艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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所詮は夢は夢でしかない。

それとも、されど夢と言うべきか?
 


第八十七話

 護衛艦さわゆきが波を割る海鳴りがわずかに聞こえてくる艦娘部隊の待機所、では無く俺はそこと壁を挟んだ廊下側に背を凭れかけさせ横で殺気立った顔をしている親友へと声をかける。

 

「寿命が縮んだ、間違いなく二、三年は短くなったぞ、・・・あんな事言って本当に正気かお前は?」

「うるせぇ・・・」

 

 自衛隊上層部だけでなく内閣官僚をそっちのけにして総理大臣への直談判で望む要求を引っ張り出した義男は張り付けていた会議中に浮かべていた軽薄な笑みを今は完全に剥いで人殺しでも始めそうなほど荒んだ顔で俺の文句を煩わし気に払い退けた。

 今は誰とも話をしたくないと言う意思を態度で示し鎮守府の司令部から作戦続行と増援艦娘の承認が来るまでの間だけ部下や同僚の視線から逃げる様にやってきた廊下に立っているだけあって義男の反応は物凄く芳しくない。

 

「はぁ・・・確かにこっちの状況とあちらの認識が食い違っていた以上は現場の誰かが言わなきゃならない事だったかもしれないけど、なぁ?」

「なんだよ」

「虫の居所が悪かったからって岳田内閣に喧嘩を売る様なマネはしてくれるなよ、あんな人達でも俺達の後ろ盾をやってるんだからな」

 

 会議が始まる前に艦長達との打ち合わせでは取り敢えず司令本部からの有難いお言葉(喧しい小言)を受け流しつつお世辞を混ぜ遠回りしつつも作戦の続行の許可と増援の要請を行うはずだったのだが、予想外の飛び入り(岳田内閣)のお陰でその目論見が崩れ対処に悩んでいた時に義男が暴走じみた言動をぶちかまし。

 結果的には無駄な時間を省けた上に俺や艦長の予想よりも良い条件を引き出せたとは言え先程の会議で義男がやらかした事は場合によっては即座に指揮官として不適格とされて営倉での謹慎か、悪ければ自衛官としての資質まで疑われて士官としての資格を奪われかねない事だった。

 

「んな事、俺が知るか」

 

 いつもなら言ったセリフに対して倍以上の軽口が返ってくるのに今に限って言えば義男よりも俺の方が多く喋っている。

 だがそれはコイツを励ます為にと言うよりは話しかけ続けていないと目の前の男が黙ったまま次に何をやらかすか分からない不安からとさわゆきの艦長達からその馬鹿がこれ以上暴れない様に見張っていてくれと頼まれているからだった。

 

 義男と俺はなんだかんだ今の人生では小学校の頃からの付き合いで最も多く笑い合った友人であり一番多く喧嘩したライバルでもある。

 その最も良く知っている相手だったはずなのに今の義男は長い付き合いの中で一度も見せた事が無いほど険しい顔で親の仇を見る様な視線を廊下の壁に向けていた。

 

 それだけ木村艦隊のMIA(全滅)は俺が考えている以上に義男にとって衝撃だったのだろう。

 

 俺達が鎮守府で艦娘達の指揮官となってから半年ほど後に着任した後輩士官、木村隆に関しては正直に言えば規則に忠実で真面目過ぎる気質であるがこちらとしては手が掛からない優等生と言うのが彼に対して俺が感じていた印象であり。

 防衛大の頃でも俺と木村君は寮の同部屋になった事が無く良くも悪くも義男の巻き添えを食って振り回されている年下と言った程度の認識で自衛隊士官候補生の上級生として行った生活態度への粗探し染みた指導も彼の几帳面な性格による為か数える程しかなく。

 顔を合わせれば会釈と挨拶を交わす事はあれどある意味では自分と同じく義男の被害者であった木村君と俺は不思議と接点と言える接点はほとんど無かった。

 

 それが無かったからこそ俺は今の義男程の苛立ち、いや、自身の不甲斐なさから来る後悔と苦悩を感じずにいられている。

 そして、そんな自分にとって一番の友人が苦しみを感じていると言うのにそれを他人事として扱ってしまえる自らの現金さへの嫌悪感に溜息を吐きたくなった。

 

「で、どうするんだ?」

「・・・何をだよ」

「今回ばかりはちゃんと作戦を立てないと勝てる相手じゃない、いざ戦闘開始って時に全艦隊旗艦を戦艦にして突撃なんて言い出されたら困る、もちろんお前の艦隊だけ暴走して突撃するなんてのも論外だ」

 

 6人以上の艦娘と共に出撃が出来る指揮官は今の所は俺と義男だけだがこのさわゆきに乗艦している他二名の支援艦隊の指揮官は四人ずつの編成を可能にしている。

 司令部が初めに判断した少数の艦を率いている新種の敵艦を撃破するだけだったなら確かに俺と義男、そして、木村君を含めた三人の後方支援艦隊の艦娘達だけでも十分すぎる戦力のはずだった。

 戦艦レ級の進化と言うイレギュラーの発生によってそれだけの戦力では足りない事態となったからこその司令本部と内閣からの評価を著しく下げながらも勝ち取った最大戦力の投入の許可は無駄遣いしていい類のモノではないのは隣の馬鹿野郎だって分かっているだろう。

 

「言っておくが流石に敵を騙すにはまず味方からって言うのは無しだぞ」

「分かってるんだよ、そんな事ぐらい・・・いくら南方棲戦姫と言っても戦艦で総攻撃すれば装甲値を圧倒出来るはずだ」

「あのなぁ・・・装甲値ってお前、公式発表の数値ほど信用できないモノは無いって有名な話だろ。 あれは南方棲姫じゃない、南方棲戦姫の方だ、お前それを本当に分かってるのか?」

 

 ぼやかした言い方だが案の定、周囲の理解を置き去りにする前世の情報を頼りにしようとしていた義男は俺の指摘に顔を強く顰め自分の軍帽を取って乱暴に髪を掻き混ぜながら結局のところは運用可能な大型艦娘を海に並べて長距離からの大砲撃を行う物量作戦ぐらいしか思いついていないと白状した。

 そして、隣から唸る様な呻き声が聞こえ横目に義男の顔を窺えばそこには先程の様な憤りでは無く自分の不甲斐なさに苦悶する弱弱しい友人の表情があり。

 今にもその場に座り込んで泣き始めそうな頼り無い雰囲気を纏った男の姿に感じたやるせなさに溜め息を吐いて天井を見上げる。

 

「あの、司令・・・」

 

 そんな気まずい空気に控えめな声だが割り込んできたのは半数の陽炎型艦娘が使っている灰色ベストの制服を揺らす駆逐艦娘、不知火がその手に焦げて破れた手袋を握りながら俺達のいる廊下に立っていた。

 常に冷静沈着を心がけ普段から鉄面皮な彼女には珍しく驚きと迷いが揺れる表情を俺の隣に居る義男へと向けていたがよりにもよって横の馬鹿は壁に向けていた剣呑な視線で威嚇する様に自分の部下であるはずの艦娘を睨みつける。

 

「司令・・・今、戦艦による総攻撃と・・・」

「お前は負傷した金剛達と一緒に鎮守府に帰還する事になってるはずだ、迎えが来るまで大人しくヘリポートで待機してろ」

「待ってくださいっ、不知火は司令に・・・お話しなければならない事がっ」

 

 不慮の事故とも言える状況で姉妹艦を亡くし今も苦悩しているだろう少女に掛ける言葉とは思えない程に刺々しい義男の口調は俺でも固唾を飲む程だったが不知火はその言葉に狼狽えながらも声を上げ。

 

「俺にはお前と話す事はない、それともわざわざ殴られに来たって言うか? ならそんなところに突っ立ってないでこっちにこいよ、望み通り修正してやる」

「・・・おい、義」

 

 まるで八つ当たりをする子供の様な物言いで嗜虐的に表情を歪ませ凄む義男の姿に俺はそんな事を許せばコイツが引き返せないラインを踏み越えてしまうのではと予感して不知火との間に割り込もうと一歩踏み出そうとした。

 のだが、それよりも早く待機所のドアを押し開けてその中から現れた小さな影が義男へと駆け寄ってきた。

 

「しれぇ! そんな意地悪な事言っちゃダメッ! へやぁっ!」

「ほぁっ!? こっはっぁ・・・」

 

 特長的な煙突型の帽子を乗せ髪が毛先に向かって黒から白へとグラデーションする陽炎型の十番艦娘が細い肩をいっぱいに怒らせてジャブの様に繰り出した拳で不知火に向かって一触即発の態度を見せていた義男の脇腹を突いて悶絶させる。

 

「時津風っ! お前いきなり何すんだよ!?」

「ぬいぬいの話聞いてあげて! お願い!」

「おま、それお願いって態度じゃねぇだろ・・・」

 

 姉を背に庇いながら胸元のオレンジスカーフを揺らすワンピースセーラーの少女は両手を腰に当てて突然の事で怯み少しだけ毒気が抜けた義男を見上げ。

 

「はぁ、なんだって言うんだ」

 

 そんな時津風の行動に困惑する義男がこちらに助けを求める様な視線を投げてきたが俺としては身内の不和をそのままにしておく方が問題であるのだからと何も言わずに肩を竦めてから返事代わりに小さく鼻を鳴らしておいた。

 

「良介まで、ホントなんなんだよ、ったく・・・不知火らしくないな妹に助けを頼むなんてよ」

「ぬいぬいは助けてなんて言ってないよ、ただ朝起きてからずっとしれーにお話ししないといけない事があるってブツブツうっさい感じだったから時津風はさっさと話ししちゃえば良いじゃんって思ってた!」

「と、時津風なんて事を・・・その、中村司令、妹が無礼を・・・」

 

 オロオロと戸惑う不知火を背にニカっと笑う時津風の見事なほどに歯に衣着せぬ物言いに義男の顔がウンザリとしながらも普段見せる気の抜けた表情に戻り。

 そんな親友の様子を見ていた俺は不意に視線を感じてそちらへ顔を向けると待機所の入り口から栗毛色と銀色の髪が顔半分だけ覗かせてこちらの様子を窺っている。

 先ほどの時津風の言葉から考えるに彼女の姉妹艦である雪風と浜風も何かしらの姉妹同士の通信網に不知火が漏らした悩みかメッセージを受け取っていたのだろう。

 

「はぁぁ・・・分かった、分かったからさっさと話す事話してヘリポートんとこ行けよ、お前は身体は何ともなくとも艤装全損した大破状態なんだから直ぐにでも入渠しなきゃなんねぇんだぞ」

「はっ、司令、お時間を取らせてしまい申し訳ありません・・・」

 

 そして、上官へと敬礼しながら意を決した様に口を開いた不知火が真摯さが滲み出る態度で言い出したその内容は義男だけでなく俺すらも困惑させる事になった。

 

「中村司令・・・今も陽炎が、木村艦隊が全員生存している可能性があります」

 

 要するに彼女が語った事とは黒い壁と海に囲まれ数千mの巨大な山がそびえ立つ広大な閉鎖空間に閉じ込められた木村艦隊のメンバーの姿。

 艦橋に持ち込んだ限られた物資や路傍の石をつかった竈を囲み木村君達五人が夜を明かし、脱出の活路を求めて頂上が霞むほど高い山に挑もうとしている彼と彼女達を瀕死の陽炎の視点から覗き見たのだと不知火は徐々に不安げな表情へと変わりながらも義男に向けてそれを伝える。

 

「こんな事を言っても先ほど言われていた司令達の作戦の妨げになるのは不知火も承知しています・・・ですが陽炎達は限定海域内に閉じ込められて、でも生きている筈なんです」

 

 付け加えるならばその表情が示す通りに彼女自身も自分が伝えたその内容に自信が持てないのだろう。

 

「・・・時津風、あぁ、それと浜風、雪風」

 

 現代科学ではいまだに解明出来ていない不思議な能力を多く備えた艦娘に遠くに存在している姉妹の安否を知る事が出来る能力がある事は分かっているが昨日今日の事とは言え現在までに集められた客観的な情報から鑑みても不知火の言う夢で見たと言う話の内容に対する信憑性は無いも同然だった。

 

「お前らも不知火が言う様な夢、見たのか?」

 

 それは義男も分かっているからこそ念の為の確認として目の前に立つ時津風と待機所の入り口から俺達の様子を窺っている陽炎型の二人へと声を掛け、そして、その返事として駆逐艦達は三人とも首を横に振る。

 艦娘達の間では研究室が付けた【霊力粒子の伝導線化現象による精神交感なんたらかんたら】とか言う俺すらうろ覚えになる長ったらしい正式名称では無く【精神の混線】と呼ばれるようになった艦娘同士のテレパシー能力は強弱の差はあれど彼女達が言うには同型艦の通信網に一言でも言葉が走ればまず気付かないと言う事はないらしい。

 時津風達が少し気まずそうにしながらも否定したと言う事はつまり不知火が見たと言う夢が精神の混線によるモノではなく彼女個人の願望か記憶の混乱によるモノである事の証明であった。

 

「はぁ・・・お前だって陽炎が居なくなってショックなのは分かる、俺も大人げないマネをしたのは悪かったが今はその夢や妄想を聞いてやれる余裕はないんだ、分かってくれよ」

 

 特に仲が良かった姉を亡くした不知火の懸命な様子にやるせなさで肩を落とした義男が語気を強めない様に言葉を選びながら諭して陽炎の残した手袋を握りながら首を小さく横に振り震える少女の肩を励ます様に軽く叩く。

 その弱音にも聞こえる義男の言葉にコイツがさっき不知火に向けた威嚇が彼女達にとっての長女である陽炎をを助けられなかった事への後ろめたさから出た拒絶だったのだろうと俺は少し遅れて気付いた。

 

「あ~、すまん、浜風、不知火に付き添ってヘリポートまで連れて行ってやってくれないか」

「了解しました、提督」

「司令っ! 不知火は嘘など吐いていません、本当なんですっ!」

 

 なおも言い募ろうとする桃髪の駆逐艦娘へと義男の指示に了解を返した銀髪の妹が歩み寄りその肩を抱く様にして震える不知火の背を押して歩かせようとする。

 

「死の覚悟までした陽炎が生きる事を望んだんです! 満身創痍でも指揮官から受けた命令を果たす事を決めて!」

 

 浜風に抵抗する様に立ち止まり不知火が声を大きくするがそれは義男と違い当事者でない俺ですら聞いているだけで痛々しく切なさを感じさせる。

 昨日の戦闘後の海域は無理を押して再出撃した義男やつい先ほど帰ってきた哨戒ヘリによって木村艦隊が海上に存在している痕跡はないと結論が出され、俺と金剛が切断し損ねた陽炎達を取り込んだグロテスクな泥塊の行方は十中八九、その根元の巨大な卵殻とその中から現れた南方棲戦姫へと取り込まれたとしか考えられない。

 

「木村艦隊を飲み込んだのは限定海域じゃなくてその中に居た深海棲艦だ、食われちまった以上はもうアイツらの形見になるもんすら残っちゃいない」

「不知火、これ以上は提督を煩わせるべきではありません、貴女には療養が必要なんです」

「ですが、陽炎は木村三佐からの命令をっ・・・」

 

 信じて欲しいと悲痛な思いと共に声を上げ手をこちらに伸ばす不知火の姿を見ていられなくなったのか義男は自分に言い聞かせる様に呟きながら手に持っていた軍帽を目深にかぶり直して目元を隠した。

 

「彼の曽祖父の形見と言うお守り袋を! 鎮守府に持ち帰ると! 確かに陽炎の声を聞いたんです!」

 

 そして、さっきまで無為に時間を使う為にもたれ掛かっていた場所へと義男は戻り俺達から離れていく浜風が聞き分けの無い姉を半ば引きずる様に廊下にある上階へと続く階段へと足を乗せたと同時に廊下にその叫ぶ様な声が響いた。

 直後、まるでもたれ掛かった壁が熱された鉄板だったとでも言うのか義男が跳ねる様に壁から背中を離し、その目深に被った帽子のツバの下にあった顔は何故か強い驚きに目を見開いていた。

 

「待て! 浜風待て!! 不知火!」

「お、おい、義男どうしたんだ?」

 

 その態度に眉を寄せてかけた俺の声を完全に無視して義男がすぐ横を通り抜け、首を傾げる時津風を押し退ける様に避けて肩で風を切り。

 不知火を呼び止める義男とその指示に困惑しながらも姉を掴んでいる浜風は艦船特有の(スペースの都合で)急な造りの階段を上りかけた状態で立ち止まり振り返る。

 

「不知火、お前今なんて言った!?」

「ぇ、あ、陽炎は木村三佐達と共に生きて鎮守府に帰ると・・・」

「違う、陽炎は木村から何を受け取ったと言った?」

 

 立ち止まった浜風の手から逃れて近づいてきた義男を見上げ戸惑いながら自分の言った言葉を要約した不知火だが要点はそこではないと首を振る指揮官は彼女の両肩を捕えて掴む。

 

「き、木村三佐の曽祖父が残したお守りであると、三佐が防衛大学に入学する際に祖父から譲り受けたと・・・」

「それ、木村も詳しい来歴は分からないけど縁起物だってやつ、か?」

「ぇ・・・は、はい、陽炎が聞いたのは、私との繋がりはその後に切れてしまいましたが、確かに」

 

 掴まれた肩が痛かったのか顔を少し顰めながらも自分を見下ろす義男を真っ直ぐに見上げた不知火は彼の問いかけにぎこちなく頷きを返した。

 

 しかし、木村君のお守りとは、彼はそんなモノを持っていただろうか。

 俺自身は義男ほど彼との交流があったわけでは無くいくら思い返しても頭に浮かぶのは部隊章のズレ一つ無く士官としての服装を規律正しく整え真面目な表情を浮かべる一年年下の青年の姿だけ。

 

「なんで不知火が知ってんだ・・・? もしかしてさっきの話が本当だってのか? でも限定海域の殻はぶっ壊れて中身が丸見えになって・・・高い天井と山? 黒い壁に閉じ込められている? どこにあるんだそんなもん・・・」

 

 後輩の姿を思い出しながら首を傾げる俺や戸惑う浜風達を他所に不知火の肩を掴んだまま義男がブツブツと自分の思考を垂れ流す様に口を動かし続けている。

 

「義男、木村君が持っていたとか言うお守りがそんなに気になるのか? 彼がそれを持っている事を不知火が何処かで聞いた事があると言うだけじゃないのか?」

「いや、それは無い、はずだ・・・木村が自分からわざわざそんな物持っているなんて言いふらす事はない、って言うか俺もちょっとした事件の時に偶然知っただけでアイツあのお守りを絶対に胸ポケットから出そうとしなかったから同部屋ですら知ってる奴は居ないな、間違いなく」

 

 その御守りを隠す理由が規律規範と四角四面な態度を保つ為に祖父から渡されたそれに頼って験担ぎをしているのを知られる事が恥ずかしいからだ、とあの真面目と言う言葉が人間の形をしている様な木村君からは想像できない人物像を義男が何人かの艦娘が顔を見せている廊下で暴露した。

 つまり木村君のプライベートに含まれる誰も知らないはずの情報を俺と同じ様に彼と接点を持たない筈の不知火が知っている事が彼女の見たと言いう夢の情景が現実にあったのだと証明しているとでも言いたいのだろうか。

 

 正直、ピンと来ないどころか根拠として考える事すらナンセンスな話としか言い様がない。

 

「でも、あの限定海域はあんなにデカい穴が開いてる、かと言って海の下にだってそれらしい空間の反応は無かった・・・なら木村達は何処に居る・・・?」

「空間の反応か・・・それらしいものと言ったら姫級を中心に今でも台風と間違うほどの空間湾曲が発生しているぐらいだな、それが人工衛星に見つかって世間じゃ嵐に備えて大騒ぎらしい」

 

 ゆっくりと海を征く黒い卵の殻の中で巨大な顎を形成し始めた下半身を泥に沈め微睡む南方棲戦姫の周りに暴風や黒い渦は無くなった。

 だがその存在そのものが発生させる強力な霊力の力場が人工衛星のカメラには日本へと近づいてくる巨大雲として映った事で奇しくも岳田総理達のカバーストーリーを補完している。

 そう実際に口にして考えてみると俺達が南方棲戦姫を撃破出来なければ岳田内閣まで参加した司令本部との会議で義男が主張した通りに日本が焼野原にされると言う予想が途端に俺の肩に重しとなって圧し掛かった様な気がした。

 

「姫級・・・? 南方棲戦姫・・・そうか、姫だっ! 姫級なんだよな!?」

「ぇ、義男どうしたって言うんだ?」

 

 悪い方向を向いた思考の狭間に囚われかけた俺が嘆息する直前、何かを閃いた様な大声を上げて不知火と見つめ合っていた義男は妙に素早い動きで顔を上げて勢い良くこちらを振り向く。

 

「分からないか!? アイツが姫級ならその支配下の限定海域はあって然るべき、むしろ無い方がおかしい!! だから不知火が見たって言う限定海域も存在しているんだ!!」

「分かるか!? お、おいおいおい、それは流石に考えが飛躍しすぎだろ、ムリがあるにも程があるぞ?」

「分かれよ! 不知火の言うデカブツが南方悽戦姫の本体が艤装のどっちかに入ってるって事だろが!」

 

 先ほどの失意の落ちて擦れた色をした目では無く俺が今まで何度も振り回されてきた行動力に溢れそれでいて傍迷惑な事を仕出かす際に義男が見せる力強い視線と声に圧倒されかけて俺は仰け反って背中を壁にぶつける。

 一応は注意を呼び掛け冷静になれと声を掛けてみたのだが義男はそんな事はお構いなしとでも言う様に支離滅裂と言うか周りへの説明を完全に放棄した自らの考えへとのめり込む。

 俺は自分の経験則からこうなったら最後コイツは成功して踏ん反り返るか失敗してひっくり返るまで横から何を言っても聞かず止まらなくなる事を思い出す。

 

「良く知らせてくれた不知火! 最高だお前は!」

「し、しれっ・・・は、はい・・・きょ、恐縮ですっ」

 

 階段の前で立ち竦んでいた不知火の身体を興奮した勢いのまま義男が抱きしめて今にも彼女を胴上げしそうな喝采で冷静沈着が代名詞とも言うべき陽炎型二番艦の顔が赤く染まり狼狽える様に声を吃らせ。

 その義男と不知火の間に起こった急展開に俺は唖然とする事しかできず、戸惑いに視線をさ迷わせると二人のすぐ横で浜風が指を咥えながら羨ましそうにアイスブルーの瞳で姉艦娘を見ている。

 さらに義男が原因である廊下の騒がしさに待機所の入り口から艦娘だけでなく情報の確認を行っていた士官までもが何だ何だと顔を出し。

 その指揮官が駆逐艦娘を人前で堂々と抱きしめると言う事案めいた不可解な状況に困惑して説明を求める様に複数の視線が揃って俺を向く。

 

「ああっ!? ぬいぬいだけズルいっ! 時津風も時津風も~!」

「うぇ!? いてっ、だからその靴履いている時に登るなっての!?」

 

 そうして俺達が戸惑っている間に今度は時津風が声を上げて義男の背中目掛けて走り出して飛びつきその反動で不知火から離れ戸惑いと痛みの声を上げる司令官の白い制服に手と足をかけて登り、垂れた犬の耳にも見える白灰色のクセ髪を跳ねさせ元気娘は手慣れた動作であっと言う間に義男の肩の上へと座って満足げな顔で肩車の姿勢となった。

 

「いてぇが、それより直ぐにやらなきゃならない事が出来た! 良介、俺ちょっと行ってくる!!」

「はぁっ!? いや行くって何処にだよ!? 待てよ! おい!?」

 

 小柄とは言え女の子一人を肩車したまま俺の方へと身体を捩じって無駄に高いテンションのまま大声を上げた義男がそれを制止しようと手を伸ばし呼び止める俺の声を無視して階段を駆けあがっていった。

 

「行くぞ時津風っ、おらぁああ!! 目指すは通信室だっ!!」

「わはぁ~!! 突撃だぁ~!」

 

 駆け寄ろうとした目の前から義男と時津風の姿が上階へと消えて置いてけぼりをくらった様に廊下に取り残されたのは俺と不知火と浜風。

 そして、さわゆきが艦娘の拠点艦となった際に一部改装されての同艦の食堂と同じ広さが確保された待機所の中で状況が全く分からず困惑した顔を見合わせながら何事かとざわつく艦娘や同僚達の声が聞こえてくる。

 気まずさから視線をさ迷わせた俺が廊下に立ったままになっている不知火に向ければ嬉し恥ずかしと言った様子ではにかみながら義男に抱きしめられた余韻を確かめる様に自分の身体を抱きしめている姿があった。

 

「なんや騒がしかったけど、何があったん?」

「・・・俺は不知火を輸送ヘリまで送ってくる、すぐに戻るから龍驤達はそのまま待機していてくれ」

 

 廊下に立ち尽くす俺を含めた三人の様子を待機所の入り口から物珍しそうに見ていた野次馬達を押し退けて廊下に出てきた龍驤の姿に少し引きつった苦笑いを向ける。

 

「それにしても君は意外に乙女なんだな」

「はっ、いえ、その様な事は・・・こほっ、申し訳ありません、お見苦しいところを」

「かまわんさ、それより急いだ方がいい、帰りのヘリに置いていかれてしまうだろ」

「わ、私も参ります、中村提督からの命令ですので!」

 

 不知火の肩を軽く押せば少し恥ずかしそうに表情を揺らした直後に彼女はいつも通りの澄まし顔へと戻り浜風と一緒に先ほど義男達が駆け上って行った階段を登っていく。

 

「そう言えばやけどキミさぁ、艦長さんらからあのアホ見張っとれって言われとらんかったっけ? 追いかけんでええの?」

「それは・・・正しく言うは易く行うは難しだな、むしろ俺以外の人間もアイツの突拍子の無さの恐ろしさを知るべきなんだ」

「ふ~ん、まっ、キミがええならウチもええけど、じゃ、ヘリんとこ行くならついでに金剛にもよろしく言っといてな~」

 

 そんな愚痴を吐きながら階段を上り始めた俺の背中を慰める様に龍驤のあははと軽く気の抜けた笑いが撫でてくれた気がした。

 

 




 
乙を選んだのに(E5)から二週間出れなくなった。
しかもギミック頑張って解除したから退くに退けない(難易度下げられない)

でも何とか友軍(有料)と叢雲カットインによって無事に脱出。
そして、コロラドさんも無事に救出!

第二次ハワイ作戦で頑張ってくれた全ての艦娘へ!
乙かれさまでした('Д')クワッ!

フレッチャー?
居ない者(未実装艦)の話はするんじゃない!!

2019/7/17
諸事情により田中のセリフの表現を少しだけ変更しました。
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