IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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早く学園祭いきたいのでさっさと終わらせます。
いやマジで。

出店関係は原作と大きく違います、多分。


第77話 祭りは近い

―――――9月5日(月)

 

 その日、放課後の1年1組ではシャルロットの怒号が響き渡っていた。

 

「ハァイ!セシリアちゃんもっと声低く!それでいてハキハキと!あとキャラ忘れないで!」

 

 どうやら女性陣複数名が、学園祭における出し物の特訓を受けているようだ。

 男性陣はと言うと、買い出しやらリスト作成やらを手伝っていた。

 

「元気だなあの阿呆」

 

「自分が主役だと思ってんでしょ」

 

 作成中の計画表とシャルロットを見比べながら、そう話す昭弘と一夏。

 毎度のことだが、彼女は自身の得意分野になると、ことさら調子に乗る節がある。加えて公平な多数決で出し物が決まったからか、より強気だ。

 故に、誰も何も言えないのだが、セシリアは逆ギレの一歩手前まで来ている。

 

 実際、発案者はシャルロット自身なのだから、気合いが入るのも納得ではあるのだが。

 

「・・・オレたちも「あの服」着なきゃならんのよな」

 

「何度も言うが私は絶対着ないぞ」

 

「もう観念しなって2人とも」

 

 服に無頓着な昭弘やラウラですら、着たくない服のようだ。どんな服なのか、想像するのは野暮だろう。

 一夏は対照的に、どこか楽しそうだ。

 

「というか、何でわざわざクラス毎にこんな店開くんだ。学園祭ってのは変態の祭りなのか?」

 

「学園祭を変態って言う人初めて見た。まぁ・・・訊かれても「そーゆーもの」としか答えらんないけど」

 

 昭弘は、亡国機業からIS学園を護らねばならない。だが彼が護るのはIS学園であって、学園祭そのものではない。

 

 実際、昭弘も学園祭をどう楽しめば良いのか、掴みかねていた。

 祭りの経験すらない彼だ。クラスで店を開く理由も、体育館で劇をする理由も良く分からない。

 その癖、運営から準備まで全て生徒に委ねられ、教員はほぼ関知しないときた。成績にも何ら影響しない。金銭の授受こそあるものの、お嬢様であるIS学園の生徒たちには縁遠い。

 だのに皆やる気に満ちている。

 良く分からない内に決まり、良く分からないノリで事が進む。クラスの為と割り切りながら動いてはいるが、正直機動訓練の時間を割いてまでやる理由が、昭弘には分からなかった。

 

 昭弘がそうなのだから、ラウラも同様だろう。モチベーションを保つのには無理がある。

 

 そんな2人を見かねて、一夏が声を上げる。

 

「シャル、今日はこの辺でいんじゃない?学園祭まで時間あるし」

 

「いやいや、僕たち専用機持ちの演劇もあるの忘れてないよね?」

 

「クラス優先」

 

「チェッ・・・ハイハーイ」

 

 一旦解散となり、いつもの面子が昭弘の元に集まる。

 セシリアは、本音と4組に行くようだ。

 

「他のクラスも見に行かない?偵察ってヤツ」

 

「確かに。早い内に見とかないとね」

 

 言い出した一夏に、同意するシャルロットと追従する昭弘たち。

 ただ、自身とラウラを慮っての気晴らしだろうことは、昭弘にも分かっていた。

 

 だからこそ、昭弘の足取りは重かった。

 

 

 

 そんな訳で、早速2組の様子を覗く一同。

 邪魔をしたくはない昭弘だが、他クラスも偵察紛いなことをしているので、おあいこだと思うことにした。

 

 すると案の定、目立つ巨漢をすぐさま見つけた鈴音が、廊下へと出てくる。

 

「何?アンタたちも偵察?」

 

「!?」

 

 真っ白な顔に、血反吐のようなメイクをした鈴音を見て、流石の昭弘も目を丸くする。

 声を出さず、冷や汗だけでどうにか済ませた自分を、褒めたいくらいだった。

 

「も、もうメイクしてるのか鈴」

 

「予行演習よ予行演習。箒たちだってそうでしょ?」

 

「それはそうだが・・・」

 

 話に付いていけない昭弘。

 一夏も箒と同じく、鈴音のその姿だけで店の趣旨を理解したらしいが、昭弘には何の予想も立てられない。

 

(・・・ここってISの勉強するところだよな?)

 

 もしや、2学期から学園の教育方針が変わったのだろうか。考えがそんな次元にまで及んでしまう。

 

 ただ、見回してみると、やはり1組と同じくそれなりの熱量でみな動いている。

 少なくとも、ふざけているようには見えない。真剣そのもので、どこか楽しげだ。

 

「・・・分からんな」

 

「何がよ昭弘?」

 

 つい言葉が漏れてしまい、そして鈴音に拾われてしまった昭弘は、仕方なくそのまま自身の考えを述べる。

 

「なんでこんな真剣になれるんだ?皆の進路と関係があるようには思えんが・・・」

 

 ラウラは大きく頷くが、一夏とシャルロットは呆れ顔で首を振る。真面目すぎる2人を嗜めるかのように。

 そんな一夏とシャルロットの気持ちを、鈴音が代弁する。

 

「そんなの息抜きに決まってるじゃない。だからみんな夢中になるんでしょ?」

 

 人であれ動物であれ、常に全力疾走はできない。どこかのタイミングで休息を取る必要がある。臨海学校の一日目が良い例だろう。

 進路も同じだと、鈴音はそう言うが、やはりいまいちピンと来ない昭弘であった。彼には、真剣と夢中の違いがどうしても解らなかった。

 

 すると、少し考える素振りを見せた箒が、もしかしたらと述べる。

 

「付け加えるなら・・・自分たちで決めた事だからではないか?そしてその善し悪しを客観的に見れるのは、お客だけだ」

 

 的を得た発言だったからか、思わず感心する鈴音たち。

 

 息抜きである筈なのに、自己満足も許さない。ますます不思議に思う昭弘。

 

 ただ「自分で決めた」という部分は、昭弘にも理解できた。決められたのではなく決めたのなら、最後までやり切らねばならない。

 それは言わば、大人で言うところの責任。鉄華団で言うところの筋を通すということだ。

 

 そこに将来や進路は関係ない。やると決めたらやる。それを繰り返していくことで、彼女たちは大人になっていくのだろう。

 そして昭弘も。

 

(・・・オレも筋を通さないとな)

 

 息抜き云々はやはり分からない昭弘だが、責任を持つべきと思えば、俄然やる気も出てくるもの。

 昭弘自身が楽しめるかはさておき、せめて来訪者には楽しんで欲しいと彼は思う。彼は1年1組が、IS学園が大好きなのだから。此処が素晴らしい場所だということを、一人でも多くの人に知って貰いたい。

 それが昭弘なりの、筋の通し方だ。

 

 真面目な彼は、そういう考え方でしか、学園祭を楽しく捉えることができない。

 

 

 

 2組の偵察も短く、各々は2・3年も含めた各クラスへと散っていった。参考になるものがあれば、取り入れるつもりだろう。

 

「そう言えば昭弘。更識さんの専用機は完成したのか?」

 

「ああ、学園新聞の通りだ。オレが模擬戦でボロ負けしちまったのも本当だ」

 

「うーむ・・・やはり信じられんな。相手がセシリアならまだ分かるが」

 

「オレも信じたくない」

 

 そんな話をしながら、2人で廊下を進む昭弘と箒。

 

 この状況もまた、一夏の立ち回りによるものだ。本当に、周りを良く見ている。

 そのことは勿論、昭弘も箒も嬉しいし、一夏に対して頭が下がる気分だった。

 

 ただ、素直に喜べないのが正直なところだった。

 一夏はまず間違いなく、昭弘の想いにも箒の想いにも気付いているのだろう。だからこうして、あの手この手で2人をくっつけようとする。

 誰よりも3人一緒に居たいのは、他ならぬ一夏だろうに。

 

 大体が、2人になったところで何も変わらない。ただ取り留めの無い話をし、ただ2人並んで歩くだけだ。

 手を繋ぐ訳でも、抱き合う訳でもない。付き合ってる訳でもないのだから。

 互いに、触れたい気持ちはある。ただそれをやり過ぎると、今までの関係では居られなくなる。3人が3人でなくなるのだ。

 昭弘も箒も、それが堪らなく恐ろしかった。

 

 様々な思いに駆られながらも、2人は3年生のエリアに着いてしまった。

 

「・・・っ」

 

「凄いな・・・」

 

 その圧倒的な空気感に、先程までの感情は呑まれてしまった。

 

 進路が決まってる故の余裕もあるのだろうが、それを差し引いても凄まじい活気だ。

 きっとどのクラスの出店も、本場と遜色無い出来になるだろうと、容易に想像できた。

 明らかに本気度が違う。

 

 雰囲気に気圧されながら、昭弘と箒はそのまま廊下を行く。

 

「最後の学園祭・・・か」

 

 箒の寂しげな一言に、昭弘もまた思いを寄せる。

 領収書を見る目、メニュー表の作成、衣装のデザイン、内装の参考について。一体、彼女たちは何を胸に秘め、今行動しているのだろう。

 少なくとも、単なる息抜きでないことは確かだ。

 この学園祭を良い思い出にしようという、必死さが伝わって来る。

 

 余りこの空間に居たくはないと、昭弘は思うようになっていく。

 このままではIS学園だけでなく、学園祭そのものすら全ての害意から庇いたくなる。

 あまり感情移入しすぎると、有事の際に正常な判断ができなくなる。

 

「・・・護らねばな」

 

 そう言いながら、箒は精悍な顔つきで昭弘を見る。

 有事における専用機持ちの配置と対応について、千冬からの説明は未だない。だのに、専用機を持つ者としての覚悟と責任感が、その瞳には宿っていた。

 その様は、学園祭への感情移入すら、己の力へと変換してしまいそうだった。

 

 先の2組でも思ったことだが、箒の成長ぶりには昭弘も驚かされる。臨海学校以降は特に顕著だ。

 出会いと戦い、そして姉との確かな繋がりが、間違いなく彼女の糧となっている。

 

「・・・だな」

 

 その短い同意には、昭弘も色々と込めていた。

 中でも一番多く占めていたのは、安心感であった。

 頼もしさとはまた違う。もし昭弘が居なくなったとしても、今の彼女ならすぐ立ち直れるだろう。そういう類の安心だ。

 今の3年生を見ていれば、いずれ別れが来ることは、箒自身も良く解っている筈だ。いつまでも3人一緒では居られないように。遅いか早いかというのは、ここでも変わらないのだ。

 

 唯一の不安は、対峙すべき相手が、実の姉かもしれないということだ。

 その衝撃に、箒は耐えれるのだろうか。

 

 姉の夢を知った時、箒はどんな決断を下すのだろうか。

 家族を取るか学友を取るか。

 人類の前進かそれとも停滞か。

 自分で決めたとしても、最後までやり抜くには、あまりに重々しい選択だ。

 

 箒が何をどう選び、それによってどんな結末となろうと、昭弘は箒の選択を尊重するつもりだ。

 例えそれで、姉妹の絆が千切れたとしても。

 

「ま、事が起きないに越したことはないがな」

 

 自分で言っておいて、昭弘は改めて思った。どんなに思惑を巡らせようと、結局はそこに帰結するのだと。

 

 箒が戦うところを見たくない。どうか安全な場所で待機していて欲しい。

 それが無理なら、何も起きないで欲しい。そこには、命の危険も重い決断も存在しない。

 そんな、一人の女に抱く私情を、昭弘はあらゆる理由で必死に覆い隠した。男としての傲慢さを隠すように。

 

 

 

 廊下にてセシリアと本音は、それとなく4組を覗き見ていた。

 

「さてさて~。4組はいかなる出し物かね~セッシー」

 

「探偵ですか・・・」

 

 本音は紛れもなく偵察のつもりなのか、張り込み中のような雰囲気を纏っている。

 対するセシリアは、そんな本音を見て和んでいるだけだった。どうやら、彼女は偵察のつもりではないらしい。

 

 そんな2人に、気付いた簪が小走りで駆け寄る。

 

「2人とも・・・どしたの?」

 

「ありゃ~、バレちゃった~」

 

「様子を見に来ただけでしてよ。邪魔でしたらお暇しますわ」

 

「ううん。そろそろ・・・終わるとこだし」

 

 それを聞いて、本音の表情に花が咲く。少なくとも、セシリアにはそう見えた。

 

「4組は何するの~?」

 

「・・・・・・ラーメン」

 

「「・・・?」」

 

 簪から聞き慣れない単語が出てきた為か、2人は疑問を持ったまま硬直する。

 そんな反応を予想していた簪は、渋々ながら説明する。

 

「何か・・・ラーメン、出すことに・・・なった。出汁とかも・・・鶏ガラとか豚骨から、抽出・・・するって」

 

 どんな紆余曲折があったのか知れないが、どうやら本格的なラーメン屋を開くらしい。

 

「そ、それはまた・・・随分と大胆ですわね」

 

「セッシー。私たちも人のこと言えないかも~」

 

 本音の言葉から、きっとどのクラスも強烈な店を開くのだろうと、セシリアは予想する。若しくは、他クラスの出し物に触発されて、インスピレーションが浮かぶのかもしれない。

 流石は天下のIS学園。その発想力と負けん気の強さは、学園祭でも遺憾なく発揮されてるらしい。

 

「・・・本音たちは?」

 

「ナイショ~」

 

「・・・ズルい」

 

 ごく慣れた具合で、会話を弾ませる本音と簪。幼馴染みならではの距離感だ。

 

 その様子を見て、セシリアは弛緩した表情で言う。

 

「御二人とも、私はここで失礼しますわ。機動訓練もありますし」

 

 そうしてその場を去ろうとするが、誰かに腕を掴まれる。

 本音は笑顔ながらも、その手を離す気配はなかった。

 

「ゴメン、カンちゃん。ちょっとセッシーと話あるから~」

 

「え?・・・うん」

 

 困惑する簪を置いて、本音はセシリアをそのまま屋上へと連れて行った。

 セシリアは特に動じることもなかった。先の展開を予想しているのか、諦めにも似た表情をしていた。

 

 

 

 半ば強引に屋上へと連れてきた本音は、人が居ないのを確認すると早速話し始める。

 心なしか、声には僅かな怒気が混ざっているように感じた。

 

「セッシー。最近どうしてそんなに私とカンちゃんをくっ付けたがるの~?」

 

 セシリアは、予め用意しておいた返事を述べる。

 

「何のことか存じ上げませんが、偶然が重なればそうも見えるのでしょう」

 

「4組に行こうって言い出したのセッシーだよね~?」

 

 抵抗も虚しく、その追求で黙りこくってしまうセシリア。それはまるで、無駄な抵抗だと最初から分かっていたようだった。

 そして観念したのか、開き直りとも取れる発言をしだす。

 

「・・・それが何か問題でも?親友同士なのですから、一緒に居るのは自然なことかと」

 

「私は理由を聞いてるんだけど」

 

 遂に本音の口調から、普段の間延びしたそれが無くなる。たったそれだけで、全くの別人に見えるのだから不思議だ。

 だが意外にも、セシリアに焦りや恐怖は無かった。何なら、そんな表情もするのだなと、新たな一面を知れた嬉しささえある。

 

 セシリアはただ、本音を好きなままでいたいだけだ。例え嫌われても、それで本音が安全なら構わない。今やそれは、愛されたいという欲求をも凌いでいた。

 寧ろ、嫌われた方が都合も良いかもしれない。自身の未来、そして自身の過去。それらに本音を巻き込んではならない。

 確証はない。それでも本音には、できる限り簪の側に居て欲しいのだ。もしセシリアに権限があるなら、本音をそのまま4組に入れたいくらいだ。

 一体化による不安要素を加味しても、簪にはそれだけの力があり、人間としての強さもある。人間ではない、いつ暴走するとも知れない自身と違って。

 そして、互いに護り護られる強い絆がある。

 

 身勝手さを自覚しながらも、セシリアは突き放すように言った。

 

「なら遠慮なく。もう貴女に飽きてしまいましたの。だから簪さんになすりつけよう、と」

 

 これでいいと、セシリアは思った。彼女は、本音の表情が歪むのを期待していた。

 しかし、その期待は裏切られる。

 さっきまで真顔だった本音は、優しげに、そして悲しげに笑っていた。

 

「・・・ゴメン、セッシー。言いたくないなら、言わなくて良いよ」

 

 そう言うと彼女は、ブカブカの袖に覆われた両手で、セシリアの手を包む。

 

「だけど・・・何か悩んでるなら相談してね?親友なんだから」

 

 逆に、セシリアの表情が歪みそうになる。

 どうして分かってくれないのだ。自分の近くに居たら危ないと、どうしてそう解釈してくれないのか。

 

 そう思いながらも、本音の温もりに身を任せているセシリアもまた存在した。

 反則だと、セシリアは思った。その顔を見ていると、この温もりを感じていると、本当に全てをぶちまけてしまいそうになる。

 

 それだけは、何としても思い留めねばならない。

 自分が化け物だと、思い人に知られたくないからではない。この「狭間」にいる感覚を、心優しい本音はきっと理解しようと努めるだろう。

 理解なんてして欲しくない。本音には、ずっと今のままで居て欲しい。そう願うセシリアには、とても耐えられないことだ。

 

「・・・」

 

 だからセシリアは無言を貫き、そのまま屋上を去ることにした。

 前言を撤回もしなければ、打ち明けないことを謝罪もしない。

 

 何も返さないセシリアに、本音は何も訊かず付いていく。意地でも側に居ようとするその様が、セシリアを尚のこと追い詰める。

 

 一緒に居たい。

 一緒に居たくない。

 

 そんな熱い感情と冷たい思考が、セシリアの中で渦を巻いていた。

 それこそまるで、2人のセシリアが対立しているかのように。

 

 

 

 

 

 そして間も無く始まる。

 IS学園での「祭り」が。




次回から多分メッチャ長くなります。
不安と期待を持ってお待ちくださいませ。
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