IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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第69話 福音 ⑨

 紅のISと、白のIS。

 味方同士である筈の2機は今、民間船の直ぐ前、海上で刃を交えていた。互いの刃先が十字に密着し、ギリリと金属音を放ちながら押し合っている。

 その押し合いもごく短いものだった。

 

《頭冷やしなさいよ》

 

 呆けたままな箒にそう言うと、一夏は後ろの乗組員らに気をつけながらスラスターを噴射し、鍔迫り合いのまま船から離れる。

 

 視界の中でどんどん小さくなっていく船と乗組員を見て、箒は漸く思考というものを取り戻していく。

 

《一夏…!お前───》

 

♪♪♪♪♪♪

 

 だが何かを言う前に、音檄から光弾が飛来してくる。睨み合っていた一夏と箒は、言いたい事を抱えたまま散開する。

 

 音檄は船の側を動かない。ここに居れば、敵からの攻撃を受けずに済むからだ。

 

 静止したまま今迄以上の弾幕を展開する音檄。

 互いの頭をリセットする為か、それともただ言いたいだけなのか、一夏は光弾を必死に避けながら口を動かす。

 

《人間護る為の戦いなのに、人間巻き込んでどうすんのよアンタ》

 

 その当たり前な事すら、先の箒からは抜けていた。

 それでも、箒は言い返す。一夏の正しい指摘は所詮は綺麗事でしかないと、直ちに気付いてしまったから。

 

《だったらどうせよと言うのだ!このまま何もせずやられろと!?》

 

 変わらず音檄撃墜に固執している箒は、更に自身を正当化しようと言葉を足す。

 

《それにあの船員たち。風体を見れば解る、密漁者だ。それなら封鎖されたこの海域に居るのも説明がつく》

《危険を承知で入り込んで来た犯罪者、戦火に巻き込まれても仕方が無いだろう!?》

 

 弾幕を躱しながら、一夏に持論をぶつける箒。それも、また正しい言葉なのかもしれない。今の状態で手をこまねいていては、いずれは箒たちが死ぬ。

 

《そう……かもね》

 

 力無く、一夏は箒の言葉に頷く。そしてそのまま、箒とは対照的な静かなる声で言った。

 

《けどね…やっぱり違うよ箒。アンタに誰かを切り捨てる事なんて出来ないし、しちゃいけない》

 

《ッ!》

 

 全てを選ぶ、誰をも見捨てないと心に決めた箒。その実、密漁者諸共敵を斬り墜とそうとした。

 箒の方こそ、綺麗事に浸っていたのだ。

 

 だが一夏は、箒の決意を綺麗事のまま終わらせたくはなかった。

 彼女には、綺麗なままで居て欲しいからだ。汚れの一切を知らず、昭弘から向けられる想いも何ら変わらない、一夏にとっての箒はそう在らねばならない。

 だからこそ一夏は密漁者を庇った。人を殺めてはならないからではない。箒の手を、心を、血で穢したくはなかったからだ。

 

───汚れるのは

 

 音檄と密漁船を睨み、雪片を強く握る一夏。その視線はまるで陽光の届かない深海が如く、冷え切ったものだった。

 

 一夏と箒、互いの抱いた決意は、変わってはならないのだ。

 

《…箒、悪いけど今度はアンタが陽動お願い》

 

《…一夏?》

 

 漸く一夏は、己にしか出来ない役割が解った様な気がした。

 己の魂より大切な愛の為に、心を絶対零度まで沈める事の出来る一夏にしか、それは成せない事であった。

 

───オレだけで十分

 

 乗組員を人質に取られている今、一夏たちが音檄の意に沿わない行動を取っただけでも、密漁船は蒸発させられるだろう。いや、こうして弾幕を躱している以上、次の瞬間には人質を殺すかもしれない。

 つまり戦う以前に、一夏たちが勝負の土台に乗るには、どうしようもなく密漁船を見殺しにするしかないのだ。

 

 卑怯な無人機を殺すべく、呼吸を整える一夏。

 紅椿の陽動、加えて零落白夜による光弾消滅効果があっても、白式の機動力では音檄の弾幕を突破出来ない。

 だが、ある程度接近すれば音檄も人質を消すだろう。さすれば一瞬、弾幕も薄まる筈。余りに無謀だが、もうそれに賭けるしかなかった。

 

《一夏!何をしようとしている!?》

 

 知れた事、汚い事をしようとしているのだ。人の命を見捨てる、最低最悪な事を。

 

 だが極限まで感情を殺しきった筈の一夏の中では、未だ僅かな感情が抵抗を続けていた。

 本当は見殺しにしたくない、己が手を汚したくない。それにより変わってしまうのが怖い、己に向ける昭弘の視線が。あの日々を送れなくなってしまうのが怖い。

 

 

 そうして一瞬だけ躊躇った、その時。

 

《来るぞ一夏!》

 

《ッッ!?》

 

 箒の怒声により、ハイパーセンサーが捉えた機影に漸く気付いた一夏。

 それはもう「向かって来る」でなく、既に来ていた。良い盾を見つけて調子付いている音檄Cの元へ、自分も混ぜろと言いたげに。

 

《………最悪》

 

 加わった音檄Dは、あの船の直近に居れば安全であると、味方の位置情報と細かな戦況の変化から読み取ったのだ。

 福音の繋ぐデータリンクは、最早コア・ネットワークと遜色無い次元にあった。

 

 音檄2機分、計48門+4門から放たれる光弾のビッグウェーブが、白式と紅椿に襲い掛かる。もう接近する事は絶対不可能だ。

 

 

《マタ合流シヤガッタ》

 

《全ク、データリンクトハ厄介ナモノデスネ》

 

 光弾の波をどうにか掻い潜りつつ、白式と紅椿に合流するタロとゴロだが、とても最悪な状況に直面しているとは思えない呑気さだ。

 

《一先ズオ2人共、コノ場カラ離レマショウ。コノ距離デ躱シ続ケルノハ無理デス》

 

《…結局、人質を見捨てる事に変わりは無い訳ね》

 

《イエ、彼等ナラ殺サレル事ハ御座イマセン》

 

 そうさらりと否定される一夏。

 殺されないとは、一体どういう事なのだろうか。

 

 何れにせよ、このままでは一夏たちが殺されるだけだ。

 1メートルすら前進出来ない以上、後方へ下がるしかない。

 

 

 

 そして結局離れてみると、案の定光弾と光弾の間隔は広がり、ある程度余裕を持って躱せる位には弾幕も薄くなった。

 人質である筈の船員たちも、殺されていない。

 

《ソラ見テノ通リデス!》

 

 タロの言葉に、2人は驚きと疑問を隠せない。

 説明する気がまるで無さそうなタロを見て、ゴロは仕方無く音声を届ける。

 

《彼等音檄ニハ、「人質」ト言ッタ発想自体ガ無イノデショウ。故ニアノ船ヲ盾ニシカ使エズ、我々ヲコントロール下ニ置ケナイ》

 

《……その根拠は何だ?》

 

《音檄ハ提示サレタ敵ヲ殲滅スルダケノ、言ワバ「弱いAI」デス。ヨッテ、福音ニ示サレタ眼前ノ敵デアル我々ヲ主ニ攻撃シマス》

 

 ゴロが言う以上に、奴等のISへの攻撃性は常軌を逸する。

 白式の陽動にあっさり引っ掛かる、シュトラールを道連れにしようとする、ビットに追われ続けても本体を狙い続ける、戦意の無い甲龍を執拗に追い回す、上げればキリが無い。

 

《逆ニ言エバ、示サレタ標的以外ヘノ積極的危害ガ行エナイノデス》

《織斑教諭モ、怪我人ノ報告ハ無イト仰ッテイマシタ。ツマリハ暴走時、近クニ居タデアロウ生身ノ人間ニハ手ヲ出サナカッタ。例外ハISトソノ身ヲ共ニシテイル皆様方カ、IS殲滅ヲ優先シタ末ノ巻キ添エデショウ》

 

 無論、主である福音とそれを纏ったナターシャだけは例外だ。暴走しようと、そんな都合の良いヘマは福音も犯してくれないらしい。

 何れにせよ、人間を攻撃出来ないのなら、人質という行為そのものも成立しない。

 

《ソシテ音檄ガ音檄ヲ攻撃出来ナイノト同ジク、我々モ僚機ヲ攻撃出来ナイ、ソレハ敵モデータリンクデ把握済ミ。ナラバ関係無キ人間ハ攻撃出来ルノカト、先程ハ試シタカッタ。モシ人間ニ武器ヲ向ケラレナイノナラ、コレ以上無イ盾トナリマス。結果ガ今ノアレデス》

 

 一夏たちが非武装の第三者を攻撃出来ない。そう見なされたのはやはり、一夏が箒の斬撃を止めたからに他ならない。

 流石にそれくらいは、一夏にも理解出来た。

 

《……ごめんなさい。オレがもっと、早めに船ごと沈めていれば》

 

《ソウデモナイデスヨ。見テ下サイ》

 

 飛来する光弾をやり過ごしながら、慰める様でもなくタロは一夏にそう返す。

 タロの指差した先には、相変わらず光弾を絶え間無く吐き続ける音檄2機が居る。当たりもしない、大量のエネルギー弾を。

 

《ハハハ!アノ馬鹿共。アノママ撃チ続ケタラエネルギー切レデ自滅シマスヨ》

 

 タロの何気ない一言で、箒と一夏は思い出した。音檄が超短期決戦向けの機体である事を。目の前で展開される絶望的戦力に気を取られ過ぎて、忘れていたのだ。

 加えてもう一つ、思い出した箒が口を挟む。

 

《だが連中、戦闘不能となったら自爆するのだろう?そうなったら船も…》

 

《イエ。タロハアア言ッテマシタガ、ソンナ無意味ナ自爆ハ音檄モ避ケルデショウ。ソロソロ無駄撃チダト気付キ───》

 

 そんなゴロの言葉通りに、敵の弾幕が一旦止む。

 4機のISは音檄を攻撃出来ない、だが音檄たちの弾幕も今の4機に届かない。なら音檄の次なる行動は───

 

《結局、船ヲ置イテ向カッテ来ル》

 

 刹那、またしてもゴロの予見通り、音檄たちはマルチスラスターを後方へと向け直す。

 もう次なるゴロの言葉を予想出来た一夏と箒は、ゴロたちに倣い反転して敵に背を向ける。

 

《ソシテ私タチハ逃ゲル》

 

 だがこれこそ僥倖。

 全速前進で逃げる4機を、弾幕圏内に捉えるべく追う音檄たち。速度は当然ながら音檄が上回り、離れていた両陣営の間合いは少しずつ縮む。

 そして彼等が折角見つけた盾からは、もう流れ弾すら当たらない程の距離が出来つつあった。

 

 人死にという最悪の結末は、一先ず回避された。

 がしかし、一夏たちの不利は変わらない。タロとゴロの踏ん張りにより音檄DのSEは相当削れたが、まだまだ敵の方が健在だ。

 

 

 それでも己の手を汚さずに、己自身が穢れずに済んだ一夏の心は、まるで戦いが終わった様に安らかであった。

 

 情けない事だ。人を殺めるのが、己が手を下すのが怖いのではない。

 一夏は己を捨て切れなかった、汚せなかった。昭弘と箒の為に、その身を捧げると心に誓っていながらそれでも、一夏は恐れてしまった。万に一つの確率で昭弘に嫌われてしまう事を。

 自暴自棄になる中、漸く見つけた自分にしか出来ない役割。いざという時それすら実行に移せない一夏は、己の心の弱さを呪った。

 

 そして、人を殺めずに済む方法がこんなにも簡単に見つかった。一夏の葛藤とは何の関係も無い、タロとゴロによって。

 恥ずかし過ぎて、情けなさ過ぎて、一夏はもうこの戦場から消えてしまいたかった。

 

 

 敵を討つ為とは言え、箒は人を見殺しにしようとした。少し頭を回せば、解決策があるにも関わらず。その事実だけが、箒の心を凍らせ砕こうとする。冷静になったというより、戦意そのものが冷え切ってしまったかの様な。

 彼女はもうこの紅椿という力を、いっその事タロかゴロにくれてやりたかった。敵の本質も見抜けなければ、感情に振り回され愚を重ね、終いには取り返しの付かない愚を犯そうとした彼女が操るよりも、遙かに有効的だ。

 もう箒は、己を責める事すらしなくなっていた。冷たい心は、寧ろ丁度良いのかもしれない。誰かを想えば想う程、結末を考えれば考える程、戦いに必要な能力は欠けていくのだから。

 

 

 そんな時コア・ネットワークに、雷の様な過激と轟きに満ちた信号が走る。

 今で良かった。焦燥と苛立ちで心が破裂しそうだったあの数十秒前であれば、間違いなく一夏と箒は錯乱していた。

 それ程までにその情報は、この世全ての悪性物質を含んだ劇物。本作戦遂行に関わる程の重大なモノだった。

 

《福音メ。二次移行スルトハ…》

 

 事前に頭へ情報が流れていて尚、タロの言葉に思わず耳を疑った一夏と箒。自分たちよりずっと強い音檄、そいつらよりも更に格上である本体、銀の福音。そのただでさえ化物な銀翼のISが、進化したと言うのだ。

 では一体、誰が、どうなってしまうのか。2人は聞きたくも、考えたくもなかった。

 

《コノママデハ昭弘殿ガ危険デス。ソレ所カ作戦自体ガ…》

 

 現時点で福音の基本性能は不明だが、グシオンと激闘を繰り広げていた先より遙か上なのは解る。これで現状、不利どころか学園側の敗北が濃厚となった。

 

 が、戦局の変化はそれだけに留まらない。

 

───………~~……

 

 ブルー・ティアーズによる音檄撃墜の報が流れ込んで来た。これで残る音檄は4機だが、当のティアーズも被害甚大の為に帰投中。

 そしてもう一つのグループであるシャルロットたちだが、増援として到着したシュトラールのお陰かかなりの優勢で、恐らく勝てる。重視すべきは、どれだけ早く最小限の被害で勝てるかだ。

 

 秒単位で二転三転する戦況に、昭弘の事で頭がグルグルと膨張していた一夏は、新たな情報として処理する事すら出来なかった。

 対照的に、箒は木に留まる梟の如く淡々と情報を受け止めた。そしてそれを生かそうともせず、機械の様に次の指示を待った。

 

 そんな2人を他所に、後方から着々と迫る音檄に注意しながら、ゴロは現状から想定される未来を考える。

 セシリアの戦果は、誰もが待っていた正しく絶望の中に咲く希望の星。だが、残った音檄を全機墜として何機生き残れるか。そして何機か生き残ったとして、そこからグシオンの救援が間に合うのか。

 先に広がるは、余りに不確定要素の多い未来であった。

 

 最悪『ブリュンヒルデ』を投入するしかない。音檄を半分に減らせた点を加味しても、残った福音の力が未知数過ぎる。

 しかし、それを実行に移すと最終防衛線が崩壊する。

 

 と、ゴロが考えていた時にその最終防衛線から通信が入る。

 

《ウィンターより作戦遂行中の各機へ。HA(箒&紅椿)、IB(一夏&白式)は至急、AGの援護に向かえ。SRらは速やかに敵機撃墜の後、タロ及びゴロと合流せよ。タロ、ゴロはSRらが到着するまで持ち堪えてくれ》

 

 千冬が下した指令は、この状況での戦闘継続という冷酷なものだった。

 

 しかしゴロは、彼女の思惑を即座に理解した。

 現時点で最もSEが残っているのは紅椿と白式であり、グシオンへの距離も一番近い。白式にはビーム系の射撃を相殺する零落白夜もあり、紅椿のスペックは言わずもがな。福音との相性は決して悪くない。

 それでも福音には敵わないだろうが、それで構わない。一夏と箒の仕事は、あくまで福音包囲が完了するまでの昭弘の援護。セシリアが帰投してる今、昭弘まで戦闘不能になられてはどうしようもない。例え今この場の戦力が削がれようと、一秒でも早く救援を向かわせねばならない。

 その間、音檄を即行で一網打尽にする。一夏と箒が昭弘を援護し、福音の猛攻を凌ぐ僅かな間に音檄共を片付けねば、福音の包囲も間に合わない。

 千冬が本丸から離れずにこの絶望的戦局を打破するには、これしかなかった。この十秒かそこらで戦況がコロコロ変化していく中、戦う生徒たちへの心配をどうにか押さえ込み、即座に指令を下してくれた千冬へゴロは心中で脱帽した。

 

 先程まで不確定要素がどうのこうの考えていたゴロだが、思い返してみれば今更だ。この作戦、常に敗北必至な戦闘下でここまで勝ってきたのだ。

 ゴロは、不確定を確定へと導いて来たこの生徒たちなら、この最後の戦いも勝ってくれると信じる事にした。それはきっと、タロも全く同じだろう。彼等人間がISを通じて生み出す爆発力に、上限なんて見えはしない。

 そしてただ信じるだけでは勝てないから、タロとゴロは踏ん張らねばならない。今も向かっている2体の怪物を、自分たちたった2機で相手取る。千冬の指令は正に苦難の極みだが、それでもやるしかない。真正面からは戦わず、回避に比重を置きながらも弾幕で行き先を妨害すれば、音檄の足止め程度は可能かもしれない。シャルロットたちが来るまで、この音檄たちはどこにも行かせてはならない。

 

 

 問題はここからだ。

 千冬のそんな新しい指令が来て直ぐ、示された方角へと動く一夏と箒。一夏は何について迷っているのかも解らぬまま、箒は己に諦観し切った無表情で。

 

 何でも良いから何か言わねばと、ゴロは思っていた。アレでは、救援するどころか救援される側となってしまう。

 だが「何でも」伝えられる程、言葉は万能に作られていない。時間は限られている。

 

 そうやって単語を選び構成している間も、白式と紅椿は時間と共に離れていく。

 そして、後方の音檄たちもその2機を追うべく機体を傾けている。主の元へ行かせるつもりは毛頭無い様だ。

 

《オイ、サッサト何カ言エ。コノ際、思ッタ事デモイイダロ》

 

 普段なら単に苛立つだけなタロの急かしだが、今回ばかりは感謝する事にしたゴロ。どうやら迷いが晴れた様だ。

 だがそれは、正真正銘ゴロの私的な感想に過ぎず、何も言わないよりはマシ程度なものだった。

 

《一夏殿、箒殿》

 

 音檄たちの前に立ち塞がるべく移動しながら、ゴロは音声をコア・ネットワークに乗せる。顔の見えない通信越しからは、ただ無言だけが返ってきた。

 見えない相手の反応を待たず、ゴロは心の言葉をそのまま伝える。

 

《アノ時、アナタ方ガ人ヲ殺メナクテ良カッタ》

 

 言いながら、しつこく追い迫る機械肢たちをタロと共に待ち構えるゴロ。

 

♪♪♪♪♪♪♪♪

 

 射程内に捕まり光弾幕が行進して来ても、ゴロは続けた。

 

《正シイトカ、間違ッテイルトカデハアリマセン。アナタタチガ直面シタ人トシテノ躊躇イハ、人間ニシカ存在シナイ。何カヲ誰カヲ失ウ事ニ恐怖スルカラコソ、人ハ強イ》

 

《即チアナタタチハ強イ。ダカラ存分ニ恐レ、存分ニ迷イ、存分ニ想ッテ下サイ》

 

 ネットワークは繋がっている、聞こえているのは間違い無い。

 それでも、一夏からも箒からも言葉は返って来なかった。返す言葉が見つからないのか返す気力すら無いのか、最悪耳から耳へと通り過ぎてしまったのかもしれない。

 何であれ、ゴロとしては別に良かった。何かしらの反応を期待していたでもないし、導きたかった訳でもない。

 

 ゴロの言葉をどう解釈するかは2人次第で、人間共通の正しさなんて何処にも無い。

 

 ただゴロは、2人に対して言いたい事を言っただけなのだ。

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