艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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作戦名ガンガン行こうぜ!(死ななきゃ安い!)

 定員オーバー、危険運転、艦載機の強奪!

 これこそ、戦場の私物化の極致!
 良い提督は絶対にマネするな!
 


第九十四話

《きゃぁっ!?》

《千代田! こっちに掴まって!》

 

 高波に足を取られて荒立つ海面に転びそうになった水上機母艦娘へとフレキシブルアームがモーターの駆動音を立てながら青白く発光する障壁装甲を伸ばし、荒波へと倒れかけた千代田の背中を千歳の増設された艤装が支える。

 とは言え、妹を手助けする姉の方も定常航行もままならない足場に姿勢を低くしてもう一方の盾を海面に補助脚の様に突いて長箱型の飛行甲板を維持している様な有り様だった。

 

《でもっ、千歳お姉ぇの邪魔になっちゃうっ!》

《私は良いから自機に集中しなさい、回避を続けて!》

 

 直後にピリッと短い電流の様な痛みが鉢巻を巻いた額に走り、何度目かを数えるのも億劫になる自分が空に放った艦載機が撃墜され見えない神経が切られる感覚に千歳は舌打ちしながら視界の中に開いている幾つもの()へと集中する。

 

(ヤマアラシみたいな対空砲火、正規空母並みの艦載機数、あれが南方棲戦姫っ・・・)

 

 黒い流線形の(くちばし)で風を切りながら迫る敵艦載機へと艦橋に居る指揮官や仲間(艦娘)の手を借りながら戦闘機(零式艦戦)に反撃させている千歳はその十数機(生き残り)から送られてくる映像に息を呑む。

 

 鎮守府が現在投入可能な戦艦娘全員を主力に据えた水上打撃艦隊に先立って敵の位置と状態を調べる為に出撃した偵察艦隊の一人である千歳は自らの艦戦達に航続距離と時間が長く索敵に優れるだけでなく通信中継能力も高い千代田の水上偵察機を守らせながら内心で恐れ戦く。

 白々しい程澄み切った青空から見下ろし発見した敵の美しくも恐ろしい巨躯、物量の権化とでも言うべき火を吹く大顎が並ぶ黒鉄の艤装が同族である筈の深海棲艦を解体していた(貪り喰っていた)姿は見ているだけで肝を潰されるかと思う程の迫力があった。

 だがそれさえ南方棲戦姫の力の一端でしかなかった事がその攻撃範囲内へと全速力で突入した駆逐艦娘に向けて放たれた主砲の大咆哮によって証明されてしまう。

 

 直撃を受ければ間違いなく大破、運が悪ければそのまま爆発の余波で指揮官達ごと蒸発させられると確信出来てしまう天を衝く様な大口径主砲の群れが次々と放つマグマを固めた様に赤熱する火球、その暴力が猛スピードで落ちてくる海原に創られた到底現実とは思えない荒唐無稽な光景に呻く。

 

(あんな怪物に正面から挑むなんて正気じゃない)

 

 雲一つない晴天の下、自分達のいる位置から100km以上も離れていると言うのに押し寄せてくる空気と水の流れ、最前線の余波に怖気づきかけた千歳は妹の身体を支えながら固唾を飲み込み。

 周りを見れば自分と妹を輪形に囲んで対空砲を構えている防空担当の艦娘達が目の前の暴れる海と艦橋で共有された索敵情報に狼狽え少しへっぴり腰に見える姿勢で震えている様子に千歳はあんなモノを見せられては無理もないと無力感に膝を突きかけ。

 だが隣にいる妹が荒波に何度も足を取られかけながらも必死の形相で艦載機を操っている姿に千歳は自らの弱い考えを振り払う様に頭を横に振った。

 

《なのに、なんで突撃を、中村艦隊の任務は私達と連携する斥候艦隊じゃなかったの?》

 

 南方棲戦姫を前後から挟み込む形で捕捉し水上打撃艦隊の弾着補助を行うはずの友軍が白い肌を惜しげもなくさらす姫級に向かって距離を詰めていく姿を止める事も出来ずに千歳は戦闘機から送られてくる情報を必死に整理する。

 

(司令部は司令部で作戦に変更無しの一点張り、そもそも彼って功を焦るタイプの人じゃなかったでしょ! 田中艦隊も予定航路から外れて動いているし、何がどうなってるの!?)

 

 紅く燃える岩で二股に分けられ300mに達する特大長身の足元まで達し海面を毛先で撫でる純白の髪、いっそ潔いと言ってしまいそうになる程に何も身に着けていない艶めかしい素肌を晒す身体に負けぬ大質量を持った黒鉄の艤装は無数の武装と砲と言うより塔と言うべき三連装の主砲を高々と掲げ。

 姫級深海棲が歩くだけで発生する力場によって雲は一つ残らず消し飛ばされ、副砲の着弾ですら大津波が幾重にもうねり海水が山脈と峡谷を形創っては泡飛沫をまき散らして崩れていく。

 

 その津波の頂上へと激しい光の尾を噴き出すスクリューを背負ったセーラー服の襟と袖がはためき、スカートが巻き上がるのも構わずに直角に近い水の傾斜を駆け上り身長の軽く数十倍の高さがある水の壁の上から躊躇いなく身を投げ出した駆逐艦娘、吹雪の左目から青白い炎が溢れる。

 その姿を上空から追いかけていた敵の艦載機が落下する吹雪へと亜音速の飛行性能に頼り切った急降下で次々と群がっていくが空中で上半身をねじる様に自分へと迫ってくる敵機に青白い眼光と連装砲を向けたと同時に身体が一瞬だけブレ。

 

 次の瞬間、千歳は瞬きすらしていなかった筈なのにその動きを捉える事が出来ず十数機の黒嘴が機体に大穴を開けられ爆炎と共に粉々に砕け散り、水の壁から飛び降りた吹雪は硝煙を燻らせる主砲を手に巧みな重心移動で自由落下によって迫る海面へと向き直った。

 

《何さっきの、千歳お姉ぇの艦載機じゃ手も足も出ないのに・・・すごい》

《あのねぇ千代田、私の子達もちゃんと何機かは敵を撃墜してるのよ?》

 

 千代田の失礼な言葉に笑みを引き攣らせながら誰が貴女の偵察機達を守っていると思っているの、と千歳は小さくため息を吐き。

 そんな会話を交わす姉妹艦娘達から遠く離れた最前線、高所からの落下で海面にぶつかる寸前の吹雪の身体が光に解けて空中で金色の輪へと変わる。

 

 そして、吹雪が抱えていた落下エネルギーを放出して空気を波打たせ輝く金環から銀色のショートヘアを風になびかせながら浜風が現れ、尖った鋼の爪先が海面に刺さる様に着水して踝から塗り広げられる様に黒ストッキングが太腿へと上っていく両足が膝を深く屈め。

 黄色いリボンタイが結ばれたセーラー服の背中へと背部艤装が吸い付き肩から腰へと斜め掛けのベルトによって白い布地が引き締められ、続いて輪の中から落ちてきた手持ち武装を二丁拳銃の様に握る。

 

 僅か十数秒で発進準備を終えた浜風は低く前傾に屈めた姿勢から一気に両足のバネを最大まで引き出して背後から迫る津波とさらに上空で爆弾を機内からせり出させた敵機を引き離す様に急加速を始めた。

 浜風の動作に合わせてアフターバーナーの様にスクリューが咆哮し覆いかぶさる様に押し寄せてくる津波を引き離し、隙の無い視線と両手の砲で爆弾ごと敵艦載機を打ち抜き吹雪が稼いだ南方棲戦姫までの距離を浜風はさらに縮めていく。

 

 炙り出す為に放たれた砲撃が落ちる度にビルの様に高い波が生まれ、荒海の水の壁に挟まれた狭い航路を縫う様に駆ける駆逐艦娘がわずかに波が低くなった場所から自分の向かう先に居る敵の姿を睨むように確認する。

 上空から見下ろす戦闘機の目を持った千歳であるからこそ南方棲戦姫と名付けられた怪物とそれに挑もうとしている浜風の大きさと戦闘能力の差を鮮烈に見せ付けられていた。

 

《まずいっ、千代田! 偵察機をもっと上空に逃がしなさい!!》

 

 そして、象に挑む蟻と言う他に例え様が無い津波の谷間を隠れ蓑にして姫級へ向かって走っていた駆逐艦娘だが尋常ではない巨体を持つ怪物に近づいてしまったが故に紅い炎が揺れる瞳が波間に見え隠れする銀髪を見つけ、巨大な艤装と一体化した片腕と圧縮された霊力により空気を歪ませる二基六門の大主砲が浜風を指さした。

 

《え、えっ、なんで》

《早く!》

 

 直後、音が消え去る程の衝撃と爆風が海面へと振り下ろされ千歳の視界の中で映像を伝えていた幾つもの小窓がブラックアウトして無理やり皮膚や爪を剥がされたかと錯覚する程の痛みが空母艦娘の神経へと突き刺さり、悲鳴すら上げられない痛みに膝が落ち飛行甲板が海面を叩く。

 姫級深海棲艦の攻撃の予兆に気付いて強引に千代田の機体を逃げさせる事は出来たが敵の艦載機と追いかけっこをさせられていた(を引き付け囮をしていた)千歳の戦闘機は敵機諸共に半数以上が水蒸気爆発に飲み込まれ爆風の中で翼の欠片も残さず砕け散った。

 

 そして、激しい着弾による高熱の爆炎と白雲に駆逐艦娘の姿が飲み込まれた様子を見ている事しか出来なかった千歳が神経を苛む頭痛に顔を顰めていると不意に近くで悲鳴が上がり、そちらを横目にすると白い水兵帽が乗る鮮やかな青髪を左右でドーナツ型に結った駆逐艦娘が恐慌している様子が見える。

 一瞬だけ戸惑ったもののすぐに彼女が浜風の姉妹艦だった事を思い出した千歳は深く呼吸して痛みを逃がしながら随伴艦である浦風を落ちつけようと声を掛けようとした。

 

《・・・うっ、痛ったぁ! って、ちょっと冗談でしょっ!?》

《今度は千代田!? どうしたの!》

 

 だが、千歳が駆逐艦娘へ声を掛ける寸前に真横で今度は千代田が痛みに顔を顰めて叫ぶような怒声を上げる。

 

《借りるわよ、ですって!? その子は私の艦載機なのに!!》

 

 問いかける姉の声も聞こえない様子で怒り地団太を踏む千代田の姿に戸惑い目を瞬かせる千歳の視界、生き残った自艦載機から送られてきた映像の中で銀色に輝くワイヤーが水柱から空へと伸びて妹の零式水上偵察機を回転するプロペラだけが残る球体へと変え。

 そして、巨大な水蒸気爆発による水柱の中から飛び出した銀色の線を伝って胴を引き締めるコルセット型の装甲部(ハリケーンバウ)が白煙と熱波を押し退ける様に弾き飛ばし、両手両足を大きく広げて旋風(揚力)作り出した装甲空母艦娘が空へとあっと言う間に舞い上がり中継機へ飛び付き回収する(千代田の水上機を奪い取った)

 

 相対する深海棲艦と艦娘の間に残る距離は数キロ、全力の駆逐艦娘なら一分も必要なく詰められる距離に立つ南方棲戦姫の全高300mに達する巨体を上空から見下ろした大鳳は推進力を放出する鉄製のハーフブーツによって姿勢を制御しながら連弩(れんど)へと艦載機が装填されたカートリッジを押し込み、流れるような手さばきで連続的に放たれた光を纏う矢が敵艦へ機首を向けて緑色の翼を広げていく。

 

《えっともしかして・・・実戦で味方の艦載機を奪った空母って彼女が初めてって事になるのかしら?》

《お姉ぇっ! なに呑気な事言ってるのよ! ホント信じらんない、何なのあの艦隊!?》

 

 取り敢えず中村艦隊の無事(浜風の緊急回避)が分かったおかげか胸を撫で下ろしている浦風は問題なさそうであるが自分の真横で怒る千代田の気を緩めさせ様と仕様もない事を千歳が口にすれば妹の矛先が今度は姉に向き。

 その様子に処置無しと溜め息を吐いた空母艦娘は自分の艦橋に居る司令官経由で水上機母艦娘の指揮官へと連絡を取ってなだめ役を変わってもらう。

 気苦労が途切れない千歳の艦橋に送られてくる映像、南方棲戦姫に攻撃を開始した大鳳の艦上爆撃機が大量の爆弾を投下するがその悉くが姫級深海棲艦の白い肌に触れ事も許されず半径数百mのドーム状に広がる不可視の壁にぶつかり無為に紅い炎を立ち上らせる。

 

(なんて強力な障壁装甲、もしかして長門達の砲撃でも抜けないんじゃ・・・)

 

 一つ一つは戦艦の砲撃の貫通力に及ばないとは言えあれだけの爆弾が一度に命中すれば通常の深海棲艦ならば障壁ごと粉々に出来たはずと大鳳と同じ艦載機を扱う艦娘である千歳には簡単に想像できる。

 だが、その猛攻すら毛ほどにも感じていない南方棲戦姫は爆炎の向こうで無数の対空砲や機銃を大鳳へと向け、飽和する弾幕が強固な障壁を内側から素通りして火の雨と化す。

 

 並みの空母艦娘だったら数秒すら耐え切れず穴だらけ(大破)になっているはずの攻撃の中、額当てを打ち砕かれながらも正面からの被弾面積を減らす為か大鳳は身体を丸め防御力を最大まで上げ。

 その左腰に装備されている航空甲板からワイヤーが勢い良く射出され無数の弾幕によって撃墜されていく自機の内の割れた翼から火を吹く一機へと強引に接続して中継機として蘇らせる。

 そして、甲板に無数の穴を開けられながら数秒前に放ったワイヤーを火花を散らし急激に巻き戻す航空艤装によって敵真正面へ向かってパチンコ玉と化した装甲空母が弾幕を物ともせず直進、爆撃ですら傷一つ付かなかった不可視の障壁にぶつかる直前に空中で前転した大鳳の靴底(船底)がその質量と速度を壁へと叩きつけた。

 

(あれでも、破れないの!?)

 

 太く厚いガラスを叩いた様な鈍く響く音だけが胴やスカートを穴だらけにされた大鳳のブーツと南方棲戦姫の障壁の間で空気を震わせ、悔しそうに見下ろす空母と忌々しそうに見上げる戦艦の視線が交わり障壁までたどり着いた艦娘へと深海棲艦は巨大砲を突き付ける様に向ける。

 放たれた灼熱の隕石が金色の光粒を素通りしてはるか上空で炸裂する炎が青を赤へと変え、絶句するしかなくなっている千歳達の肉眼でも見える程巨大な火球が水平線上に青空を焼いた。

 

 その上空から熱風となって吹き付ける榴弾の余波を背に黒艶の髪を激しく靡かせて軽巡艦娘が出撃と同時に艤装から突き出した柄を握り赤鞘から太刀を引き抜く。

 落下と鞘走らせた勢いで南方棲戦姫の障壁に突き刺ささった刃が放つ激しい火花と甲高い音が強固な装甲に割れ目を作り、見えない壁に刺さり最大出力の高周波によって自らの刀身にひび割れを刻んでいく刀を支えにして宙にぶら下がった阿賀野の主砲と魚雷菅がわずかな間隙へと破壊力を集中させた。

 

『いやぁぁああっ!? 阿賀野ねぇえっ!!』

 

 直後、自分の放った砲雷撃の炎に巻かれた軽巡艦娘の姿に千歳の艦橋で阿賀野型二番艦の甲高い悲鳴と姉の名を半狂乱で叫ぶ声が響き。

 姉の無謀を心の底から心配する妹が上げた叫びの五月蠅さに白目を剥いた千歳は生き残りの艦載機の制御だけでなく容赦なく押し寄せる荒波や治まらない頭痛によって呻き、このまま気絶すれば楽になれるのでは、と囁きかける魅力的な悪魔の声に必死に抵抗する。

 

《これ以上やらせません! 全砲門開いてください!!》

 

 そうしている間に水平線の向こうから時間差で押し寄せる津波へ偵察部隊唯一の重巡洋艦娘が放った無数の障壁弾が命中し、はるか遠くで光の堤防が造られていく様子を前に千歳は自分の指揮官が狼狽している能代を正気に戻そうと奮闘する声を聞かされながらに五機まで減らされた子機の操作に集中する。

 そして、子機達が送ってくる視界の先で鍔まで砕けた太刀を手に敵の障壁の中へと落ちていく傷付いた阿賀野の姿を、そして、海面ぎりぎりで軽巡艦娘が光粒へと解け浮かび上がった金環に金剛型戦艦の名前を目撃した。

 

 大敵の眼下、陽に輝く銀色の錨を背負った栗色の髪と白い袖が戦風にはためく。

 

・・・

 

「つまり、その深海棲艦から混ぜ合わせる能力とやらを排除しない限りここから脱出は出来ない、と言う事か?」

 

 ズルリと霊力の入出力を行う為に艦娘の肌に備わっている幾何学模様の内側から幹から切り離された黒い枝が引き出され、人間の腕程の太さがある異物が刺さっていたはずの胸元には多少の黒い汚れだけが残る。

 それすらもお湯とタオルで洗われたならば泥や垢と一緒に押し流され、石鹸など無くとも汚れを擦り落とされた素肌が本来のミルク色を取り戻していく。

 

「ええ、すぐに焼いてしまえる程度の量ならともかくあの力がある限りは黒い血に触れるだけで生物だろうと無機物であろうと区別無く彼女の部品として取り込まれてしまうわ」

 

 高い場所にぶら下がった霊核へと手を伸ばした朝潮が魂の結晶を絡め取っている黒い枝垂れ枝を握るとその手の平に集められた霊力の熱が黒い体液ごと細管を焼き潰す。

 細い枝が内部の黒い血ごと焼き切られてぽとりと手に落ちてきた霊核からこびり付いている管の欠片や汚れをタオルで擦り落とした駆逐艦娘が嬉しそうに笑みを浮かべながら自分を肩車している青年へと手渡した。

 

「黒い血か・・・となると元の木阿弥と言うわけだな」

「いえ、私やあなた達が生きているのは幸か不幸か偶然でしかないわ、次、飲まれれば確実に命は無いと思って」

 

 ドラム缶で沸かされたお湯に古鷹の手を借りて浸かり隅々まで身体の汚れを洗い流した後、水気をふき取った後の肩に掛けられたタオルの上で伸び放題の枝毛だらけになっていた長い髪が龍鳳の持つハサミによって切り整えられていく。

 

「ついさっき、その能力に核となる物が存在している上にその場所まで分かると言っていたが、本当か?」

「感覚的にだけど彼女と同調していたのである程度はこの・・・限定海域だったっけ、その構造は大まかには分かってるから」

 

 頭の上の朝潮から受け取った幾つかの霊核を抱える木村へと神通が歩み寄り、軽巡艦娘へと手渡された水晶体が黒い枝垂れ枝から少し離れた場所に置かれたドラム缶へと運ばれ。

 蒸留された清潔な水で満たされた容器の中へと丁寧に入れられた霊核がふわふわと水の中で揺らめきながら沈み、輝く缶の底で先客へと挨拶するように先にドラム缶に収められていた霊核へと当たりコロンカランと軽い音を立てた。

 

「あれは彼女とここを繋ぐへその緒、そして、この山の内部だけでなく限定海域全体へ根の様に張り巡らされた血管網は貯め込んだ材料を分解してから彼女の望む形へと混ぜ合わせる・・・ただ、今の大きくなり過ぎた姿でその能力を使うには制御中枢となる部分が必要になってしまったようなの」

 

 肩に掛けられていたタオルが龍鳳の手で取られ丁寧な手つきで細かい毛が払い落され、彼女から借りた予備の下着を身に着けてその上から包帯をサラシの様に巻いて肌を申し訳程度に覆い、錆を削り落とし磨かれ金色を取り戻した菊花紋の首輪の留め具が閉じられる。

 船の船底と舵を模った踵の高い鉄靴へと整えられた爪先が差し込まれたが上手く足が動かずによろめき、すぐ近くに控えていた龍鳳がその身体に寄り添い支え、そして、正面から差し伸べられた古鷹の手を借りて深海棲艦に囚われていた艦娘が数年ぶりに自分の足で立ち上がった。

 

「あの幹が天井に繋がる場所、彼女にとっては下腹部・・・そこにそれ(・・)がある、でも、・・・本当に私にそれを撃つ力があると言うの? 正直言って聞いただけでは到底信じられる話じゃないのよ・・・その戦闘形態とか艦種能力とか」

 

 生温かい風が絶えず吹き抜ける山の頂上に突き出ている幾つかの残骸、その中の人が立ったまま姿を隠せる岩を衝立代わりに最低限の身だしなみを整えた艦娘が手伝いをしてくれた龍鳳と古鷹に付き添われて岩の陰から姿を現す。

 ただお湯で洗いタオルで拭いただけだが泥を被り野晒しだった時よりも柔らかく揺れる前髪の下で不安げな表情を浮かべた戦艦娘、大和が回収された霊核が集められているドラム缶の横に寝かされている陽炎へと顔を向け。

 問いかけられた陽炎型ネームシップは無為に呻きながら普段の明るく無遠慮な言葉遣いではなく似合わない妙に畏まった口調で大和の問いへと肯定の返事を返した。

 

「殲滅戦形態、戦艦娘特有の強力な能力だ。 こことは性質は異なるが深海棲艦の造り出した限定海域を内部から破壊した実績がある」

 

 明らかに初対面の時と態度が変わった陽炎へ大和は首を傾げ、彼女に対する気まずさで赤くなったり青くなったりと百面相をしている橙頭へと胡乱気な視線を投げた木村は艦娘として本来の能力を発揮する事無く深海棲艦の虜囚の身となっていた戦艦娘へとその身に存在している戦闘能力の仔細を告げ。

 

「・・・す、すまんっ」

「えっ、何が? どうしたと言うの?」

 

 湯浴みと散髪を終えた大和へと顔を向けた木村だが彼女の姿を見てから数秒の静止した後に陽炎とは別の方向性で気まずそうな顔をして腰と胸を包帯で巻き隠した以外は裸同然にボディラインを晒す美女から勢い良く目を逸らし、その急な動きに慌てふためいた朝潮が彼の頭の上で磨いていた最後の霊核を取り落としかける。

 

「え、えっ!? ちょっ、貴女もいきなりどうしたって言うのっ?」

 

 そして、駆逐艦娘を肩車したまま背を見せ小さく居心地悪そうに咳払いする木村の様子に気付き慌てた龍鳳が突然に自分の腰帯を解き霊力供給端子に増設された甲板(装備)によって肌に縫い留めらた片袖が破れるのも気にせず、セーラー服の上から着ていた桜色の着物を脱ぎ押し付ける様に恰好だけが潜水母艦に戻った艦娘はそれを大和に羽織らせた。

 

「あと・・・問題があるとすれば俺が指揮下に置ける艦娘の人数が旗艦を合わせても5人であると言う事か・・・」

 

 龍鳳(大鯨)に着付けをさせられ戸惑う大和の様子を横目にした陽炎が指揮官の呟きへと何気ない態度で一番戦力にならない自分が外で待つかそれこそ戦闘形態になった(巨大化した)大和の上に乗せてもらえば良い、と口にするがそれに対して指揮官は眉間にシワを寄せ口元を引き結んだまま呻きとも唸りともつかない小さな声を漏らす。

 

「馬鹿を言う、戦艦娘の砲撃、それも殲滅戦形態が主砲から放つのは数千度まで熱されたプラズマ粒子・・・論外だ」

 

 陽炎が口にした案を素っ気なく却下してから木村は霊核を集めているドラム缶の前、陽炎のすぐ近くまで移動してしゃがみ肩の上に乗っていた朝潮を地面に下ろせば駆逐艦娘が黒い枝垂れ枝から解放した艦娘の魂を青白い輝きが揺らめく水面へと収める。

 神通の手でドラム缶の蓋が閉められていく様子を眺めながらやっと脱出の手がかりを掴んだと言うのにその手前で木村は陽炎をここに置き去りにしなければならない可能性、否、自らの力不足によって彼女の生命を諦めなければならないと言う難題の前で青年士官は顔を強く強く顰めた。

 

 その提案自体は木村から死ぬな(生きてくれ)命令された(願われた)からこそ出た言葉であり、彼女自身が自分の命を蔑ろにする意図は無かったのだが、木村の顔を見上げる事しか出来ない自分がお荷物でしかない状況に陽炎は何か良い考えは無いかと悩む顔を隠してモゾモゾとアルミシートの中で身動ぎする。

 

 そして、こんなマナが混じる風が吹き続ける限定海域で野宿までしたのだから一人分のキャパ(許容量)ぐらい増えてるんじゃない、と自分のせいで苦悩する指揮官を励ます様に、そして、もしそうじゃなかったらその時はその時、と保温シートから顔を出した陽炎は空元気と言うには掠れた声でその場しのぎのセリフと共に笑って見せた。

 




 
Q.時間が無いって言ったよね?

A.そんな事を当事者である彼らが知るわけがない。

Q.しかも、なんで呑気にお風呂入ってんですか!?

A.必要不可欠な描写であったと自負しております。
 
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