艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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【 作戦目的 】

勝利条件
1.20ターン以内に戦闘マップから脱出する。

敗北条件
1.制限時間の経過
2.―――の説得失敗
3.味方艦娘及び指揮官の死亡

MVP獲得条件
・限定海域内に存在する全ての霊核を回収する。


第九十三話

 

「・・・はっ」

 

 駆逐艦娘の発言によって戸惑いに固まりかけた顔が嘲笑うような表情へと入れ替わり形の良い口元から漏れた声は失笑の音となって黒い柳の下へと落とされる。

 

「よくも、・・・よりにもよってそんな戯言をっ」

 

 長い間まともに喋れない状態に置かれていたからか喉から絞り出された掠れた声が内包する地を這う様な怒りに呼応して黒い枝が生える様に刺さった肌の上で幾何学模様(装備増設端子)が激しく明滅する。

 そして、澱んだ池の上で霊力の活性化によって怒りに震える艦娘の体中の増設端子から焦げた臭いと煙がうっすらと立ち上った。

 

「事実よ」

 

 そんな憤怒の火を体中から立ち上らせている名無しの艦娘へと陽炎は満身創痍の自分を背負ってくれている指揮官の背からしっかりと顔を上げて怯む事無く自分の言った事に間違いなど無いと告げる。

 

「嘘よ!!」

 

 何かが焦げる臭いと同時にブチブチと細い紐が千切れる音が聞こえ、歯を剥き出しにして叫びを上げた艦娘が怒気に染まった視線と黒い血を足元の池へと落とす管がぶら下がった右手を陽炎へと突き付けた。

 意図せず猛獣の尻尾を踏んだのではない、自分の背に乗っかっている駆逐艦娘が目の前の相手の逆鱗をわざと攻撃する様な真似をしたのだと木村が気付いた時にはもう取り返しがつかない程に池の上に吊り下げられた艦娘は敵意を自分達全員に向け。

 

 鬼気迫るその迫力に驚いた朝潮が足をもつれさせ地面に転び、古鷹達も仰け反って後退りする程の迫力に顔を強張らせた木村も一歩後ろへ下がりかけ。

 だが、保温シートの中から出てきた陽炎の傷付いた手が震えながらも彼の肩を握った感触に何故かわけも分からず青年士官はその場に踏み止まる。

 

「皆、私のせいで死んだ! 駆逐艦も、巡洋艦も!! 武蔵だって、私のせいで!! だからきっと私は皆に恨まれてる!!」

 

 苦しい状況でも思いやりを忘れず共に励まし合った仲間が敵の砲弾で砕けていく様子をただ見ている事しか出来ず、庇われ続ける後ろめたさから逃れる為に鎮守府で待っていると約束を交わし別れた仲間に背を向け。

 あまつさえ最後の囮作戦を生き残った戦友達を連れて逃げ出した先で深海棲艦の襲撃を受け全員を海の藻屑へと変えたと言うのに姉妹艦に庇われておめおめと生き残った。

 そして、海の底で怪物の飾りとしてただ眠り続けた役立たずの自分に、仲間殺しも同然の所業をやってしまった艦娘に生きていて欲しいなどと彼女達が言うはずがないと半狂乱になった艦娘が叫ぶ。

 

「さっきはその子達の声が聞こえたからって、私を助けろと頼まれたと言ったわね!? でも、そんな筈ないのよ! もし本当にそんなモノが聞こえたなら武蔵達は真っ先に私に死ねと言うに決まってるんだから!! だけど、それさえ聞こえない、言ってくれない!!」

 

 泣き喚く様な声に合わせて横に振られた手が周りに吊り下げられている艦娘の魂が揺らめく水晶体を指さし、その中の一つへと向いた鳶色の瞳が怒り、恐れ、悔み、複雑に入り交じった感情を溢れさせ透明な滴が足元の水面へとポタポタと落ちていく。

 

「何も・・・あの子達はもう死んだの、そこにあるのは何もかも忘れ切った船御霊・・・だから、そんなのは、嘘なのよ・・・」

「貴女とこの子達の間に何があったのか私は知らないし、いまさら知りようがない、でも、ここにいる皆がどうして貴女に話しかけなかったのかその理由ならなんとなくだけど分かる」

 

 怨嗟を吐き出す様な悲痛な叫びが途絶え落ち着いたと言うより疲れ果てたと言うべき表情を浮かべた艦娘は黒い枝の拘束が解けた右手をだらりとぶら下げて虚ろな瞳で陽炎を見下ろす。

 

「それはこの子達がまだ諦めてないからよ、深海棲艦の領域にあるにしても身体を失った時点で分解する筈の霊核がこうして形を残している事が何よりの証拠なの」

「いい加減にして頂戴、これ以上、知った風な口を叩くなら」

「でも、霊核から少しでも離れれば魂の光は散る! 一言でも喋ればそれだけ心が擦り減る! 数秒でも姿を見せれば艦娘として過ごした記憶を失っていく!!」

 

 これだけ怒声をぶつけても自分を真っ直ぐに見つめてくる相手にもう話しかけて欲しくないと顔を背けようとした艦娘は正面からぶつけられた先ほどの反撃とでも言う様な大声に怯み目を見開く。

 

「司令や私達に話しかけてきた声は微かで儚くて聞こえ辛くて、でも私達をここに連れてこようと必死だった。

 当り前よ、人としての身体がもう無くなってるこの子達には霊核の中に思い出を留めておく事すら難しいんでしょうね・・・文字通り命懸けだったのよ」

 

 陽炎が語る言葉で木村は昨日の夜、闇の中に現れて脳内に直接聞こえる音ではない声を伝える度に散っていく蛍火と儚く揺らめく人影とその人の形を失って自分達を山頂へと案内する様に人魂から光粒が徐々に解けながら舞い落ちる夜道を思い出した。

 まるで燃え尽きる寸前の蝋燭の様に、死の間際に地面へ落ちていく蛍の様に小さくなり数を減らしていきながらも自分達をここまで導いた魂達が支払っていた代価が何であったかに木村は気付き。

 自分達がここへ辿り着く事が文字通り魂を削る彼女達の計り知れない奮闘に見合う成果と言えるのだろうか、期待に応えられるのだろうか、と胸中に湧き上がる不安と重責に震えだしそうな身体に息を詰めて歯を食いしばり抑え込む。

 

「今まで何も言わず、何も言えずに耐えていたのよ、きっと貴女と一緒にここから脱出するチャンスを待って自分達の記憶を守っていたんだわ」

「な、なにを言っているの・・・そんな事、あるわけ・・・」

「艦娘が蘇生された場合には前の記憶を全部失うって話は貴女も多分知ってると思う、でもね、最近じゃその中に例外な子が何人か居る事が分かったの」

 

 先代艦娘の記憶の一部を持ったまま蘇生された若しくは不意に思い出した艦娘達は研究室が行った聞き取り調査によって十数人ほどいる事が確認され、その調査からたまたま漏れた又は意図的にその記憶を隠している艦娘がいる。

 その証拠に陽炎の友人である艦娘の中には研究室への申告をせずに先代の記憶を隠している者もおり、そんな前の記憶を受け継ぐ彼女達の存在こそが殉職した艦娘が何かしらの方法で次の身体に自分の記憶や経験を受け渡す事が出来ると言う事を証明していた。

 

「完全な記憶を持っての復活は無理にしても皆は貴女とならここから脱出できると信じているのよ、そして、それと同じぐらいに貴女に助かって欲しいって願ってる、そう言ってた・・・」

 

 穏やかに語りかけてくる駆逐艦の声に吊るされた艦娘は狼狽えキョロキョロと周りの様子を見回すがその視界に見えるのは山頂に吹き付ける風で揺れ動く黒い枝垂れと物言わぬ霊核の群れ。

 

 ふとその頭を過るのは海の底、ガラスと岩の檻の中で微睡む自分の身体を包んでくれていた光の温かさ、少なくともそこには自身に対する恨みや怒りは渦巻いていなかった事を思い出す。

 

 何一つ陽炎の話を肯定するモノなど無いと言うのに自分の近くで風に揺れる姉妹艦の魂が宿る水晶がまるで励ます様に青白い光を揺らめかせた様な気がして自らの名前を封じている艦娘は瞳を震わせて目尻に涙を浮かべた。

 

「貴女が深海棲艦の目を通して見た艦娘の本当の力、同じように深海棲艦と繋がれた事でそれを知る事ができたこの子達は艦娘として生きた記憶を失うリスクを負ってまで私達に呼び掛けた、貴女を助け出せる希望を見出したから」

 

 彼女達はたった一人生き残った仲間を助ける為に信用できるか分からない藁(木村達)へ自分達の記憶を賭けたのだ、とそう言い切って沈黙を守る霊核達の意思を誰かに急かされる様に勢いのまま代弁した陽炎は不意に続きの言葉を言いよどむ。

 

「それで・・・っ」

 

 根拠の無い直感ではあるがその先の言葉を伝えれば目の前の艦娘は彼女自身が不本意であっても自分達に協力してくれるだろうと言う確信が陽炎にはある。

 ただそれをすると自分は司令官達と助かりたいが為に目の前の彼女にとって大切な仲間達を人質に取る様な事を口にする恥ずべき艦娘となってしまうぞ、と強い後ろめたさが胸の内で騒めいた。

 

「・・・そ、それで?」

 

 いつの間にかその表情は怒りでも失望でもなくなり、まるでこちらを恐れているかの様に声を震わせているのにその言葉の続きを促す相手へと顔を向けたまま陽炎は胸元でお守り袋を握りながら声を詰まらせる。

 

「何があっても責任は俺が取る、お前の好きにやれ・・・どうせもう彼女にとって俺は敵役だ」

 

 躊躇いに固まりかけた駆逐艦娘の身体が不意に揺らされ、軽く揺する様に陽炎を背負い直した木村がいつも通りの仏頂面を少女の顔に並べて目の前の池の上にいる艦娘を真っ直ぐに見上げ。

 その硬く不愛想な指揮官の声に支えられた様にふっと心と体が軽くなった感覚、それが自分を内側で見守ってくれている霊核もその後ろめたい考えに渋々ながら理解を示してくれたのだと理解した陽炎は意を決して口を開いた。

 

「それで貴女はどうする? このままここで全員で深海棲艦の餌のまま終わるか、私達と協力して一緒にここから脱出するか」

「・・・無理よ、さっきも言ったでしょ? 私達は彼女には敵わないって、あの深海棲艦が持っている全てを混ぜ合わせてしまう力の前では・・・」

「いいえ、貴女にとって重要なのはこの子達が(記憶)を使い果たしてないって事、だから敢えて言うわ、・・・今ならまだ間に合う(・・・・)かもしれないわよ?」

 

 そして、指揮官の言葉とお守りを頼り後ろめたさを表情の裏に隠した陽炎は肩を竦めてまるで軽い確認の様に告げ、その言葉を聞いた薄汚れた艦娘は口元をワナワナと震わせながら今にも泣きだしそうな程に動揺で顔を歪める。

 

「それに貴女の協力が有れば間違いなくここから脱出できる、私と司令は貴女よりも貴女の能力を知っているんだから」

 

 もしかしたら失った仲間達と再会できるかもしれない希望と自分の目で見て心身に刻みつけられた深海棲艦の圧倒的な力に対する恐怖の間で身動きが出来なくなった艦娘は歯を食いしばり震えながら苦し気に呻く。

 

「でも、私には皆に合わせる顔なんか・・・恨まれてる私なんかが(“恨んでなどいないさ”)・・・ぇ?」

 

 あと一押し足りなかったか、と悔しそうに眉を顰めた陽炎だが目の前の艦娘が不意に戸惑った様な表情を浮かべて顔を上げ、駆逐艦娘とその指揮官は何気なしに彼女が視線を追った。

 

「・・・あっ!」

 

 そして、木村と同じく陽炎と名無しの艦娘の言い争いの傍観者となっていた朝潮が不意に声を上げ、その大きく見開かれた瞳に周囲の霊核から溢れ出した光粒の輝きが映り込む。

 

“もっと早く”  “伝えられたなら”

 

 白波の様に揺らめきながら宙を舞い(散り)池の真ん中に吊り下げられている艦娘の前へと霊力の光粒が人の形へと結ばれ泳いでいく。

 

「ぁ、ぁぁ、そんな、何で・・・ホントだったの?」

 

 激しい動揺に震えながら目を見開き右手で口元を押さえ、無数の黒い血管に囚われた艦娘がポロポロと涙を溢れさせ、自身の目と鼻の先に現れた光粒で形作られた朧げな人の形と向かい合って嗚咽を漏らす。

 木村から見えるその人の形は手足が纏まらずぼやけ髪や肌の色も精彩を欠いており、辛うじて昨日の夜に自分達の前に現れた人物と似ている事が分かる程度だった。

 

「っ!? だ、ダメよ、出てきちゃ! 記憶が、心が無くなっちゃうんでしょっ!? 今も散ってるじゃないっ! 私なんかの為に光がっ」

 

 人間である木村には分らずとも艦娘である者達には見るだけでその朧げな光が魂を振り絞って編まれている事が分かり、同時にそれが空気の揺らぎ程度にすら解けて消える儚い努力である事を知る。

 

“言ったはずだ”

―――の姉妹であれた事が誇りだと(アナタと共に海を行けた事が)

 

“生きる事を諦めないで” “私達が”(私達を)

 

“―――が”(―――さんが)  “消えてしまっても(“助かるのなら”)

 

“覚えていてくれるだけで”  “十分だから(“かも”)

 

 

 涙が伝う汚れた頬に指の形もままならない手が添えられ宙を泳ぐ光粒がそっと白い髪が揺れる額を合わせてその声を伝え、引き留める様に伸ばされた手の先をすり抜け力尽きた無数の蛍火が水面へと落ちていくが、その中の一部は垂れ枝を揺らす風に邪魔されながらも諦めずに霊核へと戻っていく。

 

「待って、私はっ・・・武蔵っ! みんなっ!」

 

 何が切っ掛けで魂の光が現れたのかは分からない、もしかしたら彼女達も水晶の中で陽炎との会話を聞いていたのだろうか、と木村は目の前で起こったどうしようもなく物悲しくそれでいて幻想的な光景をただ見つめる。

 そして、人魂が結晶の中へと帰り、突然に訪れた黒い枝垂れ枝の中で失ったはずの仲間達との邂逅に嗚咽を漏らして涙で顔をぐしゃぐしゃにした艦娘がただただ水面へと透明な滴を落としていた。

 

 だが、時間をおいて落ち着いてくれれば少なくとも先ほどの口論の様に険悪なやり取りではなくある程度の情報提供は望めるだろうと彼女から視線を外して木村は自分達の置かれた状況を頭の中で確認する。

 立て続けに攻め立てる様な駆逐艦娘の言動の片棒を担いだ指揮官は今は好きなだけ泣かせてやるべきだろうと頭の中で独り言を転がした。

 

「とは言え、彼女達の“声”が言っていたここにあると言う脱出の手段は見つかりそうもないか」

 

 黒い枝垂れの下で気が滅入りそうな泣き声を聞きながら小さく嘆息した木村は改めて自分達が黒い山と白灰色の天井の間に居る事を思い返してここまでの道のりが徒労に終わりそうな予感に愚痴る。

 

「ん? 何言ってんのよ、司令」

「客観的な事実の確認だ、何故そんな目で見る」

「え、もしかして司令ったら・・・気付いてなかったの?」

 

 察しの悪い相手を見る様な目を自分に向ける失礼な駆逐艦の言葉に眉を顰めた木村がふと足元で尻餅を着いたままでこちらを見上げている朝潮や相手の鬼気迫る勢いに驚き数歩後ろに下がっていた神通達へと振り返ると何故か全員が陽炎ほど露骨では無いが意外なセリフを聞かされたとでも言う表情で木村を見ていた。

 

「なんだ、何か問題でもあるのか?」

「あっ、・・・そうですよ、皆さん! 提督は普通の人ですから艦娘の私達みたいに気配で艦種を見分けたり出来ないんです!」

 

 そんな部下達からの不可解な視線に晒され居心地悪そうに眉の間のシワを増やした無精ひげの司令官の態度に龍鳳が桜色の袖を合わせる様に手を打ち。

 その声にその陽炎達が納得する様に小さく「あー」と声を漏らした。

 

「気配? 艦種? だから何の事を言っているんだ?」

「まー、何て言うか・・・ねぇ、名無しの艦娘さん、私達に協力してくれる気になったのならそろそろ名前教えてくれない? そうすればこの頭のかったい人もいい加減気付くと思うから」

「おい、陽炎、お前はもう少し言い方を考えろ! それにまだ彼女には時間が必要だ」

「いえ、構いません・・・私もそう言われても仕方ない事を言ってしまいましたから」

 

 仏頂面から不機嫌そうなしかめっ面になった指揮官の事などお構いなしと言った様子で彼の肩を無遠慮に叩いて澱んだ池の前へと向き直らせた陽炎が見上げた先で黒枝の柳に吊るされた艦娘が右手で涙を拭いながらバツの悪そうな表情で、しかし、スッキリとした憑き物が落ちた言い方で木村へと声をかける。

 

「でも・・・正直に言えば私はまだ貴方を、現代の日本軍、・・・自衛隊を信用できません」

 

 そう言って視線を細めるがその瞳に宿っている感情は敵意はなく迷いながらも過去のトラウマを押し止めて自らの目で相手を見定めようとする意志が感じられた。

 

「だから、私がこれから貴方に協力するのはみんなを鎮守府へ連れ帰る為です、でも、もし帰れたとしてもまた自衛隊が私達を裏切る様な事をするのなら」

「・・・分かっている、陽炎が言い出した事が原因なのだからそれも俺が取るべき責任だ、覚悟はある」

「なにその言い方! もぉっ、このこのこの!」

「止めないか! 調子に乗るな!」

 

 不愉快であると主張する様に膨らませた頬を押し付けてくる陽炎の顔を身を捩って避けようとする指揮官の姿に周りの艦娘達が苦笑や微笑みを浮かべて先ほどまでの険悪さや湿っぽさが晴れる様に消えていく。

 

「あなた達にとってどう言う意味があるのかは分かりません、ですが、私の名前が武蔵達を鎮守府に連れ帰る根拠となると言うなら・・・」

 

 そして、二人の漫才じみた様子に池の上で小さく笑う声が漏れ、決意を宿した声によってその場の全員の視線が自然とそちらへ向かう。

 

「私は・・・私の名前は大和型戦艦、一番艦、大和です」

 

 そうしてまだ少し自らの名前に対する抵抗があるらしく躊躇いを感じる声で艦娘が告げた名前、かつて大日本帝国海軍によって建造された史上最強の戦艦を原型に持つ艦娘が隠していた自らの名を木村達へと名乗った。

 

「戦艦大和・・・だと・・・?」

「つまりそう言う事、戦艦の艦娘が居れば限定海域の壁だってぶち抜いて・・・え?」

 

 その姿を見た時点で囚われていた艦娘の艦種が戦艦であると察知していた陽炎だが告げられたその名前は予想外だったらしく目を何度も瞬かせながら指揮官に向けていた得意げな顔があっと言う間に青ざめてワナワナと震え始め。

 

「う、嘘でしょ? 大和ってあの大戦艦の?」

「そう言えば何度か武蔵と・・・まさかここにはあの大和型戦艦のお二人がいると言う事なのでしょうか?」

「うぁ、知らなかったとは言え陽炎、とんでもない人にケンカ腰で・・・うわぁ」

 

 口元に指を当てて思い出す様に神通が呟いた言葉と顔を怖気に引き攣らせた古鷹の声を切っ掛けにオレンジ色のツインテールが悲鳴と共に振り回される。

 

「いやいやいや! 私てっきり旧式戦艦の人だと思ってたのよ! だってこの人、後ろ向きで気弱な事ばっかり言ってたじゃない!?」

 

 木村の背の上で必死に首を横に振る陽炎から全力で繰り出された何の弁解にもならない言い訳と共に今更な謝罪の叫びが生温い風が吹き抜ける山頂に響き渡った。

 

・・・

 

 補給と諸所連絡などの為に連合艦隊本体へと合流する針路をとった拠点艦である【さわゆき】から出撃してまだ数十分、だと言うのに見渡す限り真っ青な空と海には護衛艦の影などもう遠く水平線の彼方。

 

『良いか! 俺達に許された作戦行動時間は二時間も無い、もし一分でも離脱が遅れれば!』

「味方の砲弾が雨あられなんだろ、何度も言わなくても分かってんだよ!」

 

 吹雪の推進機関が最大出力の唸りを上げて海面の波を激しい風圧を伴う革靴が蹴り破って目標地点へ向かい一直線に雲一つない空の下に広がる海原を突き進む。

 旗艦である吹雪を含めた十人編成のおかげで少し手狭になった艦橋に飛び交う報告を聞き流しながら良介のちょいとしつこい注意に向かって大口を叩く。

 

 司令部が決めた指揮官に六人以上を指揮できる許容量があっても旗艦を含めて六人までしか出撃を許可されないと言う邪魔なルールが岳田総理のお墨付きで一時的に取っ払われたおかげで俺は艦娘指揮官として着任し深海棲艦との戦いを経て成長したキャパシティー最大の艦娘達を連れている。

 

『しかし、まさか古鷹のIFF信号が南方棲戦姫から発信されるなんて。不知火の言う通り木村君達は本当に無事だったと言うのか・・・信じられないな』

「信じる信じないはお前の勝手だけどなもう作戦実行の承認は通ったんだ! 四の五の言わずに手伝えっての!」

『くっそ、それが人にモノを頼む態度か!? 修復材やアストラルテザーだけでなく艦娘の増員までゴリ押しして、司令部はカンカンだぞ!』

 

 お前もそれに便乗して伊勢を鎮守府から呼んだくせに、とは口にせず。

 

 良介が叫ぶ文句を鼻で笑い俺はついさっき推進機の出力レバーを最大まで押し上げた結果へ目を向け。

 コンソールパネルのスピードメーターが表示する400knotの数字の証明である身体に押し寄せてくる慣性の重みに顔を引き攣らせつつ口元を吊り上げた。

 

「提督、進路上のマナ上昇がこのままなら後少しで戦闘濃度になるわ!」

 

 改造を受けた事によって発現した異能力の解析を望んだ研究室の要請で出撃を止められていた為に鎮守府に居残っていた俺にとっては世話になりっぱなしの秘書艦。

 今回の為の各種手続きを通信機越しに頼み込んだら何故か現場へ鳳翔と共に現れ、開口一番に説教をお見舞いしてくれた五十鈴は手すりを掴み駆逐艦の全速力に踏ん張りながらも当然の顔をして艦橋に立っている。

 

「はいよ、そんじゃ、良介の方は手筈通り頼むっ! 通信を終了!」

『ああ、了解、・・・馬鹿やって死んでくれるなよ、身内の葬式なんて冗・・・ザザッ』

 

 メインモニターに表示された電探機能(レーダー)へ全力で集中力と精神を注いでいる五十鈴の声で良介との通信を終了して椅子に身体を縫い付けようとする重みに逆らって目の前のコンソールパネルに表示された情報へと目を走らせる。

 どんな怪我もたちどころに治ってしまう高速修復材だが何故か戦闘で消耗した燃料弾薬は戻してくれない為に大型艦故にエネルギーの回復が遅い高雄は【さわゆき】に残った艦隊メンバーと共に防衛線の後方へ下がる事になった。

 だが、その代わりと言っては何だがこれ以上ない程に頼りになる三人の艦娘が俺の艦隊には参戦している。

 俺の座る席の後ろから聞こえる自分に言い聞かせているらしい「大丈夫、大丈夫」と言う呟きには若干の不安が無いとは言えないが彼女がこの作戦の要である事は最早変えようがない。

 

「葬式って・・・そこは幸運を祈るとか必ず成功させろとかカッコいいセリフって言っとけよなぁ」

 

 そして、人工衛星のカメラから見れば日本の南東を台風の様な形で白く塗りつぶす姫級深海棲艦を中心に放出されている半径300kmのマナ粒子で溢れた空間。

 その中心域に入った途端に霊的エネルギーへの耐久性が高い艦娘の通信装備であっても不安定になるのは避けられないらしい。

 領域に近い沿岸では今頃、マナ粒子による電波障害でテレビやラジオが砂嵐を吐いているだろう。

 

「性懲りもなく屁理屈こねたクズには充分でしょ、何が味方本隊の照準補助の為の前線哨戒艦隊よ、ハッキリ言って詐欺師のやり口だったら!」

 

 動力系の調整補助を担当している駆逐艦からの容赦のないお言葉に我ながらそうに違いないと軽薄な笑いを漏らして肩を竦め。

 

「はんっ、表向きはそうでも言わなきゃ木村達六人の為に救出作戦なんかやれるか、実際ポイントマンもやるんだから嘘は吐いてねーよ」

 

 俺と憎まれ口を叩き合う霞を不愉快そうに睨みつけようとした浜風へと俺は気にしてないからお前も気にするなと手振りでなだめる。

 

「それにしてもまだ姿形も見えてないってのに、ははっ、シャレになんねぇなぁ」

 

 良介に言われなくとも死ぬ気なんてサラサラないが、気を抜けば湯気の様に揺らめく空気の向こうに広がる水平線からあの夜に見た黒泥の様な名状し難き何かが見えてしまうような気がする。

 まるで今から挑まないといけない相手が空に流星雨を生み出し灼熱地獄を海の上に作り出せる天変地異が実体を持った様な化け物であるのだと再確認させるかの様に生存本能が見せた錯覚(恐怖)を奥歯で噛み潰して敢えて軽いモノを扱う様に声を絞り出した。

 

「偵察艦隊から入電、外殻はすでに消失、活動開始した南方棲戦姫は接近してきた深海棲艦群と戦闘を行っているとの事です」

 

 ノイズでうるさい音声の中から鳳翔が偵察機を飛ばしているらしい味方艦隊からの通信を巧みに聞き分けて簡潔に目標地点で何が起こっているか知らせてくれる。

 

「もうちょっと寝坊しとけよなぁ、曲がりなりにもお姫様なんだろうに」

 

 仇討ちとか柄にも無い事で頭に血が上ってたとは言え俺がお偉方に向かって人生を棒に振る覚悟で啖呵を切ったのもそもそもは木村と陽炎、お前らのせいだ。

 なのに俺達にここまでやらせただけじゃなく救難信号まで出しておいて「実は死んじゃってました、スミマセ~ン」とかほざきやがったら絶対に許さねぇからな?

 




【任務難易度の選択】

 丁・連合艦隊本隊へ合流(ギミック無し)
 丙・ボスマスへ一回以上の到達(要索敵値)
 乙・南方棲戦姫の本体障壁を破壊(ゲージ制)

→甲・丁丙乙の条件に加え、友軍艦隊の救出


2019/11/10
計算間違いに気付き一部を修正しました。
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