艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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誰でも良い、世界でたった一人でも良い。
私達が無意味な存在などではないんだ、と言って欲しい。

だって私を頭の上から見下ろし笑っている運命が語る。
死ぬ為に造られた生贄、である事を認めるのは。

・・・悲しすぎるから。
 


第九十五話

 灰色の天井の下に眩い夜明けの閃光が生まれ、元は姫級深海棲艦の玉座であった瓦礫の山が突然に出現した巨大な脚によって軋む。

 続いて現れた黒鉄が桜色の布地を噛みながらその巨体の左右に装甲を展開させ、括れた腰部分への主要艤装の接続でその身に纏う着物に穴が開き花びらの様に散る端切れが山頂に吹く風に乗って光粒を散らす。

 

「ははっ、ホントにキャパ増えてたなんて司令ってばついてるんじゃない?」

「運の良い人間はこんな場所に来る事も無かっただろうし、それに減らず口ばかりを叩く怪我人を背負って山を登った俺が本当についていると思っているか?」

「それはまぁ~、ごもっとも?」

 

 重い鉄がぶつかり合い無数のボルトが火花を散らしながら回転し46cm口径の部品を繋げていく様子を映し出す360度モニター。

 出撃準備を開始している艦橋に寝かされたオレンジ髪の駆逐艦娘が愉快そうに声を上げれば仏頂面を浮かべた部隊指揮官が少し愚痴っぽい野暮なセリフを返した。

 

「艤装各部チェック! 主動力は異常無しです!」

「第一第二主砲の動作確認、三番砲の構築と並行し各兵装への霊力循環を開始します・・・それにしても基本艤装だけなのになんと言う火砲の数っ

「障壁の展開を確認ですけど・・・すごいっ、戦艦の人ってこんなに増幅効率良いの!?」

「あれ・・・? 通信系の形式ってこんなのだっけ、ぇっ、アップデートの開始? これって更新されるモノだったの!?」

 

 メインモニターへと手を伸ばして構築されていく巨大機械の機能に不備が無いかを確認する古鷹達の声、初めて戦闘形態で立つ戦艦娘の補助に掛かり切りかつ初めて触るシステムに驚きの声を上げている四人の様子を見回してから木村は自分の目の前に浮かび上がる戦艦娘、大和の現在状態を示す立体映像へと眼を向けた。

 龍鳳からお仕着せられた桜色の着物が自分自身の艤装に引っ掛けられ大和が戸惑いながらも着崩れた襟の合わせ目を整えている様子にこの場にそぐわない男心がくすぐられた木村だったが床からミノムシ(陽炎)が揶揄いネタを探す様な笑みで見上げくる為に指揮官は大和の艶姿に後ろ髪引かれつつも平静を装い(仏頂面を浮かべ)ながらコンソールパネルの確認を始め。

 

 金に輝く葉と錨が絡み合う巨大な輪の内側から噴き出す光粒が無数の部品へと変わり大和の身体へと引き寄せられて艤装が施され、桜色の襟がはためく胸元に太く編まれた金色の注連縄が結ばれ、栗毛が揺れる頭部でカチューシャ(レーダー)が角ばったアンテナを左右に展開し金糸飾りが揺れる。

 

 そして、瓦礫の山頂と灰色の天井の間で高出力タービンが産声を上げる様に唸り声を響かせ、彼女の原型たる大戦艦大和を模した重厚な黒鉄の城が顕現した。

 

・・・

 

《これが私の姿、大和の・・・艤装》

 

 瓦礫と岩石が堆積した大山脈の頂上、姫級深海棲艦(集積地棲姫)がかつてその威容を誇っていた玉座の上に立った大和が巨大化した重苦しくも頼もしさを感じる船体と艤装(自分自身)へと感嘆を漏らし。

 初めて触れる筈なのに自分の手足の様に動かせると言う手応えがある武装の塊に触れた戦艦娘はその物言わぬ金属の内側からかつて自分と共に苦難の時代に立ち向かった戦士達の()が伝わってくる感覚に声を震わせた。

 

《あぁ・・・なんだ・・・そうだったの》

 

 祈りと願いを託して消えてしまったのではなく目に見えず朧げではあっても今も自分の内側に存在していた意志(彼ら)に気付いた大和は目元に浮かんだ涙を吹き抜ける風へと散らす。

 火が入った第二の心臓(動力機関)の熱によって自分の中で止まっていた時間が動き出す感覚に大和は急く想いを一時だけ抑えてかつて物言わぬ戦艦であった頃の自分と共にいた彼ら達の存在を確かめる様(懐かしむ為)に目を閉じ胸に手を当てる。

 

『どうした? 何か問題があるなら些細な事でも報告して貰いたい、君は艦娘としての戦い方を知らずに実戦に挑まなければならないのだからな』

《いえ、問題なんて何も無いわ・・・私の事よりもそちらはどうなの?》

『少し把握に手間取ったが問題無い、敢えて挙げるなら攻撃目標の位置情報が君の感覚次第と言う点だな』

 

 自分の内側から聞こえる木村の余所余所しい物言い、陽炎達と交わす口調との差に大和はわずかな不満を感じたが、よく考えれば初対面で彼に攻撃的な態度をとったのは自分であると思い出す。

 そして、木村は部下(陽炎達)を、大和は霊核(武蔵達)を鎮守府へ連れ帰る為に結んだ一時的な協力関係である事を考えれば無遠慮に馴れ馴れしくされるよりは余程マシと言う考えが大和の頭に過る。

 

 それにしても、と少し前に顔を合わせたばかりある青年と言葉を交わす度に何かズレている様な感覚が大和に付き纏う。

 ズレと言っても胸で疼くのは気味悪さや気持ち悪さではなく、知っている筈なのにそれが何なのかを思い出せないもどかしさと言うべき感覚。

 

 木村と大和は出会ってからまだ二時間程しか経っていない、深海棲艦に囚われていた微睡みの狭間でその姿を見た時には忌々しい組織の制服を身に着け埃に塗れた小汚い青年としか思わなかった。

 だと言うのに艦娘が本来の力を使う為に必要だからと説明を受けて木村に手を握られ、そこから伝わってきた鍛えられた軍人である事が分かる肌の硬さと出撃を命じる力強い声に大和は古い友人に会った様な不思議な安堵を感じた。

 

(いえ、今はそんな事を気にしている場合じゃないのよね・・・私は武蔵達にもう一度会わなければならない)

 

 自分の中に居るのは木村達だけではなく深海棲艦に繋がる黒枝からの拘束を解かれた仲間達の魂、自分の弱さが原因でいくら謝っても足りないぐらいの苦痛を与えてしまった艦娘達の心が艦橋に置かれた円筒の中で帰還と復活を待っているのだ、と大和は顔を上げ頭上に広がる白灰色の天井を瞳に映した。

 もし、あの駆逐艦娘(陽炎)が言う様に命を落とし霊核となった仲間達が自分(大和)の犯した罪を覚えていてくれていたなら諦めていた償いの機会が得られる、そして、万に一つ鎮守府に帰り着き自分を断罪する権利を持った彼女達が蘇りその贖罪の為に心臓を差し出せと言われたなら喜んで捧げよう、と強い意志を宿した瞳が山頂から天井へと伸びる黒い血管の巨樹を見据える。

 

『砲と動力制御は艦橋で担当する、君は正確な照準と転倒しない事にだけ集中してもらう』

《・・・了解よ、ただその言い方は見くびられているみたいで気に入らないわね》

 

 こちらを馬鹿にすると言うより子ども扱いしていると言うべき木村の言葉へ不愉快さを感じる事が出来ず、やはり調子が狂うとは声に出さず大和は意識的に刺々しい口調を返してから軽く頭を振ってポニーテールを揺らす。

 

『事実だ、君が考えている以上に砲撃の反動は激しいものになる』

 

 その言葉をかつて大和達へ無茶な命令を下しては肥えた腹を揺らしていた大佐の階級章(一等海佐)を付けた指揮官の様な人間が言ったなら。

 船室に隠れているだけならまだしも戦闘が始まったなら護衛艦の艦長を差し置いて乗っている海上拠点である船団へ撤退を命じ真っ先に逃げ出す。

 なのに大和達が目的を達成できなかったならその欠点をほじくり責任を取れ(服を脱げ)と命令して卑下た視線と共に身体に触れようとした下種が同じ事を口にしたなら、ただでは済まさなかっただろう。

 

 自分を頼ってくれる仲間達へ理不尽な叱責が及ばぬように自らを犠牲にしようとした大和と軍人モドキの間に割って入って贅肉が揺れる腕を捻り上げるに止めたその時の武蔵の様に手加減をする自制心は今の大和の中には無いはずだった。

 

(これもあの囁きかける何か(・・・・・・・)が私達を造った時に組み込んだ命令だとでも言うの・・・?)

 

 荒ぶる海神(深海棲艦)へと捧げる生贄(艦娘)を用意した何者かは指揮官としての適性を持った相手(指揮官)へと艦娘達に好感を抱かせる性質を与えて処刑台(戦場)へと自分から進んで向かう都合の良い駒として扱っているとでも言うのだろうか、と。

 深海棲艦との精神的な同調と共感によってその記憶を覗き見て知った自分達を操る様に見えない糸を手繰る何者か、深海棲艦と艦娘を造り上げて戦わせている姿の見えない怪物が書いた筋書きを推測する。

 そんな仮定と共に大和の心中が騒めき何者かの下賤な策略へと強い不信感が湧き上がるのにその策略の延長線上に居る木村達を自分に乗せている事実に対して霊核(彼ら)は少しも文句を付けようとしない事が戦艦娘は我が事ながら不思議で仕方なかった。

 

『照準のコントロール権限を旗艦へ、これより殲滅戦形態へ変形を開始する。 海上ではない為、形態変更の反動も強くなるはずだ! 総員注意せよ!』

 

 艦橋で指揮する木村とそれに了解を返す古鷹達の声を聞き流しながら自分の身体と心のアンバランスさに眉を顰めつつ大和は記憶と感覚を頼りに継ぎ接ぎで出来た深海棲艦の力の源を天井の向こうに幻視する。

 様々な思いが渦巻く頭の中に直接聞こえた指揮官からの声を張った命令でふと戦艦娘は彼に対する嫌悪感が軽減されていく理由を一つ思いついた。

 

(ああ、そうか、彼も私と同じ運命の駒だからなのね・・・違うのは糸を引いている者に気付いているか気付いていないかの差かしら?)

 

 しかし、大和は望まず今ここにある窮地に立たされた木村の境遇を憐れむつもりは無い。

 そして、自分達が誰かの用意した運命に従わされているだけの生贄なのだと忠告する親切心も無い。

 

 ただ武蔵に床に叩きつけられ無様な泣き声を上げ駆けつけて来た陸軍の兵隊(陸自隊員)に連行された一等海佐と違い、今、巨大な敵へと挑もうとしている青年は自分と共に戦場にいるからだ、と大和はまだズレを感じながらもその結論に一応の納得をした。

 

 そうして納得したと言うのに。

 

 もし、もっと早く彼の様に艦娘の力に理解を示し自分達と同じ戦場に立つ気概を持った軍人と出会えていたなら、と今更な事を考えかけた大和はすぐにその夢想を打ち消す様に結局は遅かれ早かれ理不尽を課す運命によって生贄が増えただけだろうと考え苦笑する。

 

(我ながら女々しい未練・・・ただ、今だけは彼に従う事に変わりはない、武蔵達を・・・・っ!?)

 

 そうして物思いに耽っていた戦艦娘の装備した艤装から鋼の轟音が鳴り響き、崩れかけた玉座の頂点に立つ大和の黒鉄の艤装が変形を開始して各部の副砲が砲身を砲塔内へ格納し、それと入れ替わる様に副砲上部の装甲が展開しラジエーターに見える機構が次々に現れる。

 副砲が変形した波打つ様に連なる銀色の金属板がお互いの間で無数の光粒を反射する様に交換し、身体を左右から守る様に囲っていた艦首を模した装甲が重なり背部へと下がり燕の尾の様にその二股の尖った先端を地面へ向けた。

 

《な、なに!? 何がっ!?》

『形態変更に伴い艤装の重量バランスが変化する、さっきも言ったが君は転ばない事だけに集中しろ!』

 

 纏う武装だけでなく身体の中に流れる霊力の流れが強制的に切り替わっていく感覚と背中で激しく揺れる艤装の動きに戸惑いよろめいた大和は艦橋から聞こえた木村の声にムッと口元を尖らせた。

 初めて触れる艤装とは言えその動き振り回され転び尻餅を突いてしまえば艦橋に居る青年からそら見た事かと笑われるだろうと予感した大和はじゃじゃ馬の様に暴れ体を振り回そうとする戦艦艤装の変形で震える両膝を抑える様に手で掴む。

 

 そんな艤装のあちこちで行われている変形の反動に耐えながら身に着けている武装を見回した大和の左右で二基の46cm三連装砲が砲塔と砲身を割って三本のレールが並行して天井を指す巨大な単装砲へと姿を変え。

 砲身内で電光を走らせる形へ作り変えられた一番と二番主砲に唖然とした大和の背中で今度は地響きの様な音と共に黒鉄の剛腕で第三主砲が持ち上げる。

 

 亜麻色の髪の上で三番目の46cm三連装砲が真っ二つに分離して大和の背部に立つ太い煙突の側面へぴったりと噛み合い砲塔基部が自動でボルトを回転させて鋼同士を固定し、続いて動力機関へと太いケーブルが直結され新たな二門の荷電粒子砲が大和の頭上に並びレール上に電流の光を走らせた。

 

『形態変更の完了を確認、これより砲撃シーケンスを開始する! 加速器だけでなく主動力も全て主砲へ集中させろ!』

 

 その木村の声を切っ掛けに視界の中にいくつもの文字が浮かび上がるが複雑な数式やグラフデータは学習の機会を与えられなかった故に現代科学に疎い大和にとって馴染みが無く。

 辛うじてそれが自身が行う砲撃に必要な情報なのだと分かるものの押し寄せる文字の荒波に混乱して目を白黒させた大和の艤装が今度は幾つものワイヤーを勢い良く打ち出して地面に錨を喰い込ませる。

 艤装ごと身体を山頂に繋ぎ留められ、いつの間にか大和の背中に立ち上がっていた巨大な鋼の円環が甲高い音を立て四基の主砲へと供給するエネルギーを加速加熱させ始めた。

 頭の真後ろから聞こえるその大音量は鼓膜を壊されてもおかしくない程の五月蠅さなのに大和の耳は不思議と傷つけられる事無く、それどころか背負った輪の中の霊力循環の増幅と加速に比例して戦艦娘の胸中で興奮にも似た熱が高ぶっていく。

 

 そして、不意に前が見えない程の文字列で埋め尽くされていた視界がきれいに開けて簡潔に自分の主砲が狙う予測射線が記され、その砲撃に必要な熱量(弾薬)が後何分で用意できるかを示すタイマー表示が瞳の中で数字を減らしていく。

 本当なら先ほど目の前を埋め尽くした計算式や艤装内を駆け巡るエネルギーの制御も全て自分でするべき行程であり、それらを木村達が肩代わりしていると言う事実に気付かされた大和は不慣れさ故にどうにもならないと分かっていても自らへの不甲斐なさを恥じる。

 

 そうしている間にも輝きだした巨大な円とそこに直結され腰の左右と両肩の上に並んだ大和自身の腰より太く長いレールキャノン四門の内部で燃え滾る陽の光が渦巻き。

 大和の腰から燕尾の様に地面を向いた装甲の上で副砲だった大気中から光の粒(マナ粒子)を掻き集める霊力吸収機構が光を溢れさせて膜の様に広げていく。

 

『旗艦は照準位置の指定をっ! 操作方法が分からない場合は古鷹の補助に従って・・・』

《それは分かっているから大丈夫、・・・あと、私の名前は君や旗艦ではなく・・・大和よ》

『何・・・? いや、しかし・・・』

 

 震えが止まった膝から手を放し前かがみになっていた上体を起こした戦艦が鳶色の瞳の中に黒い幹とそれが繋がる天井のさらに向こう側にある昏い霊力が凝り固まった結晶を捉えて主砲に同期したターゲットマーカーを集中させる。

 身体の左右から腰の後ろへと移動した艦首装甲の霊力吸収機構が青白い光を噴き出し細長く炎の様に揺らめく尾羽を形作り、灼熱を滾らせる円環から火山の噴火を思わせる程の盛大さで一対の大翼が広がり大和だけでなく彼女が立つ山頂を抱く様に包んだ。

 

《・・・多分、貴方は気を使って私の名前を呼ばないようにしてくれているんでしょうけれど、仮にも指揮官として命令をすると言うなら名前を呼んで》

 

 木村が決して愛想が良いとは言えない人間である事は彼の堅苦しい言動とそれを見る陽炎達の苦笑いからまだ彼らへ隔意がある大和にも分かったが更にそれに加えて彼が言葉には出さずとも他者を尊重する非常に律儀な人であると言う感想を付け加える。

 それは説得と言うよりは挑発と言うべき陽炎との会話で大和の内側から噴出した大戦艦と称えられた名前に対する複雑な感情を知ったからか、それとも彼女自身が名前を呼ばれたくないと言ったその望みを律儀に受け入れ従っているのか。

 

《私のこの力で目標である結晶を撃ち抜けなければ間違いなく損傷を直す為に材料を求めて彼女の黒い血が溢れて暴れ出す・・・そうなれば貴方もその子達も、そして、私と武蔵達も鎮守府には帰れなくなるでしょうね》

 

 高熱の霊力が形を成した青白い翼が山へと上ってくる風からマナ粒子を奪い取り、黒い山脈の至る所から集まってくる光粒を蓄えて最大まで巨大化し揺らめく炎の翼と尾羽を大和が羽ばたかせる。

 

《だから、私の最期になるかもしれないから、なるんだとしたら、・・・私は自分の名前に悔いだけを残して逝きたくない》

 

 強大過ぎて抵抗など無意味であると既に思い知らされた存在へ高ぶる心に突き動かされ荒唐無稽な希望を信じて挑む反撃の一手。

 山をも貫く強力無比な主砲を与えられ難攻不落の海上要塞と称えられた自らの原型が迎えた最期と奇しくも同じ様な戦いに挑む事になった大和はもう一度だけ儚い希望へを信じる為に木村へとそれを願う。

 

大和()に命令をして・・・提督》

 

 自然と口から出た指揮官の呼称に合わせ全てのターゲットマーカーが目視でもレーダーでも存在を確認できない標的へと固定され、輝く鳳凰の翼と尾羽が黒鉄の薬室へと集めたエネルギーを受け渡し圧縮し、固定錨とワイヤーを軋ませながら太陽の光を宿した四つの主砲が大和の意志に従い砲塔をその一点へと砲口を向けた。

 

『砲撃準備の完了を確認、これより戦艦大和へ攻撃目標への砲撃を、・・・命じる』

 

 わざわざ確認せずとも大和にだって木村や陽炎達の心が圧倒的な力の差がある怪物への恐れに震えている事は自分の事の様に分かっている。

 

打ちー方ッ始め!!

 

 だからだろうか、それでも生きる事を諦めず困難に挫ける事を良しとしないその木村達の姿が大和の心中でかつて戦艦大和(自らの原型)へと守るべき人達の安寧を祈り護国の願いを託し、最期の任務に殉じた彼ら(・・)の姿と重なった。

 

《了解! 全主砲、斉射始めっ!!》

 

 思い出した願いを胸に今だけは、と諦観を振り切った大和の叫び声に重なって放たれた大咆哮が黒い血管の幹に並行して白灰色の天井へと突き刺さり。

 限定海域(資材格納庫)とその持ち主を繋ぐ臍の緒を根元ごと焼き潰しながら灼熱の柱が一直線に外へ向かって突き進む。

 

 見かけだけが縮小された空間を隔てる深海棲艦の霊力で幾重にも編まれた内壁が黒い血肉諸共に撃ち破られ、深海棲艦の腹に収まる様に押しつぶされていた空間の一端が光の槍によって問答無用で正常な距離へと戻される。

 

 そして、南方棲戦姫が必要とする栄養(材料)を運ぶ血管網の中心にあった黒い霊力の結晶体が内側から突き進んできた破壊の権化に飲み込まれ。

 呆気ない程簡単に目標を貫いた大和の放った一斉射はさらにさらにと勢いを衰えさせる事無く限定海域の中心から閉鎖空間の外壁たる姫級深海棲艦の白亜の肌を黒い内臓ごと穿った。

 

・・・

 

「五十鈴、まだか!?」

「急かさないで! 今探してるんでしょ!!」

 

 駆逐艦娘の格闘戦よりはマシだが戦艦娘がやるには乱暴が過ぎる回避運動と迎撃行動に振り回されながら大声を上げれば、メインモニターにしがみついて左目で花菱紋を光らせている五十鈴が怒声を返す。

 

「限定海域の空間反応があるのは分かったけど、分かったのに! 距離や重力まで狂ってるみたいで正確な位置が捉えられないのよっ!?」

 

 現在、俺達の旗艦として南方棲戦姫と戦闘している榛名の装甲と動力系が悲鳴を上げ、戦艦娘が新しいバリアを作り出す度に硬質な音を立てて白い改造巫女服を守る透明な壁に無数のヒビが走った。

 流石に南方棲戦姫もあの馬鹿みたいな威力の主砲を目と鼻の先に撃つなんて事はしないらしいが、それでも艶めかしい身体に不釣り合いなゴツイ両腕が振り回す副砲は榛名が装備している35.6cm連装砲よりも大きく威力も相応にまき散らしている。

 

(残り時間はあと10分も無いってのに! 当てずっぽうでアストラルテザー打ち込むか!? 木村、シグナルはどうした! お前ら何処にいるんだよ!?)

 

 とにかく突入する事だけを考えて荒れ狂う海を突き進み無茶な突撃をやってぎりぎり南方棲戦姫が体の外側に張っていたドーム状のバリアの内側に踏み込んだは良いが見た目と釣り合わない姫級深海棲艦が発する大質量の反応のせいで木村達が閉じ込められている限定海域の位置が分からない。

 五十鈴達の観測で手元に送られてきた情報が正しければあの東京タワーを見下ろせる身長の巨乳丸出しかつ艶めかしい腰と尻を揺らす痴女姫が数字の上ではスリーサイズ全て数百kmと言う計測不能ボディと言う事になってしまうらしい。

 

 それに加えてここまでの道のりでファインプレーをやってのけてくれた阿賀野、吹雪、浜風、大鳳の四人は中破以上大破未満の状態になってしまった。

 今もちゃんと自分の足で立って榛名の戦闘補助をしている吹雪達の様子を見れば戦えない事は無さそうだが相手が相手である以上もう一度出撃と言うわけにはいかない。

 しかし、推進力と防御力に余裕がある霞はいざと言う時に全力で逃げる為に温存しなければならない。

 だから、今のところは時津風と那珂が主戦力の榛名と連携して旗艦変更などを交えた回避に専念しているがそこにいるだけでダメージを受けると言う南方棲戦姫の足元では後何回の攻撃が凌げるか。

 

「プロデューサーっ! またロケットに火がっ!!」

 

 とは言え相手は俺達に落ち着いて考える時間もくれないらしい。

 

「くぉのっ・・・くそったれ!!」

 

 ついさっき身体を挟み込む砲弾の夾叉によって作られた津波に圧し潰されかけお団子頭が解けた那珂が濡れた制服と茶髪を振り乱してメインモニターを指さし、その南方棲戦姫の長い左脚を包む強固な装甲(ロングブーツ)に包まれたふくらはぎで紅い吐息を漏らし始めているロケットノズルを見て俺は潰されたカエルの様な呻きの直後に怒りに任せて叫ぶ。

 

「今度はなんだよ! 回し蹴りか!? 踵落としか!!」

 

 目測160mのスラリと伸びたと言うにはあまりにも長過ぎな巨人の脚から繰り出されるロケットキック。

 その前世で見た南方棲戦姫のキャラクタービジュアルを思い起こせばそんなパーツもあったなと思う程度にしか印象に残っていない部分が冗談みたいな破壊力を発揮する。

 

 数十分前、機銃と副砲を乱射する姫級を中心にした半径600m前後の狭苦しい密室で榛名から旗艦を交代し逃げ回っていた時津風に南方棲戦姫の顔が苛立ち痺れを切らしたらしく。

 放たれた推定数万tかつ300m超の巨体を持つ姫級の蹴りに冗談みたいな加速力を与えるロケットによる一撃。

 

 直撃は回避できたがその振り抜かれた足が巻き起こした暴風は14mの駆逐艦娘を容易く木の葉の様に宙に吹き飛ばし余波である筈の乱気流で引きずり落す様に海面に叩きつける程の威力があった。

 

「ギリギリまで攻撃を引き付けて旗艦変更で回避する! 那珂は出撃準備!」

《はい! 提督のご命令の通りに!》

「わ、わっかりました~☆ もしかして那珂ちゃんピーンチ?

「艦隊のアイドルなら出来る! すまん、那珂頼んっ・・・」

 

 運良く三回避けれたおかげで左足のロケットによる急加速には予備動作がある事が分かっている。

 だから直撃だけは避けられると言う自信はあるんだが、その足が通り過ぎた海は文字通りの地獄、大質量の通過で発生する暴風と津波が容赦なく旗艦を交代した艦娘の体力と防御力を削り落していくだろう。

 

「「提督!!」」

 

 砲撃を避けながら南方棲戦姫の蹴りの直線上から外れる為に移動しようとしている榛名の状態に気を配りながらいつでも那珂へと旗艦変更できるように俺はコンソールに手を掛け。

 そんな時、俺に向かって敵の攻撃の予兆を探っていた鳳翔と木村達を探していた五十鈴が同時に振り返った。

 

「姫級内部に艦娘の強い反応! 限定海域も見付けたわよ!!」

「姫級内部に強力な熱源反応! 敵が主砲を撃つようです!!」

 

 右の達成感の笑みと左の緊迫の表情から同時に告げられた言葉に戸惑い目を見開いた俺の目の前。

 お互いのセリフに驚いて顔を見合わせている五十鈴と鳳翔の向こうでギラギラとした赤い目をこちらに向けて着火したロケット付きの左足を振り抜こうとしている南方棲戦姫の姿。

 

 その姫級深海棲艦の白い白い下腹部が不意に内側から光り始め、それが妙にスローに見えた直後にその腹を突き破った光の柱が荒れ狂う海を真っ二つに切り裂きながら俺達のいる場所へと突き進んできた。

 

「はっ、榛名、伏せろぉおっ!!」

 




 
射線上に入るなって、私言わなかった?
 
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