艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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駆逐艦M「突進見て組み伏せ余裕でした」
駆逐艦I「はわわ~、みゆ、Mさんすごいのですっ! 助けてくれてありがとう、なのです!」
駆逐艦M「おまけになんか運命を一つ乗り越えた気がするぜ!」

特○型のMさん、おめでとうございます。

 
本日、舞鶴基地艦隊、異常無し!



第六十七話

「はい、これで出来上がりよ」

「うっはっ♪ 陸奥さん、あざーっす!」

 

 舞鶴基地に駐在している艦娘が溜まり場として使っている談話室で桃色の髪を跳ねさせながら歓声を上げた駆逐艦娘、漣が天井に向かって手を広げ蛍光灯の光で煌めく自分の爪に目を輝かせる。

 

「ぼのたん、ぼのたんっ、ほれほれこれ凄くね? 漣の手すっごく綺麗になっちゃったですよ! ktkr♪」

「うっさい、漣、はしゃぐな、うっさい」

「え~、その言い方酷くない? ぼのたんもやってもらいなよぉ~」

 

 果敢に漁船を操り瀬戸内海に漕ぎ出し一本釣りを敢行しているアイドルの様な何かが映るテレビに熱中している姉妹艦の目の前に突き出した手をパシッと払い除けられて不満そうな顔をした漣が曙にさらに寄りかかるが馴れ馴れしく近づけられたほっぺたを無言で突き出された拳がぐにりと歪ませながら押し退けた。

 

「漣ちゃん、あんまり悪戯しちゃダメだよ、曙ちゃんその番組、毎週楽しみにしてるんだから」

「べ、別に楽しみにしてたわけじゃないしっ! テレビ点けたらやってたからただ何となく見てるだけよ!」

 

 じゃれつく二人の姿に微笑みながら湯飲みにお茶を注ぐ少女、漣と同じデザインのセーラー服を着ている同型姉妹艦である潮の言葉に曙が素速く振り向いて大げさに否定の言葉を上げる。

 そんな分かり易いツンケンした照れにその場の全員が微笑ましそうに笑い素直になれない少女は少し顔を赤らめ誤魔化すように小さく鼻を鳴らしてからテレビの方へと顔を戻した。

 

「潮と朧もやってもらいなよ、ほら、キラキラ~♪」

 

 仲の良い姉妹の掛け合いを眺めてアラアラと笑っていた陸奥の隣に上機嫌な漣が座り近くにいる潮とその隣でハンドグリップを手に握力を鍛えている茶髪の少女へと声をかける。

 

「朧にはそう言うの似合わないと思う、それに爪は割れるからやって貰っても陸奥さんに申し訳ないし」

「うん、朧、まず爪割れる前提で話するの止めよ?」

「被弾したら嫌でもそうなるでしょ、クレイドルはネイルアートなんて直してくれないわよ」

 

 握力トレーニングを続ける朧とテレビに顔を向けたままの曙、素気無い二人の姉妹艦からの指摘に漣はげんなりとした表情で椅子に座り、もう一度手を目の前に突き出して自分の爪を飾るピンクのエナメルと白いウサギのマークを眺めて可愛いのにと小さく呟いた。

 

「あらあら、でも漣が喜んでくれたなら私もネイルアートの授業を受けておいた甲斐があったわね」

「私も鎮守府に帰ったらその授業やってみよっかなぁ、手に職って感じ♪」

「選択授業って沢山ありすぎて迷っちゃいますよね・・・それでえっと、あの、陸奥さん、私もお願いしますっ」

 

 潮のお願いにお茶で一息吐いていた陸奥が笑顔で頷き、二人目のお客さんとなった少し顔を赤らめ恥ずかしそうな顔をしている少女の手を取りテーブルの上の小瓶から刷毛付きの蓋を持って器用にぺたぺたと無色のマニュキュアを爪の表面に塗り広げていく。

 

「そう言えば、話に聞いていたけれど本当にこっちでは戦艦の出撃が禁止されてるだけじゃなく、待機状態ですら海にも立てはいけないなんてね」

「ですねぇ、敵はほとんどが駆逐級と潜水級ですけどこの前はついに重巡が出てきましたし・・・このままだと私ら小型艦じゃきつい感じですな~」

 

 漣の言葉に小さく口を尖らせた朧の顔には自分ならどんな敵が相手でも大丈夫なのに、と書いてあったが港に留め置かれている不自由な戦艦娘の手前でそれを言うほど軽率ではないらしい。

 

「あ、そう言えば戦艦言うたらさぁ、今日の朝から敷島さん達が寮の玄関でバケツ持って立たっとるんやけど、あれなんなんかな~?」

 

 漣たちがいるテーブルの隣で週刊誌を読んでいた黒潮が不意に顔を上げて誰にと言うわけでも無く疑問を口にする。

 

「あ~あれですかぁ、まぁ、何と言いますか~、ホントーに知りたい?」

「なんやのん、知っとるんやったら勿体ぶらんといてな」

「ん、姐さん方を差し置いて鎮守府に帰った三笠さんが昨日、出撃許可貰うためのテストやってたらしいっすね、まぁ、そう言う事」

 

 どう言う事やねん、とワザとらしい澄まし顔をした漣にツッコミを入れながらもここ数日の朝から夜まで妙に敷島型戦艦姉妹の三人が手を変え品を変えて騒がしくしていた事を思い出した黒潮は何となくその事情を察した。

 ちゃんと基礎の授業を受けていれば合格点を貰える鎮守府の試験だが脳内でドタバタ漫才を繰り広げられている様な集中力が無い状態では平均点を取るのも難しい事だろう、と考えてから黒潮は敷島型の末妹に幸あれと祈る。

 

「まあ、ええか、それにしても鎮守府かぁ・・・そう言えば、山風は元気にしとるかなぁ・・・」

「きっと大丈夫だよ、あの子はああ見えて強い子だもの~、私たちに出来る事は山風ェに笑われない様に頑張っていくだけさっ」

「せやなぁ」

 

 唐突に黄昏(たそがれ)る様な遠い目で明後日の方向を見る二人の駆逐艦、彼女らは自分達の視界の斜め上(白い天井)ににっこりと笑う黒いリボンの白露型駆逐艦娘の幻影を浮かび上がらせていた。

 

「え、山風ちゃんって今日の戦闘待機してる艦隊に居るよね? なんで鎮守府の話で出てくるの?」

 

 本当は自分も鎮守府に帰りたいけど他の子を優先して、と仲間への思いやりに溢れた言葉を言える少女は鎮守府に帰ったメンバーの代わりに姉妹である海風と江風が舞鶴基地へとやってきたので、はにかみながらも身体からキラキラと光を振りまして喜んでいた。

 それはともかくとして時津風が帰ってしまった為に舞鶴唯一の陽炎型となった黒潮と平常運転の漣のボケに戸惑う潮、目を瞬かせる少女は自分の手を持ってアートに集中している陸奥から動いちゃダメよと注意されて釈然としない様子のまま姿勢を正す。

 

「やってあの子、お姉ちゃんらが来た途端にウチから離れてあっちにべったりなんやで! 納得できんやろ! やっと妹みたいに思えてきたちゅうのにぃ~」

「わかるわ~、わかる、妹ってイイッよね!」

「あんたには潮がおるやろ」

 

 その黒潮の指摘に漣は顎に指を添えてから一つ下の妹の一部分を見つめ。

 

「いや、・・・それはどうだろう、むしろ潮はここにいる艦娘の中で陸奥さんに次ぐお姉さん艦娘なのではと(わたくし)めは思いますな」

「あぁ、確かにそれは、・・・分かりすぎて困るわぁ」

「え? えっ? 二人ともなんでこっち見るの?」

 

・・・

 

 長門型戦艦二番艦、陸奥は過去の世界においては一番艦と並び戦争抑止力とまで言われた武力の象徴であるビックセブンの一角であった。

 だが、与えられた武力とは裏腹に戦地へと向かっても出撃と戦闘の機会はあって無い様なもの。

 それどころか建造にかけられた金と労力、そして、彼女の乗艦していた多くの将兵は原因不明の爆発によって広島湾の水底に沈められてしまった。

 軍艦としての記憶(過去)を遡れば自分の原型が何故沈んでしまったのか、その力の象徴であった主砲の爆発が何者によって引き起こされたのか、文字通り自分の事であるのだから彼女は誰よりも正確にその日、戦艦陸奥の中で何があったのかを知る事が出来る。

 

「だからどうだって言うわけでもないけど・・・」

 

 自分にとって全ては今更の事でしかない、艦としての記憶を持っているとは言え今の陸奥は物言わぬ鉄の船体ではなく心を与えられ人の身体に転生した個人でしかない。

 デフォルメした動物柄の少し子供っぽいデザインで飾った指先を嬉しそうに目の前に翳している駆逐艦娘の姿に自然と陸奥の頬に笑みが浮かぶ。

 元々は姉艦娘である長門に付き合って受けた授業であるがそれが誰かの笑顔になると言うなら戦わずに港に留まり続ける現代もそう悪い物では無いような気がする。

 凛々しく厳格と言う典型的な軍人気質で子供の相手が不慣れなくせに小型艦娘達と交流への試行錯誤に余念がない姉と違って陸奥はただ近くで仲間が元気な姿を見守っていられるだけでも十分だと感じているからだ。

 

「ところで貴女達の事で少し気になってた事があるんだけど聞いても良いかしら?」

 

 この機会にこの娘達と仲良くなって長門に自慢でもしてやろうか、と悪戯心を働かせて丁度良い話題作りの為に少し前から気になっていた事を聞く事にした。

 

「ふむふむ、陸奥君、何でも聞いてくれて構いませんぞ、この漣博士に万事任せなさい♪」

 

 爪の手入れと装飾だけでなく小物雑貨の製作、料理、ダンス、歌唱、楽器の演奏。

 良くも悪くも子供っぽい娘が多い駆逐艦達の興味を惹く為や授業内で交流する為にどれもこれもプロとしてやっていける程に器用にこなせる様になったと言うのに全くその特技を使う機会無く艦娘と自衛隊の宣伝活動の為に全国行脚をしている姉艦。

 彼女に自分と仲間達の集合写真の一枚でもプレゼントしてやるのが姉妹孝行と言うモノだろう、と陸奥は微笑む。

 

「なにその態度、偉そうにすんなっ」

「ウェヒッ♪」

 

 横合いから猫手で繰り出された曙の拳でほっぺたを突かれておどけた声を出す漣の剽軽な姿に周りから小さく笑いが漏れる。

 

「それでなんだけれど、駆逐艦の子達ってなんで出撃する時に汽笛を鳴らすのかしら?」

「・・・へ?」

 

 テーブルに肘を突いて頬に添えるように支えながら微笑ましい様子を眺めていた陸奥が呟いた疑問に非公式ながら第七駆逐隊を自称している四人組が揃って意外な事を聞かされたように目を丸くしてお互い同士で顔を合わせた。

 

「出撃って、戦闘形態になってからあのおっきな輪っかを出る時の事ですよね?」

「ええ、でも迷惑っていう意味じゃないのよ、ちょっと気になっただけで・・・」

 

 戦艦の問いかけに四人の駆逐艦が揃って小首を傾げ、その全員が妙にそわそわしている様子にもしかして聞いたらまずい類の質問だったのかもと陸奥は戸惑う。

 

「あらあら、言い難い事だったなら無理には・・・」

「あっいや、そう言うわけじゃないんですが、なんと言いますかぁ・・・」

「あんまり意識してやってるつもりないんだけど、そう言えば私達出撃する時に汽笛鳴らしてるね」

 

 まるで今指摘されて初めてそれに気付いたかの様な態度で相談を始めた駆逐艦娘達の姿に陸奥は目を瞬かせた。

 そして、曙曰く気合いを入れる為で特に意味がない、朧が言うには強くなれる気がする、照れながら勇気が湧いてくといいなと潮が呟き、漣が聞いた噂では障壁がすごく強くなるらしい、などと言い出し。

 

「漣のはちょっとおしいけど全部ちゃうよ~」

 

 数分後にそれぞれのてんでバラバラな意見が出終わり四人が自分以外の異なる意見に驚き顔を見合わせる様子に隣のテーブルから陸奥の隣に移動してきた黒潮が煎餅を手に軽い調子で告げた。

 

「「「えっ?」」」

「ウチらの汽笛の事やろ? あれな、艤装ん中の霊力の循環を早くする為にやる空気抜きみたいなもんや」

 

 ポリポリと煎餅を齧りながら自分達の艦種である駆逐艦の性質を講釈し始める黒潮の姿にその場の全員の耳目が集まっていく。

 

「ウチら駆逐は敵に近付くにしても離れるにしても大型の人達と違ってすぐに障壁を展開して加速せなあかん、そやから艤装の展開と一緒に汽笛鳴らしてしまうねん」

 

 出撃直後の艤装は霊力が停滞している状態で形作られ自動装填される初弾の砲弾や魚雷以外、障壁や推進力へのエネルギーは逐次艤装内で増幅されて作り出される事になる。

 推進機のエネルギー循環が早くなる事で推進力が優先的に作られ急速発進を可能とし、さらに汽笛部分から外部に放出される霊力の粒子によって不可視の障壁も構築を早めることが出来るのだ、と黒潮は簡潔な解説を締めくくった。

 

「はわぁ、黒潮ちゃん詳しいんだね~」

「どこで知ったのよそんな事、初めて聞いたわ」

「ん~、選択科目の霊機学でや、なんや、みんなあの授業受けとらんの?」

 

 口々に感心した様子の声を出す漣達の姿、自分達の艤装に当然に備わっている汽笛に関するあれこれの情報を陸奥を含めた全員が知らなかった事を意外そうにしながら黒潮は電気ポットからお茶を湯呑みに注ぎつつ周りを見回す。

 

「れいきがく? それって基礎科目にあった霊力基礎力学のこと? マナが周りの環境や物質に与える影響とかの?」

「ちゃうちゃう、基礎科目やなくて選択科目の方、霊()学、ウチが言うとるんは霊力機械工学の事や」

 

 その正式名称でますます疑問を深めていく周囲の様子に向かって首を横に振った黒潮は彼女達の反応で漣達が本当にその授業と内容を知らないのだと把握した。

 

「簡単に言うとなぁ、・・・あれや、ウチらが使っとる艤装の中身がどんな構造しとるんかとか、どういう風に動いとるんかっちゅうのを勉強する学課やね」

 

 つまり、その授業とは車に例えるなら運転技術を学習する授業ではなく車の構造を調べ造り方を理解するための授業である。

 スイッチのオンオフを操作する方法さえ知っていれば使える複雑な機械の内部をわざわざ部品単位まで解析し設計や原理を学び覚える為のカリキュラムなのだ。

 

「黒潮、なんでアンタそんな授業受けてるのよ、研究室にでも入りたいわけ?」

「まぁ、ここやとテキスト送ってもろて自習するしか出来へんけどなぁ、いっちゃん最初は陽炎に勧められて始めたんや」

 

 漣が言っていた障壁を強くすると言う噂の大元であるとある士官の下で次女と共にこっぴどい目にあった陽炎型駆逐艦のネームシップは調子の良い嘘や確証の無い勘違いに踊らされない為の正しい知識を得る事の大切さを妹達へと実感を込めて語っており。

 その助言を受けて始めたその授業は殊の外、黒潮の気質に合っていた為か特に苦も無く続けられ艦娘として目覚めてからここ舞鶴基地へとやってくるまで彼女は鎮守府の研究室主任が教諭を担当する授業で日進月歩の研究成果を優先的に得る事が出来ていたのだ。

 

「でも陸奥さんは受けとると思ってたんやけどなぁ、ウチと一緒にやってた人らも妙高はんに日向はんとかー、大型艦の人がほとんどやったし?」

「いいえ、むしろそんな授業があった事すら初耳だわ、それって難しいのかしら?」

「そうでも無いで、妙高さんとかウチより後に始めたんにアッちゅう間に湾内演習で使う装備の整備とかまで出来る様になってなぁ、せや、あれ弄るのん結構おもろいねん、知っとる?」

 

 内部のエンジン部分の出力の調整、砲や魚雷に繋がる回路を複雑化させ弾薬の消費を下げたり、逆に威力を上げる為に最適化したり、と受講していた生徒同士で相談しながら一番良い装備を作る実習は中々に面白かった、と黒潮は朗らかに笑う。

 

「まっ、そん時の装備は出力が高過ぎたみたいで背負ってた子と一緒に火ぃ噴いてすっ飛んでってまったんやけどね~」

「それ、だ、大丈夫だったの?」

「ん~、改造した練習機の方はバラバラになったけどでも、いなず、こほんっ、飛んでった子は治療槽使わんでもええ程度の怪我ですんだで・・・その子が飛んでった先にいた子が受け止めてくれんかったらどうなってたか知らんけど

 

 最後の部分だけボソボソと妙な含みがある言い方をする黒潮の様子に少しの恐れを抱いた第七駆逐隊と長門型戦艦はその場の空気を散らす様に取り敢えずへーとかえーとか意味のない呟きを吐いた。

 

「あ、ごめんなぁ、話しが脱線してもうてたわ、で汽笛の事で注意せなあかんのはな~」

 

 障壁の展開が早くなるがその強度や防御性能が上がるわけではない、大量に汽笛から霊力を放出しても一定以上の量に達すると光粒は壁として結合する事無く空気中に溶けて無駄になってしまう。

 推進機関に関してもエネルギーの循環速度が一定以上になると何回汽笛を鳴らそうがそれ以上は無駄な楽器にしかならず素直に艦橋で機関出力を上げてもらうのが正道である。

 などなど、エトセトラ・・・。

 

「せやから汽笛鳴らし続けたらいくらでも(はよ)う走れて障壁が(つよ)うなるっちゅう事ちゃうよ? 無駄に霊力消費するだけやし、正面から直撃弾受けたら普通に大破するよってな・・・不知火なんか中村はんの言うた適当な話信じて酷い目にあっとったわぁ・・・」

 

 まさか駆逐艦に講師をしてもらう事になるとは思ってもみなかった陸奥は姉に付き合って娯楽性の強い授業ばかりを選択していた事を少しだけ後悔した。

 黒潮の話では受講生にどんな艦娘が居たかと言うのは軽く触れるだけだったが重巡だけでなく自分と姉以外のほとんどの戦艦娘がその授業を受けているらしい。

 今後の環境に置いて行かれない為と少し聞いただけでも感じるその学課への興味から陸奥は自習用の教材だけでも鎮守府から送ってもらうべきだと考える。

 

「あーーっ!?」

 

 陽炎型三番艦のお陰で素朴な疑問の解決が終わり頬杖を突いて今後の予定を考え始めていた陸奥の目の前で曙が慌ただしく立ち上がり目を驚きに見開いて談話室のテレビを指さし叫ぶ。

 

「ひゃああっ!? な、なんですかっ!?」

「まさか敵襲!? 敵が来たの!?」

「おぅふっ、ビックリした・・・おぼろんと潮も落ち着きなよ・・・で、どうしたん、ぼのたん?」

 

 驚愕の表情を浮かべたまま曙が無言で指さすテレビ画面、目的の獲物をドラマチックに捕獲する事に成功し港に戻り一本釣りに協力してくれた名人漁師と話をしているアイドル達の後ろ。

 談話室にいる綾波型駆逐艦娘とは色違いであるが似たデザインのセーラー服を着ている二人を含む数人の少女達がテレビの向こうの港にいる野次馬に混じって映っている。

 

「・・・うぉ、マジっすか」

「あっ、綾波ちゃんに敷波ちゃんっ!? 睦月ちゃんもいるよっ!?」

 

 さらには整った顔立ちであるがパーツの素朴さと垢抜けないモチッとしたほっぺが目を惹く特二型もしくは綾波型と呼ばれ分類される駆逐艦娘の一番艦と二番艦を原型に持つ艦娘だけでなく、三日月型のアクセサリを姉妹共通で身に着けている睦月型の艦娘までがバラエティー番組の隅っこに何食わぬ顔で野次馬をやっていた。

 

「いや、なんであの子達、愛媛にいるのよ・・・」

「確か今のムッキー組って小笠原輸送の護衛艦隊やってるはずだよねぇ・・・え~と、むむむ・・・」

「漣、いきなり唸りだしてどうしたの?」

「ちょっと、綾波ンか敷波ンにチャネッてみる・・・ぉ、ぉお、繋がった♪」

「ちゃね?」

「チャネリングって言いたいんでしょ、通信よ、通信」

 

 既にシーンが変わり艦娘が野次馬に混じっている事に気付かなかったらしいテレビクルーは港から漁師のキッチンへと移動しており、取れたての旬の魚を使ったお料理コーナーが談話室に賑やかな声を届ける。

 

「ぉっ、キタキタッ♪ 綾波ちゃんばんわ~♪」

 

 陸奥の前で両手の人差し指でこめかみを左右から押さえて目を閉じ姉妹艦との通信を試みている漣がほうほうとかふむふむとか相槌を打ち。

 

「・・・ふむふむ・・・あ、そこ、もうちょいkwskプリーズ」

 

 そして、何かを納得した様に頷いてから目を開いた。

 

「やっぱ輸送艦船団の護衛だってー、さっきテレビに映ってた港は小笠原からの帰りにたまたま寄ってたらしいよ」

「深海棲艦との戦闘で船団の航路がずれて四国に着いたって、でもみんな大丈夫だったみたいで良かったぁ」

「それより破損した船を野見で直すからって! 艦娘だけ陸路で帰らせるとか、司令部の奴ら何考えてんのよっ!?」

 

 特型駆逐艦同士の通信ネットワークによって得た情報を黒潮や陸奥に教える為か四人の綾波型が口々に姦しくおしゃべりを始め。

 それのお陰で断片的ではあるが大体の事情を察した陽炎型と長門型の艦娘は顔を見合わせてから苦笑と共に軽く肩を竦めた。

 

「ウチも後で陽炎と不知火に通信してみよかな~、最近、話しとらんしな~」

「それもそうね、私も今夜は長門の愚痴に付き合う事にするわ」

 

 同時刻、舞鶴から遠く離れた東京湾の鎮守府のとある廊下で男性アイドル(職業・農家)から名前入りのサインを貰ったと言いながら壁に向かって朗らかに笑う駆逐艦娘の姿があったとか、なかったとか。




 
艦隊にいない姉妹に話しかける艦娘?
別に普通でしょ。


次回【艦これ、始まるよ。】

第四章 暴食

戦わなければ生き残れない。
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