艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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指定技能は【説得】です。

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第八十五話

 自分の行動が原因であるからこそせめて命でもってその責任を取ると言う陽炎の主張を突き放す様に否定する木村の言葉が大きく目を見開いた彼女の耳に響く。

 

「何よ、それ・・・、私があの時、司令の許可を取らずに不知火の手を振り払ったから・・・勝手に泥の塊に飲まれるのを選んだからこうなって」

「確かにその通りだ。 お前の独断と行動によって我々がここへ来る事になったのは間違いない」

 

 木村は安易な慰めなど無く言葉を濁さずはっきりと自分達の現状の原因と駆逐艦娘の言い分を認めながら、しかし、特に表情を変える事無く膝を突いて陽炎の体を覆ったアルミシートの皺を伸ばす。

 

「ならっ! ・・・くっ、痛うぅ

「この程度は我慢しろ、だが・・・作戦行動の是非の判断、責務を負うべきなのは指揮官である俺の役目である事も間違いない。 はっきり言う、今回の責任を取るなどと言う権限は俺の部下であるお前の、艦娘のものではない」

 

 仏頂面で怪我人から離れた木村の断言によって黙り込んでしまった陽炎を見下ろした彼は軽くため息を吐いて自分の分のアルミシートを手にとって先ほどと同じ様に畳まれたそれを広げていく。

 

「・・・じゃぁ、どうしろって言うのよ、こんな事になって、こんな場所に閉じ込められて・・・私のせいで、なのにこんな体で何も出来なくなって・・・このまま穀潰しになるぐらいなら、いっそ」

「潔く死ぬとでも言うか? なるほど、俺が思っていたよりもお前は前時代的な考えの持ち主だったようだな。 それとも旧軍精神と言う奴か? 実にくだらない」

「っ!? くだらないですって!?」

 

 怪我の痛みを忘れたかのように声を荒げ身を捩る陽炎とそれを横目に涼しい顔をしている木村の間にある険悪な雰囲気に止めに入ろうとした古鷹と龍鳳が無言で遮る様に手を突き出した神通によって押し止められた。

 そんな二人の様子に目を丸くしていた朝潮は戸惑う重巡と改装空母、無言ながら何かを確信している様な顔の軽巡を確認してから改めて木村と陽炎の様子を観察して小さくああと納得の呟きを零す。

 

「陽炎、お前が今所属している組織の名とその存在目的を言ってみろ」

 

 わざわざ敵愾心を煽る様な上目線の物言いなど今まで彼の指揮下で少なくない時間を過ごした朝潮にも初めての事で、その態度が座して死を待つなどと言い出すほど気落ちしている陽炎を木村はわざと怒らせようとしているのだと朝潮は察した。

 

「はぁ? 自衛隊がどうしたってのよ! 日本を守る軍隊でしょうが! だから、こんな場所で、戦えなくなった足手纏いの艦娘は・・・」

「違うな、お前のその認識は間違っている」

 

 出来の悪い生徒を見下ろす様な木村の視線と頭ごなしの否定によって重傷患者の顔に赤みが差して諦めに下がっていた目尻と眉が吊り上がり見るからに不機嫌になった陽炎が不貞腐れて口を尖らせる。

 

「俺達が所属している組織、自衛隊は自国防衛の為、日本国と日本国民を助け守る事を目的に結成された救助隊(・・・)だ」

 

 その掲げられた正式名称と理念は陽炎を含めたこの場にいる艦娘全員が基礎の座学で学んでいたが、同時に自国防衛と言う戦闘を目的とした任務に従事すると言う点において実質的な軍隊と見なされている実情、そして、なによりその国防の最前線で実際に戦っている艦娘本人にとってその文言が飾り以上の意味を持たない建前であると言うのは彼女達にとっての共通認識となっていた。

 

「それが、どうしたってのよ・・・どっちにしろ変わんないじゃない」

「我々が所属する自衛隊の基礎とも言える理念、それは確かに日本の独立と国民の平和を守る軍人としての役割も含まれているが、それ以上にありとあらゆる災害に困窮する人々を絶対に助け出す、その実行こそが我々の成さねばならない責務だ」

 

 それをまるで当然のルールとでも言う様に屁理屈としか思えない決まり事を至極真面目な顔で言い火が揺れるかまどを背に胡坐をかいて身動きの出来ない駆逐艦の横に座った木村の言動に陽炎は眉を顰め。

 

「その自衛隊である我々はどんなに困難な状況であっても自分の命を諦めてはならない、全自衛隊員は任務に対し自らの身命を惜しまず、その上で自分を含めた人命を全て災害の中から助け出さなければならないとされている」

 

 まるで別の誰かが言った言葉を借りる様に淀み無く語られた大袈裟なセリフはその硬い口調と相まって陽炎だけでなく古鷹達も横から言葉を挟むのを躊躇わせる。

 

「そして、今のお前はその自衛隊に所属していると同時に救助されるべき人命となった。 つまり、俺達もお前自身も駆逐艦娘陽炎の命を諦めてはならないと言う事になる」

 

 これ見よがしに青年の語る暴論とも言える理想に呆気にとられ口が半開きになった陽炎はその主張のあまりの馬鹿馬鹿しさにぶり返した頭痛で目眩までしてきた。

 古鷹と龍鳳を手で制していた神通ですら完全に予想外ですと言う様な困り顔を見せている程で指揮官の言葉を頑張って理解しようとしている朝潮に至っては「んん?」と疑問符を浮かべながら首の角度が真横になるほど悩んでいる。

 

「自責の念からの自己犠牲などもっての外、お前は自衛隊の一員として課せられた義務を果たさなければならない」

 

 これが自分達にとっての原理原則だと言い切る指揮官へどう返事を返せばいいかも分からない状態となった陽炎は助けを求める様に視線を他の仲間達へと向けるが。

 まさかそんな主張が木村の口から飛び出すとは思っていなかったらしい神通を含めた艦娘全員が彼の言う現実味の薄い精神論にただただ戸惑っており。

 

 そんな彼女達の反応など知った事かと一方的なルールの押し付けた木村は話は終わりだと軽く鼻を鳴らして見張りの順番をさっさと決め、まだ困惑から抜け切れず首を傾げている艦娘達へと言い渡した。

 

・・・

 

 岩場を照らしていた夕日の色が黒に変わり石が疎らに転がる広場を通る風鳴りと遠くでさざめく潮騒が妙に大きい。

 

(まったく掲げた理想通りに万事片付くなら始めっからこんな苦労はしてないでしょ、何言ってんだか・・・)

 

 自分が言い出した事が原因ではあるがそれ以上に場を白けさせた木村へと愛想笑いを浮かべる事しかできなかった古鷹達の気持ちを考えながらそのせいで味わった居心地の悪さへ頭の中に周りの地面に転がっている様な石が詰まっているらしい指揮官への愚痴を吐き捨てる。

 祈りの言葉や念仏を唱えれば全てを救える力が手に入るとでも言うならば自分だって幾らでも神頼みをしてるだろうと陽炎は侮蔑にも似た苛立ちを燻らせながら身体を蝕む痛みに顔を顰め目を閉じていた。

 

「ホント、もうちょっとマシな事言いなさいよ・・・普通に考えて切るべき部下を切れない指揮官なんてダメって言うか、馬っ鹿じゃないの?」

 

 怪我で見張りが出来ないのだから翌朝まで眠れと言われても重症で気を失っていたとは言え十数時間の睡眠後その上に飲み薬(鎮痛剤)で少しマシになったが全身の痛みは続いており、忍耐によって二、三時間は目を無理やりにつぶっていたが一向に眠りの安らぎは訪れず。

 寝返りも打てず薄い癖に保温性の高いアルミシートの中で肌に汗を滲ませた陽炎は風の音に紛れる程に掠れた悪態を夜闇へと吐き捨てた。

 

「お前に言われなくとも自分が馬鹿な事を言った事ぐらい分かっている」

「っ!? なによ司令・・・起きてんの?」

「静かにしろ、今は俺が見張りをしているからだ・・・」

 

 掠れた呟きに返事が返って来るとは思っていなかった陽炎は鈍く痛む身体に少し無理をさせて横寝になり木村が居るらしい方向へと顔を向ければ練炭の節約の為にわずかに火の粉を散らすかまどに揺れる小さな灯りで闇に浮かび上がる座る青年の輪郭が見える。

 

「はぁ・・・わかってるなら何であんな事言ったのよ、皆も呆れてたじゃない」

「お前が面倒な事を言い出したからに決まっている・・・部下に自分から死ぬなんて言い出されて良い気などするわけがない」

 

 火から少し離れた場所で寝息を立てている朝潮や龍鳳を横目にして声を潜めた陽炎が口を尖らせながら問えば彼女と同じ様に小さく不機嫌そうな声で木村が振り返る事無く返事を返す。

 

「私のは面倒な事でも正しい状況判断でしょ」

「なら、俺の方は自衛隊が設立してから肯定し実行し続けてきた理念だ、たかが個人の主張が敵うと思うな」

「うぁ、何それ、屁理屈にもほどがあるじゃない、おーぼーよ、おーぼー・・・あのねぇ、だからそれは私じゃなくて司令から言うべき事で・・・」

 

 そして、眠れない為に持て余した暇を潰す様に顔も合わせず小声で交わされる二人の会話は次第に相手の主張に対する愚痴が混じりつつもどこか軽い雰囲気へと変わっていく。

 ふと陽炎が明日の朝に自分を連れて行動すると言う方針への変更とそうする事で得られるメリットを口にするが木村は先ほどと同じ様に自衛隊設立の理念と言う規範を盾にして物静かにだが一蹴する。

 

「いい加減に死にたがり呼ばわりされたくなかったら無駄口を叩かずに命令に従え」

「もぉ、相変わらず偉そうにルールとか規則とか、・・・司令官っていっつもそう言うのに頼るのね」

 

 そんな彼の頑として譲らない石頭ぶりに処置無しとばかりに深くため息を吐いた陽炎は胡乱気な視線を木村の背中へと向けて普段から感じていた彼の性格へ当てつける様に呟いた。

 

「・・・頼る、か・・・やはり俺はお前達から見てもそう見えるのか?」

「ぁ、えっと・・・ん~、別に今のはバカにしたわけじゃないわよ? いくら私でも真面目な事が悪いなんて言わないし、朝潮や古鷹は司令のそう言う所気に入ってるみたいだし、何て言うか・・・」

 

 自衛隊に所属しているのだから死ぬことは許可されていないなんて出鱈目な理由を押し付ける相手へのちょっとした仕返しだったセリフに物静かな青年の声色が一段調子を落とし、陽炎は思っていたモノとは違う彼の反応に戸惑い少し言い過ぎたかと持ち前の人付き合いの良さからフォローの言葉を探して逡巡する。

 

「いや、実際にそうだ。俺は規則を守っているわけじゃない、頼っている・・・子供の頃から正しいと保証された決まり事に従って、それに自信を貰って生きてきたから融通が利かない石頭と言われるのも仕方ない話だな」

「どうしたの、司令?」

「元々、学校を卒業して自由な社会に出る事に怖気づいて自分から規則にしがみ付く為に自衛隊に入った俺だから今回の事も自分の判断が誰かの命を奪う事が怖くて仕方ないだけ、・・・陽炎の言う通り俺は自分より偉い誰かが決めた規則を言い訳にしているだけだ」

 

 耳に聞こえるのは普段の淡々とした調子では無くボソボソと微かに聞こえる程度の弱々しさすら感じる自嘲の声、目に見えるのはオレンジ色に揺れる僅かな灯りの前で縮こまる様に背を丸め胸の前で何かを握る姿。

 

「私、もしかしたら司令官が弱音吐くの初めて聞いたかも・・・」

「こんな状況なら誰だって弱音の一つも吐きたくもなる・・・なにより俺はルールに頼らなければ虚勢も張れない男だ」

 

 融通が利かないがその生真面目ぶりが頼り甲斐を感じていた指揮官が見せる先の見通せない夜の闇に怯える子供の様な態度と独白に陽炎は何度も目を瞬かせ自分の耳を疑う。

 

「それなら尚更、こんな場所で綺麗なだけの理想に頼ってたら本当に皆で死んじゃうわよ?」

「そうだな、そうかもしれない。 だけど俺はお前を置いてはいかない、自衛隊である俺達はどんな任務であっても死ぬ事を許可されていないからだ」

「また言ってる・・・でも明日、皆が登る山はすっごく高いんでしょ? おまけに脱出の手掛かりがあるかすら分からない・・・何もできないお荷物なんて抱えて登れないわ」

「それは・・・やってみなければ分からない、何から何まで分からない事ばかりだから・・・せめて綺麗事でも俺は自衛隊の義務とされている服務(ルール)だけは破りたくない」

 

 夕食後も、ついさっきも、木村との押し問答は同じ石の様に硬い(脆い)答えが返って来るだけだったが、自分に課された自衛官と言う肩書を支えにしながらも迷いに揺れる青年が漏らした白状を聞いた陽炎の中にある感情は少なくとも呆れや苛立ちでは無くなっていた。

 

「ならさ・・・指揮官として要らない艦娘を捨てても良いって決まりが有ったなら司令官はそれに従う?」

「今の自衛隊にそんな規則は存在しない、だからそれは考える必要もない事だな」

「ちょっとくらい悩みなさいよ・・・ホント、知ってたけど私の司令官って笑えるぐらいの石頭だわ・・・ははっ

 

 掠れた声が口元に合わせて弾んでいる事を感じながら陽炎はシワの寄った銀布の下で身体を丸めて小さく笑い、恨めしさが無くなった軽口を自分の指揮官の背中へと投げる。

 

「はぁぁ、もぉ、(陽炎)は何も出来ないどころか仲間の足を引っ張る艦娘になるなんて冗談じゃないってのにぃ」

「ならどうすれば冗談じゃなくなる、陽炎は・・・俺が何を言えば命令に従うんだ」

 

 正直に言えば目の前の司令官の普段の姿と思っていたモノが組織の威を借りた虚勢で本当の彼は自分の思っていたよりも弱い人間だった事に落胆を感じていないわけでは無い。

 

「そうね、私が・・・陽炎が艦隊に居る意味があるって言える何かが少しでもあれば、そう言う命令だったら、もちろん誰かが決めた規則があるって理由じゃなく、貴方自身が決めた命令なら・・・従うわ」

「つまり、今のお前の状態でも実行できる任務があるなら・・・従うと言う事か? どんなものでも?」

「うん、どんな他愛ないものでも百歩、ううん、千歩譲ってあげる。 でもさ実際問題、手足バッキバキの半死艦娘でも出来る事ってあるわけ?」

 

 少なくとも彼女の胸の奥で揺れる駆逐艦としての感情(霊核)は木村を自らの指揮官としておいて良いのか、ここで座し潔く散るべきなのではないか、と訴える様に疑問を騒めかせている。

 

(こんなにも私の中にいる陽炎の想いが聞こえる。でもさ、面倒な堅物でも私が面倒を見て良い司令官にしてやるってそう決めたのも私なのよ、ねぇ、それは貴方達も聞いてくれてたでしょ?)

 

 だが、今も陽炎の中で鼓動する駆逐艦娘としての感情(心臓)は自らが生きていると言う事を主張して目の前で迷い悩む自分の指揮官(・・・・・・)を生きて支えるべきだと心を揺らす様で。

 その感覚に肩の力を抜いた陽炎は自分が木村へ問いかけた足手纏いを連れて行くに足る理由、それへの答えがもし名前も知らない様な自衛隊の誰かが決めたルール(決まり事)に頼らずに指揮官自身が出した命令だったなら。

 

(今から彼が出す答えが白けちゃう様な硬くて脆い言葉じゃなかったら、司令官と私をもう少しだけ見守っていて頂戴)

 

 仮にそれがどこかの昼行灯な自衛官が鎮守府で吹き鳴らす法螺の様に言い訳やこじつけであったとしても陽炎は自分の胸でざわつく魂達に今は我慢して(見捨てないで)と言い聞かせる。

 

俺の言葉で・・・出来る事、今の陽炎にも出来る命令か・・・

「それで? あんまり長いと朝になっちゃうわよ?」

「・・・そうだな、なら、お前にはこれを渡す事にする」

 

 そして、数分だろうか、ぶつぶつと苦悩に揺れる呟きをかまどへくべていた指揮官は不意に立ち上がると寝ている陽炎の近くまで歩いて近付いて跪き銀色のシートの中から包帯だらけの駆逐艦娘の手を取り。

 その血の滲んだ包帯が巻かれた掌に自分の胸ポケットの中から取り出した小さな袋を握らせてその袋に付けられた飾り紐を少女の指に絡めた。

 

「これを無くさず鎮守府まで持って帰る事、それが俺の命令する陽炎が果たすべき任務だ。 だから・・・絶対に成功させろ」

「なにこれ・・・もしかしてお守り? ほつれだらけ、なんかすごく古いって事は分かるけど」

「俺が防衛大に入学する時に祖父から渡された物だが元々は曽祖父が生前に持っていた物らしい」

 

 その古びたお守り袋を頼りなく震える指で陽炎が握ったと同時に不思議とざわついていた彼女の胸の奥が静まり、同時に雑談であってもあまり自身のプライベートを口にしない不愛想な指揮官がたまに胸ポケットを握っていたのが験担ぎだった事を知った駆逐艦娘はその愉快さに微笑む。

 

「へ~、どおりで年季が入ってるわけね、もしかしてこれって木村家先祖代々の家宝だったりするの?」

「茶化すな、俺はそれの詳しい来歴など知らん、それで返事はどうした? 駆逐艦陽炎」

「ふふっ、貴方からの命令、確かに了解したわ・・・木村隆司令」

 

 了解の声と共に微笑む陽炎から苦虫を噛んだような顔で木村は中村先輩ならもう少し洒落た事を言えたのだろうか、などとブツブツ呟きながら小さな灯が揺れるかまどの前へと戻り、その背中をぼんやりと眺める駆逐艦娘は古びたお守りを握っているだけで身体の痛みが気にならなくなり徐々に微睡み穏やかな眠りに落ちていった。

 

・・・

 

 翌朝、まるで擦りガラス越しの日差しに見える妙な光の下に照らされた野営地、その真ん中では火の始末を行い崩された石造りの簡易かまどが僅かに燃え残った炭屑が煙をたなびかせる。

 

「あぅ、冷めてきましたね・・・それにしても、本当に沸騰させたら黒かった水が透明に戻っちゃいました」

「沸騰によってと言うよりは熱による水分子の振動で凝った深海棲艦の霊力がマナに分解されると言う原理らしいですね」

「それにしても腕を水に入れてお湯を沸かすなんて方法があるとは全く知りませんでした! 神通さん、勉強になります!」

 

 その方法自体は鎮守府で受けた霊力に関する基礎座学の時間で小難しい原理をノートに書き写していた記憶はあるが深海棲艦の霊力が溶け込んだ水と言うまともな方法ではお目にかかれない代物を前にした龍鳳と朝潮は慣れた様子で浄化作業を終えた神通の手際に感嘆の声を上げて目を丸くしていた。

 称賛の言葉に神通は頬を赤らめながらドラム缶の中身を熱する為に水の中で光弾を作った片手を拭いて乾かしてから川内型制服の長手袋に通す。

 

「時間があれば全部蒸留して塩を抜いておくべきですが、今は一刻でも早く脱出の手掛かりを見つけないといけませんよね」

「ドラム缶一杯にと言うわけじゃないけど当座をしのげる飲み水はちゃんと確保できてるから大丈夫だよ、神通」

 

 ペンキが剥がれ赤錆が表面に浮かぶドラム缶を覗き込んでいる龍鳳とその横で背伸びしている朝潮がその中で揺れる黒から透明になったぬるま湯を軽くかき混ぜて感嘆の声を上げる様子を見ながら少し憂いの表情を見せた神通に出発の為に荷物を纏めている古鷹が苦笑した。

 

「それで龍鳳、出来るのか?」

「あ、はい! 大丈夫です、これくらいの大きさの物ならケーブルで繋がなくても・・・」

 

 段ボールに詰められた荷物を黒い小波が寄せる瓦礫の中から拾ってきたで空のドラム缶へと詰め終えた指揮官が蓋を閉じて円形の金属バンドで閉じ、しょっぱいお湯を掻き混ぜて朝潮と和気あいあいしていた龍鳳へと声を掛ける。

 そして、昨日の陽炎が目覚めるまでの探索で手に入れた幾つかのドラム缶が彼らの前に並べられ桜色の小袖を揺らす改装空母がその内の一つへと触れて精神を集中させるように目を閉じ、数秒で龍鳳の手から溢れた霊力の光が金属の筒の表面を包み見る間に小さくなっていく。

 

「はい、提督、出来ました♪」

「何て言うか、龍鳳さんが居なかったら司令達それを自分で担いであの山に登るところだったのよね?」

「運ぶのは艦橋を使う事になっていただろうが、ぞっとしないな・・・龍鳳が居てくれて本当に助かる」

 

 フィルムケース程の大きさまで縮んだドラム缶を手の平に乗せた龍鳳が感心する指揮官とその足下に寝かされている陽炎の言葉に照れて少し恥ずかしそうに頭を掻きながら縮小させたドラム缶を胴を覆う黒い帯の上から密着させるとまるで磁石か吸盤の様に小さな鉄筒が彼女の身体にくっ付いた。

 そうして、出撃時に艦橋に持ち込まれた荷物や深海棲艦の毒気を抜いた海水などがそれぞれ入ったドラム缶が次々と小型化されて輸送艦娘の亜種である龍鳳(大鯨)へと搭載されていく。

 

「それじゃ、そろそろ出撃ですね、念の為に陽炎の身体の固定を確認してもいいですか?」

「ん、ああ、頼む・・・旗艦は朝潮で出撃する事になるが比較的なだらかな山の麓は急ぐ必要はない、速さよりも体力温存を優先として・・・」

 

 身軽かつ体力と霊力に余裕がある為、巨大化して山登りに挑む事になった朝潮と神通へと歩み寄り改めて行動方針を通達する木村を背に古鷹は地面に寝かされている銀色のシートと固定用ベルトでミノ虫の様に包まれ顔だけを出す陽炎の横にしゃがみ込み彼女の身体を保護するシートにすき間が無いかの確認を始め。

 

「思い止まって、我慢してくれてありがとう、陽炎」

「ま、一思いに楽にしてってのは今でも思ってるけどね」

「ダメでしょ、そんな事言っちゃ・・・だって」

 

 自衛隊の訓練仕込みの登山法などをレクチャーする木村の声と比べると小さく、二人の間だけ通じる程度の声で話しかけてきた重巡に駆逐艦は不自由な身体をもぞりと動かしておどける。

 

「陽炎は司令官の命令をちゃんとやり遂げないといけないんでしょ?」

「・・・え?」

「落としちゃダメだからね、それ」

 

 優しく微笑み古鷹はアルミシートの上から陽炎の利き手、昨晩に木村から手渡されたお守りに触れて撫でる。

 その意図を理解して驚きに目を見開いた少女へと金色の片目でウィンクした重巡艦娘は颯爽と立ち上がって登山ルートの相談を始めている指揮官達の方へと向かい。

 

「・・・あぁ、もしかしなくても昨日の聞かれてたの? 私、変な事言ってなかったわよね? でも、うぁ、なんか、ちょっと恥ずかしいくなってきたぁ・・・」

 

 起きてたならその時にそう言って頂戴よ、と危険と隣り合わせな上に余裕のない状況でありながらも穏やかな顔をしている古鷹へとうらめし気な蚊の鳴く様な声で陽炎は呻いた。

 

 




 
艦これwiki参照

大鯨はドラム缶を装備できない。

大鯨(・・)ドラム缶(・・・・)装備できない(・・・・・・)

プロット書いた時点ではウチの艦隊に大鯨が居なかったんや(言い訳)。
気付いた時にはもうキャストの変更出来ひん状態になっとってん(震え声)。
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