艦これ、始まるよ。   作:マサンナナイ

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Q.間に合わないとかと思ったよ。

A.とんでもねぇ、間に合わせたんだ。
 


第九十六話

 

『ぁうっ!? ・・・提督、榛名は、・・・水の中? ええ、海面にっ!』

 

 大量の海水と共に硬い何かに叩きつけられバチリと放電が弾ける音と痛みに榛名は身体(船体)が敵の造り出したドーム型の大障壁の端に押し流されたと知り。

 混乱しながらも頭の中に直接聞こえた海面の方向を叫ぶ仲間の声に従い触れているだけで肌を苛む攻撃的な深海棲艦の霊力の塊へ蹴りを入れた戦艦娘はその反動で転覆して沈み始めている重い艤装と身体を海面へと向ける。

 

《ぷはっ、はぁはぁ・・・これはいったい、けほっ、・・・いつの間に霧が?》

 

 健脚によって水中では(おもり)にしかならない鉄の塊(艤装)を背負いながらもなんとか海の上へと逃れ、海面に這うような状態で全身ずぶ濡れの榛名は咳き込み紅白に金糸飾りが鮮やかな巫女服から大量の海水が流れ落ち、浸水によって窒息しかけていた金剛型艦娘の艤装の汽笛や給気口がクジラの様に潮を吹きつつ息を吹き返す。

 

『それはさっきの砲撃のせいだろうな、左舷はやられたがバイタルパートと動力系に不全無し・・・金剛型っても戦艦か、すげえ防御力だ』

《提督・・・?》

 

 そして、霊力の供給による応急処置でその身を守る透明な障壁が張り直され浮力を取り戻した榛名は濡れて顔に張り付いた前髪を手早く掻き上げ、グラグラと揺れる視界に活を入れる為に頭を振ってから自らの黒く焦げ付いた左袖とその中で手のひらを開け広げして腕の無事を確かめる。

 姉妹とお揃いの制服の袖は半ば焼け落ちていたが敵から放たれた突然の攻撃にもその腕は軽い火傷、そうしている内に艦橋でダメージコントロールを担当している仲間から榛名は自分の左舷に並んでいた主砲の一基が抉れて無くなりもう一基も高熱で溶けて原型を失っている事、だがそれ以外の装備は問題なく動かせる事を知らされた。

 

『それはともかく榛名っ、立てるか?』

 

 そして、あと一秒でも指揮官からの回避命令が遅れていたならば今目の前にある腕など跡形もなかったどころか背負った艤装ごと身体を焼き尽くされていただろうと榛名は南方棲戦姫が放った瞼の裏に焼き付く凄まじい閃光の威力を思い返す。

 

《はい・・・、榛名なら・・・大丈夫です、提督! ええ、大丈夫です!》

 

 太陽が落ちてきた様な熱光線が大量の海水を焼いて発生させた水蒸気爆発に弾き飛ばされ津波に飲まれたものの片袖と左舷の艤装が焼き潰された程度のダメージで済んだ事を確認して胸を撫で下ろしていた榛名はまだ少し鈍い痛みを発している身体に気合を入れ自身の指揮官である中村へと返事を返した。

 溶け歪んだ左舷と違い戦艦娘のロングブーツには傷一つ無く、その背中で再起動したスクリューの推進力を借りて榛名は両足で荒波に負けずしっかりと立ち上がり向かい風に立ち向かってうねる水蒸気の向こうに山か塔かと言う程に巨大な影を見つける。

 

『時間は無いが木村艦隊と思われる反応は五十鈴が追跡してくれている、あとはアイツらを限定海域から引っこ抜いて逃げるだけだ』

 

 調子を確かめる様に唸るスクリューが体を押す感覚に戸惑う事無く対応して前傾姿勢を取った榛名は頭の中に直接聞こえる中村の声に神妙な顔を浮かべて瞳の中に浮かび上がる巨大な敵への針路に従って舵を立てる。

 

『だから・・・あと少しだけ無茶に付き合ってくれ、頼むっ!』

 

 そして、普段のいい加減さが無いだけでなく真面目で神妙な口調で告げられた中村の願いに戦艦娘は傷付きながら常識外れの敵を前にすると言う状況にあって場違いな程に美しく花の様な笑顔を咲かせた。

 

《少しだけなんて言わないでください、榛名はどんな事があろうと最後まで提督のお供をいたします》

『あー、うん・・・なんか、すまんな』

《ふふっ♪》

 

 恋焦がれる相手から全幅の信頼を感じる命令を受け、持ち主の意気に呼応し焼け付く程に唸りを上げるタービンの勢いで走り出した榛名は行く手を遮る高波を蹴破り吹き荒れる風に消えていく水蒸気から現れ輪郭を確かなモノにしていく南方棲戦姫へと直進する。

 

《榛名、いざ参ります!!》

 

 いっそ敵ながら天晴(あっぱれ)と言ってしまいそうになる程に自らを上回る強力な破壊力を持った敵艦へと自分から姿を晒し正面から攻撃を仕掛けるなど無謀の極みと言えるのだが、提督からの信頼と言う燃料を投入された身体から戦意の気炎を立ち上らせる金剛型三番艦にとってはその程度の不利など些細な事だった。

 

《敵艦見ゆ!》

 

 戦艦でありながら軽巡の航行速度に匹敵する速力を誇る榛名にとって直径なら1kmを少し上回る程度の広さ、南方棲戦姫を中心とするドーム状に広がるバリアの半径となれば一足飛びに詰められる程度の短距離でしかない。

 自分と提督ならば先程の不意打ちの様な卑怯な攻撃であろうと物の数ではないと自信を漲らせ、無事だった右舷側の艤装に命じて今使える武装全てで薄れた霧から見えた姫級深海棲艦へと揃えて照準する。

 そうして針路を遮る様にうねる濃霧など意に介せず榛名は荒波を駆け抜け、その身を取り巻いて目隠しとなっていた濃密な水蒸気の中から躊躇う事無く飛び出し。

 

《提督、攻撃の・・・くっ!?》

 

 霧の切れ間に顔を出した途端に濡れた髪と制服を激しい旋風に煽られた榛名は敵の予想とは違う姿を捉え驚きに声を詰まらせ目を見開いた。

 

・・・

 

「な、何がどうなってんだ!?」

 

 煙幕の様に視界を遮っていた濃い蒸気の中から飛び出した榛名の艦橋で敵からの迎撃に備えていた中村は自分達に目もくれず海面に垂らした長い白髪を引きずり左右非対称なハイヒールとロングブーツの爪先で波を掻き分け進む南方棲戦姫の姿に困惑する。

 

 ロケットの様に赤く燃え盛る左脚の推進機関によって加速を始めたらしい南方棲戦姫の巨体、目測ながら全高は300m弱、両腕に備える巨大な武装を含めれば更なる偉容を誇る正に海に直立した戦艦と言うべき存在が少しでも動けば大質量の移動によって多くの影響が周囲にばら撒かれるのは当然。

 艦橋からの観測で割り出された姫級深海棲艦の速度が60knotを超え、その身体にぶつかり問答無用で押しやられた空気が黒鉄の凹凸の間で渦を巻きその足元へと突風となって海上の全てを押し潰すかの様な勢いで吹き付け。

 襲い掛かってくる高低差数十mの高波を巧みに交わしてはいるが姫級へと照準を付ける余裕は海を走る榛名本人にも艦橋にいる中村達にも無く。

 

 迂闊に近付けば他の艦種よりも重量装備を身に纏う戦艦娘と言えど跳ね飛ばされまた海中へと転覆しかねない敵の動き歯噛みしながら並走する榛名の姿をコンソール上で横目にした中村はそれ以上に姫級が自分達に目もくれず何かを追いかける様に前方へと両手を伸ばして焦燥に表情を歪めている様子より、その強大過ぎる深海棲艦の進む先が日本への直線である事よりも、敵の船体に開いた大穴に困惑する。

 

「・・・あの腹の穴は、なんだ? アイツは何を追いかけてる?」

 

 中村は暴風の衣を纏う南方棲戦姫が鋭い牙を生やした鉄顎を備えた腕部艤装を振り上げるその先で僅かに霊力の残滓が作る帯の様な揺らめき、そして、姫級の大きく抉れ背中まで貫通していないとおかしい深さの穴が開いた腹部に眉を顰め困惑を声にして漏らす。

 その南方棲戦姫の下腹部、中村の記憶が確かなら剥き出しの白肌と楕円に窪んだへそがあった場所には闇に繋がっている様な真っ黒で深い大穴があり、そこから溢れたコールタールの様に黒く粘つく血が内側から噴き出しているらしい空気で飛び散り姫級深海棲艦の下半身と足元の海を黒く穢していく。

 

「提督! 南方棲戦姫内の反応!」

「はっ!? すまん、惚けている暇なんて無いんだよな! 木村達はどこだ!?」

 

 何の前触れもなく強力無比な奇襲攻撃をしたかと思えば明らかに尋常では無い傷を腹に抱えた姿を無防備に晒しているだけでなく迷子の子供の様な顔で遠くへ流れる霞か雲を追いかける様な理解に苦しむ行動をとっている。

 さっきまで追い回していた艦娘など眼中に無いとばかりに全く見当違いの方向へとなにやら必死な顔と足を向けている深海棲艦への疑問で思考停止しかけてていた中村を起こすように五十鈴の声が艦橋に響き指揮席に座る彼へと蒼い瞳の中で白く輝く花菱紋が向けられた。

 

「IFFは認識不能で通信も繋がらないけれど、あそこ! 間違いなく木村三佐達はあの穴の向こうに居る!」

「はっ、ぁ? 通信繋がらない・・・って、内部のマナ濃度のせいか? でも識別が出来ないってなんだよ? 陽炎達のIFFコードは全員登録されてるだろ」

「そんなの知らないわよっ、ここからじゃ戦闘形態の艦娘がいるって事しか分からないの!」

 

 首を傾げる中村の目の前で揺れる釣竿(・・・・・)と白い腕貫きに包まれた腕が荒波を踏み潰し進む南方棲戦姫を指し示し、五十鈴の指先が向けられたモニター上に表示された拡大映像は内部からの圧力で弾けた様に捲れ上がった穴が映る。

 その括れた腰の真ん中にはいくら映画の中の怪獣の様に巨大であろうと背中まで貫通した風穴になっていなければおかしい程に大きく深い洞が奥へ奥へと続く暗闇の中でグロテスクな血肉を蠢かせていた。

 

(さっき五十鈴と鳳翔が言った艦娘の反応と強力な熱源って・・・つまりそう言う事なのか? あの砲撃が古鷹の仕業と考えるには強烈過ぎてあり得ない、もちろん他のメンバーも無理だ、正直どうやったのかはさっぱり分からない・・・だけど)

 

 何故そんな考えに至るのか自分ですら説明できないと言うのに中村は目の前の不可解な状況を把握しようと得た情報と記憶の断片を頭に思い浮かべればまるで勝手に繋がっていくパズルのピースの様に不確かで穴だらけの推測となってその結論へと至る。

 だからこそ、今の彼にとって重要なのは自分達が行っている作戦において大前提である木村達が生存している言う根拠となる確かな証拠など一つもない希望的な予想を補強した五十鈴の言葉に強く頷いた。

 

「は、ははっ、アイツら・・・生存報告はもっと大人しくやるもんだろが!」

 

 惚けていた顔に笑みが浮かび直後に八つ当たり気味な怒りの(喜びの)声を上げた中村の手が素早くコンソールパネルの上を走る。

 そして、指揮官の手によって艤装内のエネルギー伝達を制御する機能が榛名が装備しているサルベージユニットへ繋がる回路に霊力を注ぎ込んで装置内のプログラムが起動準備を知らせる。

 

「鳳翔は俺とテザーの制御につけ! 五十鈴は木村達の反応を絶対に逃がすな! 他はそれぞれで姫級の攻撃に備えて迎撃と回避に備えろ!」

 

 指揮席から興奮に任せて立ち上がり指示する声と共に大きく腕を振る中村へと艦隊のメンバーから次々に了解の返事が戻ってくる。

 

(なんだ、全部自分の掌の上って言いたいのか? 違うな、アンタも俺達と同じで偶然とか運命とかそう言う得体の知れないもんに振り回されてる一人だろ、それとも死んだ後もご苦労さんって労ってもらいたいってのか?)

 

 指示された仕事に向かう艦娘達の背からコンソールへと顔を戻して元の席に着いた中村は特に動じる事無く、その操作盤に腰かけ猫の様な何かを吊り下げた釣竿を握り揺らしている小人へと悪態を吐く様に鼻息を吹きかけ。

 プラプラと釣竿の先で揺れていた猫モドキの首の後ろを掴んで膝の上に引き寄せて中村へと太々しい笑みを見せた妖精は猫と共に腰かけていたコンソールパネルの縁からスルリと音も無く落ちて空気に溶ける様にその姿を消した。

 

「・・・榛名、加速して南方棲戦姫の前に出てくれ! やるぞ!!」

《はいっ! 榛名はいつでも大丈夫です!!》

 

 気を取り直し推進機関の出力を目一杯まで押し上げ威勢が良い声を上げた中村に呼応し榛名がやる気に満ちた高い声を海原に響かせ、慌ただしくなった艦橋に乗せて海を走る高速戦艦を自負する艦娘は自身の身長よりも高い波の間に滑らかな弧を描き南方棲戦姫の進行方向へ割り込む航跡をフィギュアスケーターの様に海原へと引いた。

 

・・・

 

 粉々に砕けて還るべき場所へと向かう黒い欠片を追う姫級が空へと伸ばす巨大な腕の下、100knotまで加速しさらに影響範囲を広げる巨体が作り出す突風で割れていく海の境目に白と赤の衣がはためきガコンッと重苦しく歯止めが外される音が風鳴にも掻き消される事無く響き。

 

《救出目標を確認っ!》

 

 南方棲戦姫と呼称される事となった深海棲艦の前に立った金剛型戦艦三番艦である榛名の背で霊力を纏い銀色に発光する大錨が駆動音を唸らせるクレーンによって持ち上げられ矢印型の先端がまるで蛇の様に鎌首をもたげる。

 

《最終安全装置の解除!!》

 

 直後に手の平が海面に着くほどに傾けられた低姿勢によって駆逐や軽巡並みの高速度を維持した横滑りをやってのけた榛名の背で増設された装置が自らの使命を果たす為に銀錨を枷から解き放ち。

 

《木村艦隊への緊急通信を発信開始!!》

 

 クレーンから外れたと言うのに巨大な錨は重力に従って海に向かわず、アストラルテザー内の大型リールから強化ワイヤーを引き延ばしながら200knotオーバーで南方棲戦姫の前方へと躍り出た榛名の肩に追従する様に浮遊する。

 

《勝利を!》

 

 そして、自分の真横に着いてくる空母艦娘が持つ能力と同質の重量軽減効果を纏った銀錨へと手を伸ばし無骨な鉄柄を握った榛名は南方棲戦姫を正面から見上げて決意に満ちた声と共に大きく右腕を振りかぶり。

 

《提督に!!》

 

 戦艦級の動力炉で増幅されたエネルギーを受けて眩い程に輝きだしたアストラルテザーの本体とも言うべき銀塊が直後に振り抜かれた榛名の全力投錨によって姫級の腹に開いた暗い口へ目掛けて一直線に風を穿ち。

 青白い光を纏って輝くワイヤーがターゲットとなった艦娘の霊力を自動追尾する砲弾と化した大錨に引っ張られて青い空の下に銀色の線を伸ばした。

 

・・・

 

《は、ははっ・・・ははっ》

 

 驚きのあまりに笑うしかないとはこう言う心境なのかと達観と共に生まれて初めて振るった全力砲撃で錆鉄の玉座の頂上から転げ落ち瓦礫に仰向けに倒れた戦艦娘は激しさを増した山頂の風に服と髪をもてあそばれながら大穴が開いた天井とそこから滝の様に流れ落ちてくる黒血を見上げた。

 

『目標は破壊できたのか? そうでないならあの血に感知される前に退避するべきだが』

《・・・いいえ、その心配は無いわ》

 

 精魂絞り尽くした様な倦怠感の中で耳の奥に直接聞こえた声に何とか身を起こした大和は砕けた沈没船に挟まっていた自分の艤装を少々強引に引き抜き、自分の砲撃の余波によって崩れたらしい椅子の形を崩した山頂にそびえる鉄の骸達の上に立ち上り戦艦娘は眼下の山脈へと雪崩落ちていく深海棲艦の血で出来た川を確認する。

 

《あれはもうただの血、混ぜ合わせる力は残ってないようね・・・そう見える》

 

 一部で何かを成そうと蠢く様子が見えるが口の様な形の穴や僅かな隆起が川の中に出来たと思えばすぐに泡の様に弾けて山肌へと染み込み、一部は昏い霊力の粒へと解けて煙の様に舞い上がり大量の霊力が風に乗って穴の開いた閉鎖空間に撹拌されていく。

 斜めに傾げているが元々が凹凸だらけの難破船が積み重なった塊である為か足場には困らず、艦橋から通常へと艤装を戻すと言う知らせに頷いた大和はまだ空気を揺らめかせる程の熱を持った主砲が鋼の音を立てながらレールキャノンから元の大口径三連装砲へと戻る様子を眺め嘆息する。

 

『つまり一応の目的は達したと言う事か、とは言え時間が惜しい、それに君の消耗が相当なものだと言う事を艦橋で確認している』

《そうね、・・・すごく、今までに経験がないくらい疲れてる・・・でも悪い気分じゃないわね》

 

 背負っていた巨大な円形粒子加速器が初めの形に戻った艤装の中へと問題無く仕舞われ、最後に殲滅形態での砲撃の際に身体を固定する為に足場に食い込ませた幾つもの錨がガリガリと瓦礫を擦りながら鎖によって巻き取られ背中の艤装や太腿へと行儀良く収まった。

 

『大和は他のメンバーと旗艦を交代して休息をとれ、本当なら回復の為に数日は必要・・・だが君にはやってもらうべき事が残っている』

 

 作戦前に木村達と行った相談ではまず深海棲艦が持つ【混ぜ合わせる力】の中核を破壊し、その後に休息を挟みながら今いる山脈を下りて麓の海岸から外壁へと向かい再び砲撃を行い今度は自分達が外への脱出する為の出口を作る事になっている。

 

《ええ、そうさせてもらおうかしら・・・あそこからは脱出できそうにないでしょうからね》

 

 その不愛想な言葉で作戦と言うには少々乱暴な内容を反芻してから了解を返した大和だったが正直に言えばその時の彼女はもう少しだけ自分の中にあった力の発露とその余韻に浸っていたいと思ってはいた。

 だが確実に限定海域から脱出するには身勝手な望みが許される状況ではないと自分自身に言い聞かせ名残惜しそうに自らの艤装を撫でていると、自分の内側で改装空母と名乗っているが大和には明らかに輸送艦にしか見えない龍鳳が自らの実力不足を恥じる様に、私がちゃんとした空母艦娘だったらあの穴から脱出できるのに、と呟いた言葉が聞こえ。

 

 何故、龍鳳が空母であったなら十数mの戦闘形態ですら飛び跳ねても指先すら届かないあの天井の穴から脱出できる事になるのかが分からず、奇妙な事を言う艦娘もいるものだと首を傾げた大和は吹きすさぶ山風に踊る髪を手で押さえる。

 

《・・・っ!? 何、この音? ・・・え、ええ? 誰の声?》

 

 そんな時、なんの前触れなく甲高い笛の音に似た声が大和の鼓膜の内側で震えその奇妙さに狼狽える大和の頭の左右にマストを広げている電探がさらに天井方向から送られてくる情報を受け止めた。

 霊力の波を機械的に数字の羅列へと変換した呼び声(通信形式)を彼女の艦橋で通信系に精神を同調していた古鷹が霊力の波に変換された信号を自衛隊で使われている暗号キーに合わせて再変換し、それが音声と文字列となって戦艦娘の艦橋で再生される。

 

『これは、・・・こんな事、あり得るのか』

《提督、何なの? この声、木村艦隊、貴方達の回収とか言ってるけど、・・・どこから?》

 

 貴方達はそこにいますか、とそう問いかける声が混じる強い意志に乗せられ自分の元へと届けられた変換に変換を重ねられた電子音声に大和は戸惑い目を瞬かせ。

 そんな彼女の指揮席で外側から送られてきた端的な目的が記された文面と外で行われている現状の簡易的なアナウンスに木村は目を見開き呻く。

 

《あれは・・・えっ!?》

 

 技術的な部分や送られてきた暗号に関してはさっぱり分からないが辛うじてその奇妙な通信が姿の見えない艦娘から送られてきたモノである事とその信号が飛んで来た方向を感覚的に察知した大和が見上げた先、彼女自身が放った砲撃で焼け焦げところどころから黒く血飛沫を噴き溢れさせている巨大な天井の穴の奥の奥。

 

『まさか、俺達の救出の為にあんな物を持ち出したって言うのか!?』

 

 最果てなど無いと思える程に暗闇が続いているその穴の向こうで大和にとってはかつて物言わぬ沈没船として眠っていた海の底で手を伸ばした朧気ながらも見覚えのある光と同じ銀色が煌めいていた。

 

・・・

 

「正気じゃないっ! 先輩は懲戒処分が怖くないのか!? 神通、シグナルは!?」

「私達の反応を追尾している様です! こちらからの識別信号の強度はいかがしますか!?」

「増幅回路が焼けても構わない、すぐに最大にしろ! 大和は出来るだけここから高い位置に登ってくれ!」

 

 大和の艦橋で見上げたモニターに映る天井の穴の遠く遠い闇の向こうから猛スピードで自分達の方向を目指して落ちてくる銀色の光に木村は来るとは思っていなかった予想外への驚愕と良く知る規律違反の常習者に対する苛立ちを混ぜ込ぜにして襟元のボタンを乱暴に外して指揮をとる。

 屑鉄の山肌に呆然としていた大和が木村の大声に肩を跳ねさせながら手近な残骸を支えについさっき転げ落ちてきた廃船で作られた玉座を登り始めた。

 

「もっと急げないのか!?」

《怒鳴らないで! 艤装が重くて仕方ないのよ! そもそも私は船で、山の登り方なんて知るわけないでしょ!?》

 

 一度、大和の砲撃によって崩れバランスが悪くなった為かはたまた元から朽ちた船舶を材料にしていた為か元は深海棲艦の姫級が腰かけても大丈夫な強度を持っていた玉座は戦艦娘が手と体重を掛けただけで赤錆に塗れた鉄片が砕けて黒い川が流れる山脈へと転げ落ちていく。

 大和にとっては艦娘として生まれてから初めての山登り、それも自分の体重を大きく超える装備を背負ったまま急勾配に挑むとなればその動きはもどかしい程に遅くなるのは仕方ない事である。

 だからこそ戦艦である上に疲労している大和から崖登りの経験がある軽巡の神通か身軽な駆逐艦である朝潮へ旗艦を交代するべきだと遅まきに気付いた木村は驚きからくる焦りに急かされてしまっていた自分の迂闊さに苦み走った顔をした。

 

「旗艦を変更する、大和は朝潮と交た」

「提督! アストラルテザーが落下、いえ、着弾します!!」

「ええい! 先輩は落とす場所を考えて無いのか!」

 

 戦闘形態の大和が勾配を数十m登るよりも早く数km、否、数十kmの洞穴の闇を貫いてきた銀錨が龍鳳の警告の報告と同時に彼らが見上げる斜面に突き刺さる様に叩きつけられ辺り一面にスクラップの欠片が飛び散り、人生初のフリークライミングに挑戦させられていた大和の頭上に降り注ぎ身体や艤装を覆う透明な障壁が無数の硬い音を立てる。

 

『木村隆ぃ! 生きてるなら返事しろ! 死んでても返事しやがれ!!』

 

 正に着弾と言っても過言ではない衝撃だったが幸運にもスクラップの山そのものが崩落する事は無かったが、木村達は救助と言うにはあまりにも乱暴な手段に顔を引きつらせアストラルテザーを伝って一方的に叩きつけられた声に青年士官は堪え切れずに仏頂面を崩して額に青筋を浮かべた。

 

「いい加減に戦場でそういう馬鹿な事を言うのは止めてもらいたい!! 何から何まで、何をやってるんですか先輩!?」

『は、ははっ・・・うるせー! 文句言わずにさっさとテザーに掴まれ! こっちはお前らのせいで化け物相手にしてんだぞ!!』

「アンタって人はっ! いつも、事ある事に恩を着せてくる!!」

 

 数日ぶりに聞いた声に喜びで吊り上がりそうになった口が真面目さが取り柄の彼に似合わない悪態を吐き、頭を腕で庇いガラクタの坂道で身を縮めている大和の様子が浮かび上がるコンソールパネルの立体映像へと木村の手が重なる。

 ふわりと半透明のカードに浮かび上がる指揮下の艦娘達の名前の一つをその手が掴み取ったと同時に艦橋に金色の光が満ち、メインモニターから木村へと振り返り幼げな顔立ちに意気込みを感じる凛とした表情を浮かべた朝潮が彼に敬礼を向けながら光の粒子へと解けてその場から姿を消した。

 

「えっ? ここは!? きゃっ、私いったい・・・」

「落ち着いて大和さん、大丈夫ですから、今はそこに座っていてください」

 

 そして、駆逐艦娘と入れ替わる様に戦艦娘が所々に焦げ目や穴が開いた桜色の着物を着崩した状態で艦橋に現れて急な場面転換に対応できなかったらしく、その場でつんのめって倒れそうになったが直ぐに大和の身体を神通が受け止めて支える。

 

「朝潮、すまんが急いでくれ!」

《はい、司令官! お任せください!!》

 

 神通の手を借りて初めて見る円形のモニターに囲まれた艦橋をキョロキョロと見回す大和の無事を横目に軽く確認してから木村はさっきまで戦艦娘が手こずっていた瓦礫を身軽に登り始めた朝潮へと祈るような気持ちを込めて声を上げた。

 




 
次回、【艦これ始まるよ。】第九十七話・・・


「長門さん! このままだと中村艦隊が!?」

「もう我慢できない金剛お姉様だけじゃない榛名まで!」

「この程度で取り乱すな! 総員その場で待機せよ!!」


「朝潮型駆逐艦を舐めるなったらぁあ!!」

「さぁ、六基十二門! 砲戦、行くわよ!」



“カエセ、ソレ(・・)ハ、ワタシノカケラ(・・・)・・・モッテイカナイデ、・・・イヤダ、コワイノハ、ヤダ・・・”



 
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