艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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平和な海?

足下に何があるとも知らずに。
まったくおめでたい連中だこと。
 


第七十話

 2016年3月初旬、日本全体の情勢は官民ともに良くも無く悪くも無いと言う微妙な波線グラフの上で揺れるが如し。

 太平洋に面した沿岸を持つ国の中では深海棲艦の被害を受けていない稀な国であり、現在の世界で唯一、対深海棲艦を目的とした人型兵器、艦娘を運用している国でもあった。

 

「ちっ、戦闘中にちょっと島に近づいたからなんだってんだよっ!」

「大方、レ級の捜索で海域を実質封鎖していた事へのクレーム代わりだろうさ、表向きは調査哨戒任務として作戦を展開しているんだ」

「深海棲艦が今まで現れなかった海域だから大袈裟ってか? それがなんだってんだ、連れてきたのは俺らじゃねえんだぞ!」

「おいおい、義男、いい加減に落ち着けって・・・」

 

 そんな日本の排他的経済水域の海上に浮かぶ自衛隊に所属している護衛艦の上で苛立たし気に肩を怒らせる青年とそれを他人事の様な言い方で宥めている青年、艦娘を現場(戦場)で指揮する特務士官と言う自衛隊の組織の中でも特に特殊性が高い肩書を持つ中村義男と田中良介の二人は現在実行中の作戦内容の粗を二時間以上も突き回された後にやっと解放されたところだった。

 

「ともあれ・・・俺達や司令部が一度の戦闘で片が付くと考えていたのが裏目に出たわけか、あれから二週間探し回ってもレ級を発見できないとは」

「・・・逃げる深海棲艦、そう言えばゲーム版ではお目にかかった事なかったな」

「そんな敵が出てたらクソゲー確定になってただろうね、あっちでは戦闘続行の主導権はプレイヤー側にあったわけだし」

 

 気の抜けた顔でため息を吐く田中とやっと愚痴を吐くだけ吐いて落ち着いた中村、二人はかつて自分達が生きて死んだ別の現代日本を少し懐かしむ様に呟きを漏らし並んで気晴らしに出てきた海の見える通路に顔を出す。

 その視線の先には体長100mや200mが当たり前の化け物が蔓延っているとは思えない程に穏やかな波を揺らす青く広い空と海原が遠く水平線で色を合わせている。

 

「提督っ! 会議が終わったんですか?」

 

 そんな面倒な上司達の御小言から解放された二人の下に紺襟の白いワンピースセーラーと同系色の帽子を身に着けた少女、いや、少女というよりも童女や幼女と言うべき幼い存在がトテトテと短い手足を動かしながら田中達の前までやってきて一生懸命さが溢れる敬礼と共に笑顔を見せた。

 

「やぁ日振、ついさっき終わったよ、ところで君の方は今何をしているのかな?」

 

 その軍艦の上には場違い過ぎる女の子の登場に中村は面食らって目を見開き眉を上げ、その隣の田中は軽く中腰になって視線の高さを旧日本海軍で近海や沿岸部を守っていた艦船を原型に持つ艦娘へと合わせて返礼を返した。

 

「はいっ! 日振は皆さんの装備換装のお手伝いが終わって・・・あっ、提督、大東を見ませんでしたか? ここの近くにいるみたいなんですけど」

「いや、今の所は見ていないが、あの子がどうかしたのかい?」

 

 その問いかけに身振り手振りを加えてちょっと目を離した隙に妹がどこかで迷子になったらしいと田中に伝えてから身内の恥を晒した事に気付いて恥ずかしがるように両手を胸の前で握り、日振は顔を伏せて頬を赤らめる。

 

「それなら俺も手伝おうか?」

「い、いえっ! ちゃんと日振が見つけ出します! 提督の御手を煩わせることは致しません!」

 

 横で見ている中村は首が取れるのではないかと思うほど首を横に振る日振、そんな懸命さに満ちた童女の頭を白い帽子の上から田中は微笑ましそうな表情を浮かべ優しく撫でた。

 

「まぁ、流石の大東でも艦内でいたずらをする事は無いだろう?」

「いいえ、昨日、あの子は隠れて厨房の人にねだってつまみ食いをしてました! 油断してはいけません!」

 

 すると撫でられた日振の表情がパッと明るくなり満面の笑みを浮かべた海防艦娘は田中に向かって背筋を伸ばす。

 

「それではお二人とも、失礼しました!」

 

 そして、好奇心旺盛な上にヤンチャが過ぎる姉妹艦の捜索を再開する為に日振は小さな胸を張って苦笑する中村と微笑みを浮かべる田中にまた敬礼をしてから内へと入っていった。

 

「・・・え? 名簿で居るのは知ってたけどあの子、ホントにお前の艦隊メンバーなの?」

「何だその顔は、海防艦が俺の艦隊に居たら悪いのか?」

「いや、海防艦の子達って見た目がアウトって話で遠征どころか広報にも出せないって話だろ!?」

 

 ただでさえ女子学生にしか見えない駆逐艦娘達を指してメディアの一部は少年兵と同じモノなのではないかと人権団体などと一緒になって世間を騒がせており。

 小学生低学年どころか幼稚園児と間違われかねない幼い容姿を持つ艦娘が多い艦種、海防艦娘達は仮にも軍事組織である自衛隊に所属していると言う事を公表するには見た目に問題が多すぎる為、戦闘では艦橋での補助のみ、鎮守府では雑用などのお手伝いが主な仕事となっている。

 

「流石に戦闘部隊に連れて行くつもりは無いよ、ただあの子達は手先が器用で装備換装の手伝いが上手いのは義男も知ってるよな?」

「ああ・・・、なるほど、今回は明石が付いて来てないからか・・・輸送艦娘のコンテナで装備を縮めて運んで海防艦娘が現地で交換取り付けってか?」

「そう言う事、流石に海のど真ん中までカメラを持って来るアグレッシブなマスコミは日本にはいないからね」

 

 いつまでも上からの世間体を気にした注文に振り回されて人手不足に悩まされるのは誰だって勘弁願いたい事なのだ、と澄まし顔で田中が言えば少し驚いた顔で中村が友人の顔を見る。

 

「ほぉ~、それにしちゃ、随分懐かれてるみたいだ」

「意識して何かをやったつもりはないんだけどね」

 

 そんな気の無い返事を返す田中だが子育ての豆知識や子供とのコミュニケーションの取り方を纏めた幾つもの書籍が彼の実家の本棚に入っている事を中村は知っている。

 田中曰く大学の定年まで生きていた大人時代からいきなり赤ん坊まで戻された事で周りの幼い同年代の少年少女との円滑な関係を作る方法が分からなくなったので、その為の知識を得る目的で読んでいただけと本人は言っていた。

 だが小学校で出会った彼と数え切れない程のケンカと共闘を繰り返した中村は直接聞く事は無かったものの隣に居る青年が過去に失った何かを埋め合わせする為にそんな事をしているのだと察している。

 

「良介知ってるか? 艦娘相手でもセクハラは適用されるんだぜ?」

「知ってるに決まってるだろ、何をいきなり・・・ぁっ、言っておくけどな、俺はあの子達をやましい目で見てなどいないぞ!」

「ムキになるなよ、ロリコン疑惑が深まるだけだぞ~?」

 

 中村は前世と同じ親の下に産まれ、同じ生き方をしていたのは精々が中学生まででそこからは友となった田中に見下される様な情けない人間になるわけにはいかない、出来る事なら前より気分の良い生き方をしたい、可愛く優しい恋人も欲しいなどと次から次に湧き出る欲に突き動かされ。

 そんなふうにひたすら自分にとって都合の良い事を望んでいた筈の中村は気付けば遊び人のデブだった前世とは比べ物にならない程の努力と運を支払って(ここ)にいる。

 だから、その原因とも言える友人がもう戻れない前世での後悔に未だに悩んで湿っぽい顔をしていると隣に居る自分まで気分が悪くなるからこそ中村はワザと揶揄う言葉で田中を挑発して大袈裟かつ愉快そうに笑い飛ばしてきた。

 

「ふんっ、言われなくても、そうならない様に気を付けてるさ」

 

 普段からスカした態度なのに時々どこか自信が無さそうな友人に無駄なちょっかいをかけて彼にありがた迷惑なお節介を繰り返してきた中村は自分が言った揶揄いの言葉が軽く受け流された事に驚きに少し眉を持ち上げる。

 

「やっぱ・・・、お前ちょっと変わったな」

「ん? なにがだ?」

 

 中村が友人の変化に気付いたのは少し前の事、具体的には彼が小笠原に左遷される時に見送りに来ていた取り繕った様な(少し不安そうな)笑みを浮かべる田中と佐世保で行われた式典で再会してからの友人の姿に微妙な差を感じた時からだった。

 

「ちょっと前なら馬鹿みたいに慌てて墓穴掘るか、俺と吹雪がどうとかって屁理屈こねて誤魔化してただろ」

「・・・そうだったか? それにしてももう少し言い方があるだろ、お前なぁ・・・」

「んで、佐世保の式典でなんかあったのか? 演習のあと随分落ち込んでたからこれでも心配してたんだぞ」

 

 同じ艦娘の指揮官としてだけでなく同じ境遇(転生の経験)を持ち運命共同体(一蓮托生)とも言える関係となった友人である田中がたまにひどく辛気臭い顔をするのが気に入らないからこそちょっかいを掛けていたが、どうやらそれがもう必要ないらしいと分かった中村は苦笑して世間話の切っ掛けでも探す様にその言葉を投げる。

 

「それが次の日には何かすっきりしたって言うか吹っ切れた顔して、俺の心配を返せって感じだった」

「・・・お前には関係ない、余計なお世話だ」

「なんだつれねぇな、・・・別に良いけど、よっ!」

 

 ここは大人らしく友人の精神的な成長を祝ってやるか、と調子に乗った中村が田中の肩をバシンと音が鳴る程に強く無遠慮に叩き親友の顔をしかめっ面に変えた。

 

「いてっ、いきなり叩くなっ! ふざけるのも程々にしろ!」

「いぎっ!? 痛ってぇなっ!!」

 

 直後に反撃の張り手が全力で振り被られ中村の背中に命中し、田中からのお返しは軽いものだと予想して笑っていた青年が直後の倍返しによって短く悲鳴を上げる。

 

「いつもやられっぱなしと思うな! バカ! 考え無しめ!」

「くっそ、俺がバカならお前はアホだ! この前も他の連中に根回しして前衛を俺の艦隊に押しつけやがって!」

「戦略的に考えて正しい判断だ! 俺や木村君の艦隊はお前の部隊が勝手に走り回るのをフォローしてるんだぞ!?」

 

 客観的に見ればそんなふうに遊んでいる暇が無いと言うのに、海風が吹き込む護衛艦の外通路で艦娘の指揮官である二人の男達による小学生時代から全く進歩していない低レベルな喧嘩が勃発した。

 

・・・

 

 自衛隊に所属するはつゆき型護衛艦の一隻、深海棲艦が出現していなかったら既に退役艦として除籍されている予定だった船の少し広い船室で出撃待ちの艦娘達がそれぞれが戦いに向けてやるべき事に取り組んでいる。

 

「だからさ、寮の裏にあるお社ってしれーと時津風が一緒に作った偽物なんだよね~、中に入ってるのもご神体じゃないくて飛行機のプラモだし~」

「ええっ!? そ、そうだったんですか・・・」

 

 戦闘に備えるピリピリした空気の中、中村艦隊に所属している時津風と田中艦隊の雪風が緊張感とは無縁な内容の会話をしているのを耳にした陽炎は自分の妹である八番艦が度々、艦娘寮の裏にいつの間にか存在していた朱色の社のお賽銭箱にコインを入れている事を思い出す。

 仕掛け人である中村義男としては自分が艦娘達に流した噂(吐いた嘘)をあたかもホントであったかのように偽装し、その真偽を確かめに来た好奇心旺盛な艦娘が【瑞雲神社】と記された小さな祠の中にある明らかに霊験の欠片も無い飛行機の模型を見つけて騙されたと憤慨すればイタズラ成功とでも考えていたのだろう。

 その隠された社は中村が左遷される際に鎮守府に残る事になった軽巡那珂へと密かに掃除などの管理が任せられたのだが、その後に寮の裏、雑草だらけの広場は艦娘ダンス部の活動場として使われる事となり、彼女らの賑やかさ(喧しさ)のせいもあり広場と偽神社の存在はあっという間に艦娘達へと広まった。

 

(最近じゃ偽物って分かってるのにお参りしてる子もいるし、中に入っているのも瑞雲じゃなくて陸軍の隼だし、たまに日向さん達が祠の前で妙な集会開いたりしているし・・・)

 

 ふと陽炎は今年の元旦の朝に妹達に起こされて寮の裏にあるミニサッカーぐらいなら出来そうな雑草が刈られた広場の端っこ、いつの間にか朱色の鳥居が据えられ元は犬小屋サイズだった社が二倍ほど大きくなった瑞雲神社の前。

 垂れ下がった紅白の組み紐に繋がった鈴を揺らし、拍手を鳴らす初詣客(艦娘達)の列に並ばされて頬を引き攣らせた事を思い出す。

 艦娘に課せられた規則によって鎮守府の外に出れず、本当の神社に詣でる事が出来ないからと言って偽物で済ませるのは如何なものか。

 

 ただ、雪風に関しては彼女が深海棲艦の巣に閉じ込められる前に再会を約束したと言う仲間がまだ鎮守府に戻ってきていない事を思い無事に帰還して欲しいと悩んだ末の神頼みとして檜の箱(賽銭箱)に自分が演習や任務で得たコインを落としている事を知っている陽炎としてはいつかは知る事になるとしても、今言う事じゃないでしょう、と時津風に向かって呆れる。

 

「でも、あそこにお参りするととっても良い事あったりするよ~、時津風もお社作った日に提督と一緒に雪風に会えますようにってお願いしたらホントになったもん♪」

「わぁっ、ホントですかぁ! ありがとう、時津風ちゃん♪」

 

 それは果たしてフォローの内に入るのだろうか、ただ本人達はとても無邪気な笑顔で笑い合っている様子、わざわざ水を差す様な真似はやるべき事ではない事は確かだと陽炎型駆逐艦の長女は判断する。

 ちなみに神社に集められたコインは那珂とその仲間達が回収して艦娘酒保でお菓子の詰め合わせとなって談話室で会話や娯楽などを楽しむ多くの艦娘達の一時の憩いに一役買っているらしい。

 

「いえ、ですから次の出撃艦隊にもレ級との戦闘経験がある私がいるべきなんです」

「経験ったって一回だけじゃない、そんなの順番に割り込む理由にならないったら」

「それを判断するのは提督です、そちらこそ私の提言を止める理由が無いはずですよ」

 

 和気あいあいとした小動物系の妹達から視線を少し移動させると打って変わって朝潮型の中でも一二を争うキツイ性格の駆逐艦娘と陽炎にとっては13番目になる妹が少し険悪な空気を漂わせながらあーだこーだと舌戦を行っていた。

 今回の海戦で浜風が挙げた敵駆逐艦であるハ級とロ級の二隻を撃沈すると言う戦果は身内の贔屓目があるとは言え陽炎から見ても大型艦の足役、障壁削り、討ち漏らしの追撃などが主な仕事の駆逐艦としては十分すぎる成果と言える。

 ただ、今回の作戦において主要目標である戦艦レ級を自分のせいで取り逃したと思っているらしい浜風はなんとしてもその存在しない汚名を返上しようといきり立っているのか自分と交代で中村二佐の出撃艦隊に入った霞と飽きずに口論を続けていた。

 

(浜風ったら血の気が有り余ってる感じねぇ・・・まぁ、二佐達だって二週間も敵が見つからないなんて事になるとは思ってなかったっぽいし)

 

 戦闘後の艦娘は消耗した霊力を待機状態で回復させる事になるが、それはご飯を食べれば(補給が終われば)直ぐさま出撃可能と言うわけでは無く睡眠を含めた休息による時間経過で徐々に減った霊力は元に戻っていく。

 弾一つ無く撃ち尽くしスクリューを一回転させる事も出来ない程の完全なガス欠(霊力の欠乏)ともなれば駆逐艦でも軽く一週間程の疲労を回復させる時間を必要とする。

 それが重巡や戦艦、正規空母ともなれば霊力を使い切った時には一カ月以上も鎮守府で暇を持て余す事になるのだ。

 

 被弾による損傷があれば更に治療に時間が必要となるが陽炎が知る限り中村と言う司令官が艦娘を大破させると言う状況は滅多にない、過去に陽炎と不知火が巻き込まれた艦娘の能力に対する数々の勘違い(中村の調子の良い発言)はまだ艦娘の戦い方そのものが分かっていなかったからであってワザとではないが実際に大破によって痛い目にあった陽炎としては冗談ではない話である。

 それはともかくとして二週間前の戦闘でも彼の艦隊に所属する艦娘はかすり傷一つ無く戦果を挙げて拠点母艦であるこの船へと帰還した。

 

(・・・いや、確かにあの乱戦で一度も被弾せずってのは確かに凄いけどさぁ~、ホントあれってどうやってんのかしら)

 

 一昨年の八月、彼や吹雪達が史上初の限定海域攻略に成功したのを境にだろうか。

 まるで敵の弾が飛んでくる方向とタイミングが分かっているかの様な回避や敵の進路を一瞥しただけで先回りする方向を指示してみせるようになった中村の反応速度に陽炎は驚かされ、南の島から帰ってきてからの更に輪をかけて回避と攻撃の見極めが上手くなった彼に脱帽するほかなかった。

 

(もしかして私の所の司令も限定海域(修羅場)に放り込んだら強くなったりするのかな?)

 

 自分の指揮官である木村が熱心に読んでいたので陽炎も横から覗いて見る事にした中村艦隊の戦闘記録がまとめられた資料、そして、今回の作戦で直に自分の目で彼等の自殺行為じみた戦艦を含む敵艦隊への突撃から無傷の生還と言う異常を見せられた陽炎は彼の艦隊に所属しその指揮を直に受けた浜風がさらなる戦果を求めてやる気に満ちた声を上げるのも無理はないと考える。

 

(でも、もし田中二佐みたいな戦い方になったりしたら、ちょっと駆逐艦としては物足りないのよね~)

 

 中村義男の相方とも言える田中良介の方も限定海域の戦いを経験した後、ある意味おかしい事を平気でやる指揮官となってしまった。

 相手が持つ武装の威力と射程を知り尽くしているかの様に有利な位置取りを続け撃たせて取るとでも言うのか、敵の再装填や敗走など自分達の攻撃が最大の効果を発揮する有利なタイミングにはすぐさま反撃に転じ無駄弾なく仕留める効率重視な戦い方。

 戦いへのスタンスは真逆と言えるのに敵の攻撃には被弾せず最大の戦果を挙げると言う所は共通している件の二人を比べ。

 

 そして、陽炎は自分の指揮官は最高に面倒臭く真面目で堅物な青年なのだからそもそも考えるだけ無駄な事だと苦笑いして肩を竦めた。

 それに自分の指揮官にだってまだ伸びしろがあるのだから良い艦娘として陽炎自身が木村(上司)の面倒を見て強い司令官に育て盛り立てて行けば良いだけ、と結論して少し得意げに駆逐艦娘は微笑んだ。

 

『ぁ~、それにしても暇だわ~、不知火ぃ、あんた今何してんの~?』

 

 同じ艦隊の古鷹と祥鳳は司令部と意見交換する為の会議に出席している指揮官の付き人(出待ち)をしているし。

 朝潮は今回の任務から同僚となった軽巡艦娘の神通に誘われて何人かの仲間とともに船の近くの海上で軽いトレーニングをしていらしい。

 龍鳳はと言えば同艦隊の輸送艦娘達と一緒に海防艦娘である日振の手伝いとかなんとかで艦内を歩き回っている。

 

 なので木村艦隊の艦娘としては一人だけ待機室に居る陽炎は話し相手が居ない状態でぼんやりとするのもそろそろ飽きてきたのだが、かと言って雪風と時津風の間に割って入るのは気が引けるし、喧々諤々と出撃枠の取り合いをしている浜風と霞の会話に首を突っ込む気にもなれない。

 

『なんですかその気の抜けた声は、今が戦闘待機中だと言う事を忘れてるの?』

 

 そうして、軽く目を瞑った陽炎は頭の中で同じ船に居るはずだが姿が見えない妹への呼びかけを行い、すると数秒も経たずに若干辛辣な色を宿した(通信)が頭の斜め上の方向から返ってきた。

 

『だってしょうがないじゃない、出撃も無いし、もう二週間よ、二週間っ』

『・・・アナタが三日前の哨戒任務を嫌がってサボったと聞いているけれど?』

『作戦内容を誤魔化す為だけにやる形だけのパトロールなんて誰だってやりたくないでしょ、そもそも哨戒って言うならレ級が隠れた海域を重点に回るべきなのに上の連中がまた何か喚いて邪魔したらしいし・・・』

 

 悪びれない長女の言葉に深く深く肺の中身を全て吐き出したのではと思えるほど重いため息が離れた場所から陽炎の耳元へと伝わり、壁や天井を隔てた先に頭痛に耐えるしかめっ面を不知火がしているだろうと予想しながらもオレンジ色のツインテールが呑気に揺れる。

 

『でぇ、不知火は今何してんの~? 暇なら待機室まで戻ってきて私の話し相手やってよ~』

『・・・今の私は腕相撲の審判をしているからそちらに行くのは無理よ』

 

 妹に対する横暴な要求を行った姉は返ってきた意外な内容の返事に目を丸くして座っている椅子の背もたれから背中を剥がして少し前のめりに不知火が居る方向へと顔を向けて陽炎は首を傾げた。

 

「腕相撲? えっと・・・、そこって中部甲板よね? どう言う事?」

『ええ、正確にはヘリ格納庫の中だけれど、司令と田中中佐が次の戦闘で前衛艦隊をする権利を賭けて勝負をしているの』

 

 妹と繋がる通信の方向と距離から相手のいる大体の位置を確かめながらつい漏れてしまった声、集中しないと頭の中で考えた言葉が口から出てしまうのは姉妹間通信を行う艦娘にとっては良くある事で今の彼女は傍から見たら虚空へと話しかけている様にしか見えないが、それを気にせず陽炎は自分の耳に届いた不知火の言葉にますます困惑する。

 

「いや、腕相撲で決める事じゃないでしょ・・・何やってんのよ、その二人」

『軍士官が実力を競い合うのは昔から変わらないと言う事よ、こん棒や寸鉄が出て来ないのだから十分平和的だわ』

 

 そう言えば普段から規律を重んじ冷静沈着に見える態度を装っているその妹(不知火)が実は自分の姉妹の中でも一際荒事を好む気質の艦娘であると思い到り陽炎は小さく笑う。

 

『審判としては吹雪の様に彼へ肩入れするべきではないけれど・・・是非とも司令には一番槍の栄誉を勝ち取ってもらいたいものね、ふふふっ』

 

 大方、田中と中村はどちらが前衛として敵艦隊へとぶつかる為の主力(突撃兵)となるかの押し付け合いを行っているのだろうと陽炎には予想が出来たが、ヘリ格納庫で審判をしていると言う上機嫌な不知火には二人が戦働きの場を積極的に得る為に火花を散らしている様に見えてるらしい。

 

「ふ~ん、吹雪もそこに居んのね、・・・ところで不知火、その二人に一応確認してみて、その勝負って勝った方が前衛をやるの?ってさ」

『陽炎、何を言っているの、勝った方が誉れを得るのは当たり前の事でしょう? ・・・え? 司令、今何と?』

 

 どうやら向こうでも不知火の口から通信内容が飛び出たらしく彼女の指揮官となにかしらの会話の後に言葉にならない揺らぎ、私は今とっても困惑しています、としか表現出来そうに無い感情の波が離れた場所に居る妹艦娘から陽炎の脳内へと伝わってきた。

 

『なになに? しれー達が遊んでるの~? ズルいなぁ~』『萩,何か言ったか?』

『ぬいちゃんのしれぃが腕相撲をしてるんですか?』『へぇ,腕相撲ったぁ,粋だねぇ!』『嵐,襟,ごはん粒付いてるよ』

『場所は何処ですか!? 提督が奮戦されているなら私も応援に向かわねばなりません!!』

『んぁ,いまの大声,浜風?』『さっきのどこから?』『なんや声遠いなぁ』

 

 同じ通信を聞いたらしい陽炎型である時津風が雪風も不知火が居るであろう方向(天井)へと顔を向け二人揃って仲良くドングリ眼をパチクリと瞬かせ。

 

「一大事が起きました! この話はまた後にさせてもらいます!」

「はっ!? なに言って・・・」

「一大事と言いました! 失礼っ!」

 

 そして、不知火の困惑と浜風の大声を切っ掛けにして一気に陽炎型の通信網が幾つもの声で騒がしくなり。

 それと同時に陽炎が居る待機室で霞と議論を交わしていた浜風が唐突に立ち上がり会話を一方的に打ち切って颯爽と銀色を翻しながら待機室から駆け出していった。

 

「・・・あの子ったら! さっきから勝手な事ばっかり言って、その挙句になんなのよっ!? もぉっ!!」

 

 改めて周囲を見回せば慌ただしく走り去った浜風の姿に憤慨する霞だけでなく真横を駆け抜けた銀髪に高雄と時雨までもが暇つぶしでやっているらしい将棋の手を止めて驚いた顔を見合せている。

 静まり返った待機室とは対照的に脳内では自らの司令官の下に馳せ参じよう護衛艦の廊下を走る浜風の音にならない通信(叫び)やその声に反応した遠く離れた場所に居るであろう姉妹艦達の通信が延々と響き、辟易した陽炎は繋げていた通信を切って一息を吐く。

 

「やれやれ、とりあえず暇ではなくなったわね」

 

 さしあたって不肖の妹がやった不手際を顔なじみの駆逐艦へと謝らないといけないな、と陽炎は決心して椅子から立ち上がる事にした。

 




【甲板】
日振「さっきからぐるぐる船を回ってるみたい、もぉ、大東ったら本当にどこにいるの? この近くにいるはずだけど、こっちは海で、あれ・・・えぇっ!?」

【海上】
朝潮「船外周ランニング百回完了しました!」
神通「よろしい、各自クールダウンとストレッチをしっかり行い艦内へ帰投しなさい、・・・貴女もですよ、大東さん」
大東「あたい、まだみんなの半分も走れてない、っ、海防艦だからってなめんなってのっ・・・」ハァハァ
神通「・・・そうですか、なら私も」(*´ω`*)イイ,コンジョウ
那珂「ダメだよ、神通ちゃん☆ レッスンの後にちゃんと休むのも那珂ちゃん達のお仕事です♪」
神通「そうですか・・・」(´・ω・`)ザンネン
阿賀野「大東ちゃんも一度にできない事はしちゃ、メッだぞ☆ 訓練は日々の積み重ねなんだからっ♪」
大東「ぐぬぬ・・・しゃーねーな!」

【甲板】
日振「うぅっ、大東が訓練を頑張っていたなんてっ、それを知らずに私、姉妹艦を疑ってしまって・・・そんなっ」

その夜、大東は何故か日振から晩御飯のおかず(ミートボール)をいくつか貰いました。
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