ニンジャガール・オン・エッジ   作:オハジキ

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第一話 少女と忍者

 

 幼いころ手裏剣を拾った。子供の手にはずっしりと重く、にぶく光る先端に恐ろしさを感じた。

 それはすぐ前を行く人が落としたものだった。声をかけようと顔を上げると、スーツ姿の男性が振り返ってわたしを見ていた。あの人は幾つくらいだったのだろう。子供の目には年上の人の年齢はよく分からなかった。

 

「はい」

 

 手渡そうとするわたしの声は震えていたんじゃないかと思う。

 

「これはかたじけない」

 

 わたしに目線を合わせるためしゃがみこんでくれた男は、うやうやしく手裏剣を受けとり手のひらで握りこんだ。怪我をするんじゃないかと思ったけど、次に手をひらくと手裏剣は消えていた。驚いて彼の顔を見た。彼は真剣な表情で語りかけてきた。

 

「拙者が忍者であることは黙っていてくだされ。まだ修行中の身ゆえ、知られるわけにはいかんのでござる。それに大事な道具を落としたことがばれたら師匠に殺されるでござるよ」

 

 忍者って本当にいたんだ! 物語の中でしか知らない存在に初めて出会い、胸がときめいた。

 

「お礼といってはなんでござるが、困ったときは拙者を呼んでくだされ。すぐに駆けつけるでござる。呼びかたは――」

 

 もちろん今なら冗談だとわかる。わたしは担がれたんだ。あの人は趣味で手裏剣を持ち歩いていて、たまたま落としてしまった。子供に拾われたからユーモアのセンスを発揮したというわけ。いっときでも夢を見れたんだから、わたしとしても文句を言うつもりもない。ただの笑い話。

 でも、その冗談にもうちょっと付き合ってもいいかなと思うくらいに、今のわたしは追いつめられていた。誰の手でもいいから借りたかった。

 これが上手くいかなかったら――いくはずもないのだが――どうなってしまうのだろう。

 わたしは彼に教わった儀式を始めた。彼に聞いた名前を紙に書き、周りに星の形を描く。小さく畳み、庭の土を掘り、埋める。そして呪文を唱えた。

 ……ほら、なにも起こらない。

 目に涙がにじんだ。信じてないはずだったのに。期待してないはずだったのに。

 部屋に戻りかけたわたしの後ろから、ぼこっと音がした。ごろごろと石のころがる音がした。どさどさと土のくずれる音がした。あわてて振り向いた。土まみれの大きな影があった。

 

「およびとあらば、即参上――でござる」

 

 黒い忍者装束の男が立っていた。わたしは言葉を失った。目から涙がぼろぼろ零れ落ちた。

 

 

「便秘、でござるか?」

 

 わたしはうんうんと頷いた。

 

「いわゆる大便の出ない状態が長く続くという――」

「そうそう、それそれ!」

「そんなことで拙者を呼びだしたでござるか?」

「わたしにとっては一大事なの!」

 

 恥ずかしさで顔が熱くなった。

 

「体内のツボを知ってるゆえ、その程度すぐに解消できるでござるが……」

「すっごーい、さすが忍者!」

「そんなことで感心されるとは、拙者の修行の日々はなんだったのでござろう……もっとすごいこともできるのでござるよ? にっくき相手を斬り殺したり、呪い殺したり、毒で苦しみぬいた果てに殺したり。そういうのはいかがでござる?」

「いいよ、そんなの。だいたい犯罪でしょ! そういうのからは足を洗ったほうがいいんじゃないかな」

「忍者の存在意義が……」

 

 彼はうなだれていた。

 

「ほらほら、わたしちょっと本気で悩んでるの。だから早く――」

「仕方あるまい! 受けた任務は必ずこなす! それが忍者の仕事でござるからな!」

 

 どうやらやる気を出してくれたようだ。彼は手で印を切り、わたしの体を指で突いた。

 

「うわっ、心の準備が」

「早くといったのは貴殿にござるよー!」

 

 彼は叫びながらわたしの体のいろんな場所を指で突き続けた。指が半分以上めりこんでいるのに痛みは感じない。

 

「死ねやあっ!」

 

 最後に深く指を突きいれ動きをとめた。そしてゆっくり引きぬく。どうやら終わったようだ。というか死ぬのか、わたし?

 最初に感じたのはちょっとした違和感だった。むずむずと――なにか来る。来る。来る。来たっ! あっという間に催してきた。もちろん便意だ。我慢できない。トイレに駆けこむ余裕もない。強力すぎだっての。忍者パワー恐るべし!

 漏らすわけにはいかない。わたしは決断した。泣きたいけど、決断した。泣いてる時間が命取り。

 

「あっち向いてて!」

 

 わたしは急いで下着をおろし、しゃがみこんだ。幸い、庭は塀で囲まれている。外からは見えない。

 

「紙はあるでござるか?」

 

 のんびりとした彼の声が後ろから聞こえた。

 

「取ってきて!」

 

 

「ふう、いい仕事をしたでござる」

 

 彼は汗をぬぐい、満足そうに呟いた。

 

「どうすんのよ、これ!」

 

 自分が出したとはとても信じられないほどの便が、庭に山盛りになっていた。

 

「拙者にはどうすることも……では、さらば!」

 

 ゆらゆらと空気がゆらめいたかと思うと彼の姿は消えていた。残ったのは大量の便と臭気。

 おいおいおい、ちょっと待てよ。

 わたしは彼の名前を紙に書き、もう一度儀式を繰り返した。急いで逃げ出したわたしの後ろから、もこもことなにかが膨れる音がした。

 もちろん紙を埋めたのは土ではなく――

 

「ぎゃー! くそったれー、でごさるー!」

 

 男の悲痛な叫びがあたりに響いた。

 




女の子が脱糞する話を書きたかったのです。
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