IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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今回は短めです。
キリが良かったもので。


第79話 学園島攻防戦 ②

 噴射剤にマズルフラッシュ。あらゆる光が縦横無尽に行き来する、雲の白すらない青い空間。そのすぐ下方では、それら光によってボロボロにされたハイウェイの姿があった。

 そこでは黒き鋼を纏う少年と、紅き鋼を纏う少女を、多数の人型が追い回していた。鮮やかな青空とは不釣り合いな、深緑色のボディを翻しながら。

 

 今現在、ラウラと箒は苦戦を強いられていた。

 

 本来、ISとは一対多数を想定して作られていない。IS自体の絶対数の少なさ、及び各国のIS保有数がほぼ拮抗しているのが一因だ。

 無論、全てがそうではなく機体にもよるが、基本的には一対一、多対多が本来のIS戦だ。

 

 ラウラもその例に漏れず、多数の敵機を同時に相手取るのは初めてであった。

 おまけに、シュバルツェア・シュトラールは近接戦闘用の機体だ。相手に突っ込まねばならない性質上、先程から囲まれてしまうことが多かった。

 大口径レールカノンも、この状況で使える代物ではない。

 

(よりにもよって紅椿と白式が分断されるとは)

 

 そこが一番の痛手だった。

 紅椿と白式は、組んでこそ本領発揮する存在だ。

 全局面対応型で攻めの紅椿と、陽動と雪羅による防御が主体の白式というのもあるが、何より重要なのは紅椿の単一仕様能力『絢爛舞踏』だ。実戦において、エネルギー消費の激しい白式としては、紅椿の能力なしでは戦いきれない。

 絢爛舞踏の効果範囲がどの程度かは分からないが、未だに箒が使っていないのを見ると、そこまで広くないのかもしれない。単に発動する機会を伺っているだけ、という可能性もあるが。

 

 皮肉なのは、それでもなお空裂や雨月を遠くから放てる紅椿の方が、シュトラールより敵との相性はまだ良いという点だ。

 これでは、シュトラールが白式の代わりに陽動してるようなものだ。そしてその陽動は、白式に遠く及ばない。

 

 それでも相手が弱ければどうとでもなるが、そうでないから苦戦しているのだ。

 既に単一仕様能力『ゴルトロム』を使っていて尚、相手の高度な連携に翻弄される始末だ。

 

(コイツら・・・実戦慣れしているな。機体性能も第2世代ISには及ばないが、これだけの数を揃えられると・・・)

 

 深緑色の機体群は、既にシュトラールが近接メインの高機動型だと見抜き、戦術もそれに応じて変えている。

 本来突撃型だった重機関銃型が遠方からシュトラールを牽制し、援護型だったミニガン持ちが本命を叩き込む。近接戦闘は捨てており、味方の誤射も気にしていない様子だ。

 防御力の低いシュトラールにとって、それは最悪の展開だった。被弾を気にせず、狙った一機を確実に落とすということができないのだ。

 音檄のように、一点からしか撃ってこないのであれば対処もできるが、こうも囲まれては難しい。

 

 第一防衛線全体の状況も、芳しくなかった。

 既にこの防衛線は、精鋭部隊と思しき翠玉色の機体10機、そしてエース機であろう白い機体と紅い機体が突破している。そして深緑色の一般機も、既にその多くが戦線を突破。

 一夏たちと対峙している各エース機も、得体が知れない。

 

 だが、この程度で諦めては、昭弘の友人は名乗れない。そしてその友人として、これ以上昭弘に『マッドビースト』を使わせる訳にはいかない。

 それを成す為にも、最終防衛線である彼等の負担を減らさなければならない。

 そう改めて心に刻んだラウラもまた、戦術を変える。

 

「箒!私がコイツら全員を上手く引き付けておく!お前は外側から一機ずつ確実に落としていけ!」

 

《し、しかし!それだとお前が・・・》

 

「ゴチャゴチャ言わずにやれ!」

 

 有無を言わさぬラウラに、箒はやむなく命令通り動く。

 とは言え、箒のやることは今までとさほど変わらない。空裂と雨月、そしてビットを撃ち続けるだけだ。

 

 ラウラの狙いは別にあった。

 

(もし紅椿の攻撃が当たれば、その当たった相手は紅椿に気を取られる筈。連携が乱れるその瞬間、そいつに一気に肉薄し、渾身の一撃をお見舞いしてやる)

 

 一夏がどうにか敵の猛攻を振り切り、この空域に合流できればそれが一番だが、そう簡単にはいかないだろう。

 ならば自分たちで、道筋を切り開くしかない。

 

 ラウラはその時が来るのを、激しく動きながらも静かに待った。

 

 

 

 

 

 一夏とその蝶のようなISは、空中にて睨み合いを続けていた。

 彼としては、積極的に攻めるスタンスでもない為、ただ単に相手の出方を伺っているだけだった。

 

 そして相手もまた、中々に攻めてこなかった。

 

 こちらと同様、相手が先に動くのを待っているのか、そもそも戦意が無いのか。

 等と、最初はそう考えていた一夏だが、どうにも違う気がしてきた。相手の表情は仮面に隠れて分からないが、覗いている口元は、僅かに歪んでいるのが見える。

 そしてその佇まいも、武芸者の端くれだった一夏には分かる。いつでもどんな動きにも対応できる、脱力しきった姿だ。

 少なくとも、箒たちの元へは逃がしてくれないだろう。

 

 そんな彼女が放った第一声は、深い溜息から始まった。

 

《・・・儘ならないな。何だって姉さんはこんな奴を》

 

 一夏は相手の少女が誰か知らない。故に、その言葉には何も返せず、ただ「姉」にあたる候補を幾つか浮かべるしかできない。

 しかし、馬鹿にされてることだけは伝わった為、少し意地悪を返してみることにした。

 

「その姉さんが誰か知らないけど、オレ多分その人に興味ないから。妹のアンタからその人に「ゴメン」って伝えてくれる?」

 

 対する少女は少しの間を空けると、鼻で笑うように言い放ってきた。

 

《驚いたな、弱い癖に口だけは達者と見える。いや、どう足掻いても強くなれないから、せめて一丁前に口撃だけは鍛えたところか?》

 

「口元ヒクついてんの丸見えだけど?てゆーかさ、何か言い返そうと必死に考えた「間」だって、丸分かりだから。せめて口喧嘩では負けたくないって?」

 

 煽られた少女は、再び震えながら溜息を吐くと、今度はクツクツと不気味に笑い出す。

 怒りの余り、取り繕いも限界を迎えたようだ。

 

《絶対強者として、先に攻撃するチャンスを与えていたんだがな。そんなに死に急ぎたいなら望み通りにしてやろう》

 

「口喧嘩は絶対弱者だけどね」

 

《いやー良かったよ、織斑一夏がこういう奴で。殺すのに何の躊躇いも無い》

 

 その捨て台詞を引金に、戦いの幕が上がった。

 

ビビゥン!ビゥン!

 

 少女は片手を掲げると、ビット6機を白式に向けて放った。

 向かい来るそれらは蝶の鱗粉のように美しく、そして悍ましかった。

 

 それこそ『静かなるシジミチョウ(サイレント・ゼフィルス)』とは名ばかりの苛烈さだった。

 

 

 

 

 

 ハイウェイ上空付近。人工島からかなり離れた空域にて、鈴音は青い全身装甲の機体と対峙していた。

 背面に二対の大きなスラスターがあり、左腕には白い爪のようなものが付属していた。

 

《美しい眺めだ・・・。我が機体と同じ青い空の袂、先進人共の建造物が、黒煙と共に崩れていく。貴女もそうは思いませんか?可憐なお嬢さん》

 

 相手からのスピーカー音声をハイパーセンサーが拾い、身構える鈴音。とても低い声だが、若い男のものだった。

 心理作戦だろうと即座に割り切り、適当に返す。

 

「戯れ言に付き合うつもりはないわ。・・・来ないならこっちから行くわよ」

 

《おっと失礼、まだ名乗っていませんでしたね》

 

 鈴音の反応に、自身の至らなさを痛感したのか、青年は右腕を曲げながら丁寧にお辞儀する。

 そして、耳奥にこびり付くような声で挨拶する。

 

《私は『アネス』と申します。可憐なお嬢さん、我が機『シュヴァルベ・グレイズ』と共に、楽しい空のひとときを過ご―――》

 

バルルルルルルルルッ!!

 

 不意を突かれたにも関わらず、崩山から放たれる火炎弾をひらりと躱すアネス。やはり見た目通り、高機動型のようだ。

 鈴音は躱されたこと、そして敵がやり手だということに舌打ちしながらも、敢えて強気に返す。

 

「こっちから行くって言ったでしょ」

 

 自己紹介を遮られ、不意打ちされても尚、アネスは憤るどころか声に喜色のようなものを乗せていた。

 

《今のは良ぃ~ですねぇ~。合理的で美しい判断だ》

 

 艶めかしい声を出しながら、彼はどこか酔いしれるように、アックスを構えた。きっとその内に潜む表情も、恍惚としているのだろう。

 そして遂に、背中の大きなスラスターに火を灯し、燕のように翼を広げて突っ込んでくる。

 

《貴女の美しさがどこまで本物か・・・確かめさせて貰いますよ!》

 

「上等よこの変態ッ!!」

 

 鈴音もまた甲龍のスラスターを炸裂させ、双天牙月を構えながら同じく突っ込む。

 こんな粘着質な輩に、いつまでも時間を掛ける訳にはいかない。少しでも皆の助けとなる為に、学園の皆を護る為に。

 そして、鈴音自身の精神衛生を保つ為に。このアネスとかいう男の声は、聞くだけで彼女の鳥肌を立たせる。

 だから速攻で終わらせる。

 

 互いに正反対な心持ちのまま、中空でアックスと双天牙月が激しくぶつかり合い、鉄と鉄の接地面から火花が散った。

 

 

 

 

 

 シャルロットの相手もまた、全身装甲の機体だった。ボディは雷のように黄色く、フルフェイスマスクに付いているバイザーのようなものが印象的だ。

 無骨なブレードと槍、重機関銃以外にも、砲身の長い滑腔砲のようなものを携えている。恐らく、先ほど橋を破壊した内の一機だろう。

 

 他の一般機がどれ程かはシャルロットにも分からないが、かなりしつこくラファールを追い立ててくる。専用機に難なく付いてくるとは、相当な機動力だ。

 敵のホッチキスMleが奏でる発砲音も、ずっと絶え間ない。

 自分たちに対し、強い敵意を抱いているようだった。

 

 そんなこと、同じく怒り心頭な今の彼女には関係ないが。

 誘導するように逃げながらデザート・フォックスを2丁携え、負けじと相手以上の弾幕を張る。

 

《フン、温室育ちの先進人にしてはやるな》

 

 自身と同じ年頃くらいの、少年の声。その声が構築した言葉を聞き、シャルロットの中に疑問が生じる。

 彼女は変わらずトリガーを引きながらも、その疑問を口にする。

 

「妙なことを言うね。自分はそうじゃないとでも?」

 

 挑発のつもりは無かったが、それが相手の逆鱗に触れたらしい。

 黄色い機体の彼は、ブレードを構えては一気に距離を詰め、蠅でもはたき落とすように振り下ろす。

 

 シャルロットはその一撃を、機械刀であるブレッド・スライサーで防いでみせる。

 

《貴様等に何が分かる・・・!日々のうのうと、何の疑問も抱かず、偽りの平和をただ享受してる貴様等に!》

 

 鍔迫り合いながら、雷の彼はそう毒づいてくる。

 中々に壮絶な人生を送ってきたのだろう。それはシャルロットも同じなのだが。

 

 しかしそんな物言いが、今度はシャルロットの火に油を注いでしまう。

 彼女は高速切替で連装ショットガンを呼び出すと、片手で鍔迫り合ったまま至近距離で撃つ。

 相手はナックルシールドで防ぐが、衝撃で後方へと仰け反ってしまう。

 

「君たちの境遇なんて知らないよ。そんな君たちなら学園祭を台無しにして良いのかい?」

 

 彼女は別段、「不幸なのはお前だけではない」と、そういうことを熱弁したいのではない。自分の不幸なんて、今となってはどうでも良いことだ。

 その証拠に、彼女の口調が段々と荒々しいものに変わっていく。

 

「僕は・・・僕たちはなぁ・・・!このお祭りを成功させる為になぁ!時間と肉体と情熱をつぎ込んできたんだよ!!んでTS喫茶が上手くいって?その締め括りとしてステージのTS演劇って時に?お前らだよ!!フザッケンなよマジで!!一体どれだけの観客が僕たちの男装女装を心待ちにしてたと思うんだ!?僕が一体どれだけ男装演劇を披露したかったと思ってんだ!?おぉん!!?」

 

 怒りに任せて、己の私情を垂れ流すシャルロット。

 八つ当たりだというのは、彼女自身十分理解している。

 どんな演者だって本番を邪魔されれば、費やしてきた労力を無に返されれば、それはもう憤るだろう。そうやってシャルロットは開き直る。

 

 しかし雷の彼は、そんな激情を乾いた笑いで一蹴する。

 

《呆れて怒りも失せる。たかがお遊び如きで・・・平和ボケもここまで来ると狂気だな》

 

 彼はそう吐き捨てると、背部にあった長大な槍を手に持ち、持ち手のスイッチらしきものを押す。

 

ビビビッ!

 

 すると刃全体に、青白い電流が迸る。見る者を凍えさせるそれは、情け容赦の無さを表しているようだった。

 

《丁度いい、今ここで新しい世界の礎としてやろう。あの方々から貰い受けたこの『獅電』に屠られること、寧ろ誇りに思っていいぞ》

 

 彼は敵意を殺意に変え、冷たい視線でシャルロットを射貫かんとする。バイザーを横切る赤い線も、それに呼応して不気味に光る。

 

 対するシャルロットは特に臆するでもなく、どころか中指すら立ててみせる。

 

「やってみろよバーカ」

 

 黄色の雷と橙色の疾風が、崇高な使命としょうもない八つ当たりが、空中で交錯した。




簪の戦闘シーンをどこで挟むか悩んでます。
なるべく早めに出したいとは思ってるんですけどね。
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