡洋艦娘は敵と味方の戦力と情報を総合してシミュレートした上でそれを確信した。

 

「深海棲艦を食う深海棲艦ね、アイツらホント碌なのがいないったら」

「同族を取り込むことで補給と自らの強化を行う個体と言ったところかしら?」

 

 悍ましいモノを見る様に顔を顰めた朝潮型駆逐艦娘の手には哨戒機が戦艦レ級を撮影する事に成功した写真があり、戦闘濃度のマナによって映像が歪んでいるが重巡級の深海棲艦に襲い掛かりその自分の数倍の体格を持った重巡を巨大な尻尾にある鋭い牙が並ぶ顎で噛み千切らせている様子がその写真には写っている。

 

「艦種は戦艦だけれど他の深海棲艦より体格が劣っているから自分よりも大きい相手を従わせる事が出来ないんじゃないか、って司令官は言っていましたね」

「だから随伴は軽巡と駆逐だけって事? そんなのアイツの勘みたいなもんで確かな話じゃないわよ」

 

 自分の指揮官である中村が言っていた言葉を反芻する特型駆逐艦娘の吹雪に霞は半信半疑の態度を隠す事無く目の前にある日本近海の海図が広げられた机に持っていた写真を投げ落とす。

 

「身体が大きくて霊力が強い事、それが深海棲艦にとって上下関係を決めるルール・・・提督の言われた事が正しいならこの戦艦レ級がこれ以上の成長をする前に撃破しなければならないわね」

 

 指揮官の言葉を絶対視する吹雪とその考えに注意を呼び掛ける霞、そして、他の資料に目を通している珍しく真面目に集中している阿賀野や部屋の端で鼻歌混じりにボックスステップを練習している那珂。

 その場にいる同じ艦隊に所属する仲間達の姿を改めて確認した高雄は口元の笑みを消し、余裕のある態度で口元から黒絹の手袋で包まれた手の平を離す。

 

 約一名の姿を見なかった事にして高雄は自分達にやってきた大きな戦果を得る好機の予感へ高揚しかけた心を自覚したと同時に意識して自分の手で敵を撃破したいと言う功名心は提督の指揮の邪魔にしかならないと自らに言い聞かせ戦果を求める心を自制させる。

 自分はただ最良のコンディションを整え彼の手足となって最大限の力を引き出し使ってもらう事だけに集中するべきなのだ、と高雄は自己分析と平行して必要な情報を頭の中で冷静に整理していく。

 

「今回の任務、鳳翔さんと五十鈴さんは出撃出来ないんですよね・・・」

「二人ともちゃんとパワーアップはできたみたいだけどぉ、研究室の検査とかいろいろ長引いてるらしいね~♪」

 

 式典から鎮守府に帰還した後すぐに同じ艦隊に所属していた空母鳳翔と軽巡五十鈴は更なる力を得る為に研究室の作り出した(得体の知れない)新技術である艦娘の改造を受ける事を決め。

 安全を保障する研究室主任と工作艦娘への不信感を持ちながらも中村は彼女達へ許可を出し、それによって二人は彼の艦隊に所属しているものの出撃可能な艦娘としては一時的に外れている。

 

 単純に身体を改造すると言えば聞こえは悪いが、その方法そのものは入渠ドックや治療槽(クレイドル)と呼ばれる艦娘一人が入れる大きさの治療カプセルを改造した物の中で一定時間眠るだけ。

 そのクレイドルは通常の物と違い鎮守府の地下に存在する中枢機構と呼ばれる艦娘達や鎮守府の運用に欠かす事の出来ないエネルギーを供給する巨大なマナの結晶と直接繋がっておりその改造専用カプセルの中に入った艦娘は中枢機構との共振によって霊力を通常の三倍近くまで増幅される。

 そして、かつて日本海で吹雪が起こした現象の再現を耐えきり基礎霊力の増幅が成功した場合には艦娘の左目には白い花弁で造られる菱形が刻まれるのだ。

 

 ちなみに改造に失敗した場合にはとある軽空母艦娘と妙高型次女が言うには二日酔いを六倍程にした体調不良によって数日はベッドの上に住人になるらしい。

 

「鳳翔さんは使える艦載機の数がイッパイ増えたのと身体の力が上がり過ぎてちょっと慣れるまでロケとライブは無理なんだって☆」

「五十鈴ちゃんの方はスッゴイ異能力が貰えたんだよね? い~なぁ~」

「ね~♪ ワン、ツー☆ た~ん♪ ミ☆」

 

 アイドルを自称する軽巡が踊りながら身体の周りに光の星を散らし、書類から顔を上げてその様子を眺める阿賀野が口元に人差し指を当てて自分も指揮官に許可をもらって改造に挑戦してみようかなどと呟く。

 

 呑気な軽巡の言動はともかくとして改造後に飛躍的に上昇した身体能力の力加減が出来ずに食堂で湯呑を豆腐の様に片手で握りつぶした鳳翔は力の強さを切り替える手加減の為の訓練(リハビリ)を行っており。

 視界内に入った物を一度でも照準に捉えるとターゲットが視界の外や海中に潜航していたとしても自動追尾する砲弾と魚雷を放つと言う追跡能力に目覚めた五十鈴の方はすぐにでも艦隊に復帰できるのだが研究室からのその能力の解析が終わるまで待って欲しい、と言う要求を司令部が認めてしまった為に出撃が出来なくなっている。

 

 その五十鈴は霞と高雄から研究室での検査に集中するべきと(その秘書艦の席を寄越せと)提案されたがその心配を笑顔で突っぱねて改造を受けた翌日から出撃は出来ないものの検査の時間以外は変わらず中村の秘書艦として働いている。

 軽巡二人の会話のせいでライバルの存在を思い出して少し眉を顰めた霞と高雄の様子を気に留めず、敵の情報分析(頭脳労働)を放棄した阿賀野が那珂と手を取り合い艦隊の為の待機所兼会議室の端っこでダンスレッスンを始めた。

 

「那珂、阿賀野・・・貴女達は今、そんな事をしている場合なのかしら?」

「たかおん、怖い顔になっちゃってるよ~☆ レッツ、スマイル♪」

「そーそ~、女の子は笑顔じゃないとねっ♪ きらりーん☆」

 

 重巡洋艦が発する低い声の威圧はダンスをしている軽巡には全く効果が無く、阿賀野と一緒に光の星型を散らしてアイドルスマイルを向けてくる那珂に対してあからさまに苛立っている高雄は無理矢理な笑顔を顔に張り付けながら自分の頭の上から蒼いベレー帽を剥ぎ取り絞る様に握る。

 

「一応、那珂ちゃんさんのあれ、遊んでるわけじゃないんですけどね」

「ホント、ふざけてる様にしか見えないけどあれも訓練の一種なのよ・・・でも、こんな場所でまでやる事じゃないったら、もぉ」

 

 阿賀野をリードしながらリズミカルにステップを踏む那珂を殴ってでも止めてやろうかなどと青筋を浮かべた笑顔の裏で考え肩を怒らせ一歩踏み出そうとしていた高雄へと苦笑の吹雪と呆れ顔の霞が信じがたい情報を知らせる。

 

「はっ・・・? なんですって?」

「別の世界の艦娘は回避の練度を上げる為にダンスを訓練内容に取り込んでいたそうです、そう司令官が言ってました」

 

 人間の身体に慣れていない時期なら二本の足の可動域を感覚で理解出来る。

 習熟すればどんなに荒れた海上でも素早く体幹を安定させる事が出来る様になる。

 熟練すればどんな不安定な体勢からでも正確無比な砲雷撃を実行できる。

 

 そう言う意味では艦娘がダンスを訓練内容に組み込むのは合理的な事であるのだ、などともっともらしい嘘を吐いたとあるバカはその言葉を信じて何度も転び擦り傷だらけになっても努力を続けた那珂の姿に物凄く気まずい思いをした。

 

「那珂ちゃんはねぇ♪ アイドルだからどんな時でも最高のライブを出来る様にしておかないといけないんだよ~☆」

「さっすが、那珂ちゃんっ♪ 阿賀野も負けないぞ~

 

 ただ、その上っ面だけはもっともらしい理論は艦娘の優れた身体能力と奇跡的な融合を果たし、バク宙しながら敵艦の砲撃を避け反撃の雷撃を打ち込んだり、海面と並行するほど仰け反りながら真後ろへと砲口を向け連続砲撃を行う川内型軽巡三番艦の姿が海上に現れる事になった。

 

「まっ、重巡戦艦なら下手に避けるより障壁を強化して防御した方が手っ取り早いでしょうけどね」

「そ、そうよね・・・」

 

 防御力が低い駆逐艦や軽巡にとってはそれなりに効果がある訓練だと意地っ張りだが嘘は吐かない駆逐艦の保証に高雄は困惑し、頭上にきらり~んと言う光文字を浮かべポーズを決める阿賀野をリフトアップして一緒にその場で回転する那珂を見た。

 なおこの防御や回避に関する考え方に関して、回避するなら指揮官に機関出力を上げてもらえば良い派(代表矢矧)、近接武器で弾き飛ばすのが手っ取り早いです派(神通談)、そして、那珂ちゃん&バックダンサーズ(少数派)と言う主義を主張する幾つかの派閥が日夜、議論と実践を交えて切磋琢磨している。

 

「でも私達も社交ダンスの基礎ぐらいは出来ておいた方が良いらしいです」

「え?」

「あっ、それってもしかして提督さん達と自衛隊のダンスパーティーに行くことになるかもしれない話よね♪」

「へっ?」

 

 現代の自衛隊では幹部自衛官たるもの真の紳士・淑女であれ、と言う理念によってそう言った技能が必要になる社交の場が多く催される事があるらしく。

 一般にも自衛隊の一員として認知されたので自分達もその場へと招待される事もあるかもしれないと言う希望的観測が阿賀野の口から飛び出し、新たな初耳情報に高雄はさらに戸惑う。

 もしかして存在だけは知っている選択授業の一つである日本舞踊もその為にあるのかも、などとこの場ではあまり関係ない情報が重巡の脳裏を通り過ぎ。

 

「そうじゃなくても艦娘を引退した後に自衛隊に入隊し直すなら覚えておいて損はないったら、まっ、どうしてもってあのクズが言うなら招待されてやっても良いけれどねっ」

「へぇ・・・なんで、司令官が霞ちゃんをパーティに招待する事になるんですか?」

「ふんっ、それなりに出来る艦娘じゃないとアイツに恥かかせるかもしれないでしょ? 当然だったら」

 

 那珂と阿賀野の自主トレーニング(?)によって賑やかになりかけていた会議室の空気が吹雪を中心にして急激に淀み、しかし、そのドロリとした色の黒瞳に見つめられた霞は動じる事無く前髪を指で弾いて勝気で挑戦的な視線で睨み返した。

 

「遅れて申し訳ありません、駆逐艦浜風、ただ今湾内演習から帰還、これより戦闘待機に・・・」

 

 指揮官にとって一番の艦娘とその座を狙う駆逐艦の二人が剣呑な睨み合いを開始し、高雄が自分の知らなかった現代の知識を得て驚きで思考の海に迷い、苦笑を浮かべて並んでステップを踏む軽巡艦娘達の足音が妙に大きく鳴る会議室。

 

「あ、あの皆・・・何やってるんです? 提督は居られないのですか?」

 

 その部屋のドアを開けて入ってきた銀髪の少女が室内の光景に唖然として入り口で立ち尽くした。

 




 言うなれば運命を共にする姉妹。
 互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。
 姉が妹の為に、妹が姉の為に、だからこそ戦場で生きられる。
 姉妹艦は戦友、姉妹艦は家族。

 ・・・嘘を言うなっ!

 猜疑に歪んだ暗い瞳がせせら嗤う。

 深夜アニメ実況による睡眠妨害!
 唐突な演歌の熱唱!?
 油断に突き刺さる一発ギャグ!!

 どれ一つとっても戦場(テスト)では命取りとなる。
 それら(姉達の通信)を無視してペンを握る。
 誰が仕組んだ試験(地獄)やら、同型姉妹が笑わせる。

 敷島も! 朝日も!! 初瀬も!!

 だから! もう、私の邪魔をするなぁ!!

次回 艦これ、始まるよ。 五十七話
 【戦艦娘 三笠の試練】

私は、何の為に鎮守府に帰ってきたのか(´;ω;`)
(不合格通知と拳型の穴が開いた勉強机)

なお次回の題名と内容は予告なく変更されます。(決定事項)
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