艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

86 / 153
 
色々な事が悪化の一途をたどるこの碌でもない世界で。


敢えて先に言っておくけれど、ただの添い寝(・・・・・・)です。
だから何もやましい事はない。

いいね?
 


第八十六話

 前の人生に関しては楽な方へ楽な方へと遊んでばかりとは言え前世を合わせれば60年以上の経験、酸いも甘いも人並み以上に味わってきたと思っていた。

 だが、こと最悪な気分と言うモノにはこれでお終いと言うどん底など無いのだと今更に教えられる事になるとは考えていなかった。

 

 黒山の上から見下す様に嗤う紅い炎を瞳に宿して砲塔が無数に生えた自らの胴回りよりも太く歪な腕を振り。

 多くの芸術家が目指す美しさの頂点とも言える女神の様に整った美貌であるのに俺達には腐臭を放つヘドロの堆積物であると思うほどの醜悪さを感じさせる姫級深海棲艦が突き上げる無数の大砲が数え切れない程の炎塊を空へと打ち上げた。

 

 直後、到底現実とは思えない無数の放物線を夜空に描く焼け爛れた隕石群によってこの世の地獄が作り出され。

 それに飲み込まれたと同時に感じた窒息で俺は閉じていた目を見開き、一人用のベッドを叩くように跳ね起きて動悸する胸に手を当て咳き込む。

 

 忙しなく汗塗れの顔を振って自分のいる場所を確認すればそこは僅かに揺れる狭い船室。

 悪夢に叩き起こされた俺は二日酔いの方がマシだと思えるほど酷い気分にまたベッドに倒れ込みそうになった。

 それでも怠い身体に鞭打って狭いベッドから起き上がり縁に腰掛けたが鉛の様に重い身体はそこで動きを止め気持ちの悪い汗ばんだ肌が煩わしく無性に爪を立てて掻きむしりたくなる。

 

 規則規則と五月蠅いが揶揄い甲斐のある真面目な後輩が死んだ。

 

 元部下であり気の良い友人でもあった艦娘がいなくなった。

 

 その言葉の意味を反芻すると無理矢理に誤魔化しで頭の中から追い出していた筈の事実がまた戻ってきて、何度も自分を騙す甘えた考えを壊す様に黒い泥に飲まれて見えなくなった駆逐艦娘の姿を繰り返し脳裏で再生する。

 

 黒山に座する悪魔が産声を上げる様に振るった炎と津波の地獄を俺や良介は何とかやり過ごせたがその後は尻尾を巻いて逃げる事しか出来ず。

 それでも這う這うの体で拠点艦へと逃げ帰り、すぐさま艦隊の予備メンバーを集めて巨大な浮島が去っていった海に駆け戻ったがそこにはもう木村艦隊がいたと言う痕跡どころか海面を覆っていた黒泥の一つすら残っていなかった。

 

 事実の再確認によって内側から下っ腹を蹴り上げられている様な錯覚がぶり返し、寝る前にも散々トイレへ中身を流し尽くした筈の胃がまたひっくり返り足りないのか吐き気が胸元にせり上がり、たまらず呻く。

 

「義男さん・・・」

 

 動きだす為の気力が湧かず負け犬の様な情けない呻りを漏らしていたらわずかな布ずれの音と共にペタリと俺の背中に柔らかな感触と温かさが密着する。

 そして、後ろから囁きかけてくる吐息は俺の心理を表現する様に暗い部屋で淀んだ空気を揺らす事無かったが耳の中へと絡み付く様に沁み込んできた。

 

 それを切っ掛けに後ろから抱きついてきた彼女へまた自分の中で煮詰まった昏い感情をブチ撒けてやれば楽になるぞ、そもそもここに忍び込んできたのは吹雪の方なのだからと獣じみた考えが安易な逃避の道(ストレス解消)へと俺を引っ張ろうと唆す。

 しかも質の悪い事に考えるだけで反吐が出るエゴに塗れたその行為を実際に俺がやったとしても彼女は拒絶などしないどころかむしろ自分から身も心も差し出してくるだろう。

 

「ダメだ、吹雪」

 

 ペタリペタリと俺と同じ様に汗ばんだ手が背中から胸元へと回されて情けを乞う様に肌の上を這うが、俺はなけなしの意地を振り絞りその少女の手を掴んで引き離して劣情を唆す倦怠感から身を捩って逃れカプセルホテル並みに狭いベッドから立ち上がった。

 

「・・・はい、司令官」

 

 肌が離れた後に背後から聞こえるのはどこか残念そうな色を感じつつも命令に素直に頷く女の子の声。

 正直に言えば俺自身もその心地よさは名残惜しいし本心ではこのまま何も考えずにここに閉じこもっていたい。

 だが、そうやって彼女の献身に甘えきってしまえばもう俺は自分の足で立って歩く事すら放棄してしまうだろう。

 

「木村達の仇討ってやらないとな・・・だから、手伝ってくれ」

「ええ、もちろんです」

 

 そこはドアを閉め切り窓も無く、明かりも点いておらず船底の倉庫の様に暗いが船と言う容量の限られた居住空間では珍しい艦娘の指揮官の為に用意された個室の一つ。

 

「私はいつだって司令官について行きますよ、だって私は貴方だけの艦娘なんですから・・・♪」

 

 振り向いた俺へと返事を返す吹雪のそれは人前や明るい場所で彼女が見せる素朴で可愛らしいものでは無く、普段は朗らかな顔立ちの裏側に隠している生の感情を剥き出しにした酷く歪な笑み。

 

 ある時期を境に吹雪が見せる様になった頑なな指揮官への献身(法螺吹き男への執着心)を湛え淀んだ瞳と薄ら笑いに艦娘の肉体は過去に存在したと言う慈悲深く敬虔な聖女(守護者)や未来への希望を掲げる戦乙女(先導者)など様々な神秘的な存在の因子を無数に組み合わせて作られていると言う話をふと思い出す。

 恐らくはその神秘の中の一つ、見初めた相手を手段を問わず堕落させようとする魔女(侵略者)としての性質を剥き出しにしてこちらを見上げている艦娘の黒髪を俺は少し荒い撫で方で揉みくちゃにしてやった。

 

「ひゃ、ひゃぁ、し、司令官~!?」

「顔洗って支度してこい、俺の準備が終わるまでに戻れたら、ご褒美やるぞ」

「えっ!? はい♪ 司令官待っててください、吹雪、行ってきますね!!」

 

 どんなご褒美を頭に思い描いたのかは分からないが正気に戻り慌てながらシワだらけの衣類を身に着けた少女は普段の様に髪を結う時間も惜しいとばかりにパタパタと足音を立てて薄暗い部屋の扉を押し開けて俺の個室から出て行った。

 とある一件から過去の鎮守府で受けたトラウマで歪められ作られた薄ら寒い欲求と感情を表す様になった吹雪だがその性格そのものは善良であるし、目先のエサに飛びついてしまう駆逐艦娘らしい子供っぽさのお陰で今の所は俺が主導権を握っていられる。

 少なくとも俺が「お前の指揮官を辞める(願いを裏切る)」などと言い出さない限りは吹雪との関係はこのまま彼女が艦娘としての力を失い人間となった後もずるずると、それこそ俺が死ぬまで続いていく事だろう。

 

「はぁ、いっそ吹雪と一緒にどっかに逃げちまうか? 兄貴か親父に土下座すればバイトぐらい紹介してくれるだろうし、なんて」

 

 日本国や国民を守りたいと言う想いはまだか細くとも残っているが自衛隊と言う組織に対しては既に信頼など無く見限っている、と去年過ごした硫黄島(左遷先)のある日の夜に吹雪本人から聞かされた言葉が皮肉にも吹雪の居場所を守る為の責任を強めて俺を組織に縛り付けている。

 

「ははっ・・・、この期に及んでそりゃ幾らなんでも恰好が付かないか」

 

 それに、今はせめて木村や陽炎達の仇を、あの信じられない程に美しくてどうしようもなく醜い化け物を撃破してやらなければ俺は自衛官とか指揮官とか以前に人間としてどうしようもない奴になってしまうじゃないか。

 

「ああダメだ、バカとかアホとか言われるのは慣れてるけど、後ろめたいのだけはホントにダメだ・・・俺は、お前らの家族や姉妹艦にどう言えば良いんだよ、・・・なぁ、木村、陽炎」

 

 きっとアイツらを助ける事が出来なかった事実を思い返す度にこの背中と腹を圧し潰そうとしてくる重苦しさと俺は一生付き合っていく事になるんだ、と考えるだけでこの忌々しい自衛隊から逃げ出したくて、でも逃げ出せない八方塞がりに泣きたくなってきた。

 

・・・

 

 新種の深海棲艦を追撃した際に発見した海底に隠されていた限定海域の浮上、その主である新たな姫級深海棲艦の出現。

 そして、連戦に次ぐ連戦の結果は多くの艦娘の疲弊と木村艦隊のMIAなどの大きな損失に対して作戦目標の逃走を許すと言う自分達にとって不本意な結果となった。

 

 だが、その不愉快かつ痛ましい事実は同時に自分達の指揮官にとっては計り知れない程に遺憾ではあるが、今後の彼にとって大きい実りをもたらす戦訓となった事も間違いないのだ、と高雄は憂いの表情とともに思い返して胸の内に独白する。

 

 敵の想像を絶する攻撃から何とか逃れて拠点である【護衛艦さわゆき】への帰還後、燃料と弾薬を使い果たした高雄は出撃部隊から抜けて待機する事になり。

 しかし、見るからに恐怖で震え目を血走らせた顔の中村はそれでも後輩である木村艦隊の捜索を諦めきれずに艦長達への報告を他に任せ、出撃していた高雄達と入れ替わりで自らの艦隊の待機組を引き連れて夜明けの海へと再出撃していった。

 

 指揮官が帰還するまでの間に司令部への報告のまとめを任された高雄は心身共に疲れ果てた同艦隊の仲間達や田中艦隊メンバーとの相談を行い自分達が立ち会った戦闘情報の整理をしていた高雄は何の成果も得られなかった数時間の捜索を終え今にも崩れ落ちそうな程に意気消沈した蒼白な顔で戻ってきた中村を迎える。

 

 その夜明けからさらに一日経った今も【さわゆき】に搭載されている哨戒ヘリが昨日の戦闘が行われていた海域の調査を行っているが禄な成果は得られないだろう。

 そうして取り急ぎ作戦司令本部との協議が必要であると要請が行われたのだがどう言うわけかその会議は予定よりも遅い時間まで待たされる事になった上に用意された会議室のモニターには本土にいる本部の将校だけでなく総理大臣を筆頭に国会や官僚のトップに座る者達の姿までもが並んでいた。

 

 昨日は半死人の様に青い顔をしていた中村が多少は調子を取り戻してブリーフィングルームに現れたのは予定時刻ぎりぎりだったが幸いと言うべきか余分に待たされた時間のお陰で何のお咎めも無く彼は急遽閣僚の参加が決まった会議の場に座っている。

 そして、始まった会議は口火を開いた内閣側の数人が今回の作戦で発生した不測の事態は実働部隊の拙さが原因だと声高に叱責する言葉のおかげで護衛艦側の空気はピリピリと肌に痛いものになっていく。

 

 他の艦娘との円滑な情報伝達と中村の補佐の為に会議室の端に田中の秘書艦である龍驤と一緒に並んでいた高雄はモニターの向こうで実際の戦場を知らず終わった後の情報を手に重箱の角を突っつく様な嫌みを口にする連中(政治家)への不愉快さを表に出さない様に無表情を張り付ける。

 

 あれがダメだった、これの対処法がマズかったのだと言うだけなら未だしも、出現した深海棲艦が発生させた攻撃の余波を突如発生した台風として隠蔽した際にかかった金と労力がどれだけの大きいモノになったかと言う話などは現場の人間にとっては知った事ではないのだ。

 その会議に参加している者達の態度は大きく分けて三種類、苛立ちを裏に隠しながらも叱責に耐える無表情、予定通りに作戦が終わらなかった事を責め立てる激昂、そして、何処か他人事と言う様な態度で椅子に座っている者となっており。

 その中で一番目立つ一分一秒の判断が生死を分ける深海棲艦との戦闘を知らないクセに理想論と規則を盾に防衛や財務と名の付く大臣の席に座る男達が喚く声を聞いているだけでウンザリとした気分になった高雄はやはり軟弱な口先だけの政治家がのさばれば国家を腐らせるのだと自分の頭に過った少々過激な気の迷い(思想)に同意しかけて額に手を当てて小さく溜め息を吐いた。

 

「で、結局のところ今作戦は続行されると言う事で問題ありませんか?」

 

 そうして小一時間ほど言われるがままの無駄な時間を無言で過ごし普段は隊員に長話をする立場である護衛艦さわゆきに務めている艦長ですらうんざりとした顔を見せ出した頃にやっと一方通行の叱責が止み、妙に静まった誰も口を開かない場で中村が大した気負いもなくその言葉を口にした。

 

『こちらの話を聞いていたのかね!? そもそも、・・・そう! 君は予定外の行動だけに飽き足らず許可されていた定員以上の艦娘を作戦に連れ出すと言う独断専行まで行っていた! それがどれだけの悪影響を周囲に与えたか、その責任をちゃんと分かっているのか!?』

「失礼ながらそれは現在の小官が考える事では無く、敢えて言うなら作戦の終了後に司令部で裁定されるべき事案であると愚考します」

 

 会議室の壁一面に設置された大画面の右側で先程からやたらと予算や経済への影響云々を気にしている何某かの省庁を束ねている中年男性が画面の向こうから唾が飛んできそうな程に勢い込んで大声を上げるがその標的にされた中村はそんな事は全く興味が無いとでも言う様に悪びれもせず似合わない慇懃な態度で喋る。

 

「そも現在の我々にとって、そして、この場で決定すべき最も重要な事項は今作戦の続行もしくは中止の是非であって日本経済や貴方方の支持率への影響などは一切合切無関係、私共の失敗を(あげつら)い鼻を折り話の主導権を取りたいのは良く分かりましたが、無駄な発言は止めていただきたい」

 

 たった一人の特務二佐(艦娘指揮官)が太々しくもはっきり言い切るとは、言い切られるとは思っていなかったらしいモニターを挟んで存在している会議室の面々がそれぞれの表情で視線を中村へと集中させる。

 そんな中で唯一、中村へと顔を向けなかったのはそのすぐ隣に座っていた田中だけであり彼は人前である事も気に止めずに机の上で組んだ腕の上に額を伏せて肺の中身を全て吐き出すような(いくらなんでも冗談だろ、と)諦観に満ちた深い溜息を床に向かって吐いていた。

 

『ま、まったく、なんて態度だ。 君は自分達が置かれた状況が分かっているのかね? 仮にも部下を指揮する立場でありながら信じられん事を言うものだな』

「自分達が置かれた状況が分かっていないですか、ならその言葉をそっくりそのままそちらにお返しします」

 

 現場の自衛官は教育がなっていないなどと嘲笑と共に見下す様な視線を向けてくる相手へと軽薄な笑いを浮かべた中村が肩を竦めながら減らず口を叩けば複数の舌打ちと若造がと吐き捨てるセリフがわずかにスピーカーから聞こえ。

 

「いい加減、埒が明かないので岳田総理にお聞きする事にします」

『・・・さて、何をかな?』

「先ほど言った通り今作戦の続行か中止かさっさと決めていただきたい、我々自衛隊は文民統制の下に管理される組織である以上、その長である貴方の決定無しでは勝手な行動を起こせない事になっていますので」

 

 その中村の言い様の直後に頭越しに総理大臣へ直接話しかけると言う暴挙に怒り道理を弁えろとの野次の様な声で会議は煩くなる。

 だが、血気盛んに騒いでいるのが一部であり過半数が妙に静かである事に気付いた高雄が改めて画面の向こうの政治家達と自分自身の指揮官の顔を見比べある事を確信する。

 どこか他人事の様な態度を崩さない様に見えていた岳田を含めた半数以上の官僚、本部の将校までもがその身体と表情を強張らせている事と自分を首に出来る権力を持った者達の叱責をどこ吹く風と言う様子で受け流す中村の瞳に浮かぶ激しい苛立ちに重巡艦娘の胸の内で言葉に出来ない期待がざわついた。

 

『それにはまず十分な協議が必要なのではないかね?』

「ええ、その相談があの超ド級の怪物が日本を火の海するまでに終わると言うなら、ですが、こちらが送った資料は既に総理の手元にある筈です」

『確かに、届いているね・・・一通り目は通したが』

 

 特に表情を浮かべておらず、無意味な指摘(叱責)も行わず、ただそこに居た総理大臣が自身の近くに置かれた簡易綴じの書類を一瞥した時にその目に浮かんだ恐怖の色を現代人よりも遥かに優れた視力の持ち主である高雄や龍驤達は目敏く察する。

 

「それを読んだ上でこんなクソ無駄な会議で我々の貴重な時間を浪費させてくれてるって言うならもう一度言ってやる、あんた達は自分達の置かれている状況が分かってないのか? となっ!」

 

 語調を強め彼の素が表に出た無礼極まる言動の中村に画面の向こうの官僚達は揃って不愉快そうに顔を顰め、護衛艦側に居る自衛官達はその言動のあまりの乱暴な率直さに呻いて天井を仰ぐ。

 

『君はいくら何でも我わ、総理に対して失礼ではないかっ!』

「現在、今作戦の撃破目標であった戦艦レ級の変異体、仮称南方棲戦姫は日本南東の海上を出現した地点から弧を描く様に日本本土へと針路をとっている、それは何故か? 深海棲艦だろうと構わず食うアイツは自分のすぐ近くに大量のご馳走が乗った皿があると気付いているからに他ならない!!」

 

 枕詞にあくまでも予想でしかないがと付くものの一時的には外洋に針路を誘導されていた食い意地の張った姫級が近くに通りかかった深海棲艦を泥の触手で捕らえ食い散らかしながら日本本州に向かって針路と速度を変え始めている情報はその怪物から慎重すぎる程の距離をとって追跡している護衛艦さわゆきに集まった情報から容易に予想できるものでもあった。

 それが確定情報ではないとはおくびにも出さず決定事項と断定し備品のパイプ椅子の背もたれを軋ませた中村が睨み上げる様な三白眼を向けると画面の向こう側に居る彼の無礼な態度への指摘を丸ごと無視された日本の自然環境をやたら気にする役職が気圧された様に仰け反る。

 

「未成熟な状態で殻が割れた為かまだあの南方棲戦姫は身体が完成していない、お陰で少しの時間はありますがそれはたった四日、遅くとも四日後にはその射程に本州の都市部が入る事になる・・・そして、深海棲艦にとって領海侵犯など今更の事、それこそ人間の法律なんて連中にとっては知った事じゃない」

 

 このまま何もせず時間を無駄遣いすれば四日後にはそちら方が世間に公表している突発的な台風(怪物)がもたらす被害で巨大な焼野原が日本に作られる事になるぞ、とギラギラと剣呑な視線を宿しながらも軽薄な笑みを浮かべる中村は画面越しで立派な椅子に深く腰掛けている老年の総理大臣を睨む。

 

『・・・いやはや、法律が無意味と言われてしまっては執政者である我々の立つ瀬がないね』

「だからこそ、総理にしかできない事をやっていただきたいと言っています」

『情報公開して避難誘導でもしろと言うのかい? 流石に一般人に向けてアレの存在を知らせるのは愚策だと思うよ』

 

 法が無意味と言った口で直後に言葉を翻す青年の様子に上品に磨き上げられた机の上に両肘をついて手を組んだ岳田が訝しむ様に眉を顰めながら続きを促す様に小さく頷いて見せた。

 

「いえ・・・岳田総理には国防特務優先執行法の、貴方が取り決めた艦娘と鎮守府の正当性を保証するこの法律の正常な形での遂行を我々に命じてもらいたいのです」

『法律の・・・正常な形の遂行?』

 

 白々しい笑みを引っ込め神妙な顔へと改め丁寧にまるで一言一言を噛みしめる様に艦娘の一指揮官である青年が国家行政の長へとそれを要請する。

 

「今現在、紛れも無く存在する国家が相対した重大な危機を排除する為、国民の生命と財産と守る為に全力を揮う事への承認を・・・」

 

 気付けば周りは静まり返り先ほどまでいきり立ち野次を飛ばしていた官僚ですら黙り込んで一人の若造が行っている越権とも言うべき要求へと耳を傾けていた。

 不思議と息を止めてしまう程に惹かれる何かを自分の指揮官へと向けて高雄は知らず知らずに胸元のスカーフタイを握り込み、中村が何を言おうとしているのかその意図に気付いた興奮でどうにかなりそうな程に高鳴る心臓を握り込んだ手で押さえる。

 

「総理大臣であるアンタが俺達に全力で日本を守れと命令しろ! 指揮官の人数、艦娘の艦種の制限なんて無い! つまり、連合艦隊規模での出撃の承認を寄越せって言ってんですよ!」

 

 叫んだと言うわけではなく部屋に響くほど大きい声ではない、しかし、部下の見本となるべき指揮官と言う立場と言うにはあまりにも乱暴で無礼な言葉遣いでぶつけられた言葉に画面の向こうの岳田はしばし迷う様に視線をさ迷わせ。

 ブレる事無く画面越しに自分を睨み付けてくる傍若無人な青年へと視線を合わせた日本国会の一番上に座っている初老はおどける様に肩を竦めてから机に突いていた肘を退けて司令本部の重い椅子から立ち上がった。

 

『直ぐに鎮守府へ承認の手続きを行うと約束しよう、急がないと通常国会や予算委員会の予定どころじゃなくなるわけだ』

『そ、総理!?』

 

 総理大臣の言葉で騒然となって口々に思い止まる様に言う閣僚や上級将校に囲まれながら大儀そうに苦笑を浮かべて中村の要求を呑む事を認めた岳田が自分の背後に控えている補佐官へと視線を向けて短く指示を行うとノンフレームの眼鏡をかけた折り目正しいスーツ姿の美男子が澄まし顔で頷き音も無く出口へ向かい本土側の会議室から姿を消す。

 

『今は状況が状況だから君の言葉を認めよう、だが目上の人間に対する敬意と口の利き方は考えた方が良い、そして、この作戦の結果如何によっては・・・分かっているね?』

「南方棲戦姫に消し飛ばされていなければ俺の首に縄をかけて国会だろう法廷だろうと好きな所に引っ立てれば良いでしょう、総理大臣はそういう権力を持っている事ぐらい知っています」

『いやいや、総理大臣の席なんて君が思うほど便利なモノじゃないよ、精々が生意気な若造に嫌味を言う程度のもんさ』

 

 ワザとらしく朗らかな笑みを浮かべる岳田と苛立ちを抑え込み表情を引き締めた中村の視線がぶつかり、二人の短い言葉のやり取りの後に本土と繋がっていたテレビ電話の回線が終了する。

 

 会議が予想外の展開を起こしたために護衛艦の士官達が慌てる騒がしさに包まれた会議室の中で高雄はパイプ椅子から立ち上がる事もせず長机に向かって顔を伏せ。

 考える事は友誼を結んだ戦友を仲間を失うと言う事の意味、その事実を認めるには辛く心を苛むだろう、そして、彼にとってとてもとても筆舌に尽くし難い痛ましい出来事であるのは間違いない。

 

(にも拘わらずこんな事を思ってしまうのはあまりにも不謹慎・・・それが分かっているのに私は・・・)

 

 今回の犠牲は自分の提督(・・・・・)がさらに上へと成長する為には必要不可欠な通過儀礼だったのだと、どうしようもなく高鳴る胸を抱きしめながら一人の重巡洋艦娘が必死に表情を強張らせて自らの内側から溢れ口角を吊り上げようとする激しい喜悦をこらえていた。

 




艦娘の隠しバロメーターが偏って高くなり過ぎた場合。

聖女度
 お艦化して自分に指揮官を依存させようとする。
戦乙女度
 御館様司令官様ぁ!!しながら延々と付き纏う。
魔女度
 「絶対に逃がさないからぁ♪」(ハイライトオフ)
幻獣度
 ポ犬!! 以下、説明不要!!

艦娘の身体に使われている幻想種の因子はこの四つだけでは無いが体質や性格などへ表面化するのは上記のみ。
・・・多分。

つまり、碌な事にならないからステータスはバランスよく上げようって事、なのです。
何事も万能型が一番(なおネトゲのステ振りは除く)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。