IS~筋肉青年の学園奮闘録~   作:いんの

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難産でした。

評価して下さった方、ありがとうございます。


第79話 学園島攻防戦 ➃

 青年の淡々とした、静かながらも芯の通った声が、装甲の内側で木霊する。

 

「グレイズ隊、ヤバそうだけど。やっぱ引き返そうかスコール」

 

 白いMPSのパイロットは、超低空を高速で飛びながら指示を待っていた。

 海上の割れるような水飛沫が、人工島に迫る。

 

《いえ、私が対処するわ。アナタはそのまま人工島に侵攻して》

 

「了解」

 

 ごく慣れた調子で返事をすると、今度はある確認をスコールに求める。

 

「殺していいんだよね?」

 

《ええ。戦闘員に限ってはね》

 

 その答えを聞き、白いMPSの彼は安心するように溜め息を吐く。

 

「良かった。殺さないようにって、難しいから」

 

 そんな言葉が返ってきた為、スコールは通信越しに苦笑を漏らす。

 

《人殺すのに「良かった」なんて言うの、きっとアナタくらいよ?》

 

「そんなに変かな?」

 

 何がおかしいのか本気で分からないと言った疑問を、彼はその一言に乗せていた。

 それが尚のことおかしいのか、スコールは上機嫌になる。彼のこういう所を、彼女は偉く気に入っているようだ。

 

《とにかく宜しくね。レギンレイズ隊はこのまま行けば、ブリュンヒルデに到達するわ。青いヤツ(ラヴィリス)はグリムゲルデに任せる。スミルの腕なら、負けはしないでしょう》

 

「うん、そうだね」

 

 そこで通信は一旦途切れ、彼は人工島に意識を集中させる。前へ前へと、白い機体を突き進めていく。

 白い装甲の内に潜む、澄んだ青い瞳。純粋な筈のそれには、明確な殺意が乗っていた。

 だが彼も別段、殺しが好きという訳ではない。仕事を完遂する手段として、選んでいるだけだ。

 

 そういう意味では、純粋な殺意と言っても良かった。

 

 

 

 

 

 人工島、それも駅近くの上空で、グシオンを纏った昭弘は待っていた。次なる指令を、次なる敵を。

 先のISを下した後だ。少なくとも、闘争心は万全だった。

 

 それで良い気分、という訳でもないのだが。

 ハイパーセンサーの捉えるあらゆる場面で、絶えることのない閃光と破裂音。久しく体験してない、可能なら二度と経験したくはない、戦場の光景。

 凄惨な記憶たちが、脳内を横切っていく。家族の悲鳴、そして少し前まで家族だった肉塊。

 それらと今の状況を、いやが上にも昭弘は重ねてしまう。

 

(・・・大丈夫だ)

 

 箒たちを、学園の皆を信じれば良いと、フラッシュバックを掻き消そうとする昭弘。恐怖と信頼が、彼の中で鬩ぎ合っていた。

 この精神状態でただ待つのは、彼にとって余りに酷だった。

 殺し合いに身を投じていた方が、何も考えない分まだマシとさえ言えた。

 

 そんな中、超低空で高速接近する何かを、ハイパーセンサーが捉える。簪が交戦している辺り、つまりハイウェイ方面からだ。

 跳ね上がる水飛沫の為、機体は良く見えないが、識別信号も無く向かって来るなら敵MPSと断定する他ない。

 

(非戦闘員のフィールド収容はまだ完了してない・・・会長と郷鐘隊は動けん。となると、一番近いのはオレか織斑センセイだが)

 

 昭弘が指示を乞おうとした時、丁度良く千冬から通信が入った。

 

《ウィンターよりAGへ。本土方面から人工島へ超低空で接近する機影あり。至急対処せよ》

 

「了解。ウィンターは?」

 

《別の客人がいる》

 

 それは余裕故の軽口だろうか、それとも不安な自身に暗示をかけているのか。

 そのどちらだろうと、今の昭弘にとってはありがたかった。前者なら頼もしく思えるし、後者なら気持ちを共有できる。

 こういうさり気ない所も、千冬ならではだと彼は思った。当人は無意識で言ってるのかもしれないが。

 

 そして、今もこちらに向かっている相手だ。

 敵であろうと、鬱屈とした状況を打破してくれたことに変わりはない。それが、一周回って昭弘には救いに思えた。

 おかしな話かもしれない。戦場が嫌なのに、戦場を求めるなど。敵に感謝を抱くなど。

 それはそれとして、仲間の為に全力で叩き潰すのが昭弘なのだが。

 

 千冬と敵MPSのお陰で、完全に心が切り替わった昭弘は、まるで救いの手を取るように戦場へと向かった。

 

 

 

 

 

 人工島の北端では、千冬が客人のもてなしをしていた。

 その数は10人。ロボットと見紛う鋼鉄だらけの外見的に、10機と呼んだ方が正しいかもしれない。

 

《やだぁん!まさか本当にブリュンヒルデと対面できるなんて!》

 

 隊長と思しき青年の上擦った声が、スピーカーから千冬へと届く。

 

「それは良かったな。サインやるからとっとと帰れ、オカマ野郎」

 

 千冬は半ば本気で言っているが、隊長は生憎と言いたげに首を振る。

 

《色紙忘れてきちゃってぇ。・・・あ、そうだ!》

 

 何か閃いたように両手を合わせると、隊長は慣れた手つきでツインパイルを構える。

 翠玉色の機体が、太陽光を反射して煌めく。

 

《サインの代わりにぃ、アンタと本気でやり合うってのはどう?こっちは殺すつもりで行くケド♡》

 

 それを合図に、他の9機も得物を構える。こちらも慣れた動きだ。

 

 今度は、千冬がやれやれと溜息を吐く。どうしてこういう輩は、警告を素直に受け取らないのかと。

 彼女は教師だ。人を殺めるつもりは毛頭無いし、己の力を誇示する気もない。ブリュンヒルデなんて、世間様が勝手に決めた名だ。

 だが優先順位はある。もし生徒に手を出す連中と相対したなら、手を血に染める覚悟くらいはできてる。

 

「警告が伝わってないことは分かった。ならこちらも容赦しない」

 

 

 

 空気が変わった。

 オカマ隊長『アティー・G』は、レギンレイズでその身を覆いながらも、素肌で確かにそう感じ取った。

 

 織斑千冬は、未だ柄に手を付けてもいない。ただ会敵した時そのままの姿勢、その場に佇んでるだけだ。

 その殺気だけで、今この空間を支配していた。大気全体に動きを封じられてるような、吸い込んだ大気により肺が凍るような、そんなものを彼等は味わっていた。

 

 戦場で数多くの功績を残し、精鋭にまでのし上がり、最新鋭MPSまで貰い受けた。己への絶対的自信、そして何にも臆さないという自負が、そんな彼等にはあった。

 それらが何の意味も持たないということが、今証明されてしまった。目の前でただ佇んでるだけの、IS乗りによって。

 誰も動けない。というより、動き方が分からない。どう動くのが正解なのか、どう動けば生き残れるのか。

 

 汎用的な量産機で、訓練機としても良く使われる。彼女が纏っているのは、そんな地味で穿った性能の無い打鉄だ。

 なのに何故、これほど近寄り難い威圧感を放てるのか。どうして今この状況でも、己が最強だと確信できるのか。

 

 これがブリュンヒルデ。

 惑星最強の人間、IS乗りの頂点、全て誇張無しの表現だったのだ。

 未だ戦ってすらいないのに、精鋭たちはそれだけの実力差を感じ取ってしまっていた。10人が束になったところで、どうこうなるものなのかと。

 

「たまんないわねぇ」

 

 だが彼等の隊長、アティーだけは全く違う理由で動けなかった。怖じ気づくどころか、この刺し貫くような空気を堪能していた。

 

 アティーの一言に対し、隊員たちは気が抜けるように溜息を吐いた。きっと地獄に落ちようとも、彼は一生こうなのだろうと。

 尤もそんな彼だから、誰も彼も付いていくしかないのだが。

 

 そう全員が思い返すと同時に、遂に戦況が動き出す。

 

 千冬の纏う打鉄が、近接ブレード葵を引き抜くより早く、ツインパイルを構えていたアティーが仕掛ける。

 彼はレギンレイズの可動域と高機動を生かすように、バーニアを使って飛び蹴りを繰り出す。

 

 打鉄はしゃがむようにこれを躱すが、当然これは囮だ。

 アティーと同時に動いていた3機が、打鉄の回避先に三方向から刺突していく。

 それらを、打鉄は葵を回し薙ぐようにして全て弾くが、これもまたフェイクだった。

 

 本命は、打鉄の直下にさりげなく移動していた、対IS用大型ショットガンを構えた1機だ。

 千冬の打鉄はブースターを増設しているだけで、追加装甲は無い。それなりのダメージを、アティーは期待していた。

 

「!」

 

 これすらも、打鉄は躱してしまう。

 彼女はあの一瞬で、姿勢をそのままに降下するようPICを調整し、散弾の範囲外まで一気に下降。

 ついでと言わんばかりに、葵の一閃をお見舞いする。

 

 レギンレイズはガントレットで防いだが、余りの威力に鋼鉄が震え、後方に押し遣られてしまう。

 その事実に、多少の動揺は隠せない様子だった。

 

(速い。想定以上ね)

 

 そう称えながらも、アティーは奇妙な違和感を千冬に抱いていた。

 普通のIS乗りとは違う何か。それを解明するためにも、次なる戦術を試すしかない。

 

「次!パターンBでいくわよ!」

 

 今度は、待機していたショットガン持ち5機が動く。

 彼等は打鉄を取り囲むように散開すると、ただ愚直に散弾を撃ち続けた。

 一見すると、ある意味セオリー通りの戦い方だ。素早い相手には、こういった範囲攻撃が有効であるからだ。

 どれだけ熟達したパイロットでも、被弾を避けたいなら大きく避けるしかない。

 

 相手がブリュンヒルデでなければだが。

 

ダンッ!ダダダダンッ!

 

 見たこともない打鉄の超機動に、アティーは目を丸くする。

 

(まさか・・・ノーモーション瞬時加速!?しかもこんな連続で)

 

 彼のシナリオでは、スラスターを存分に使わせることで、千冬の機動を丸裸にするつもりだった。

 思わぬ収穫だった。

 

(使える人間が存在したなんて・・・)

 

 スラスターを連続で点火させる個別連続瞬時加速なら、まだアティーも驚きはしなかった。何なら彼自身もできる。

 しかし姿勢制御すら行わず、加えてバーニアや小スラスターのみで瞬時加速を行うなど、到底理解できなかった。

 これでは予備動作が無い分、機動先の予測が困難だ。

 

 そして、ノーモーション瞬時加速の真骨頂は、回避時ではなく攻撃時に遺憾なく発揮される。

 

(後ろ!)

 

 背後からの横凪ぎに、辛うじて反応できたアティーは、ツインパイルでガードする。

 冷や汗が、彼の頬を伝う。

 

 至近距離で鍔迫り合っては、味方も援護しにくくなる為、敢えて彼は吹っ飛ばされてみせた。

 それを見計らい、レギンレイズたちが散弾で千冬を追い立てる。

 

(彼女の反応速度について、一部は分かった。機械刀一本しか使わない分、迷いが無いということ。アクションに移るまでの思考が極端に短いんだわ)

 

 しかし、やはりそれだけで千冬の強さは埋まらない。

 少なくともノーモーション瞬時加速なんて芸当は、余程ISとの親和性が高くなければ不可能だ。

 

(彼女のシンクロ率は、情報によれば92%前後。私たち以下のシンクロ率で、何故あんな動きができる?)

 

 彼等MPS乗りにとって、シンクロ率とはそのまま強さの指標になる絶対数値だ。手首足首の動きからスラスターの微調整、空間認識能力の良し悪しについても、どれだけ深く機械と繋がってるかが肝だ。

 そしてそれは、ISに関しても同義だというのが、彼等の基本的な考え方だ。

 千冬に抱いた違和感の正体はそれだった。

 少なくとも先程から見ている超機動は、100%のシンクロ率でなければ説明が付かない。防御重視の打鉄なら尚更だ。

 

 そうやって彼が分析する間も、千冬の猛攻は続く。時に鋭角的に、時に滑らかに、黒き人型が縦横無尽に空を駆け巡る。

 レギンレイズ隊も臨機応変に機動を合わせてはいるが、次の瞬間には誰が落とされてもおかしくない状況だった。

 ブリュンヒルデの一刀。千冬が全力なのかは分からないが、そんなものをまともに喰らってしまえば、一撃で落とされる可能性がある。彼等の乗るMPSには、絶対防御機能も操縦者保護機能も無い。鎧にエネルギーシールドを重ねてるだけなのだから。

 

 彼等の命なんてそんなものだ。例え精鋭部隊であろうと。

 

 だからこそ、撤退は許されない。

 尤もアティーにとっては、その方が心地良いのだが。

 

「パターンC!近接格闘!」

 

 少しでも多く、ブリュンヒルデを暴く。

 アティーの怒号に近い命令には、そんな覚悟が込められていた。

 

 

 

 対する千冬の心境は、決して余裕がある訳ではなかった。

 生徒たちを護ることへの重圧もあるが、一番は相手の実力についてだ。

 

(これだけ高度な連携が可能とはな)

 

 彼女の予定では、もう既に2機程は墜とせていた筈だった。

 その実、未だ誰も墜ちず、こうまで食らいついてくる。

 第三世代ISと遜色ない敵MPSの機動力、乗り手の高い能力、そして一糸乱れぬチームワーク。

 嘗て千冬は、専用機4機を同時に相手取ったことがあったが、全てにおいてあの時の彼女たちを凌駕していた。しかもそれが10機ときた。

 

 敵の背後を取った瞬間、別の敵がガントレットで仲間を庇う。同時に、更に別の敵が死角から襲い来る。

 先程から、そんな嫌な流れができつつあった。

 

 極めつけは、隊長機の立ち回りの上手さだ。

 急接近してはツインパイルの連撃を繰り出し、かと思えば離れて挑発するような機動を取る。そうやって、千冬の意識を一心に引き受けていた。

 

(やはり全力を出すべきか?・・・いや駄目だ、敵に私の全開を知られる訳にはいかない)

 

 千冬は今、本気度で言えば10割、全力度で言えば7割の配分で戦っていた。

 あくまで彼女の目的は、生徒及び来訪者を護ること。敵を殲滅することではない。

 ならば下手に、真の実力を開示する必要もない。目の前の連中とは別に、誰がどこで分析しているか分からないのだから。

 

(生徒たちのフィールド収容もあと少し。これで自衛隊が間に合えば、私たちの勝ちだ)

 

 千冬は望む未来に到達すべく、僅かな疲労をも隠すように、目の前の戦いに没頭した。

 

 

 

 そんな千冬の小さな変調も、アティーは見逃さなかった。

 

(・・・疲弊している?)

 

 接近戦の際、偶然にも目の前を通り過ぎた千冬の表情。ほんの少しだが、間違い無く歪んでいたのが見えた。息遣いも同様で、僅かにだが荒い。

 

 当然、これだけ激しい戦闘を継続すれば、誰しも肉体的精神的疲労は避けられない。

 だが、それはあくまで常人ならの話だ。

 あのブリュンヒルデなら、スタミナも無尽蔵なのだろうとアティーは踏んでいた。

 

 スタミナだけ低いことが、妙に彼の中で引っ掛かった。

 

(防御重視の打鉄で超常的な機動、低いシンクロ率とスタミナ・・・)

 

 ある仮説が、彼の中で浮かんだ。

 しかし、それを確定させるには情報が足りない。そしてそれは、少なくともこの戦いでは見つけられない。

 

(まぁ良いわ、弱点は分かった。あとは相手に悟られないよう動けばよろし)

 

 スタミナの低さ。彼女に自覚があるのかは分からないが、どの道この戦いで仕掛けるべきではない。

 付け焼き刃の遅延戦術を繰り出したところで、勝てないことは目に見えている。そうなると、ただ千冬に手の内を明かすだけになってしまう。

 やはり当初の予定通り、本番で確実に仕留めるべきだろう。

 

 ならば後は、可能な限りブリュンヒルデを自分たちに釘付けにしておくのが、現状最良だ。

 もしここで彼女を自由にしてしまえば、作戦遂行どころか全部隊ごと壊滅してしまう恐れがある。

 

 それで自分たちレギンレイズ隊が全滅したら、それこそ本末転倒なのだが。

 そう思いながら、アティーは変わらず激しく動き回り、その傍らで考える。

 遅延戦術にはならず、千冬をこの場に留まらせ、そして自分たちも生き残る為には。

 

 結局それしかないのだと知ったアティーは、フルフェイスマスクの中で小さく笑った。

 

「このまま行くわよ!攻めて攻めて攻め続けるわ!」

 

 今日もこの青年は、戦場という仕事場を駆ける。




シンクロ率が低い(神経直結基準)
スタミナが少ない(化物基準)

オカマキャラはどうしてこんなにも描いていて楽しいのだろうか。

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